My Hero Battlefront ~血闘師緑谷出久~   作:もっぴー☆

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引っ越しも落ち着いたので第四十四話です。

お待たせしました引っ越しと後片付けがGWにまでもつれ込んでてんやわんやしてました。しかしそれも終わった今、ようやくギルティギアとジークアクスを観れます。あ、嘘ですちゃんと書いて投稿します石投げないで。


第44話:ファニーボーン(肘がめっちゃ痺れるヤツ)

 さて、食堂ではランチラッシュ暴走、トガさん襲来、峰田君嫉妬という全く嬉しくない三本立てをもらった僕だがなんとか無事……無事?昼食も終えてオールマイトが普段使いしている仮眠室へと到着した。

 

 「おまたせしました……」

 

 「この短時間でなにがあったの!?」

 

 疲れた僕を出迎えてくれたオールマイトは僕を見るや吐血した。なにがってそりゃあトガさんですよ。

 彼女があれこれはしゃいだせいで中心にいた僕は普段以上に疲労がたまりフラフラである。顔もしわしわピカ〇ュウみたいになってると思う。

 おぼつかない足取りでソファに向かいすみませんとそのまま突っ伏す。チーンという音が朝に続き聞こえた気がした。

 

 「その、大丈夫かい緑谷少年?もしかしてあの時無理してでも呼び止めておけばよかったかな?」

 

 「いえ、オールマイトは気にしないでください……」

 

 プルプルさせながら答える僕にオールマイトはごめんねと謝った。誘いを蹴ったのは僕であり、この疲れも自業自得なので謝罪はいりません……。

 それに結果論ではあるがランチラッシュの暴走を止めることも出来ました。放っておいて動物園の亜種が開園することを考えればこの疲れも必要経費だ。そう思おう。それより話だと気持ちを切り替え居住まいを正した。

 

 「ふう……それでなんでしょうか。やっぱりトガさんのことですか?」

 

 「ま、まあ半分はトガ君だね。先に彼女のその後を話すよ」

 

 オールマイトは彼女のその後を教えてくれた。

 あれから僕と別れたトガさんはオールマイト、相澤先生、塚内さんの三人と合流し渡我家に向かうことに。塚内さんが予め発見された旨を伝えたこともあり帰るや両親は駆け寄りトガさんを抱きしめ大泣きした。

 

 しばらく再会の喜びを分かち合った後、どうしていなくなったのかを問われ、理由を話すことになった。

 子供の頃からずっと血が好きだったこと。普通になろうとしたけど無理だったこと。好きな人が出来て暴走しかけたこと。偶然出来た親友のおかげで恋は実らずも良い結果に落ち着いたこと。その人に誘われてニューヨーク(紐育)に行ったこと。向こう(H・L)でたくさんの人に自身の普通を理解してもらえたこと。そして僕に惚れて追いかけまくったこと。僕がこちらに帰ったので戻ってきたこと。ヘルサレムズ・ロットのことは知るべきではないので話さなかったようだ。

 

 ただ彼女の濃密すぎる一年―――本当は七年だが―――の内容に、両親は困惑。常人には刺激が強い内容に両親は娘が帰ってきた喜びよりも、もはや娘が普通とはかけ離れてしまい普通に戻れそうにないと嘆いてしまい、トガさんもその反応に落ち込んでしまった。

 

 それらを終始見ていたオールマイト達は、このまま家に帰しちゃお互い不幸になると悟り、引き離す方向にシフト。相澤先生が合理的に諭し、塚内さんが執り成し、オールマイトがフォローを入れる豪華な説得によりなんとか話はまとまった。

 トガさんもまた昔みたいに無理に縛り付けられるのも嫌だしお互い整理する時間が必要ということで実家には戻らず一人暮らしすることに。

 

 とはいえ異界を行き来した特異点かつ超級敵(アリギュラ)の親友なんて爆弾を放り出すわけにもいかない、どうするかと悩んだ。が、そこは根津校長が雄英に住み込みで働けばいいと提案したことで解決した。

 これなら彼女を側で監視……もとい見守ることが出来るし、何かあれば僕に押し付け……対処してもらえるとのこと。いや無理に言い直さなくていいですよ。理に適ってますし。

 

 幸いトガさんは色んなバイトをしていたため事務や用務といった作業にも堪能だ。トガさんも渡りに船と快諾。

 そして彼女の要望で食堂で働くことになった。理由はもちろん僕に会う口実と愛妻料理を作るためとのこと。でしょうね、容易に想像出来ます。でも結婚どころか付き合ってもいないので愛妻ではありません。

 

 「はあ……これもしかしなくとも明日以降の僕のお昼はトガさんお手製になるんだろうな……」

 

 いや別にいいんだよ、美味しいし。でも外堀を再びブルドーザーで埋めたてられてる状況に胃痛を覚えてしまう。ただでさえオールマイトが平和の象徴に誘ってくるのに。僕の外堀は何処へいった?一面丘しか見当たらないぞ。

 

 「そ、そんなに嫌なら私からも彼女にそれとなく諭しておこうかい?」

 

 「いえ、彼女を無碍にするわけにはいかないので周囲に害がない限り結構です。むしろオールマイトが僕の意を汲んでください」

 

 貴方に選ばれるのは大変光栄ですが同時にありがた迷惑です。いや本当こんな血なまぐさい時代の象徴とかみんな嫌ですよ。そう返すと今度はオールマイトが落ち込んだ。

 さすがに言い過ぎたと思い気まずくなったので無理やり話題を変える。それで先ほど半分と言ってましたがもう半分はなんですか?

 

 「あ、ああ。もう半分は脳無関係だね。……先日戦った脳無だが誰かわかったんだ」

 

 「もうですか?思った以上に早く判明しましたね。警察はそのあたり慎重に行うと思ってました」

 

 「警察を舐めちゃあいけないぜ!とはいえ本当ならしばらくは聴取といった人道手段を取ろうとするんだけどね。ただ少年が脳無は死体だという情報があったおかげでそれらをすっ飛ばしてDNA検査に持ち込めたのが大きい。でなければもっと時間がかかってただろう」

 

 そう言うとオールマイトは簡単に情報をまとめた紙をこちらに渡してきた。機密情報だろうにいいのですか?忠告せず渡してくる以上塚内さんから許可はもらってそうだけど。

 内容としては容姿が中肉中背で唇が特徴的な顔。経歴も軽犯罪程度の前科を持った、まあただの小悪党だ。至って普通の、チンピラみたいな人生を送っていたであろう人間の情報でしかなく、残念ながらここからオールフォーワンに繋がる情報を見つけ出すのは不可能だろう。

 

 ……けれどそうか、脳無(犠牲者)の身元がわかったのか。

 あの街(H・L)で襲ってくる肉人形(フレッシュゴーレム)といえば基本滅茶苦茶に繋ぎ合わせて改造されているため個人の特定が面倒極まりなく、なんだったら魔導生物扱いで戸籍が存在しないモノと扱われることもある。だからその身体が遺族の元に帰れるということはとても喜ばしいことだ。

 

 ……けれど同時に、遺族達が現実を受け止めることが出来るかどうか気を病んでしまう。なにせ見るも無残な姿で帰ってくるのだから。

 

 兆歩譲って既に死亡届も出て埋葬も終えている死体ならまだいい。遺族を案じ知らせずそっと弔ってやればいいのだから。

 だが行方不明などで家族が未だに帰りを待ち続けている場合は簡単な話ではない。

 帰らぬ故人を待ち続け、癒えぬ傷を抱え続けるか、それとも見るも無残な姿になった身内を目の当たりにし救いのない現実を突きつけられるか。……吐き気すら覚える二択である。

 

 おそらく警察は脳無の親族には伏せておくだろう。人によっては現実を受け入れられず心を病んでしまうだろうから。それなら隠すか、もしくは姿だけでも元に戻せるような個性を持った人が現れるのを期待して待つ方がお互いのためだ。

 

 ……やるせない気持ちが胸に渦巻き激しい怒りを覚える。抑えろ僕、この怒りはオールフォーワン達にぶつけるその時まで取っておくんだ。

 

 「ただここからどう手を付けるか悩んでいるところでね。さすがに肉人形(フレッシュゴーレム)なんて存在を取り扱った人物なんているわけもなく、目標を定めず闇雲に捜査してたどり着ける手合いじゃない。

 そこで我々よりこういう手合いに詳しい緑谷少年に狙うべき場所がないか教えてほしいのだ。なにかヒントになる材料はないか、どうか教えてくれないか」

 

 なるほど、脳無は肉人形(フレッシュゴーレム)と似通った存在だ。どういう存在なのか知り、見抜いた僕だからこそ見える視点があると。そこからアプローチをかけることが出来るということか。

 ……だったら僕に聞いたのは正解です。こことはまた違った超常が跋扈するあの街ではこういう調べものは幾度もしてきた。

 

 「……肉人形(フレッシュゴーレム)の特徴は死霊術を用いて死体を動かす技術ですが、この術式にはもう一つ、切っても切れない、現代にも浸透してる必須技術もあります」

 

 「もうひとつ?」

 

 「人体に精通し、身体を切り接ぎ慣れていること。つまり医学的技術です」

 

 そう、肉人形(フレッシュゴーレム)はただ死体を接げばいいわけじゃない。人と遜色ない動きをさせるとなると高度な技術が必要になる。それらを考えず適当に接いだ肉人形(フレッシュゴーレム)なんて動くこともない趣味の悪すぎる置物だ。

 さらに言えば肉人形(フレッシュゴーレム)の最大の利点は薬物強化を図れること。そうなると高い医学知識も必要になってくる。つまり脳無はあらゆる医学分野に精通した人物がこいつを作ったことになる。

 

 「つまり相応以上に腕のいい医者も関わってることになるのか。なるほど、なら有名どころの闇医者たちを洗い出してみるのがいいか?」

 

 「裏だけでなく表もお願いします。脳無の存在を考えると大きい病院が関与している可能性も念頭に入れたほうがいいでしょう」

 

 脳無なんてあきらかに製造コストが馬鹿にできない存在を維持でき、かつ死体を集められる場所となれば死体を多く安置しても違和感のない場所。例えば相応の霊安室を持つ病院の関与もあり得る。病院を管理するもの、院長といった上役に焦点を当てるのもいいだろう。

 

 「確かに、奴ならそういう仲間がいても可笑しくないか。助かったよ少年、参考にさせてもらう。

 ただ大きい場所となると…………帝王医科、蛇腔総合、仁友堂、etc……。うぅむパッと考えてもいくつも候補が思い浮かぶな。これは少々骨が折れそうだ」

 

 「こればっかりは警察が早期に突き止めてくれることを祈って待つしかありません。気長に待ちましょう」

 

 そうだねと頷くオールマイト。指標は出来た、ここから僕に出来ることはない。

 あるとすればそれは、(ヴィラン)の喉元に喰らいつくべく牙を研ぎ澄ますことだろう。これからさらに研鑽を積まねば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あーそれと緑谷少年、トガ君の両親からの伝言があるんだが……」

 

 「なんでしょうか?」

 

 「その………………もう君くらいしか望みが薄いからどうか娘をもらってください、とのことだ」

 

 「あーあー何も聞こえません」

 

 もうひとつ、埋められた外堀を掘り返す作業があったや。ハァ……。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 その後軽く雑談を交わしたところで話はお開きとなった。オールフォーワンのことも大事であるが今の僕はあくまで一学生。学業が本分であるためそこを疎かにしてはいけない。

 ただ教室に戻った後も大変だった。口止めをしてないせいで―――あれだけ周知されたら無意味だろうけど―――トガさんとの関係がA組に伝わり、男子からも質問責めにあうことに。

 こういう時やかましいと怒るだろうかっちゃんが完全に我関せずだった時はちょっと絶望した。今ならシャイニングウィザードが飛んできてもいいから絡んできてよ……!

 先生が来るころにはみんな席に戻ったけど休むはずの昼休みで午前の授業より疲れたのは理不尽じゃないかな。

 

 幸い午後は特段変わったことはなく、トガさんの視線を受けつつ授業は進んだ。強いて言うなら体育祭の熱が少し落ち着いたくらいか?落ち着いた理由はトガさん関連なのが複雑だけど。

 

 「おい待て、あの女いたのか?」

 

 「いたよ。あの高窓から覗いてた」

 

 授業中視線を感じ、すわ(ヴィラン)かと視線のする方向へバレないよう目を向けると、廊下の高窓から僕をニコニコ笑顔で眺めるトガさんがいた。必死で気付いてない姿を貫いた僕は頑張ったと思う。

 

 閑話休題(それはともかく)。休憩時間の度に小森さんを筆頭にトガさんとのアレコレを詮索しに来ては頑張って躱し、放課後を迎えることが出来た。

 ようやく質問責めから解放される。さすがに明日になればほとぼりも冷めるだろうと急いで荷物をまとめ足早に出口へ向かった。

 

 「うおお……何ごとぉ!?」

 

 「えぇ……すっごい人集り」

 

 帰ろうとしたがしかし、出入り口に人だかりができていた。どういうこと?

 見たことない生徒がほとんどのため普通科やサポート科といったクラスの人が大半だろう。なんでまたこんなに?

 

 「おいおい出れねーじゃん、何しに来たんだよ」

 

 「どう見ても敵情視察だろそれくらいわかれやチビ葡萄。体育祭が近づいてきてんだ、そんなかで(ヴィラン)の襲撃に耐え抜いた連中の情報はやりあう前に欲しいわな。つってもんなこと考えてねえ物見遊山(アホ面)が大半だろうがな」

 

 疑問に思っているとかっちゃんが腑に落ちる答えをくれた。ああなるほど、先の事件で奇襲を仕掛けた卑劣な(ヴィラン)を返り討ちにした一年のヒーロー科生徒。そんな僕らが来たる体育祭で相手になるんだ。そりゃあ警戒もするか。

 

 「一目置かれるのはいいけどこれじゃあ出るのも一苦労だな」

 

 「ガヤガヤーって騒いでるの見て寄ってきてるだけの生徒もいるしねー!」

 

 物味遊山組ですらない人もいるのか。それだったら通してほしいな。でもこういう手合いは無理に押したら文句を言ってきそうだし、どうしよう。

 いっそ外の窓から出ていこうかな。高所から飛び降りなんて修行や世界の危機で慣れてるし、向こうも飛び降りる姿を見たらビビッて道を空けるようになるかもしれないし。

 

 「デク君、それ私たちもビビる」

 

 「んなアホなことせんでも言ってどかしゃいいだろ。頭使えや」

 

 麗日さんに止められかっちゃんに呆れられた。そうは言っても簡単にどいてくれるものかな?

 

 「誠心誠意伝えりゃ余裕だ」

 

 かっちゃんの口から誠意という違和感しかない言葉が出るやスタスタと出入り口まで向かった。

 ……なんとなく、何を言うか予想出来たのでいつでも止めれるよう気配を消して後ろに忍び寄っておく。

 

 「おいテメエら。

 

 

 

 

 

 雑魚がいくら見に来ても意味ねえからさっさと散れ―――」

 

 ファニーボーン(肘がめっちゃ痺れるヤツ)!!」

 

 「やがあああああッッ!!!?↑」

 

 

 

 

 はい予想通り。周りの生徒を盛大に煽る発言をかましたかっちゃんに、僕はお仕置きとして貫手をかっちゃんの両肘に刺し込んだ。効果が絶大だったのか学校中に聞こえそうな悲鳴を挙げる。相当いいところに入ったのか冷や汗もすごい。今にもひっくり返りそうだ。

 しかしそこはかっちゃん。すぐさま歯を食いしばり押し黙り、もんどり打たぬよう両の足で踏ん張って見事耐えてみせた。これザップさんにやった時はひっくり返ってひいこら言ってたのに。さすがタフネスお化け。

 

 「感心してんじゃねえわ!何してくれとんだこのクソデクゥッ!!」

 

 耐え切ったかっちゃんは大キレしながら僕に掴みかかってくる。けど握力も戻ってないしテレフォンすぎて全然当たる気配がなく怖くない。

 

 「それはこっちのセリフ!誠心誠意って言いながらなんで煽るのさ!」

 

 「対策しても地力負けすんのが目に見えてるから帰って鍛えろっつったんだ!正論言っちゃ悪いのかよあ"ぁッ!?」

 

 「なんでそれがあんな煽り文になるの!?ああもうかっちゃんはそうやって昔から初対面の人にも噛みついて敵を作る!勝ち気なのはいいけどもう少しオブラートに包む努力をしなさい!」

 

 「テメエは俺のババアか似たこと言ってんじゃねえッ!!」

 

 「え?……い、いやあ、僕光己さんみたいな素敵な人じゃないし?」

 

 「なんでそこで照れんだよマジでやめろ!あの女といいテメエに年上趣味疑惑もったせいでそういう反応されんのが一番怖えんだよ頼むからお袋狙うなよッ!!?」

 

 失敬な。光己さんは素敵な御婦人だがさすがに既婚者をそういう目で見ることはない。だいたいあの人勝さん(旦那)一筋だし。僕としても麗日―――いや何言おうとしてるんだ僕。

 

「おやおやおやぁ~!公衆の面前で醜い争いなんてしちゃってさあ。A組はいつから(ヴィラン)のクラスになっちゃったのかなあ~!?」

 

 「なんか変なのが来た」

 

 喧嘩(コント)をしていると人だかりの奥から金髪の少年が嫌味ったらしいセリフを吐いて現れた。(ヴィラン)呼びはみんなに失礼だぞ。僕はまあ……当たらずも遠からずかな?

 

 「俺たちゃ隣のB組のもんだがよぉ!(ヴィラン)と戦ったっつうから話聞こうと思って来たんだがよぉ、エラいふざけたことしてやがんなコラッ!」

 

 「おかわりも来た」

 

 追加で豪胆な少年がやってきた。歯に衣を着せぬ物言いだが自覚はあるので何も言えない。

 どうやらこの二人はB組の生徒のようだ。彼らも敵情視察……いや話からして純粋に(ヴィラン)と戦った時の状況を知りたかっただけかな?

 

 「そんな腑抜けたことばっかしてっと本番で恥か「落ち着きなさい鉄哲ちゃん」おぶッ!?」

 

 「どうしたんだい?言い返さないのかい?あーなるほどね図星なんだ?もしかしてA組はこの前の事件でヒーローから(ヴィラン)に寝返ったのかな?だったら返り討ちも納得だね自作自演するだけでいいんだ「シャレにならん煽りはやめな」がっ!?」

 

 少年二人が調子に乗って煽りだしたところを二人の生徒が不意打ち。片や舌を鞭のようにしならせ叩かれ、片や手刀を首元に打ち付けられ黙った。突然現れた女子―――拳藤さん達の見事な不意打ちに感心する。

 

 「ごめんなA組。物間のヤツちょっと心がアレでさ」

 

 「拳藤さんお疲れ様。拳藤さんも敵情視察?」

 

 「いんやこいつのお守り。鉄哲と一緒にA組に向かったからね。嫌な予感がして追って来たんだよ」

 

 「クラスメイトがごめんなさいね」

 

 そういって物間と鉄哲と呼ばれる生徒の襟首を掴む拳藤さんと……えっと、誰だ?

 

 「ケロ、蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんって呼んで」

 

 「あ、ご丁寧にどうも。僕は緑谷出久です。よろしく蛙吹さん」

 

 「梅雨ちゃんって呼んで」

 

 「え、いや初対面で名前呼びは……」

 

 「梅雨ちゃんって呼んで」

 

 「じゃあ梅雨さん―――」

 

 「梅雨ちゃん」

 

 「……Ms.Tsuyu」

 

 「その呼び方は予想外だわ」

 

 「遊ぶなや」

 

 「あいたっ」

 

 握力の戻ったかっちゃんに叩かれた。ちょっと場を和ませようとしただけじゃないか……。

 

 「何やってんだお前は……」

 

 「あ、心操君」

 

 なんて言ってたら今度は心操君が呆れた顔を出してきた。今日は知った顔に頻繁に会うな。

 

 「なあ、一応聞くがヒーロー科に在籍する奴ってだいたいこんななのか?」

 

 「まあ例外くらいあるんじゃないかな……?」

 

 「物間ちゃんはちょっと拗らせてるだけでいい子よ」

 

 「おいおいオイラ達をあんなズッコケコンビと一緒にしないでくれよ」

 

 「ん」

 

 異議あり。峰田君、小大さん。君らも大概個性的だからね。

 あーもーこのままじゃ話が進まない、いい加減帰りたいし話を進めよう。あー、心操君も敵情視察?

 

 「まー噂のA組を見に来たってのもあるが……ひとつ面白い情報が手に入ったからお前らヒーロー科に伝えに来たんだよ」

 

 「面白い話?」

 

 「ああ。……普通科の生徒ってよ、俺みたいにヒーロー科に入り損ねた連中が結構いたりするんだ。んで、この体育祭はそういう落ちた生徒が成績次第ではヒーロー科に転入する可能性もあるって話」

 

 へえ、やっぱ裏ではそういう救済システムもあるのか。原石が埋もれてる可能性もあるし、合理的である。

 

 「で、逆にヒーロー科の場合はな……成績次第では普通科に転落することもありえるんだなこれが」

 

 『!?』

 

 普通科に転落。その言葉に背後からどよめきが広がった。そりゃあ必死で頑張ってヒーロー科に受かったというのに普通科に落ちる可能性を提示されたんだ。動揺しても仕方がない。

 

 「敵情視察?物味遊山?少なくともここにいる連中はAだろうがBだろうがヒーロー科の連中を蹴落とすつもりで集まってると思ったほうがいいぜ?

 ……もうわかったよな?俺やこいつらはお前達ヒーロー科に宣戦布告しにきてんだよ。あんま油断してっとその席ごっそり奪い取っちゃうぞってな」

 

 心操君を前にA組だけじゃなく拳藤さん達B組も身を強張らせた。物味遊山と思われていた生徒たち。その実裏では牙を研いでおり正攻法で搦手で、どうやって奴らを蹴落としてやろうかと考えているかもしれない。それも不特定多数が。

 堂々とした態度で畳みかけてきた宣戦布告にみんなが言葉を失う。目の前にいる彼を厄介な手合いと思わせる気迫が確かにあった。

 

 「はは、すごいじゃないか心操君。……カッコいいじゃん」

 

 「ちっ、笑うかよ。この程度じゃ動じねえってか」

 

 同時に僕はこの布告を前に……嬉しくて笑みをこぼした。まったく、こんな面白いサプライズをしてくれるなんて。

 特に彼の目がいい。彼の目を見てよかっちゃん。あの確固たる意志を持った目を。

 

 あれは男の目だ。喧嘩を売りにきた男の目だ。

 思い上がるなと、ヒーロー科生徒というステータスに胡座をかいてんじゃないと。お前らの鼻っ面を叩き折ってやるぞと。正面切って目で語ってきているのだ。

 それもライブラやプロヒーローといった実力者でなく、格下だろう少年が。ヒーローを目指す、一人の戦士として。

 

 「いいよ心操君」

 

 ああいう目をした男から売られた喧嘩は、嬉々として応えてあげるのが筋ってもんだと思うんだ。仰々しい言葉なんていらない。うだうだと長ったらしい言葉も無粋だ。なにより斗流の一人として他者からの挑戦は大小限らず大歓迎だ。

 

 「その喧嘩買った」

 

 だからただ簡潔に言えばいい。買ったと。

 嬉しそうに返す僕の言葉に彼も嬉しそうな笑みを返してくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……あ、そうだ。せっかくだから僕と修行しようか。心操君見た限りまだ実力不足だし、僕も体育祭までの間はしっかりした鍛錬を積む予定だから一緒にやればそれなりに強くなるはずだよ」

 

 「は?」

 

 だけど喧嘩を買った身として、一つ問題があった。それは心操君自身の地力が低いことだ。

 見た限りそこまで鍛えてるわけではないのが一目でわかってしまう。競技にもよるがこのままだと僕らとやり合う前に敗退する可能性だってある。そうなっては本末転倒だ。個性ひとつで乗り切れるほど僕らは甘くない。

 

 「おいおい敵に塩を送るのか?」

 

 「いいのいいの。(斗流)としては歯ごたえのある戦いは歓迎だし未来のヒーロー候補が強くなることはいいことだよ」

 

 「……はっ、強者の余裕ってか?んじゃあ精々アンタを利用させてもらうとするよ」

 

 どうやら僕の提案に乗り気になってくれたようだ。形がどうあれ修行仲間が増えることは嬉しいな。

 よーしそれじゃあ近々連休が入るし、それに合わせて始めようか。久々の本格的な修行だし気合を入れていこう。あ、他にもやりたい生徒がいたりするかな。せっかくだし切島君たちも誘って―――

 

 「おい待て隈目」

 

 と、テンションがあがったところにかっちゃんが待ったをかけた。ちょっとかっちゃん。さすがにそこで水を差すのはないんじゃないかな?

 

 「なんだよ。修行しても意味ねえとか言いたいのか?」

 

 「ちげえわ。意味があるねえは知ったこっちゃねえしどうでもいい。だがその前にだ……」

 

 スッとかっちゃんは手を差し出す。手の中にはメモが握られていた。

 

 

 「俺の番号渡しておく。いいか、マジで命の危険感じたら迷わず呼べ」

 

 「え?」

 

 「いいから、はよ登録しとけや」

 

 「え、あ、ああ。ていうか命の危険ってなんだよ俺死ぬのか?」

 

 「死ぬぞ」

 

 「え」

 

 「多分死ぬぞ」

 

 「え」

 

 「僕のことなんだと思ってるのさ」

 

 「デス仙人の弟子」

 

 いや間違ってないけどさあ……。

 

 




Q:心操君死ぬん?
A:なぁに、彼らは修行スルダケサ!

Q:かっちゃん必死すぎん?
A:なぁに、彼らは修行スルダケサ!

Q:で、実際のところどうなるん?
A:なぁに、彼らは修行スルダケサ!

Q:なぁに、彼らは修行スルダケサ!
A:コラ!これから何も知らず師匠ーズブートキャンプに参加してしまう心操君の気持ちを少しは考えなさい!

ちなみにこの後A組のみんなを誘うもさっきのやりとりのせいで揃って首を横に振った模様。

【誤字報告】

 化蛇さん。 5W1Hさん。

誤字報告ありがとうございました。
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