My Hero Battlefront ~血闘師緑谷出久~   作:もっぴー☆

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書き溜め分だけは毎日更新しようかなとやってますがこれが思いの他しんどくて驚いてます。大体最終チェックと称して何度も加筆修正しまくってるのが原因ですけど。

リアルお仕事と小説のチェック。両方やらなくっちゃならないってのが筆者の辛い所な第七話です。

汁外衛じっじの台詞読みづらいかも。


第7話:叶えてえ夢があんだろ

 「……改めて、お久しぶりっす師匠。研鑽された武が変わらずでなによりです」

 

 「ギシャシャシャキシャアシャシャギシャ。(塵程の価値もない世辞なぞいらん。)シャシャアシャシャシャア、キィアア(それよりもあれほど近づかれてなお、わしに)シャギギギギギキァシャシャ(気付かぬその体たらくを恥じるが)アアア(よいわ)

 

 「はい……で、こいつがうちの組織の新参の陰毛っす」

 

 「出久です!緑谷出久!」

 

 ザップさんが師匠と呼ばれるこの人にボコボコにされてから僕たちは改めて紹介の場についた。

 ……この人がザップさんの師匠にして、血闘神と名高い老人、裸獣汁外衛賤厳(らじゅうじゅうげえしずよし)

 僕の師になるかもしれない人……。

 

 「シャシャ、キアァキシャシャ(それで、そんな小童を連れて)シャアアア?(何用じゃ?)

 

 「その小童で用、つーか頼みがあって来たんす」

 

 ……どうしよう、汁外衛さんの言葉がわからない。なんか前もこんなことあったなあ、あの時はスティーブンさんのおかげで事なきを得たけどザップさんは通訳をする気はなさそうだ。

 

 「師匠。こいつに斗流血法を教えてやってください」

 

 ギシャア(断る)

 

 「……即答っすか。まあわかってましたが」

 

 そんなやり取りの後沈黙が降りる。え、待って?今ので紹介終わり?しかも反応からして否定された?ザップさん適当に済ませた?と思ったけどそういう雰囲気ではないようだ。沈黙が続く中僕は確認のために口を開いた。

 

 「すみません。なんとなく拒否されたのはわかりますが、何故でしょうか?」

 

 キシャシャ?シャアキァア(なんじゃ?小童は)シャアギシャシャアシャシャ(何故否定されたか)シャシャシャシャ?(わからぬか?)

 

 「ザ、ザップさん。通訳をお願いします……」

 

 僕の耳じゃ正確に聞き取れない。ザップさんが面倒くさそうな顔をして通訳を始めようとするが、それを汁外衛さんに止められる。

 

 「小童 よ 確がに 我 が流派ばなんぴ どであろ うども鍛錬の 末 に技術を身 に着 げるごどば出 来よう。じゃがぞ れば 艱難辛苦の果て を見る鍛錬が前 提、 地獄を踏 破ず るが如じ苦行 である。無論ぞ ればぞごの愚か者が ら聞がざれ でおろう?」

 

 その話は簡単ながら説明を受けた。死ぬほどキツいと何度も、それこそあわよくば紹介を取り消してくれないかという魂胆が見える程度には。

 

 「ならば己の 身を見でなおわが ら ぬが? 

 ぞの鍛錬ど ば対極に ありじ タ の字も掠ら ぬ惰弱な身 体。 意志弱 ぎ(まなご)。 確が めるまでもな じ。貴様が 斗流 血法を修める どごろが 血を操 る前にぞご らの (ゲダモノ)共の 胃の 中で糞ど成 り果でるのが 関の山 じゃ」

 

 潰れた喉から聞こえてきたのは、毒の混ざった正確な指摘だった。なんとも辛辣な言葉に俯いてしまう。ザップさんも何も言わずただその光景を眺め続けていた。

 わかってる。無個性と診断され挫折したあの日からロクに鍛えず、分析と言う免罪符を持ってヒーローを追っていただけの十年間。この人からしたら人生を溝に捨ててるような怠惰の日々だっただろう。実際あの街でその代償を嫌というほど味わった。

 

 だけどそれがどうしたっていうんだ。

 

 僕は強くなりたい。個性が発現したからじゃない。きっかけと理由をもらったからだ。

 あの日僕が救った二人に恥じないためにも。

 あの日僕を救った紳士に恥じないためにも。

 戦うためだけじゃない、命を、笑顔を失わせないために、僕は強くなりたい。

 そのためならいくらでも地獄を見よう。この決意は揺るがないし揺るがさせない。

 

 一つ深呼吸をし、汁外衛さんの方に身体を向け、僕は頭を地につけ土下座した。

 

 「お願いします。僕に修行を付けてください」

 

 「断る。大 概にじ でおけ小僧。お主 のような糧にず ら成 り得ぬ矮小な……」

 

 言葉が途切れる。変わりにカツン、カツン、と地面を突く音が近づき、僕の前で止まった。

 

 「ふむ 気配が変 わっだな 面白い。 小僧、なにゆ え我が血 法を 乞 おうどずる?」

 

 聞く価値があるのを感じたのか、一方的に突き返した先ほどと違い今度は理由を聞いてきた。

 

 「……僕は幼い頃からヒーローになるのが夢でした。しかし現実は残酷でその夢を半ば諦めていました。皆が持つ個性という力がなく、他人からも友達からも、家族からもその夢を否定されて……自分がそれを一番わかってて、でも現実から目を背け続けて……。

 だけどあの霧に覆われた街で、死ぬ思いをしたあの戦場できっかけをもらい夢を……ヒーローになる夢を心から目指したくなりました。

 でも貴方の言う通り、僕は十年以上鍛練を怠り続けました。鍛練の鬼とも言われるあなたから見れば不愉快極まりない存在だと思います。

 ……だからこそ、その一生を研鑽に捧げる貴方に鍛えてもらいたく思います。僕の十年の怠惰を、最速で、最短で補えるだろう貴方に」

 

 僕の言葉に耳を傾ける汁外衛さん、理由を言い終わり再び沈黙が降りる。沈黙が続くが、次にそれを破ったのはザップさんだった。

 

 「すんません師匠、今回ばかりはコイツ側に回らせてもらいます。ライブラの戦力になる奴をみすみす鍛えずに置いてうちのリーダーに泣かれでもしたら困りますし。それにコイツ、根性はあるんで修行に必死で食らいついてくると思うんす。なんせここまでの道のりをコイツは休憩なしで踏破したんすから」

 

 驚いた。あのザップさんが僕を評価してくれたのだから。

 そういえばこの秘境に入ってからというもの、何時間も歩き通しで休憩を挟みたかったがザップさんは休むことなく進んでいった。明らかに身の危険を感じる場所で休憩をするのも怖く、必死に付いていってたがもしかしてわざとだったのか。あの時のニヤけ顔はザップさんが僕を少しでも認めたものだとすれば少し嬉しく思う。

 

 「なにより悔しいっすが、そいつはまだまだ下手くそっすが既に血を操れるんす」

 

 「ほ う?貴様 が教えだ のが?」

 

 「いや、違います。そいつが勝手に使えるようになったんす。……火の属性も含めて」

 

 「……待で?ご やづば 白痴の如き 見識がら 我が流派を盗ん だどいう のが?」

 

 「それに関してはこいつの体質が関係してます。おい、説明しろ」

 

 そう促すザップさんに続くように僕は話す。個性のことも、こことも向こうとも違う異界の住人であることも。

 それらを聞き終えた汁外衛さんはなにやら考え、こちらに言葉を投げ掛ける

 

 「なるほ ど。貴様が 英雄など どいう下ら ぬ地位に固執じ、 あま づざえ己 の都合のだ めにワジの力を利用じよう ど 言う のば理解じだ。」

 

 利用する。確かに間違っていない。特にこの人は自分の人生を鍛練に捧げるほどの人だ。僕のような芽が出るかもわからない子供に突然弟子にしろと言われても一蹴して当然だ。

 

  「も う一度 聞ぐ。貴様ば、お のがぐだら ぬ欲望のだ めにごの ワジの貴 重な時間を奪おうど 言 うのだな?」

 

 「……はい。上司と相談して、現状の最適解だったというのもあります。ですが、それでも考えて決断をしたのは僕です。歯に衣着せない言い方がいいならそう言います……。

 ……どうか、僕の夢のために利用されてください……!」

 

 それでも僕は告げる。そうだ、僕は強くなるためなら人類最強といえる存在すら利用してやると、ハッキリと、悪びれもなく、決意を込めて。

 そもそも弟子入りとは師自らが選んで育てるのとは違い、自分勝手に上がり込んで乞うものだ。だったら気にすることなんてない。

 ザップさんが呆然とした顔をして僕を見る。途端面白そうに笑い、師に向かって頼みだした。

 

 「師匠。俺からもどうか頼んます。こいつにも斗流血法を教えてやってくれ。師匠に向かって堂々と阿呆なこと抜かす奴だ。ヒーロー云々以前にこんなおもしれえガキほっとくのはもったいねえっすよ」

 

 僕は再び驚いた。こちらの味方をしてくれたザップさんだが、僕のために頭まで下げてくれたのだ。あのザップさんがだ。

 心が少し暖かくなり気持ちが軽くなる。しかしそれも汁外衛さんが枯れた笑いを始めたことで中断される。ザップさんがまた呆然としている。どうやら師匠が笑ってることに驚いてるらしい。

 

 「ぐ……がっがっがっ。まざ がごのワ ジずら、己の 夢のだ めに 踏み台にずるご どを堂々ど のだまわ るだげでな ぐ、ごやづに ごごまでや らぜるどば…… なるぼど 面 白い。……いいだ ろう。貴様の ぞの覚悟、一づ試 じでやる」

 

 「試す、ですか?」

 

 「簡 単なご どよ。合図ど同 時にワジ に向がっで一歩 前べ出 ろ。貴 様の覚悟 を見ざ ぜでもらう」

 

 一歩前へ出る。おそらくそれで弟子に取るか決めるのだろう。言葉にすれば簡単だ、しかし隣で苦笑いしているザップさんを見る限り嫌な予感はする。

 「加減間違えんでくださいよ師匠……」と呟いているあたりでさらに嫌な予感は倍々に膨らむ。……何をする気なんだ汁外衛さんは。

 

 「ざで ぞろぞろよ がろう。一歩 前 べ出ろ小童」

 

 「は、はい。それでは」

 

 汁外衛さんが合図を送り僕は一歩前へ踏み出すべく足を上げた。

 

 瞬間僕の体は串刺しになった。

 それだけじゃない。四肢は血糸に縛られ捻り切られ、腹は裂かれの内蔵は溢れ落ち、首は刎ね飛び血刃を通しその身は焼きつくされていく。

 

 ―――そんな錯覚に襲われた。

 

 上げた足が固まる。それだけじゃない、身体中がまるで言うことを効かない。首が刎ね飛んだ錯覚のせい?今受けたものはすべて錯覚だ、身体には傷一つついてもいない。しかしだからといって無関係では決してないのはわかる。脳が、五感が感知した錯覚はおそらく全てが本物だった。

 

 僕はこの感覚を知っている。殺気だ。

 それもあの街で受けたどの殺意よりも、今までの人生で受けた分をまとめても届かないほどの濃密な殺気。それを今僕に向けて放たれたのだ。

 これが汁外衛さんが言った試験。この殺気を受けてもなお進めと言うのか?

 

 (いやいや無理無理、無理だよこれっ!?なんなんだこれ!?本当にこれは殺気なのか!?(ヴィラン)に襲われた時とも、あの街で抗争に巻き込まれた時もこんなに恐ろしくなかった。あんなもの今浴びてるものの足元にも及ばないぞ!)

 

 あまりの出来事に全身から汗が滝のように吹き出す。まるで身体の水分が全て抜けていくように止まらない。いや、実際に地面に水溜まりが出来ている。歯もカチカチと五月蝿く鳴り響き、涙で視界が歪み、身体の痙攣は止まらない。あまりの恐怖にズボンも濡れているが気にしてる暇なんてない。

 当然だ。今僕に殺気を向けてるのは誰だ?血界の眷属(ブラッド・ブリード)すら単身で滅殺する人類最強の存在だぞ。そんな存在の殺気を浴びせられて無事でいられるはずがない。

 

 (駄目だ駄目だ駄目だ!ここにいたら駄目だ!こんな存在に修業を頼み込んでいた自分はなんだ馬鹿なのか!近くにいるってだけで絶対無事で済むはずがないのがわかりきってるじゃないか!早く逃げなくちゃ……じゃないとさっきの錯覚が現実になって凄惨な死が僕に降りかかってくるぞ!)

 

 嫌だ死にたくないと、もはや僕の心は恐怖一色に塗りだくられた。

 逃げなければ。今すぐここから、無様でもかまわない。恥も外聞もなく、生きるために逃―――

 

 

「逃げてんじゃねえぞクソガキ」

 

 

 恐怖に塗りつぶされ、何も聞こえないはずの世界で、その言葉だけははっきりと聞こえた。

 

 「しっかり前見て踏み出せや。たった一歩だろうが。一歩前に踏み出しゃテメエは人類最強の鼻っ面を折れるんだ。そりゃあたまらなく爽快だぞ」

 

 言葉がどんどん僕の心に染み渡る。恐怖は依然僕を支配している。だけど恐怖ですくみ上がっていた身体がわずかに動くのを感じる。

 

 「テメエが折れなきゃどうとでもなる。これくらい気合と根性で乗り切れ!」

 

 無茶苦茶な理論を投げかけてくる。だがその言葉が不思議と安心する。

 

 ……ああ、そうだ。この人はこういう人だ。口が悪いし度し難い性格をしているけど、人情家で世話焼きで、いつも僕が危ない時助けてくれる。

 この人もまた、僕にとって尊敬すべき人だ。

 

 「叶えてえ夢があんだろ!だったらとっとと前に踏み出せや"イズク"!!」

 

 「………ぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!」

 

 激を受け僕は思い切り叫ぶ。ヒーローに、人々の笑顔を守る最高のヒーローになる夢のために、一歩を踏み出すために足に力を込め前へ出すべく動かし、

 

 そして僕は、意識を失った。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「――い――――ろ―――」

 

 まどろむ意識の中、何かがが聞こえる。

 

 「―――とと――――ソ――う」

 

 なんだろう、最近似たようなことがあったような……そう考えゆっくり意識が覚醒していき、

 

 「とっとと起きろクソ陰毛!」

 

 ゴンッ!

 

 「ッアイッダア―――!!?」

 

 思いっきり殴られた。あれ?テジャヴ?

 

 「やーっと起きたか。手間取らせんじゃねえぞクヌヤロウバカヤロウ」

 

 「ォアッフォォォ……め、目覚まし代わりに殴るのは勘弁してくださいザップさん……!」

 

 「呼んでも起きねえテメエが悪い。まあ師匠のあの殺気をくらったんだから気持ちはわかるがよ」

 

 寝起きの一発を受けて完全に覚醒する僕。そうだ、僕は試すと言われ汁外衛さんから殺気を受けてそして……。

 そうだ、結局あの後試験はどうなったんだ?あの時足を動かした記憶はあるが、どこに動かしたのか実はわかっていない。僕は慌てながらザップさんに問いかける。そして結果はというと……

 

 「叫んで必死になって身体動かして、半歩だけ足を前に出してたぞ」

 

 半歩、前へ出していた。しかしそれでもたった半歩だった。

 条件である一歩へ半歩及ばなかった……。たった半歩、されど半歩。僕は試験に失敗してしまった……。

 

 「おーい落ち込んでる暇なんてねえぞそばかす陰毛。今日からでも地獄の一丁目が極楽浄土に様変わりする素敵な修行が待ってるかもしんねえからな」

 

 「……え?」

 

 その言葉に僕は目を丸くした。あれ?試験は失敗してしまったじゃないのか?

 

 「ザ、ザップさん、なんで?僕、一歩も前へ出れず弟子入りの試験は失敗したんじゃ?」

 

 「あ?アホかお前、師匠の話を聞いてなかったのか?覚悟を見させてもらうって言ったが一歩も出れなかったら弟子入りさせないとは言ってねえだろ」

 

 「…………あっ」

 

 ……そういえばそうだ。覚悟を見させてもらう、と言っただけだった。それを僕は勝手に弟子入りの条件だと思って間違えて……緊張と濃密な殺気に充られて思考が吹っ飛んでいたとはいえ、必死に抗って……うわぁ、恥ずかしい……。

 

 「ま、その勘違いのおかげで、結果的に気に入ってもらえたし別にいんじゃねえか?」

 

 「でも結局半歩しか歩けなかったのは覚悟が足りないような気が……」

 

 「んなわけねえだろ」

 

 「えっ?」

 

 「指の毛先も本気じゃねえにしろ、テメエは人類最強の存在の殺気を真正面から受けて半歩足を動かしたんだぞ?それも全然鍛えてもねえテメエが、気合と根性だけでだ。これがどんだけえげつねえ偉業かわかってんのか?」

 

 そう言われても今の自分じゃそれがどれほの偉業を成したのかは実感も湧かないし理解も難しい。でも、ザップさんがここまで褒めてくれるということはそれだけのことだったのだろう。

 

 「まー俺が初めて受けた時は応援もなしで前に出たし気絶もしなかったがな!オラ偉大も偉大なザップ様と仰げや陰毛!」

 

 自慢げに兄貴風を吹かせてるがこればかりはどれだけすごいかは理解しているので何も言わずに頷いておく。そしてひとしきり威張った後、一呼吸おいて僕へ言葉をかけた。

 

 「たったの半歩?違うだろ?テメエが全力で向かった掛け値なしの半歩だろ。それはお前の力でもってスタートラインに立てたって証だ。恥じんじゃねえ誇れ。それでも恥だと思うんだったらとっとと強くなれやイズク」

 

 まるでいつもそう言ってるような自然さで僕の名前を呼んでくれた。それは兄貴分として優しさが籠った言葉だった。

 ……ああそうか、この人にとって僕は「弟弟子」にあたる人になったんだ。

 まだ全然対等じゃない、でもこれから肩を並べるかもしれないことに僕は嬉しくなりまた涙腺が緩みだす。でも今回はいいよね。僕自身の力で認めてもらえたのだから……。

 

 「……ザップさん」

 

 「あ?」

 

 「ありがとうございます」

 

 「……礼はいらねえから修行が終わって帰ってきたら飯おごれ」

 

 礼を言うとザップさんは照れたのかそっぽを向いて返事をした。もちろん奢りましょう。お膳立てしてくれて、背中を押してくれて、これだけのことをしてくれたんだ。また贅沢なお店に連れていかれても今なら許せると思う。

 

 「起ぎだ が小童」

 

 「あ、汁外衛さん」

 

 しがれた声が聞こえ振り向くと汁外衛さんがこちらにやってき、そして僕の頭を杖で叩いた。

 

 「あいった!?え?なんで僕叩かれたの!?」

 

 「愚 昧が。師匠ど呼べ」

 

 「へ?……あ、し……師匠」

 

 「う む」

 

 師匠……師匠か……。

 やったんだな。僕は、自分の意志で、力で、弟子入りを果たしたんだ……。

 まだ実感は湧かないけど、きっと修行を始めたその時、斗流の修練者として自覚するのだろう……。

 

 「まあよい。 起ぎだのな らば 早 速鍛錬に取 りががるぞ」

 

 「え?もうですか?」

 

 「当 然だ。自 らが言っだ通 り貴様の身体ば 鍛錬を怠 だっだ惰弱極まりなき身 だ。 ぞのままで ば斗流血法を 修め るはおろが、鍛 錬を続げる間 もなぐ果ででじ まうのば目に見 えでいる

 なら ば今ご ごでやるべぎ ば 早急 なる身体作り、 貴様が怠惰に捨でじ十年を、二ヶ 月で 作りあげるぞ」

 

 「はぁ…………はぁっ!?え、二ヶ月?今二ヶ月って言いました?十年分の鍛錬を?二年じゃなくて?」

 

 「何度も言わぜ るな。 もう一度だ げ言う。十 年もの歳月を無駄に浪費じだだげ の腐肉ど化 じだ貴様 の身体を二ヶ 月でぞっぐ り作り替える。覚 悟ずる がよい。ごの二ヶ月の 内におぞらぐ 百八十八回ば 三途を渡り帰っ でぐるやもじれぬが らな」

 

 「」

 

 ふむふむなるほどそうかー僕188回死んじゃうのかーすごいなー。あれ?ひゃくはちじゅうはちってなに?僕の命の数?なら僕って最大189回も死ねるのかー。なるほど知らなかったーハハハー。

 

 「なんて現実逃避してる場合じゃない!待ってザップさんどういうことです!こんなの聞いてないですよ!?」

 

 「いや、俺だってんなの初耳だよ!おい師匠、あんたコイツに何やらせる気だよ!」

 

 「決まっで おろう、貴様が がづでワ ジの下で行った六 年の間の数多 の修練、そ れを三年……いや、二年 で仕上 げる。ご 奴ば運がよい。血液操 作 が既に出来る分 残りの全てを修 行ど研 鑽に費やぜるの だがらな」

 

 「アホか!俺が受けた地獄の修行を三倍の速度に凝縮して修めるって、んなこと人間がやっていい範疇をとっくに越えてるじゃねえかこの自己中妖怪ジジイ……っていだいいだいいだいいだいいだいやめて師匠オオオオオオオオオオ!!」

 

 ザップさんがトラウマになるような六年もの修行の日々を二年に凝縮する。言葉では理解出来るが心では理解できない。いや、きっと理解したくないのだろう。なんせ序盤の序盤で188回死ぬやもしれない地獄の修行なのだからハハハハハハハ。

 なんて考えているうちにザップさんの制裁が終わった師匠が僕のほうへ振り向く。僕は顔が急激に青くなるどころかコロコロと顔色が変わるのを実感し―――――全速力で逃げ出した。

 

 「おそい」

 

 「いやだああああああああああ殺されるうううううううううう!!!!!!!」

 

 「喚 ぐな小童が。 やる前 がら逃げの一手を 取る など愚の骨 頂じゃ。ぞれどぼ 先ぼどの決 意ば取り繕う だめの演技であっだの が? ぞれ な らば見事謀っだ 礼ど じ でワ ジ が直接貴 様を常世べ連 れでい っでぐれよう」

 

 確かに!確かにあの時地獄をいくらでも見る覚悟はしていた!でもまさか今すぐに三途の川を何度も渡る前提の修行が課せられるなんて思いもしないよ!!

 

 「フォ……フォーエバーイズク……おめーのことは忘れねえぜ……」

 

 「いづ まで床に這い づぐばっで おる。当然貴様 もだ。貴様がワジの下 を離れでがら研 鑽 を怠っでおる のば一目瞭 然。ぞの腐りぎ っだ性 根、根元が ら引きづり 出じ 入れ 替えでく れ ようぞ」

 

 「ちょ、ま、待て!待てよクソジジイ!じゃなくて師匠!俺にはあの街で世界の危機と戦う崇高な使命があるんだ!こんなところで道草を食ってるわけにゃ―――」

 

 「し、師匠!ザップさんもしばらく休暇をもらってるんで2週間くらいなら問題ないかと!」

 

 「テッメ裏切りクソ陰毛オオオオオオオオオ!!?」

 

 「ごめんなさいザップさん!でも死ぬ前提の地獄を一人で受ける勇気が今の僕にはまだないんです!!!!」

 

 ザップさんに謝りながら一緒にひたすら師匠から逃げる。あ、まずい転んだ。そのまま捕まって振り回されて頭から地面に落とされた。い、痛い!星が、星が見えた!あれ?また持ち上げられてる。え、待って?一回じゃ終わらないの?やめてください死んでしまいます。あ、ザップさんが罵りだした。でもすぐに杖で叩かれながらアイアンクローされてもがいてる。さっき見たぞこの光景。

 

 

 ……こうして僕のヒーローになるための修行が幕を開くのだった……。

 開くんだけど……正直どれも思い出したくないレベルの凄惨極まりない修行内容だった。特に最初の二ヶ月は五体満足なのが不思議なほどである。魔猪と24時間持久走とか食人族の巣窟に全裸で放り込まれたり……ああ駄目だ思い出すだけで身体の震えが止まらなくなってきた。申し訳ないけど修行内容に関しては僕の心の安寧のためにも割愛させてもらうよ。

 

 とにかくそんな修行漬けの日々が続き、三途の川を渡っては戻るを繰り返して鍛え上げられ、

 

 ―――2年の月日が経過するのでした。

 




【悲報】修行パート全カット。

期待していた方申し訳ありません。最初は書こうかなと試しに書いていたのですが筆者の実力不足と蛇足感があって断念しました。すまぬ…すまぬ…(彼岸島並感)
実力とインスピレーションがつきましたらそのうち話の回想とかで流しますので温かく見守っていてください。

【誤字報告】

zzzzさん。

誤字報告ありがとうございました。

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