ウマ娘でも、風邪は引く。
そこは、人間と同じだ。ウマ娘も人間であると実感出来る、とトレーナーは思った。まあ、人間よりもかかる頻度は圧倒的に少ないが。
ここは、トレーナーの自宅。トレセン学園近くの住宅地に建つ一軒家。1人で住むには広いが、トレーナー職に就いているため、空き部屋のほとんどは本棚とそれに納まったトレーニング関連の本で埋まっていた。相手の研究資料に、担当のウマ娘のトレーニングメニュー。トレーニング教本もずらりと並べられている。たまに、ここで複数人のトレーナーが集まり研究会が開かれたりもするらしい。
話題を戻そう。
そう、ウマ娘でも風邪は引く。が、本日。
「····うぅ····」
そう。トレーナーの担当している子が体調を崩した。医者の診断によると、風邪ではなくてインフルエンザらしい。
そして、インフルエンザでは寮のみんなへ感染してしまう可能性もある。そこで、トレーナーの家で療養することになった。理事長の許可は取り、更にはトレーナー自身も1週間の休暇を取った。
「うぅ、すみません···トレーナー·····」
トレーナーが氷枕を交換するために部屋に入ると、高熱で苦しく、赤い顔をした彼女に開口一番謝罪される。それに対してトレーナーは明るい顔で「大丈夫だよ。」と答える。
「何か食べたいものはある?」
いくら高熱で食欲が低下していたとしても何か口に入れなければ、ウイルスには勝てない。今は昼前。少し近くのスーパーまで買い物に行くので、ついでに彼女に聞いてみるトレーナー。
「でしたら、桃缶を···」
普段とは全く違う雰囲気を纏っている彼女。いつもの活発さはなりを潜めていて、髪型も変わっているのでまるで別人のようになってしまっている。
そんな彼女のためにも、と立ち上がろうとしたトレーナーの手を彼女が掴む。彼女は少し朦朧としているような目でトレーナーを見つめている。その目を見たトレーナーは彼女の頭を優しく撫でる。
「えへへ····」
撫でられている彼女は気持ちよさそうに目を細める。それを見ながらトレーナーは少し額に手を当て熱を確認し、濡れタオルをその額に乗せた。そのひんやり感が気持ちよかったのか、彼女は嬉しそうにトレーナーを見た。そして。
「ありがとうございます···好きですよ、トレー···ナー···」
そう言い、眠りについてしまった。言われた側のトレーナーは、片手は彼女の頭を撫で、もう片方は彼女と手を握った状態でフリーズしていた。ある意味衝撃的な告白にトレーナーは脳の処理が追いつく訳もなく思考停止してしまった。数秒かけて言葉を脳に刷り込んだトレーナーはと言うと、彼女を起こさないようにと両手を動かさないまま顔を真っ赤にして照れていた。その状態で数分間脳内でワタワタしていたが、トレーナーは彼女の顔を覗きこみながら。
「おやすみ、バクシンオー。」
そう言い、布団をかけ直して静かに部屋を脱出した。
バクシンオーが回復したのち、そのことを覚えているか尋ねたところ全く覚えていなかったのはまた別のお話。
尚、トレーナーは部屋を出たあとに躓いて顔面ダイブを敢行し、二重の意味で赤い顔のままスーパーに行きました。