My Hero Battlefront ~血闘師緑谷出久~   作:もっぴー☆

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自分の作品に赤バーがついているのに対し第一声が「これは誰かの陰謀だ!」と言って評価を素直に受け取れない筆者がいたらしいので第四話です。

評価をくださった皆様、本当にありがとうございます。これを糧に頑張って続けていけたらと思います。


第4話:僕はまだ、誰かを救うために行動してない

 ドゴォッと、身体に浮遊感を感じながらそんな音が聞こえた。きっとその音は僕がゴーレムの一撃を受けた音なのだろう。

 ああ、僕はここで死ぬんだな。なんとなくそう察した瞬間、走馬灯が流れてきた。

 

 幼いころ、両親と三人で出かけた記憶。かっちゃんたちと遊んだ記憶。ヒーローを夢見た個性発現前の記憶。無個性だと知らされ絶望した記憶。ある日からかっちゃん達にいじめられるようになった記憶。かっちゃん達に囲まれて殴られた記憶。かっちゃんに閉じ込められた記憶。かっちゃんに吊るされた記憶。かっちゃんに脅された記憶……。かっちゃんにノートを爆破された記憶……。かっちゃんに……かっちゃんに…………。

 

 ……なんで後半思い出すのがかっちゃんにいじめられてる記憶ばっかりなんだ?もしかしてかっちゃんにいじめられてたのを本当に心では楽しんでた?あれ、もしかして僕本当にマゾヒストだった?それとも今際の時でもかっちゃんに会いたかったのか?…………出来れば後者であってください。

 はぁ、もうやめだやめ。考えれば考えるほど悲しくなってくる。どうせ僕は死んだんだ、これ以上アレコレ考えても意味がない。だいたいあんな巨腕が頭に振り下ろされてペシャンコになったというのによくもまあこんなに色々考える余裕が……

 

 ……あれ?ペシャンコ?

 

 おかしい。巨腕が僕に向かって振り下ろされたというのに身体は浮く感覚に襲われている。それもに横に飛ばされたような、よくよく考えれば痛みも思ったよりない。これはどっちかというと横から思いっきりぶつかったような感覚に近―――

 

 「―――ヘブッ!?」

 

 ズシャッゴロゴロ!と地面を転がり滑る痛みに襲われ、ある程度転がり近くの瓦礫にぶつかって急停止した。あちこちぶつけ、終いには瓦礫に背中から当たって悶絶する。

 全身に傷を作り痛みに襲われるがしかし、その痛みも視界に入った巨腕を下ろす両断されたゴーレムと、

 

 頭からドクドクと血を流すザップさんが視界に移った瞬間には忘れてしまった。

 

 僕は理解した。あの衝撃はザップさんに吹き飛ばされたものであり、ゴーレムの一撃は受けていないと。そしてその代償としてザップさんが代わりにその一撃を受けてしまったのだと。

 ふらつく身体を刀で支えるザップさんを見て僕は慌てて駆けていった。ちょうど警察が防衛線を張ることに成功したのかゴーレムはこちらに来ていない。

 自分の身体から血の気が引いていく気持ち悪さを感じながら、それでもザップさんに必死で声をかける。

 

 「ザ、ザップさん!!大丈夫ですか、ザップさん!?」

 

 ザップさんに手を伸ばし血まみれの身体を支えた。流れる血が身体中につき、傷口に触れて沁みるがそんなこと気にしてる場合じゃない。しかし支えたその手はすぐに振りほどかれ、睨みつけられた。

 

 「うるせえピィピィ泣くんじゃねえ鬱陶しい。派手に血ィ出てっがこんなんかすり傷だ、つばつけときゃ治る。んなことよりさっさと逃げろ。今サツ共が抑えてるからそれくらい楽に出来るだろ」

 

 「ま、待ってください!かすり傷って、そんなの嘘だってわかりますよ!明らかに血の量がおかしいです、少し支えただけでこんなに血塗れに……せめて止血だけでもしないと!ザップさんは血を操る個性―――じゃなかった。血法を使って戦っているのに、こんなに出血しちゃあ命も危ないんじゃ!?」

 

 「うるせえつってんだよ、俺様をなめんじゃねえ陰毛。この程度で戦えなくなるほどヤワじゃねえんだ。いいからさっさと逃げろって言ってるだろ言うこと聞け陰毛!」

 

 「だけど「っいい加減にしろクソガキ!!」

 

 なんとか止血だけでもしようと食い下がった僕にザップさんは怒りの形相で胸倉を掴み上げ、今まで我慢していた分の怒りを込めるように叫んだ。

 

 「もう我慢ならねえ、ハッキリキッパリ言わなきゃわかんねえようだからこの際だ全部言ってやる!一字一句逃さず聞きやがれ!!

 いいか、ここにテメエがいるだけで俺はまともに戦えねえんだよ!わかるかわからねえよななんせ逃げねえんだからよ!

 だからそのお花畑な脳みそちゃんにわかるように懇っ切丁寧に教えてやる!お前が!ここにいるだけで邪魔なんだよ!足手まといなんだよ!!大・迷・惑なんだよ!!!

 

 少しでも考えりゃ無駄だとわかるのにわざわざ危険に向かっていく!そのくせに抗う力も全然もたねえ、すぐに巻きこまれてピンチになっては俺に助けられてその代償をこっちに支払わせる。全ッ然笑えねえんだよッ!!今この場で起きてるのはカス共のくだらねえ喧嘩やどっかでドンパチやってるヤクザの抗争じゃねえ!結果次第で世界が取り返しのつかねえ混沌に呑まれかねない命がけの戦いだ!

 てめえの自己満で勝手にフラフラして騒いで目立って死ぬのは蚊ほどもどうでもいい、いやむしろ死んでくれたほうが俺としては大助かりだ!なんせそうなったらテメエを気にせず暴れられるし、なによりテメエのお守りなんて一ゼーロの価値もねえくっだらねえ任務から解かれるからな!!」

 

 ザップさんが今までの鬱憤を晴らすかのように言いたかったことを吐き出していく。締め付ける力が強まり息苦しく感じるが怒りに気圧されそれを気にする余裕はない。

 

 「……だがそれは出来ねえ、旦那が俺にお前を守るよう言われてるからだ。俺を信じてよ。それに応えるためにどんなにテメエがバカやっても守らねえといけねえ。その結果俺がこんな怪我を負ってでもよ。

 ここまで言えばどれだけ迷惑をかけてるかわかったか?わからねえよな?ならもっとテメエにわかりやすく言ってやる。

 

 今のテメエのやってることは俺たちにとっての(ヴィラン)行為だ」

 

 「ッ―――!!!」

 

 「ハァ……理解したならうろちょろしてねえでとっとと逃げろ。じゃねえとあそこに転がってる奴らの仲間入りにさせるぞ」

 

 言いたいことを言い切ったザップさんは掴んでいた手を放した。もはや彼から怒りの感情はすでになく、代わりに呆れと憐憫が込められていた。血の刀をそこに向ける。目で追った先には瓦礫の山と、ゴーレムに殺され、中途半端に原型を留めた無惨な死体が散らばっていた。

 

 「―――うっ!ぐっおっおげぇっえええぇぇ……」

 

 先ほどまでぶつけられた怒りと突きつけられる現実と死体。そして選択次第で自分もそれの仲間入りになるという恐怖に僕は限界に達し、吐いた。お腹の筋肉が萎縮するたびに胃から込み上げてくる酸っぱい液体が喉を犯し、鼻いっぱいに匂いが充満し、そして吐き出してはその不愉快な匂いにさらに吐き気を促す。

 死体に目を向けるとまるで「何故お前だけ生きている」と告げるような視線を錯覚し、ロクに息をすることが出来ず、地に手をついて吐き続ける。ご飯を食べる前だったため固形物はあまり出ないが、そんなのは関係ないとひたすら胃液を吐き続け、僕の顔は吐瀉物と、大量の汗と、涙で見られたものじゃなくなった。

 その間ザップさんは何も告げずその場に留まり、こちらに迫る警察の討ち漏らしたゴーレムを切り払っていた。しかしその動きは明らかに先ほどよりキレが悪く、庇った時のダメージと出血が影響を及ぼしているのをまざまざと理解させられる。

 ……もうここで僕に出来ることは一つだけだ。ここから一秒でも早く逃げて、クラウスさん達に応援に来てもらうよう連絡することだ。

 

 「……すみませんでしたザップさん。急いで離脱してクラウスさんに連絡を「もうやった。とっとと行け」……はい……」

 

 俯きながらフラつく足を鞭打って走りだす。嗚咽の混じった自分の声を聞くたびに情けない気持ちでいっぱいになるが、止まるなと言い聞かせ足を動かす。少し走ったあたりから戦闘音が突如大きくなった。後ろを見るとどうやら警察の防衛ラインが崩れだし、ゴーレム達がなだれ込んできた。しかしザップさんも存分に暴れられるからか広範囲に渡ってゴーレムを燃やしている。あれで負傷しているというのだからどれだけ強いのか想像ができない。

 そしてそんな動きを見ていると、僕という足かせがどれだけ重かったのかわかってしまう。さらに押し寄せてくる無力感に苛まれつつも、僕はこれ以上邪魔をしてはいけないと必死で割り切り逃げる。

 

 しかし状況は変わりだす。周囲の個体よりもひときわ大きいゴーレムが現れた。ザップさんもさすがに余裕がなくなり大型のゴーレムに手を取られだし、その隙に何体も潜り抜け、避難の遅れている市民に襲い掛かる。そしてそれは僕も例に漏れず二体のゴーレムが僕に向かって迫り来る。

 しかし、その攻撃は僕に届くことはなかった。

 

 ドバァンッ!ドバァンッ!といくつもの銃声が響き渡り、こちらに向かってきたゴーレム達の頭部に撃ち込まれる。撃ち込まれた弾丸はそこを起点に雷が迸り、ゴーレムを焼きだした。

 

 「954B・B・A(ブラッド・バレッド・アーツ)

 

 STRAFINGVOLT(ストレーフィングヴォルト) 2000!!(・トゥーサウザンド)

 

 バリバリバリィッ!!と電撃が走り黒焦げになるゴーレム。さらに電流は惹かれるように周囲のゴーレムにも伝播し、同じように焼いていく。僕は銃声の先を見る。そこには見知った女性がゴーレム達の動きがなくなったのを確認しつつこちらに向かってきていた。

 

 「おまたせ!大丈夫イズクっち!?」

 

 「K・Kさん!」

 

 ライブラの戦闘員の一人で、血闘師である女性、K・Kさんが助けに来てくれた。警察の防衛線が崩壊しかけてる現状攻撃範囲の広い彼女が応援に来てくれたのはありがたい。

 

 「ってあらら、どうしたのよイズクっちその顔。なんかベチャベチャで色々大変なことになってるわよ?あ、もしかして吐いちゃった?やっぱ現場は子供には刺激が強すぎるわよね。ほら、拭いてあげるからじっとして」

 

 「わっぷ、ちょっ、K・Kさん!自分で拭きますんで、今はザップさんの援護を!僕をかばって負傷したせいで今苦戦してるんです!」

 

 「ザップっちが?………確かに不味いわね。イズクっち、悪いけど援護に回るわ。私の来た道はまだ安全だからからそっちから逃げて頂戴!」

 

 持ってたハンカチで僕の顔を拭ってくるK・Kさんに断りを入れザップさんの援護をお願いする。僕に手を取らせるわけにいかない、今は召喚され続けるゴーレムの排除を優先してもらわないと。

 状況を聞いてザップさんのほうを見やると真剣な表情になり、指示をするや援護に向かった。ザップさんもK・Kさんが来て余力ができたのか反攻に出始めたようだ。

 それを確認した僕は受けとったハンカチで適当に拭きながら走り出す。途端後ろから爆風と雷鳴がさらに強くなる。轟音と振動でたたらを踏むが、それでも必死に逃げる。

 

 そう、僕は逃げる。僕は無力だ、あだ名通りなんの役にも立たない。唯一役に立つ方法はこの場からいなくなることだ。そう言い聞かせ足を運び続け、遠くから車が一台やってくるのが見えた。場所はまだ遠いがスティーブンさんの車だとわかる。なら中にいるのはあの二人だろう。そして予想通り二人が降りてきた。状況説明をしなきゃと二人に向かってに大声を出した。

 

 「クラウスさーん!スティーブンさーん!」

 

 「あれは……少年か!ザップは一緒じゃないのか!!」

 

 「僕を逃がすためにゴーレムと戦ってます!怪我をしてて、K・Kさんが今援護してくれてますがそれでもどう―――」

 

 今後ろはどんな状況なのか、説明をするために振り向いた。

 

 

 そして見つけた。見つけてしまった。

 

 

 瓦礫に挟まり、倒れている女性と、それを泣きながら助けようとする娘の姿を。

 

 

 足が止まった。さっきまで生き残るために必死で動かしてた足が、今は鉛のように重く感じる。

 何故、何故止まった?いやわかっている。あの親子を助けないと、なんて思ったのだろう。そこまで考えて思考を意識しだした。

 

 (は、早く行かないと……なんで?助けるために?どうやって?ここからあそこまで距離がある。それに僕じゃあの瓦礫を動かす力もないし道具もない。ゴーレムもあちこちに散らばってる。あれをすべて掻い潜って行くのか?僕に出来るのか?)

 

 思考を必死で動かして……そして無理だと判断した。さっきザップさんが言ってただろ?僕がいるだけで迷惑だと、僕がバカをするたびに誰かを傷つけていると。今ここで出て行っても誰かが怪我するか、自分が死ぬだけだ……さっきの凄惨な死体のように。

 そう自答をしているとスティーブンさんの声が聞こえてきた。

 

 「どうした少年!?急いで離脱するんだ!」

 

 ……そうだ、ここで悩んでいる場合じゃない。今は少しでも……逃げるために足を動かさないと。二人と合流して、現場の状況とあの人たちの救援を頼まないと……。

 

 (ごめんなさい……ごめんなさい……!僕にはどうすることも出来ない。クラウスさん達がきっと助けてくれるから……だからそれまでどうか耐えてください……!)

 

 自分の無力さを免罪符に言い聞かせて、スティーブンさんの命令を聞き足を動かす。耳をふさぎ、目を瞑り、ひたすら謝り続けそして僕は二人を見捨―――

 

 

 

 

 

「―――たすけて―――」

 

 

 

 

 不意に、後ろからそんな言葉が聞こえた。

 耳を塞いでいた。周りは警察とゴーレムが激しい音を鳴り響かせて戦っている。

 だというのに、僕はその声を拾った。悲嘆に溢れたかぼそい声を。

 

 

 

 

 

 後ろに振り向いた。

 

 

 

 

 

 そこには幼い子供がこちらに手を伸ばし

 

 

 

 

 

 「救けを求める顔」があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間――――――僕はその親子に向かって走り出していた。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「!?馬鹿野郎なにをやってるんだ!?早くこっちに戻ってこい!」

 

 予想外の行動にスティーブンは口調が崩れるのも気にせず叫ぶ。それもそうだ、突然自殺しに行くような行動を取ったら誰だって驚く。そしてそんな行動に一番驚いていたのは当の本人だった。

 

 (なんで?なんで??なんで!?

 なにをしてるんだ僕!なんで僕は戻ってるんだ!?なんであの親子に向かって走ってるんだ!こんなところで僕が向かってもどうしようもないのに!?どんなに良くても重傷、普通に考えて即死、最悪で二次被害が出るかもしれないんだぞ!?それなのに、なんで!?)

 

 死を目の前にして怖くてたまらない。それでも身体は勝手にあの親子に向かって走り続けている。

 僕は走る。近くのゴーレムが僕に気付いて向かってきた。だけどたどり着く前に雷弾を浴び倒れていく。一瞥すると驚いた顔で援護をしてくれたK・Kさんの姿が見えた。それに僕は感謝しつつ走る。

 

 必死で走る。距離にして50mあるかどうかの距離だ。だけど何倍もの時間を走ったように錯覚する。

 

 それでも走る。あと少しで親子の下にたどり着く。しかしそれは親子のそばにゴーレムが降ってきたことにより遮られた。

 ドドーンッ!っと大きな音を鳴らし瓦礫が舞う。それによって女性を押しつぶしていた瓦礫も吹き飛んだが、その代わりにゴーレムが親子を見つめていた。

 

 けれども僕はそれに向かって走る。

 

 ―――なぜ向かうんだ。もう無理だろ?

 ―――いやまだだ、瓦礫がない今なら二人を動かせる。

 

 ―――そんなこと僕が出来るわけない。

 ―――なんでそう言い切れる。試してみないとわからないぞ。

 

 ―――だいたいなんでこんなことをしてるんだ?

 ―――あの子が救けを求めたからだ!

 

 ―――そうやって綺麗ごとを言ってるけど、結局ザップさんの言う通り自己満足じゃないのか?

 ―――……ああそうさ自己満足さ!!

 

 ひたすら自問自答を繰り返しながら走る僕。自問を繰り返していく内に僕の中で徐々に答えが形作られてだした。

 

 (そりゃあ感謝されたいさ!尊敬されたいさ!それが人ってものだ!そう考えるとザップさんの言う通りだよ!騒いで目立って危ない目にあって迷惑かけてる!それでも、それでもあの子を救けたいというこの気持ちは嘘じゃない!!僕はまだ、人々を救うヒーローに憧れてるから!オールマイトのような、笑顔を作るヒーローに憧れてるから!!)

 

 重い足を無理やり動かすように走る。ゴーレムは親子に向かっていく。女性は気絶しており子供も恐怖で動けない。

 

 (無力のままなんてもういやなんだ!なにより僕は!僕はまだ!誰かを救うために行動してない!!)

 

 ふらつきながらなお走る。ゴーレムはふたりに向かって剛腕を振り上げる。ザップさんもK・Kさんも他のゴーレムに手いっぱいで間に合わない。

 

 (力が欲しい!オールマイトみたいな力なんて贅沢は言わない!なんでもいい、誰かを守る、救う力を!!)

 

 走る、走る。ゴーレムはふたりに向かって剛腕を振り下ろす。手を伸ばすが未だ遠く、手は届かない。

 

 (間に合わない、いや違う、間に合わせろ!駄目だ、どうにもならない。そうじゃない諦めるな!振り切るまでまだ時間がある!やめろ!やめろおおおおおおおおおおおおおっっ!!!

 

 ―――しかし叫び伸ばした手は届かず、剛腕は親子へ振り下ろされ、衝撃により地面が割れ、瓦礫と煙が舞い、何かがぶつかる衝撃と共に後ろに倒れこんだ。

 瓦礫と土煙で遮られる視界、全力で走ったからか身体が、特に伸ばした手が沸騰したように熱く感じる。しかし頭は冷静だった。冷静だから、現実を理解した。

 

 「……助けられ……なかった……!」

 

 あの親子を助けられなかった。その事実が去来し、涙が溢れだした。起き上がることもせず、ただ嗚咽をならし続ける。見たくない現実から背けるために目元を隠して……。

 

 近くで戦闘音がした後、誰かがこっちに走ってくる音が聞こえた。怒鳴り声からしてザップさんだろう。もう何をされようが覚悟は出来ている。ここで僕を切り捨てようとするかもしれなくとも。……でももうそれでいいかもしれない。結局僕は役立たず、正真正銘の「デク」なのだから……

 

 「テメエクソガキッ!!!!あれだけ言ってなんでとっとと逃げ――――――」

 

 僕に向かって怒髪天を衝くザップさん。説教でも罵詈雑言でも甘んじて受けようとする僕だったが、何故か途中でザップさんは言葉を失う。腕をどけ、涙で塗れる視界に移ったのは、目を見開き呆気に取られるザップさんだった。

 

 「どうしたんですかザップさん……ああ、僕の情けない姿を見てもう言葉も出ない「うぅん……」ですか……えっ?」

 

 今、僕ともザップさんとも違う声が聞こえた。一体どこだと身体を起こし確認しようとして、声の主が僕の身体に倒れこんでいたのに気が付く。

 

 「あ……ぁあ……ッ!!」

 

 そこにいたのは、先ほど死んだと思った親子だった。決して無事とは言えない、身体中傷だらけだし、気を失っている。

 それでも二人は生きていた。生きていてくれた……!

 

 「生きて……いぎ、でっ……!よかっ……ほんど、にっ、ほんっ……、よかっ……だっぁあ……ぁぁぁあああ……!」

 

 再び涙が溢れだしむせび泣きだす。今度は目の前で死んだと思った二人が生きててくれた、その嬉しさに。

 

 ……だが疑問が残る。何故この二人が生きているのか。何故僕のそばにいるのか。あの時伸ばした手は届かず間に合わなかった。だというのに何故?

 そうして母子の身体を見る。するとどういうことだ?赤い糸が幾重にも巻き付いていたのだ。いや、糸というには太い。どちらかというと紐か?まあそれはいい。どっちにしろこれで理解した。

 これはザップさんがよく使っている血法の糸だ。つまりザップさんが助けてくれていたのだ……。

 はは、やっぱり迷惑をかけてばかりだな僕は……。それでも、この人たちが助かってくれたことに僕は嬉しかった。

 

 「はは……ありがとうございますザップさん。結局僕だけじゃなく、この人たちまで助けてくれて……。でもやっとわかりました……。夢を追うのもいいが相応の現実も受け入れるべきだって。……でも、それでも僕は、ヒーローに……ってあの、ザップさん?どうしたんですか?鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして……?」

 

 「……おい、その糸の出どころ追ってみろ」

 

 僕のところへ来てからずっと呆気に取られた、面白い顔になってるザップさんがそう告げる。言われた通り視線を血の糸にやり追っていく。

 幾重にも枝分かれした血の紐は少しずつ集まり一本、また一本と纏まりだしていき、そして最後には太い血の一本線へとなり、その一本線の出どころを辿っていくと

 

 

 

 

 僕の右手の平にたどり着いたのだった。

 

 

 

 

 「……………へっ?」

 

 

 

 




覚醒回書いてて楽しい。
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