がんばります
魔王城から王都の路地裏に転移した日から2年。
私は今、冒険者として活動している。
あの勇者に復讐する為に各地を転々として居場所を探っていた。
吹雪の氷河を、嵐の山脈を、熱砂の大地を。
無数の魔境を巡り奴が隠れていそうな場所をしらみつぶしに当たった。
けれども一向に見当たらず、聞こえるのは勇者の活躍の噂だけ。
曰く、山の邪龍を倒した。
曰く、海の魔鯨を沈めた。
曰く、空の怪鳥を落とした。
そんな話を聞いていると怒りが込み上げてくる。
人の全部をぶっ壊して、自分は英雄気取りか。
反吐が出る。
ーーー
今回は辺境の魔物退治の依頼を受けた。
数が増えすぎて行商人の安全が確保できないらしい。
馬車で二日ほどかかる場所らしいので報酬もそこそこだ。
行き来と討伐にかかる日数を予想し、荷物を少し多めに準備しておく。
出発するのは明け方。夜は魔物が活発に動き視界も不自由だから移動は困難だ。
昼のうちに多少無理をしてでも進む。
荷台に荷物を放り込み、御者台に上がる。
馬に鞭を振り、嘶きとともに馬車が動きだす。
早朝の空気はまだ冷たく、路面の草には霜が降っている。
ガタンガタンと馬車を引く音が耳に残る。
しばらくして日が頭上に登ってきた。
また、しばらくして日が沈んだ。
馬車を止めて焚き火をつける。
ゆらゆらと揺れる炎に手を当てて暖を取った。
魔王様、皆さん。仇はいまだ取れそうにありません。
でも、いつか必ず。刺し違えてでも、あの憎き勇者を葬って見せます。
なのでこれからも天国で見守っていてください。
決意を新たにし、明日も早いため床に就く。
ーーー
翌朝、魔道具の音が鳴る。
起床用の魔道具。前世でいう目覚ましが似ているだろうか。それを止めながら寝袋から這い出た。
手を摩りながら、白い息を吐いて移動の準備を始める。
馬のほうも大丈夫そうだ。軽く毛繕いしてあげてから御者台に身を乗せる。
ガタンガタンと馬車が揺れる。
冷めた空気が身体を刺激し、身を震わせる。
ガタンガタンと馬車が揺れる。
昼を跨いで馬車に揺られていると、集落が見えてきた。
速度を緩め集落の前に馬車を停める。
すると、髭を伸ばした老人が集落の中から出てきた。
どうやら集落の長らしい。彼に依頼を受けた証明書を見せる。
「ああ、冒険者の方ですか」
長の顔が曇る。理由は私、いや冒険者という立場だ。
冒険者は誰でもなれる。なれてしまう。
だから力自慢のチンピラだとかガラの悪い人の割合が高い。
肝心の依頼も騎士団が動くほどではないと判断したものしか冒険者達に流されていない。
つまり、冒険者が来たということは問題を重要視されていないということだ。
「ここから道を辿って行けば魔物の巣です。どうか、ご武運を」
どこか冷めた物言いで依頼の詳細を伝えられる。
そんな事は慣れっこだ。
軽く体を伸ばし、よしっと気合を入れた。
得物の二丁の銃を軽く叩き、水筒の水で喉を潤してから言われた方向へ進む。
魔銃と呼ばれる遠距離武器。
自分の魔力を爆発させて弾を放つ仕組みの魔道具。
私のお気に入りだ。
装填数20発。予備のマガジンもある。備えとしては十分だろう。
「…!」
僅かな物音がした場所へ引き金を引く。
ピギッ、と銃声に続くように断末魔が響いた。
そのうちほかの魔物も断末魔を聞いてやってくるだろう。
なんて思っていたら周囲の茂みが揺れる音が何度か聞こえた。
ケケッ、と品のない鳴き声が途切れ途切れに聞こえてくる。
知性がないのなら躊躇はいらない。
私が二度目の引き金を引くとともに、魔物の群れは私に襲い掛かった。
知性のない魔物は家畜と同じなのです