天狗は、彼が酩酊していることに気がつくと、一瞬、悲しい気持ちに襲われたが、すぐさま気持ちを取り直し、ほとんど意味のない支離滅裂な話しをして、彼をからかうことにした。それらは、今日の天気が嵐であることや、今朝、新聞である経営者がレバノンに逃走した話しなど多岐にわたった。彼はその意味のない会話に対しても、毎回丁寧に賛同と驚嘆の相槌を打ち続け、顔は真っ赤になって、赤べこのように上下に首を動かしていた。そして、全身に危険な量のアルコールをため込んだ彼の思考はショートし、全身の筋肉に力が入らなくなって、糸の切れた人形のようにその場に背中を丸めて寝込んでしまった。彼の祖父は孫が心配で仕方がなかったが、天狗にとっては、飲み相手がいなくなったのがつまらなかったようで、彼女をテーブルに呼んで、また昔話しを始めた。犠牲者が目の前にいただけに、彼女は苦笑いをするしかなかった。まー君は、青年の祖父とオレンジジュースで乾杯していた。
10
目を覚ました時、あたりは真っ暗で、彼は一瞬、自分がどこにいるのか理解することができなかった。今明らかなことと言えば、彼が横たわっているのが、見知らぬベットの上であるということだけで、その布団からは彼の知らない石鹸と汗の匂いが混じったような匂いがしていた。しかし、すぐさま激しい頭痛が彼を襲い、宴会での出来事を思い出させた。どうやら、あれは現実に起きた出来事のようで、その証拠に、頭上のひもを引いて電気をつけると、彼女が足元の小さい白い絨毯の上で、タオルケットを敷いて大の字で寝ていた。室内が明るくなると、彼女は背中を縮めてだんごむしになったが、しばらくすると再び寝息を立て始めた。
彼は分解できなかったアルコールを嘔吐したい気分だったので、彼女を揺さぶってトイレの場所を訪ねた。彼女は目をこすりながら、廊下に出てすぐ右、と答えた。廊下に出ると、視界がグワングワンと揺れて、吐き気が徐々に高まっていくのを感じて、このまま行くと、便器にあごを乗せた段階ですぐに楽になれると思って安心した。しかし、彼がトイレまであとわずかというところまで来ると、後ろからまー君がものすごい勢いで走ってきて、彼より先に便所に入っていった。彼は絶望感に襲われながらその場に座り込んでしまった。さっさと吐けば少し気分もよくなるのだが、もし、限界が来てしまったら、床に嘔吐物をまき散らすことになるに違いないと諦めてしまった。今更になって、まー君がなぜこんなところにいるのか気になったが、その次の思考をするだけの元気が今の彼にはなかった。
---次へつづく---