銀河英雄伝説 ファニー・ウォー   作:ブッカーP

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第二十話 ラグナロク(2)

 宇宙暦799年、帝国暦480年1月30日、午前8時、宮内省特別分館──

 

 記者会見場には、いつもの宮内省報道官ではなく、宮内省副尚書のフォン・グリツィーネヴァルトが座っていた。テーブルには数枚の紙が置いてあり、そのうちの1枚を手に取る。ゆっくりとした、それでいてはっきりとした声で原稿の読み上げが始まった。もちろん、記者席には各メディアのカメラが配置され、その会見を待ち構えていた。

 

「皇帝陛下におかせられましては、本日午前6時33分、新無憂宮において崩御あらせられました。誠に哀痛の極みであります。(病状についての公式説明)全力を挙げて治療に努めましたが、本日、心不全により崩御あらせられました。なお、崩御に至るまでのご経過の詳細につきましては、後日、宮内省侍医官より発表いたします。繰り返します。皇帝陛下は──」

 

 この日の記者会見の様子は、全宇宙(正しくは全宇宙の人類居住領域)に生中継されていた。超光速通信(FTL)の帯域は十分用意されていたし、中継そのものには問題がなかった。ただ、中継担当社と再配信社の間で費用の分担について深刻なやり取りがあったようだが、それは今更どうでもいい話だろう。とにかく、惑星フェザーン、アルベリッヒ工業デザイン研究所本社で、ヤン、フレデリカ、アリッサ、シャロンの四人が会見を見ることができたのは、そういういろいろな人々による、下準備の成果であった。

 

「一か月ですか」

 画面を見ながらフレデリカが言った。

 

「十日あたりに危篤の速報が出た時はヒヤッとしましたね。時間が無さ過ぎました」

 ヤンが応じる。

 

「思ったよりも時間を稼いでくれました。そう言うべき?」

 そう言ったのはアリッサ。

 

「とはいえ、あの計画は上手くいくのでしょうか」

 シャロンが三人に紅茶を注ぎながら訊いた。

 

「分からないですね。この作戦は不確定要素が少なくありません。本当はキーマンのプロファイリングをもっとやりたかった。だが、ミューゼル大将、キルヒアイス少将、リッテンハイム侯、いずれも情報量が少ない」

 ヤンが早速紅茶を一すすりして言った。

 

「そして有利なのは、作戦の全体像を知るのはその三人だということ。しかも、最終的な到着点はそれぞれ違っている」

 アリッサが続ける。

 

「だからこそ、つけ入る隙がある。というか、そこにしか隙はない。いろいろ手は打ちましたが、どれが効いてくるかは分かりません。どれもダメかもしれない。そういえば、お客様が来るのは今日のはずだったが」

 ヤンがそう言って、ドアの方を振り返った。

 

「カリンが迎えに行っているわ。もう一時間前に宇宙港の地上側待合室に居るはずだから、そろそろこちらに来るはず──」

 アリッサがそこまで言った直後、入口のドアが開いた。そこには、運転手の制服姿であるカリンと一人の女性が立っている。カリンが宇宙港まで迎えに行った人物だった。

 

「お客様をお連れいたしました」

 カリンが恭しくお辞儀した。

 

「ようこそいらっしゃいました。──様」

 ヤンはそう言って、フレデリカと同時に敬礼した。アリッサとシャロンは深々とお辞儀をした。

 

 

 

 宇宙暦799年、帝国暦480年2月6日──

 

 南朝クレメンス帝が崩御して一週間、南軍、北軍の双方が最高警戒態勢に移行した。南軍は、皇帝が崩御して時を置かず北軍が攻勢に出てくるものと思っていたし、北軍は北軍で、攻撃の準備はあらかた整い、後は攻撃開始の命令を待つばかりとなっていたからである。

 

 だが、何も起きなかった。北軍は、戦闘配置が下令されたと思ったらそれが解除され、第三種警戒配置(平時とほぼ変わらない状態)だと思ったら、いきなり第二種戦闘配置が命令されるなど、警戒レベルの上下に振り回されていた。

 

 南軍は南軍で、北軍の攻勢がすぐにでもやって来ると思っていたのがそうでもない。攻撃の兆候が見えたために警戒したと思ったら、それはいつの間にか消えてしまったり、あるいは誤報であったりと、こちらもこちらで緊張と弛緩の連続であった。いたずらに兵が疲れるだけであった。いや、それだけが原因ではなかったのだけど。

 

「リッテンハイムの奴めはまだ動かんのか」

 戦艦ベルリンの、ブラウンシュヴァイク公専用の執務室では、ブラウンシュヴァイク公、執事のアンスバッハ、甥のフレーゲル男爵が今後の方針について話し合っていた。

 

「動きはございませぬ」

 アンスバッハはブラウンシュヴァイク公と目を合わさないように、手許のスレート端末を見ながら報告した。永年仕えてきた執事だけあって、主人が爆発するパターンは知悉している。

 

「陛下が崩御あそばされてから、もう一週間だぞ!フレーゲル。リッテンハイムが動くと言ったのはお前ではないのか」

 

「リッテンハイムの動きを掴むために配置した『草』が根こそぎ刈り取られておるがゆえにそうご報告申し上げました。いつ動くかを掴むのは難しゅうございます」

 フレーゲルは宰相に仕える家臣のような雰囲気で答えた。彼もブラウンシュヴァイク公との付き合いは長いのだ。

 

「また送り込めばよいではないか」

 

「今からでは遅すぎます。外から動きを監視するのと大して変わりはありません」

 フレーゲルが否定した。

 

「ならばどうする。このまま待ち続けるか」

 

「ですが、陛下の葬儀をないがしろにするわけにはいきませぬ。北軍の攻勢に対処するとして日程の発表も先延ばしにしてきましたが、これ以上延ばすわけにはいかないでしょう」

 アンスバッハが、なおもスレート端末を見ながら言った。

 

「それよ」

 ブラウンシュヴァイク公がアンスバッハの方をびしっと指し示した。

 

「国葬となると諸侯を集めねばならん。どんなに早くても半月は使ってしまう。葬儀があって、諸侯がくにに帰って、その後ようやく『遺言』の発表だ。一か月は使ってしまうな。できればリッテンハイムを排除した後に諸事進めたかったが、いつまでも話を引き延ばすわけにはいかん。もしや、リッテンハイムは国葬を狙って諸侯を一網打尽にしようとするのではあるまいな」

 

「かもしれません」

 フレーゲルが言った。

 

「かもしれませんでは済まん!」

 ブラウンシュヴァイクはどんと執務机を叩いた。ウィスキーの入っていたグラスが倒れる。もっとも、ほとんど残りはなかったため、机のごくわずかを湿らせるに止まった。

 

「そこは物量で何とかするしかありません」

 アンスバッハがスレート端末から目を上げて答えた。ブラウンシュヴァイク公は歯を噛み鳴らした。

 

「首都の憲兵隊、治安警察、親衛隊に加え、第二艦隊、第四艦隊からも応援を出します。蟻一匹逃がしはしません」

 フレーゲルが胸を張って答えた。

 

「そうだ。徹底的にやれ。陛下のご葬儀、万が一があってはならん。いいか、陛下のご遺言を公開し、立太子、そして即位までこぎつけるのだ。それさえ為ってしまえば、リッテンハイムが何を企もうとも、物の数ではない」

 ブラウンシュヴァイク公は吼えるように言った。

 

「最善を尽くします」

 アンスバッハは答えた。

 

「フレーゲル」

 

「何でしょうか」

 

「私の後はお前がブラウンシュヴァイク家を引っ張っていくのだ。次の皇帝エリザベートを輔弼し、お前が帝国を率いるのだ。お前だけが頼りなのだ」

 

「勿体ないお言葉」

 フレーゲルは深々とお辞儀をした。目には涙が溜まっている。もっとも、頭の中ではブラウンシュヴァイク公がどれだけ本気なのか、自分がどういう態度を取ればよいのか。それを考え続けている。門閥貴族というのはそういう生き物であった。

 

 

 

 ブラウンシュヴァイク公との会談が終わり、戦艦ベルリンから退出しようとしたフレーゲルは、アンスバッハに呼び止められた。アンスバッハの自室に招待されたフレーゲルは、くれぐれもご内密に、という前置きとともに奇妙な噂話を聞かされることになった。

 

「ゲイブリエル・オズボーン!?」

 フレーゲルの大声に、アンスバッハは口に一本指を立てて制止した。

 

「あくまでも噂にございます」

 

「噂にしても悪い冗談に過ぎる。一体何故そんなものが」

 

 随分と昔の名前であったが、フレーゲルもアンスバッハもオズボーンの名前はよく覚えていた。ブラウンシュヴァイク公が宰相になる前の、先代の帝国宰相である。といっても、オズボーンが宰相職に就いていたのは十三年も前のことであった。アンスバッハが言うところによると、新無憂宮(南朝)で、ゲイブリエル・オズボーンの幽霊が徘徊しているというのだ。

 

 もちろん、ただの人間ではなかった。フォンが付かないということは平民なのであるが、そうであるにもかかわらず宰相職に就任していたことがそれを示している。特殊な事情があるためであったが、そうであっても非凡な人物と言うしかない。

 

 十五年前、南朝は崩壊の一歩手前にあった。北軍の攻勢に対し、南軍は崩壊寸前の状態であったし、まともな整備・補給も行われず、軍の士気はどん底だった。そもそもの理由は、財政の破綻であった。北軍との内戦を戦っているにもかかわらず、門閥貴族は自らの利権を主張し、帝国への貢納を値切ろうと必死だった。そのツケを押し付けられるのは平民であり、重税による不況と社会不安が蔓延していた。

 

 オズボーンはそのような絶望が産み出したものだった。元は、ブラウンシュヴァイクの艦隊に勤務していた高級参謀であったが、主人であるブラウンシュヴァイクの黙認のもとに粛軍クーデターを敢行、クレメンス帝から宰相に抜擢されると帝国の大改革に乗り出した。緩み切った軍紀の粛正、軍の改革(軍需生産の不足を同盟からの輸入で埋めるようになったのはこの時期からである)、そして門閥貴族からの容赦ない税金の取り立てを行ったのであった。わずか一年で財政は持ち直し、軍は再建された。北軍の攻勢も押し返すことができた。

 

 そして、当然のように貴族の恨みを買い、危険視されるようになった。彼をバックアップしていたはずのブラウンシュヴァイク公も、オズボーンを煙たく思うようになった。

 

 十三年前、辺境星域の視察に出たオズボーンの宇宙船が消息を断った。捜索が行われたがオズボーン含め乗組員は発見されず、消息不明、生還の可能性無し、ということになった。

 

 その報に(貴族以外の)誰もが涙した。重要なのは、その涙した人間に、南朝皇帝クレメンスが含まれていたことであった。クレメンス帝は、大改革を推し進めるオズボーンの虜になっていたのだった。そのため、行方不明の報を信じようとせず、一か月以上も捜索を行わせたほどだった。最終的に捜索打ち切りを認めたのだが、死亡扱いすることは認めなかった。だから、今でもオズボーンは宰相職を「休職」したことになっている。

 

「で、何が幽霊だと言うのだ」

 フレーゲルの問いに、アンスバッハは話し出した。何でも、新無憂宮の職員入口での入場記録に、オズボーンの認証情報が残っていたというのである。職員の認証は、セキュリティレベルによっていろいろな手段が用いられるが、中枢区画の入口で行われる遺伝子検査でそれは発見されたとのことだった。もちろん、その外部ではそのような人物が通過したという情報はない。目撃したという情報もない。幽霊というのはそういう事情であった。

 

「ゲートの故障ではないのか。それはそれで問題だろう」

 

「いえ、ゲートは通過を許可しなかったようです。ただ、遺伝子情報はオズボーンに近似していたとのことです」

 

「近似?なら親族ではないのか。オズボーンに妻子が居たとは聞いていない。アンスバッハ、知っているか」

 アンスバッハは首を横に振った。

 

「遺伝子照合に使われたオブジェクト(大抵は頭髪が用いられる)は保管されているのか」

 アンスバッハは二度、首を横に振った。

 

「なれば何も分からないではないか。噂が独り歩きしている」

 

「時間は経ちましたが、未だオズボーンを慕う人が多いのでしょう」

 

「過去にしがみついて何になる」

 フレーゲルはそう吐き捨てるように言った。

 

「まぁ、風聞の一つとして受け取っておく。だが、アンスバッハ。これから先はそんなくだらない話に付き合うわけにはいかんぞ。明日朝、アルヴィース(フレーゲルの乗艦)まで来い。警備の打ち合わせをやるぞ」

 フレーゲルの言葉に、アンスバッハは小さくうなずいた。フレーゲルは部屋を出た。とんだ無駄話を聞いたと思っていた。少なくともその時はそう思っていた。

 

 

 

 宇宙暦799年、帝国暦480年2月22日──

 

 その日、南朝首都ツォンドルフでは、クレメンス帝の国葬が執り行われた。午前9時35分、クレメンス帝の霊柩を乗せた専用馬車を中心として組まれた葬列が、軍楽隊の葬送曲が演奏される中、新無憂宮を出発した。葬列は皇室の面々が乗る車、文武の高官が乗る車等計50台の車が馬車を取り囲み、さらにその外側を警備の車両が取り囲んでいた。あまりの車の多さに、沿道の群衆からは、皇帝の霊柩がほとんど見えなかった。

 

 それでも、三十万近い民衆が葬列を見ようと、沿道に押しかけた。表情を変えずにじっと葬列を見る人、思わず涙を流す人、瞼を閉じて瞑する人、いろいろな光景がそこにあった。 だが、ソーシャルネットワークでは、この光景を「うんざり」と評する意見が根強く存在した。別に皇室尊崇の念に欠けているわけではない(欠けている人もいただろうが)。この国葬の前に行われた「特別警備」が民衆の恨みを買っているのであった。

 

 特別警備は、まず、首都ツォンドルフに繋がる幹線道路全てに検問を設置し、さらに首都の主要交通結節点にも検問を設置した。ここを通過する人間、車両は身分証明書の提示が求められた。車両については目的地の申告が必須となった。首都の中心部である官庁街へは、官庁が発行する許可証すら必要だった。

 

 おかげで、ツォンドルフの物流は混乱し、物価の高騰と物不足が帝都を直撃した。いや、それよりも、犬も歩けば検問や職務質問に当たるような「過度な警戒」の方が帝都民衆の恨みを買ったかもしれない。さらに、帝都治安警察はテロ対策の名目で、民衆からの情報提供を大々的に募った。聞こえはいいが、密告奨励というのと同じである。おかげで、意味のない家宅捜索を繰り返す警察と、意味もなく腹を探られる民衆という構図が出来上がってしまった。これで、成果がなければまだしも、闇物資の販売だの、不敬だの、(堂々と出歩けないことによるストレスが起因の)近所迷惑だのといったものが摘発されるのだから始末に負えないのだった。

 

 まぁ、バックグラウンドの動きはさておき、国葬そのものはスケジュール通りに進んだ。葬列はツォンドルフ中心から少し離れたところにある皇帝庭園に到着し、その一角に設置された葬場へ、皇帝の遺体が運び込まれた。この時、馬車から輿に移し替えられ、帝都を防衛する親衛隊の兵士が輿を担いだ。葬場では、皇族はもちろん、宰相らの閣僚達が弔辞を述べる。さらに、参列した貴族達による拝礼が行われ、葬儀は終了した。本来は、ここから埋葬の地へ遺体を移動することになっているのだが、これは行われなかった。皇帝の遺体は、惑星オーディンにあるゴールデンバウム皇室専用の墓地に埋葬されるべき、という判断であった。クレメンス帝がオーディンに帰還できるその日まで、特殊処理が行われた帝の遺体は、これまた気温、湿度等が管理される仮の「陵」に安置されることになる。

 

 国葬が無事終了し、貴族、平民のほとんどは、ほっと胸をなでおろした。北軍が攻めてくるのではないか、クーデターが起きる、大規模なテロが起きる、そんな噂が山ほど流れては消えていった。大部分の貴族、平民にとっては、何もないのが一番である。これでやっと平常が戻ってくる、そう思われた。

 

 

 

 宇宙暦799年、帝国暦480年2月25日──

 

 国葬が終わって三日、帝都にはようやく穏やかな雰囲気が戻って来ていた。行動制限も解除され、検問も撤去された。移動は自由になり、人々はようやくのびのびと過ごせると喜び合った。

 

 国葬に参列した貴族達も、続々と自らの領地に帰って行った。噂では、二週間もして、大方の貴族が自らの領土に帰った後、ブラウンシュヴァイク公から重大な発表があるだろう、とのことだった。だから、しばらくは穏やかな日々が続くという認識が共通であった。その日は二月末にしては珍しい低温で、夜過ぎからは雪が降るだろうという予報であった。だから、ガイエスブルク要塞から複数の士官が休暇で帝都に滞在していても、誰も気にしなかった。親衛隊の一部の部隊で、演習準備の名目で待機命令が出ていても、気にする人間はいなかった。もちろん、武器庫に封印されているはずの武器と弾薬が持ち出されていても、それは演習のためであると解釈されていた。

 

 翌26日未明、親衛隊第一連隊、第三連隊の兵舎で出動が発令された。双方の司令は帰宅しており、発令したのは連隊の副官だった。二個連隊2500名の兵には、武器と実弾が配布され、連隊が保有している地上車によって、帝都の中枢部に散っていった。クーデターの始まりだった。

 

 クーデター部隊は不意を突くことに成功した。第二連隊はクーデターに参加していなかったが、そうであるが故に、最優先の制圧目標となった。

 

「武器庫、通信隊はD中隊が担当する。E中隊は車両庫、指令室を押さえる。クロスターマン、キミッヒと組んで二個小隊で車両庫を押さえろ。エネルギーパックを外してしまえば取り返されることはない。クリンスマン、俺についてきてもらうぞ。指令室を押さえる」

 第一連隊E中隊長、シュヴァルツァー大尉は部下に指示を出すと、連隊司令部に突入した。警邏の兵は、蹶起の兵によって昏倒させられていた。

 

 蹶起兵の動きには無駄がなかった。第二連隊は、国葬が済んで一段落ということで、まともな抵抗をできる状態になかった。幹部の七割近くが帰宅していたのも大きかった。もっとも、待機命令が出ていなければ幹部は駐屯地外の自宅より通勤することになるから、それ自体は非難されることではなかった。

 

 シュヴァルツァーは部下と共に、司令部の廊下を早足で歩いた。人影はほとんどない。あるはずもなかった。指令室を押さえ、兵舎の電子ロック権限を握ってしまえば、第二連隊はこちらの手に落ちたも同然だ。

 

 指令室に到着した。自動ドアの鍵がかかっている。シュヴァルツァーは傍らの兵に指示すると、兵は平べったい板のようなものをドアに貼り付けた。貼り付け終わったと同時に、全員が床に這いつくばった。直後、爆発音が響き渡り、ドアは吹き飛んでいた。

 

 シュヴァルツァーを先頭に、蹶起部隊の兵が指令室に突入した。中は無人かと思いきや、先客が居た。禿頭、肥満体の中年男で、寝入りばなを叩き起こされここに来たのか、寝間着姿である。もちろん武装はしていない。シュヴァルツァーはもちろん、この男のことを知っている。

 

「夜分失礼致しました。ゼーラー連隊長殿」

 シュヴァルツァーは敬礼した。

 

「き、君は誰だ」

 ゼーラーは震え声で訊いた。

 

「近衛第一連隊E中隊長、シュヴァルツァー大尉であります」

 

「第一連隊だと。誰に唆された」

 

「我々は、自らの意志で蹶起しました。唆されたわけではありません」

 

「き、貴様ら。こんなことをしてただで済むと思っているのか」

 ゼーラーの声は相変わらず震えている。それに加えて、ところどころ声が裏返っていた。どうやら、連隊長本人はこのようなことが起こることを全く考えていなかったらしい。

 

「こんなことをしなくても、軍は詰んでいるのですよ。ブラウンシュヴァイク公の専制が続く限り、帝国の先は知れております。ならば、意味のある死に方をしたい。ただ、それだけです」

 

「馬鹿な。そんなことが成功するとでも」

 シュヴァルツァーはゼーラーの言葉など聞いていなかった。一瞬で距離を詰めるとゼーラーの腕をねじりあげた。側に居た兵がゼーラーに駆け寄り、首に小さな筒のようなものを押し当てる。しばらくして、ゼーラーは昏倒した。筒の正体は、即効性の麻酔薬であった。襲撃については、可能な限り死傷者を出さないで行う、ということを事前に取り決めていた。

 

 指令室の制圧に成功したシュヴァルツァーは、兵に命じて電子ロックの権限を奪取させた。これにて第二連隊は無力化されたも同然である。兵舎に居る兵は監獄に居るも同然、しばらくは動きが取れないはずだ。

 

 シュヴァルツァーのコミュニケータが着信を告げた。おかしい、まだ帝国通信本社は制圧が終わっていないのか、そう思いながら発信元を確認する。思いがけない相手に目を瞠った。

 

「ウィリー先生!」

 

「シュヴァルツァー君かね。久しぶりだ。調子はどうだね」

 通信相手、リッテンハイム侯ウィルヘルム三世は、この緊急事態にも全く動じていなかった。いや、まだ何も知らないのかもしれない。

 

「先生、申し訳ないですが後にしていただけますか。今立て込んでおりまして──」

 

「義挙のことなら承知しておる。徒に死者は出しておらんだろうな」

 

「何故それを」

 シュヴァルツァーは驚いた。リッテンハイム侯はクーデターに加わった面々のことを心配している!

 

「ま、いろいろあってな。ところでシュヴァルツァー、第二連隊の制圧は完了したか」

 

「は、はい」

 シュヴァルツァーは反射的にそう答えた。何故、リッテンハイム侯がクーデターの詳細まで知っているのか、それを考えることはなかった。

 

「ならばよし。ならば、連隊はD中隊に任せて、ちょっと顔を貸せ。新無憂宮の宮内省で待っておるぞ。一時間以内に来い」

 

「は?宮内省、でありますか。ですが──」

 

「何度も言わせるな。ああ、アルバレア少佐のことなら心配するな。既に話は通してある。合言葉は知っているのだろう?」

 

「合言葉?あ、ええ」

 蹶起部隊が設置している検問を通るための合言葉である。

 

「で、あるか。では、待っておるぞ。ああ、コミュニケータは後数分もすれば使えなくなる。かけなおしても無駄だからな」

 リッテンハイムからの通信は唐突に終了した。シュヴァルツァーとしては分からないことだらけであった。恩師ウィリー先生──リッテンハイム侯には、クーデターに巻き込まないため、計画の詳細は伝えなかったはずなのだが。

 

「大尉、シュヴァルツァー大尉!」

 部下が自分を呼ぶ声を認識し、シュヴァルツァーは慌てて振り向いた。

 

「ああ、すまん」

 

「大尉。D中隊も制圧が完了したようです」

 つまり、第二連隊駐屯地の主要目標は全て制圧されたというわけだった。

 

「そうか。やったな。損害は?」

 

「ありません」

 部下は即答した。奇襲は完全に成功したのだった。

 

「D中隊のクラウザー大尉はどこに居る?」

 

「え?大尉は……確か通信隊に向かったはずですが」

 

「分かった」

 シュヴァルツァーは、指令室にある通信機を機動させると、通信隊を呼び出した。確かに、コミュニケータは通信不可状態になっていた。通信機の通信はすぐに繋がった。ああ、突然済まない。そちらにクラウザー大尉はおられるかな。

 

 不審なことだらけではあるが、リッテンハイム直々の呼び出しで、クーデター部隊のリーダーであるアルバレア少佐が承知しているのであれば、無視していい話ではなかった。この場の指揮権を委譲する相談をしなければならなかった。

 

 

 

 宇宙暦799年、帝国暦480年2月26日、午前4時20分──  

 

 リッテンハイムは、宮内尚書室でシュヴァルツァーを待ち受けていた。

 

「待ちかねたぞシュヴァルツァー」

 

「申し訳ございません。検問を通過するのに時間がかかったもので」

 親衛隊第二連隊の駐屯地から、新無憂宮の宮内省にたどり着くまでにはいくつもの検問を通らなければならなかった。もちろん合言葉を知っているから、拘束されたり撃たれたりすることはなかったのだが、持ち場を勝手に離れていることに関して説明を求められたことが何度もあった。リッテンハイムは、そういう配慮はしてくれなかったらしい。

 

「まぁいい。ついてこいシュヴァルツァー。お前がいないと話にならん」

 リッテンハイムは、シュヴァルツァーの謝罪を無視して歩き出した。シュヴァルツァーも慌ててついて行く。リッテンハイムは小脇に箱のようなものを抱えていたが、それが何であるかシュヴァルツァーは聞かなかった。

 二人は、宮内省に隣接している宝物庫のような所にたどり着いた。扉を開けて中に入ると、そこは何もなかった。ただ、奥には扉があって、右側に小さな端末が置いてある。

 

「先生。ここは何なのですか」

 

「知らんかね。国璽の保管所だよ」

 

「国璽」

 シュヴァルツァーは息を吞んだ。国璽といえば、勅書に必ず押印してあるあの国璽である。一体それを手に入れてどうしようというのか。いや、その前にどうやって手に入れるのか。国璽は厳重に保管され、皇帝陛下ご本人または宰相のブラウンシュヴァイク公のみしか持ち出せないはずなのである。

 

 そんなことを考えるシュヴァルツァーをよそに、リッテンハイム侯は端末を操作する。程なくして、リッテンハイムはシュヴァルツァーの方を振り返った。

 

「シュヴァルツァー。そこにある遺伝子検査機に血液を一滴、垂らしてくれ」

 

「は?」

 

「血液だよ。なに、失血死しろと言っているわけではない。切り傷の時に垂れる一滴の血、それだけでいいのだよ」

 そこまで言われて、やっとシュヴァルツァーも合点が言った。

 

「先生、まさか」

 

「そのまさかだ。遺伝子検査がパスすれば、この国璽保管庫は開く。さすれば、国璽は我々のものだ。我々は官軍になるのだよ」

 

「ですが、何故私が」

 シュヴァルツァーは後ずさりしながら聞いた。

 

「ゲイブリエル・オズボーン」

 リッテンハイムはオペラの役者のような口調で言った。

 

「??」

 

「知らんかね?」

 

「い、いや。知っておりますが。先代の宰相、帝国を立て直した平民宰相。先生もそう授業でおっしゃっていたではないですか。それが何か」

 

「あ奴、表向きには家族が居ないことになっていた。だが、秘密に交際していた相手がいた。もちろん、子供もつくっていた。知る人ぞ知る秘密よ」

 

「そんなことがあったんですか」

 リッテンハイムの言葉に、シュヴァルツァーは間抜けな応答をしてみせた。もちろん、ピンとくるものはあったが、敢えてそれは心の中で伏せておく。

 

「……分からんか」

 

「何のことでしょう」

 

「ならばシュヴァルツァー。尚更この遺伝子検査を受けねばならぬ。お前は父親の顔を知らないはず。こちらの調査ではそうなっている。今、それを知ることができるのだ」

 

「……御戯れを」

 

「やるかやらないか。それは任せる。だが、義挙は長くはもたない。今の帝国は、ブラウンシュヴァイクの掌の中にある。それをひっくり返さない限り勝ち目はない。このままでは、君も私も縛り首は逃れ得ない。それはともかくシュヴァルツァー。天上(ヴァルハラ)でアリッサ・ラインフォルト嬢を待ち続けるのは、さぞかし退屈だろうと思うがね」

 

「!!!」

 その言葉はシュヴァルツァーに覿面だった。軍人なら死は鴻毛(こうもう)よりも軽しと教えられ、その通りに意識づけされるものだが、他人の命はそうではない。将来を誓いあった相手なら尚更である。

 

 シュヴァルツァーは遺伝子検査機の前に立った。ポケットに入れてあった多機能ナイフを取り出し、左手親指に当てる。親指に赤い線ができて、血がにじみ出た。その親指を遺伝子検査機に押し当てる。

 

 

 ……宰相ゲイブリエル・オズボーンと認証。国璽取り出しを認める

 

 遺伝子検査機に結果が表示された。かちゃりと開錠する音が室内に響くと、奥の扉がゆっくりと開き出した。それを見たリッテンハイムは、ぱちぱちと拍手をする。

 

「信じられない」

 シュヴァルツァーは呆然としている。

 

「儂も半分ぐらいは信じていなかった。だが、賭けてよかった。礼を言うぞ」

 

「先生、一つ聞いていいですか」

 

「儂に答えられる話しなら」

 

「自分が、もし仮にオズボーン宰相の息子だとして、何故この遺伝子検査が認証されるのですか。それに、何故先生が、このことを知っているのです?」

 

「……質問が二つあるような気もするが、まぁいい。一つ目の質問は、帝室の秘密というものだ。もし、畏れ多くも皇帝陛下を拐し、宰相も居ない状態では、政務に支障を来す。ならば、近い親族であれば国璽を持ち出せるようにしておけばよいのだ。問題は、そういうシステムを運用するならば、皇帝陛下御自らの遺伝子データのみを登録する、そういう仕組みにしておかなければならなかった。宰相のデータを遺してそのままにしてあるのは一見合理的なように見えて、精神の怠慢というものだ。公的には休職状態とはいえ、死んだ宰相のデータを残しておくなど怠慢そのものではないか。いや、死亡ではないからわざわざ残してあるのかもしれん」

 

「……」

 

「そして、もう一つの質問は、儂が直接教えてもらったのだよ。オズボーン宰相殿に」

 

「十五年前、宰相になったオズボーンは帝国財政の再建に乗り出した。再建といっても、実質は貴族から税金を取り立てる、それも強制的に、というものだ。当然、貴族は反対した。税金など取られては、経済的にやっていけない貴族が続出する。誰も彼もがブラウンシュヴァイクのように、帝国の各所に利権を持っているわけではないのだ。反対派はこの儂を担ぎ上げようとした。そこにオズボーンが直接訪ねてきたのだよ」

 

「あ奴は、帝室の秘密とお前のことを告白し、個人データを渡してきた。その時は既にフェザーンに居たのだったな?そして、お前の保護を依頼し、こう言った。私はこれから好きにする。儂もいずれ好きにしろ、と」

 シュヴァルツァーは崩れ落ちた。あまりの衝撃に立っていることも難しかった。帝国を立て直すための義挙のはずが、いつのまにかリッテンハイム個人の策謀に化けてしまっている。そして、リッテンハイムは、この日のことを十五年前から計画していたことになる。

 

 三重の保管扉が開き終わるまで、たっぷり五分はかかった。だが、今や扉は完全に開き、リッテンハイムはその中に入っていった。すぐに中から出てくる。両手に持っている透明の箱の中には、金色の印章が入っていた。帝国の紋章が彫りこんである、十センチ四方の印章だ。

 

「先生」

 シュヴァルツァーの声は震えていた。

 

「これから一体、どうするのです」

 

「安心しろ。義挙に加わっている者共は悪いようにはせん。皆、儂の教え子だ。当然ではないか。そして、事が完全に成った暁には、お前は幸せな結婚をするがいい」

 

 

 

 宇宙暦799年、帝国暦480年2月26日、午前5時40分──

 

 クーデターの報は日の出前になってようやく、ブラウンシュヴァイク公の元に届いた。帝都中枢が完全に不意を突かれており、コミュニケータその他の通信も遮断されたとあっては状況の確認も困難を極めた。さらに言うと、ブラウンシュヴァイク公とその一族が、帝都中枢より少し離れた場所に邸宅を構えていたことも一因だった。

 

「親衛隊が叛乱だと」

 ブラウンシュヴァイク公の書斎では、ようやく着替えを終えたブラウンシュヴァイク公が貧乏揺すりをしながらアンスバッハの報告を聞いていた。

 

「一連隊、三連隊の一部将校が主導している模様です。蹶起趣意書がネットワークに公開されております。帝国を専横するブラウンシュヴァイク一族を排除し、皇帝陛下の下に万民が結集──」

 

「馬鹿な!」

 ブラウンシュヴァイクの怒声が響き渡る。

 

「連中は現実というものを知らん。平和な帝都で惰眠を貪る親衛隊に、戦場の何が分かるというのか」

 

「左様にございます」

 アンスバッハはうなずいた。心の中では、厳重に警備された戦艦ベルリンの中から、戦場の何かを理解するのは難しいと思っている。それに、戦闘のほとんどは副司令官のやりたいように任せているではないか。

 

「すぐに帝都に戒厳令を発令しろ。(第二)艦隊から地上兵力を呼び戻せ。フレーゲルはどうした」

 

「連絡が取れません」

 

「まだ寝ておるのではあるまいな」

 

「昨日から帰っていないとのことです。昨日夜、軍務省に行くと言ってお出かけになったそうです」

 

「まさか」

 

「今は、戒厳令の発令と鎮圧部隊の編制が先です」

 アンスバッハが言い切った。

 

「で、あるな。軍務省と連絡は取れない、としたら事後承諾もやむを得まい。まとまった部隊が編制できるまでどれぐらいかかる」

 

「二時間、いや、三時間ぐらいかと」

 重装備を準備する時間を考え、アンスバッハは答えた。

 

「よし、編制が完了し次第出動だ。歯向かう奴は構わん、殺せ。相手は賊軍だ」

 これは後知恵であるが、ブラウンシュヴァイクとアンスバッハが鎮圧部隊の編制に拘り、時間を空費したのは誤りであった。可能な限り、早急に鎮圧に向かうべきであったのだが、二人はそれを一時間後に知ることになる。

 

 

 

 宇宙暦799年、帝国暦480年2月26日、午前7時──

 

 シュヴァルツァーは多忙だった。連隊駐屯地を制圧したということは、そこに存在する兵士(や将校)の安全を確保しなければならないということである。兵舎はリモートで施錠しているし、武器庫その他はこちらの手の内にあるから問題は少ない。だが、いつまでもそうしてはいられない。深夜から出動している兵も、そろそろ交替させなければならないし、休養も必要だ。本来なら自分もそうなのだが、さすがに休んでいるわけにはいかない。

 

 第二連隊指令室のデスクに居場所を定めたシュヴァルツァーは、そこで報告をさばいていた。デスクの端にはパンと缶詰が置いてあるが、恐らく手をつけることはないだろう。何とかコーヒー、それも覚醒作用のある薬剤入りのコーヒーだけは飲むことができた。だが、いつまでもこうしてはいられない。

 

「第二連隊に糧食は配分したか」

 

「先程終わりました」

 作業にあたっていた小隊長が報告した。

 

「今のうちに兵を休ませろ。タンクベッドがあるはずだ。今なら敵は気が立っていない。腹がふくれているからな。無力化ガスはいつ届く」

 

「本日昼あたりかと」

 

「問題は今日の夜と明日だ。それ以降のことは考えたくもないな」

 シュヴァルツァーは考え込んだ。蹶起の計画では、軍務省を制圧した部隊が軍務尚書を抱き込み、あるいは強要して、ブラウンシュヴァイク公とフレーゲル男爵を軍の公職から追放する手続きを行う。さらに、戒厳令を発令し、ガルミッシュ要塞から艦隊をツォンドルフに呼び寄せる。そこまでできれば、クーデターは成功に大きく近づくことになる。武力を持たないブラウンシュヴァイク公は、宰相として権力を振るうには宰相公邸に入らなければならない。そこを待ち構えればこちらのものだ。

 

 しかし──

 

 ウィリー先生ことリッテンハイム侯は、国璽を手に入れてどうするつもりだったのだろうか。あまりに衝撃の事実が重なり過ぎて、帰っていいと言われてすぐに帰ってしまった。やはりついて行くべきだったろうか。

 

 シュヴァルツァーの思考を中断したのは、指令室に駆け込んできた兵士の叫び声だった。

 

「中隊長殿!新無憂宮から詔書が発せられました」

 

「詔書?」

 

「と、ともかく、公式発表を見てください。帝国公式データバンクにあります」

 シュヴァルツァーは言われるがままに、データバンクにアクセスした。確かに新しい詔書が閲覧可能になっている。アップロードしたのは今日の6時50分。ついさっきじゃないか。詔書をダウンロードする。閲覧可能な詔書は、専用の紙に記載された文書を、高精密にスキャンしたデータなので、ダウンロードそのものには時間がかかる。偽造不可能なように暗号化されているので尚更である。ダウンロード完了、復号完了。詔書の画像が表示される。シュヴァルツァーは、左手でコーヒーの入ったマグを取り上げながら、直後、そのマグを取り落とした。

 

「お、おい──なんだこれは……」

 

 詔書の中身は簡潔だった。皇帝亡き後の皇太子についての詔書だった。詔書が作成されたのは(それを信じるなら)皇帝崩御の少し前。公開は、崩御後の適切な時期にすべし、という風に指定されていたようだった。だが、何故、このタイミングにこのような詔書が発せられるのか分からない。それに、

 

 何故、実兄リヒャルトを皇太子に指名するのか。もちろん、実兄のリヒャルトとは、北朝皇帝のリヒャルト帝以外あり得なかった。

 

 

 

「何故だ……何故詔書が……何故だ……」

 ブラウンシュヴァイク公は画面を見ながら呆然としている。アンスバッハも同様だった。それまで不通状態だった首都のネットワークが突然復旧したと思ったら、帝国公共放送の臨時ニュースで、詔書が発表されたという話が出て、データバンクからダウンロードしたらこの内容である。

 

 大昔、南北朝の平和的統合が議論されていた頃、南北どちらかの皇帝が、相手を皇太子に指名し、そして退位するというプランは検討されていた。だが、それでは譲位する方の廷臣がどうなるのか、という話になり結局まとまらなかった。

 

 この詔書では、それに関する条件事項すらない。ただ、単に、後継者が北朝の皇帝である、ということだけが書いてある。これでは、南朝は北朝に無条件降伏することと何ら変わりはない。

 

「閣下」

 衝撃から立ち直ったアンスバッハが言った。一刻の猶予もなりません。すぐに鎮圧部隊を新無憂宮に向かわせるべきです。

 

 ブラウンシュヴァイク公の反応も待たずに、アンスバッハは鎮圧部隊に通信を送った。そうだ、今すぐに出動しろ。兵はどれだけある?何、一個連隊だと?重装備は?よし、ならば今すぐ新無憂宮に向けて出動しろ。何?軍務省から?一体何を言っている。とにかくやるんだ、ビアホフ、代々の恩義を忘れたのか。

 

 鎮圧部隊への通信を打ち切ったアンスバッハは軍務省へ通信をかけた。蹶起部隊に制圧されているかと思いきや、軍務省の交換台にはすぐ繋がった。アンスバッハ少将であります。軍務尚書のエーレンベルク元帥にお繋ぎいただきたい。何?どうしてです?帝国宰相が軍務尚書と会談をするのに、何が問題?話にならない。すぐに代わっていただきたい。

 

 それ以上何か言う前に、通信は切れてしまった。おかしい。蹶起部隊に軍務省が占拠されているなら話は分かるが、どうも占拠状態にはないようだ。交換台の係官については、アンスバッハは知り尽くしている。偽装して何か情報を引き出そうとするならすぐ分かる。でも、交換台は異常はなさそうだ。一体どういうことだ。

 

 しばしの間迷って、アンスバッハは決断した。

 

「閣下。鎮圧部隊の指揮は自分が執ります。軍務省に不穏な動きがあるようです。確認して参ります。よろしいですな」

 まだ衝撃から回復していないのか、ブラウンシュヴァイク公はうなずいた、ような気がした。

 

「もし、自分に万一のことがあれば、シュトライトを呼んでいただきたい。それでは失礼します」

 アンスバッハは一礼して、執務室を出ていった。

 

 

 

 午前八時となると、日は完全にのぼっているはずだが、雪は夜ほどではないにせよまだ降り続いており、視界はそれほど良くなかった。

 

 アンスバッハは鎮圧部隊の指揮用装甲車に乗り込んで、部隊を進発させた。公共通信は繋がったり繋がらなかったりを繰り返して頼りにならない。恐らくクーデター部隊の仕業だろうが、軍隊が公共通信をあてにしていいはずがない。こちらの兵力は一個連隊程度で、クーデター部隊に対抗するには不足だが、軍務省さえ押さえてしまえば軍務尚書を説き伏せて戒厳令を出せる。そうすれば、状況は一変するはずだ。

 

 それにしても、あの詔書は何なのだ。何故正規の国璽が押してあるのか。宰相以外が持ち出せるはずのない国璽が。いや、ブラウンシュヴァイク公のあの動揺ぶりからすると、公自らが持ち出して、それが盗まれた可能性も考えられる。それはそれでまずいことだが、まずは置いておこう。

 

 国璽が手に入ったとして、詔書を作ったのは誰か、ということになるが、蹶起部隊の誰かだろうか。いや、それはない。もし蹶起部隊がそこまでやるなら、趣意書に国体の統一が謳われていなければおかしいのだ。となると、リッテンハイムか。フレーゲル男爵があそこまで厳重に警戒しておきながらこのざまである。いや、男爵もそれまでの人だったのかもしれない。いやいや、そんなことを考えてはいけない。そう言えば、男爵はどこにいるのだ。

 

 しかしだ、リッテンハイムが詔書を偽造したとして、何故無条件降伏に等しい詔書を作るのであろうか。北朝にとって、門閥貴族は等しく君側の奸扱いされている。ブラウンシュヴァイクが駄目でリッテンハイムが良いということはあり得ない。ならば……

 

「ヴァルター、ヴェスターラントの第二艦隊司令部を呼び出せ。即時出動だ」

 アンスバッハは通信兵にそう言った。

 

「は、ですが、出動の権限は艦隊司令だけでは。それに今の通信状況では──」

 

「それならばそれでよい。まずは繋げ」

 

「了解」

 通信兵は機器のコントローラーを操作した。しばらくして繋がったようであった。通信兵が備え付けのマイクをアンスバッハに渡した。

 

「おおフェルナー殿」

 アンスバッハは喜ぶ風にそう呼びかけた。応答したのは第二艦隊の参謀の一人であるアントン・フェルナー中佐であった。

 

「閣下、そちらはご無事ですか」

 

「もちろんです。第二艦隊は出動準備を整えておりますか。警報は解除していなかったはずです」

 

「それは確認してみませんと……それ以前に、今こちらはそれどころではない状況でして」

 

「それどころ?帝都のクーデターより問題があると?」

 

「いえ。何でもリッテンハイム星域から、極超大質量の物体がワープアウトしてきたとのことです。そちらに振り向けている監視衛星は全滅で、近くに展開している哨戒隊も消息を断っているとのこと。兵にも動揺が広がっています。クーデターに加えこの状況では」

 

「何だと」

 アンスバッハは思わずマイクを投げつけようとして、思いとどまった。しばらく考えた後で、話し出す。

 

「ああ、フェルナー中佐。貴官のできる範囲でいい。第二艦隊の出動を進めてくれ。私も、もちろんブラウンシュヴァイク公も後で合流する。これから宇宙港へ向かう。後、第四艦隊は……ケンプ少将が居るか。ならば良い。そちらでうまくやって、第四艦隊も出動させてほしい。もちろんだ。男爵様も合流する。いいか、ブラウンシュヴァイク公のご意向だ。これは保障してもいい。もしできるなら、第一艦隊にも出動準備を整えるように言ってくれ。北軍がやってきたのだ」

 アンスバッハは通信を切った。鎮圧部隊に進路を変えるよう命ずる。まずは、ブラウンシュヴァイク公の邸宅に戻り、次は宇宙港だ。

 

 事態は悪化していた。もう軍務省を押さえるどころではない。まずはこちらが逃げ出さないと一網打尽にされる。後はガルミッシュ要塞をこちらの味方にするしかないが、通信は届くだろうか。

 

 その時、通信兵が叫んだ。

 

「閣下、正体不明の通信が公共放送をジャックしている模様!相手は……北軍軍務尚書代理と名乗っております!!」

 

 

 

「『帝国』の兵士諸君。お初にお目にかかる。こちらは、『帝国』軍務尚書代理にして、アムリッツア軍管区司令官、ラインハルト・フォン・ミューゼル大将である。突然の通信で混乱している部署もあろうが、軍相撃つことはこちらの本意ではない。抵抗をしない限り、こちらから一方的に攻撃することはない、これは必ず約束する」

 

「帝国『ブラウンシュヴァイク軍管区』の兵士諸君は、皇弟クレメンス殿下が遺した詔書を既に見ていると思う。畏れ多くも皇帝陛下におわしましては、この詔書をご覧になり、皇弟クレメンス殿下に委譲されていた、帝国南部の行政権を回収し、行政権を統合する旨の詔書を発せられた」

 

「これまで、クレメンス殿下の指揮のもと勤務していた兵士諸君に何ら責任はない。一部の兵士は、行政権に関するこれまでの解釈の行き違いから、不幸にも軍相撃の悲劇に関わってしまった者もいるだろう。これに関しても心配には及ばない。皇帝陛下は、今までの不幸な過去は一切水に流すとの仰せである。近いうちに、恩赦の詔書が発せられる予定である。兵士諸君は、気にすることなく己の職務に邁進してもらいたい」

 

「だが、こちらで入手した情報によると、一部の、叛意を抱く貴族共、士官共が兵を唆し、帝国軍に叛乱を起こす可能性があるとのことだ。これは許容するわけにはいかない。このような者共は、『賊軍』であるからこれを受け入れるわけにはいかない。もし、上官が叛乱を指嗾しているなら、逮捕拘束し、その旨報告すべし。褒賞が与えられるであろう。繰り返す。こちらは帝国軍務尚書代理、アムリッツァ軍管区司令官のラインハルト・フォン・ミューゼル大将である──」

 

 

 

 親衛隊第二連隊駐屯地では、第一連隊D中隊、E中隊の幹部達が指令室に集結し、この放送を見守っていた。まだ昼にはなっていないが、状況は混乱どころではなかった。一分ごとに新たな情報が入り、さらに一分経つとそれと正反対な情報、あるいは新情報が入ってくる始末である。そしてとどめはこの放送である。

 

「ブラウンシュヴァイク星域外縁から放送されているというのは本当なのか」

 シュヴァルツァーが通信兵に聞いた。

 

「確定しているわけではありませんが、哨戒隊からの報告を総合する限り、外縁、それもリッテンハイム星域方向からで間違いないでしょう」

 

「一体どうなってるんだ」

 横にいるD中隊長、クラウザー大尉がうめいた。

 

「シュヴァルツァー。これもウィリー先生のシナリオのうちか」

 

「何故俺に聞くんだ」

 

「ウィリー先生と仕組んだのだろう?だからこんなことになった」

 

「なぁクラウザー」

 シュヴァルツァーはあやすように言った。もし、俺がこんな絵を描けるなら、あんなクーデターの相談なんかやらないよ。俺も、義挙に参加するかどうか随分と迷ったんだ。それにだ、こんな新兵器を前に戦おうと思うのか。

 シュヴァルツァーは、ブラウンシュヴァイク星域警備隊から送られてきた画像ファイルを開いた。可能な限り遠隔からの撮影であるが故にぼやけているが、直径数十キロレベルの人工天体がそこには存在した。その画像には、周囲で警戒している艦艇も見ることができる。

 

 よく撮影できたものだ。シュヴァルツァーは感心した。いや、敢えて撮影させたのかもしれない。衝撃的効果だろうか。

 

 敵が戦局を一気に決する兵器の開発を行っている、そういう噂は以前から流れていた。だが、その重要性にもかかわらず調査は一向に進まなかった。それどころか、途中から上層部の意向で調査は放置されたらしい、そんな情報すらあった。それがこのざまである。あんな兵器を首都に直接持ち込まれたら、戦争どころではない。

 

「一体、俺達のしたことって」

 シュヴァルツァーは呟いた。帝国(南朝のこと)を救おうと必死だった。集まった同志も同じ考えだった。それなのにだ。いざ事に及んでみれば、現実は俺達のはるか上を飛んで行ってしまった。結局、義挙とは何だったんだろう。

 

 帝国が再建できるなら──

 南朝が炎の中で崩れ落ちることを避けることができるなら──

 

 俺は何だって受け入れることができたはずだった。獄を抱くことも、銃殺隊の前に立つことも、何でもできたはずだ。だが、シュヴァルツァーはそんな過去の「覚悟」が馬鹿馬鹿しいように感じ始めていた。俺一人がどんな決意をしても、世界にとっては一粒の砂に等しいのか。なぁ、アリッサ。お前もそう感じているのだろうか。

 

 コミュニケータが着信を知らせた。クーデターのリーダー、アルバレア少佐からだった。

 

「はい、こちらシュヴァルツァー」

 通信の内容は予想通りだった。第二連隊の占拠を解除し、原隊に復帰せよとのことだった。シュヴァルツァーは中隊の幹部を呼び寄せた。

 

 

 

 宇宙暦799年、帝国暦480年2月26日、午前9時、軍務省、軍務尚書執務室──

 

「リッテンハイム侯、本当にこれでよかったのかね」

 

「もちろんでございます、エーレンベルク元帥。軍が相撃つこと、これにて避けられます。この度の功績第一でございますぞ」

 リッテンハイムは褒めそやした。エーレンベルク元帥は、先程クーデター部隊のリーダーであるアルバレア少佐とコミュニケータで会談し、クーデター参加者の安全と引き換えに、部隊を原隊に復帰させるという取り決めを行った。要はクーデターに敗北したわけで、軍の恥辱に他ならなかったが、今の軍はそれどころではないのだ。

 

「しかしだね、リッテンハイム侯、あの詔書は何なのだ。今更リヒャルト様に皇位を──」

 

「エーレンベルク元帥!」

 リッテンハイムは宣言するように言った。

 

「詔書は皇帝陛下のお言葉、まさにそのものである!それとも元帥、卿はあの詔書が偽物である確かな証拠をお持ちか」

 

「元帥、言葉を慎まれよ。軍人の本分は皇帝への忠誠ではありませぬか」

 執務室に居る第三の男が声をかけた。

 

「その通り。フレーゲル男爵はよく分かっておられる」

 そう、行方不明のはずのフレーゲル男爵がそこに居たのである。今日の未明、フレーゲル男爵は軍務省に押しかけると、クーデターの一報で慌ててやって来たエーレンベルク元帥に対し、クーデター部隊への協力を取りつけさせたのである。フレーゲルから協力を要請されたエーレンベルクは、全てが終わった後にフレーゲルがブラウンシュヴァイクを裏切ったことを知ったのだが、後の祭りであった。

 

「ともあれ、北軍の軍務尚書『代理』が間もなくこちらに到着します。皇帝陛下の詔書をお迎えする準備をせねば、のぅ。フレーゲル殿」

 

「左様にございます」

 

「では、我々はこれで失礼する。そうそう、くれぐれも統帥本部と宇宙艦隊司令部への伝達は怠りなきよう」

 

 リッテンハイムはフレーゲルを伴って、執務室を出ていった。

 

 

「侯爵」

 軍務省の廊下を歩きながら、フレーゲルはリッテンハイムに言った。

 

「どうしたフレーゲル殿」

 

「この度の義挙、お見事でした」

 

「何、軍務尚書を押さえてくれたフレーゲル殿の手際こそ、お見事でございました。それに何も知らないところから真相を見つけ出すその手腕。さすがブラウンシュヴァイク一門侮れぬ」

 

「そのようなことは」

 フレーゲルは謙遜してみせた。しかし、アンスバッハが言った幽霊の話から、オズボーンの身辺関係を再度洗い直し、リッテンハイムがオズボーンの遺児を利用して国璽を奪取する可能性があることを事前に突き止めていたのは事実だった。クーデターの動きを真っ先に察知し、リッテンハイムが宮内省に到着することを知って、軍務省を押さえにいったのもフレーゲルの勘であった。

 

「帝国の一統が成った暁には、フレーゲル殿にはブラウンシュヴァイクの当主となって頂く。帝室への忠誠、それには当然報いねばならぬであろう」

 

「自分は、当主の座が欲しいわけではございませぬ」

 フレーゲルは声を潜めて言った。

 

「自分の望みは、あくまで従兄妹のエリザベートの生命、その保障。それがあれば十分。自分は市井の平民に落とされても悔いはございませぬ」

 

「なんと。なんと謙虚な態度。このリッテンハイム、感嘆いたしました。もちろん、エリザベート殿下は帝室の一員。新たな帝国においても、それに応じた待遇を受けるでありましょう」

 

「嬉しや。有難や」

 フレーゲルは、感情の籠っていない声で、政治的媚態を表現してみせた。では、自分はこれから第四艦隊を押さえてみます。伯父上が先に手を打っているかもしれませんが、やってみる価値はあります。

 

「お願いいたしますぞ」

 リッテンハイムとフレーゲルは別れた。もちろんリッテンハイムには、フレーゲルを助命することは考えていない。いずれ、何か理由を見つけて殺害するつもりだった。死の罠を掻い潜って、ここまで自分に迫ってくる人間を放置しておくわけにはいかないのだった。

 

 

 

 宇宙暦799年、帝国暦480年2月26日、午前9時、戦艦タンホイザー司令部控室──

 

「ツォンドルフのクーデターは事実上終息しました。蹶起部隊は原隊に戻りつつあります。軍務尚書は、南軍の全部隊に、命令に基づかない行動を慎むようにとの布告を出しました。第二艦隊、第四艦隊の一部はそれに応じず、ヴェスターラントの駐留基地を進発したようです」

 

「やはり完全勝利というわけにはいかないな、オーベルシュタイン」

 ラインハルトが金髪をいじりながら答えた。

 

「ここまで主導権を握れば、軍の切り崩しは容易です。こちらが一押しすれば、それで終わりでしょう」

 キルヒアイスが言った。

 

「それにしても、奇妙な感覚だな。宇宙船のワープなら数えきれないほどやったが、アムリッツァ要塞のワープとはね。いや、もう、アムリッツァ要塞ではないのか」

 

「機動要塞、コードネーム『ラーズグリーズ』であります」

 オーベルシュタインが答えた。

 

「どうにも慣れないな。ワープにも、その名前にも」

 

「慣れる必要はございません。司令官閣下」

 キルヒアイスが言った。

 

「戦艦は銀河を駆け回るのが宿命。ですが、この機動要塞は『機動』という名前こそついておりますが、動くのはほんの短期間です。それに、動き過ぎると要塞機能の各所に影響が出てきます。要塞はほんの少し銀河を移動するだけです。新たなる定住地に向けて、です。そうすれば、また新たな名前が与えられるでありましょう」

 

 今、戦艦タンホイザーはアムリッツァ要塞の宇宙港に停泊している。ワープ能力と機動能力を付加されたアムリッツァ要塞は、機動要塞「ラーズグリーズ」と命名され、長駆ブラウンシュヴァイク星域までやって来たのである。もちろん、南軍の警戒網を突破できたのは、リッテンハイム侯の協力あってのことだった。

 

「そうだな。ところで、オーディンのミッターマイヤーからは報告が来ているか」

 

「今のところは何も」

 オーベルシュタインが淡々と答える。

 

「予定では、新無憂宮(ノイエ・サンスーシ)を手中に収める頃合いだろう。合力しているあの部隊なら、仕損じることはあるまい。だが、遅れ過ぎてもいかん」

 

「ミッターマイヤー大佐に問い合わせますか」

 キルヒアイスが訊いた。

 

「いや、まだその頃合いではないな。もう少し待とう」

 

 その直後、午前9時46分のことであった。通信兵が、キルヒアイスに通信文を渡すと去って行った。その内容は、政治的な事態の急変でも、軍事的な事態の急変でもなかった。しかし、内容を把握したキルヒアイスは血相を変え、慌ててラインハルトに耳打ちした。ラインハルトはそれを聞くや否や、愕然としてキルヒアイスの方に振り向いた。

 

「姉上が居ない──だと」

 




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第二十一話 ラグナロク(3)
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