My Hero Battlefront ~血闘師緑谷出久~ 作:もっぴー☆
この作品もめでたく40万UA達成、もうすぐ正月だったということもあり難航している本編の息抜きがてら感謝のお正月回です。息抜きと言っておきながら文字数が本編以上なのはご愛嬌ということで。
※時期はH・Lから帰還後最初のお正月ですぞ!
※息抜きなのでネタに走ってますぞ!
※話の内容が本編に反映される可能性は低いですぞ!
以上が問題なければどうぞ。
『新年明けましておめでとうごさいま―――す!!』
「「明けましておめでとうごさいます」」
鐘も止み、蕎麦も食べ終え、テレビから聞こえる歓声に続くように僕らはお互いにお辞儀をしてそう告げあった。
今日は一月一日、時刻は零時零分。去年は色々……本当に色々あったけど無事こちらに戻って来れて新年を迎えることが出来ました。また母さんとこうやって年を越せたことに一際喜びを感じる。残念ながら仕事の都合もあり一家揃ってとはいかなかったため、父さんには後で電話で挨拶をするつもりだ。
「今年もよろしく母さん」
「こっちもよろしくね出久。でも本当によかったわ、出久がいなくなった時はもう一緒にこうやって年を越せないかもしれないって思っていたけど……貴方が無事に帰ってきて本当に……」
「あぁもう泣かないで母さん、せっかく平穏無事……かはわからないけど、こうやって一緒に迎えること出来たんだしそれでいいじゃないか。ほら、また洪水起きちゃうよ?」
僕がいなくなってしまっていた時を思い出して泣きそうになる母さんを抱き締めてなぐさめる。新年早々洪水泣きで階下の人に迷惑をかけるのも悪いし泣き止んで。
だけど無理はないか。一人息子が突然失踪。半年間影も形も見当たらないとなれば死亡してると考えてもおかしくないだろう。実際は四年以上異世界にいて世界の危機を救い続けていたのだけど、それを推測するのは無理な話だ。おまけに最後の目撃情報は絶望していた時の僕だったらしいし本当間が悪い。
ただ僕としては不謹慎だけどあの街に飛ばされて良かったとは思う。夢を諦め、引き下がりかけた僕にあの人達は立ち上がらせ前に進ませてくれたのだから。
それにしても母さん痩せたなあ。去年までは僕のことを心配して精神的ストレスで肥えてしまっていたけど、失踪してからは精神的消耗でやつれてしまったからしょうがないけど。今はポッチャリ系といったところか。
母さんの体型って僕が原因でコロコロ変わってしまってるよね。本当不甲斐ない息子でごめん母さん、これからも心配させてしまうけど頑張って親孝行するよ。とりあえず雄英に合格して自慢の息子になるのが最初の課題かな。頑張ろう僕。
「そういえば母さん、初詣はどうしようか。今から行く?それとも明けてから―――」
テレテッテッテッテレッテッテー♪
落ち着いた母さんに初詣は何時行こうか、そう聞こうとしたとき母さんの携帯から着信がなった。どうでもいいけど着信音が聴いたことある曲だな。甘いソングと苦いステップ踏んでそうな曲調だ。
母さんはハイハイと電話に出る。明けましておめでとうごさいます~いえいえ大丈夫ですよ~と談笑するのを横目に向こうの年越しを思い出す。
ヘルサレムズ・ロットのニューイヤーカウントはとても壮大だ。タイムズスクエアに人種経歴問わず色んな人が集まりカウントダウン。新年と同時に花火が打ち上げられるとおおはしゃぎだ。
ある人は友達と肩を組みお酒を振り回し、ある人は花火を背景に友達と自撮りしながらはしゃぎ、あるカップルは公然でウフフアハハとイチャつき、ある脛に傷のある人は銃を空に向かって乱射して空を飛ぶ謎生物の体液袋に当てて周囲の同業者にぶちまけ、キレて抗争が勃発し、ある警部補は新年早々暴れんなと部下を率いて鎮圧に向かい、あるヒーローを目指す少年はお雑煮片手に鎮圧の手伝いをすることがあの街の新年の恒例行事だった。
「出久ー、今光己さんから初詣一緒にどうってお誘いあったのよ。明けてから一緒に行くことにするけどいいかしら?」
そんなことを考えていると母さんが戻ってきてそう伝えてきた。かっちゃんの家族と一緒に初詣か。そういえば小さい頃は一緒に行ってたけどいつの間にか行かなくなってたな。
せっかくのお誘いだし僕はいいよと答える。かっちゃんも来るのかな。かっちゃんこういうのは一人か他の幼なじみ達と行きそうだけどいたらないいな。
◆◆◆◆◆
「というわけで明けましておめでとうかっちゃん!」
「何がというわけだ」
あれから仮眠を取り初日の出を見て、日課の鍛練と初詣の準備を終えて、やってきましたかっちゃんの家。近所とはいえ何事もなくたどり着けたことに実は少し安堵してたりする。
この時期、
放置したら最終的にマントルを通過して地核を刺激し地球がとんでもないことに、とか言われたときは正月くらいゆっくりさせてと叫びながら処理したっけ。年明け早々の抗争?あれは普段の抗争と変わらないので、哀しいけど慣れた。
「おいコラなに勝手に黄昏てんだデク」
「いや、ちょっとしょうもない
「なに思い出したんだオイ。毎年初詣だけはぜってえ皆で行くっつってババアがうるせえから仕方なくついて行く。……今年は余計気が乗らねえがよ」
よかった、かっちゃんも一緒に来るようだ。久しぶりに家族ぐるみで出かけれて嬉しいな、かっちゃんは乗り気じゃないけど。
恐らく母さんと顔を合わせ辛いからだろう。謝罪の際に土下座までして母さんも納得してくれたけど罪が消える訳じゃない。どうしても二の足踏んでしまうのは仕方がないことだ。
「勝己君、明けましておめでとう」
「ッ!……うす。明けましておめでとうございます」
なんて思ってたら母さんもかっちゃんに新年の挨拶をしてきた。気まずそうに肩を窄めながらもぎこちなく挨拶を返すその姿は普段の威勢は皆無で、まるで借りてきた猫に見えて微笑ましい。そんな視線を察知したのかかっちゃんがこちらを睨んできた。勘のいいかっちゃんは好きだよ。
「そんな怖がらなくていいわよ。確かに勝己君のやったこと全てを水に流すのはまだ難しいけど、ちゃんと償って昔のような関係に戻ろうと頑張ってるのを知ってるわ。それに私もあの時責めちゃったしおあいこよ」
「……」
「だけど勝己君、これだけは約束して。出久との仲を決して義務や負い目で終わらさないで。それは出久はもちろん、あなたのためにもならないし、私も二人には本心から友達だって胸を張れる間柄になってほしいから。もちろん今すぐじゃなくていい、いつか自分を許せた時でいいから。それだけは忘れないでね」
「……うす、すんません。ありがとう、ございます」
いい子ね、今の出久の相手は大変でしょうけど頑張ってねと優しく諭した後、光己さんたちにも挨拶してくるわねと母さんは家にお邪魔した。僕もお邪魔しようと思うけど、まずは大人しく佇んでいるかっちゃんをどうにかしないと。そう思って近づくとこちらを睨んできた。
「……んだよコラ言いてえことあるなら言えや」
「今のかっちゃんを写真に収めて湿気た火薬ってタイトルで僕のびっくり画像フォルダに保存したいんだけどいいかな?」
「させんわふざけんな!!せめてもう少し気の効いた事言えやボケッッッ!!」
怒って両手をBOOMと爆発させるかっちゃん。そうは言ってもどうせ気の効いた台詞言っても大して意味はないんだし、それだったら弄って元の調子に戻ってもらった方がいいと僕は思う。
「ちっ……!……引子おばさん、いい人だよな」
「え?あ、うん。母さんは優しいね?」
「…………俺はそんな人泣かせちまったんだよな」
「……」
「…………もう泣かさねえから、テメエもおばさん泣かすようなことすんじゃねえぞ」
かっちゃんが珍しく、らしくもない事を言ってきた。母さんを泣かせたことが相当堪えたのだろう、後悔の念が言葉の一つ一つから伝わってくる。かっちゃんも昔は母さんのお世話になってたこともあるし、母さんからも仲良くしてあげてとお願いされたこともあるだろう。そんな切実な思いを一度裏切って泣かせてしまったのだ、心を改める理由には十分すぎるだろう。
しかし残念ながらそれは無理な相談だろう。ヒーローなんて危険な職業を目指すんだ、大怪我の一つや二つ負ってもおかしくないし場合によっては死んでも不思議じゃない。何度も母さんを泣かせることになるだろう。だけどそれ以上に母さんを笑顔に出来るように努力することを誓うよ。だから安心して。
それよりもかっちゃんの方もおじさん達大事にしなよ。僕を探してた間すごい心配してたって言ってたし。その事を伝えたらうっせえ一言余計だ死ねと捻くれた返事を返してきた。調子が戻ってきたようでなによりだ。
「出久ー!ちょっと来てー!」
かっちゃんと話してちょっとしんみりとしてると母さんが呼んできた。妙にテンションが高いけどどうしたんだろ?お邪魔しますと上がらせてもらい居間の方に向かう。
「お邪魔します、明けましておめで……」
「明けましておめでとう出久君。どうしたの、固まっちゃって?」
「……
居間に入ると母さんと光己さんがいた。……いたんだけど光己さんの姿に驚いた。なんと光己さん、着物姿なのだ。
「あっ!?い、いえ。明けましておめでとうございます!おばさん、その着物は?」
「えっ?ああこれ。ちょっと大掃除の時にね」
聞けば昔何回か着ていたのを先日の大掃除で発掘して旦那に見せたところ「せっかくだし今年の初詣はそれ着ていかないかい?僕久しぶりにママの着物姿見てみたいよ」と珍しく強い要望があったらしく、せっかくなので着たとか。
デザインは白と淡い赤を基調とした小紋の着物に緑地の帯で、派手さを抑えつつ帯で明度をうまく調整し、大人の落ち着きを出した仕上がりになっている。
「明けましておめでとう出久君。どうだい、光己さん素敵でしょ?」
「あ、明けましておめでとうございますおじさん。……ちょっと見惚れました」
「そうでしょそうでしょ。ふふ、僕の自慢の奥さんだぞ」
勝おじさんが新年の挨拶と同時に嬉しそうに嫁自慢をしてくる。こんなウキウキしてるおじさん久しぶりに見たかも。
でも気持ちは少しわかる。普段から若々しく元気で活発な光己さんが、落ち着きがあり且つそこはかとなく艷を感じさせる雰囲気を醸し出していて、不覚にもドキッとしてしまったのは事実だ。個性のおかげで肌が若いのもまた美しさを際立たせてる。きっと肌年齢を聞いたらK・Kさんあたりがすごい羨ましがるだろうな。
……思ったんだけど僕わりと年上にドキドキしているな。ビビアンさんしかり光己さんしかり。もしかして年上趣味なのかな?いや歳の近い異性が極端に少ないのも理由のひとつだろうけど。チェインさん?足癖と酒癖の悪さと汚部屋を見たらそういう気持ちはなくなるよ。女子力あげようチェインさん、スティーブンさん狙ってるんでしょ?余計なお世話?汚部屋には理由がある?いや、それでもあの部屋はどうかと……。
「けっ、着飾る歳でもねえだろが、歳考えろやババア」
「な、なに言ってるんだ勝己君、光己さん最高に綺麗じゃないか!綺麗すぎて今度は僕からプ、プロポーズしちゃうところだったよ!」
「そうだよかっちゃん、おばさん綺麗じゃないか!僕もちょっとその、ドキドキしちゃったぞ!」
「仲良しかテメエら!!つかデクテメエババアに興奮してんじゃねえわババ専かコラ!!」
かっちゃんの心ない言葉に珍しくおじさんが正面から抗議した。それに便乗して僕も抗議。母親という色眼鏡があるにしてもさすがにババアは言いすぎだ、抗議するのも致し方ない。
「さっきからババアババアうっさい勝己!口悪いのもいい加減直しなさい!」
「ぐうぉっ!?いってえわ何すんだババアッ!!」
「だからババアじゃないっつってるでしょ!大体さっきから出久君のことデクって変な名前で呼ばない!出久君って呼びなさい!!」
「だぁッ!?」
かっちゃんが僕らの抗議にキレてたら今度は光己さんがキレてスパーン!とかっちゃんの頭を叩いていた。落ち着きある艶やかさは何処かへ去ったようです。
しかしここまで綺麗な音を出すとなると相当手慣れてるな。あ、一際いい音、いいの入ったなアレ……ってそうじゃない、そろそろ止めさせないと。
「そ、そのへんにしてあげてくださいおばさん。僕としてはこのあだ名気に入ってるので……」
「いいのよ出久君、こうやって叩いとかないと勝己はすぐ増長するんだし。そんな変なあだ名やめさせなさいよ」
話す度にスパーンとかっちゃんの頭を叩く光己さん。おじさんもあわあわしている。家庭内暴力反対……!
「だ、大丈夫です。もう10年以上の付き合いですし。今さら口汚くない、デク呼びもしないかっちゃんとか想像―――」
※緑谷想像中※
―――おい緑谷ー
―――なんだ緑谷ー
―――来いよ緑谷ー!
―――緑谷君ー
―――おーい出久君ー
―――出久大丈夫か?
―――おっす出久ー
※想像終了※
ゾワリ
「うっわ、かっちゃんキモッ」
「勝手に想像して勝手に貶してんじゃねえ!!仕舞いにゃマジで殺すぞ!!?」
「あ、ごめん口に出ちゃった。……でも実際キモいとしかいいようがないよ。見て鳥肌すごい」
想像すると下手なホラーより怖いナニカを感じてしまい、身体中に鳥肌が立つ。裾を捲り鳥肌が立っている腕を見せると血管を浮きだたせさらにすごい形相になるかっちゃん。とりあえず腕を擦って温めておく。
「ざっけんなっ!!よくもまあ本人の前でんなくだらねえこと出来んなテメエ!!」
「でも本当にキモいよ。かっちゃんも想像してみなよ、かっちゃん呼びしない僕とか」
「あ"っ!?」
※爆豪想像中※
―――おはよー爆豪君ー!
―――どうしたの爆豪君?
―――行くよ爆豪君!
―――それはどうだろ爆豪君
―――おーい勝己君ー
―――大丈夫勝己君?
―――勝己いいぃぃッ!
※想像終了※
ゾワリ
「きっっっっっっめえわクソがッ!!」
「でしょ?」
どうやら心で理解出来たようですごい勢いで腕を擦っている。見れば首元まで鳥肌が出来ているのが確認できた。
「背筋クッソ寒いわコラ。おいデク俺が慣れるまでぜってえ名前呼びすんじゃねえぞ言ったらマジ殺す」
「うん気を付ける。ごめんかっちゃん想像させちゃって」
二人揃って身体を擦り改めて呼び方を定着させた。一方僕らのやりとりに大人達は苦笑いをこぼしている。母さんから「本当に苛められてたのかしら……?」と疑問の呟きが聞こえるが無視。あー聞こえない聞こえない。
◆◆◆◆◆
「うっさい余計なお世話よ」
「えっ?どしたんすかチェインさんいきなり?」
「?あれ、なんだろ。今誰かに悪口言われた気がするんだけど……?」
「なんだなんだ犬女ボケたか?それかアホみてーにバカスカ酒飲んでついに酒女にでもクラスチェンジしてずっと酔ってんのか?んなので仕事出来んのかよオメー」
「……チェインさん。犯人あれじゃないすか?」
「それ以外ないわね。ちょっとあの猿しつけてくるわ」
霧烟る街の一画でギャワーっと猿の鳴き声が鳴り響く。
世界の危機と隣り合わせの街ではあるが、なんだかんだで今日も平和なようだ。
◆◆◆◆◆
他愛ないやり取りの後、そろそろ行こうかというおじさんの一声で初詣に向かうことに。徒歩で向かえる程度の場所にあるところだけど、ちょっと名の知れた神社なので今日のような日じゃなくてもよく人がおり、特に今日のような特別な日は参拝客でごった返すためとても壮観だ。
「そういえば初詣に行くの久しぶりだな。四、五年ぶりっていった所かな?」
「そういやぁテメエ四年以上向こう行ってんだったな。つーても向こうにも寺あるだろ」
「あるにはあったけど、見知った宗派のほとんどは
僕らはおじさん達に聞こえないよう小声で話す。かつてのニューヨークはよく知る日本様式じゃないけど寺はあった。ただ大崩落によりニューヨークがヘルサレムズ・ロットに変貌する際融合したことによりいくつもの建物が増えたり減ったりした。
エンパイアステートビルがあった場所は永遠の虚に変わり果て、ブライアント公園があった場所にはアパートが立ち並び、それと同様に人界の宗教施設がなくなったり逆に異界側の施設が現れたりもした。
「ただそのなかに何故か異界産の日本様式の神社も出現したんだよね」
「なんでだよどうなってんだ異界」
「僕も知りたい、本当にどうなってるんだろ。ちなみに名前はセントラルパーク免施守神社だった」
「セントラルパーク免施守神社」
ツッコミどころが多い名前のためか反応に困るかっちゃん。わかるよ、僕もツッコミどころが多くて逆に黙ってしまったし。
セントラルパーク免施守神社。セントラルパークのど真ん中に現れたその神社はヘルサレムズ・ロット唯一の日本様式の神社なため、あの街に住む日本人の大半は親しみ慣れた姿をしたその神社へ初詣に向かう。おかげでお互い敵対しているヤクザがバッタリ鉢合わせに、なんてことがあったりするようだけど、不思議と抗争にはならないとか。せいぜいメンチの切り合いくらいらしい。
神聖な場所とはいえ大人しいのが気になったので知り合いの元ヤクザに聞いてみたところ、どうやら境内で抗争を起こした構成員が祀っている神様を怒らせてしまいまとめて発狂、再起不能になる出来事があったらしく、それを恐れて境内では争わない暗黙のルールが出来たとか。気軽に介入してくるタイプの神様とかなにそれ怖い。
それでも境内で暴れないかぎり大人しいというわかりやすい性格のため、幾分か理解できてマシな部類の神ではある。
ちなみに僕は向こうにいた頃は参拝をしたことはない。神頼みするくらいなら研鑽を積み自分の手で勝ち取れという斗流の流儀もあるけれど、それ以上にあの世界の神はむしろ厄介事の側面もあり、下手にお詣りしてウッカリ目をつけられたりしたらどうなるかわかったもんじゃない。
そんなの天文学的確率だと思うだろうけど思い出してほしい。ピンポイントで術式に巻き込まれてあの街に飛ばされてしまった人間や、神々の義眼に選ばれてしまった人間が身近にいることを。前者は僕だし。
触らぬ神に祟りなし、そんなわけで近づこうとしなかったのだ。そもそも堕落王に雑に処理される神もいる以上、正直ありがたみが薄い。
かっちゃんに向こうでの仲間との正月や反応に困る神様小話などをしていると無事目的の神社までたどり着いた。久々に来た神社は人でごった返しており、新年の挨拶をする人、お詣りする人、お神酒や甘酒に舌鼓を打つ人などで賑わっている。ここまでで銃撃も破壊活動も
「……」
「そ、そんな目で見ないでよ。本当に危なかったら診てもらうから……。それよりほら、参拝しにいこう、ねっ!」
気まずくなったので無理矢理話を中断し境内に入る。もちろん一礼やお清めも忘れず行い、お賽銭用に五円玉を用意。
逆に十円は
「こまけえわ好きに入れさせろや」
「縁起いいしやってみようよ。僕ら今年雄英を受けるんだし、かっちゃんはやっぱ願うのは雄英合格?それともNo1ヒーロー?」
「あっ?誰がんなもん願うか。そういうのは手前の力で掴みとっから意味あんだろが、神頼みなぞ自信のねえモブ共がしてりゃいいんだよ。……テメエもそうやって足掻いて今の力掴みとったんだろ」
「あ……うん、そうだね……やっぱカッコイイなかっちゃん」
「うっせ全然だわ」
そんなことない。凄まじい倍率を誇る雄英の受験に不安はあるはずだろうに、おくびに出さず自分の力で掴みとると言い切るかっちゃんはカッコイイと思う。そう伝えるとケッと吐き捨て顔をそむけた。もしかして照れてる?
結局僕らは二人そろって無病息災という無難な願いになった。捻りがないと思うけどヒーローなんて怪我をしやすい職を目指すとなるとこれが一番贅沢な願いだろう。それと合格祈願は母さん達が願ってくれてました。期待に応えるべくお互い頑張ろうかっちゃん。目指すは首席だ。
「さて、お参りもしたし甘酒でももらいにいこっかかっちゃ―――」
ガシャアアアアアンッ!!
「ド、ドロボ―――!!」
「わ、私の財布が!?」
「ヒーロー、
これから自由時間、甘酒でももらって出店とか回ろうかと打診する時だった。物が壊れる音と共に
◆◆◆◆◆
「いゃっほー!掻き入れ時だぁーッ!!」
「待ちなさいカマイタチ三兄弟!」
「新年早々悪事を働きおって!神妙にお縄につけ!」
新年早々シンリンカムイとMt.レディは
現れたのは
長男の伊達
次男の伊達
三男の伊達
「俺が油断してる獲物を転ばせて無防備に!」
「そこへオレの手刀が獲物の鞄を切り裂き金目の物をむき出しに!」
「最後に僕がトリモチみたいにした粘液をくっ付けて回収する!」
「「「これぞ我らカマイタチ三兄弟の無敵の窃盗コンビネーション!!!」」」
名前はみみっちいが油断するなかれ。阿吽の呼吸とも言える一連の動作は、
それに彼らのコンビネーション技は窃盗をメインとしているが使い方次第では十分人に危害を加えれる技にもなる。転倒させるのも場所次第では危険だし、切り着けるのは言わずもがな、粘液も粘度を上げれば窒息させることも可能だろう。
「あーもーこんな人混みに入られたら私の個性使えないじゃない!」
「こちらも同様!小癪な手を使う!」
おまけに逃げ込んだ場所は神社の中。初詣でごった返している人混みは個性の行使を躊躇わせ、
「へへっ大量だよ兄ちゃん!」
「おう!ナイスキャッチだ弟よ!しかしそろそろヒーローを撒かないとまずいぜ兄貴!」
「だな、いつも通り適当な奴を使って足止めするか!」
長男がそういうや個性を発動。周囲の参拝客をどんどん転倒させる。尻餅をついて痛そうだ。
続いて次男の個性で近くの鳥居や社の一部、灯籠などの器物を切り裂き放り投げる。なんという罰当たりな。
そして三男の個性で参拝客や放り投げた器物にトリモチ粘液をくっつける。落下する器物は放っておくのは大変危険だが、受け止めようとすると……!
危ないとシンリンカムイは身体を樹木に変え伸ばし、飛び散る器物を回収する。しかしトリモチ粘液ごと回収せざるを得なかったため身体に張り付いてしまい動きを阻害されてしまった。
「ええい、剥がすのに時間がかかってしまう!Mt.レディ、奴らを頼む!」
「言われなくても!このままじゃあの子にバッタリ遭遇して仕事を奪われかねないしね!」
「冗談でもそんなこと言うのはやめろ!?」
シンリンカムイを置いてMt.レディはカマイタチ三兄弟を追う。ヒーローとしての意地もあるが、それ以上に嫌な予感がするのもある。
ここ最近折寺周辺で活動するヒーロー達には一つ悩みがあった。それは
ある時は逃げる際押し退けようとしてきた
本来なら公務執行妨害になりうるものもあるのだが、如何せん今まで彼から手を出したことはなく全て正当防衛、さらに命の危険に晒された場面もあるため過剰防衛とも言いがたく、おまけに本人も結果的に仕事の邪魔をしてしまっている自覚があり毎回心底申し訳なさそうに土下座からの謝罪を行うため叱るに叱りにくい。
本人も好きでしているわけでなく向こうからやってくる、さらに言えば失踪してた半年の間に海外でヒーローに死ぬほどの修行で鍛えられた結果、もはや条件反射で対処してしまうんですと土下座姿で説明してきたこともある。いったいどんな修行をしたのかと聞いたら途端に少年から生気が消え失せた時は驚き少し引いた。
とにかく最近そんな珍事が発生しているせいでヒーロー達が
「なんとしてでも捕まえる!事務所の!!利益のために!!!」
特にMt.レディは個性による器物損壊のせいで赤字にやりやすいため
「僕たち相手に付いてくるなんてあのヒーローなかなかやるよ兄ちゃん!」
「なぁにだったら次弾装填するまでだ!今度はあっちに行くぞ兄弟!」
「おうよ!ついていくぜ兄貴!」
そういって人混みをすり抜けつつ個性を使うタイミングを弟たちに示す。あそこにいる家族を起点に出口までの客共だ。そう指し示し個性を発動する。
「またする気!?いい加減に―――」
いい加減にしなさいと、最後尾の三男だけでも捕まえようと踏ん張りだしたその時だった。
「あー!!?ダメ!!それ以上はいけないやめなさい!!」
「はっ、んなこと言われてはいそうですかと素直に従うか!」
「あんたたちじゃない!向こうの子に言ってるの!!」
「「「へっ?」」」
彼女は向かう先を見て気付いてしまった。
緑天パで優しい顔をした、
カマイタチ三兄弟のコンビネーションは確かに見事だ。意識の外からの突然の転倒、石すら切り裂く手刀、汎用性の高い粘液を巧みに使う彼らは確かに名のある
だがしかし 重心を常にブラさずかつ瞬時に安定させれる技術と、刃物に慣れていて多少の切傷を歯牙にかけず、トリモチのような衝撃を殺すものごと貫通する膂力を持つ相手には無意味である。
「境内で!」
ドゴンッ!
「アイン!?」
「騒ぎを起こすのは!!」
ドゴンッ!!
「ツヴァイ!?」
「おやめください!!」
ドゴンッ!!!
「ドライ!?」
「私のボーナス―――!!?」
拳を三回振り下ろし
◆◆◆◆◆
「新年明けましておめでとうございます。この度は元旦から公務の邪魔をする形になってしまい大変申し訳ありませんでした」
「……あけましておめでとう。我としては今回ばかりは逃げられずに済んで助かったからいいが、それでも三が日くらいは大人しくしていてくれないか……?」
「僕だって好きで巻き込まれてるわけじゃないんです。本当に偶然巻き込まれてるんです……」
境内に
「あたしの臨時ボーナスゥ……モジャっ子に奪られた……」
そしてその側で落ち込みながら引っこ抜こうとするMt.レディ。土下座する少年に目に見えて落ち込むヒーロー達、埋まってる
うん、なんだこれ。
「……その、本当申し訳ありません」
「そう思うなら大人しくしていなさいよ!こいつら捕まえれたら臨時ボーナスが出たのよ!私の事務所今火の車で大変なのよ!?」
泣きそうな声で怒るMt.レディ。そういえば僕が向こうに飛ばされている間に事務所が半壊して建て直したってニッチな層の人たちの話を小耳に挟んだな。
「それに殴り倒すなら昼になってからやってよ!せっかくあんたが昼にやらかすって500円賭けてたんだから!」
「待って、僕で賭け事発生しているってどういうことですか二人とも?」
「待て我もそれは初耳だ。おいどういうことだMt.レディ?まさか他のヒーロー達と……?」
「え?あ、ま、待って待って違う、いや違わないけど。でも私のとこの
聞き捨てならない発言に僕は抗議する。知らないところで僕を賭け事に使われてたってどういうこと?さすがに僕でも怒るぞ。しかも聞けば内容が今日の朝、昼、夕の何れかという新年早々やらかす前提の内容だし。嫌な信頼だ。
結局Mt.レディも自分の失言に素直に謝り、お互い気まずくなったため双方両成敗ということでお咎めなく解放された。僕としても不問になるし個人程度の賭けを大事にする気もなかったため、むしろ得した方か。
それから解放された僕は改めてかっちゃんたちと出店を回ることにしたのだけど、そういえばかっちゃんは何処に行ったんだと探す。
少し周囲を見やると見つけた……のだけどまた参拝している。さっき参拝していたのに何故?しかもさっきは5円玉だったのに今度は1000円もつぎ込んでるし。しかもすごい念の入れようだ。あ、帰ってきた。
「お、おかえりかっちゃん。また参拝してたけどどうしたの?」
「あっ?神頼みしたくなったからやってきたんだよ悪いかボケ」
問題児を見る目でそう伝えてくるかっちゃん。このタイミングで神頼みなんてどう考えても僕絡みなのはわかりってるけど……ここはやはり聞くべきかな。
「……何を頼んだの?」
「テメエがヒーロー免許取るまでの間大人しくなりますように、だ。文句あるか?ねえよな??なあ???」
「…………はい」
ぐうの音も出ない願いに僕は首を縦に振ることしかできなかった。被害者側とはいえ迷惑をかけているのは事実なので甘んじて受け入れよう。本当ごめん、かっちゃん。
そして後日、地元ヒーローたちに僕を見張ってるよう頼まれているという事実を知り、さらに申し訳なくなるのだった。本ッ当ごめん、かっちゃん。
※個人的に気に入ってる所
・H・Lの新年抗争。
お雑煮以外にお汁粉と甘酒が候補にあった。
・セントラルパーク
多分憐れな落とし子とか星の娘とか老いた赤子がいる。
・知り合いの元ヤクザ。
現植物園管理人。義理の娘がいる模様。
・アイン、ツヴァイ、ドライ。
悪は滅んだ。ボーナスも滅んだ。
【誤字報告】
zzzzさん。蒼羽彼方さん。
誤字報告ありがとうございます。