My Hero Battlefront ~血闘師緑谷出久~ 作:もっぴー☆
脳みそを空にして読んでいってください。
異界と現世が交わる街、ヘルサレムズ・ロット。略称"H・L"
かつて
霧
一歩間違えれば人界は浸食、不可逆の混沌に呑まれてしまう地球上でもっとも剣呑な緊張地帯となった。
人界では決して見ることもないだろう超常が容易に集うこの街は、今後千年の世界の覇権を狙う者たちで溢れかえり、虎視眈々とその機会を待ち続けている。
しかしそんな街で世界の均衡を守る為、暗躍する組織があった。
その名も「超人秘密結社ライブラ」
あらゆる世界の危機を回避するため「牙狩り」と呼ばれる組織、その中の一部精鋭たちをヘルサレムズ・ロットの犯罪に集中させるために設立された派生組織。
そして僕は、その組織の構成員の一人として日夜世界の裏側で世界の危機と戦い続けている。
◆◆◆◆◆
今日も今日とでH・Lは絶賛世界の危機だ。
事の発端はジャパニーズマフィアの皇弾会と蒐鋭組が8番通り周辺を巻き込んでの大抗争。これ自体はいつもの光景だったのだが問題はその後だった。
新興派閥のチャバチャブファミリーが一発逆転を狙い、漁夫の利を得るべく参戦。大量の空間反応爆弾をばらまき無差別テロへと発展し、さらに駆けつけた
そこにちょうど近くで発生していた銀行強盗による現場脱出用の転移術式が天文学的偶然によって空間反応爆弾と超融合を果たした結果、偶発的次元歪曲事故へと発展。H・L各地に次元歪曲術式が拡散されたのだった。
大小濃淡様々な状態の術式が計64か所に拡散。計算によると16時間以内に全て術式閉塞をしないとランダムでどこかに繋がってしまうことに。
どこに繋がるかなどわかるわけもなく、仮に発動後繋がる座標が現在時間のH・L内のどこかなら兆歩譲ってまだマシだが、これが外の世界や異界、それも今の時間と違う時空なんかに繋がった日には目も当てられない。
幸い術式解除に関しては術士協会が人員をすぐさま手配したおかげで順調に閉塞中、僕たちはレオさんを連れて魔術濃度が薄く特定しにくい座標を中心に街中をバイクで飛ばしていたのだが―――
「あ゙え゙や゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!?」
「何あれキモイ何あれキモイいいいいいい!!??」
「誰だよあのキモイとキモイとキモイを足して割ったようなナマモンほっぽり出した奴はよおおおぉぉぉ!!!!???」
ついでのように解き放たれた大量のキモイ合成生物に盛大に追われながら現場に急行していた。
いや待って?本当誰だあんなの作った奴は。パッとイモムシとゲジとカピバラが雑コラのように混ぜこぜにした上に、異界三大キモ生物の一匹に挙げられるボュォモーまで混ぜるとか悪意の塊にもほどがあるだろ。今すぐ作った奴を正座させて吐くまで問い詰めたいと心から思うがそんなこと言ってる場合じゃない。でも本当になんだあれ。嫌がらせ特化生物とか子供か。
「無理、無理いいぃっ!!ザップさんもっと、もっと飛ばしてくださいいいいいいい!!」
「三ケツしてこれ以上出るわけねえだろ!陰毛てめえ降りて囮になれ!」
「嫌ですよ!?降りたらあれを一人で相手しないといけないじゃないですか!?」
「てめえなら一人でもどうにでもなるだろうが!弟弟子なら兄弟子のために1回や12回死んでみろ!!」
「弟弟子をなんだと思ってるんだあんた!」
本当に弟弟子をなんだと思ってるんだあんた!?
そりゃああの程度数が多くて面倒なだけでやられるようなことはまずないけど!ただそれでも嫌だ!戦いたくない!というか触りたくない!ただただ純粋に無理!視界にも入れたくない!!正気がすり減る!!!
……とひたすら駄々をこねていても戦わないといけない状況はくるわけで……。
「おいレオ、目的地は!?」
「もうすぐ!ここから200m先、右に曲がってカナルストリート駅前です!」
「ちぃ……やっぱやらねえと駄目か?触りたくねえぞあんなの!」
「言ってる場合じゃないですザップさん、もうすぐそこまで来てる!」
「わーってるっつーの!3カウントでいくぞ『デク』!!」
「レオさん、バイクをおねがい!」
そう僕が叫ぶとレオさんは器用にザップさんと操縦を交代し、僕達は臨戦態勢に入る。ザップさんが3、2、1、と数え、0カウントと同時に揃ってバイクから飛び出し、そして──────
「「
血の嵐が舞った――――――
◆◆◆◆◆
「よし……多重閉塞術式構築完了、起動……これでここも閉塞完了だ」
「お疲れ様です。次の座標地点は?」
「いや、連絡によれば確認された歪曲個所はここで最後だとさ。」
次元歪曲テロ発生から15時間50分ちょい。安全を確保し、到着した術士により最後の歪曲個所の閉塞が完了。途中で量産型自立式妖刀クラマサにより憑依抜刀された一般市民たちが乱入するなどのハプニングもあったが、今回もギリギリ世界の危機を回避することが出来た。
ヤクザの抗争がどうなったらこんなことになるんだと思うが、上位存在が注文したバーガーにピクルスが入っていたことに怒り世界規模で概念を捻じ曲げようとしたり、神性生物がガチャで爆死してキレて人類を滅ぼそうとしたりするなどわりとしょうもないことで世界の危機が訪れる以上この程度で困惑してるとキリがない。もう終わったことであるし、後はレポートを書いて後日提出するだけだ。
そんなことを思いながら座り込んでると先ほどバイクに一緒に乗っていた青年がこちらへ向かってきた。
「二人ともー。撤収指示が出たから行きましょー」
年恰好が僕と近い彼の名前はレオナルド・ウォッチ。僕が所属してる組織ライブラの構成員の一人だ。
神々の義眼という眼にまつわるものならなんでも出来る強力な眼を有しており、その眼をもって世界の危機と戦っている。今回もその眼のおかげで術式の座標をいち早く発見して活躍した。
だが僕としては彼の一番の武器は眼ではなく、たとえどんな苦しい現実を突きつけられようとも退くことなく前へ進み続ける心の強さだろう。その心はまさしくヒーローそのもので、リーダーであるクラウスさんと並んで常に敬意を表している相手だ。
「っだぁー!やぁーっと終わったかよぉ……!……ほんとなんだったんだよあのナマモノ!?切ったらくせえし燃やしてもくせえし息もくせえし何もしなくてもくせえしでマジで作った奴バラッバラにしてやるぁちきしょあッ!」
そしてもう一人。盛大に喚いてるこの人はザップ・レンフロ。同じくライブラ構成員にして、「斗流血法」の後継者の一人であり、大変不本意ではあるが僕の兄弟子にあたる人だ。
普段は飲む、打つ、ヤるの三拍子、屑のロイヤルストレートフラッシュと言われるほどの度し難い人物だが、いざ世界の危機が迫ればその天才と言える戦闘技術をもって活躍するライブラの戦闘員である。
意外にも人情家な一面を持ち、こっちに来た最初の頃は僕を守ってくれたり、弟弟子が襲われたら報復しに行ったりと、屑ではあるけど悪い人ではない………と思う。
「あれも酷かったですが僕としては、クラマサ憑依者の中に追跡中のアンガークラウン・ジャックがいたうえに自分で作ったミニニューク爆弾で勝手に爆死してたことに困惑しますよ……」
「あんなんどうでもいいだろ。調査の必要はあるが追っている案件が一つ減ったかもしれないなら儲けもんだ」
「二人ともー。いいから離脱しましょうよ。腹も減りましたしツェッドさんと合流してどこかでメシ食いましょーメシー」
ふと時計を見れば時刻は朝の4時すぎ。そういえば昨日の昼時から始まったんだなと思い出す。突発的長時間戦闘は何度もしたことはあるし、空腹のまま21時間戦闘なんかもしたことがある以上あの時と比べたらまだマシだが、それでも慣れるものじゃない、今も空腹でフラフラだ。
「だな。とっとと飯食って寝てえわ」
「僕も何かお腹に収めたいよ…」
そんなやり取りをしながら現場から離脱。ツェッド君―――僕の弟弟子―――と合流しに向かおう。
そう思い歩き出して、ふと周囲に目を向けて、呟いた。
「そういえば、ここに来るのも久しぶりだな……」
「?ああ。そういえばそうだな。そこの路地裏あたりだったか?」
「え?二人とも何の話してるの?」
僕の呟きを拾い少し考えてああなるほどなと納得するザップさん。レオさんは置いてけぼりをくらっているが、まあこれはまだ話してなかったからしょうがないことだ。
「レオさんは当事者じゃないから知らないですよね。ほら、知っての通り僕って別の世界の人間じゃないですか?」
「見た目は僕達と変わらないし、たまに忘れたりするけどそうなんだよね?それがどうしたの?」
「―――僕が最初にこの世界に落とされた場所がこの辺りだったんだ」
改めて自己紹介を。
僕の名前は緑谷出久、19歳。4年半前までは別の世界にいた一人の"無個性"少年。今は元の世界に戻る方法を探しながら世界の均衡を守るため戦い続けるライブラの一員である。