My Hero Battlefront ~血闘師緑谷出久~   作:もっぴー☆

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前回あとがきのレゴブロックが人気すぎて嫉妬したので第三十一話です。

大ッ変お待たせいたしました。難産でしたがようやく更新です。なんとか二か月未更新にならないで済みました。

いやあれなんですよ、お仕事忙しいというのもありますが今回の話書くに当たって7~8000文字くらい書いた辺りで描写やネタの出す順番が気に食わなくて丸っと書き直しとかしてたんですよ。それもあってただでさえ遅筆なのに余計遅れたんですええ、そういうことにしてください。

決してエルデントロコンしたりイカデビューしたり気分転換にエルデンとオバロのギャグ小説の下書きしたりとかそんなんではないですええ。ごめんなさい(高速自白)

……後今気づいたんですが今日でこの作品投稿してちょうど一年目じゃないですかヤダー……


第31話:最前線(フロントライン)

 

 黒い靄が霧散した頃、訓練場の中心には見知らぬ人の群れが出来ていた。人の見た目もいれば異形もいる各々個性がバラバラな集まりである。しかし共通の特徴があった。それは武装をしており、こちらの生命を脅かそうとしていることだ。

 そう、僕らの目の前に現れたのは(ヴィラン)である。

 

 「おいおい(ヴィラン)って、ヒーローの学校に入り込んで来るとか馬鹿だろ!?」

 

 「どうだろうな。現れたのがここだけか学校全体かわからねえが警報が作動してる様子もねえ。そういう個性持ちがいるとして、おまけに校舎から隔離された空間で俺達しかいないこのタイミング。確かに馬鹿だが間抜けってわけじゃねえ、なんらかの目的があって用意周到に画策された奇襲なのは確かだ」

 

 切島君の疑問に轟君が淡々と説明を施していく。概ね僕も同じ考えだ。他にわかっている所を挙げるなら目的はオールマイトであること、そしてみんなの思う以上に危険な事態という所か。

 

 「13号避難開始!センサーの対策も頭にある(ヴィラン)だ、電波系の個性で妨害している可能性もあるがそれでも学校に連絡を試せ!俺はあいつらを相手する、生徒は任せたぞ。

 緑谷、お前もだ。ニューヨークでヒーロー活動していたと言ってもここじゃただの一生徒だ。自衛ならともかくそれ以外で前へ出ようとするな」

 

 必要な指示を送った相澤先生はこちらの返事を待たず迫り来る(ヴィラン)を迎撃するべく飛び出した。

 (ヴィラン)が一人で正面に突っ込んでくる先生へ一斉に個性による攻撃を行おうとするのを見て生徒達が慌てるが、先生の個性により不発させそのまま制圧、異形型が向かおうがあしらっているのを見て感嘆の声をあげている。

 個性や(ヴィラン)自身を使った連携妨害を見るに相澤先生は多人数を相手取ることが得意だというのがよくわかる戦い方だ。さすが雄英所属のプロヒーロー、本人が合理主義ということもあって的確なその攻めは僕から見ても侮れない。

 

 しかし(ヴィラン)の数は多く応援が来るまで一人であの数を制圧するとなると少々厳しい。戦い方からして中衛、遊撃タイプだろう先生が(ヴィラン)を生徒から引き離すため前線に立ったのもあるがなにより襲撃の首謀者と思わしき人物達がまだ動いていないのも不安だ。あの脳が剥き出しの……暫定肉人形(フレッシュゴーレム)がどういう代物なのかもわからない以上指示を無視して悪いが僕も参戦させてもらおう。なに、責任は全部オールマイトに押し付ければいい。

 

 「んの野郎!ぶっ殺してやる!」

 

 おっと、僕の前でこれ以上悪さはさせないよ!

 

 斗流血法(ひきつぼしりゅうけっぽう)・カグツチ」

 

 刃身の弐・空斬糸(じんしんのに・くうざんし)―――嚇綰縛(かくわんばく)!!」

 

 「モガッ!?」

 

 「な、なんだこのガキっぶぇッ!?」

 

 相澤先生を背後から襲おうとしていた(ヴィラン)達へ飛び込むと同時に血糸を巻き付け、ギュルリと縛りあげる。

 

 嚇綰縛(かくわんばく)。網の目を巡らせた糸で包むように拘束するカグツチの流派からなる空斬糸派生の技だ。拘束を主にする技で普段僕が相手を簀巻きにしてる技もこれに該当する。ちなみに龍搦め(たつがらめ)という同様の技もあるが、あちらはシナトベの流派に当たる。

 

 「緑谷、なんでこっちに来た!お前も避難しろと言っただろ命令だ!じゃないと本当に除籍するぞ!」

 

 「すみません、ですが状況が状況です。僕らのために全員をくぎ付けにするのは先生と言えど骨が折れるかと。僕もこういう荒事は十二分に慣れてますので半分持ちます、先生は正面の(ヴィラン)制圧と首謀者と思われる連中の警戒を!それと避難命令ですがオールマイトから危機的状況下限定で自由戦闘の許可を頂いてますのでそちらを優先させていただきます!」

 

 「あの人は何をやってるんだ……!?……緑谷、俺よりもまず自分の身を優先して動け、それが条件だ。それとオールマイトと合わせて後で覚悟しておけよ」

 

 「了解です。でもそちらはお手柔らかにお願いします!」

 

 大義名分をオールマイトから頂いている以上平行線になるのが目に見えていたのか渋ってはいるが相澤先生からも許可を頂いた。後が怖いがそっちの考えは後回しにする、ひとまずここを乗り切ろう。

 

 「おうおうガキがいっちょ前にヒーロー気取りか?不意打ちが上手くいったからって調子に乗んじゃ―――」

 

 「ふんっ」

 

 「あべしッ!?」

 

 パッカーンと、ノーモーションアッパーを喰らった(ヴィラン)の一人が綺麗な弧を描き宙を舞う。油断大敵、生徒と言えど僕らはヒーローの卵。おまけに僕自身はあの街(H・L)で数々の修羅場を潜った実力者だ。そんな僕と真っ先に対峙してしまった彼は今この場で一番運が悪かった(ヴィラン)だろう。合掌。

 宙を舞う仲間を見て呆然とする(ヴィラン)達。勿論そんな大きな隙を晒してなにもしないわけもなく、近くにいる(ヴィラン)へ次々と拳をお見舞いする。

 

 「お、おい!あのガキメチャクチャつええぞ!本当に学生かよ、ヒーローとかじゃねえだろうたわばッ!?」

 

 「癪だが気持ちはわからんでもない。ったく緑谷、本当に何者なんだお前は。躊躇いのなさといい荒事に慣れすぎてることといい、その辺も後で聞かせてもらうぞ」

 

 拳を一振りするごとに短い断末魔と共に一人また一人と殴り倒され、地に沈んでいく様を見て(ヴィラン)達は驚き悪態を吐き、ついでにその声に相澤先生も不本意ながら同意していた。後の説教がさらに怖くなったがひとまず置いておく。それより(ヴィラン)の制圧だ、気圧されてるおかげで容易に殴り倒せるのは助かる。

 

 「お、おい……。もしかしてあのガキってよ……?」

 

 「ああ、俺もまさかと思ったんだが……マジかよ……!?」

 

 パカーンパカーンと次々(ヴィラン)を殴り飛ばし制圧していく僕を見て一部の(ヴィラン)が何かに気付いたように呟きだした。耳を傾ければ僕のことを言ってるようだがそんな余裕はないぞと、近くにいた(ヴィラン)をまた一人殴り倒していく。

 

 「ま、間違いねえ!気を付けろお前ら!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そいつは折寺の悪鬼菩薩(あっきぼさつ)だぞッ!!」

 

 「なんて?????」

 

 

 「あ、悪鬼菩薩って……まさかあの!?」

 

 「なんて?」

 

 「ちくしょうふざけんな!なんでこんなところに悪鬼菩薩がいるんだよ!?」

 

 「なんて??」

 

 「やべえ……俺まだ遺書書いてねえんだけど書く時間くらいくれっかな……?菩薩っていってるし……いや悪鬼だから無理か……?」

 

 「なんて???」

 

 「畜生!悪鬼菩薩と一緒にいられるか!俺は隠れさせてもらうぜ!!」

 

 「What(なんて)????」

 

 

 突然の珍名の連呼に脳がフリーズしてしまう。隙ありと襲ってきた(ヴィラン)を反射的に殴ってしまったせいで上半身が地面に埋まってしまったが今はそれどころじゃない。

 

 「あ、おい。その悪鬼菩薩っつーのなんだ?優しいのか?恐ろしいのか?」

 

 「ああ、俺達は折寺に住んでんだがよ、あそこには今(ヴィラン)を狩りまくるガキんちょがいることで地元じゃ有名だ」

 

 「普段は笑顔で街の清掃活動とかやったりジジババの話し相手になったりとすげえ優しいが、いざ(ヴィラン)が絡むや悪鬼羅刹の如くボコり倒すヤベー奴って話でよ……!」

 

 「(ヴィラン)を狩りまくるガキ……!?そ、そういえば俺も去年のヘドロ事件を皮切りに一人のガキが次々と(ヴィラン)を殴り倒しているって話や動画を見たことがあるぞ!なんでも血も涙もねえガキの皮を被った鬼とか!」

 

 「ああ、ノー慈悲ノー容赦ノー躊躇いを地で行き(ヴィラン)どころかヒーローすら哭かせる凶悪自警団(ヴィジランテ)……鬼と仏を内包する男、人呼んで折寺の悪鬼菩薩だ!!」

 

 未だ理解が追い付かず固まってしまう(宇宙猫状態の)僕だったが第三者達の説明を聞いてみればハハハそういうことかー。なるほど拳藤さんから聞いた通りヘドロ事件の一件で僕は有名らしく、おまけに僕の正当防衛動画も無断掲載されているため(ヴィラン)の間では僕はそういう存在で知られているようだ。少々不本意な点はあるけど向こうは僕の実力を知ってくれて二の足を踏んでくれたから一概にも悪いとは言えないなアハハハー。

 

 

 What the f*ck(いやなんでさ)!!?」

 

 「な、なんか突然崩れ落ちたぞ!チャンスだやれひでぶッ!?」

 

 「ふざけるならさっさと生徒と避難しろ緑谷ぁッ!!」

 

 

 頭の悪い二つ名がついていたという衝撃の事実に膝から崩れ落ちる。隙ありと襲ってきた(ヴィラン)達の顎を反射的に砕いてしまったが考えないように放置。相澤先生が滅茶苦茶怒っているけど、御覧の通り大丈夫です戦えます。

 というか気分を誤魔化すために戦わせてください。本当に誰だよそんな二つ名つけた奴。帰還後トップ3に入る精神ダメージだぞこれ。大変不名誉だ命名者出てこい。

 後僕は自警団(ヴィジランテ)じゃありません。週一~二回の頻度で(ヴィラン)に絡まれてその度自衛しているだけです!

 

 言ってて悲しくなってきた。

 

 「おっと、危うく逃がしてしまうところでした」

 

 「ッ!瞬きの一瞬をつかれたか!」

 

 不味い、くだらないやり取りに先生も巻き込んだせいで首謀者の一人を、一番厄介なワープ系の個性持ちを自由にしてしまい、生徒達の前に立ちはだかった。アレをフリーにさせるなんて避難出来ないと言ってるようなものだ。

 

 「それでは改めて……初めまして、我々は(ヴィラン)連合。僭越ながら、この度ヒーローの巣窟雄英高校に入らせて頂いたのは他でもありません……平和の象徴オールマイト、彼には息絶えて頂きたいと思ってのことでして」

 

 「ッ!?」

 

 遠くだったにも関わらずその声は僕の耳にも届き、そして驚愕した。今コイツはなんて言った?息絶えて頂く?オールマイトを?

 黒靄の(ヴィラン)の言葉を聞いて警戒レベルが跳ね上がる。普通なら寝言もいいとこの発言だがしかし、僕は知っている。現在オールマイトは弱っており全盛期と程遠い事を。そして今この場にはどう転ぶかわからない存在がいることを。無論あの暫定肉人形(フレッシュゴーレム)だ。

 

 見た目からして近接パワータイプだと予想出来るが、仮にそうなら、彼奴等の自信からしてアイツはオールマイトを超える力を持っている可能性が高いことになる。いや、実はあれは見せかけで、身体がアイアンメイデンのようになってて拘束して殺したり……、もしかしたら(ニューク)ホムンクルスの亜種で爆発することによって雄英全体にも大ダメージを与える可能性も……。駄目だ情報が少なくあれこれと予想していくしかない。

 

 だけどわかることが一つある。(ヴィラン)連合。仮にオールマイトの秘密を知った上で暗殺計画を実行したならばコイツらは非常に危険だ。早急に手を打たないと。

 

 「先生!あちらの援護に向かいます!」

 

 「だったらそのままお前も避難しろ!かなりの数の(ヴィラン)を減らせた、制圧にしろ応援待ちにしろこっちは十分余裕がある!」

 

 「いえ、向こうが済めば戻ってきます。それまで(ヴィラン)、特に首謀者達には注意を!」

 

 だがまずは生徒の安全が優先しないと。自由戦闘の許可は得ているとはいえみんなを危険に晒し続けるのは本末転倒だ。先生の声を背中に急いで生徒達へ向かって走り出す。先生はしつこく避難を強要してくるが、すみません状況が状況です。聞くとこは出来ません。

 

 「本来ならばここにオールマイトがいらっしゃるはずですが……何か変更があったのでしょうか?まあそれとは関係なく私の役目は――――」

 

 「どりゃあッ!」

 

 階段を一気に上りきるや会話に割り込むように突龍槍を(ヴィラン)へ投げつける。再び網状にして拘束にかかるが、靄が現れ吸い込まれてしまい不発に終わった。ええい厄介な個性だ。

 

 「おっと危ない危ない。生徒と言えどヒーローを目指す優秀な金の卵。なかなかどうして侮れ―――」

 

  SKLIT!!

  BOOOOOM!!

 

 「どうだ!息絶えてもらうとか言う前に俺たちにやられるって考えていなかったか!?」

 

 「やったらさっさと下がれクソ髪!そこ邪魔だ!!」

 

 僕の攻撃に続いて、二人の少年、かっちゃんと切島君が間合いを詰め追撃を仕掛けた。攻撃を回避されたと気付いてすぐさま追撃に移ったのかはたまた二人の攻撃するところに偶然僕の攻撃がかみ合ったのか。とりあえずは射線を考えて動こうとしているあたり研鑽の成果は出ているな。

 

 「うぅむ……!どうやら思うほど余裕を与えてくれないようですね。少々無理をすることになりますが仕方ありません。……私の役目は、あなた達を散らして、嬲り殺す事。こればかりは実行させていただきます!」

 

 「いけない、皆さん逃げて!」

 

 そう言うや(ヴィラン)は黒い靄を広げ、同時に13号が個性でそれを吸い込みだした。必死で靄を吸い上げていく13号だが、向こうもドンドン靄を放出しそれを上回り、靄が生徒を包み込むように広がった。

 クソ、残念だがこれ以上の阻止は無理か。靄をどうにも出来るかと言われればイエスと答えれるが、力技なうえ靄を消滅させることで(ヴィラン)が死亡、なんてことになっても困る。緊急とはいえ殺人沙汰は避けたいし生徒達のトラウマにしたくもない。僅かな時間で無血の解決策なんて思いつくはずもなく、ここはひとまず被害の軽減に手を尽くそう。

 

 (ヴィラン)の個性であるワープを受けるのが確定しているならせめてと、巻き込まれた生徒達のなかで脱出が間に合わない子の生存率を上げるべく血を飛ばし二人以上引き合わせる。これで少なくとも孤立することはないためある程度は対応してくれるだろう。最低限の対策ではあるがないよりマシだ。

 それでも分断されるならもうどうしようもない。後はみんなの無事を祈りつつ、この場の対処に回るのだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 生徒達を包んだ靄の渦が消えた時には半数以上の生徒がその場からいなくなっていた。一部の生徒は機動力のある仲間に救けられ辛くも脱け出したが、それでも無事残っているのは緑谷、飯田、宍田、凡戸、吹出、角取のわずか六名である。

 

 「みんなは!?誰か確認出来ないか!?」

 

 「……微かですが皆の匂いを場内から感じ取れましたぞ!ただバラけているうえ知らない匂いも複数確認!未だ危険なのは変わりなさそうですぞ!」

 

 飯田がすぐさまクラスメイト達を確認すべく叫ぶと、宍田がスンスンと必死で嗅ぎ分けることでなんとか確認に成功。幸か不幸か、クラスメイトは全員場内にいることがわかり、予断は許さないがひとまずの安堵を得る。

 わざわざ外界との分断が成功しているのだ。ここまで成功しておいて連絡が取れる外へ出すなんて愚を犯すような連中ではなかろう。USJは広い、相手からしてもここだけに限定して分断、強襲で十分事足りる。

 

 「厄介ですな。攻撃無効にワープの個性、まさに最悪とはこのことですぞ!」

 

 「……物理無効、か。ひとまず13号、指示をお願いします!」

 

 「…………委員長、君に託します。学校まで駆けてこの事を伝えてください!」

 

 黒靄の(ヴィラン)―――黒霧が吐き出された靄をまとめながら見据える中、黙り込んでいた13号が重々しく口を開き提案した。

 警報などへ対する妨害が行われている以上探して叩くより彼が走った方が早いだろうと、素早く、かつわかりやすく説明をしていく。

 

 「そんな、クラスのみんなを置いていくなんて委員長の風上にも……!」

 

 しかし一人だけ逃げるような行為に二の足を踏んでしまう。13号の説得に頭ではわかっていても感情はそれを良しとしてくれない。

 

 「ふんっ」

 

 「ぬごッ!?」

 

 そんな彼の元へ緑谷は歩いていき、スパンッと頭に平手を叩き込んだ。

 

 「な……なにをするんだ緑谷君!?」

 

 「落ち着け飯田君、感情的になってる場合じゃないぞ。……これは訓練じゃない、今この場は一分一秒を争う命がけの、これから先嫌というほど味わう悪意との闘いの最前線(フロントライン)だ。感情を排せなんて極端なことは言わないけど今は罪悪感や肩書を考えるのはやめて救命を優先しろ。判断を間違えて被害にあうのは君だけじゃないんだぞ」

 

 「……ッ!」

 

 平手を叩き込んだ行動に飯田だけでなく先生達も驚いているが、緑谷は意に返さず言葉を続ける。優先順位を間違えるな、判断を誤るなと、今この苦境を覆す鍵が己の足だということを諭された飯田は落ち着きを取り戻し言葉を咀嚼していく。

 感情的に悩むことは構わない。そこから選択し、それに納得や後悔をしてこそ人の心は強く成長出来るのだとは緑谷も思っている。だが時には感情を排して冷徹に考える時も必要になる。特に今回の事件は転びかた次第で世界の均衡が崩れかねないのだから。

 

 「彼の言う通りです委員長。今は我々を救うためにその個性を使って救援を呼んでください!」

 

 「行ってよ委員長~!向こうは警報鳴るの嫌ってるからこの場所に留まってるんでしょ~!だったら外に出たら~こっちのモンだよ~!」

 

 「そうデス!外に出てティーチャーにエマージェンシー伝えるダけ!それで私達オールビーセーブデス!」

 

 「……わかりました!みんな、なんとか脱出してみせる。手を貸してくれ!」

 

 周囲の発破を受け、飯田は応えるように決断する。それに生徒達も声高に返事をし、エンジンを吹かす飯田をサポートすべく動き出した。

 私の個性で俺の個性でと飯田を援護するべく動き出す中、やらせんと言わんばかりに(ヴィラン)は靄を吐き出した。

 

 「手段がないとはいえ敵前で策を語るアホウがいます、かぁッ!」

 

 「バレても問題ないから語ったんでしょうが!ブラックホール!!」

 

 堂々と作戦を語るヒーロー達に呆れた(ヴィラン)が再び襲い掛かる。しかし13号はそれをブラックホールで吸い込むことにより妨害、すぐさま膠着状態に持ち込んだ。

 

 「ブラックホール……なるほど、驚異的な個性です。ですが13号、あなたは災害救助で活躍するヒーロー。やはり戦闘経験は一般ヒーローに比べて半歩劣る!」

 

 しかし均衡はすぐさま崩れた。13号の背後が歪み黒靄のワープゲートが展開される。それと同時に13号の放ったブラックホールが現れ戦闘服(コスチューム)の一部が崩れだした。

 (ヴィラン)の言う通り13号は災害救助がメインのヒーローだ。(ヴィラン)を相手にするヒーローと比べるとどうしても戦闘に対する経験不足は否めず、結果自分の個性が相手に利用されてしまうという事を想定出来なかったのだろう。このまま何もしなかったら13号は自分の個性にやられてしまうのは明白だ。

 

 「危ない13号ッ!!」

 

 ただ緑谷はそれを黙って見過ごさない。いち早く察知した緑谷は一息に飛び掛かるや13号を抱えて個性の圏外へ逃れる。

 受け身を取り13号の無事を確認すると、痛みはあるが大丈夫だと返してくれた。見れば背中の戦闘服(コスチューム)が無惨にも塵になっていたが本人は背中を少し怪我した程度で済んでいる。これなら簡単な手当で大丈夫だろう、間に合ってよかった。

 

 「先生~大丈夫ですか~!?」

 

 「大丈夫、13号は軽傷だ!飯田君達は早く!」

 

 「ああ、よろしく頼む吹出君!」

 

 「オッケーいくぞー!『バビューン!!』」

 

 吹出が大声を上げるや擬音が形作られ、同時に飯田もエンジンを回しすごい勢いで走り出していった。

 もはや吹っ飛ぶとも言える加速にウオオオッ!と悲鳴に近い声をあげる飯田。本人も想定外の加速であるが、それでも転倒しないのは走りに関わる個性持ちとしての矜持か。(ヴィラン)も凄まじい加速と気迫に大変驚いてる。

 

 「キープィットゥアップ飯田君!私もコントロール頑張りマス!」

 

 次に声を上げるは角取。よく見れば飯田の身体に角取の角が接着されており、それを動かすのに集中している。どうやら飯田を一秒でも早く脱出させるべく各々がうまく個性を組み合わせたようだ。

 吹出が個性で作った擬音で加速させ、角取が角を使ってバランスを取り、凡戸は角と擬音が外れないよう個性で接着。即席ながら有効的な組みあわせを実践したあたりさすがヒーロー候補生と言うべきか。

 

 「あくまで待つべきはオールマイトのみ、他の教師たちは呼ばせはしません!」

 

 「いいえ呼ばせてもらいますぞ!」

 

 (ヴィラン)も呼ばせぬと急いでワープを作りだすが、宍田君が出来上がる前にそれを掴み抱え込むことで妨害に成功した。

 だが(ヴィラン)もこの程度では諦めない。靄を相当ブラックホールに吸われたにもかかわらず無尽蔵だと言わんばかりに靄を走らせ飯田を捕らえに向かう。向こうとしても用意周到に進めたオールマイト抹殺計画を台無しするわけにはいかない。

 

 「こっちを見ろ黒靄野郎!!」

 

 「ええい、貴様らに付き合う暇は……なぁッ!?」

 

 だがそう簡単に捕らえさせてはもらえない。緑谷は傍にいた凡戸に手当を変わってもらうやすぐさま血法を起動し武器を形作る。

 叫ぶ緑谷に悪態を吐き振り返った黒霧だが……すでにそのころには己が頭上には均等の取れた柳のようなものが視界いっぱいに展開されていた。それもまだ終わっておらず、次々と枝分かれを続け視界を遮るほど増えていく。

 

 

 斗流血法・刃身の六(ひきつぼしりゅうけっぽうじんしんのろく)

 

 紅天突(くれないてんつき)!!」

 

 

 そうして緑谷が右腕を振り下ろすや、幾千もの血刃が降り注いだ。

 

 斗流血法刃身の六、紅天突(くれないてんつき)

 シダレヤナギのような形状から無数の血刃の雨を降り注がせ対象を殲滅する技である。数十数百と分かたれた血刃の隙間はなんときっかり一インチ。まともに食らえば相手は一瞬で挽き肉になること間違いなしだ。

 なお今回は刃先を丸めており殺傷力は控えめだが、それでも小さな鉄球が降り注ぐようなものなのでまともに食らえば半死半生は免れない。

 

 そんな殺意の塊が飯田へ迫る靄へ―――向かわず、黒霧が最初にいた地点へと降り注いだ。すると黒霧は何ッ!?と、何度目かわからない驚愕を露にするや急いで靄を血雨の前に展開、紅天突を吸い込んでいく。

 

 「ビンゴ、そこに靄を作ったってことはやっぱり実体はあったか」

 

 「こ、このチビ……ッ!何故実体があると思った……!」

 

 「最初の投擲を靄に吸い込むなんて防御を取ったからさ。宍田君は物理無効とは言ったけど本当にそうだったら「危ない」なんて言葉出ないし気にしなくなるから素通りさせたり、たまに無駄だと煽ったり見せつけたりする奴もいるからね。こっちは向こう(H・L)でそういう連中や似た相手と戦ったことあるからよくわかるんだよ」

 

 「こ、このガキがぁ……ぬぅおおおッ!」

 

 実体の存在がバレ、余裕がなくなってきたのか言葉遣いが粗野になりつつある(ヴィラン)は悲鳴に近い声をあげ血法をひたすら靄に潜らせていく。それと同時に緑谷の頭上に靄が渦巻きだし、潜らせた血刃が現れた。13号にやった対象の背後へ攻撃を送り返し自滅させる攻撃だ。

 

 しかし先ほどの繰り返しでは彼に通用しない。緑谷へ殺到する血刃は当たることなく周囲へと滑るように避けそのまま纏まり再形成、複数の突龍槍へと形を変えた。

 斗流血法は例え手元から離れようが視覚の外だろうが術式を通して操ることは可能だ。勿論相応の技量と集中力はいるが、彼は向こう(H・L)で世界の危機や師の修行で散々揉まれており、そういう操作には慣れている。

 

 ……というか仮に未だこれが出来なかったら今頃彼はここにおらず、向こうの世界で師の修行三週目に突入しているだろう。そうなると彼の臨死体験数も百は増えかねない。

 

 「ことごとく我々の計画の邪魔をする……!折寺の悪鬼菩薩め、貴様はいったい何者なのだッ!!」

 

 「そんな人ここにはいませんッ!!」

 

 黒霧は怒り口悪く叫ぶ。ヒーローはともかくまだ卵でしかない生徒達からも繰り返し妨害されているのだ、無理もない。おまけに緑谷という特級イレギュラーにより絶賛足止めされているため、悪態のひとつやふたつも仕方がない。

 そしてそんな悪態を緑谷は切実に否定し、再形成した突龍槍を次々と投げつけていく。(ヴィラン)達の口から出た二つ名は全くお気に召していないようだ。生徒達も悪鬼菩薩という謎の二つ名に困惑している。

 

 空斬糸派生の突龍槍を投げ拘束を仕掛けるが、やはり靄に吸われて無力化されていく。だがそれでも緑谷は作っては投げるのをやめない。時折吸った槍をこちらへ向けて返してくるがそれも逸らし掴むなりしてすぐさま投げ返しそしてまた吸われていく。次々降らせる紅天突も吸われていき膠着状態になった。

 だがそれは向こうも同じだ。降り止まぬ血の雨と途切れぬ槍。少しでもよそ見しようものなら瞬時に血糸で拘束されたうえでの血の雨による半殺しコースが待っているためこちらの対処に集中するしかない。しかしそうなると他へ靄を動かす余裕がなく飯田がフリーになるということでつまり……。

 

 「行けえええ飯田あああ!!」

 

 「エンジン……ブーストォォッ!!」

 

 フリーになった飯田が自動ドアをこじ開けそのままエンジンを全開に走り去ってしまえるということだ。

 

 「……ゲームオーバーだ。この抹殺計画、真に警戒すべきは生徒達だったか……」

 

 特に緑谷に至っては(ヴィラン)から奇妙な二つ名で呼ばれていた。それを踏まえ警戒していればまた違った結果があったかもしれないがそれも後の祭りだ。応援も時間の問題となった以上黒霧もここに留まる理由はない。自身を靄で包みその場を去るのだった。

 

 「……敵影なし。なんとか当面の危機は脱したか。13号、怪我は大丈夫ですか?」

 

 「ええ、君たちの手当てもあってもう大丈夫です。すみません、僕が不甲斐ないばかりに生徒の君達が率先して動くことになってしまいました。しかしまだ危機は去っていません。また(ヴィラン)がやって来る前に皆さんだけでも避難しましょう。今度こそ僕が皆さんを守ってみせます!」

 

 立ちはだかっていた(ヴィラン)がいなくなり残った生徒達は安堵の溜息を吐き崩れるが、ここはまだ戦場、手当が済み動けるようになった13号は立ち上がり生徒達へ謝罪と避難を促した。

 緑谷も彼らの安全を優先して殿としてついていく。飛ばされたクラスメイトや単身戦う相澤の心配もあるが、彼らもまた雄英ヒーロー科に選ばれた生徒とそれを導く教師。(ヴィラン)の攻撃をしのぐどころか、逆に制圧しているかもしれないだろう。緑谷も複数想定しどう行動していくか選択していく。

 

 (先生の応援と生徒の救援、やることは多いが13号が生徒を逃がして戻って来れば救援に人手を割けるし、彼らを外に出したらまずは相澤先生と合流しよう。なんだったらかっちゃんが親玉狙いでこっちに来るかもしれないし、来たら救援を優先してもらうか。……というか確実に来るな、丸くなったと言ってもかっちゃんだしお礼参りとか言って黒靄を殴りに戻って―――)

 

 

 ズガァアンッ!!

 

 

 「ッ!!」

 

 生徒達が出口へ到達したと同時、ひときわ大きな音が響き渡った。いや、音だけでない。その発生源からぐああッ!と短い悲鳴も聞こえてきた。

 まさかと、緑谷は音の発生源……相澤がいた場所へと振り返る。

 

 

 するとそこには、相澤の上に馬乗りになっている肉人形(フレッシュゴーレム)と、

 

 

 右腕を握り砕かれる相澤の姿が映った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「先生になにしてんだこの腐肉野郎おおおおおおおッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 瞬間、緑谷は血法を用い文字通り弾丸の如く飛び出していった。その二つ名に納得してしまえるような「悪鬼」の如き形相で。

 

 




なお書き直し前は素直に相澤先生に任せてみんなと脱出→水難ゾーンへワープからのデク水中無双したり峰田達の変わりにかっちゃんコンビが来てデク共々ダイナマイト漁されて酷い目にあったりした模様。

Q:その二つ名誰がつけたのさ?
A【1D10: 】
 1.地元(ヴィラン)やで
 2.ネットで広がってん
 3.中学のクラスメイト(幼馴染含む)達やで
 4.実はヒーロー公安が……
 5.地元(ヴィラン)やで
 6.ネットで広がってん
 7.中学のクラスメイト(幼馴染含む)達やで
 8.実はヒーロー公安が……
 9.Mt.レディ
 10.裏切りのオールマイト(おいこら馬鹿弟子)

ちなみにこの二つ名ネタ、10話完成頃には出来上がってました。ようやく出せましたぜ。

【誤字報告】

げんまいちゃーはんさん。 クオーレっとさん。

誤字報告ありがとうございました。

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