再会   作:ピットくん

27 / 32
第二十七話 嵐 その17

 そう言って、彼女は絵画の話しなんかなかったことにして玄関の方へ姿を消していった。彼が少年に視線を送ると、少年はすぐに目線をそらして彼女の後を追いかけていった。

 ひとりリビングに取り残された青年は、これから起きるであろう未来のことを推測しようとしたが、今日の出来事の多くを推測できなかったのと同じように、これから起きるであろう未来のことを考えるのは、あまり得策でないと思い諦めた。しかし、彼の思考は、どうにかしてこの非合理的状況から逃避しようとして、また新たな思考の種を探すべく脳内中の引き出しをでたらめに開閉し始めた。

 普段なら、彼はこういう自分の傾向的性格と同調するのが常であったが、このときばかりは違う反応を見せた。人間として、二十年ほど生きていると、人生経験から物事が半ばまで過ぎている場合には、いくら己の好奇心の源からこれ以上のモチベーションを取り出すのが困難な場合でも、そういった目標の達成が、未来の自分のために有益であることが多いということを確信していたので、彼は、事ここに至っては、自らの思考の現実逃避を許すことができなかった。それは、自分の幸せのために、学校や会社から逃げることは構わないが、どこまで行っても、自分という存在からは逃げられないのと同じである。

 彼は、今すぐにでもこの場所から逃げ出したいという弱気な気持ちを抑え、腹を決めて湖へ向かうことにした。

 彼は、ついぞ拝見することのできなかった絵画たちのことを思い出した。元はと言えば、収集された絵画を鑑賞しにこの家に来たのだった。一体どんな作品がここには収められていたのだろう。彼はまだ絵のことが名残惜しかった。しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。なんたって、祖父に再会できるなんてあの娘は言っているのだ。きっと絵画鑑賞より面白いことが起きるに違いないと彼は思った。

 彼が玄関から外へ出ると、すでに雨は止んでおり、その代わりに、雨雲の合間から雷の不機嫌そうな轟音が絶え間なく大地へと降り注いでいた。時おり、雲の上で癇癪を起した雷が、爆音をともなって地上に落下してくることがあったが、それもほんの少しのことで、あとはそんなこともなかったために、辺りには、昼間にもかかわらず、薄暗く不穏な雰囲気が漂っていた。彼が、湖への階段の下のところまで来たとき、二人は階段を登り切った辺りの所で、もうすでに後姿が木々の中へと消えようとしていたが、彼女はいったん立ち止まり、後ろを振り返った。彼がしっかり自分たちの後をついてきていることを確認すると、そのまま茂みの中へ姿を消した。彼も湖へと続く石段を登り、午前中に初めて彼女と出会った湖に、何時間かぶりに舞い戻った。

 

---次へつづく---

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。