My Hero Battlefront ~血闘師緑谷出久~   作:もっぴー☆

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呪術廻戦がもうすぐ終わるので第三十八話です。

お待たせしましたトガちゃん回です!
トガちゃんとアリギュラメイン回ということもあって執筆難易度の高さに血吐きそうでした。今もトガちゃんが出る巻が隣にで積み重なって圧をかけてきてます。
そもそも恋バナとか一度もしたことないのになんで恋バナ書こうとしてんだ俺は。意外にも筆は乗りましたが。

喋らせるの本当難しいですこの二人。


第38話:押しまくった方が勝つのよ

 この世界が私にとってとても生きにくい世界だと理解させられたのは、両親に人じゃないと言われた時でした。

 

 私の個性は変身。血を摂ると摂った人の姿になることが出来ます。その影響かな、私は血がとっても好きです。だから私にとってパパやママ、友達はもちろん、知らない人に動物さんも好きの対象でした。だってみんな私の好きな血が流れてるのだから。

 

 好きになった人の血を吸いたくなります。そうすれば私はその人になれるから。その人になりたいって思うほど好きだって伝えられるから。それが私にとって普通でした。

 だけど私の普通は、みんなにとって"普通"じゃなかったのです。

 

 最初に違和感をもったのはボロボロのスズメさんを見つけて血を吸った時でした。スズメさんの血を吸ってるところをパパとママが見た時、二人はすごい怖い顔で叱ってきました。血を吸うなんて異常だって怒られました。私はわかりませんでした。私はただ素敵だって、好きだよって伝えただけなのに。

 笑顔もそうです。興奮した時に見せる笑顔をみんなには怖いって言われて、パパとママは不気味な笑いかたするなって叱ってきました。幼かった私は、なんで怒られたのかわからず落ち込んでました。

 

 違和感が大きくなったのはパパとママがカウンセラーの先生を呼んだ時でした。矯正して"普通"になろうねって先生は言いますがおかしいです、私は普通なのです。

 先生はあれこれと"普通"を教えてきます。でもわかりません。みんなもキスをして好きだよって伝えるでしょ?それと同じでみんなも好きな人の血を啜るでしょ?同じ好きって伝え方だよ?なのに何度も"普通"になろうって言います。違和感はどんどん大きくなりました。

 

 その違和感がわかったのはある日のことでした。お友達が怪我をしたのです。血を流す怪我をしていて大人の人が慌てて救急箱を取りに行きました。その時の友達はとてもカァいくて素敵で、気が付けばお友達の血を吸っていました。そしたらみんな私に怯えだして、怪我をしてる子も大声で泣きだして、そしたら大人の人はとても怒りだしました。その後パパとママにもすっごい怒られました。"普通"になりたくないのかって。

 

 違うの、私はただカァいいって、素敵だよって伝えようとしただけなの。泣きながら二人に必死で伝えました。ただ私は好きなノになりたいだけなのにって。でもダメでした。

 だんだんわからなくなってきて、だから聞きました。なんでみんなちうちうしないの?わからないのって泣きながら、必死に。

 

 そしたらパパは悲鳴のような声をあげて髪をかき乱して、ママは崩れ落ちて泣き出して……そして「人間じゃない子産んじゃったんだ」って叫んだのです。その心ない言葉に私は酷くショックを受けて、その日ずっと泣きました。

 

 なんで私だけおかしいって言われるんだろう?

 カップルが手を繋いで歩きます。恋人に人目も気にせずチューをする人がいます。ワンチャンが飼い主の顔をなめます。全部相手に好きを伝える愛情表現です。全部とってもカァいい伝え方です。

 

 そして好きな人の血を啜るのも好きって伝え方のはずです。なのにみんなはそれを嫌います。怖がります。

 なんで?なんで?なんで??わからない。ただその人に好きを伝えてるだけなのに。

 

 泣いて、喚いて、混乱して、胸の痛みにうずくまって……、そしてピースが嵌まったかのように、幼い心がふと理解してしまいました。

 

 私の普通はみんなの"普通"と違うことが。

 

 そして私にとっての普通が、みんな嫌いだってことが。

 

 誰からも好かれないっていう事実は幼い心に(トラウマ)となって刺さって抜けなくなりました。とても痛くて、涙が止まりませんでした。

 

 泣いたあの日から、私は心にフタをすることにしました。

 血を吸うのも我慢して、笑いかたも鏡に向かって練習して、頑張って、頑張って、本当に必死に頑張って、私の普通を心の奥に押し込んで、教えられた"普通"で作った仮面でフタをして、私じゃない誰かになりました。そうでもしないと幼い心が耐えれなくて、壊れてしまうから。

 

 そうやって"普通"を演じていくうちにパパとママがああ、ようやく"普通"になってくれた、本当によかったって涙ながらに喜んで抱きしめてくれました。

 喜ぶ二人の笑顔と抱擁は暖かく…………でも苦しくて、寂しくなりました。だって二人が見てるのは仮面でフタした私だから。出来るならその笑顔は本当の私に向けてほしかったです。

 

 血を吸ったことも子供のいたずら扱いで終わってなにもなかったようになりました。吸っちゃった子からは化け物を見るような目で見られて避けられ続けました。

 ……あの子とも出来れば仲良くなりたかったです。でもその子はすぐ引っ越しちゃって、それっきり会うことはありませんでした。

 

 私は血を吸うことなく"普通"でい続けました。でも結局のところそれは、私が血を吸うのを心のなかで我慢してるだけで、吸いたいって気持ちがなくなったわけじゃありません。今でも好きな人や友達の血を吸いたいって普通の私が仮面を揺らしてます。

 だって私にとって血を吸うということは「好きだよ!」って伝えることであって、惚れっぽい私にとってそれを我慢することはつまり……「誰も好きになるな!」って言ってるのと同じで、そんな辛いことをずっと自分に強いているからです。

 みんなで例えるなら……ダイエットとかかな?好きなものを食べられずにいること。それをとーっても辛くして、ずっと、多分一生続けていくような感じなの。もちろんモチベーションをあげるご褒美みたいなモノなんてありません。

 ……正直なんで生きてるんだろって思った時が何度もありました。とっても生きづらかったです。

 

 そうやって"普通"を演じて、中学生活も終わりに近づいたある日のことでした。学校で喧嘩があったのです。

 きっかけはわかりません。だけどなにかがあって二人の男子が殴りあいを始めました。

 徐々にそれはエスカレートしていって、友達が先生を呼んできて止めるころにはお互い鼻や口から血を流して顔のあちこちに腫れさせて、とってもボロボロでした。

 

 そんなボロボロになった彼、斉藤君を見て……私はなんて綺麗なんだろう、なんて素敵なんだろうって、かつてない胸の高鳴りを覚えました。私はそのドキドキをきいて、初めて好き以上の気持ち……恋をしたのです。

 

 同時に好き以上の興奮を知って、今まで被っていた"普通"の仮面が耐え切れず砕けだしたのを本能で感じました。

 それは、もうすぐくる卒業式まで保つかどうかってところで、多分次斉藤君に出会ったら砕けてしまうって、心で理解したのです。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 私はこの気持ちを誰にも告げられずに卒業式の日を迎えました。

 パパとママに伝えることは出来ませんでした。この気持ちを伝えるってことは、ずっと"普通"じゃなかった事を明かしちゃうからです。もしもまたあの時のような……人じゃないって言われた時のようになったら今度こそ立ち直れません。きっと暴走してしまいます。

 もちろん友達にも伝えることは出来ませんでした。子供の頃血を吸ったあの子みたいに化け物を見る目を向けられるのが、カァいくないって思われるのが怖かったからです。

 

 そうしてどうすることも出来ないまま迎えた卒業式はずっと上の空でした。校長先生のお話や卒業証書の時も全然覚えてなくて、多分友達からも心配されたと思います。それも気付かないほど心はグチャグチャで、"普通"の仮面が砕けて、暴走しなかったのが奇跡なくらいです。

 

 卒業式が終わるとフラフラのままみんなと別れて誰もいない廊下を一人歩いてました。

 目的地は別にありません。ただ人のいないところで心の中で渦巻いてるモノを少しでも吐き出して落ち着いて、それからどうしようか考えようとしてたと思います。その時の私はそこまで思考してたのかわかりませんが。

 

 そうしてフラフラと誰もいない廊下を歩いて角を曲がったその時……私の目におかしなものが飛び込んできました。

 

 それは扉でした。だけどただ扉があったのじゃありません。なんと壁にじゃなく廊下のど真ん中、それも床に設置されてたのです。

 なんでこんなところに無造作に扉が?それも床に?なによりその扉は……、

 

 「……なんでどこ○もドア?え?しかも光ってる??え???」

 

 そう、日本に住んでる人ならみんな知ってる、あの青い猫型ロボットが持ってる移動道具が七色に光って(ゲーミングど○でもドア)鎮座していたのです。なんで?いや本当になんで???

 

 その時私は混乱……を通り越して逆に落ち着きました。それこそ砕けかけの"普通"の仮面がなんかセロテープで雑に修復されたように感じました。砕ける猶予が延びたのは良かったですがすっごい複雑です。

 

 気を取り直した私は七色に輝く扉を見て誰かの個性かなと思って見なかったことに……したかったけど、とても存在感が強すぎるからかな、妙に気になってどうしても目が離せませんでした。

 近づいてじーっと見つめてみたり、クルクルと周りを回ってみたり、聞き耳をたてたりしましたがなにもありません。ただ光ってるだけです。

 

 ふと、叩いたらどうなるのかな?と思いました。"普通"の私はこれ以上はやめたほうがいいよと言ってましたが私はこの扉がとても気になってしまい珍しく無視しました。

 ただのいたずらならそれでいいやって気持ちで私は屈んで深呼吸をひとつ、意を決して扉をノックしました。そしてノックの後に続いたのは……沈黙でした。

 

 「……やっぱり誰かのいたずらかな―――」

 

 「開いてるわよ~」

 

 「!!」

 

 私は驚きました。ノックから少しして、なんと扉から間延びした返事が返ってきたのです。え?扉の向こうに誰かいるの?やっぱり誰かの個性なの?と混乱して、少し怖くなりました。

 けれど同時に、みんなの"普通"とも私の普通とも違う変な扉に心が惹かれました。この先になにがあるのだろう?もしかしてドラ○もんでもいるのかな?なんて考えてたと思います。

 

 私はドキドキしながらドアノブを握り扉を開けました。ゆっくり、少しずつ開いて、七色とは違う光がドンドン差し込んで、重力が変わる不思議な感覚を受けて扉を潜ります。

 するとそこには海外の高級ブランドのような華やかな家具で組まれた広いお部屋と雰囲気の邪魔にならない静かでクラシックなBGM、部屋の窓から見える綺麗な庭園が私を迎え入れてくれました。とっても絢爛です。だけど自然と寛げる作りになってます。とっても洗練されてます。

 

 そんな素敵なお部屋にやってきた私を迎えてくれたのは―――、

 

 

 

 

 

 「ウェルカ~ム。今まさにアオハル真っ盛りの~思春期ガ~ルちゃ~ん!」

 

 

 

 

 ゴスロリな服を着た桃色カールボブヘアーのカァいい女の子。あっちの世界ではすーっごく悪い人(スーパーヴィラン)で有名な13王の一人で、今では私の親友の偏執王アリギュラでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………徹〇の部屋みたいd「シャラップ違うわよ」ア、ハイ」

 

 真顔で怒られました。でもお部屋の構造がどうみても〇子の部屋にしか見えないです。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「えっと、ここどこですか?○子の部屋……じゃないんですよね」

 

 「ここは~自家製拡張空間にある私のリビングのひとつ~。断じて徹○の部屋じゃ~ないわ~。次言ったらおくち縫うわよ~。

 あ、仕組みとかの説明は~ど~せわからないだろうし面倒だからパス~。ほらそんなことよりぃ~名前教えなさいよ~。どうせ今だけの関係だから~別に言わなくてもいいけど~。あ、アタシはアリギュラね~。これも覚えてなくていいわよ~」

 

 「はあ、アリギュラちゃんですか。私は渡我被身子(トガヒミコ)です」

 

 私は言われるままに名前を教えていました。とっても混乱していたとはいえ無用心です。

 ただ混乱はしてましたが興奮もしていました。だって今目の前にあるのは私の知ってる普通や"普通"と全然違う状況だから。

 

 「ヒミコちゃんね~。それじゃあ~早速だけど~、アンタには~、アタシとちょ~っとお喋りに付き合ってもらおうかしら~」

 

 「お喋り、ですか?」 

 

 「そ~。アタシのね~彼氏がね~、さ~いこぉ~~~♡だって、今知り合いに自慢してるんだけど~、み~んな聞き流してばっかで反応悪くてさ~。酷いと思わな~い?」

 

 「はぁ、それでここに来た私に自慢したいってことですか?」

 

 「そ~よ~。アンタ達みたいな~思春期真っ盛りの女の子なら~、こ~いうのに興味があるだろうしぃ~♪

 だ~け~ど~~~、私だけ話すってのも~、ちょっとマンネリ化しちゃってて~。だから~アタシと波長の合いそうな子に見える扉を設置して~、色んなところ(世界)からランダムで誘い込んで~、一緒に恋バナしようぜぇ~~~!って、思ったわけ~。で、アンタが釣れたの~。ちなみにアンタで六人目~」

 

 「そ、そうですか」

 

 それってつまりこの子と私は気が合うってことでしょうか?この子も血をちうちうするのかな?

 ……まあ今はいいや、このままじゃ帰してくれなさそうだし、もう少し気持ちが落ち着くまでここにいよっと。彼女も話が盛り上がらなかったら帰してくれるでしょう。そう判断してアリギュラちゃんの恋バナを聞き流すのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それでブロ~ディが爆発した車をバックに~身体をあちこち煤けさせて出てきて~ゆったりとした動きでおっさんの頭に~躊躇ゼロで~弾丸をブチこんだわけぇ~~~!頭半分吹っ飛ばしてさ~、ちょ~ワルな姿が決まってて~、それでそのおっさんの~飛び散った脳みそ踏みつけながら言ったのよ~~~……『次からは残った脳みそフル回転させて殺りあう相手を選ぶんだな。……ってもう聞こえてねえか』って。……キャ~!ブロ~ディってばお茶目さもあってサイコ~!!」

 

 「とってもカッコイイですブローディさん!ボロボロになっててさらに素敵さが増してます!あ、返り血がたくさんついたらもっとカッコイイかもしれません!」

 

 「わ~~か~~るぅ~~~~~~♡極悪非道を~絵にしたような一枚~。見ただけで好きになっちゃう好きになっちゃう~~~~~~♡」

 

 訂正します。バッチバチに聞いて大盛り上がり中です。

 

 恋バナを始めてはや一時間。ヤバいです、アリギュラちゃんの話が全然"普通"じゃないです。"普通"さんが裸足で逃げ出します。だけどそんなアリギュラちゃんのお話がとっても面白くて、全然興奮が止まりません。まさかこんなに気が合うとは思いませんでした!今までの"普通"の思い出が全部霞んでしまうくらい最高の時間を満喫中です!

 アリギュラちゃんも私が本気で興奮してるからかとっても饒舌に話します。そして私もお話を聞いてさらに興奮します。そしたら向こうももっと楽しそうに話します!すごいです永久機関の完成です!

 

 「あ~楽しい~。ここまでアタシの話をガッツリ聞くなんて~アタシってばここにきて大当たりを引いちゃったわ~♪」

 

 「私もです!心がグチャグチャになってたのにアリギュラちゃんと恋バナしたら色々スッキリしてきました!今日の私の運勢は過去最高です!SSRの一位です!」

 

 「いい反応ねえ~。ヒミコちゃんの前に呼んだ子達は~み~んな反応がイマイチだったからひとしおよ~」

 

 信じられません。こんなカァいくて素敵なお話を前にイマイチな反応なんてすっごい勿体ないことしてますその人達。私だったら一日中楽しく聞いていられます。

 

 「と・こ・ろ・で~。アタシばっか喋るのもフェアじゃないし~今度はそっちが話しなさいよ~~~。好きな子とか~気になる子とかいるでしょ~?あっ、さっきのグチャグチャってのも~なによ~気になるじゃな~い♪悩み事~?気分いいから聞いてあげるわよぉ~?」

 

 「えっ?で、でも……聞いても面白くないですよ?」

 

 「面白いかどうかは~アタシが決めます~。だ~い丈夫よ~、こんだけ波長があってるんだし~少しくらい変なこと言っても平気よへ~き~」

 

 興奮していたらアリギュラちゃんから恋バナのバトンタッチをされました。私の言葉を目ざとく拾うおまけ付きです。反応からして退いてはくれなさそうです。

 確かに私は今斉藤君に恋をしているし、そのことで悩んでいます。ですがそれを話すということは本当の私をアリギュラちゃんに教えないといけません。

 ……私はアリギュラちゃんも好きです。会ったばっかですがとっても気が合って、一度っきりじゃなくこれからも恋バナとか一緒に遊んだりしたいって思うくらい好きです。だから私の話を聞いて嫌われないかとっても不安で怖いです……。

 

 ただ……なんでだろう。同時にアリギュラちゃんなら絶対大丈夫って確信が持てます。"普通"じゃない話を一緒にしたからでしょうか?それとも彼女の言う波長が合うってってことでしょうか?

 もしかしたら。そんな気持ちが勝ってお話をする方を選びました。

 

 「えっとですね……、私には今好きな人がいます」

 

 「うんうん」

 

 「私すぐ好きになっちゃう性格してて、相手が人でも動物でも、(ヴィラン)でもヒーローでもすぐ好きになっちゃいます」

 

 「ほうほう♪」

 

 「でも斉藤君への好きはちょっと違います。胸がドキドキしてとっても興奮する気持ちになります。きっと恋をしたんだと思います」

 

 「キャ~いいじゃん~!そうよこういうの聞きたかったのよ~!

 それでそれで?告白するのよね?恋が成就する伝説の樹の下とかで~!むしろ今から生やすからやりなさい!」

 

 アリギュラちゃんが私の恋バナにとっても興奮してます。なんだか恥ずかしいけど悪い気はしません。さっきのアリギュラちゃんもこんな気持ちだったのでしょうか。

 ただごめんなさい……。恋バナを始めましたがアリギュラちゃんが求めてるようなお話にはならないと思います。

 

 「いえ……告白はしません」

 

 「ハァッ?な~ん~で~よ~~~!?そこで止まるんじゃないわよつまんないわね~。好きなら告白しなさいよ~!」

 

 私が告白を拒否したら一転アリギュラちゃんは怒って詰め寄ってきました。あ、あ、ほっぺた突っつかないでください、ちょっと痛いです。

 確かに斉藤君が好きです。出来ることなら付き合いたいです。だけど彼はきっと、私の普通を受け入れてくれないと思います。拒絶されるってわかってるから告白は……出来ません。

 

 「アリギュラちゃん。私血が好きなんです」

 

 「うん?」

 

 「私、好きになった人の血を吸いたくなるの。ちうちうしてその人になりたいって思うの」

 

 「ふんふん、それで?」

 

 「でもそんな私のことをみんな異常だ、"普通"じゃない、可笑しいって言って怖がるの。それでパパとママに泣いて人じゃない子産んじゃったなんて言われました」

 

 「ハッ?なにそれ?処す?」

 

 アリギュラちゃんがドスの聞いた声でそんなことを言い出します。容赦ないです。

 確かにパパとママには心ないことを言われました。それでも私は二人が好きです。だから処すのは駄目です。

 

 気を取り直してアリギュラちゃんにお話を続けます。必死で本当の自分を隠して生きてきたことも、斉藤君に恋をして本当の私が抑えられなくなったことも。

 ゆっくりと今まで溜め込んだ気持ちを全部吐き出して、緊張で目を瞑って俯きました。どんな反応がされるのか、どんな表情をされるのか、どんな言葉が返ってくるのか。ドキドキと期待と不安がない交ぜになった気持ちで待ちました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「な~んだ全然普通じゃ~ん」

 

 「へ?」

 

 帰ってきたのは拍子抜けしたような声でした。その反応に顔を上げると、そこには呆れ顔のアリギュラちゃんでした。私の一大告白にそんな反応されるのは予想していませんでした……。その反応は少し酷いですアリギュラちゃん。

 

 「だって吸血とか成り代わりとか~そんなのよくある嗜好じゃない~。世の中ちょっと変わった奴なんてたくさんいるわよ~?」

 

 「た、たとえば?」

 

 「例えばね~……周囲から若さを吸い取って子供に若返って~複数のショタと乱交を楽しんでるおっさんとか~。彼氏の子身ごもってから彼氏を食べて~、彼氏の血肉で育った子で光源氏計画絶賛始動中のおばさんとか~。自分のことを~世界中の可愛い娘の共有財産とかいって~彼女がいるのに色んな娘とねっちょりヤりまくってる血生臭いクレイジ~サイコレズとか~。ま~色々いるわね~~。あ、他にも兄貴の死体を自分の身体にくっつけて~―――」

 

 ア、アリギュラちゃんの口から"普通"じゃない言葉がどんどん出てきます。思春期の女の子には刺激が強い言葉がいっぱいで、聞いてる私もそのレパートリーにキャーキャー言っていたと思います。

 同時に私の世界がどれだけ狭かったのか思い知り、もしかして私の普通って思ってるよりありふれてるのかなと思いをめぐらします。

 

 「そんなわけで~血~吸ったり成り代わったりくらいなら~血界の眷属(ブラッド・ブリード)がよくやってるし~ヒミコちゃんが思ってるよりありふれてるんじゃない~?」

 

 私の疑問にそう言って両手でほっぺを包んでモニモニしてきました。やめてください、変顔になっちゃいます。でもちょっと気持ちいいですこれ。

 でもそのお話が本当ならブラッドなんとかって人?は私と似た普通の持ち主だし、私の近くにいないだけで探せば実はたくさんいるのかな?。だったらみんなが異常っていう私の普通も裏を返せばみんなそういう嗜好がありふれてるのを知らないだけかもしれません。それでもサイコレズさんの無節操さはどうかと思いますが。

 

 「それにアタシからしたら~そっちの尺度でなんでもかんでも勝手に決めつけるとか~ナンセンスの極みよ~。く~~~っだらない。

 だからヒミコちゃん~。アンタもウダウダ考えず言ってやればいいのよ~。誰がなんと言おうとこれが私であって~それをそっちの尺度でとやかく言って私を殺そうとするな~!って~。」

 

 「……ッ!」

 

 こんなに気持ちが、興奮じゃなく感動で高ぶったのは初めてでした。周りの人は私の普通を否定する人達ばかりでした。だからこそ嫌な顔をするどころか平然とアドバイスをくれる彼女にとっても惹かれました。

 同時に私の心が、"普通"のためにずっとフタをしていた本当の気持ちが、表に出たいって強く願ってました。いつもなら駄目ですって無理に抑えつけるのだけど、今は流れに任せたいと思います。

 

 「……私、ありのままの私でいいのかな?"普通"の私じゃなくていいのかな?」

 

 「モ~マンタイってやつよ~。だいじょぶだいじょぶ~。ヒミコちゃんのそれは~ヒミコちゃんを形どる立派でカァ~いい個性よぉ~。アタシが保証してあげる~♪それでも~喚く奴がいるんだったら言いなさい~。今だけ出血大サ~ビス、そいつの首から下分離(バラ)して~別の生物(ナマモノ)ボディ百二十四種の中から~合体ガチャして~SNSあたりで晒してあげるわ~。……やだ私ってば映えの達人じゃない~?」

 

 無意識に口から出た言葉に、楽しそうに肯定して味方になってくれる姿を見て私は一歩を踏み出す勇気が湧いてきました。

 ……この言葉で私の仮面はきっと砕けます。そうなったら二度とフタが出来ないかもしれません。けれどそれでもいいって、私は前に進みたいって、普通の私が力強く叫んでいるのがわかりました。だから私は偽らず本音を口にしてみます。

 

 「……わたしは、人も動物もすぐ好きになります。みんな私の大好きな血が流れてて。みんな素敵だから」

 

 「うんうん」

 

 「パパとママに吸うなって言われました。笑うなって言われました。だからフタをして我慢しました。カァいくないって思われたくないから」

 

 「それでそれで?」

 

 「でもアリギュラちゃんとお話しして違うって気付きました。今の私がカァいいのかカァいくないのか、決めるのは私です」

 

 「お、いいよいいよその調子よ~!さあぶちまけちゃいなさい~!」

 

 「私は……生きにくい生き方をして私を殺し続ける今の私が全然カァいくありません!無理してそのうちどこかで破綻してしまうのだったら、私らしく生きて私の普通を知ってもらいたいです!!」

 

 「よっしゃ~!よ~く言ったわヒミコちゃ~ん!今のアンタは輝いてるわよ~!ドンドンパフパフ~!」

 

 どこからか太鼓とラッパを取り出したアリギュラちゃんが祝福してくれます。ついでに紙吹雪も舞ってます。私以上に楽しそうです。

 けれどおかげで真っ暗だった道に光が差しました。そうです。パパとママも好きだけどだからって自分を殺す理由にはなりません。これ以上私を殺してカァいくない人生を送るなら、私は"普通"の私とお別れして普通の私を前面に出しましょう!

 

 「んふふ~。ヒミコちゃ~ん、今い~い顔してるじゃな~い」

 

 「いい顔ですか?」

 

 「そうそう~。目も口も吊り上がってて~すっごい興奮してて~、恋バナしてた時も可愛かったけど~そっちのほうが断然いいじゃな~い♪」

 

 言われて近くの窓に映る私を見て初めて気付きました。今の私はみんなからカァいくないって言われた笑顔をしていました。きっと今の言葉で私をフタする仮面が完全に砕けたんだと思います。

 

 「えっと、アリギュラちゃん。今の私、カァいいですか?」

 

 「もち。アタシ好みよ~」

 

 嘘のない即答とサムズアップに私は紅潮し嬉しくなりました。今まで家族からも否定されていた私の笑顔。それすらアリギュラちゃんは本気で肯定してくれたのだから。霧が晴れたような気持ちになるとはまさにこの事です。

 ふと、ずっと痛かった胸の痛みがなくなっていることに気付きました。きっとあの日心に刺さった棘が、今アリギュラちゃんのおかげで取り除くことが出来たんだと思います。そう実感するとさらに心が軽くなりました。こんなに晴々とした気持ちは何時以来でしょう。人生の絶頂にいるみたいです。今の私はきっと無敵です!

 

 「さ~て、カァ~いくて無敵なヒミコちゃんになったことだし~、ここまできたらもうやるっきゃないわね~!」

 

 「なになに?なにをするんですか!」

 

 「決まってるわ~。今の勢いのまま~告りに行くのよ~!

 

 「なるほど告白ですか!わかり―――え、待って?」

 

 アリギュラちゃんの突拍子のない言葉に勢いが一気に削がれ目を丸くしました。突然すぎませんか?

 

 「え、どういうことですか?」

 

 「今言った斉藤?って男子に~今こそ好きだって言いに行きなさいって言ったの~」

 

 「えぇ……?すんごい唐突な軌道修正にちょっと驚きました。……でも待ってください。すぐはまだ難しいです」

 

 「はぁ~~~?な~ん~で~よ~~~??」

 

 「ふぐぅっ。ら、らってこころろりゅんりらぁ(だ、だって心の準備が)……」

 

 私の反応がとっても不満なのか私のお口を両手で挟んででピヨピヨ口にしてきます。喋りづらいです。

 たしかに私の普通に自信を持つことは出来ましたがそれでもいきなり告白は緊張します。落ち着く時間をください。出来れば一日ほど。

 

 「な~に言ってるの~。最高に勢いの乗ってる今がチャンスなのよ~?」

 

 そんな私の言葉にアリギュラちゃんは反論。ほっぺから手を離すと私から数歩距離を取りました。

 

 「い~いヒミコちゃん?恋愛はねぇ~」

 

 そう言うとゆったりと足を開いて構えだし……、

 

 「押してぇ~……」

 

 ゆっくりとお相撲さんみたいな姿勢で押し出すポーズを取り、

 

 「押してぇ~~~」

 

 今度はゆっくりと正拳突きを、

 

 「押しまくったほうが勝ぁつのよぉ~~~~~!!」

 

 最後は手をブンブン振って連続パンチを繰り出しました。とっても楽しそうです。

 拳を振るい楽しそうなアリギュラちゃんを眺めていたら、ピタリと動きを止めてこちらに振り向きました。

 

 「そしてぇ~、それは自分の心にも言えることよ~!心が燃え上がってる今こそが~、自分を最大限に引き出せる状態なのよ~。心を落ち着かせるなんてもったいないわ~!逃げ道なんて作っちゃダメ!それは甘えよ~!」

 

 オーバーアクションで説明しますが聞いてみれば一理ある内容です。どうやら勢いだけで話してるわけではないようで少し安心しました。しかし押しまくるですか。アリギュラちゃんも彼氏をそうやって押して捕まえたのかな?

 

 「も~ちろん。ブロ~ディの極悪っぷりにゾッコンになった私は~そりゃあも~間髪入れず告ったわよ~。最初は~軽くあしらわれたけどぉ~、めげずにそれこそ食事中でも~、買い物中でも~、銀行強盗中でも~、死体遺棄中でも~、お構いなしに突撃したわ~。

 そして最後は~アタシの愛が伝わって~晴れてカップルになったってわけよぉ~~~♪」

 

 「おぉ~」

 

 やっぱり経験談でした。おまけに危ない場面でも告白してました。そのうえで見事成就させたアリギュラちゃんの我の強さに感嘆の息と拍手が出ます。無敵の言葉は彼女のためにあるかもしれません。

 

 「女は度胸~~~!!とっととひっ捕まえて背水の陣を引いちゃえば~心も勝手に覚悟完了するわ~。そうなったら後は駆け引きなしで~、ぜ~んぶぶちまけちゃいなさい~。意外とうまくいくわよ~!」

 

 「うぅ、わ、わかりました。やってみます!で、でもアリギュラちゃん。いきなりなにもなしで行くのは無謀です。せめてブローディさんと付き合う時どんなことをしたか教えてください」

 

 「教えな~い」

 

 「えぇ!?」

 

 ぐいぐいくる彼女に根負けして、せめて参考になることはないか聞きだそうとしましたがここでまさかの拒否です。ここまで引っ張ってきて梯子はずしはいくらなんでも酷すぎます……。

 

 「別に意地悪してるわけじゃ~ないのよ~。い~いヒミコちゃん~。アンタはその男子を~自分のモノにするんでしょ~?本当に手に入れたいモノなら~……他人の力なんて借りちゃあダ~メ。

 ……アンタは、アンタ(自分)の欲しいものを、アンタ(自分)の力で、アンタ(自分)のために手に入れるのよ。アドバイスやお膳立てくらいならしてあげてもいいけど、一番大事なところに他人の力なんて不純物を入れちゃ駄目。そんなことしたらその行動全てに価値がなくなっちゃうわ。

 アタシもそう。欲しいものは誰の手も借りずアタシの手でアタシのモノにしてみせるわ。ありえない話だけど仮にブローディがアタシの元を去ったらその時はアタシの愛と力だけで連れ戻してみせる。その邪魔をするなら身内であろうと殺すわ」

 

 真面目な声でそう諭すアリギュラちゃんの、自分の根っこをブレさせない威厳ある姿がとても素敵で眩しかったです。後で偏執王って異名を知った時納得出来ました。あの威厳はアリギュラちゃんを象るオリジン(矜持)なんだって。

 

 「……と、いうわけで~、その男子のハートを~ヒミコちゃんだけの力で掴み取ってみなさ~い。フィルター(誰かの言葉)を通さないヒミコちゃん自身の~本心を言葉にしたら~ちゃ~んと届くわよぉ~」

 

 「私の本心と……私の言葉で……!

 

 ……わかりました、私頑張ってみます。アリギュラちゃんみたいなカァいくて素敵な人が背中を押してくれたんです。私をさらけ出して、そして全部伝えてきます!」

 

 「よ~く言ったわヒミコちゃ~ん!怖じ気づくんじゃないわよ~!」

 

 「はい!女は度胸!です!」

 

 サムズアップするアリギュラちゃんに私も元気よく返事とサムズアップを返します。勇気をもらった私は扉を開け放ち、見送られるように外に出るのでした。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 部屋から飛び出てきた私は早速斉藤君を探すため人のいるところまで走ります。結構な時間お喋りしましたからもしかしたら帰ってるかもと思いましたが、時計を見れば扉を潜る前と大して変わってませんでした。時間の流れが違うことに驚きましたが、それよりも斉藤君です。

 

 心が燃え上がってる今のうちにと、道行く人に勢いよく聞いて驚かれながらも走り回ります。ちょうど友達もいたので急いで聞きました。さっきまで上の空だったのにいきなり元気よく現れた私を驚きながら心配してくれてました。が、ごめんなさい今は斉藤君です。

 そして友達に聞いたらビンゴです。斉藤君をさっき見かけたという情報を得ました!友達にありがとうと言うと私はすぐさま走り出しました。友達は終始ポカンとしてました。面白い顔です。

 

 「ハァ、ハァ……!いた……!待って斉藤君!」

 

 「え?えっと……隣のクラスの渡我さんだよね?どうしたの?」

 

 校舎内を探してついに斉藤君を見つけました!おあつらえ向きにも彼一人だけです。今こそチャンスと私は息つく暇もなく声をかけました。

 

 「突然呼び止めてごめんなさい!少し時間もらってもいいですか?……伝えたいことがあるのです」

 

 「い、いいけど伝えたいこと?」

 

 「はい。……まずは斉藤君。あなたのことが……好きです!」

 

 「へ?……ヘァッ!?」

 

 いきなり呼び止められてから突然の告白に斉藤君はキョトンとして、すぐさま目を見開き驚きました。わかります、私も突然そんなこと言われたら同じリアクションをします!

 だけど私にはまだ言わないといけないことがあります。私自身の普通のことです。これだけは返事の前に伝えないといけません。じゃないときっとお互い不幸になってしまいます。頑張れ私、ここが正念場です。

 

 「驚かせてごめんなさい!それともうひとつ、先に謝っておきます。これから斉藤君を不快にさせることを話すかもしれません」

 

 「ふ、不快?え?なに話すの?怖いんだけど??」

 

 「……本当の私のことです。返事はそれを聞いてからお願いします」

 

 私は話しました。自分の普通のことを。本当の自分を必死で隠したことを。この前喧嘩してボロボロになった斉藤君を見て恋をしたことも。全部、余すことなく。

 

 「……これが本当の私です。友達や先生は私を人当たりがいい"普通"の子って思ってた裏ではずっと今の気持ちを我慢してました。だけど斉藤君に恋して我慢できなくて、偶然出会えた人のおかげでありのままの自分を見せる勇気をもらって、背中を押されて斉藤君に全部伝えることが出来ました。

 ……こんなこといきなり知らされて迷惑かもしれません。こんな私と知り合って大変かもしれません。だけどどうかそのうえでもう一度言わせてください。斉藤君、貴方のことが、好きです。付き合って下さい」

 

 そして返事を聞かせてくださいと、頭を下げて返事を待ちました。話し出してから心臓がずっと鳴りっぱなしで痛いです。それは期待と不安と……拒絶されるかもしれない恐怖でドキドキしてるのだと思います。

 それからどれだけ時間が経ったのかわかりません。そして遂にその時は訪れました。

 

 「えっと、渡我さん。顔を上げてくれる?」

 

 その言葉にゆっくりと私は顔を上げました。そして目に映ったのは……混乱顔のまま必死で言葉を探す斉藤君でした。何とも言えない表情もまた素敵です。

 

 「その……突然すぎるうえ思った以上にヘヴィな内容が容赦なく出てきてちょっと……いやごめん、すごい戸惑ってる」

 

 「ご、ごめんなさい……」

 

 「あー、うん。まあ落ち着く間もなく来させられたっぽいし、悪いのは焚きつけたその人ってことにしておこう。うん」

 

 や、やっぱり少し落ち着いてから話をするべきでした。これには斉藤君も言葉を詰まらせてます。

 

 「ただ、その……うん、ちょっとおかしいと思うけど…………まずはごめん。そんで全部言ってくれてありがとう渡我さん」

 

 「ふぇ?」

 

 謝るのはともかく、突然の感謝に気の抜けた声が出ちゃいました。もしかして告白失敗?と思ったけどそれだったら感謝の理由がわかりません。

 

 「突然告られてさらに突然身の上話が始まった時は「何が始まったんだ!?」とか思ったし、聞いていくにつれてドンドン内容が重くなってきてすげえ怖かったし、後ごめんドン引きした。

 ……けど必死で包み隠さずに話す姿を見ててああ、これ本当に俺が好きで嫌われるのも覚悟で話してんだなってなんとなくわかった。そこまで必死になってくれてるって考えたら、その、嬉しくて少し照れくさくなった。んで、そうと知らずドン引きしたのが申し訳なくなって、だからごめんって。で、俺の事そこまで好きになってくれてありがとうって思ったんだ」

 

 「!じゃ、じゃあ!」

 

 「…………だけど、その、君の頑張りを裏切ることになっちゃう。

 

 ……ごめんなさい渡我さん!」

 

 「!?」

 

 頭を下げる斉藤君から返ってきたのは拒絶の言葉でした。その返事を聞いた私は一瞬目の前が真っ暗になったような錯覚に陥りました。

 けど私はすぐ持ち直します。だってアリギュラちゃんが言ってました。ブローディさんには最初はあしらわれたけど最後は愛が伝わって付き合えたって。ショックはありますがまだ一回駄目だっただけです。これから何度も告白して、それでも駄目ならまずは友達から始めるのも手かもしれません。

 

 「ほ、本当にごめん!君の気持ちを聞いて嬉しいのは確かなんだ!決して君の本性が怖いとかそういう理由じゃないんだよ!」

 

 ショックで黙り込んでしまったと思ったのかな、斉藤君が私を必死で慰めてくれます。困らせるわけにはいかないので大丈夫ですと伝えようとしました。

 

 「だけどその、それでも付き合えないんだ。君が嫌というより……俺の方に問題があって…………」

 

 けれど見れば斉藤君はすごいバツの悪そうな顔をしながら口ごもっていました。理由が気になるので黙って待ってその言葉を聞きました。……聞いてしまいました。

 

 

 

 「実は……もう彼女いるんだ…………」

 

 

 

 …………ああ。

 

 どうやら私は……最初から勝ち目のない戦いに挑んでしまったようです。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「おかえり~。……その感じじゃ~駄目だったぽいわね~」

 

 「……はい、残念ですが斉藤君にはその、彼女さんがもういたんです」

 

 「ありゃま」

 

 あれから私は斉藤君が謝罪してくるのを無理やり切り上げてアリギュラちゃんの部屋まで走ってきました。アリギュラちゃんは一目みてわかるほど落ち込んでる私に結果に軽くだけ触れて、しばらく沈黙が流れます。

 

 「大丈夫~?」

 

 「え?あ、あはは、な、なんとか大丈夫です。はい」

 

 「ふ~ん……」

 

 心配させないように頑張って明るく振る舞いますがアリギュラちゃんは黙って私を見つめます。私の本心をわかってるから早く口にしろって言わんばかりの視線を送ってきます。

 

 「…………」 

 

 「…………ごめんなさい、やっぱり辛いです」

 

 「ちゃんと言えたじゃない~」

 

 辛いって口にしたら、ああ、本当に私失恋したんだって実感がドンドン湧いてきました。目に涙が溜まりだして今にも泣きそうな私に向かってアリギュラちゃんは両手を大きく広げてきました。

 

 「んっ」

 

 「な、なんですか?」

 

 「頑張ったヒミコちゃんへの~ご褒美よ~。ぎゅ~ってしてあげるからまたウダウダと溜め込まないで~あの男子への思いぜ~んぶあたしの胸の中で~吐き出しちゃいなさい~。スッキリするわよ多分~」

 

 そういうと再びんっと胸を張りなおし受け入れ態勢を取ってきました。私はそんなアリギュラちゃんの元へフラフラと誘蛾灯みたいに吸い寄せられて、途中で隙ありとアリギュラちゃんから近付いて私の頭を覆うように抱きついきました。乗りかかるようにしてきたので自然と膝立ちになっちゃいます。そうしてアリギュラちゃんは頭を撫で始めて、さあ全部ぶちまけなさいと言ってきました。

 

 「……私ね、斉藤君のことが今でも好きです」

 

 「うん」

 

 「喧嘩してボロボロになった姿が素敵だったことも、血が好きで好きな人の血を啜るのが私にとって抱きしめたりキスしたりするのと一緒だったことも。全部言い切ったうえで大変かもしれないけど付き合ってくださいって、伝えました」

 

 「うん」

 

 「話したら斉藤君には引かれちゃいました。けど好意を持たれたことに照れていました。でもすでに付き合ってる子がいるって言ってごめんって言われました。

 

 「そこなんだけど~、略奪愛はなしの方向なの~?」

 

 「……最初はそれも考えました。けど斉藤君はその子とは本気で付き合ってて、二股する男にはなりたくないしそっちもそんな男と付き合いたくないだろうからって、だからごめんって頭下げられました……。ここまで誠実にしてくれた斉藤君を裏切る真似はしたくないです……」

 

 「そっか~」

 

 「悔しかったです。好きになったときにはもうすでに土俵に上がる隙間がなかったことがとっても悔しかったです。

 ……でもね、嬉しくもあったんです。パパやママやみんなに異常だって言われた私の普通を、驚かれたし引かれちゃったけど、それでも好きな人が理解してくれたのが……。

 嬉しかったんです。私の世界がどれだけ狭かったのか……みんながみんな私の普通を受け入れてくれないわけじゃないって知れたのが……!」

 

 「うんうん」

 

 「生きにくいけれど……まだこの世界も悪く……ないがなって……おもえ……で…………うえぇ~~~……!

 

 「お~ヨシヨシ~好きにお泣きなさいよ~。……まったく、振った相手に恨み言の一つも言わないなんて、アンタ本当にいい女よヒミコちゃん。あの男子もおっきな魚逃したわね」

 

 私はとうとう我慢できず泣きました。胸元に顔を埋めてくぐもった、嬉しさと悲しさが混じった声をあげました。

 その間ずっとアリギュラちゃんはよしよしと頭を撫でてくれて、その温もりがとっても嬉しくて、この時初めて、止めたくない涙が流れた気がします。だってこの涙は辛くても私という女の子が勇気を出して一歩踏み出せた、頑張りの涙なのだから。

 

 私の初恋はこうして終わりました。だけどそれは私が思ってたようなどうしようもない苦しくて悲しい終わりかたじゃなくて、むしろ悲しくてもそれを糧に立ち上がれる、最高の失恋だったと思います。

 それに悪いことばかりじゃありません。斉藤君のように私の普通を聞いて理解してくれる人がいることを知れたし、私の普通を楽しそうに受け入れてくれたアリギュラっていう最高にカァいい子と出会えました。

 なにより……誰かに抱きしめてもらうのが、本当はこんなに心が安らぐ素敵なものなんだって、思い出すことが出来ました。

 

 

 私は今、とっても悲しくて、だけどとっても幸せです。

 

 

 

 




斉藤君に彼女がいるのはこの作品内の設定です。ジッサイいるかは知りません。

Q:なんかアリギュラ綺麗じゃね?
A:トガちゃんに対して駄々甘なだけです。仮にトガちゃんが略奪愛を選んだら彼女さんを行方不明にして斉藤君をフリーにしようとする程度にちゃんとヤベーです。


Q:実際のところ斉藤君はトガちゃんのことどうなん?
A:最初は罰ゲームかなにかかと困惑、話を聞いてて内心アカンやつやこれ!?と滝汗を流しながら必死で生存ルートを模索してました。とはいえ彼女の気持ちはちゃんと理解したしそれほど思ってくれたことを嬉しく思ってるので、せめて理解ある友人にはなってやりたいとは思ってます。いい子です。

【誤字報告】

ちはやしふうさん。 御影鈴さん。

誤字報告ありがとうございました。
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