ウマ娘×トレーナーのSS。   作:バンバ

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ゴルシって絶対料理上手いよねって。


「灯台に一礼を」

「むーしたジャガイモを、うらっごしー♪ あっちち!」

 

 とても雑な、ゴールドシップの歌が夜の食堂へこだまする。見れば篩をひっくり返して蒸したジャガイモをカットし、ヘラで押し潰しながら濾していた。

 

 彼女からの願い出で手伝いとして呼ばれた私だが、正直来ても良かったんだろうかととても不安になる。食堂主任のおばちゃんには許可を取ってはいるとは聞いていたし、持ち込みの材料しか使わないから、とは言っていたが。

 

 水を張った鍋に蒸し皿を敷いて、カットした人参と玉葱を蒸していく。

 

『マックイーンでも良かったんだけどよー。アイツここ最近また減量してるし、流石のゴルシちゃんでも良心が痛んだわけよ。昼間テイオーに無自覚煽りガンガン食らってたし。

 かといってテイオーもまだ4回目の骨折のリハビリ中だし。スペとかここ最近スズカとかいる前で突然告白まがいのこと何回もされて、ちょっと気が立ってるし間違いなくやけ食いで食い続けるだろ。

 そうすると今度はスズカとグラスが睨んでくる。ライスも良かったんだけどよー、今日は用事があるとかで断られちまったんだ。

 んで、身近な奴ら考えてたら、アタシの身近はノーだなって。そしたら今回に関してはアンタの方が適任だなって思ったんだ。前に作った焼きそばも、いい食いっぷりだったし』

 

 ──とゴールドシップに言われはしたものの、別に私は美味しい、美味い以外のロクな語彙も無ければ、特別繊細な舌を持っているわけでもない。

 本当に……私で良かったのだろうか。

 

「ゆーでた、ほうれん草とー、ブロリ……じゃねえや、ブロッコリー。あと茹で卵とチーカマをミキサーにー、──シューッッ! 超、エキサイティングッ!」

 

 ……発言とは裏腹に、丁寧な手付きでミキサーに掛けやすい大きさにカットされた野菜と卵、チーカマを放り込んで、ペースト状にしていく。

 

 なぜチーカマ? とも思ったが、そういえば今彼女が作ろうとしているモノは、彼女のトレーナーに向けての物だったなと思い至った。

 風邪をひいた時には、栄養価の高いものとスポーツドリンクを食べながら寝るとすぐに治る、とは誰が言っていたか。

 

 それがチーカマだったのだろう。願掛けのようなニュアンスもあったかも知れない。

 何より美味しい。私も最近はタマに持たされるようになった。小腹が空いた時用にと、カロリーメイトやソイジョイと一緒に。

 

 そもそも、なぜ私がゴールドシップの提案を受けたのか。

 

 単純な話ではある。URAファイナルズ、マイル部門を制覇した身として、同じ芦毛のウマ娘でもここまで適正に差が出るのかと、興味が湧いていた。

 

 中距離以上が苦手なわけではない。2500前後くらいの距離なら射程圏内に入るだけのスタミナはあると自負している。

 

 ただ、いつかのテレビで放送していた8000mを走り抜けたゴールドシップを見て、『長距離型のウマ娘のペースを維持したまま7000mを走り切り、そこから1000mスパートをかける』なんて暴挙は私には到底できないと驚いたのも記憶に新しい。

 企画のルールとしては『一定以下の速度になりその状態で3秒経てばリタイア』『限界を感じてきたらスパートをかけて打ち止めにしてもいい』とか言われていたが。

 テイオーが2600を過ぎて少しでスパートをかけて、2800ほど。

 ビワハヤヒデとライスシャワーが3700を超えてからスパートをかけ、4000。

 パーマーは途中脚をつり、それでも5000。

 マックイーンはゴールドシップに負けてられないと意地を張り7500まで走り続けた。

 

 それらと比較してのゴールドシップの記録は、テレビ越しでも『どれだけ馬鹿げたスタミナしてますの!!?』とマックイーンが激昂するあたりから察せられる。いくらロングスパートとはいえ、7000mを走ったままの状態からロングスパートで1000mを走り切る──そんな破天荒で無茶苦茶な走りができるウマ娘が居るのかと、只々驚くしかなかった。

 実況席で見ていたルドルフ、エアグルーヴも目が点になっていた。タマと一緒にテレビで見ていた私も、箸が止まる程驚いた。

 

 最近では、フラッと姿を眩ませたと思えばフルマラソンに参加してきたとか何とか。2時間半を僅かに切るタイムでゴールしただとか、その際に膝を着き『クッソ、ポーラやブリジッド、キャサリンにも負けちまった! …………あいつら、本当に人間かよ……!』とかなんとかぼやいて調子を下げていたとか、様々な話が出てきたが。

 …………誰だろうか。ポーラ、ブリジッド、キャサリン。

 

 純粋に私としては、42.195kmもの超長距離、しかも芝でもダートでもない、硬いコンクリートをたったそれだけのタイムで走破した彼女に、ただただ脱帽するしかない。

 

 コンクリート上を走る専用のシューズを選定、用意するのは大前提として。

 ウマ娘というのは通常の人と比較しても圧倒的な力強さ、スピードを持っている。

 小柄なハルウララやツインターボ、飛び級でまだ幼いニシノフラワーでさえ、5〜60kgくらいの物なら軽々持てると思う。

 

 しかしそれ以上に同時に欠陥もある。

 代表的なのは、脚の脆さ。

 最高時速で70kmを超えうる速さで走る事に特化した、しすぎた脚の構造上か、自らの力で自壊するケースが多々ある。ガラスの脚……というのはよく言ったモノだと感心してしまう。

 また、スタミナ消費を長期的に強いる負荷には弱い。歩くくらいならともかく一定ペースで走り続けるだけであれば、そのうち人に根負けする。

 

 レース中の全力疾走に至っては、ラストスパートに至るまでの前段階で走り続けているのだからより激しく体力を消費する。それこそ1600mのレースであっても、ラストスパートともなれば10秒前後待てば十分すぎる。

 

 とはいえ、人と根負けすると言ったものの、その根負けが来るのは数分単位ではない。数時間走り続け、その時まで脚に来た負荷に脚が止まる。そう言う意味では余程ペース配分を誤らない限り表層化する事はない、そんな程度の誤差だ。

 

 しかし、フルマラソンというレースと比較しても途方もない距離を、固く舗装された地を、ゴールドシップ程のタイムで走り抜けようとするなら。

 天皇賞春が3200。フルマラソンがメートルに直して、42195m。3200mを10周しても尚終わらないような超長距離。

 ウマ娘の中でも際立ったスタミナと根性の持ち主、そしてレースプランを立てられるような頭がもなければ、まず無理だ。

 パッと思いつくのはパーマーやマックイーン、ライスシャワー。彼女たちのようなスタミナがあれば、或いは。

 ルドルフも恐らく行けると思う。彼女はレースプランの組み立てが上手い。

 

 それか過去の海外競馬の記録に残る『ハンガリーの宝物』、『煮えたぎる蒸気機関』とまで呼び称されたウマ娘のようなスタミナ持ちであれば、話は違うかもしれない。

 

「ん、どしたどしたー?」

「……ん、なんでもない」

 

 ……こういう細かい部分の話は、あくまで体感としての印象なので厳密にはアグネスタキオンやシンボリルドルフの方が詳しそうではある。

 

 そういう意味でゴールドシップの記録というのは中央内でも話題に上がった。主にゴールドシップの奇人ぶりを補強する要素として、だが。

 特に、宝塚三連覇。あのレースは見ていて度肝を抜かれた思いだった。

 大きく出遅れ最後方。先頭まで15バ身差を付けられ、1000mを過ぎたあたりからスパートをかけて全員捲ったのだ。2位とは写真判定にまで行ったものの、アレは凄まじいものだった。

 

 私のトレーナーは、そもそも主戦場の土俵が違うのだから気にしなくてもいいと言っていた。

 

 ──実際のところ、気にしていたわけではない。同じ芦毛のウマ娘でもこんなに走り方に差が出るのだと驚いていただけなんだ。

 

 だから、興味があった。ゴールドシップというウマ娘に。

 

「牛のそぼろを作ってー、胡椒と塩を少々。できたら少し水をどばーっと。……水、ヨシ! オッグリーン、あとどのくらいでそっち蒸し上がるー?」

「こっちは、あと1分もすれば蒸し終わる」

「ヨーソロー、そしたら今のうちにミルクチョコ一枚の半分と中濃ソースを大さじ1ー」

「……ゴールドシップ。君は、料理が上手なんだな」

 

 「んあ?」と返事をするゴールドシップは、どこか間抜けな顔をしていた。

 やはり手慣れたよう牛ひき肉を炒めた鍋の中に、ドボドボと1Lのボトル天然水を注いでいく。……注ぎ終えた後の片足を上げたあの独特のポーズは、なんだったのだろうか。

 

 それはそれとして。

 きっと私が料理を作ろうとしても、ここまで手際良くはできなかっただろう。私は食べるのは好きでも、作ることはそうそう無い。

 

「んー、作るのは海に遊びいったりしてる間に、慣れてきた感じだな。そっから、マックイーンとかがたまに言う上品な料理とか作ろうとしてたら、気が付きゃ上達してた」

「なるほどな。む、野菜が蒸し上がった。この後はどうする」

「あー、人参と玉葱は全部ミキサーに入れて、ヨーグルトをスプーン大さじ2杯くらい入れて混ぜちまってくれ」

「わかった。大さじ2杯だな……飴色玉ねぎにはしないのか?」

「あれ美味いんだけど、ビタミンやらなんやら犠牲にしちまうからなー。今回はうちの調子悪いトレーナー向けだから、そのままだ。あ、出来たら鍋に投入しちまっていいから。あと、熱いからこれ使ってくれ」

「わかった、ありがとう」

 

 渡されたトングを使いミキサーに人参と玉葱を詰め、業務用の冷蔵庫から、言われた量のヨーグルトを取り出す。

 指示を聞きながらとはいえ、事前に準備が済んでいるとはいえ、私の手が本当に必要だったのかと疑問に思う。知識も豊富だ。

 ルーを用意するゴールドシップにその事を尋ねれば、神妙な顔で返してきた。

 

「アタシってさ……すっっっげえ気まぐれなんだわ。それこそ、1秒後に自分でもどう舵を切るかわかんねえくらい。今だって、寝込んでるトレーナーのところに突撃してやろうか、このカレーの材料どうしてくれようかってウズウズしてるんだ」

「……いざそうしようとした時に、止める役目が欲しかった、ということか?」

「まあな。アタシ、力強えから普通に料理上手な奴らだと止めきれねえ可能性もあったし。あとはマックイーンとかよりも舌の感覚が庶民寄りだったから、だな」

「……あまり高級な、細やかな味がわからないからこそ、か」

「そーそー、マックイーンに頼んだらその所突かれかねなかったし。あとは……」

 

 少し考えるようにして、朗らかな笑顔で「あんたの食べてる時の顔が面白くてさー、味見がてら食ってもらおうかなって思ったんだ」と言ってきた。

 ……そんなに、変な顔をしていただろうか。

 

 

「んで、トドメにこのマッシュポテトを皿に盛って、完成と。

 ゴルシ流マッシュポテトカレーだ! トレーナーに多めに回すから、オグリンにそんなやれねえのはわりい」

「大丈夫だ、ありがとう」

 

 米やパンのついてないカレー、というのは初めてだ。マッシュポテトの方も、パサパサのわけでもない。バターと僅かに牛乳が混ぜられ、柔らかすぎず、しかししっとりとした仕上がりになっている。

 カレーは色合い的には、一般的なカレーと大差ない。強いて言えばやや薄い茶色で、野菜らしい野菜が入っていない事以外はとてもシンプルだ。

 しかし、あの作業工程を共にしたからわかる。これが不味いわけがない。

 

「いただきます」

 

 まずはルーだけをスプーンで掬い、口に含む。

 ああ、やはり。野菜が文字通り溶け込みきった優しい仕上がりで、思わず一息ついてしまう。

 後を追うように、牛ひき肉から溶け出た牛脂の旨み、ヨーグルトの爽やかな酸味、カレーの持つ辛味が上がってくるが、辛すぎることは一切ない。複雑に絡んだまま、纏まったまま、料理の一つの完成形を私に教えてくれる。

 もう一口口にすると、一口目には分からなかった若干の魚のような味わい、甘さが顔を出す。それでいて不自然さは一切ない。

 ゴールドシップは庶民的な味だ、なんて言っていたが、私としてはこれでも十分お金を取れる代物だと思う。

 

 ここでマッシュポテトの存在を思い出した。曰く『米の代わりにしてもいいし、混ぜてもいいぜ』とは言っていたが。

 とりあえず、マッシュポテトをルーをスプーンに一緒に乗せて、一口。

 

「美味い……」

 

 思わず声が漏れてしまった。食べるのが『勿体ない』と手が止まりそうになる。美味しいのに、食べたくない。こんなことが起こるんだなと何処か他人事のように思っていた。

 

 先程の感想を反故にしないといけなくなってしまった。

 まだ、このカレーには先があったんだ。このしっとりとした優しいマッシュポテトと合わさる事で、より完成度の高いカレーへと至る。

 これでは、確かに米がいらない。いらない、というより、このルーの味わいに合わせるには、米は余りに食感が強すぎて、そして密度が薄い。

 混ぜて白茶色になったそれを今度は口に含めば、私はもう決めていた。

 

「ゴールドシップ。──私の胃袋を掴んだからには、せめてそのレシピだけでも教えてもらうぞ」

 

「おっ、レースか? いいぜ、かかって来いや! 黄金の不沈艦は伊達には沈まねえって所、見せてやるよ!」

 

 『──あっ、でも後日な? 流石にこんな時間にレースおっ始めるわけにもいかねえし。トレーナーも待たせちまうからさ』と言われると、どうにも返せなくて少し恥ずかしくなってしまった。

 

 

「とーれーえーなー、生きてっかー」

「……勝手に殺すなよ、ゴールドシップ」

「だってよ、お前このまま行くとマジで死んじまいそうなんだよ。ぶっちゃけ聞くけど、何徹目?」

「……」

 

 桜の花びらと青葉が混ざり、春の終わりを感じさせる夜風の涼しい日。トレーナー寮の自室。

 パジャマ姿のゴールドシップにそう尋ねられ、口籠る。

 

 馬鹿正直に『あの日からほぼ二徹目』なんて言った日にはこの間の事件の再来にしかならない。

 いや、本当に少しだけは眠れている。1時間、2時間ながら。かなりマシになってる。マシにはなっているんだ。今までみたいに10日前後ほぼ眠れず、ある日切れたように5〜6時間床の上で気絶するように意識を落としてしまうよりか全然いい。

 

 彼女は頭が良い。奇人、傾奇者なんて扱われるが、自分の中の確固たるルールがあってそれに沿って生きているだけである。

 馬鹿と天才は紙一重、とは言うが間違いなくゴールドシップは天才寄りだ。それだけは彼女のトレーナーとして保証ができる。

 冗談半分でIQテストを実施してみたら、最低でも150前後ある事が発覚した際は驚いた。

 

「……はぁ。まあいいや。とりあえず今日は一緒に寝るからなー」

「……ごめんな、ゴールドシップ」

「はあ? なんで謝るんだよ。別にトレーナーと一緒に寝るのが嫌なんて、言ってねえぞ」

 

 「まっ、とりあえずこれでも食えよ。ほい、あーん」とスプーンを顔の前に差し出される。

 ……流石に自分で食えるのだけど。

 そう告げても「いいから食えよー。ゴルシちゃんお手製のマッシュポテトカレーだぞ」とズイズイと押し付けられてしまい、渋々受け入れた。

 

「……優しい味がする」

「相当体に無理させてたみたいだったからさ。消化しやすいように野菜とかはペースト状にしてあんだよ。足りなくなりそうな旨味とかも牛ひき肉でカバーって算段だ」

 

 得意げな顔で今度はポテトと一緒にルーをスプーンに乗せたべさせてくる。

 マッシュポテトの甘さ、舌触りが加わってより美味しくなった。

 

「うん、ご馳走。……いい奥さんになりそうだな、ゴールドシップ」

「フォッフォッフォッ。旦那さん、とうとうボケたかのう。目の前におるじゃろ、お主の妻は」

「……ゴールドシップ。君と俺とでは立場も、歳もだいぶ違う。

 お前はいまや国民的スターで俺はお前を育て上げたとはいえ、しがない一介のトレーナー。そんな────」

「──言いたいこと、それだけか?」

 

 胸倉を掴まれる。コツリと、静かに額がぶつかり合った。薄紅色の瞳が、吸い込まれるような綺麗な色から隠しきれない激情が覗く。

 やけに静かな、力のこもった言葉だった。

 ゴールドシップが、冗談を言った時や戯れてる時と違って、視線には冷たさを。耳は伏せられ、目付きは鋭く。

 レースに臨む時とは違う、砕氷艦めいた重苦しい、明確な怒りがあった。

 

「うるせえ。アタシはアタシの生きたいように生きて、そんで死にてえんだ。いくらアタシのトレーナーでも、そこは口出しさせねえ」

「……お前なあ」

「……よし、一回寝ようぜ。歯ァ磨くぞー。四の五の言うより、一度互いに冷静になろう」

 

 お互い無言で歯を磨き、また戻ってきて早々に「おりゃ」と柔らかくベッドに押し倒された。

 流れに身を任せ体を横たえる。そのまま抱き枕代わりになれば、ほぼ前回の焼き増しのままだ。

 ……あくまで未成年の女子高生と同じベッドで寝るって犯罪臭が凄いな。改めて。

 なんかめちゃくちゃ落ち着く、甘い柑橘系のいい匂いがするし。煩悩滅却とか言い聞かせるも、それ以上に体が疲れているのか安心感や意識が緩やかに閉じていく。

 

「おやすみ、トレーナー」

「……ん、おやすみ。ゴールドシップ……」

 

 

 やっちまった。

 メンタル的に疲れ果てて、追い込まれてる個人に対してやるべき対応じゃなかっただろアタシェ!! ゴルシブレインミーティングも『バカ』『何考えてるの?』『これは猛獣』とか散々な結論下しやがるしよ!!

 

 ただ、トレーナーも悪いんだ。そうだ、そうに違いない。

 だって。あんな儚げに、苦しそうに、寂しそうな。ほっといたら消えちまう砂浜の文字のような雰囲気で放って置けるかってんだ。いけないんだよ。コイツに、そんな顔をさせておくなんて。

 

 ま、まあでも? 結果的には役得的にトレーナーと一緒に眠れているからそれはそれでヨシだな。

 ……前回は、兎にも角にも『トレーナーがいつぶっ壊れてもおかしくない』って心配からの暴走だったわけだけど。

 

 今回に至っては心配5割、個人的な思惑5割だったから、アタシ的にもこれはアウト気味じゃねえかなあとは思う。トレーナーもほぼ一回りアタシと歳が離れてたとは思うし。

 

「……そもそも一緒に寝ることを前提にして話をしたのは、アタシだもんなあ……」

 

 思い返すのは、あの日。トレーナーがばっちり8時間ほど熟睡をキメて起きた後のことだ。

 

『とりあえず、トレーナー。暫くは週に何度か一緒に寝るか!』

『えっ』

『だってよー。一人で眠れねえってことは、不安感やら何やらで絶不調って事だろー。で、それがアタシと一緒のベッドに入るだけでスヤァ……と落ちたってことは、人肌が寂しいんじゃねえか?』

『…………』

『だから、アタシな訳よ。今まで何年も一緒だったし、信頼してる。アタシもアタシで抱き心地のいい枕と一緒に眠れる。win-winだろ?』

 

 いやあ、顔を真っ赤にしたトレーナーの顔は見ものだったぜ。

 こういう時、ウチのトレーナーの恋愛感情ニシオンデンザメぶりには助かる。前回では顔に胸が当たってテンパるくらいにはウブで、そういった部分が枯れてるわけでもねえってのが分かったけど。

 一緒に寝るのを拒まなかったのも、『実際否定し切れない』とか『アタシが心配してるから』とかその辺りの理由だけで納得してるんだろうよ。

 いやー、ウブもウブ。マックイーンだってもうちょい気付くぜ?

 

『旦那さん、とうとうボケたかのう。目の前におるじゃろ、お主の妻は』

 

 ……カーッッ! はっずかしい!! メチャクチャ恥ずかしい!!

 しかもこれ、たぶんいつもの我が儘破天荒ぶりなノリと勢いで言ってるって絶対に勘違いされてるわな……だー……ハッズ……。

 

 ……それにしても、このアロマオイルの匂いは大丈夫みたいで良かった。ベルガモットっていうらしいそれの香り。

 アロマオイルを薄くしてパジャマに霧吹きで吹きかけたんだ。

 安眠作用があるらしい香りで、アタシとしても嫌な匂いじゃなかった。

 

「ったく、世話が焼けるぜ、船長」

 

 苦しいとか悲しいとか、弱音を全部引っくるめて言えねえまま、曖昧な笑顔で居続けて、その果てに壊れそうになってた。

 違うだろ。アタシのセントエルモの火。導きの灯台。船長。

 アタシがアンタをセントエルモの火と定めるように、アンタにとってのアタシは、アンタだけの不沈艦。アンタに寄り添って、荒波を割って進む、黄金の不沈艦だぜ。沈むまで一緒にいるに決まってるだろ。

 

「……おやすみ」

 

 トレーナーの調子が戻ったら、改めて想いを伝える。全部伝えるんだ。そう決めた。どう転んでも、この想いは変わらねえんだ。




副題
『盛大に自爆かまして、引くに引けなくなった乙女な猛獣ゴルシちゃん』
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