My Hero Battlefront ~血闘師緑谷出久~   作:もっぴー☆

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ヒロアカ最新刊が出たので嬉々として読んでうん、地獄!と口走ったから第十五話です。デステゴロェ……。


第15話:自分に優しくなるべきだ

 デクが帰ってきた。

 アイツの話によると、個性事故でニューヨークに飛ばされ、向こうのヒーローに拾われて修行を積んでいたらしい。だけど嘘だろう。矛盾点が多い。だがデクが帰ってきたことは、アイツの家族にとって喜ばしい事だ。そこは素直に祝福しよう。

 

 だけど、俺の心は晴れなかった。アイツがいなくなって心配したし、この半年必死に探し回ったのは確かだが、だからって俺がアイツを苛めていた事実は消えるわけじゃない。

 そう、俺はアイツを苛めていた。それも十年も、悪辣なまでに。

 当時のアイツは何も出来ない雑魚で泣き虫、そのうえ無個性だった。だが今は違う。アイツは個性を得て、そして強くなった。今の俺じゃ手出しできないくらいに。

 

 強くなったアイツは俺をどうするか、それが怖かった。今までやられた分をやり返してくるかもしれねえ。もしかしたらいつかの俺みてえに雄英に来るな、なんて脅してくるかもしんねえ。

 ……だがもしそうなるならそれでいい。それだけの酷いことをしたのは今となっては自覚している。

 確かに俺の苛めが原因で失踪したわけじゃない。だけどひとつボタンの掛け違いがあれば、アイツは本当に飛び降りていたかもしれねえ。

 だからアイツが復讐といって何かしてこようものなら、俺は甘んじて受けるつもりだった。

 

 ……だってのにアイツは何もしてこなかった。それだけならまだいい。アイツが話す価値もないと無視するなら、それはそれで惨めで、責められてると受け取れた。

 だがデクは俺に話しかけてきやがる。それも今まで以上に積極的に、いつもと変わらねえ優しい目で。

 やめろ、そんな目で見てくるな。一人でビクビクしている俺が馬鹿みてえじゃねえか……!なんで責めてこねえ、いじめてこねえ……!なんで……裁いてくれねえ……!

 そうしてもいいくらいの理由がお前にあるはずだろ!

 

 アイツが復学してから一週間。ガキのころのように構ってほしそうについてくるデクに嫌気がさしてきていた。

 なんでお前は俺にそこまで構うんだ?テメエを苛めていた奴だぞ?苛めてきても怖くないってか?だったらいっそここで喧嘩をふっかけてやろうか?そしたらお前も俺をボコれて満足だろ?

 ……だけど俺はそれを出来なかった。周囲の目に、あいつの目にビビっちまっていた。

 

 そうして鬱屈した気持ちが積もっていた時だった。親父がデクのボランティアを手伝ってることを本人の口から聞いた。

 何やってんだジジイと思えたが、聞けば海浜公園で一人遅くまで鍛錬をしてるらしい。つまりあいつに謝るにしても、二人で腹を割って話すにしてもちょうどいいと思えた。

 アイツはなんで俺にそこまで構うのか、俺のことをどう思ってるのか、それが聞きたかった俺は、走り込みと偽って会いに行った。

 

 見つけるの自体は簡単だった。掃き溜めのような海浜公園だったが、ある点を中心に掃除されていっているのが目に見えてわかる。

 そうして探しているとアイツを見つけて……目を疑った。

 アイツは宙を歩いていた。ゆっくり、ゆっくりと、手を前に突き出して歩いている。アイツの個性は血液操作じゃねえのか?もしかして複合個性か?などと疑問に思ったが近づいてみてようやく理解した。

 

 あいつは血で糸を作り、その上を歩いていた。だがそれも尋常じゃないことなのはすぐわかる。

 まず血の糸の細さだ。これが縄やワイヤーくらいの太さならすぐにわかったが、それはとてつもなく細かった。視認するまで時間がかかる程に。多分髪の毛くらいの細さを維持しているのだ。

 それだけならまだしも、コイツはそれの上に乗って歩いているのだ。しかも支柱らしい支柱はない。せいぜいスタートに結び付けてるドアノブくらいか?

 極めつけには長さだ。これほどの精度を維持しながら、コイツは地上絵でも描いているのかと言えるほどの長さを維持していた。

 ……つまりコイツは、集中力一つで血糸の細さ、長さ、硬さを維持しながらその上を歩いているということだ。

 

 悔しいが見惚れちまった。高度で、すげえと思っちまった。

 だがそう思っちまった自分にイラついてきて、腹いせにコイツの血の糸を弄った。集中力が切れたのかデクが血糸から落ちた。……何やってんだ俺は。勝手に嫉妬して勝手にイラついて、溜飲が下がるどころか、余計自分にイラついてしまう。

 それから腹を割って話そうとしたがうまく話が考え付かねえ。今更コイツに何を話す、どう切り出す。どうにかして謝りたいのにそのくせ自尊心が邪魔をして素直に謝れねえ。

 

なあ、俺は今、どれだけ弱くなっちまってんだろうな……?

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「……そんでおめえが楽しそうに俺に話すのをみて、余計イラついてきて、個性使いこなしてるの見てどうしたいか徐々にわかんなくなっちまって、もういっそ殴りかかって勢いで全部ぶちまけたほうがはええと思って、んで殴りかかった」

 

 「なんでそこまで頑張って脳筋な結論に到っちゃったのさかっちゃん!?」

 

 「うるせえ、これでも散々悩んだわ。とにかくこれがお前がいなかった半年の間の出来事だ。……これで満足か?」

 

 散々悩んで結局脳筋コースとか、クラウスさんやザップさんじゃないんだから……。いや、クラウスさんの場合最適な作戦を立てたうえで脳筋に走るから余計性質が悪いか?

 ひとまずかっちゃんの暴走の理由もわかってスッキリしたけれど、きっとそれで終わりというわけにはいかない。今の話とこれまでの内容を考えれば、かっちゃんに罰でも与えるべきなのだろう。実際かっちゃんもそうしないと納得いかなそうだし。本当面倒くさい拗れかたしたというかなんというか……。

 だけど、今の僕の本心は伝えなくちゃいけない。

 

 「かっちゃん。君が僕に罰を求めているのは今の話でわかった。だからそれを踏まえて言わせてもらうと……今まで通りのかっちゃんでいてくれたらそれでいいというのが答えだよ。まあ苛めるのはやめてほしいけどね、弄る分ならいいけど」

 

 「……今まで通りって、なんだそりゃ?なんで恨まねえんだよ、もっと色々あるだろ!ヒーローを諦めろとか、ずっと苛められる覚悟をしろとか!」

 

 「馬鹿じゃないのかっちゃん?」

 

 「あ゙あ゙っ!?」

 

 「いや凄んでも馬鹿じゃないの?としか言えないよかっちゃん。

 そりゃあ君のやることに何度も恨んだし、いつか見返してやるぞーって思ったことなんて一度や二度じゃないさ。

 ……でも僕はその気持ちと同じくらい、君に惹かれているんだ。

 子供の頃からどんな相手だろうと立ち向かう勇気に、ちょっと習えば何でもこなせるその才能に、なんだかんだみんなに慕われるその凄さにずっと、今でも。

 

 だってのに今の君はなんだよ、僕を前にウジウジと捻くれてビクビクして、そんなの僕の知ってるかっちゃんじゃない。

 僕の知ってるかっちゃんは、例え後悔に苛まれても、罪悪感に心が折られそうになっても、必死にそれらを飲み込み抱え、強さに変えて進む力を持っていたはずだ!」

 

 「……ッ!だからって俺がやってきたことは消えねえ!苛めて、テメエのプライドぐちゃぐちゃにしたこと忘れてそんな卑怯な生き方できっかよ!」

 

 「卑怯じゃないよかっちゃん。現に君は、こうして僕に謝ったじゃないか」

 

 そう、かっちゃんは違う。本当に卑怯者なら僕の失踪に思うところがあっても知らないふりでもして見ないようにする。まず憔悴するまで思い詰めることなんてない。自分の言葉で自分を傷つくことなんてない。

 今君がそうなっているのは、君が過去の罪に必死で向き合った証拠だ。

 

 「『光に向かって一歩でも進もうとしている限り、人間の魂が真に敗北する事など断じてない』

 

 心が苛まれ、後ろめたい気持ちを抱えると、人は眩しすぎる光に目を背け俯き、暗闇の安寧に魅入られるものだ。でも君は俯きはすれど光を前に必死に踏みとどまり続け、前に進むべくちゃんと償いに来た。そして僕もそれに納得した。ならこれで君が苦しむ理由はもうない。それでいいじゃないか。君はもう少し自分に優しくなるべきだよ」

 

 「…………んだよそりゃ、光に向かってってなんだよ訳わかんねえわ……」

 

 「敬愛する人の受け売り。といってもこの言葉は僕の後輩にかけられた言葉だけど」

 

 かつてクラウスさんがレオさんにかけた静かなる激励。そして再び大崩落が起きかけた時、一人の少年が挫けかけた友達へ叫んだ魂の言葉。それは僕の心にもよく響いた。

 笑顔の僕を呆れた顔で睨み、少し考えた後、かっちゃんはため息ひとつついた。

 

 「はぁー……わーったよ。てめえがそれでいいってんならそうする。言っとくがデク呼びもやめねえからな」

 

 「うん、それでいいよ。ごめんねかっちゃん、それとありがとう」

 

 「謝んなやクソが。んで、てめえはどうなんだよ。言っとくが学校の説明は俺には全く通用しねえぞ。

 重心ひとつとしてブレねえ、ちょっとの気配の機微で反応する、隙らしい隙も見せやがらねえ。半年なら身体はともかく、積み重ねた経験や感覚の説明がつかねえ。これでどうやって信じろってんだ」

 

 理由を整然と並べていくかっちゃん。うん、これちゃんと言わなきゃ納得しないくらいにバレてるや……。

 隠すところは隠していいと承諾は得ているから自分の話だけを切り取って説明する。もちろんライブラ関係はほとんど隠させてもらった。言ったと言えばお世話になった人たちのちょっとしたことくらいだ。

 

 「……つまりてめえは、ニューヨークはニューヨークでも別世界の、しかも名前はヘルサレムズ・ロット(元紐育)っつー無法地帯と化した人外魔境に、半年じゃなく四年以上も向こうにいて、さらにはそのうち二年間は200回以上死ぬ修行をして、残り二年以上は世界の危機を日課にしていた……って詰めこみすぎだどこのラノベだボケェッ!!」

 

 「うん、気持ちはわかるよかっちゃん。言っててなんだけど突拍子もないし、僕も言っててどこのごった煮漫画だよと思う。普通信じる方が難しいよ」

 

 「信じてねえたぁ言ってねえだろが!!」

 

 確かに言ってないけど怒るなよ。いやまあ信じてくれるならいいけど。

 ちなみに僕が19歳なのに驚かれた、主にほとんど成長していないことに。心に効いた。ついで19で中三とか痛てえなと追撃もされた。心に効いた。僕的には身体が成長していないから、中三でやり直しても違和感がなくて都合いいし、青春取り戻したいし、なにより雄英目指せるからちょうどいいんだよ。と言い訳を述べた。震え声で。

 ダメージを受けてる僕を見て、少しスッキリした顔をしてるかっちゃん。本当性格悪いな……兄弟子(お猿さん)ほどじゃないけど。

 ……でもそうやってかっちゃんの口撃に弄られていて、昔に戻った気がして、少し嬉しかったりする僕がいるのだけど。

 

 それからしばらく、関係を修復するように話し続け、夜も更けてきたころ、かっちゃんと別れた。

 別れ際、かっちゃんが「あんがとよ」なんて言ってたのはきっと気のせいだ。じゃないと明日は槍か銃弾か古代兵器の雨が降ってくるに違いない。

 そう言ったらかっちゃんにチョークスリーパーを決められた。苦しい苦しいオチるオチるぅッ!?

 

 翌日、かっちゃんはいつものかっちゃんに戻っていた。少し安心した。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「光に向かって一歩でも、か……」

 

 俺はデクの言ったあの言葉を思い出していた。

 最初は俺を言いくるめるための言葉のひとつと思っていたが、向こうでの話を聞いていくとそうじゃないことがわかった。

 

 アイツは話した。毎日ダース単位で人死にが出るのが当たり前な街に飛ばされたこと。地獄すら生易しい修行に明け暮れていたこと。そしてその街で自分なりにヒーロー活動をしていたこと。

 アイツは現場を経験した。無論こっちとは全然違うからどこまで参考になるかわからねえが、それでも一足先にヒーローデビューしたことに変わりねえ。濃密な経験は糧になる。実際に今のあいつは凶悪(ヴィラン)を前にしても怯むことはないだろう。それが少し悔しかった。

 だから世界が違うから免許いらずでヒーロー活動出来たよとドヤ顔を晒してたアイツにデコピンした俺は悪くねえ。

 

 ヒーロー活動をしてる時の話も聞いた。頻繁に起きる抗争をサツと共同で鎮圧。スーパー(ヴィラン)のような相手との半日戦闘。マジもんの神なんてやべー存在によるお遊びという名の世界の危機。そしてそれによって被害を受けた市民の救助。

 どうやって救けたのか、お礼の言葉を投げかけられたりそれをきっかけに友達になったり、なんて話になり自慢話かと少しイラついたが、その考えもすぐ改めた。

 一息ついて、でもいい事だけじゃなかったと、アイツは哀しそうな声でつぶやいた。

 

 その後のデクの話は悔恨と苦悩の連続だった。

 反応に遅れた。判断を誤った。力量を読み違えた。その結果助けれたはずの命を失ってしまった。

 一歩が足りず目の前で百人規模の人々が死んでいくのを見た。人命と数秒後の世界の危機を天秤にかけ、見殺しにした命もあった。中には喧嘩しなければ生きていたかもしれない命まである。何故あの人を救けてくれなかった、私の子はどこだ?と、涙でグチャグチャになった顔でそう聞いてくる人の顔を見て、何度も涙を流した。辛そうな顔でそう話した。

 アイツは俺には想像できねえほどの回数、命を天秤にかけ、救け、救けられずを繰り返したのだろう。生々しく説明するそれは、俺でも精神的にキツイ。俺でこうなら、当事者のアイツにとってそれは身を裂くほどの苦痛と後悔だっただろう。だがデクの野郎は折れず腐らず、ヒーローであり続けた。

 

 「僕は色んな人にたくさんもらった。誰かを救ける力を。(ヴィラン)に立ち向かう勇気を。そこへ導いてくれた仲間を。光に向かって歩く決意を。(しるべ)となった誇りの言葉を。……これを忘れない限り、僕は僕であり続けれるし、折れることはきっとない」

 

 迷いなく発する言葉を聞いてなんとなくわかった。

 光に向かって一歩でも……。俺に言ったあの言葉は、アイツのヒーローとしての支柱のひとつなのだろう。ウジウジしていたアイツを立ち上がらせて、ヒーローに導いた人の言った言葉。

 

 ……そんでウジウジしていた俺も立ち上がらせようとした言葉。

 

 今ならなんとなくわかる、その人の言葉にどれだけの思いが籠められているかを。腐るなと、恐れるなと、立ち止まっても構わない、諦めて引き下がらない限り、光に背を向けない限り心は決して負けることはないと。そんな誇り高い人が送った激励を、今度はアイツが俺に送った。

 

 この言葉に救われた気がする。俺はまだヒーローを目指していいと、なってもいいと、そう言われた気がしたから。

 だから俺は別れ際に言った。

 

 「……おい、()()

 

 「ん?なに……え?」

 

 「……あんがとよ。おかげで胸のつっかえ、少し取れた」

 

 てめえに救われたことの礼を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………かっちゃんが名前呼び……いやそれより感謝の言葉が出るって……、明日は槍、いや銃弾……、違う!古代自立機構兵団モグルプドゥスがアービタルカスの予言より125年早く起動する……!?まずい近隣住民の避難の段取りを急いでしないと!」

 

 「今ぐらい素直に受け取れやぁッ!!!」

 

 その後、デクを思いっきり締め上げた俺はぜってえ悪くねえ。

 




軟かっちゃん爆誕。
かっちゃんいじめるのたしかったです(暗黒微笑)

【誤字報告】

クオーレっとさん。

誤字報告ありがとうございました。
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