My Hero Battlefront ~血闘師緑谷出久~   作:もっぴー☆

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Helckアニメ化決定なので第二十六話です。最推し作品のアニメ化にとうらぶ無双やエルデンリングより興奮を覚えてます。

大変お待たせいたしました。ひたすら描写(と保存ミス)に苦戦しましたがやっとこさ更新です。番外抜いたら二か月て。

戦闘難しい。


第26話:ぶぁああああああかッ!!

 爆豪は切島の連絡に顔をしかめつつも内容を聞いた。核が中央ホールの吹き抜け、ビルの一番高いところに張り付いてること。そこに行くまでの床全てが破壊されていること。そのため上に上がるには壁をよじ登るくらいしかないこと。そして角取がそれを邪魔して満足に登れないこと。それらを聞いていくうちにイラつきと呆れが積もりだし、最後には緑谷に向かい叫んだ。

 

 「テッメエふっざけんなや!!?」

 

 「どうしたのかっちゃん?」

 

 「どうしたじゃねえわ!んだこのクソアンチは!?手加減してやれっつっただろが耳腐ってんのかテメエは!!」

 

 「え?あー、これでも加減に加減を加えてるんだけど。やりたかった(ヴィラン)の手口あれこれ削っているし、かっちゃんが向かえばなんとでもなる分難易度はイージーとかそんな設定だよ?」

 

 「加減しなかったらなにやるつもりだったコラ!?」

 

 本当ならまだまだ難易度が上がることを自供されキレ散らかしながらツッコむ爆豪。状況がすこぶる悪い今、叫びたくなるのも仕方がない。

 そう、状況が悪い。確かに爆豪なら空を飛んで奪取は可能だが近くにいるのは切島でそれは出来ず、おまけに地形も不利で切島の個性も活かせる場面が少なく立ち往生。仮にここで角取が攻めてくれれば僅かながらチャンスを掴めるかもしれないが、足止めばかりでまともに戦う気がないせいで彼の個性も活かしづらく、このままでは勝つことは不可能だろう。

 爆豪は苦虫を何匹も噛み潰したような顔で睨みつけるが焦っているのかいまいち迫力に欠ける。

 

 「あっと演技演技……んんっおいおいさっきまでの勢いはどうしたヒーロー?どうすればいいか悩んでるのが丸わかりだぜぇ?

 

 「ちっ……!調子に乗ってるテメェに呆れてるだけだわ」

 

 「ふーん?まあどっちでもいいがな。それよりこっからドンドン速度を上げてくから簡単にやられるんじゃねえぞ!

 

 「ッ!」

 

 休憩は終わりだと言わんばかりに緑谷は槍を構え、再び攻撃を始める。先ほどの焼きまわしのような戦いが始まるが、しかし緑谷のその攻撃は先ほどより早く、捌くことも徐々に難しくなっていき緑谷の攻撃が掠りだした。

 

 (さっきよりはええのにこれでまだ本気じゃねえって、デクの野郎どんな修行すりゃこんなになりやがるってんだクソッ!!)

 

 好転する気配のない防戦にギリッと奥歯を鳴らし心で悪態を吐くが、そうしている間にも攻撃によりあちこちに傷が出来ていく。

 このままではタイムアップの前にやられてしまう。そう判断した爆豪は手札のひとつである手榴弾を切った。

 

 突きのひとつを大きく避けると同時に緑谷へ向かっていくつか放り投げる。弧を描き飛んできた手榴弾を目視した緑谷は、やばっと呟いた瞬間爆発、BOMBOMBOOM!と連続で起きる爆破と爆風が緑谷を襲いかかった。

 

 だがこの手のサポートアイテムは設計上威力はさほど高く作られていない。ヒーローである以上殺傷の危険性は人一倍注意しなくてはいけないため当然だ。それでも爆破のような個性ならば数次第では本来以上のダメージを与えることは出来るが。

 しかし今回ダメージは二の次。本命は複数の爆破により巻き上げた煙を使った目くらましである。それを以て接近を試みた。

 

 (覚悟しろやデクウウゥゥゥッ!!)

 

 手札を切って開いた好機。これを決して逃すまいと素早く接近する。そこへ煙の中から一本の槍が爆豪めがけて迫ってきた。

 しかしその速度は先ほどと比べて遅く難なく避け、逆に緑谷の位置が割り出される。見れば緑谷の猪マスクが視界に入った。

 

 「そこだあああああッ!!」

 

 BOOOOOM!!

 

 次の槍が来る前に!そう決めた爆破の一撃は、猪マスクへと吸い込まれ命中。渾身の一撃が入ったと確信を持った。

 

 

 「残念だけどハズレだよかっちゃん」

 

 「ガハッ!?」

 

 

 が、その思考もズンッと重い衝撃を受けたことにより霧散された。

 

 鳩尾に走る鋭い痛みに視界がふらつく。何が起きたがわからず混乱する最中、自分の下から声が聞こえた。痛みと吐き気を堪えながら顔を下ろすと、そこには仰向けになりながら爆豪の鳩尾に蹴りを入れた緑谷がいた。何故だ、今アイツの顔に向かって攻撃をしたはずだと、よろめき必死に肺へ空気を送る傍ら考えるがそれも煙が晴れることでわかった。

 

 目の前には両手が槍になった猪マスクを被るカカシのようなものが立っており、その足元から緑谷の指へ向かって血糸が伸びている。そう、爆豪が狙って攻撃したのはこのカカシだったのだ。先程の槍の攻撃もコレを操って動かしたのだろう。それを理解し、しまった逆に利用されたと爆豪は思い知らされた。

 

 「オグッ……テッメェ、ふざけた真似しやがってぇ……まさかここまでの見越してマスク被ってたんじゃねえだろうな……!?」

 

 「いいや、でもその場に合わせて臨機応変に対応していくのは慣れているからね。なんにしてもマスク=僕と安易に決めつけて攻撃してしまったのはかっちゃんの失敗だ、次に活かそう」

 

 「ぐはぁッ!」

 

 言い終わるやその場から跳ね起き、そのまま勢いをつけた蹴りが振りぬかれ吹き飛ぶ爆豪。激突した壁は砕け土煙が舞うのだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「切島ー!次は左だ避けろー!」

 

 「ちょっと爆豪の奴瓦礫に埋もれちゃったよ……大丈夫なん?」

 

 そのころモニター室では爆豪、切島ペアに応援と心配の声が飛び交っていた。自分にとってアンチみたいな(ヴィラン)の作戦に対して諦めず戦う切島の姿は贔屓目な応援になってしまう。

 一方、蹴りの直撃で吹き飛んだ爆豪への心配の声もある。訓練なのにまるで現場の戦いを見せられてるようなものなのだ。特に壁に激突し、瓦礫に埋もれた爆豪は生きてるのか不安になる。

 

 「オ、オールマイト先生。これ不味くないですか?爆豪の奴瓦礫から出てこないですし」

 

 「いや、訓練は続行だ。あんな吹っ飛び方したら心配になるのはわかるが現場に出たらあれくらい何度も目の当たりにするぜ。それに派手に蹴り飛ばされてはいるが咄嗟に腕でガードしていたから致命的なダメージにはなってないはずだ」

 

 さすがに訓練を中止にした方が?という声もちらほら聞こえてくるがオールマイトは訓練の続行を言い渡す。

 せっかくの首席同士の戦闘に策を弄した窮地の戦闘を中途半端に終わらすのはもったいない。私が個人的に二人の個性込みでの戦いを見てみたいというのもあるが。

 

 「それに―――ここから面白くなりそうだぜ生徒諸君。目を離すなよ?」

 

 耳のインカムから聞こえてくる声を拾いながらそう言うのだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「おいおいどうしたヒーロー。もう終わりか?

 

 緑谷のだまし討ちにより吹っ飛んだ爆豪は瓦礫に埋まったまま動くことなく時間が経過していた。

 端から見たら死んでいてもおかしくない飛び方をしていたが、まず死んでることはないだろう。何せ攻撃を当てるときに咄嗟にガードをしていたのを彼は知っている。とはいえ半端な防御だったため意味をなさず、気絶してるかもしれないが。だからといって確認するまで油断をするわけにはないと気を抜かず煽って様子をうかがう。

 

 「いつまで寝てんだヒーロー。時間がドンドンなくなるぞ?

 

 反応はない。

 

 「こんなところで終わっちまうなんてヒーロー失格だぜおい。聞いてんのか?

 

 反応は、ない。

 

 「……おーい、かっちゃーん。もしかして本当に気絶しちゃってる?もしもしかっちゃーん?」

 

 全然反応がないことが逆に不安になり素で話しかけてしまう緑谷。今のところ起き上がった気配がない以上そこにいるのは確かだが動かないことに逆にこちらが焦ってしまう。

 もしかして頭を打って気絶しちゃった?そんなことを思ってさすがに確認するべきかと近づこうとする。

 

 BOOOOOM!!

 

 しかしその瞬間、爆発が起き、大小様々な瓦礫が礫となって緑谷へ襲いかかってきた。その奇襲に驚きはしたがそれだけで、瞬時に展開した骨喰を盾にして防御する。

 礫の雨が止みもうもうと煙る中ガラリと瓦礫を押し退け爆豪が現れた。肩で息をしながら立ち上がったところをみるとそれなりにダメージが入っているのがわかる。

 

 「あ、よかった。まだ生きてた」

 

 「勝手に殺すな死ね!」

 

 だが口の悪さは健在のため心配はなさそうだ。

 

 「捕まえようともせずボーッと突っ立って煽るたあ余裕かましやがって……!だがそのおかげで溜まったぜ……!」

 

 「溜まった?」

 

 「どうせテメエのことだ、俺の個性がどんな仕組みかはわかってるだろ?」

 

 「うん、汗がニトロのような役割を果たしていて手のひらの汗腺から爆発させてるんだよね。汗をかかないといけないから初動は遅いけど汗をかけばかくほど強くなるから継戦能力はピカイチでタフネスなかっちゃんとの相性がいい。ただ爆破するたびに自分の手にもダメージが蓄積されてしまうだろうしおそらく痛みも相当あるだろうから自力での調整とサポートアイテムは必須になってくるはず。他には汗や火薬の臭いもしないからおそらく無臭で―――」

 

 「もういい理解しすぎだキメエ!!ったく……思ってる以上に言われて腹立つが話がはええ。親切にも教えてやるが、この籠手はその汗を内部に溜め込むことが出来て……んで籠手に内蔵してるピンを抜くと腕の向いてる方向に一斉起爆するようになってる。これがどういうことかわかるか?」

 

 「……今の状態からして、指向性の持った大爆発が僕に向かって放たれる?」

 

 「正解だ」

 

 なるほどそれを使って僕を倒してやると、そういうことか。

 ……いや待ってなにそれかなり危険じゃない?テストの時のかっちゃんの技を見る限りあれより劣るということはないだろうし、そうなると怪我で済まない可能性も……。オールマイト、これ止めなくていいんです?でも制止してこないということは許されてるということか?事前に籠手のことを把握してるのか、僕ならどうにか出来るという信頼の裏返しか。根拠なくまあいけるだろ!みたいな投げっぱなしでないことを祈ります。

 かっちゃんが籠手の一部を動かし準備しだした。しかし僕も好きでそんな大技を受けようとは思わない。かっちゃんの動きに警戒しながら、どうやって避けようか思案して、

 

 「―――逃げてもいいぜデク?」

 

 その一言で思考が止まった。

 

 「……なんて?」

 

 「逃げてもいいっつってんだよ。仕方ねえわな、なんせくらっちまえば大ケガ確定のやべえ技だ。俺だって初めて撃つからどんな風になるかわからねえ。だから逃げても文句はねえし仕方ねえってもんだ。だから気にせず必死こいて避けるなり尻尾巻いて逃げるなりしていいぜ……()()()()さんよお?」

 

 「………」

 

 ドンッと骨喰を地面に突き刺し身を隠すように防御の構えを取る。放たれる火力のその上を想定しさらに集中、厚みと強度を増やし、さらには大きさも変える。もはや大剣というより大盾と言える状態だ。

 

 「はっ、こんなクソ安い挑発に乗るんだな」

 

 「あーうん、いやまあ僕としては別に乗らなくてもよかったんだよ?あの街で冷静な判断を要する戦いとほぼ毎日飛び交う兄弟子の猿叫で鍛えられた僕にはその程度で判断を狂わせるのは至難の業と言ってもいいし?でも今は世界の危機でもなければ他者の生命を脅かす場面でもないし、だったら別にかっちゃんの挑発に乗ってあげるのも吝かじゃないというか、かっちゃんのそれ発動までに何アクションか必要な大技みたいだしわかっていれば回避されるのは目に見えているし制限時間ももうほとんどないしここで一か八か最後のチャンスとしてかっちゃんの大技に乗ってあげてもいいかなーなんて考えに至っちゃったっていうか?ほらかっちゃんの今の本気の火力を確認しておきたいしライバルの成長と壁は研鑽のモチベーションに繋がるため悪い事ばかりじゃないはずだしHAHAHAー」

 

 「で、本音は?」

 

 「おいコラ斗流をなめんな金平糖ヘッド。たんこぶでアフロになる覚悟は出来てるんだろうな」

 

 「上等ッ!!」

 

 ええそうです。斗流まで持ち出された手前冷静ではあるけど怒ってます。だけど僕でよかったと思うよかっちゃん。僕の場合口ではああ言っても一発入れたらだいたい気が済むし。ツェッド君なら三時間強制正座からの圧迫説教、ザップさんなら三時間宙吊り昼寝(シエスタ)とか精神的にキツいので攻めてくるし、師匠の場合……多分死ぬ。

 

 思考が脱線しかけたがかっちゃんが籠手の照準をこちらに合わせてピンに手をかけたところで意識を切り替える。骨喰の硬度は十分、崩せるものなら崩してみろ。

 

 「行くぞコラアアアァァァッ!!」

 

 「こいやああああっ!!」

 

 お互いの雄叫びと共にピンは抜かれ、瞬間今までのかっちゃんの記録を塗り替える程の爆破が放たれた。すさまじい衝撃と爆音はあらゆる感覚を掻き消し、巻き起こった熱風は肌を刺激し、盾にした骨喰をビリビリと震えさせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただ爆破はこちらにではなく、かっちゃんの頭上に向かって放たれていた。

 

 「…………へっ?」

 

 せっかく気合いを込めて踏ん張っていたにも関わらず何もされなかったことに拍子抜けし呆然とする。

 ポカン、としているそんな僕を横目に、かっちゃんは「あばよ!」と両手を爆破させ真上の穴に飛び上がっていった。先程の爆破で開いた、その穴に。

 そこまで動作を見て気付いた。あ、さっきまでのやり取り全部このためのブラフだったのか、と。

 

 「だ、騙したなかっちゃ―――ん!!?」

 

 「安易な決めつけでご丁寧に待ちに入ったテメーが悪いんだよぶぁああああああかッ!!」

 

 ぼ、僕がさっき指摘したことまんま言い返された!?ぐうの音も出ない正論だけどやたら声が弾んでるのが腹立たしい!

 いや余計なことを考えるのは後だ!急いでかっちゃんを捕らえないと!

 

 『Midoriya! (み、緑谷)There was a huge explosion and a huge hole!(クン!スゴい爆発が起きて大穴が!) What the hell hap―――(いったい何が―――)

 

 「Talk is after! (話は後!)Kacchan's flying in from(穴からかっちゃんが) the pit to take the nuke!(核を取りに飛んでくる!) Prepare to be stranded at all costs!(全力で足止め準備を!)

 

 『!Yes, sir!(りょ、了解!)

 

 角取さんが慌てた様子で通信を繋いできたので有無を言わさず指示を送る。後手に回ってしまった以上遊ばせる訳にはいかない。

 

 急いで大穴に近づき見上げる。幸いまだ距離は近く余裕はあるため得意の空斬糸コンボで捕らえるべく大急ぎで突龍槍を投擲。真上に向かって飛ばした槍は途中でほどけ、かっちゃんを縛り上げるべく迫る。よし、間に合った!

 

 「させっかよおおおおおおッ!!

 

 「って切島君!?」

 

 後はこっちに落ちてきたところを拘束してテープを巻き付ければと思っていた矢先、切島君が入れ替わるように落下してきて空斬糸を自ら受けた。こんな偶然あるわけもなく、どこかで事前に打ち合わせしていたのだろう。

 庇うように落下してきた切島君は空斬糸によって縛られるがそんなことを知るかとばかりに頭をこちらに向けて落下してきた。

 

 「即席必殺!滅手雄棲屠雷駆(メテオストライク)!!

 

 「いやそれただの自由落下ぁッ!!?」

 

 切島君のカラーリングと血糸が合わさってさながら大気圏から降ってきた隕石っぽく見えなくもないけど!でも自爆技じゃないかなそれ!?

 どちらにしてもこのままじゃ切島君が頭から地面に激突して大変危険なのですかさず紅絡新婦を展開して保護からのそのまま拘束。

 

 捨て身の攻撃が不発になり、ちきしょー全然役になってねえ!と切島君は悔しがっているけど、君のこの時間稼ぎに僕かなり焦ってるからね?攻撃を決めることだけが役に立つ訳じゃないからね!?

 

 「ああもう間に合えええッ!!」

 

 大急ぎで槍を再形成し投擲、再び高速で飛んでいく。かなり厳しいところだけど間に合うか!?

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 時間は爆豪が蹴り飛ばされたところまで巻き戻す。

 緑谷の容赦ない蹴りにより壁を崩し瓦礫に埋もれてしまった爆豪だが、その後瓦礫の中で極力動かないよう、それでいて身体は大丈夫か確認をしていた。

 

 (痛ってぇ……が、身体は動きそうだな。……デクの野郎デコイなぞ使いやがって。つか吹っ飛ばして壁まで崩すとかどんな脚力してんだあいつ……!)

 

 口に出さず悪態を吐きながらも蹴りを受けた腕の調子を確認するためぐうぱあと動かしたり力を込めたりと繰り返す。動かすごとに左腕がズキンズキンと爆破とはまた違った痛みを発するが、防御が間に合ったおかげで戦闘が続行出来ると考えれば必要経費だと割り切れる。仮にあの蹴りが直撃していたら戦闘不能になってたはずだ。

 

 しかし続行出来るが緑谷に勝とうとするのは極めて難しいだろう。なにせこっちはコスチュームを纏ってかつ相手は手加減しているのに追い詰められているのだ。おまけに負傷もしているためこのまま続けても惨敗は必至である。

 もちろん訓練開始前から戦闘面で勝てないのは理解していたが、それでもここまでやられっぱなしのまま終わるのは気に食わない。出来れば一矢報いて、あわよくば核を奪取して勝利を飾りたい。

 戦って負かすと言えないことが腹立たしく感じてしまうがひとまず作戦だ。どうやって一矢報いるか、緑谷がこちらに向かって来ないか警戒しながら思案する。

 

 (……つっても、手はなくはないが)

 

 手はある。ただしかなり危険、成功率低、自分が指摘した内容が被ると全然褒められたやり方じゃないため、作戦としては落第点以下の内容だ。それでも調子に乗ってるあのアホに灸を据えるためなら背に腹は代えられねえかとため息をつき作戦の打ち合わせをするべく切島へと小声で通信する。

 

 「おいクソ髪、黙ったまま話聞け。喋ったら殺す」

 

 『ばっばく……!?』

 

 「喋んな(ヴィラン)に気取られるだろうが殺すぞ。返事は咳一回ではい、二回でいいえだ理解したら返事しろ」

 

 『ッ!?』

 

 突然の暴君じみた通信に切島はツッコミそうになるがすぐさま抑えゲホッとひとつ咳をする。

 

 「よし、今どんな状況かわからねえがひとまずあの角女に気取られねえように体固めて防御の振りでもして誤魔化せ。出来たら咳払いで返事しろ」

 

 ゲホッ、と咳が聞こえた後、少しするとンンッと咳払いらしき声が聞こえた。どうやらうまく誤魔化したようだ。

 

 「それじゃ話すが……クソ癪だがこのままじゃ俺たちの惨敗だ。だから賭けに出るぞ。そんためにも核がどのあたりにあるかだが……このビルの一番高いところってことは中央にあるってことであってるか?」

 

 『!!ゲホッ!』

 

 「合ってんだな。だったら話は早え」

 

 最初にもらった見取り図を頭に叩き込んだ際吹き抜けになっていたのが印象に残っていたため、もしやと思ったがどうやら正解のようだ。確認を終えた爆豪はそのまま作戦の説明を始める。

 とはいっても内容は単純、爆豪が現在持ちうる最大火力を以て縦に穴を空けてその穴から爆豪が直接取りに行くだけだ。もちろん核に当たらないよう開ける場所は調整する。

 後は意図を察知されないよう緑谷をうまく思考誘導しないといけないがそこは爆豪、緑谷が食いつきそうなことはわかるためそこを上手く煽っていけばいい。

 

 「んでテメエには俺が穴開けた後デクの足止めのために肉盾になれ。アイツ相手だとうまくいっても速攻で血糸飛ばして拘束、ってオチが目に見えてるからな。だからテメエが穴から落ちて俺の代わりに受けろ。なーに、あのお人好しなら(ヴィラン)だろうが危なけりゃ救けてくれるだろうから心配すんな」

 

 『ゲホゴホッウェッホゲホッ!!?』

 

 言いたいことはわかるが扱い酷くね!?と、そう言わんばかりの咳の連続が耳に届く。相手に怪しまれてないか気になるがとにかく話を進めた。

 

 「うるせえ黙れ勘づかれる。そのあたりは適材適所だ、それともなんだ、自信ねえのか?いざって時にテメエはヘタレんのか?」

 

 『ッ!!ゴホッゲホッ!』

 

 心外だと言いたそうに咳き込む音が響く。それを聞いた爆豪はそれはやってやるってことでいいかと聞く。その問いにゴホッと即答するような咳がひとつ聞こえた。

 

 「通信は繋いだまま中央に寄ってろ、勘付かれるなよ。合図は……「行くぞコラ」だ。多分バレねえ」

 

 咳を一つ吐く切島の返事を聞いた爆豪は改めて緑谷の方に注意を向ける。マスクは先ほどの戦いで外したからか声色も素に戻って反応のないこちらを心配しており、もはや演技する気なしかよと心の中でツッコミを入れる。実は作戦会議が終わるまではちゃんと演技をしていたのだが。間が悪い。

 

 後は前途の通り、緑谷を挑発し――――、

 

 「安易な決めつけでご丁寧に待ちに入ったテメーが悪いんだよぶぁああああああかッ!!」

 

 作戦は成功、それはもう嬉々として悪態をついて確保に向かったのだった。声が妙に弾んでいるのは作戦が成功したからか、日頃の鬱憤も幾分か混っているからか……おそらく後者だろう。最近は緑谷にアレコレと振り回されてるため致し方ない。

 

 それからひたすら爆破を繰り返し登る爆豪だが、それを追うように後ろから突龍槍が迫ってくる。だがそれも入れ替わるように降ってきた切島が受けることで回避に成功、ここは任せろと言いながら落ちていく切島を横目に、作られた時間を無駄にせぬよう爆破を繰り返し開けた大穴から飛び出た。

 

 「ストップ爆豪クン!ここから先はキープアウト、エグジットはあちらにィなりマス!」

 

 それと同時に核を守っていた角取が全力で足止めをするべく四本角すべてを使って応戦してきた。足場にしていた角も攻撃に使っているため足場に乗っておらず血糸の命綱に吊るされた(つままれキーホルダー)状態なのがいささか間抜けに見えるが、一秒が勝敗を左右する場面で体面など二の次だ。お互い時間がないのだから。

 

 「邪魔だ退けやあぁぁッ!!」

 

 進路を妨害するべく角を飛ばしてくる角取だが、爆豪も負けじと爆破を繰り返し躱していく。あらゆる角度から飛んでくる角は脅威ではあるがそこは爆豪のセンスと個性、ひたすらに爆破による回避と破壊を行い無理やりに進んでいく。角取も大急ぎで補充と攻撃を繰り返すが緑谷の捕縛が間に合うかわからない分焦りだす。

 

 しかしその攻防も終わりを迎えた。爆破を繰り返す爆豪だったが、怪我をしていた左腕に激痛が走り爆破の調整を失敗してしまいバランスを崩してしまったのだ。

 

 (痛ッ!クソ、デクに蹴られた左腕がうまく動かね―――!?)

 

 バランスを崩したことで爆豪が減速し、そこをチャンスと角取は四本角全てを使って急いで爆豪を抑え込む。爆豪もなめんなと抵抗し爆破を行おうとするが、両腕を優先して抑え込まれたせいで軌道が安定せずそのまま抑え込まれ動きを止めることに。

 そうなってしまったら後は簡単だ。改めて飛んできた緑谷の槍が爆豪の元にたどり着き空斬糸を展開。縛りこむことで拘束完了。クソがあ゙あ゙あ゙あ゙と簀巻きで縛られ、吊るされながら叫びもがく爆豪の一丁上がりである。

 

 『タイムアーップ!!(ヴィラン)チームウィ―――ン!!!』

 

 「フウー……ギリギリセーフでシタ……」

 

 「ま、間に合った……ナイスサポート角取さん……!」

 

 そうして開いた穴から緑谷が登ってくると同時にオールマイトの勝利宣言が出され揃って安堵の溜息を吐き、お互いにサムズアップするのだった。




なおどっちが勝っても大して変わらないため勝敗はダイスで決まった模様。
その時のダイスがこちら

【1D10:7】
1~4.緑×角圧勝
5~7.緑×角辛勝
8~9.爆×切辛勝
10.【1D2:2】(1.クリティカル 2.ファンブル)

実は(ヴィラン)チーム、ダイスでもギリギリ勝利でした。

【誤字報告】

御影鈴さん。

誤字報告ありがとうございました。

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