再会   作:ピットくん

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第十八話 嵐 その8

 彼は傘を借りて、彼女とともに戸外へとくりだした。雨はいよいよ本降りになろうとしているところで、この絶妙に弱々しい雨音はもっとも人間の心を癒すことができ、そんな雨降りの時、彼は猛烈に本が読みたい気分になるのだった。しかし、状況的にそれは不可能なので、彼は雨の音色に耳を澄ますことで自らを満足させることしかできなかった。

 彼らは並んで歩き始めたが、初対面の男女の多くがそうであるように、二人の歩く速度は一瞬でばらばらになり、彼女の方が常に彼を置き去りにしていた。そのすれ違いは、彼女の歩く速度がとんでもなく速かったことが原因ではなく、彼の歩く速度が極端に遅いために発生しており、彼は周囲の自然豊かな風景に完全に心を奪われていて、彼女が不機嫌になり始めていることに全く気づく気配がなかった。彼女の方も、彼がこちらにはほとんど目もくれていないことを心得ると、あきらめたようにため息をついて彼に歩幅を合わせてやった。

 歩き始めてから十分も経たないうちに、うえだ食堂と書かれた看板が彼らの目の前に現れた。扉には営業中の札がしてあり、駐車場には一台の車が停めてあった。彼女が「ここだよ」と扉を指さすと、店内へと入っていった。どうやら、ここが彼女の言っていた食堂であるらしい。

 彼が、彼女について中へ入っていくと、陽気なおばさんが「いらっしゃいませ」と彼に声をかけた。店内はL字型にテーブルが配置されており、四人掛けのテーブルが五か所あり、全ての客席が埋まったとしても、二十人を収容するのが限界というどこにでもありそうな定食だった。L字の長い方の奥の席では、ひとりのおじさんが熱心に新聞とにらみ合いをしていた。完全に店の空気と一体化しているその人物は、いくら新聞で全身が確認できないにしても、その新聞越しに伝わってくる穏やかな雰囲気から地元の人であろうことがうかがえた。

 彼女は目の前の、一番入口に近い席に座っていたので、彼はその向いの席に腰を下ろした。彼らの頭上では、まあまあの音量でテレビが垂れ流しにされていたが、それは今流行りの旅番組のようで、映像が見えずにタレントのリアクションだけ聞いていると、彼らがどこにいて、何をみているのか全くわからなかった。「これは、すごい」といくら芸能人が言ったところで、具体的に何がすごいのか彼には何ひとつ伝わってこないのであった。

 そうやって彼が、思考の中で、同じ景色のところをぐるぐる走り回る愚行を繰り返していると、ふと、奥で新聞を読んでいたおじさんと目が合った。その地元のおじさんは彼と視線が交差してから、彼と一緒にいる彼女の存在に気づくと、目を見開いて、これは驚いたという表情をした。そして、みるみるうちに顔の口角を吊り上がらせ、好奇心を込めた表情で「明ちゃんが男連れでいるなんて珍しいじゃないか」と彼女に向けて言った。

 「いや、そんなんじゃないから」と、彼女は新聞親父の方を向いて冷酷に言い放ち、それから顔全体に力を込めて、鬼の形相で新聞親父をにらみつけた。

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