My Hero Battlefront ~血闘師緑谷出久~ 作:もっぴー☆
やっとヒロアカ世界に帰還です。ご都合展開がバカスカ増えるかもしれませし話ガラっと変わって風邪ひかないか心配ですが生暖かい目で見てやってください。
内臓が裏表ひっくり返るような感覚に襲われ、不快な浮遊感に身体が引っ張られることしばらく。徐々に不快感がなくなり足が地に着く感覚を受け取った僕はゆっくりと瞼を開ける。
目の前に広がったのは霧に覆われた
H・Lのようなごった返した混沌の様相もなく、開発が半端に進んだ日本の街並みだった。
記憶に残る商店街、近くの看板には『田等院』と日本語で書かれていた住所標識があった。それを見た僕は確信する。
「帰って……きたんだ……」
この場所はよく覚えている。そこの本屋は帰りに寄ってオールマイト特集の雑誌を買ったりしていた。ここも覚えている。学校までの近道で遅刻しそうになる時はよく使っていた。普段はかっちゃんと会いやすいからって使わなかったっけ……。
遠くに見える高架もよく覚えている。あそこで僕はヘドロ
それらを一つ一つ確認していくにつれ実感していく。本来住むべき世界に僕は帰ってきたんだと。それと同時にあちらの世界とお別れをしたということも……。
寂しくないと言えば嘘になるしもう会えないかもしれないと思うと涙も出てくる。だけどちゃんとみんなに挨拶も出来たし、何よりこれを返す約束もある。
だからきっといつかまた会える。懐にあるライターを握りしめると、心は暖まり寂しさが薄れていく。
みんな、僕は大丈夫です。だからそちらで見守っていてください。僕が人々を、果ては世界も救うヒーローになるところを。
そうして僕は走り出す。母さんに会いに、帰るべき僕の家へ向かって。
BOOOOOOM!!!
「!!」
しかしその感情は突然の爆発音をもって片隅に追いやられた。気持ちはすぐさま切り替わり、爆発のした方角へと向けて走り出していく。たどり着いた場所は田等院商店街だった。入り口は人でごった返しており、写真や動画を撮る野次馬で溢れかえっていた。警察も引き留めるのに必死だ。
なにがあったのか、情報が必要だ。近くの人に話を聞いてみる。
「
「うぉっ!?な、なんだ?今の声兄ちゃんか?何て言ったんだ?」
「
「……あー、兄ちゃん悪いな。俺は英語はさっぱりなんだ。他に聞いてくれないか」
「……あっ」
しまった、さっきまで
「ご、ごめんなさい。えっと、これは一体なんの騒ぎですか?ガス爆発が連鎖的に起きてるわけでもなさそうですけど?」
「ああ、なんでも
そう言っておじさんは野次馬の中に戻っていった。
……向こうにいた時もそうだったが、自分の身に危険が振りかかるかもしれないこの状況下でよくあれだけ前に行けるな……。野次馬根性たくましいというか、どちらからといえば危機感がないのだろう。
あっちはあっちで頂上決戦や世界の危機を肴にやりたい放題していて酷かったが、こっちもこっちで質が悪い。なにせ死傷者が出れば居合わせた警察とヒーローにバッシングが向かうのだ。考えればおかしいのだがこっちではそれが当たり前になってしまっている以上どうすることも出来ない。それこそすべての人の認識が変わるような何かが必要だ。
しかし爆発の個性を使う少年が人質に……?なにか嫌な予感がする。僕は人混みを掻き分けて進んでいった。
徐々に視界が開いていきその先にいたのは、かつて僕を乗っ取ろうとしたヘドロ
だがその驚きも人質を見てそちらに目が行く。
「かっちゃん!?」
嫌な予感は当たった。人質になっていた少年は僕の幼馴染みのかっちゃん……爆豪勝己だった。
ヘドロに捕まり飲み込まれているが、乗っ取られてたまるかと必死に抗っている。確かあの
すごい精神力だ。かつての僕なら、すでにその身は乗っ取られ悪用されていただろうに。
だけどかっちゃんも人間だ。体力が無限じゃない以上、どれだけ抗おうとも限界が来る。少しずつその身がヘドロに飲まれていっているのがわかる。
ヒーローは何をしているんだ?動きが早い人は
耳を傾ける。ここまで入れない、相性が悪すぎる、手が離せない、人質が厄介、などなど。様々な要因が重なってしまい攻めあぐねているのか。
不甲斐ないぞと、そう思う反面気持ちもわかる。ここにいるヒーローにあの攻撃と爆破に耐え続けれるヒーローはデステゴロと、後は巨人の女性……確かマウント・レディだったか?くらいだろうか。しかし彼らはヘドロをどうにかする手段を持っていない。なにより人質を傷つけず救出しなくちゃいけないという三重苦だ。下手に手を出せる状態じゃない、イチかバチかでやろうものなら二次被害が待っている。
それなら相性のいいヒーローの到着を待つのは最善だろう。もちろん一刻も早く救ってやりたい気持ちも本物だ。デステゴロなんてなにも出来ない悔しさから手から血が出ないか心配になるほど握りしめている。だけど手段がない以上危険を冒すメリットがないのも仕方がない。
だけど―――救けを求める顔を見て―――
「―――何もしない方がもっと辛いよ」
そう呟いて僕は
「!?なにやってんだ馬鹿野郎!!止まれー!!」
後ろからヒーローが叫んでいる。そりゃそうだ、ヒーローでもない市民が突然
なにより僕は見たんだ。普段の傲岸不遜が鳴りを潜め、ただ救けを求めているかっちゃんの悲痛の顔を。
あの顔を見てなんとも思わない奴はヒーローじゃない。
「なんだあのガキ?まあいい、爆死しな!」
ヘドロ
薙いで来る腕を屈み回避する。遅い。この程度の攻撃、視認してから動く余裕すらある。せめてライフル弾の早さになってから出直してこい。
「ちっ、まぐれ避けしやがったか。これならどうだ!」
今度はヘドロを分離させて飛ばしてくる。それだけなら大して問題ないだろうが、あの自信からしてヘドロひとつひとつに何か仕込んでるのだろうか。
……でもそんなことよりあいつ今何て言った?あの回避がまぐれだって?
ふざけるんじゃない。師匠との地獄の日々で培った力をまぐれなんて言葉で終わらせれる程優しくないんだぞ。斗流をなめるな
さらに早く走り、散弾のごとく飛んでくるヘドロの中へ向かっていく。ニヤついているところ悪いけど、残念ながら全部避けさせてもらっている。
ある時は身体を揺らしすり抜け、ある時は壁を走り、ある時は飛び越え回避する。一部はヒーローや野次馬に向かって飛んで行ったが、それらは石を拾い投げつけて潰していく。すると飛び散ったヘドロから爆破が起きた。なるほど、かっちゃんの個性を組み込んだヘドロ爆弾か。こりゃ厄介だ。当たればだが。
さすがにここまでされて向こうもまぐれじゃないと気付いたようだ。目を見開いて唖然としている。……駆けつけてくるヒーロー達からも似た気配がするが気にしない。
だけど動きが止まり隙を晒しているのはありがたい。その間に僕はヘドロ
「がはっ……、テメェ、デク……なの、か……!」
「久しぶりかっちゃん!元気……じゃないね。今助けるから待ってて!」
先ほどの散弾で口周りのヘドロが減ったのか喋る余裕が出来たかっちゃんが声をあげる。久しぶりに聞いたなかっちゃんの声、なんて呑気に考えていたらかっちゃんが叫びだした。
「やめ、やがれ!テメェの手なんざ、死んでも、借りねぇッ!」
「嫌だね!殺してでも手を貸すよ!」
「ふ、ざけんな!なんで、んなことしやがる!」
「だって君が救けを求める顔をしてたから!!」
「……ッ!!?」
理由を即答するや口をパクパクさせて硬直するかっちゃん。これは落ち着いてから怒鳴り散らされるコースだな。覚悟しておこう。
肉薄した僕に対しヘドロ
「ちぃっ油断した!テメェもヒーローだったか!?だが残念だったな!俺の身体は流動体、掴むことなぞ出来ねえし、なにより攻撃しようものなら人質が先に傷つくぜ!」
「あ、たったそれだけか。ちょっと安心したよ」
「は?」
自分の鉄壁の防御に対し、楽勝と捉えられる返事を返され呆気に取られるヘドロ
確かに掴めないし人質がいるというのは大変難儀だ。だが言ってしまえば難儀止まりだ。
救助をトリガーとした空間断裂トラップでもなく人質を生け贄とした食人蟲召喚トラップでもなくゴーレムが擬態した人質でもない、ただの人質なんて優しいものだ。それに、ヘドロくらいなら血法でどうにでもなる。ちょっと我慢と覚悟しといてねかっちゃん。
指輪の針を使い血を伸ばすように出す。それをかっちゃんに向けて放ち身体に付着させた。僕の指から血糸が出たことにかっちゃんが驚いているが説明は後だ。
付着した血はかっちゃんを包むように膜が張られていく。ヘドロのないところはもちろん、ヘドロのあるところも至っては邪魔だと言わんばかりに押しのけ剥がれ落ちていく。
「ま、纏っていたヘドロが!?テメエ何やってんだ!その個性を解除しやがれ!」
人質からヘドロが剥がされいくのを見てどうなるのか察したヘドロ
ヘドロがどんどん剥がされ、なんとか取り込もうと躍起になって張り付こうとするが血の薄膜はそれをを通すことはない。
そうして
こうなったら後は簡単。血の結界に包まれた状態でかっちゃんをヘドロの中心地から救うだけだ。
「ふ、ふざけんなクソガキィッ!せっかくの大当たり個性だったってのによぉ!畜生!こうなったらテメエの身体を乗っ取ってやるぁ!!」
どうやっても取り込めないとみるや
こっちはあの世界の危機の中心地で、数多の魔導生物、科学兵器、
速さは大事だ。ザップさんがこいつと戦えば初撃を避ける前に焼き殺すことも出来るし、クラウスさんはそんなザップさんを何度も殴ってノックアウトさせることも出来る。
少し話が逸れた。まあつまり何が言いたいかというと……。
「
この程度の速度なら相手の攻撃の合間に、かっちゃんを救い出すことも出来る。
「
指先から血糸を吐き出しかっちゃんを血界と繋ぎ合わせる。
「かっちゃん!気をしっかり持ってね!ヒーローのみなさーん、お願いしまーすっ!」
「あ"っ!?」
「「「えっ?」」」
そうして全身の筋肉を使ってかっちゃんを引っ張り、
「キャッチ&リリ―――ス!!!」
ぶん投げた。
「ハアアアアアアアアア!!?」
「「「ええええええええっっ!!?」」」
予想外の展開にかっちゃんと追ってきていたヒーローたちが盛大に叫ぶ。かっちゃんが宙を舞い、高度を上げ商店街の上空を舞った。あ、加減ミスったかな。このままじゃそのまま落下してしまう。
「おいマウント・レディ!キャッチ頼む!!」
「ちょ、私ッ!?」
デステゴロがすぐさま指示し巨大化したマウント・レディが救助に走る。突然の展開に慌てたがうまく胸部に落下したところを抑え込んで救助に成功。マウント・レディが慌てて「人質確保ー!」と叫ぶと歓声が上がりシャッター音が鳴り響く。
やったねかっちゃん、ラッキースケベだよ。こういうの好きじゃなさそうだけど。
確保を見届けた僕はすぐさま周囲を見回す。よし、周囲に人影なし、いるのは
「よそ見してんじゃねえぞクソガキャアアアアア!!!」
かっちゃんという依り代兼人質を失ったことに怒り狂ったヘドロ
「
「……情けない……!」
血法を使おうとしたその時、急に腕を掴まれた。別の
「……全くもって、自分が情けない……!あの日、君を諭しておいて己がそれを実践せず、あまつさえ諭した君にその身をもって教えられるなんて……!」
そこにはかつて僕が憧れたヒーローが、
「プロはいつだって命懸け!!!!!!」
その剛腕を振り上げ、
「D E T R O I T S M A S H !!!!!!」
盛大に振り下ろし、
「もぽえ―――ッ!?」
「あば―――ッ!?」
ブオオオオッ!!!!と、上昇気流を発生させるほどの風圧を間近で受けるのだった。
……ライブラのみんな、ひとつ新たにわかったことがあります。
オールマイトの一撃は、下手すればデルドロさん以上です。
◆◆◆◆◆
「この度は騒がせるだけじゃ飽き足らずヒーローの立場を奪うようなことをして申し訳ありませんでした」
「あ、ああ。そこまで反省しているなら我からはもう言うことはない。だが人質の救出に成功、オールマイトのおかげで事件も解決したとはいえ、もしも君に何かあったら親御さんがとても悲しむことを忘れるんじゃないぞ」
「それに関しましてはぐうの音も出ません。ただヒーロー活動出来て満足もしてます」
「君、実は反省してないだろ!?」
オールマイトが到着後、すさまじい風圧によってヘドロ
僕に関しては無茶な救出と無断個性使用(血法の事を言ってるようだ)によりどうするべきか話されたが、オールマイトの擁護もありデステゴロやシンリンカムイ、バックドラフトにマウント・レディといったヒーロー達に囲まれて正座で厳重注意という名の説教と相成った。マウント・レディの圧が他より強い……。
ちなみにオールマイトは参加してない。急くように去っていったところを見ると時間制限が危なかったのかな?
そういうわけでヒーローに怒られている僕だけど、ヒーローコスチュームに身を包んだ人達に囲まれるとなんていうか……帰ってきたんだなって、実感する。
だけど説教を受けてばかりでは話が進まない。今は情報も欲しいしちょうどいいからヒーローに聞いてみる。
「すみません、一つお聞きしたいんですが……今日って何月何日ですか?」
「なにを言ってんだ坊主、9月の10日だろ。オールマイトの風圧をモロに受けて混乱しちまったか?」
「……Oh」
僕の欲しかった情報の一つ、今の時間軸がわかった。
かっちゃんが中学の制服のままだったから予感はしていたがそうか、僕が向こうにいた四年半は、こっちでは半年程度だったのか……。その事を知った僕は、半年両親を心配させた申し訳なさと、兄弟子との約束を果たすのが難しい残念な気持ちと、まだこちらの日常を十分にやり直せる喜びを感じた。
それにしても半年か……あれ?それじゃああのヘドロ
「あいつか?なんでも半年前オールマイトに捕まったらしいんだが今日の移監中に護送車が
「……Oh……!」
……なんとも運の悪い話だ。それで偶然いたかっちゃんが捕まってしまうとか今日のかっちゃんは厄日か?
僕としてはそのおかげであの日のリベンジが出来たんだけど素直に喜べず、そうこうしているうちに説教が再開した。
「すごいタフネスだったよ!それにその個性も素晴らしい!プロになったら是非……ってあれ?キミ、何処に行くんだい!」
ふと、ヒーローの説教が止む。どうしたかと思うがその前に後ろの方で誰かが向かってくる気配がして振り向いた。
「……おいこら、クソデク……」
振り向いた先にはかっちゃんがいた。正座している僕を怒ってるような、呆れてるような、……心配してるような複雑な表情で見下ろしている。
改めて久しぶりだと告げようとして
「てめえ今まで何処に行ってやがったんだクソがぁっ!おばさんに連絡くらい入れろやッ!!」
盛大に怒鳴られた。帰ってから怒られてばっかだな僕……。
「はは……えっと、かっちゃん、さっきはゴメン。出すぎた真似しちゃったかな。かっちゃんならなんとかなったかもしれないけど僕も身体が勝手に、ね?ほら助かって結果オーライだしいいよね!うん、一件落着!よかったよか………………ごめんなさいかっちゃん。さすがに無言で睨むのは気まずいんでせめて一言なにか頂けないでしょうか……。今度ご飯でも奢るから」
記憶の中でも決して見ることのない無言で見つめてくるかっちゃんがあまりにも恐ろしく、最終的にへりくだって謝ってしまう。
かっちゃんが思いっきりため息を吐き出した。め、滅茶苦茶呆れられてる……?
「…………心配させるなやクソが」
「…………えっ?」
え??
え?????
待って?今かっちゃんが僕を心配した?
あのかっちゃんが?独尊と書いて俺と呼ぶかっちゃんが僕を?
「………………もしかして偽物?」
「本物だボケッ!!てめえ今のさっきで冗談に聞こえねえこと言うなや!!!」
あ、よかったいつものかっちゃんだ。
思いっきり目をつり上げそう吐き捨てると、背を向け足早と去っていく。
……多分、今はなんの声をかけても逆効果だろうけどこれだけは言っておきたい。
「かっちゃん!」
「あ゙あ゙っ!?」
「ただいま!」
「…………けっ」
毒気が抜かれたのか舌打ちだけして去っていった。それを僕は見送りヒーローに向き直る。
居住まいを正し改めて説教を受ける準備をして―――ぐううううううとお腹が鳴った。
「……すみません。先にご飯食べさせてもらっていいでしょうか?実は16時間ほど何も食べてなくて」
居合わせたヒーロー全員からも呆れのため息を吐かれた。
その後僕が行方不明者だったことが警察に確認され保護されたのは、間もなくだった。
というわけで帰還してからのチュートリアルもといヘドロ
【誤字報告】
wttさん。クオーレっとさん。はいせさん。zzzzさん。百面相さん。梟亭さん。
誤字報告ありがとうございました。