ヒトがウマ娘に敵うわけがない   作:背水 陣

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絶対必要ないと思いますが、もしR-15タグ必要ならお知らせ頂けると助かります。


プロローグ

じりじりと距離を詰められる。

 

後ろは壁。逃げ場はない。

 

 

 

茜色の太陽がカーテン越しに差し込む、夕刻のトレーナー室。

 

 

俺は、最後まで抗う覚悟を決めていた。

 

 

 

だって、こんなこと許されるわけがない。

 

 

俺が望む、望まないではない。

 

 

彼女らにとって、それはとても大事なことだから。

 

 

若い時の、一時の気の迷いで。

いつか後悔するだろう。

 

もう少し、思慮深ければ。

慎重に生きていれば。

後先を考えていれば。

 

絶対、そうやって過去を振り返る。

 

 

 

「なあ、もう一度考え直さないか、テイオー?」

 

 

冷や汗を流し、震える足で俺は説得する。

 

体格に差のある俺と彼女では、常識であれば優位のはず。

 

だが、目の前の少女は人間ではない。

 

ウマ娘だ。

 

 

栗色の髪と、長い真っ白な流星が揺らぐ。

身体も小さく、まだ中等部ではあるが……トゥインクル・シリーズで素晴らしい成績を残している。

 

 

彼女の名はトウカイテイオー。

 

 

自らを最強無敵と豪語する彼女は、常にケガと共にレースを走ってきた。

だが、その度に不屈の魂で何度も立ち上がり、様々な舞台で好成績を収めてきた。

 

年末の有記念。骨折から1年越しの療養を経て、BNWという三強の一人ビワハヤヒデと接戦の末に勝利。

誰もが疑わない、まさに奇跡の勝利。

 

それから、再び調子を落として、戦績が振るわないのは知っていた。

何故ならば、俺は彼女のトレーナーなのだから。

 

 

ええい、今はそんなことどうでもいい。

 

とにかく、目の前の状況を何とかしなくては!

 

 

 

「なんで? ボクは最初からそのつもりだったんだよ?

 トレーナー、まさか裏切るつもりなの?」

 

高く幼い声色から想像もつかないほど、落ち着いた返事。

いや、落ち着いているんじゃない。

 

これは、覚悟を決めているんだ。

自分がこれからどうなるのか。どうなってしまうのか。

全て考えたうえで、挑んでいる。

 

「そんなつもりは……。た、ただ俺は……お前のことを思って……」

 

「ボクのことを本当に思ってるなら……いいよね?」

 

曇りのない……いや、光の無い瞳が近づく。

 

俺は必死になって逃走経路を計算した。

だが、どう足掻いても もう無理だった。

 

近くの物を投げつけてしまえば、隙は作れるかもしれない。

だが、それによってケガをさせてしまうような事態は絶対に避けたい。

 

ならば、フェイントを入れてみようか。

いきなり接近すれば少しは驚くはず。

 

思い切り足を踏み込んで、大きな音を立てれば効果は倍増だ。

 

よし、これしかない。

 

 

「テイオー!!」

 

「!!」

 

俺は叫び、一歩だけ足を出す。

木製の床に振動と轟音が響き、周囲の空気を瞬間的に支配した。

 

(よし!)

 

案の定、テイオーは怯んだ。

尻尾が真っすぐに伸び、身体が委縮している。

 

今こそ好機! このまま出した足を軸にして一気に……!

 

 

 

「つーかまえた♪」

 

「え?」

 

 

 

動かない。

 

 

 

足が、ピクリともしない。

 

 

不意打ちのために出した足は……テイオーに差しだすような形になってしまっていた。

 

細指に握られた下腿部は、痛みを伴わないのに、まるで万力にでも掴まれているかのよう。

 

 

 

「なっ……くそ!?」

 

全身全霊を持って、全ての力を振り絞って、ありとあらゆる捻転力を用いて脱出を試みる。

 

 

だが、俺の身体は一ミリもその場から動いていなかった。

 

 

 

「ダメだよ、トレーナー。不用意に近づいちゃ」

 

ニコリと笑う、陰のある顔。

吸い込まれそうな暗黒の瞳とのギャップに、ゾクリと冷ややかな感情が駆け巡る。

 

 

 

「ヒトが、ウマ娘に敵うわけないんだからさ」

 

 

「……あ……ああッ!!」

 

 

 

情けない叫び声が思わず漏れた。

恐怖と葛藤と、もうあの頃には戻れない後悔と。

 

あらゆる気持ちが、ないまぜになり喉から飛び出る。

 

 

その様子がおかしいのか。

 

テイオーは変わらない笑顔で、そのまま。

 

 

そっと、一歩近づいた。

 

 

もう、完全に密着している。

 

 

 

鼻水と涙の出る、情けない俺の顔に向かって。

 

 

抗えない力で、優しく強く襟を引っ張りつつ。

 

 

 

 

 

 

「さ、トレーナー……」

 

 

 

 

 

耳元で、息を吹きかけるようにつぶやいた。

 

 

 

 

「ボクと『うまぴょい』……しよ?」

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