再会   作:ピットくん

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第十五話 嵐 その5

 そうした期間に、彼は己がどこまでも無力な存在であるということに幼いながらも自覚してしまい、何もすることができない自分を激しく責め立てた。今思い返してみれば、ただ彼は、母の愛情を欲していただけだったのかもしれない。だが、その願いが十分に叶えられることはなく、彼はこれから先の生涯においても、常に愛情の欲求不満を抱えて生きていくことが決定づけられてしまった。

 母を思う、子の行動は次第にエスカレートしていき、彼は母に元気になってもらいたいために、より過激な犠牲を払うようになった。しかしながら、彼の愛情は、一向に満たされることはなく、それでいて、母の顔はだんだんとやつれていった。そうして、最終的には自分のエゴを捨てて、可愛い子犬のように無抵抗に、彼が保育園に通うようになれば、母の状態は少しでも上向きになるのではないかという考えにたどり着いた。後に、計画は慎重に実行されることとなり、彼は自らの個性をどぶに投げ捨て、自分の考えを大人たちに主張するということをさっぱり放棄した。すると、すぐに効果は表れ、以前ならば、彼が玄関前で延々と、保育園に行くということが、いかに個性の成長にとって非効率的であるかを演説していたが、それを止めたとたんに、いつもは無表情で「いってらっしゃい」と言っていた母が、初めて、心なしか笑顔で彼を送り出すようになった。その時、彼の母親にとって一番重要であったことは、愛すべき息子が保育園で、他の子どもたちと能天気に過ごすことであって、少年革命家のように、集団行動を拒否することではなかったのである。母の笑顔には、多分に愛情がこもっており、母の愛情に飢えていた彼は、その愛情で全身を包み込まれて恍惚となった。不意に、子の瞳には涙があふれており、今まで我慢していた感情が一気に心の内からあふれ出してきた。彼は、玄関に立ち尽くしたまま大粒の涙を流し、突然泣き出した我が子を前に、母は少なからず動揺を隠せなかった。しかし、母はすぐに事態を察し、我が子を強く抱きしめた。それは、ほとんど数分の出来事であったが、人間というものは、日常的な出来事ではなく、数年に一度到来する非日常的な出来事によって大きく成長するもので、彼はそのほんの数分間に、人として大きく成長した。彼の心のノートには「考えるということを考えない」という言葉が印字され、以来、彼は白痴となったが、個性より母を選んだことについては、全く後悔していなかった。なぜなら、彼には母の方が大切に思えたから。

 

 

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---次へつづく---

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