My Hero Battlefront ~血闘師緑谷出久~   作:もっぴー☆

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チームと対戦相手が決まった瞬間訓練内容考えるのが楽しかった第二十二話です。やっと更新できました……。

どうでもよくないですがヒロアカ19、20巻が紛失しました。まさに必要なタイミングで紛失という間の悪さ。神は死んだ。


第22話:後でガツンと言ってやる

 クラスのみんながそれぞれクジを引いていきチーム分けは決まった。麗日さんはC、飯田君はH、そしてかっちゃんはDに分かれみんなバラバラだ。まあ普通はそんなものだ、望んだ相手と当たる方が珍しい。

 麗日さんは柳さんと、飯田君は小大さんと、かっちゃんは切島君と組まれたようだ。かっちゃんの相方なんて大変苦労しそうだがここは精神を鍛えると思って頑張って切島君。

 一方僕はというと……。

 

 「角取さんだよね?今日はよろしくね!」

 

 「ハイ!よろしくお願いしマス!」

 

 僕はカートゥーン調の少女、角取さんとチームを組むことになった。

 なんでも彼女は日系アメリカ人で、両親がオールマイトの大ファンらしく、そんな両親は自分の娘にオールマイトの母校へ行かせたいと言って勧めてきたとのこと。彼女自身もヒーローに憧れかつ日本も好き、しかも難関校だけどあのオールマイトの母校を受けさせたいということもありこれを快諾。二年前にアメリカからこちらへ留学して猛勉強して見事受かったらしい。

 ヒーローの本場からわざわざやって来るとはオールマイトの影響力は本当に底が見えないな。というか親子揃ってかなりの行動派だね君たち。僕も大概だけど。

 

 しかしアメリカ人か、これはこれで利点もあるし何より慣れ親しんだ国の人だから話しやすい。

 

 「初めてェのバトルジュギョー楽しみスルデスね緑谷クン!」

 

 「Hey, Ms. Tsunotori. (あ、角取さん。)I can speak English so it's okay to speak there(僕英語喋れるからそっちで喋っても平気だよ)

 

 「!!Oh really!That helps!(本当デスか!それは助かりマス!)

 

 僕が英語でいいと伝えると嬉しそうに英語で話しだす角取さん。わかるよ、自分以外別の国の言葉で溢れてる中で流暢に母国語で話しかけてくれるっていうのは理解者がいるって思えてすごい安心感があるよね。かくいう僕も向こうに飛ばされた時、スティーブンさんが日本語で話してくれたおかげで安心して弁明が出来たし。本当にあの時出会えたのが日本語が出来る人……いや、ライブラのみんなでよかったと思う。

 

 角取さんは久しぶりに家族以外と、それも同年代と英語で話せたのが嬉しいのかあれこれと話してきて盛り上がる。僕としても向こう(H・L)の空気を思い出してちょっと懐かしいな。

 ……ニューヨークでヒーロー活動の手伝い(ライブラの仕事)をしていたことを掘り下げられそうになった時はちょっと焦ったけど。お世話になってたところが極度のアングラ系かつ守秘義務で開示できないと誤魔化しておいた。

 一方クラスの大半は僕らの会話にポカンとしていた。

 

 「すごいわね緑谷、普通あそこまで喋れるものなの?」

 

 「わたくしも多少喋れますがあそこまで流暢にはいきませんわ。さすが帰国子女というところでしょうか」

 

 「……楽しそうでええなあ」

 

 「!!」

 

 「ん」

 

 どうやら僕ら以外でも盛り上がりを見せているようだ。あっちでは麗日さんを中心に女性陣が集まってワイワイしているようで、話し込んでるとはいえ角取さんだけ仲間外れになってしまっていてることにちょっと申し訳なく思う。

 そんなこんなで話していたらオールマイトがハイハイ時間がなくなるからすぐにでも始めるよ!チームで分かれてねー!と急かしてきた。チーム分けも決まったしここから対戦だ。まずは誰が来るかな?

 

 「さぁ~て!それじゃあ早速一回目の対戦くじを決めるぞ!

 まずヒーローは……Dチーム!そして(ヴィラン)はFチームだ!」

 

 「おっ!一番槍に選ばれちまったな爆豪!頑張ろうぜ!」

 

 「うっせえ。要は全員ブッ殺せばいいだけだ」

 

 早速かっちゃん達が選ばれ、訓練が開始される。ちなみに口調のせいでかっちゃん側が(ヴィラン)っぽいが彼はDチーム。つまりヒーロー側なのであしからず。

 相手は宍田、八百万ペアだ。二人とも雄英のヒーロー科に受かるだけあって相応の実力を身に付けている。八百万さんに至っては推薦だ。

 まずは八百万さんはどこからか集音マイクを取り出し……たしか彼女の個性は創造だったっけ。あれはそれで作ったのかな?とにかくそれで大まかな位置を割り出し、宍田君がその鼻をもって細かい場所を探しあて、そこからうまく背後に回って奇襲を仕掛けるという作戦に出た。

 なかなかうまくやる。作戦は半分成功し、切島君が飛び出してきた宍田君に驚き先手を取られた。上手くいけば切島君をダウンさせ捕縛証明のテープを巻き付けることが出来るだろう。

 

 そう、本当なら出来るんだろうけど……如何せん相手が悪すぎた。

 

 さすがかっちゃんというべきか、よりによってかっちゃんが相手と言うべきか。

 自分で言うのもなんだけど今の僕はトップヒーロー達を相手に出来る程度には力をつけたと自負している。そしてかっちゃんはそんな僕と半年以上模擬戦などをして研鑽を積んでいるのだ。今の彼は拙いながらも気配を読むことも出来るし咄嗟の攻撃の対処も出来る。なんだったら戦闘面のみなら既に現場で通用するレベルだ。

 そんなかっちゃんは事前に察知していたのか宍田君の攻撃が切島君に当たる前に飛び出し、その頭部に蹴りを炸裂させた。爆破の勢いも乗ったいい一撃だ、相手が頑丈だったのか倒すことは出来なかったけど、それでも大きな隙を晒してしまった宍田君はそのまま一気に爆破を連続で叩き込まれ制圧。

 逆電撃戦とも言える展開に援護が遅れてしまった八百万さんはその後二人がかりになすすべなく捕縛されヒーロー側の勝利となった。お見事の一言である。

 

 ……ただかっちゃんが明らかに(ヴィラン)側にしか見えない動きや言動をしてるのがいただけないな。音声はないのに叫んでる言葉がなんとなくわかってしまうのは幼馴染だからか?あれ絶対死ねとかくたばれとか言ってるぞ。

 

 「さあ講評のお時間だ!みんなは四人の戦いを見てどう思った?」

 

 「とりあえずかっちゃんが死ねだのくたばれだの言っててヒーローらしくありません」

 

 「あれ?緑谷少年、もしかしてインカム音漏れしてたかい?」

 

 わかりやすすぎるぞかっちゃん。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「さあ次はどんな組み合わせがくるかな!ヒーロー側は……Gチーム!そして敵側はAチームだ!」

 

 かっちゃん達の講評を経て、今度は僕達の番がやってきた。最初の訓練で(ヴィラン)側に選ばれるのはヒーローとしては出だしが悪いな。まあ向こうでは自警団(ヴィジランテ)みたいな生活してたから今さらだけど。

 対戦相手は……尾白君と耳郎さんか、まずは情報を集めよう。ビルに入りお互いの準備時間に入るや僕は血糸を飛ばした。

 

 「Mr. Midoriya, (緑谷サン)this is the arrangement of the nuke……(この核のォ配置デスけど……)What are you doing?(あの、ソレは何しているデスか?)

 

 「The blood is threaded and stretched to the(血を糸状にして二人の所まで) two of them to pick up their voice.(伸ばして声を拾ってるんだ。)Information gathering is important.(情報収集は大事だからね)

 

 糸を細く作って這わすように二人の足まで伸ばしていき、そしてくっつけたらうまく振動を拾って会話を傍受する。コップを使った盗み聞きの延長線と思ってくれたらいい。

 ちなみに角取さんとは英語で話すことで話を聞き取られにくくしている。もう一度言うけど情報は大事だからね。

 

 血糸を伸ばし二人の側まで無事にたどり着き二人の会話が聞こえてきた。えっと……尾白君の個性は尻尾で攻防にもなるし三次元移動も出来たりするのか……。それで耳郎さんの個性がイヤホンジャック?壁に指して音を拾える……ってことは索敵能力持ちだね。これ早速英語で会話する作戦が効いてくるな。さてまずは耳郎さんの無力化を前提に作戦を練るべきかいや戦闘力じゃ尾白君の方が脅威か尻尾の攻撃は身体で隠されると面倒なんだよなあやっぱり先に無力化するのは尾白君か戦うにしても索敵の対策もしないといけないし出来ればロールプレイもしたいしだったらブツブツブツ……

 

 「Oh ……He is thinking a lot(オォ……たくさん考えこんでマスね)

 

 ああっといつもの癖が出てしまった。怖がらせてしまったことを謝ると推理ドラマのワンシーンみたいで面白かったとのこと。そんなフォローを受けたのは初めてだ。

 ひとまずどう妨害するか考えよう。出来れば正面戦闘以外で勝利したいな。ただの戦闘ならいくらでも出来るけど、今回みたいなシミュレート型の訓練はその場でしか出来ない手口とかもある。向こうで胸糞悪い事件からバカじゃないのと呆れるような事件まで経験をしている僕としては、状況に沿った事件を楽しく演出しながら相手を制圧していきたいと思う。もちろん角取さんの個性も活躍できるようにしたい……ってそういえば個性聞いてなかったな。英語で話が盛り上がっていて聞くのを忘れていた。

 

 「Ms. Tsunotori. (角取さん、)What is your quirk?(君の個性ってどういったものなのかな?)

 

 「My quirk is called a 「Horn cannon」(私の個性、角砲(ホーンホウ)言いマス。)I can fly my horns and attack or (角飛ばして攻撃したり、角乗って)ride on the horn and float!(飛んだり出来マス!四本まで)I can let fly up to four!(操作一気飛ばせるデス!)

 

 聞いていくと角一本で人一人持ち上げれる力があり、それを見える範囲なら精密操作も可能、おまけに破壊されてもすぐ生えてくるから再射出も素早く可能と弱点らしい弱点がなく、なかなかに汎用性の高い個性だ。あるとすれば角質のケアが欠かせないらしいが、それは本人がやることだ。僕が口出しすることじゃない。

 とにかく彼女の個性はわかった。活かせそうな場面も多いためうまく活躍はさせれそうだが、この場合どの事件を参考にしようかな……。

 

 ……聴覚対策にMr.クレボンスの地平線のシャウト事件を参考にするか?いや、あれはやろうものなら鼓膜を破ってしまうから危なっかしいことになる。それじゃあ核を隠す方向で7代目怪盗旋風仮面のウエスト57番通り隠蔽劇みたいに……やるにも術式やら機材やら全然足りないか。それじゃあ尾白くんの尻尾対策込みで獣人紳士ジョージ・ナガタのケモミミ王国三日天下事件の概要と解決策を思い出して……どうしよう、クラウスさんにリス耳尻尾が生えていた記憶しか思い出せない。インパクトありすぎだよあれ。

 

 あれも違うこれは危ないと取捨選択をしていく。思えばわりとしょうもない理由で世界の危機に見舞われていたりするなあの世界。アイスの当たり棒一本で始まる世界の危機もあったっけ。

 そうして脱線しながらも考えて考えて……使えそうな事件を思い出した。元はとてつもなく危険で胸くそ悪い事件だったけど安全面を確保すれば問題ないだろう。オールマイトもロールプレイは推奨してくれてるし。

 最悪相手が泣いたり怒ったりするだろうけどその時はその時、相手から鉄拳が飛んでこようが甘んじて受けよう。ヒーローを目指すんだ、多少の恐怖と狂気を今のうちに安全に経験出来るのはきっといいことだ。

 さて、となると演出はどうする?血に余裕はあるから過剰に演出しても問題ないが、(ヴィラン)の再現をどうするか。いや、角取さんの角を媒介して動かしてもらえれば……?

 

 「Ms. Tsunotori. There is something (角取さん。向こうで解決した)that seems to be usable in the case (事件の中で使えそうなのがあるんだけど)Solved over there, so I would like to reproduce(ロールプレイとして再現したいから) it as a part of role play? Can you help me?(力を貸してくれないかな?)

 

 「!!Fight as an villain!(!!敵になりきり戦う!)Looks very interesting!(ソレ面白そうデス!)I definitely want to try it!(是非やってみまショー!)

 

 色好い返事を得たのでこの事件を模してみようと決める。かつてヘルサレムズ・ロットで起きたとある残虐な事件。それを模したロールプレイをするべく核を下へと運びながら打ち合わせを始めた。

 

 「By the way, what is the content?(ところでナニをするんデスカ?)

 

 「In a word, is it horror?(一言で言えば、ホラーかな?)

 

 さあ訓練(悪ふざけ)の始まりだ。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 『さあ時間だぜ四人とも!戦闘訓練スタート!!』

 

 「よっし、相手に首席がいるけどいっちょやってやろっか」

 

 「だな。俺としてもテストを見てから戦ってみたかったから実は楽しみだったりするよ」

 

 開始の合図が出され、気合いを入れてビルへ向かう尾白、耳郎チーム。相手に首席がいるがそれで怖気づくような二人じゃない。むしろそれで天狗になってるなら足元をすくってやるとも思っている。

 まずはビルの侵入は窓から行った。敵地に正面から堂々と入るなんてリスクの高いことは行わず窓から侵入したのは評価するべきポイントである。

 侵入後耳郎の個性をもって索敵を始める。相手はどうやら上の階を歩いており、周囲も多少の障害物や死角はあれど別段変わったものもない。

 どうやら一階には何もないと判断した二人は急いで二階へ目指す。もしかしたら核が置いてある可能性もなくもないが時間は有限だ、しらみ潰しに探すには足りなすぎる。

 

 そうして今度は二階を探索、足音が上から聞こえてくるのを確認。音からして三~四階で待ち構えているかもしれない、そう判断した耳郎は尾白に警戒するよう呼び掛け慎重に三階へ上がった。

 

 そうして三階へ到着した瞬間、それは起こった。二人が階段を上りきったと同時に背後の階段は突然赤黒い膜に覆われ塞がれてしまったのだ。

 

 「えっなにこれ!閉じ込められた!?」

 

 「っ!?ふんっ!!」

 

 慌てる耳郎をよそに咄嗟に膜へと突きを放つ尾白。しかし弾力のある膜は衝撃を吸収し無力化、尾白の拳にダメージがないことが幸いではあるが退路を断たれてしまった。

 

 「ダメだ、かなり薄そうなのに思ったより頑丈だな。」

 

 「これもしかして血で出来てる……?ということは緑谷の仕業ってこと?それにしたってなんで入った後に封鎖したんだろ。私たちが上がらないように先に閉じてたらどうしようも―――」

 

 バシャッ

 

 「!こ、今度はなに!?」

 

 「……あ、あれ見て耳郎さん……」

 

 「え?そっちってすぐ壁じゃん―――」

 

 尾白が指差す方へ視線を向ける。そこには文字か書かれていた。

 

 まよいこんだのはつがいのヒツジ。きょうはごちそうオスから喰う

 

 それも血文字で。

 

 「うわあああぁッ!!??」

 

 「落ち着いて耳郎さん!ただの血文字だから!?」

 

 「ちち、血文字って時点でただのもクソもないじゃん!?なんなのコレ!オールマイト先生、これ訓練ですよね!?」

 

 ビチャリッ

 

 「ヒィッ!?ちょ、ちょっと、なんか暗くなってない?」

 

 ビチッバシャッ

 

 「……いや、気のせいじゃないな。窓を見てみなよ」

 

 「えっ?………待って、窓を覆って外の光遮ってるあの赤いのってもしかして……」

 

 「……多分これと同じ奴だね」

 

 ビチャッバシッバシャッバシャッ

 

 「で、でもあんなことしたらどこからも出られ……ねえ、つまり……今ウチらってこの階に……」

 

 「……閉じ込められようとしてるね」

 

 

 

 バシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャッ

 

 

 

 「いやあああああ!!マズイ、マズイって!?もしかしなくてもこのまま出られなくなるじゃん!?」

 

 「最悪なのが上への階段が封鎖された時だ。大急ぎで向かおう!まだ間に合うかもしれない!」

 

 「本当なんなの!?ちょっと、これ訓練だよね先生!?オールマイト先生!(ヴィラン)の仕業とかじゃないよね!?」

 

 『お、落ち着きたまえ耳郎少女!今確認をとったが大丈夫だちゃんと訓練だから安心したまえ!』

 

 「ほ、本当ですか!?」

 

 『マジのマジだよ!その演出も緑谷少年のロールプレイ……なんだけど内容がちょっと過激すぎないかなこれ。下手したら大物敵(スーパーヴィラン)みたいなことやってるかも。ともかくちょっと、いやかなり怖いだろうけど訓練であってるから貴重な経験と思って乗りきってくれ!』

 

 「全っ然安心出来ないんだけど!?」

 

 訓練という情報はもらえたが全然嬉しくない内容に貧乏くじを引いてしまったと内心吐き捨てる耳郎。後ろからバシャリ、バシャリと窓が血の膜に覆われていく。それに追い抜かれないよう二人は必死で四階への階段まで走り出す。

 尾白にしろ耳郎にしろ、本格的すぎる事態にすごく怖い。特に耳郎はホラーが大の苦手だ。それはもう友達が昼間から口頭でやるような怖い話すら逃げたくなるくらいに。だというのにホラー映画のワンシーンのような今の状況に内心泣きそう……いやすでに半泣きだ。

 

 「み、緑谷の奴!絶対後でガツンと言ってやるんだから!尾白、こっちで道合ってたよね!?」

 

 「多分あってると思うけど―――危ない耳郎さん!」

 

 会話を中断した尾白は耳郎を掴んで倒れ込む。それからすぐ、自分の身体があった場所に何かが通りすぎた。

 

 「ご、ごめん助かったよ尾白」

 

 「ああ、それよりも今のは一体―――」

 

 なんだったのか、立ち上がり避けた飛来物を確認するべくそちらを見やると―――、

 

 「え……なにあれ?」

 

 「……空飛ぶ獣の骨?」

 

 ふよふよと、赤黒い猪骨が四つも浮遊しており、虚空の双眸がこちらを見つめていた。

 ぶるりと、耳郎と尾白は言い得ぬ恐怖に背筋が震える。一体どういう原理で浮遊しているんだあの骨とか、そんなことをいちいち考えてる場合じゃない。受けたら確実に怪我するだろう速度で突っ込んでくる謎の骨が四つもあるのだ、閉じ込められそうなこの状況で戦うべきじゃない、撒いて上に向かう算段を付けないと。

 

 しかしそんな二人を嘲笑うように、本命である(ヴィラン)がやってきた。

 

 ヒタッ……ヒタッ……

 

 暗闇から徐々に近づいてくる。しかし靴音は聞こえず裸足のようだ。

 

 ガリガリガリガリ……

 

 音はそれだけじゃなく何か重そうなもので床を削る音も聞こえる。

 

 フゥー……フゥー……

 

 異様な鼻息を鳴らす音が聞こえ、フラフラとした挙動で一人の男が暗闇から明かりの下へ身を乗り出した。

 

 そこに現れたのは……魔猪とも言える巨大な猪の骨を被り、巨大な赤黒い大剣を引きずった半裸裸足の男で、しかしその背中には人一人入るだろう巨大な血濡れの瘤を生やして、その血からはいくつもの手のような物が生えて蠢いており……、

 

 率直に言って、ホラー映画に出てくるような化け物だった。

 

 

 

 

 

 「あ あ」

 

 

 

 

 

 「腹 減 っ た」

 

 

 

 

 

 「どわああああああああああ!!??」

 「ぴゃああああああああああ!!??」

 

 本格的どころかやりすぎレベルの(ヴィラン)の登場に悲鳴をあげる二人。

 あれ本当に(ヴィラン)じゃないんだよな?オールマイトも緑谷のロールプレイって言ってるし大丈夫だよね?というか血で作ってるぽい武器持ってるしあれ緑谷だよね?むしろそうであって、下手なヴィランより怖いぞ。

 半ば混乱している二人の胸中はそんな思いで渦巻くが、しかし相手は待ってくれない。剣をガリガリ鳴らしながら此方を見やった(ヴィラン)はノソリノソリと歩き出した。

 

 「っ!耳郎さん!先に行って!多分狙うのはまず俺からだ!その間に核の確保を頼む!」

 

 「えっ!?だ、だけどそれじゃあアンタが」

 

 「いいから!このままじゃいいように負けちゃうよ!」

 

 「!……わかった!急いで確保するから任せたよ!」

 

 「そっちもお願い!せりゃあぁっ!」

 

 返事を聞いた尾白は突貫、尻尾も駆使して(ヴィラン)と猪骨をまとめて相手にする。そうして自分を囮にすることで道を切り開くことに成功、耳郎もそれを無駄にせぬよう必死に走り抜けた。先ほどのやり取りの間に見かける窓は血の膜で埋まっている、急がないと。

 なんとか頭に叩き込んだ地図を思い出しながら走る耳郎。怖くてたまらないが尾白が私に託して足止めしてくれたのだ、かならず上の階に上がって核を手に入れてみせる。

 

 『尾白少年捕縛!ヒーローチーム残り一人!』

 

 頑張ってくれたが尾白が捕まってしまった。早く急がないと。走り続けている最中、ふと視界を横に移すと膜で覆われていない窓が目に移った。しめた、追いこしたぞ!希望が見えてきたことに恐怖が薄らいでいく。余裕が出来たのか叩き込んだ地図の配置も徐々に思い出していき、迷うことなく進む。そうしてついに階段のある通路へたどり着いた。

 

 「―――えっ?……なにこれ?」

 

 しかしそこで希望は砕かれた。

 必死で見つけた階段だったが、階段の前の道が薄い血の膜が覆われていた。いや、覆われているのは最短の道だけで、別方向の道は覆われていない。しかしそちらへ進もうものなら一度戻って大きく迂回しないといけない道順だ。

 

 「ち、ちょっと!ここまで頑張ったのにこれはないんじゃないの!?」

 

 血膜を殴れど弾かれ、ならばとイヤホンを刺そうとしたが刺さらず跳ね返る。音の衝撃破も飛ばしてみるが揺れど効かない。どうなっているんだこの膜は?

 慌てて迂回するべきか考えるが廊下の途中がぐるりと回るU字になっているため大きく迂回しなければ、戻っても絶対間に合わないだろう。

 焦りが思考を奪い、恐怖が身体の動きを阻害し、どんどん選択の幅を狭められていったその時。

 

 バシャッ

 

 ついに目の前の階段が血の膜で覆われ、塞がれてしまった。

 

 「あ……ああ……」

 

 望みは絶たれた。目の前の血の膜さえ破れない以上核の確保は絶望的だ。勝利条件に(ヴィラン)を二人捕縛するとあるが、片や化物、片やまだ見ていないという圧倒的不利。おまけに尾白もすでに捕縛されている。

 

 ガリ……ガリ……

 

 「ひっ!」

 

 徐々に近づく足音に振り替える、自分を捕らえるべく(ヴィラン)が探しに来たのだだろう。(ヴィラン)が来るだろう方角から猪骨が飛んで現れ、そうしてこちらを見つめるや帰っていった。

 なんだったのかわからないが決していいことではないだろう。耳郎の心が恐怖に支配されていく。

 

 「み つ け た」

 

 「」

 

 その声が聞こえた瞬間、あげようとした悲鳴をコヒュ、と詰まらせ耳郎は尻餅をついた。腰が抜けてしまって動けなくなったのだ。

 

 「オ……オールマイト先生……腰が抜けて動けません……戦闘続行不可です」

 

 もう勝利とか核とか言ってる場合じゃない。勝てる気もしないしこれ以上パニックホラーのような状況に身を置いたらおそらく乙女としてやっちゃいけないことをするだろう。現場なら最後まで戦い抜くべきだがこれは訓練で、しかも初めての行いで、かつ普通に考えて参考にならない内容だ。オールマイトも納得してくれるだろう。

 

 『耳郎少女訓練続行不能!よって(ヴィラン)チームウィ―――ン!!急いで迎えにいくからおとなしくしてなさい耳郎少女!』

 

 そしてそれは正解だった。勝利宣言された瞬間周囲を囲っていた血の膜は解除され外の明かりが戻ってくる。ああ、日の光がとても優しく暖かい。

 

 「Mr. Midoriya!(もう、緑谷クン!) I'm talking about it, but it's overkill!(話乗った私が言うのナンですがやりすぎデス) Let's do it more gently!(!もっと優しくやりまショーよ!)

 

 「Sorry sorry,(ごめんごめん、)I don't think (ここまで怖がられる)they're so scared. (とは思わなくて。)I still adjusted it(これでも調整したんだけど)

 

 訓練が終わったためロールプレイもやめて(ヴィラン)側の二人が和気藹々と話しながらやってきた。英語だからわかりにくいが、角取に謝っているあたり反省はしているようだ。

 そうして二人は耳郎の前に姿を現し、申し訳なさそうに話しかけてきた。

 

 ただし個性(血法)を解除し忘れており、先ほどの状態でかつ、血瘤の中から角取と思われる両腕を生やした姿で。

 

 「お疲れサマデス耳郎サン。怖がらせちゃってソーリーね!」

 

 「お疲れ様耳郎さん。本当ごめん、ここまで怖がるなんて―――」

 

 「先に個性解除しろ馬鹿あああああああああああ!!!!」

 

 ドックン!!

 

 「オブパァッ!?」

 

 色々限界だった耳郎は怒りに任せイヤホンを緑谷に突き刺し最大音量で爆音を流し込んだ。訓練終了の油断+演出に使った血の消耗+その維持と集中で疲れていたところへ放たれた不意打ちは見事クリーンヒット、盛大に悶絶し倒れた。背中の角取を下敷きにしないよう咄嗟に俯せで倒れこんだあたりまだ余裕はありそうだが、一矢報いることは出来たからよしとする。

 

 こうしてヒーロー側二人の初の戦闘訓練は散々な結果で終わったのだった。二人の名誉のため、尾白があの状況から浮遊する骨を二つ撃退し、ホラー嫌いの耳郎が最後まで涙を溢さず頑張ったことをここに明記しておく。

 

 

 




例によって英文はGoogle翻訳です。

Q:緑谷今どんな格好してるの?

A:師匠似の骨頭、半裸裸足、剣、背中にダークソ○ルの卵背負いみたいなの付けてる。

書いてて思い浮かんだ言葉が猪之助Lv99


※投稿までに書いた訓練内容

・真面目に戦闘。緑谷骨頭被って(ヴィラン)ロールバリバリ。書いてて12000字越えたあたりで読み疲れたから一旦破棄。

・ルール付け足しまくって(ヴィラン)ロール。書いてたらただのDead by Daylightになってた。緑谷がノリノリで喋ってる。耳郎ちゃんギャン泣き

・ガッツリホラー。書いてて後半シャイニングのあのシーンみたいになった。なんか角取に演技が得意なんて設定生えた。耳郎ちゃんギャン泣き。

・上記二つ足して割って修正したの。本文。耳郎ちゃんをギャン泣きせず耐えきった。

なかなかアイディア出ないのも厄介ですが出すぎても困りものです。でも耳郎ちゃんいじめ楽しかったから良し!(現場ねこ)

【誤字報告】

珈琲藩士さん。外道男さん。水面波さん。

誤字報告ありがとうございました。やはりGoogle翻訳じゃ英文ネタは限界がありますね……あまりに指摘が多そうでしたら英文は廃止するべきでしょうか。

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