My Hero Battlefront ~血闘師緑谷出久~   作:もっぴー☆

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辛い春バテと花粉症が治まったので第二十七話です。

久々の更新です。リアルの方がとても忙しくて(ずっとエルデンリングで鞭)書く暇少なくチマチマと(メインベルモンドプレイで)書いては消してを繰り返してました(遊んでましたごめんなさい)
あ、やめて石投げないで!毎回書くの難航してるのは事実なんです!

なおまだ全クリしてない模様。


第27話:痛覚生きてるのかなコイツ

 短くも密度の詰まった戦いはオールマイトが(ヴィラン)の勝利を宣言をしたことで終わりを告げられた。

 緊張の糸が切れ座り込む角取さんにお疲れ様と労いの言葉を送っていると、階下に放置していた切島君を担いだオールマイトが颯爽と登場。時間も押してるしさっさと戻って講評をするぜ少年少女!とさらに僕らも担いでそのままモニター室まで飛ぶように戻っていった。まだ十秒程しかたってない気がするんだけど、改めて早いなこの人。本当に怪我人なのか?

 

 モニター室に戻るまでの間に僕は血糸を解除して簀巻きにしていた二人を自由にして……かっちゃんの左腕が思いっきり腫れているのを確認して揃って顔をしかめることに。オールマイトが先に保健室行こうかと告げたけれど、講評終わったら勝手に行くから利用書だけ寄越せと固辞。講評を優先するかっちゃんに切島君がタフだなと呆れ半分で呟いているが、僕やオールマイトとしては身体を労ってあげてほしいため早々に向かうことを勧めたいところである。

 

 「あ"っ?労りとは無縁の修行してたドMゾンビ様がなんか言ったか?」 

 

 「ぐうの音も出ません」

 

 僕の修行時代の話を聞いて知っているかっちゃんに痛いところをつかれ目をそらす。ただマゾヒストじゃありません。

 切島君と角取さんがゾンビ?と首をかしげ、同じく知っているオールマイトも反応に困った笑みを見せるがそれ以上は踏み込まれることなくモニター室に到着したので講評を始めてもらった。

 

 「さて四人ともエキシビションお疲れさん!早速講評に移るが……さて首席コンビに質問だ。今回の戦いのベストは誰かわかるかね!」

 

 「角取さんです」

 「角女」

 

 「OKわかってるようで結構だ!」

 

 この戦いのベストは誰かと聞かれたのでかっちゃん共々角取さんだと即答した。首席が揃って指名したことに角取さん本人は少々驚いている。

 

 「わ、私デスカ?私はプラン考えた緑谷クンか出し抜いた爆豪クンと思いますケド?」

 

 「いや、確かに作戦で二人を苦しめたと思うけど、みんなの戦闘の参考になるように、なんて余計なことを考えてかっちゃんを倒さず戦闘を長引かせて、結果負けかけたから四人のなかで一番評価悪いかも。(ヴィラン)が舐めてそんな行動とるときはあるけど本当稀だし、ああいうのは大体目的達成後のお楽しみ程度にやるもんだ。」

 

 「テメエがんなこといったらこっちなぞクソ舐めプされて少し足掻いて終いだぞコラ。こんなん評価されて喜べるほど面の皮厚くねえわ。大体最後の、ありゃ俺が丸顔と垂れ手に指摘したのと同じ事してんだぞ。核の位置割り出して当たらねえようやってるが、んなもん言い訳になんねえしむしろ意図して爆破してる分ゴミ評価以下だ」

 

 「あ、言われてみたら私たちに言ったミスまんまだ」

 

 「確かにそうね。……そうなんだけど、だからって首席が揃って自己評価低すぎるのはどうなの?首席以下の私らの立場ないんだけど……」

 

 僕らの自己評価に周囲から納得と呆れの声が挙がる。それじゃあ切島少年と角取少女の評価はどうかとオールマイトが問い、今度は八百万さんが手をあげた。オールマイトの顔が彼女を見てわずかに顔をひきつらせたのは、八百万さんが講評しだすと言いたいこと軒並み言われるためだろう。

 

 「切島さんは爆豪さんの無茶な作戦に乗り挽回したのは良かったですが緑谷さんがお膳立てしました作戦に完封されてしまったあたりベストとはどうしても言えません。

 逆に角取さんはしっかり指示に従い守り抜き、そのうえで簡単なアドバイスを送って一方的な訓練にならないよう調整したのはよかったかと。もちろん許可を得ているとはいいましてもこれが実戦でしたら(ヴィラン)に塩を送る行為のため控えるべきですが。

 他にも大爆発に驚きはしたものの、その後はすぐさま連携を取り妨害して功を為したことを鑑みますと、やはりお二方の言う通り角取さんがこの中でベストと思われます」

 

 それぞれの理由をあげつらいそう締めくくった。オールマイトの笑顔が少し引き攣っている。絶対思った以上に言われて困ってるな。

 

 「うーんやっぱり言いたかったこと大体言われちまったよ……!ま、まあ角取少女は今度は自分でお互いの持ち味を活かした作戦を考えたりするのが課題かな、うん!他に気になるところとかないかい?」

 

 言いたいことを言われたため頑張って内容を捻りだすオールマイト。僕も同じ気持ちです、大方言われました。

 しかし他に言われなかったところで気になる点があるとすればなんだろ。強いて言うなら……、

 

 「デクの下手くそな演技」

 「かっちゃんが口喧嘩に弱い所かな?図星つかれるとすぐ黙るか怒るのはどうかと」

 

 かっちゃんと同時に声が発せられる。

 

 「色々考えるくせに詰めのあめえデクの頭」

 「他にはかっちゃんがいちいち叫んでうるさいところが悪い意味で目立ってる」

 

 再び同時に声が発せられる。

 

 「デクのクソ口」

 「かっちゃんの(ヴィラン)顔」

 

 再び…………。

 

 

 

 

 「死ぬかクソナード?

 

 「吐いた唾は戻せないぞウニボーイ

 

 「はーい二人ともすぐメンチ切らない!えーと、誰か他に何かないかな?あるよね!」

 

 ついつい発展した口喧嘩(じゃれあい)をオールマイトは慌てて止め、必死で方向転換を促す。戯れに付き合わせてしまって申し訳なく思うがそれでもなにか、なにか~と考えてくれるあたりみんな律儀だ。そうして頭を捻ってくれてると凡戸君がそういえばと質問してきた。

 

 「緑谷が~立てたっていうあの作戦?あれもやっぱり元ネタとか~あったりするの?尾白君と耳郎さんの時みたいに~?」

 

 「あるよ。脳筋達の宴事件って名前」

 

 「なんて?」

 

 突如告げられた変な事件名になにそれと困惑する凡戸君。否定はしない。

 

 脳筋達の宴事件。

 ある日一等地に建っていた40階建てのビルを隠れ蓑に実物付きの兵器闇オークションが行われた。それだけならまだよくある闇オークションだったのだけど、ここで間抜けな出来事が発生。なんとひとつ上の階でもあらゆる爆発物の闇オークションが行われていたのだ。無論こちらも実物付きで。

 お互い秘密に秘密を重ねた結果双方気付かずに行われ、そのビルは厄ネタを二つ抱えたのである。

 

 そんななか、核至上主義テロ組織「アトムの羊達」なる組織はどうやって嗅ぎ付けたのか爆発物オークションで取り扱っていた最新の小型核の強奪をするべく襲撃、戦闘が発生した。

 その時兵器オークションに持ち込まれていた人造兵士36体が危険を察知し、自動防衛システムが起動、偶然が重なり三つ巴の乱戦状態に発展、多数の死傷者を出すことに。

 その後アトムの羊達構成員が運よく人造兵士の制御装置を確保し、36体中18体を掌握、辛くも勝利するも少なくない仲間の消耗、HLPD出動により籠城を余儀なくされた。もちろんダニエル警部補の要請で僕も参加することに。

 

 しかしこの籠城はテロリストに味方した。扱っていた商品が総じて彼らの助けになったのだ。

 核による脅しで警察に抵抗はもちろん、その間に指定した範囲のみを消滅させる空間焼失爆弾、指定対象のみ爆破するピンポイントボムなどを駆使してビルの下40階弱の床をまるっと撤去。そこに兵器オークション内にあった壁での移動を可能にするアサルトスパイダー(某蜘蛛男のアイ○ンスパイダーみたいなの)を装着した部下や人造兵士を配置することで地上からの攻撃を妨害することに成功。空は空でハウンド・ドッグなる生物ヘリで警戒され膠着状態に持ち込んだ。

 

 さらに厄介事は続く。相手の身体に埋め込むことで指示を無視すると起爆する寄生型小型爆弾が人質に使用され、核を守らせているという情報が忍び込んでいた通りすがりの単身赴任中のサラリーマンからリークされた。

 人質兼鉄砲玉×四人追加されたことにダニエル警部補が頭を抱えたが、さらに爆弾を仕込まれた人質四人はさる国の軍事関係者と重鎮という厄ネタのおかわりを告げられ、これにより人質救出の難易度と優先度が余計跳ね上がることに。ダニエル警部補はふざけんな何やってんだあの国の連中共はとブチキレた。

 

 結局世界の均衡に影響をもたらしかねない事態に発展したためライブラと人狼局にも要請をかけることに。最終的にクラウスさん達による陽動及び地上制圧、レオさんの義眼による偽装、K・Kさんの援護狙撃、斗流組と単身赴任中のサラリーマンによる電撃作戦、そしてチェインさん達人狼部隊が存在希釈を用いて爆弾を希釈撤去することで人質救助に成功。無事事件解決に至った。

 

 仮に人質の詳細がなく死者が出てしまったらそこから国際問題に発展する可能性もあっただろう。ありがとう情報提供及び制圧に協力してくださった通りすがりの単身赴任中のサラリーマン。何者ですかあなた。

 

 なお名前の由来は三つ巴になった時、何人かは交渉をしようとしたところ聞く耳持たれず、こうなった以上勝つまで殺る!という馬鹿みたいな選択しか取らなかった脳筋っぷりを皮肉ってつけた名前らしい。交渉派に少し同情した。

 

 そんなあの街ではまだありふれた枠に入る事件をあれこれ改竄しながら説明していくとみんなが揃って嫌そうな顔をして話し出す。聞けばやはり人質兼鉄砲玉をどう対処すればいいのか一様に悩んでいるようだ。市民を決して蔑ろにせず優先して助ける手段を考える姿はやはりヒーロー科の生徒だ。是非とも彼らには僕のような、世界の均衡のため手を汚す人間にならないでほしい。

 そんななか今度はオールマイトが質問を飛ばしてきた。

 

 「そういえば戦闘中インカムで拾った会話に今回の作戦は難易度イージーで策をいくつも取り除いてると言ってたが難易度はいくつかあるのかい?」

 

 「あ、はい。難易度は全部でイージー、ノーマル、ハード、地獄といった感じでしょうか」

 

 「最後の難易度怖いよ!?」

 

 オールマイトのツッコミが響き渡るが時間も迫っているためすぐさま気を取り直して難易度があがるとどうなるか聞いてきたため軽く概要を挙げる。

 

 ノーマルは追加で核周辺に拘束罠を設置して接触すると捕まえるように。再設置はなし。

 

 ハードではさらに角取さんを(ヴィラン)兼人質として演技してもらって撃退すると死亡するように。もちろん死んだ振りをしてもらうだけだが血法で作った血袋を破裂させる演出もあるため心底心臓に悪い。

 

 そして地獄になると師匠よろしく罵詈雑言を浴びせながら襤褸雑巾になるまでしごきまくるように。……まあまず訓練にならないため、この難易度を選ぶとすればせいぜい舐め切った態度を取る相手にお灸を据える時くらいだろう。

 

 それらを説明していくとみんなの顔が引き攣りだし、かっちゃんに加減しろボケと蹴られた。イ、イージーにしたじゃん。

 

 「これ下手しなくても全部乗せで一方的にボコってくる可能性もあったのかよ……。つーかハード以上の発想が怖えよ!?」

 

 「ヤバい緑谷が腹黒ドSにしか見えないよ……!あ、そう思うと普段の笑顔も胡散臭く感じてきちゃった」

 

 「緑谷、お前もまた獣だったか……!」

 

 「待っていくらなんでも酷くない!?僕(ヴィラン)の手口を参考にしただけでそういう人間じゃないから!?」

 

 「でもデク君もそんな手段選ぶのもどうかと思うけど。私も聞いててちょっと……特に最後のはえぇ……ってなったし、」

 

 「ん……」

 

 「Oh……!」

 

 み、味方がいない……!ダメ元でかっちゃんに救けを求めるような目を向けたけど鼻で嘲笑(わら)って小さく中指を立てていた。こ、ここぞという時に煽ってくるなかっちゃん、みみっちいぞ!?

 仕方ないじゃないか、僕の関わった事件は大体トンデモ超常だらけで、そこから違和感がなく五分の準備時間で使える事件、なんてさらに限られてくるんだよ!

 

 「お前ら仲良いのか悪いのかわかんねえな」

 

 「うぅ……喧嘩するほど仲がいいと思って回原君……。今回の手口はとても不評だったし、次(ヴィラン)の作戦を立てる時は引かれないようもっと注意するよ……」

 

 「次も前向きに(ヴィラン)をやるって考えもどうかと思うぞ」

 

 「追い討ちはやめて!」

 

 ―――キーンコーンカーンコーン―――

 

 「はい君たちチャイムが鳴ったし授業終わりだ!戻って着替えて下校の準備をしよう!!」

 

 都合よく授業終了のチャイムが鳴り、オールマイトが声を上げて無理やり授業を終わらせた。収拾がつかなくなり始めたし本人の制限時間のこともある。原因の一端を担ってしまったぼくも協力して収拾に尽力しないと。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 放課後、一足先に着替えをすました僕は自販機であれこれとジュースを買っていた。何故かといえば訓練の時に約束した詫びジュースのためだ。ついでにクラスの男子たちにもほしいものを聞いており(こちらは事前に代金をもらってる)僕は黙々と買い続けていく。

 僕一人に買わせに行くのは悪いと何人かが手伝うとは言ってくれたけど、どうせお詫びのついでだしゆっくり着替えておいてと固辞。こういうのはザップさんのパシりで慣れているため全然問題ない。嫌な慣れだ。

 買ったみんなのジュースを血法でまとめて縛り教室に戻る。お待たせ買ってきたよーと入るや待ってましたと歓声があがり、取りに向かってきたためこちらも縛っていた血糸をほどいて血手に再形成。20本弱の飲み物を何人も同時に配るという小技を行い何名かは本当器用だなと感心している。これくらいあっさり出来ないと斗流を名乗れないし仕方がない。

 

 「ありがと緑谷、でも悪いね結局奢らせちゃって。今度はウチが奢るよ」

 

 「元々悪いのは僕だし別にかまわないよ……って言ったら今度は耳郎さんがスッキリしないか」

 

 自業自得だしここの雄英の自販機は安いから気にしなくていいのだけど、それだと耳郎さんの気が晴れないだろう。さっきはみんな僕の意を汲んでくれたし、今度はこっちが汲む番だ。

 そんなわけで次回は耳郎さんに奢ってもらうことに……と思ったら麗日さんがじゃあその次は私も奢るよ!と言い出し、そこから流れでみんな一回ずつ奢ってくれることになった。みんな律儀でいい子だ。

 

 「女に囲まれて約束事たぁ楽しそうだなぁ緑谷ぁ……?」

 

 そして流れるように嫉妬してくる峰田君。僕は君のその我が道を行くところ嫌いじゃないけど周りはそうじゃないから気を付けてね。ほら、女子達がちょっと引いてるよ。まあそれもみんながジュースを飲み談笑しだしたことで霧散したからいいけど。

 

 まだ話していない生徒同士で自己紹介しあったりお互いの趣味の話をしたりと高校生らしい話題で場が賑わう。ほとんどの生徒が残っているため放課後とは思えないほどの密度だ。

 そういえば轟君がいないなと思い聞いてみたら切島君達が誘ったけど先に帰ってしまったとのこと。話せる機会だったのに、残念だ。

 

 気を取り直し他のみんなとアレコレと話してると徐々に話はヒーロー基礎学のことで盛り上がりだした。個性を用いた実践訓練の興奮冷めやまない今のうちに自他の良し悪し、見てて面白かった、危なかったところなどが話されている。

 

 「爆豪の個性すごかったよね!ビルをボボボボーンって縦にぶち抜いていったアレ、モニター室にまでゴゴゴゴって揺れたんだからさ!」

 

 「轟君もすごく強かったノコ。私たちの合わせ技あっという間に制圧しちゃったし。あれ自信あったんだけどなあ」

 

 「いやいや、小森氏と峰田氏の合わせ技はとても素晴らしかったですぞ。私のような直接戦闘を軸とするヒーローにとって苦戦は免れませぬ。相性が悪かっただけであれは誇るべき作戦ですぞ」

 

 「そうだよ小森さん。二人の合わせ技は自信を持っていいよ。普通ならあんな所を歩き回らないといけないなんて時間切れか焦って罠に引っ掛かって終わり、なんて全然あり得る話だし」

 

 あの戦法はすごかった、その個性ならあの状況でこうするのもありかも、といったようにあれこれ話し合いになり、いつの間にかみんなが参加していた。

 

 「しかし緑谷君の戦いもすごかった。最後は油断してしまったがそれまでの爆豪君の攻撃をすべて防ぎ、相手の裏の裏をとって翻弄!入試の時もそうだったが反応速度、判断力、どれも高いのはやはりヒーロー活動の賜物か!」

 

 「それに身体の使い方を十全に理解してるのがよくわかる動きだったな。俺も武術をやってるから参考になるよ。緑谷は昔から何かやってたのか?」

 

 話は徐々に僕の話題へと変わり出した。作戦はともかく、かっちゃんを戦闘で一方的に追い詰めた僕の実力をみんな高く評価してくれており、武術を嗜んでる尾白君も気になったのか質問を投げ掛けてくる。角取さんと切島君はモニターで見ることが出来なかったことに残念がっているため、そのうち鍛練でも見せてあげようかな。その時はかっちゃんも巻き込もう。

 

 「あー、僕十四歳までロクに鍛えていなくて、一時期向こう(H・L)に飛ばされたときに師を紹介してもらってそこで鍛え始めたから、実は昔からというわけじゃないんだ」

 

 「え?いやいや、さすがに嘘でしょそれ。あそこまでの動きを一年そこらで出来るものじゃないぞ?」

 

 「ウン、ソウダネ。でも証拠もあるよ」

 

 嘘は言ってない、十四歳までまともに鍛えていなかったのは事実だ。

 本当は二年間修行に明け暮れ、さらに二年以上ヘルサレムズ・ロットで戦い続けたのだけれど、それを伝えるにも時期に大きな矛盾が生じるため誤魔化しておく。

 本当なら四年強も経過していると身体も成長していて辻褄を合わせるのが大変なのだけど、向こうにいた間は身体の成長が止まっていたためその辺りを違和感なく誤魔化せるのは助かっている。よくザップさんに小さいことで弄られたため少々複雑だけど。

 

 僕は証拠としてスマホの中から当たり障りのない修行前の僕が写っている写真を漁り見せた。そこに写る僕はヒョロガキという言葉が似合うほどの貧弱な身体をしており、今の僕と見比べたクラスのみんなは大層驚いている。

 

 「え、このヒョロヒョロなの緑谷?マジ?本当にここから半年でそんな身体になったの?」

 

 「いや、身体自体は二ヶ月半で鍛え上げてもらって、そこからは実戦による経験と研鑽に費やしたから身体に関しては半分にも満たないかな」

 

 「いや二ヶ月半とか絶対嘘でしょ?」

 

 柳さんに本当のことを言ってみたがやっぱり信じてもらえないようだ。二ヶ月半で鍛え抜かれた肉体を得るなんて普通に考えてあり得ないことだし致し方ない。

 僕の鍛える前の写真をどれどれとみんなが回し見ていきヒョロヒョロだ~、ほんとに緑谷?実は双子の兄弟とか?CGじゃね?と色んな反応が飛んでくる。

 

 「あっスライドしちゃった。えーっと戻すのは―――」

 

 そうやってみんなが写真を回し見していくうちにうっかり次のページにスライドさせてしまったようで……その次の写真を見た麗日さんは突然固まってしまった。あれ、どうしたんだ?

 他のみんなも気になりどうしたどうしたとスマホを覗き、途端えぇ……?とか何これ……?といった呟きが漏れる。さすがに何を見たんだとスマホを返してもらい確認するとその理由がわかった。

 

 返してもらったスマホに写し出されていたのは……修行開始早々、襤褸雑巾になるまで鍛えられ、一歩も動けず色々と垂れ流して倒れている姿の僕だった。画像はしばらく一緒に修行することになったザップさんが撮って送ってきたものである。

 消せばよかったんだけど消したら消したでザップさんのことだからせっかく「兄弟子様渾身の激写写真を消すとはいい度胸だな~」とか(のたま)ってウザ絡みしてくるのが目に見えており、諦めて放置し、すっかり忘れていたそれが偶然見せた画像の隣にあり見つけてしまったようだ。

 

 嗚呼やってしまった。せめて隔離フォルダに移しておくべきだったぞ過去の自分。

 過去の失敗を心から嘆きたいが、困惑の表情のままクラスのみんなはこちらへと質問を投げかけてくるためそれもままならない。ひとまず彼らの質問に答えなければ。

 

 「あの、緑谷さん、白目を向いて倒れておられますのは一体……?」

 

 「あーうん、修行の後だからね」

 

 「泡もブクブク吹いてるけど」

 

 「うん……、限界の向こう以上に動かされ(プルスウルトラし)たからね」

 

 「泡も赤いし、しかもあちこち色んなもの出てるのは……?」

 

 「…………血反吐吐いてたから」

 

 「お前の隣に写るあまりにも禍々しい巨大な足跡は?」

 

 「………………修行先にいた山の主って言われてた小型トラックサイズの巨猪(きょちょ)の足跡です……」

 

 「きょちょ」

 

 質問に答えていく内にみんなは少しずつ引いていく。僕も答える度に修行を思い出し声からみるみる力がなくなり、とどめとばかりに麗日さんが切り出した。

 

 「……デ、デク君。これどういう状況なん?」

 

 「……修行初日の基礎体力作りの一幕、弟子入り早々さっき言った山の主に丸一日追われ続けた後だよ。最初の五分で吹っ飛ばされて動けなくなったんだけどそこから師匠の個性(血法)で無理矢理動かされて追いかけまわされては吹っ飛ばされて……終わったころには写真の有り様で最後は指一本動かせない状態に。まあその後血流操作やらアレコレ調合した薬、経絡秘孔みたいなのを血針で突いたりで無理矢理治癒力を上げて急速再生と超回復を促して、翌日には身体が動くようになってそのまま修行再開してたけど。治療中は毎回激しい痛みに泣き叫んでは五月蝿いと一蹴されたっけ……。

 ちなみにこの日からしばらくの間はご飯が山の主でした……。あの巨体を数日かけて平らげさせられたのもいい思い出だよ」

 

 「ひぇ……」

 

 力ない説明に一同ドン引き。どこまで冗談?と疑うような視線が送ってくるけれど、残念ながら全部実話です。

 でもこれ、まだマシな方です。これ以降の修行で人食い狼とか人食い虎とか人食いアライグマとか人食い部族と鬼ごっこしたことに比べれば……。

 

 「……あれ、なんで僕生きてるんだろ?」

 

 「目が死んだ!?正気に戻ってデク君!」

 

 「ハッ!?」

 

 修行時代を思い出して心が死に目からハイライトが消えるや、その豹変に焦った麗日さんが必死で揺らして呼び掛け正気を呼び戻してくれた。あ、危ない危ない。

 なおそんな僕を見てA組のみんなから「なに今のホラー」「()(まなこ)に深淵を見た」「瞳のRGB/zero」などなど、散々な言葉を頂くことになったけど聞き流しておく。

 

 「ごめん、修行時代を思い出してしまってちょっと心が……。師匠との修行は毎日三途の川を往復する日々だったからトラウマになってしまってて……。他にも肉食獣に三日三晩追いかけ回されたり大量の吸血コウモリと僕の血を奪い合ったり地雷源の上で師匠の攻撃を文字通り死ぬ気で避け続けたりそんな修行ばっか受けていたからどうしても……あー駄目だ思い出したらまた震えが止まらなくなってきたいい加減慣れてくれよ僕の身体

 

 「デ、デク君のお師匠さんってなんなん……?」

 

 「デス仙人です」

 

 僕の返答にみんながさらに引いていく。意味はよくわからないが緑谷がこうなるんだからかなり怖くてやばい人なんだろうと。切島君と角取さんもさっきのゾンビってそういうことかと理解したようだ。よくそんな修行についていこうと思ったなと呆れてる人もいるけど、そこは自ら望んで選んだことなので仕方ないです。

 

 ただ誤解しないでほしいけどあの人は怖くはあるけど僕にとっては慈悲深く、心から敬愛する師でもある。

 確かにあの地獄とも言える修行は血反吐を吐く日々だったけれど、それは十年の遅れを最短で取り返したいと願った結果だ、ケチをつける気はない。

 それに本当に危ないときは助けてくれ、日常に戻っても支障をきたさないよう五体満足を維持してくれた。毒を食べて生死の境を彷徨った時も付きっきりで看病してくれたし、なによりあのザップさんが悪態を吐きながらも慕うほどの御人だ。ツェッド君に選択を与え導いたことといい、解る人が見れば根は好々爺だと解る。

 

 なにより師匠は僕を……その力を利用させろとまで啖呵を切った僕の夢に手を貸してくれた。

 これくらいやり切ってみせろと言わんばかりの過酷な修行だったけど、そのおかげで僕は力を手に入れた。誰かを守れる、救けを求める手を掴んであげられる力を。なにより僕を仲間と認めてくれた兄弟子と、君はヒーローだと言ってくれたクラウスさんに報いることが出来る力を。彼らがいたからこそ僕は頑張れた。

 

 もちろん師匠達だけじゃない。

 ライブラのみんなからも技や知識を頂いた。

 ダニエル警部補達関係者からも己の矜持と誇りを学ばせてもらえた。

 ビビアンさんやリール君達の笑顔が僕に守る勇気を与えてくれた。

 そしてレオさんから、世界を救ってしまうほどの眩い人間の魂を垣間見ることが出来た。

 

 本当僕は恵まれている。これだけの人達から、それこそズルいと思えるほどたくさんのものを頂いたのだから。

 だからこそもらったこの力で誰かの命も世界も救って、笑顔を明日の世界に繋げることが出来るそんなヒーローでありたいと願う。そのためなら、僕はこれからも誰かのためにこの命を燃やすし、苦しんでる誰かの心に寄り添おう。

 

 師匠やライブラのみんなを思い出し、心の中で決意新たにする。すると突然パチパチパチと音が鳴り響き、何だと見てみれば、クラスメイトの何人かがこちらへとおぉ~っと感嘆の声を挙げ、ついでに飯田君がすごい勢いで拍手していた。え?どういうこと?

 

 「ブラボー!!君の師匠達もそうだが緑谷君のヒーローへの決意と覚悟もとても素晴らしい!感動した!!」

 

 「え?」

 

 「たった半年と思ったけどそれだけの思いが篭るほどの出会いと経験があればその強さも納得出来るかもな……。しかし世界も救ってみせるとか大きく出たな」

 

 「え??」

 

 「確かに気合いが入る話だったね。修行内容はちょっとアレだったけどなんていうか、カッコいいじゃん緑谷」

 

 「え???」

 

 え、待って?なんでみんな僕にそんな称賛を……って決意表明?世界を救う?僕そんなこと口に………………あっ。

 

 「……回原君。もしかして僕さっきから喋ってた?」

 

 「喋ってたぞ。もしかして気付いてなかったのか?」

 

 「喋りだしはなんて言ってた?」

 

 「師匠は怖いけど慈悲深いって言ってたぞ」

 

 「ほぼ全部!!?」

 

 うっわあああああああッ!?は、は、は、ははははははず、恥ずかしいいいいいっ!!

 え、待って、僕無意識のうちに考えてたこと垂れ流してたの?恥ずかしすぎるんだけど!?なんなの、考え込む癖が変な方向に成長した?全然いらないぞそんなの!?いやそんなことよりも重要機密とか口走ってないよね?嫌だよこんなバレ方!

 

 あまりの恥ずかしさに悲鳴をあげながら両手で顔を覆って蹲った。顔から火……どころか七獄も出せそうなくらい熱がこもってるのがよくわかる。

 羞恥心に押し潰されそうな僕にみんながカッコよかったとフォローを入れてくれるけど、ごめん逆効果だから今はそっとしておいて。

 

 「テメエらアホ囲んでなにアホやってんだ」

 

 あうあうと蹲っていると後ろから聞き慣れた声がして振り返る。見ればかっちゃんが保健室から帰ってきていたようだ。

 ナイスタイミングだかっちゃん!申し訳ないけどこの空気を無理矢理変えるために弄らせてもらうよ!

 

 「おおおおかえりかっちゃん!う、腕はどうだった!?」

 

 「うっせえ顔赤くして何慌ててんだアホ。骨折ってただけで大したことなかったわ」

 

 「それは大したことだよかっちゃん!?」

 

 しれっとそう言うかっちゃんだけどそれ大怪我だからね、リカバリーガールでどうにか出来るからって雑に扱うのはよそうよ。君講評中終始左腕を抱えてしかめっ面だったでしょ?

 しかもそんな状態になるまで爆破を繰り返していたのだ、もはや痛いどころじゃないだろうにそれを大したことないと一蹴するとなると、もうタフネスお化けとか以前の問題だぞ。痛覚生きてるかっちゃん?

 

 「おいコラ今くだらねえこと考えたろ」

 

 「いや、痛覚生きてるのかなコイツくらいしか考えてないけど……って待ってゴメン口が滑った怒らないでゴメンゴメンって!無言で近づいてこないで怖いから!ほらコーヒーあげるから許して!」

 

 「WAXコーヒーじゃねえか!んなゲロ甘コーヒー寄越すんじゃねえわッ!!」

 

 そうキレたかっちゃんはWAXコーヒーを分取るや一息に飲み干し「クソあめえ!」と叫びながら教室の隅にあるゴミ箱に叩き込むように捨て、ついでに僕のもう片方の手に持ってたブラックコーヒーをひったくって飲みだした。

 

 ……あのかっちゃん、僕渡そうとしたのブラックのほうでWAXコーヒーは僕の分なんだけど。いや別に飲んじゃ駄目ってわけではないけど、君甘いの好きじゃなかったんじゃ―――あ、そういえばリカバリーガールの個性受けたんだっけ。

 あの個性を受けると回復するために体力持ってかれるって麗日さんが入試後教えてくれたっけ。それなら体力回復に甘いものが欲しくなるのも納得が…………いや、それはそうと二つとも持ってくかな普通?確信犯だよね絶対?

 

 「あー……緑谷、買ってくるけどWAXコーヒーでいいかな?」

 

 「あっはい、ありがとう耳郎さん」

 

 早速耳郎さんが奢ってくれました。なんかゴメン。

 

 




おまけ:事件後ある日の師匠との会話。

緑「―――とまあそんな凄腕サラリーマン?がいまして。ザップさんが「言いたかねえがあいつには勝てるかわからねえ」なんて言っているあたり、世界は広いと実感させられました師匠」
師「そやつ儂の古い馴染みじゃぞ(キシャシャキシャシャキシャキシャシャ)
緑「えっ」
師「次いでに言えば喧嘩友達じゃぞ(キシャキシャキキシャシャギシャシャ)
緑「えっ」

【誤字報告】

日傘看咲さん。大自在天さん。someyさん。

誤字報告ありがとうございました。

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