短いです。そして、某所に投稿したものを一部改変したものになります。
「君の誕生日は素直に祝う気になれないんだ」
困り顔で言う若い男の顔には、確かな困惑が張り付いている。その担当であるメジロマックイーンも困った顔をした。
その言葉とは裏腹に、誕生日プレゼントの低脂肪、低糖質なのに美味しいと評判のケーキに、アクセサリー等のプレゼントの類はしっかり用意しているから。
「あら、天邪鬼ですの?」
「いやー。そういうのじゃぁ、無いんだけど」
「……前々から思ってましたけど、トレーナーさん。あなた、毎年毎年、私の誕生日の時だけはなよなよしくなりますわよね」
マックイーンからしてみれば、デビュー前からトレーニングを見てくれていた時も、ジュニア〜クラシック期も。シニア期に入ってからも。
そしてこれから三連覇を賭けた天皇賞(春)を一ヶ月を切る目前にしてのこれだ。
トレーナーは図星を刺された、苦虫を百匹はまとめて噛み潰したような険しい顔をして、黙り込んだ。
十秒。十五秒。沈黙が二人の間の空気を包む。顔の皺を増やしたトレーナーは、覚悟を決めたように問う。
「……一回り以上歳上の僕が、こんな弱音を君にぶつけるのは大人としてダメだとは思う」
弱々しく萎びたような声だった。
心の底から吐き出したくない類の言葉だったのだろう。マックイーンはそんな思いをさせてしまう言葉を引き出させたことに、僅かながら罪悪感を抱く。
「これから言おうとしている事も一教育者としてダメだと思う。その上で、聞いてくれるかい」
「ええ、聞きますわ。何せ私は、トレーナーさんと一心同体ですもの」
メジロマックイーンからすれば、トレーナーの発言は前提から違うのだ。
メジロマックイーンというウマ娘には、今メジロマックイーンの目の前にあるトレーナーが居なければここまで走ることはできなかった。
メジロマックイーンは、何となくではあるがレースが嫌いだった。それは本家分家とのしがらみだとか、幼少の頃自分の趣味にまともに時間を使えなかった反発心だとか、一部の例外を除いてそんな自分に夢をかけようとしてくる大人たちの願いだとか。
レースには出るし、本気で走る。負けたくはない。けど、勝ちたいかと言われると悩む。
それは、背負わさせられた荷物でしかないからだ。背中を力強く押してくれる原動力には、なってくれない。
だからこそ、それらのストレスも相まって入学直後は太り気味になるほどやけ食いをしてしまっていたのだが。
けど、けれど。トレーナーと出会ってからは一変した。
新人トレーナーだから、ウマ娘個人に回せる時間が多かったというのもあったのだろう。
何がどうして嫌なのか、懇切丁寧にケアしてくれた。
まだ青く幼いメジロマックイーンの精神性を見抜いた上で、それをありのまま受け入れてくれた。
甘いものが食べたいのに食べられないと嘆く時は、カロリー控えめなスイーツを用意してくれた。
レースに向けて、『メジロとしての本懐』という夢の重さを、一時でも和らげてくれた。
そんな、『退屈』とまで呼ばれるようになった位置まで自身の走りを押し上げてくれたトレーナーという存在は、教育者、指導者、一回り歳上の男性……それらの世間体という障害を『その程度』としか思わせないくらいにまで大きくなっている。
そんな身分けしたような半身。切り分けたオレンジのような一心同体のトレーナーが苦しむ理由。
一心同体たるメジロマックイーンが頼られざるして、トレーナーは誰を頼ればいいのだ。メジロの権威、ここで発揮せずしていつ発揮するか。
堂々と胸を張って言葉を待つ少女の姿に、言葉を選ぶように沈黙すると、トレーナーは両手で額を支えるようにして、恥ずかしがるような、或いは懺悔するように声を絞り出した。
「……4月3日は、君の誕生日だ。メジロマックイーン」
「ええ、そうですわね。今日用意していただいたケーキ、とても美味しかったですわ」
「ありがとう……そう、だな。漠然とした不安。或いは、予感かな……まるで君が、突然居なくなってしまうかのような恐怖感が襲ってくることがあるんだ」
「…………」
「マックイーンの誕生日を初めて祝う前日に、夢に出たんだ。
今より少し背丈の伸びた君が、突然胸を押さえて倒れたまま動かなくなってしまう。そんな悪い夢をね」
「……バカバカしい話だろう? 僕はそんな夢をずっと恐れているんだ」と自嘲するトレーナー。
バカバカしい、とはメジロマックイーンは言わなかった。
知っているからだ。この半身のずば抜けた、本人も気付ききれない細やかに事象を読み解く観察眼と、何でもかんでもトレーニングに転用できる閃きに発想力。
万が一。その観察眼から得た情報を整理、精査し、将来的に起こり得る事象を夢として見たというのなら。
あり得ない。そんな風に一蹴する事は容易だ。
だけど、信じることにした。
「まったく、トレーナーさん。……そういう話は、誕生日にするものではありませんわよ?」
「ごめん。ほんっとうにごめん」
「ですが、気に留めてはおきますわ。なんて言っても、メジロマックイーンのトレーナーは貴方しか居ませんもの。その言葉を無碍にする理由もありません」
「ありがとうございます」と花のような笑顔を咲かせるメジロマックイーン。呆然と、少し顔を背けたトレーナー。
「さっ、今日はトレーニングの後、ちょっとしたお菓子パーティでも始めましょう! パクパクですわ! ムシャムシャですわ! もぐもぐですわ!!」
「ちょ、待ってくれマックイーン! せめてケーキだけ……いやポテチ一袋までで──」
後年になってメジロマックイーンは語る。「あの言葉がなければきっと、自分は心臓の病に気がつかないままでいたかもしれない」と。
後年になって彼女の担当だったトレーナーは語る。「あの笑顔で、全部持っていかれましたね。ずるいよ、あれは」と。
雑な紹介
まっくいーん
・本家分家とか、原作馬の引退後の逸話から色々設定を練って採用。その結果メンタル的に相当不安定かつスイーツを食べたがるというのを『ストレスによる』理由付けをした。放っておくと過食症とかになってたかもしれない。
・トレーナーはそんな自分を支えてくれてた……なんて言葉では済まない相手。大恩ある大人。切り分けたオレンジ。新月の夜であっても月が綺麗ですねと言いたい相手。でも言葉にするまでもないと思ってる。
・狙った獲物は逃さないタイプ。
とれーなー
・俺ら。もとい、アプリ版Tの観察眼(スズカのアレとか)と発想力(トレーニングに活かせるかもしれない!)を持った新人T卒業して1〜2年の姿。
・観察眼がずば抜けてて本人もそこまで気が付かなかった事とか、その先に待っている可能性とかを予知夢のような形で知ることができる。が、自覚はない。
・実は初担当が同一GI三連覇とか目前にしててプレッシャーだとか夢の事とかで相当参ってた。
・マックイーンの事はまだまだ放っておかない女の子、家の事情で情緒が不安定だった子と、完全にトレーナーというより保護者視点。