彼の寝顔を見るのが好きだった。
安心して寝ているその姿に、可愛さや庇護欲を感じてしまう。彼の寝息をBGMに、ゲームに興じることも少なくない。
彼の働いている姿が好きだった。
真剣な表情で卓上の書類を見つめる彼は、かっこよかった。それを見つめすぎて、何度彼に心配されただろう。
彼の仕草が好きだった。
時折、右の前髪を弄る姿がとてつもなく可愛かった。それを見たいがために何度彼と無駄話をしただろう。
彼との食事が好きだった。
口いっぱいにカレーを頬張り、ほんのり微笑む彼の顔を見ながら食べるご飯は、これまでのご馳走が霞んでしまう程美味しかった。最近は彼が忙しくて食べれてない。また食べたいなぁ。
彼の作る食事が好きだった。
彼の部屋に上がり込み、レースに負けた悔しさを彼にぶつけてしまった時、静かに出してくれた温かいお味噌汁。食べた時に泣いてしまって、酷い顔を見せてしまった。今思い出しても恥ずかしい。
彼の横を歩く時が好きだった。
彼の方が身長が高いから歩幅も違うはずなのに、歩幅を合わせてくれたのが嬉しくて、いつもわざとゆっくり歩いていた。見上げると彼の顔が見える彼の横は、嬉しさと恥ずかしさでどうにも緊張してしまう。
彼の背中を見るのが好きだった。
普段あまり見ないそれは、不思議な高揚感が湧き上がるものだった。きっと、まだまだこれには慣れることがないと思った。
彼の声が好きだった。
彼の声を聞きながら走るのはとても楽しい。安心するし、不思議と視界が広くなる。彼からのエール以上に走っている時に聞けて嬉しいものは無い。
彼の瞳が好きだった。
純新無垢という言葉がピッタリ当てはまるくらいのキラキラしたあの目がとてつもなく可愛かった。その瞳の真ん中に映っている姿を見つけたその時、嬉しさに心から震えたのを未だに覚えている。彼が「風邪か?!」と心配してくれたのが嬉しくて、顔を赤くしながら否定するとますます心配して保健室までお姫様抱っこで運ばれた時は顔から火が出そうだった。
彼のことが好きだった。
自分を見てくれた。信じてくれた。託してくれた。語ってくれた。支えてくれた。怒ってくれた。悲しんでくれた。喜んでくれた。そばにいてくれた。遊んでくれた。夢見てくれた。そして何よりも。
好きでいさせてくれた。
周りは無理だと言った。諦めなかった。諦めたくなかった。見返したかった。「どうだ!」と言ってやりたかった。認めさせたかった。認めて欲しかった。
こんな私を、受け入れて欲しかった。
彼は、全て受け止めてくれた。
そんな彼のために走った。
周りを置き去りにして走った。
直線で、彼が見えた。
私を、信じていてくれた。
有馬の舞台を、私のレースを、見ていてくれた。
思いが溢れる。
その全てを、目の前の彼に伝えたい。
私を優しく見つめる、彼に伝えたい。
でも、全部伝えるなんて無理だ。
恥ずかしくて、言えない。
だから、届け。
「ただいま、トレーナー。」
「おかえり、タイシン。」
終盤に行くにつれて早くなる不思議
※追記 誤字報告ありがとうございます!