再会   作:ピットくん

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第一章
第一話 出立 その1


 二十四歳の頃の彼は、不自然で頭でっかちのように見えた社会に、嫌気がさして一歩距離を置くことにしてから、五年が経過して、少し焦っていた。浪人生時代に出会った「教養」という言葉に感化され、愚かにも、一般大学生が謳歌するような生活を遠ざけ、一人家に引きこもり、古今東西の知識を吸収することを一番とした時から、何かが間違っていたのではないか? 大学一年生の頃の彼が憧れたのは、コナン・ドイルの小説にでてくるあの探偵のようになることであり、一限の授業が終わった後、二限の授業があるにもかかわらず、大学の図書館に行って、自らの興味が赴くままに無選別に本を選び、そのまま夕方が訪れるまで、読書に没頭するというのが彼の日課であった。もちろん、そうすることによって、前期の単位を大幅に落とし、その結果、徐々に授業から足が遠のいていくことは明白であった。高額な授業料を親に負担してもらっていた彼にとって、両親の期待を裏切るような行為は心苦しくもあったが、しかし、心の中では、自分が正しいことをやっているという確信があったので、モラトリアムの許す限り本の世界に没頭していた。

 

 

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 確かに、思考の喜びを貪り食うことは、彼に十分な満足感を与えはしたものの、現実的な変化は何ひとつ起きていなかった。結局のところ、彼は「いつまでも現実逃避をしていてはいけない」という答えを、自分の頭で結論付けているのにもかかわらず、大人の世界から目を背け続けていたのである。

 五年前は、哲学書や社会学の思想書を読むだけで自らが高邁なオーラを纏った気がしていたが、翌朝目覚めてみると、昨日は確かにそこにあったはずのオーラはなくなり、ただ精神が高揚しているときの全能感にすぎないと気づかされるのであった。それは、酒を飲んだ後に、アルコールが体内から排出されると、同時に幸福感も体内から排出されてしまうのと同じである。結局、己の弱さを痛感することになった彼は、汗と脂の臭いが混ざり合った枕をそっと自分の懐に引き寄せて、寂しく敗北感に浸ることしかできなかった。

 

 

 

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そんな彼だったが、今日は祖父の墓参りに行く予定があった。十六歳のときに祖父が死んで、彼は人生で初めて死というものに直面することになり、今までは永遠に寿命が続いていくのではないかと錯覚していた彼であったが、時間というものはどうしようもなく有限であると、祖父の死をもって彼は体感した。当時は、将来に無限の希望を抱いていた彼も、十年という月日が経ち、多くの人がそうであるように、常識という言葉の名のもとに純粋無垢な気持ちを心の押し入れの奥深くに押し込み、よもや、人生の終わりになって、それを探求するエネルギーが残っていないことを後悔することになる準備を、彼は抜かりなく整えていた。

 

---次へつづく---

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