My Hero Battlefront ~血闘師緑谷出久~ 作:もっぴー☆
嬉しいことにこの作品のUAが10万突破いたしました。見てくださっている皆様本当にありがとうございます。ちょっと更新が遅れてきてますがチマチマ頑張っていきますんでよろしくお願いします。
俺には嫌いな奴がいる。
緑谷出久。認めたくないが俺の幼馴染で、昔から何もできない雑魚で泣き虫、そのうえ無個性。デクなんてあだ名がふさわしい奴だった。
あいつはずっと、ヒーローになるなんて身の丈に全く合わねえ夢を見ていやがる。
無個性なんてこの超人社会じゃ欠陥を持った出来損ないの人間。ただの石ッコロ。モブの代名詞だ。そんなお前がヒーローなんて無理だ。あいつもそのうち気づいていつか諦めるだろう、そう思っていた。
だというのにあいつは中学三年になってもヒーローになるのを諦めてなかった。
その日は進路の話があり俺は雄英へと進学、オールマイトをも超えるトップヒーローと成り高額納税者ランキングに名を刻むと高らかに宣言した。これに対し周りがざわつく。それもそうだ、雄英の、特にヒーロー科は偏差値79、倍率も300倍という桁外れの超難関、選ばれた者がくぐれる狭き門。だが俺はそんな雄英の模試をA判定。さらに俺の爆破の個性も合わさればもはや入学は出来たも同然だ。
……そしたらどうだ?デクの野郎も雄英を、それもヒーロー科を受けるだと?ふざけるな。俺の描く将来設計を邪魔するんじゃねえクソナードが!!
あいつは昔からそうだ。ガキの頃から俺の後ろを金魚のフンみてえについて回って、そのくせ弱っちいのに俺が何かをやっちまうたびに心配して寄ってくる。不愉快で気色悪くて、不気味以外のなにものでもなかった。俺をそんな顔で見るんじゃねえ。そんな苛立ちが積もっていた。
だから俺は未だ現実を見ないアイツの心を折るためにいつものように脅した。ワンチャンダイブなんて心ねえことも言った。しかしそれくらい言わねえと心を折ることは出来ない。それにデクにそんな大それたこと出来るわけねえと、ある種の信頼に似たものもあった。
それでも諦めねえならまた脅せばいい。俺の輝かしい未来はこの平凡な中学から初の、唯一の雄英進学者っつー箔をつけるところから始まるんだからな!
だからお前らタバコ吸うんじゃねえ、俺の内申にまで響くだろうが!もう二人の幼馴染とそんなやり取りをしながら俺は下校した。
そして翌日、あいつは学校へ来なかった。最初は単純に休んでるか、不登校になったか。すぐにどうでもいいと興味をなくした。
……だがさらに翌日。ホームルームで先公からクラスの全員に告げられた。
―――緑谷が行方不明になった―――と。
一昨日の夜、デクの親御さんから警察へ捜索願が出たらしい。
夜中になっても帰ってこない。電話をかけても電波が通じないと。これを聞き、警察も捜索に出るが影も形も見つからず、索敵系の個性をもつヒーローや警察が投入され、折寺周辺を懸命に捜索するも見つからない。
誰か何か知らないかと先公がみんなに訪ねるが誰もが知らないと答える。みんなも何かわかったら知らせるようにと告げ、ホームルームは終わった。
俺は困惑した。あいつが消えた?何故?
誘拐された?ありえねえ、あいつの家はありふれた一般家庭だ。メリットが少ない。個性誘拐にしてもあいつは無個性だ、そっちも絶対ない。
じゃあ家出?あいつがそんな大それたことを?だが街中にいないとなると外だが駅やタクシーといったものを使わないと遠くに行けない。徒歩で行くにしてもあいつの貧相な身体じゃそれも厳しい。なにより情報がなさすぎる。人目についててもおかしくないだろ。
個性による長距離移動?テレポートとかそういう個性ならなくはないが、それだったらそれでなにか情報があるはずだ。
そんな疑問が巡り、その日は授業もよく頭に入らなかった。
翌日、デクのノートが見つかった。田等院商店街の近くで発見された、焼け焦げたノート。俺があの時爆破したノートだった。
そのことから俺と何かあったのじゃないかと先公から話があった。だがあいつがいなくなったことに俺は関係ねえ。これも現実を見ないあいつに現実を教えるために折檻がてら爆破しただけだ。強いて言えば来世は個性を手に入ると信じてワンチャンダイブとか言ったくら……い……。
そこまで考えて俺は身体中から血の気が引いていくのを感じた。
あいつ、もしかしてマジで……?
そこから先はあまり覚えてねえ。先公に何も知らねえと言って出てったのと、デクのノートにでかでかとオールマイトのサインが書かれていたのだけはまだなんとか覚えていた。
数日して、聞き込みで情報が入った。なんでも田等院商店街の近くの通りで一人歩いてるのを見たという。だがその顔は傍目から見てもわかるほど沈んでおり目には涙が溜まり、まるで心を折られたような虚ろな顔をしていたらしい。
それを聞いて俺はオールマイトのサインを思い出した。デクがいなくなった日、確か折寺市にオールマイトが来ていてヘドロの
あいつはその時オールマイトに出会ってた……?そしてその時何かあってあいつは心を折ったってことか……?
……そこまで考えて俺の中で一つの仮説が出来た。
あの日、俺に散々な目にあったあいつは帰り道に
おい待てよ
……この仮説がもし当たっちまってたら……
俺の言葉があいつを
ころし ちまったような
もん じゃ
……気付いた時には、既に家の前にいた。
思考もあやふやのまま家に入るとお袋が出かけようとしていたところだった。
「あ、おかえり勝己。ちょうどよかった。これから引子さんのところに行ってくるから留守番お願いね」
「……おう」
お袋は引子おばさん―――デクのお袋―――のところに頻繁に出かけている。俺たちはともかく、お袋はおばさんと仲が良く、デクがいなくなる前まではよく一緒に遊びに行ったりしてるのは知っていた。
今は朝から晩までずっと捜索に出ているおばさんを支えるために出来ることをしているらしい。
そうしてお袋が出ていこうとした時だった。
「……おいババア」
「そのババアって言うのやめなさい!それで何?」
「……俺もついていっていいか?」
◆◆◆◆◆
ピンポーン
「はーい……あら、光己さんこんにちは。いつも悪いですね、家の手伝いをしてもらっちゃって、大変でしょうに。……それに勝己君も、こんにちは」
「こんにちは引子さん。これぐらいいいですよ、一番辛いのは引子さんなのですから」
「……っす」
お袋がデクの家に行くと聞いて、何故かついてきてしまった。
自分でもなんでついていくなんて言ったのかわからねえ。だけど行かなきゃいけねえ気がした。
久々に見た引子おばさんは少しやつれていた。愛する息子がいなくなったってのは、どれほどの衝撃かわからねえが、俺でもあのバカがいなくなったことでかなり動揺しているんだ、相当なもんなんだろう。
ろくに寝れてないのか目の下には隈も酷い。近くにあったプリンターからは印刷の音が聞こえる。
見るとデクの顔写真の入ったチラシが出てきていた。明日以降配る分なのだろう。一枚抜き取り、眺める。……あのバカどこでなにしてやがるんだクソ。
「勝己ー、私は引子さんの夕飯作るから、あんたは出久君の部屋の掃除お願いしていい?」
ウゲッ、と一瞬顔をしかめそうになるが、おばさんのいる手前必死に取り繕う。
……自分より同年代の奴が掃除する方がいいだろうなんて考えてるんだろうけど、なんであいつの事で動揺しちまってるこのタイミングで、厄介なこと押し付けてくるんだこのババア……!
つっても自分からついてきちまった以上文句も言えず、仕方なくあいつの部屋に行った。
部屋に入って最初に目についたのはオールマイトのポスターだった。そして次にオールマイトのフィギュア、オールマイトの本、オールマイト、オールマイト……。
あいつがクソナードなのは承知だったがなんだこりゃ!?どこ見てもオールマイトだらけで目が疲れてきやがる……!
オールマイトは嫌いじゃねえ、むしろあいつが勝つ姿に憧れた身としては好きだ。……だがこれはさすがにキツイ。グッズは集めねえ俺にとっては、本当に人の住む場所なのか疑ってしまう。
どうにか目を慣らすべくマシなところを探し……デクの机と、机棚に並ぶ分析ノートが目に入った。
ひとつ取ってノートをめくる。そこにはトップから新人ヒーローまで幅広く分析されていた。中には一理あると思ってしまう内容まで書かれていた。チッ……デクの分析に納得してしまうなんて。
そうやって捲っていくと俺まで分析されていた。勝手に分析しやがってクソが。見つかったら一発殴ってやる……!
しかも「右の大振りに甘える癖がある」だあ?甘えてねえわッ!!しかも個性のデメリットまで分析しやがって……。所々当たっているのもあるのが余計腹立たしい!
チラッと見るだけだったのがヒートアップして読んでしまっていた時だった。
「それね、出久がずっと書いていたのよ」
後ろからおばさんが喋りかけてきた。相槌を打とうとした俺はおばさんに向き直り……微笑んでいるはずなのに、哀しそうなおばさんの目に背筋が冷たくなった。
「……勝己君。私ね、あの子が、無個性って診断された日に言われたのよ……「超カッコイイヒーローに、僕もなれるかな?」って、……私はあの時、なれるって言ってあげれなかったわ……」
「……」
「思えばあの時、私は間違った選択をしてしまったって今でも後悔しているわ……でも出久は諦めたくないって、ずっとそれを書き続けていて、いつかヒーローになった時に、役立たせるためにって……。
でも頑張るあの子を私たちは無理だと、誰一人なれると言ってあげられなかった……」
「……っす」
「出久ね、昔からよくいじめられては泣いて帰ってきたりしたのよ。アザを作って帰ってくることもあれば、目に見えて落ち込んで帰ってきたり。私が心配する度にあの子は、心配しないで母さん、かっちゃん達もいるから平気だよ。って笑顔で返してくれたわ。……今ではその笑顔を思い出す度に痛々しく思えてしまって、とても辛いわ……。
どうして相談してくれないのって、なんでいじめてくる子をかばうのって、ずっと思ったわ」
「……俺は、その……」
淡々とおばさんの口から聞こえてくるのは、まるで懺悔のような言葉だった。こんなことを話されることなんて今までなかった俺としては、正直、なんて言えばいいかわからない。
ていうかアイツなんてこと言ってやがるんだ……。俺らがいるから大丈夫って、そもそも俺たちがお前の―――
「だからね、最初知ったとき驚いて気絶しそうになったわ……
勝己君が苛めの首謀者だって」
「―――――――――!!」
「ねえ勝己君、あなたの口から聞かせて……。あなたがいじめの首謀者って本当?」
その言葉に、身体が凍ったように動かなくなって、考えていたことも全て吹き飛んだ。
なんでそのことが?いや、大事になってるこの状況だ。遅かれ早かれバレてただろう。だからってなんで、こんな時に?
いや、こんな時だからだろう。いじめの元凶が目の前にいるのだ。言いたいことを言うなら今がいい機会だ。
なにも言わない俺を見て察したのか、おばさんは俺に向かって歩きだした。
「……勝己君。私に貴方を責める資格はないわ。さっきも言った通り、私も出久には酷いことをしてきたって自覚しているから」
一歩、一歩とこちらに向かってくる。それにつられてこちらも一歩、また一歩と下がる。
「それに勝己君が息子をいじめていたのが事実でも、それが原因で失踪したなんて確証なんてないわ……」
一歩下がる度に呼吸が苦しくなる、汗も止まらない。動悸も激しくなってくる。
「頭ではそうわかってる……わかってるのよ……。でも心は、心はどうしても駄目……抑えれない……!どうしても息子をずっと苛めていたあなたが原因と思わずにはいられない……!」
ドンッと、背中が壁に当たる。そうして部屋の端に追い詰められた俺の胸ぐらを、おばさんは弱々しく掴み、涙ながらに叫んだ。
「ねえ……勝己君!どうして!?どうして苛めなんてしたの!?私の息子があなたに何かしたの!?あの子は、あの子はずっとあなたのことを構ってくれる友達だって……!本当に凄い奴なんだって……!とても優しい目で、そう言ってくれてたのよ!?」
デクと同じように身体を震わし、泣きながら叫ぶおばさんの顔を見て、体温が失っていく不快感に襲われた。イラつくわけじゃない。ただ腹のそこから気分が悪くなってくる。
「あの子を支えてあげてほしかったわけじゃない……!でも……苛めるくらいなら、関わらずにそっとしてあげてほしかった!」
おばさんが叫ぶ度に吐き気が襲ってくる。なんなんだこれは?俺はこんなの知らねえ……。
「ねえ!なんであの子は帰ってこないの!?勝己君ならわからない!?幼馴染でしょ!?苛めていたんでしょ!?私たちの知らないような、秘密の、場所とか……!隠れて、いじめられ、る、ば……しょ……ど、が……!」
最後は嗚咽混じりで聞き取るのも難しかった。
何か知らないのか聞いてくるおばさんに、俺は何も言えなかった。言い訳も、謝罪も、開き直ることも、何も。
「ぅ、あ……あ"あ"あ"ぁぁぁぁぁ……!」
「大丈夫引子さん!?引子さん!」
おばさんの叫び声と泣き声を聞いたのか、ドタドタとお袋が部屋に入ってきてなだめる。子供のように泣きじゃくるおばさんを前に、俺は何も考えられなかった。
「勝己、悪いけどあんたは先に帰ってなさい。引子さんもあんたを見て出久君を思い出して取り乱したんだと思うから、今は視界に入れない方がいいわ」
お袋がそう言ってなだめに戻る。俺は言う通りに帰った。
だけど帰る間、ずっと嗚咽が、悲鳴のような泣き声が、耳から離れなかった。
休むことなく走るように帰った。家についても着替えることもなくベッドに潜り込み布団にくるまった。
もう春も半ばだというのに寒い。カチカチ震えてくる。
怖い、なんだこれは?俺は何をしていたんだ?
デクの奴をいじめて、ワンチャンダイブなんて脅したりもして、そしたらいきなりいなくなって、結果おばさんを泣かせてしまって。
おい、なんだよこれ?これがヒーロー目指すやつがやることか?
こんなのまるで―――
そこまで考えてようやく、この震えと恐怖がわかった。
これは後悔だ。今までしたことのなかったそれが今、初めて俺の身体に、心に、最も最悪な形でのし掛かってきた。
それを知ってしまった俺はその日、一晩中震え続けて、
そんで吐いた。
◆◆◆◆◆
おばさんは俺がデクを苛めていたことをお袋に話していなかった。言ったところでデクが戻ってくるわけでもないからか、自分には責める資格がないからか、どちらにしろ俺はおばさんに裁かれることなく見逃された。
翌日から俺もデクを探すようになった。罪滅ぼしのため、といえば聞こえはいいだろうが、免罪符が欲しかっただけなのかもしれねえ。
おばさんとは気まずくて直接顔を合わせることも出来ず、お袋に頼んでチラシを分けてもらったりした。
平日は放課後にチラシを配り聞き込みをし、休みの日は遠出して情報を集める。たまに情報が入るが、全てが外れるか、酷いときはイタズラだったりもした。
無論ヒーローを目指すのもまだ諦めていないから特訓もする。どの面下げてヒーローぶるのか、なんて思うがヒーローになれば専用のネットワークで情報も集められる。あいつを見つける近道にもなるかもしれねえ。
だがそれでも捜索と特訓を毎日やるというのは大変だ。実際にオーバーワークだと親に心配された。
夜もあまり眠れず、疲労が抜けねえ。引子おばさんのところに行ってからというもの、浅い眠りにしかつけず、頻繁に同じ夢を……あいつが目の前で飛び降りる夢を見るようになってから余計眠れない日が続いた。
それでも、足元が覚束なくとも、誰の手も借りず特訓と捜索を続けた。
あいつがいなくなって半年すぎた。どれだけ探しても影も形も捉えれずにいる。目の下の隈を酷くしながらデクを探す俺を
その日は初心に戻って商店街を中心に探していた。そうしているとダチの二人がやってきて、もう探すのをやめるよう頼んできた。
「もう見ていられねえよ」「お前は十分すぎるほど頑張った」「お前まで倒れられたら俺たちが辛いよ」そんな言葉を投げ掛けてくる。
こいつらが心配してくれてるのはわかってる。だけど意固地になってる俺は疲れをごまかすように両手を爆破しながら二人にほっとけと威嚇した。
それが俺の反応を遅らせることになった。
「良い個性の……隠れ蓑!」
「なっ……!?」
反応の遅れた俺は、ヘドロの
普段ならこんなドブ野郎に捕まるヘマはしねえが、疲労とダチへの威嚇で油断してしまっていた。
そしてそこから起きたのは、俺の個性を使った破壊活動だった。
息が徐々に出来なくなる恐怖は、俺の個性が悪用された瞬間どうでもよくなってしまった。
(おい、なにやってんだよ……!?ふざけんな!俺の個性で暴れるんじゃねえ!)
BOOOM!とヘドロで巨大化した腕が振り回され、その都度周囲に爆発が起きる。ダチの二人もそれに巻き込まれてしまう。
(今何したんだよてめえ!?俺の個性でダチを傷つけるな!?)
怪我を負って気絶するダチを見て肝が冷えていく。まさか死んでねえよな、生きてるよな!?と生きてることを祈り、だがドブ野郎の乗っ取りの影響か意識が朦朧としだしす。
(クソッ!意識が……身体も、思うように動かねえ……!)
そこでようやく通報を受けたヒーローがやってきた。だがそれと同時に大勢の野次馬共も集まってきた。
(!?ふざけるな!散れよモブ共!この惨状が見えねえのか!?)
建物の損壊もそうだが爆破の影響であちこち火災が発生している。だというのにどいつもこいつも怖がることなくヒーローを、
(やめろ!撮るな、撮るんじゃねえ!こんなみっともねえ姿、撮るんじゃねえ……!)
しかしその思いも伝わることはなかった。口の周りはドブ野郎のヘドロで塞がれていて息苦しく、声を出すことも出来ない。
ヒーローも相性が悪く、攻めあぐねているせいで救出が遅れている。そしてその間にも俺は、身体を奪われる恐怖と、そんな俺を見て笑って撮影するギャラリーに辱めを受け続けた。
(……やめろよ。やめてくれよ……!こっちは身体を奪われそうになって、ヒーローも近づけねえで俺に頑張ってもらうなんて日和って……、モブ共も笑って写真や動画撮られて晒し物にされて……なあ、これも罰だってのかよ……!?これだけ惨めな目にあってもまだ足りないってのか?)
必死で耐えてはいるが意識も混濁してきてしまい、抵抗する力ももうほとんどねえ……。
後少ししたら俺はこのドブ野郎に身体を乗っ取られちまって、本当に
(なあ、神様よう……もしいるってんならよう、デク……出久の野郎に謝るからよう……もう許してくれよ……)
いや、神様じゃなくてもいい……誰でもいい……。
「誰か救けてくれよ……」
「!?なにやってんだ馬鹿野郎!!止まれー!!」
その時、現場が動いた。ヒーローの一人が叫ぶ。一体何があったのか、薄れ始めてた意識の中、目を必死に開く。
そうして俺の視界に捉えたの―――
(……デク!?)
瞬間、朦朧としていた意識が覚醒した。いなくなった幼馴染が、こちらに向かって走ってきていたのだ。
一瞬見つかったことに安堵したが、それ以上に危機感に呑まれていた。
あのバカなんで今ここにいるんだ。危険なこの状況で無個性のてめえが来てどうなる?どこかへ行け、死ぬぞテメエ!
伝えようとするべく必死に声を出そうともがいたが、それよりも早く腕が振り払われた。
まずい!このままじゃマジであいつが死ぬ!と、あいつを前にして初めて心から心配した気がする。だがその心配は杞憂に終わるのだった。
なんとアイツはドブ野郎の振り払いを避けたのだ。それも最低限の動作で迷いなく。
その回避を見て、アイツはあの攻撃が見えていたんだと理解した。ドブ野郎はまぐれだと言ってるが、んなわけねえ。
あれがどれだけ難しいかわからねえのだろう。技術もそうだが、当たれば吹き飛んで挽肉間違いなしの攻撃をギリギリで避けるなぞ相当な度胸があっても難しい。それこそプロヒーローでも気後れしてしまう。現に周囲を囲んでいたヒーロー共も近づけなかったのだ。
そしてそれは次の攻撃で顕著になった。散弾のようにメチャクチャに飛ばすヘドロを、あいつは全て避けていった。ドブ野郎も余裕がなくなり面積を増やしてヘドロをぶっ放すが、あいつはさも当たり前のように壁を走り飛び越え、しまいには野次馬共に向かって飛んでいく流れ弾を処理する余裕まで持ち合わせていた。
唖然とした。あいつは、行方不明になっていたこの半年の間に一体なにがあったんだ?
ヘドロを飛ばしすぎたのか口元が開き、呼吸する余裕が出来る。そうしてアイツはドブ野郎に肉薄し、まるで気の合うダチに会ったような喋りかけてきた。
「がはっ……!テメェ、デク……なの、か……!」
「久しぶりかっちゃん!元気……じゃないね。今助けるから待ってて!」
久しぶりに見たこいつの顔はいつもと変わらねえ顔をしているが、変わってなかったのはその目と声だけだった。
服の上からでもわかる鍛え抜かれた無駄のない肉体、恐れも逃げ出す強者特有の気配。本当にこいつはデクなのか?と疑問に思ってしまったが、幼馴染をしている手前、その目を見てこいつはマジモンのデクだというのをわかっちまった。
そしてこいつは俺に近づくや否や、なんの迷いもなく救出すると言ってきた。……いじめていた俺を。
ふざけるな、やめろ、俺のことはほっとけよ。お前からしたら目の上のこぶが
「だって君が、救けを求める顔をしてたから!!!」
「……ッ!!?」
微塵も躊躇せずデクはそう言ってきた。一瞬、癪だがこいつが本当にヒーローに見えてしまった。
そこからはあっという間の出来事だった。
体感10秒あったかどうか、あいつの個性で俺の身体に纏わりついていたヘドロをあっという間に剥がし、一瞬のうちに俺を確保、ヒーローに向けて投げ飛ばすなんて荒業で救出に成功しやがった。
その後何かやろうとしていたがオールマイトがやってきてクソ
その後ヒーローが俺を持て囃してきたが全く耳にはいらなかった。今はそれどころじゃない。ヒーローを無視してデクの奴に向かっていく。
俺は戦慄していた。アイツに個性が発現していたことに。
指先から赤い……あれは血か?を糸のように出していた。普通、個性の発現は4歳までに終わる。それ以降は発現した例はあるにはあるが非常に稀で、あっても5~6歳とわずかに遅れる程度だ。だというのにアイツは個性を使った。
最初は今まで騙していたのかと勘繰ったが、多分違うだろう。以前と雰囲気が変わりすぎている。あの身のこなしといい度胸といいこの半年、こいつはどこでどんな修羅場を潜って来たんだ……?
アイツは正座でヒーローに囲まれて説教されているが、あれはぜってえ反省してねえ。神経まで図太くなってやがる……。
俺がたどり着くやこちらに振りかえって久しぶり、と変わらねえ優しい目であっけらかんと話しかけてきやがった。
開口一番半年もいなくなっていたことを怒鳴ったら何故か微笑みやがった。俺は呆れるしかなかった。
デクが生きていた。
「……心配させてんじゃねえよクソが……」
だからこんな言葉が俺の口から勝手に出たのは、きっと何かの間違いだろう。
それから家に帰って、お袋にデクが無事見つかったことを言ったら、自分の事のように喜んだ。見つかって本当によかった。引子さんの思いが報われてよかったと、涙ながらに喜ぶ親を横目に自分の部屋に入る。
部屋に帰ってきたら一気に疲労が襲ってきた。俺はベッドに気絶するように倒れこんだ。デクが見つかったことで今まで張っていた緊張の糸が切れたんだろう。睡魔が一気に襲ってくる。
……ったく、デクの野郎、生きてるなら連絡のひとつくらいしてやれや。おばさん泣かせてんじゃねえぞクソが……。
……だけど、あのアホが生きて見つかって
本当に
―――ただいまかっちゃん!―――
「良かった……」
その日、俺は久しぶりに深いに眠りにつけた。
緑「
爆「
オ「仲いいね君たち」
引子さんのところ無茶苦茶筆が乗ったけど無茶苦茶胃と心が痛かった。
もー二度と引子さん泣かさん。(泣かないとは言ってない)
【誤字報告】
梟亭さん。 Skazka Priskazkaさん。
誤字報告ありがとうございました。