ヒトがウマ娘に敵うわけがない   作:背水 陣

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第九話「絶対、アイツより先に『うまぴょい』を!」

「それで、用って?」

 

エナジーバーを軽く咀嚼して、コーヒーで流し込みながら応接用のソファーへ座った。時間が取れない時ように常備している保存食を、作ってくれた人たちに感謝しながら嚥下しつつ。俺は前に座っている二人へ質問をする。

 

「すみません、お昼休み中に」

「おいおい、今更猫被っても無駄だぞ? ソーマにはもう、素のお前見られてるんだから」

「そういう問題じゃないでしょ!」

「へっ。優等生ぶってよ~。どーせ昼休みなんてスマホ イジって終わるだけだろ。なあ?」

「失礼な! ちゃんと昼寝もしてるわ!」

「同じようなもんじゃねーか」

 

ガハハと大口を開けて俺とウオッカは笑い合う。雰囲気についていけないスカーレットに、気遣いしてくれた礼を言いながらも話を本筋に戻した。

 

「まあ、そのなんだ。テイオーが言ってた……あれだよ。あれ」

「『うまぴょい』か?」

「ばっ……! なんでお前ら揃いも揃って、恥ずかしげもなく言えんだよ……」

「いちいち恥じてたら、回りくどくなるだろ。こういうのは、さっと本題に入るべきだ」

「それもそうだな。わかった。じゃあまず……」

「ちょっと待ちなさいよ。先に聞いておきたいことがあるんだけど」

「あ? んだよ、テンポが大事って今言われたばっかだろ?」

「気になることは先に解決しておきたいの! アンタ、なんでそんな好井さんと仲が良いのよ?」

 

そういえば、ダイワスカーレットとはほぼ初対面だったが。ウオッカとは、実は既に交流があった。お互いそんなだから気にもしていなかったが、確かに当事者なのに疎外感を覚えてしまうのは、流石に申し訳ないな。

では、話すとしよう。俺とウオッカの運命的な出会いを……。

 

 

 

――――あれはまだ、少し冷える季節だった。テイオーの歴史に残るレースから間もなく、火照った体で入った書店での出来事だ。

この熱い想いを、如何にして受け止めてくれる作品があるのだろう。コートのポケットに手を突っ込み、ゆっくりと背表紙を漁っていく。違う、違う。これでもない。乾燥と病の感染に備えて装着していたマスク越しに、小さく呟きながら歩みを進める。

そして目についた、見覚えのあるタイトルから脳内に一気にイメージが湧きあがった。これだ。これが、今の感情にぴったりだ。近隣の書店ではお目にかかることが少なかったが、入荷していたとは!

喜び勇んで、棚に手を伸ばすと同じタイミングで細指が下から視界に入ってきた。うっかり触れてしまいそうで、驚いて身を引く。隣を見ると、同じような顔をしているウマ娘が居た。片目の隠れたヘアスタイル、ライダースに身を包んだその姿は、学園内で見かけたことがある。

 

「キミは……ウオッカ……?」

「そういうアンタは……テイオーの……」

 

恋人が初めて出会うようなシチュエーションに、お互い一瞬だけ顔を赤らめる。だが、そんなことよりもっと聞きたいことがあった。

 

「キミも、これが?」

「あ、ああ。周りのヤツらも、中々知ってるのが居なくてよ。アンタも?」

「いつもは通販で買ってたんだけどね。今日はたまたま」

「そ、そうか。……ち、ちなみになんだけど。シリーズ全部持ってたりするのか?」

「初版から全部あるぞ。なんなら、俺のトレーナー室にな!」

「……!!」

 

嬉しくてたまらない表情をすると、ウオッカは手を振りかぶった。その意味を理解し、俺も構える。

そして、腕を組み合うような熱く硬い握手を交わしたのだった。

 

 

 

「……ってわけだ」

 

うんうん頷きながら、鼻の下を擦るウオッカ。隣のダイワスカーレットは、イマイチ腑に落ちていない様子だ。おかしいな、完璧な説明だったんだが。

 

「ちなみになんですけど……その本って?」

 

俺とウオッカが同時に、本棚を指さす。『ゴールデン・タイラント』と言うタイトルの本が、そこにはずらりと並んでいる。俺のお気に入りの書籍だ。

 

「……ふぅん。これが……って、漫画じゃないの!!」

 

気になって手に取ったダイワスカーレットが思わず叫ぶ。表紙を見て気づかなかったのかな?

 

「おススメは11巻の、サダムとの特攻服(マトイ)を賭けたタイマンだな」

「あー、あそこ良いよなぁ。最後までどっちが勝つか、わかんなくてよ~。でも俺はやっぱ、バーシオンとのレース2戦目だな。主人公のタイラントが、あんだけ修行してきたバーシオンを峠でぶっちぎるのが、もう最高なんだよ!」

「……アンタたち、ホントに日本語喋ってるの……?」

 

スカーレットはあきれて、俺の愛書を本棚に戻した。まあ、彼女が理解できないのも無理はない。『ゴールデン・タイラント』は、いわゆる不良(ヤンキー)漫画だ。登場キャラは男ばかりだし、喧嘩も多いがメインはバイクによるスピードレースばかりだ。俺の先輩に見せても、呆れた顔をされたぐらいだし。食指が動く人をかなり選ぶ作品なのは間違いない。ウマ娘のレースを見てるような、ハラハラドキドキの展開ばかりの、超オモシロイ漫画なんだけどなぁ。

だから驚いたのだ。まさか、ウマ娘がこんな漫画を好きだなんて。聞けば父親の趣味だそうだが、近くに語れる同志が居たのは本当に嬉しい。

 

「そっから、話すようになったんだよな」

「ああ。そうだ。最新刊買ったか? まだなら借りていっていいぞ」

「おっ! マジかよ。サンキュー!」

「……はぁ。事情はわかりましたので、もう本題に戻して良いですよ」

 

額に手を当ててため息を吐くスカーレット。それもそうだな、と膝を打ってウオッカが向き直った。

 

「『アレ』の話なんだけどよ。テイオーに釘刺されちまっただろ? どうしたもんかなーって考えてたんだけど……」

「好井さんに、ちゃんと選んでもらおうと思ったんです。アタシ達のことを」

 

……? 話が見えない。選ぶ? 何を?

首をかしげていると、スカーレットがそのまま続ける。

 

「好井さんは担当トレーナーじゃないですし。アタシ達も合宿が控えていますから、そんなに時間はたくさん取れないですよね?」

「だから、どちらか一人だけに絞ってもらおうと思ってな」

「……つまり。ウオッカかスカーレットか。どっちかと『うまぴょい』しないといけないわけかな?」

「そ……そーいうことだ!」

 

する、なんて言ってないんだけども。そもそもの前提が崩れている気もするが……まあ、まずは彼女らの中で考えてきたことがあるみたいだし。否定する前に聞いてあげよう。

 

「けどよ、今のままだとソーマは絶対俺を選ぶだろ?」

「はぁ? アンタみたいなファッションヤンキー、好井さんが選ぶわけないでしょ?」

「ケッ! 猫かぶりのエセ優等生サマの方が、選ぶ価値ねーと思うけど?」

「なによ!」

「なんだよ!」

「こらこら、その辺にして」

 

額を突き合わせていがみ合う二人を引きはが……せねえ! 磁石でもくっつけてんのかこの子ら!? 人間とウマ娘の力の違いを実感しつつ。思った通りの行動が出来ないことを、素知らぬ顔で誤魔化しながら、続きを促す。

 

「……ったく。それじゃ流石にフェアじゃねえってことでさ。一日だけ、俺達に付き合ってくれねーかな、って提案をしにきたんだよ」

「好井さんの都合もあるでしょうし。アタシ達のスケジュールもありますから、それをすり合わせて空いてる日に、アタシ達のことをしっかり見て頂いて。その上で、判断して欲しいんです。ふさわしいか、ふさわしくないか」

 

なるほどな~。思っていたよりは、ちゃんとしている。抜け駆けしようとせず、既にあるアドバンテージを解消するために、なおかつ『俺にうまぴょいさせたくなる』ような時間をくださいと言っているわけか。ライバル意識に目を背けない、立派なフェア精神だ。彼女らは、まだ大型レースに出ていないけれど、ちょくちょくその能力の高さを耳にする。この対抗心が、それを生み出しているのだろうな。

 

口元に手を当て、どこでもない焦点のまま考える。

ハッキリ言えば、この提案は俺自身には何のメリットもない。担当でもない他所の子を見てるぐらいならば、自分の見ている子達の、貴重な青春の一日を大事にしてあげたい。空いている日を希望しているが、そんな時でも何かしらのキッカケを掴むこともある。普通なら断って、この話はおしまい、だろうな。

 

「…………わかった。いいよ。その代わり、担当トレーナーさんには許可を取ってくるように。いいね?」

「ホントか! サンキュー、ソーマ!」

「ありがとうございます!」

 

だけど。ここまで必死にお願いをされて、首を横に振ることは、俺には出来ない。テイオーの敵になるかもしれない。ネイチャの障害として立ちはだかるかもしれない。クリークを脅かす存在になるかもしれない。

だけど、ウマ娘(彼女)達はいつだって。孤高に走るときより、誰かと競い合う方が強く速く走れるのだ。であるなら、望みの一つや二つ叶えてあげても問題あるまい。それを上回れば良いだけのこと。幸い、俺の庇護下で行われるのだから手の内だって明かされる。

しょうがないようにため息をついて、まずは日取りの調整を始めた。

 

「で、どっちから?」

「アタシが先で良いですか?」

「……ホントお前、一番が好きなんだな」

「ふん、なんだっていいでしょ。アンタより先に見てもらえれば、それでいいの!」

「はいはい。ま、言われなくても俺は後にしてもらうつもりだったけどな。こーいうのは、後攻の方が有利なんだよ」

 

それはどうだか知らないけど。変にまた喧嘩して話が長引くよりは良いや。お互い納得した上で、手帳を開き日程を決めたところで、お開きにした。

 

その後、自分の担当のウマ娘たちにも、一応事情を説明。テイオーは事前にわかっていたから特に反応はなく。クリークは、無理しないようにと優しい言葉をかけてもらった。ネイチャはちょっと怒っていた。別にキミらの時間が少なくなるわけでもないのに、そこまで否定しなくても。消えるのは俺の休日だけだからな。

 

 

「え? 今日、本当はお休みだったんですか!?」

 

そして来たる当日。日の高い時間に、ダイワスカーレットと合流した。トレーナー室で一度集まり、ウマ娘側が用意してきたプランを行ってくれる。事前情報はなしの、一発勝負。

俺からは何もアクションは起こしていない。全て、二人だけがメインで動くように伝えてある。贔屓になっちゃうからね。

 

「そうだったんですね……すみません」

「いやいや。休日が潰れる……この言い方はおかしいか。予定が入るなんて、しょっちゅうだよ。テイオーに突然連れ出されたり、クリークがご飯作ったから持っていきますね~って来たり。最近はネイチャと買い物に行ったりもするかな。だから気にしなくて良いよ」

「……仲、良いんですね。迷惑って思ったこと、ないんですか?」

「あるわけないよ。みんな大事な子なんだから」

「……やっぱり、好井さんって凄い。前もアタシを助けてくれたし……」

 

ぼそりとスカーレットが呟いた。そして、何かを決意したかのようにこちらを強い眼差しで見る。

 

「好井さん!」

「は、はい!?」

 

突如、大きめの声を出されたので思わず返事をする。スカーレットは更に言葉に意志を込めて続けた。

 

「アタシ、何事も1番になりたいんです。ずっとずっと、そうやって生きてきたから。この意地だけは変えられない。変えたくないの。だけど……この学園に来て『本物』に出会っちゃった。本当に強いウマ娘って、こんな凄いんだなって思っちゃった。だけど、それでも負けたくない。アタシはアタシであるために、絶対に1番を譲りたくない!」

 

想いの強さが先走り、既に丁寧な優等生口調は無くなっていた。それだからこそ伝わる気持ちもある。スカーレットは本気なんだ。ウオッカに……いや、他のウマ娘の誰にも負けないように、成りたいと心から思っている。

 

「だから……『うまぴょい』は必要なの」

 

 

…………!?

 

 

空気が変わった。

冷房の効いた部屋なのに、俺の背中がじわりと濡れる。頭部にある汗腺という汗腺から、冷静になるための分泌液が漏れてくるのを感じる。そんなものがなくとも、俺の脳はやけに冷たく激しく動いていた。

 

 

スカーレットが、上に羽織っていたジャージのファスナーに手を掛けた。

そして、ゆっくりとジッパーを下ろしながら俺に近づく。伏し目がちなまま、パーソナルスペースを侵食していく。中山競馬場のホームストレッチのような起伏が二つ、観客満員時の有記念の時みたいに揺れる。呼吸は荒く、スカーレットの顔は紅潮していた。

 

「す、スカーレット……?」

「してもらうためなら……何だってするわ」

 

金属のスライド音が止まり、次には衣擦れの音が鳴る。スカーレットは遂に上着を脱ぎ去り、白い体操服姿になってしまった。

 

「ホントは恥ずかしいんだけど……。好井さんには……アタシの全部を……見てもらおうと思って……」

「────ッッ!!!!」

「だって、アタシには……これしか……!」

 

もう、後戻りはできない距離に入ってしまった。

俺は、俺はどうする。どうすればいい? スカーレットを、このまま受け入れるべきなのか……!?

テイオーに追い込まれた時とは比にならない速度と密度で俺の頭の中が、目まぐるしく動く。

 

違う、違うぞ好井ソウマ! この子は、『うぴうぴ』もしていない。なら、まだ……間に合う!

 

「だ、ダメだスカーレット! 自分をそんな安売りするんじゃない!」

「キャッ!?」

 

思わず肩を掴み、腕を伸ばして距離を保つ。そんなことしても、俺の腕力じゃウマ娘に敵うわけがないのだが。それでも、大人として教育者として。俺は指導しなければならない。

 

「キミはウマ娘なんだから。もし本当に俺と『うまぴょい』したいなら、ちゃんと走りで魅せるべきだ。そんな方法、俺は絶対認めないぞ!」

「…………? あの?」

 

必死に声をあげて伝えるが、スカーレットはきょとんとしていた。まさか、これだけ言って伝わらないなんてことが、あるわけ……。

 

 

「ですから、今からアタシの走りを見てもらおうかと思ったんですけど……」

 

 

 

 

…………。

 

 

…………ん?

 

 

「え、じゃあなんでジャージ脱いだの?」

「ここは涼しいですけど、外は炎天下ですから」

「なんで恥ずかしそうにしてたの?」

「アタシのトレーナー以外に、改めて評価してもらうのって、ちょっと……その。」

「…………すぅ~~~……」

 

 

 

 

そうかぁ……。

 

 

 

「? 好井さん? どうしたんですか? そっちは窓……え、ちょっ!? ちょっと何してるんですか!? ここ二階ですよ!? 落ちたら危ないですって!!」

「止めないでくれーーー!!」

 

服の裾をあり得ない力で引っ張られて、俺の身投げを静止される。頼むから、俺を罰してくれ! ただでさえ、中等部のキミに。あろうことか、大事なウマ娘の生徒さんに! 一ミリでも劣情を抱きかけた、この俺の煩悩を、今ここで消し去らなくっちゃ、俺は俺を許せねえ!!

 

「ちょっと……暴れないで……! もー、なんなのよーー!!」

 

スカーレットの声がトレーナー室に響き渡る。俺が冷静さを取り戻し、ギリギリ限界の釈明と謝罪が出来たのは、それから1時間も後のことだった。

 

 

 

 

・・・。

 

「はっ……! はっ……!」

 

頭部に包帯を巻き、腫れた頬にガーゼを付けたまま俺は練習コース上のスカーレットを見ていた。傷の原因は、謝罪時に地面と頭が何度もぶつかったからだ。頬は自分への戒めである。

そんな俺のことなんてどうでもいいのだ。とにかく、今はわざわざ他のトレーナーに自分の状態を見せてくれていることに感謝しなくては。

 

「じゃあ、次はスパート!」

「はい!」

 

汗を置き去りにし、芝を抉りながら力強くスカーレットがターフを駆ける。長いツインテールが真っすぐにすら見えるほど(なび)き、あっという間に自分の所へ戻って来た。

 

「はぁ……はぁ……。ど、どうですか? アタシの走り!」

「……うん」

 

凄い、以外の言葉が出てこない。まだデビューしたばかりにしては、身体がしっかりしているのが大きいのだろうか。ウマ娘の本格化は客観的にもわかりにくい。まだ出来上がってないうちに、能力が先走って成長してしまう子も中には居る。

だが、彼女の場合は本格化の時期も成長期もピッタシだったのだろう。既にクラシックを走ってきたかのような貫禄すらある。

 

「これ以上、何を求めるのか。俺には全然わからないな。先を見据えれば、キミは本当に凄いウマ娘になると思うけど」

「……それは……」

「……ところで、一つ気になったんだけどさ」

「はい」

「足……怪我してる?」

 

彼女のことを詳しく知っているわけではないが。流して走っている時と比べて、スパート時の姿勢がやや不安定だった。強く力を込めると、どこかに負担がかかり、痛みとなって表れている……ように見えたのだが。

 

「いえ。痛くはないんです」

「痛く『は?』」

「走ってからクールダウンすれば問題ないですし。お医者さんにも、特に病気とか怪我って言われてもいません」

 

ただ、それでもトレーニングを重ねたりすると違和感があるらしい。まだ何も起こっていないが、それが重大な問題にならないという保証もない。持病みたいなもんだろうか。炎症を起こしやすい体質の子っているしな。

 

「なるほどね。それで、か」

「……そうです」

 

聞けば、スカーレットは『うまぴょい』のことをちゃんと勉強してきたらしい。いや、ちゃんと勉強すなって言いたいけれど。

最初は、知識について絶対な信頼を置いているアグネスタキオンを訊ねたそうだが、今までにないくらい拒絶と否定をされたんだとか。何回頼み込んでも暖簾に腕押しだったので、最終的にテイオーから教えてもらったそうだ。

 

とにかく、彼女の場合は多分『欠点の克服』なんだな。この脚部不安を取り去りたいのだろう。出来るかどうかは知らないが。テイオーのように、既に骨折した子に対してはとてもじゃないが『うまぴょい』は出来ない。ただ、それに対する免疫を獲得することならば可能なのかもしれない……と、現在は怪我の様子もなく元気に走ってるテイオーを見てて思った。

 

「……でも、少しだけ考えちゃうことはあるんです。これって、『ズルい』のかなぁって」

 

トレーナー側でなく、ウマ娘側も同じように思うことがあるんだな。

その悩みなら、俺はクリークに諭してもらった。むやみやたらにすることは、倫理的にダメだと思うけど。俺自身がしっかり割り切って、ウマ娘もそれを許諾すれば問題ないと判断してる。

まあ、理事長達にバレたら怒られる気もするが……。その時はその時だ。

 

「好井さん、やっぱアタシだけ『うまぴょい』するのってダメですか? 1番になりたい、って目標のためとはいえ……卑怯って思われたりしない……かな」

 

ただ闇雲に求めてるだけなら、俺にも考えはあったが。

泣きそうな顔で、己の行いに迷い、苦しむような子が。こんな素直な子が、間違いなわけがない。

 

「その辺りは心配しなくていいよ。スカーレットは、強くなりたくないの?」

「そんなわけない! アタシは、2番なんかじゃない。ずっとずっと、これからも1番になりたい! アイツにだって……絶対負けたくない……!」

「……ありがとう。わかったよ。じゃあ、もう少しだけ走りを見てもいいかな」

「……! はい!」

 

嬉しそうな顔で、再びスカーレットが駆けていく。その一生懸命な眼差しと、思いの強さに心を打たれる。ああ、惹かれないわけないよな。担当のトレーナーさんが、少し羨ましい。……とと、何言ってんだか。俺には大事な子らが居るのに。

 

一通り、スカーレットの能力と性格を見せてもらい、無理のない程度で終了とした。

 

「……あの」

「ん?」

 

その帰りのこと。スカーレットは、少し照れくさそうに切り出した。

 

「今日はありがとうございました。指導までしてもらっちゃって……」

「いやいや。余計なことだった気もするから。ちゃんとキミのトレーナーに報告しておいてね」

「余計だなんて、そんな。とってもわかりやすかったです」

 

今日は本来、スカーレットが俺に色々と自身の魅力を披露する日だったはずなのに。ついつい、トレーナー魂に火がついてしまい、結局普通にトレーニングを見ただけになってしまった。それでも、充分に収穫はあった。ウオッカとどう違うのか、どう考えているのか。たまに見せるツンとした態度はあまり見られなかったけど、根底にあるものがわかっただけで、良い。

 

「……それで、どうですか? ウオッカより、アタシを選びたくなりました?」

「それは……まだ秘密かなぁ」

「えー!? 良いじゃないですか、どうせアイツ。ロクなことしないですから。さっさとアタシに決めちゃいましょうよ!」

「おいおい、勝負もせずに勝ったつもりは良くないぞ。ちゃんとウオッカとの査定も済んでからな」

「はーい」

 

八重歯を見せながら、にっこり笑うスカーレット。この顔を見ることが出来ただけでも、今日付き合ったかいはあったな。

 

 

 

 

「で、どうだった。スカーレットは」

 

また別の日。

トレーナー室で、ウオッカが制服姿のままソファーに腰をかけた状態で聞いてきた。

 

「それは言えないな~」

「なにぃ~? ちょっとぐらい良いじゃねーか!」

「はは。ウオッカと居る時と、結構違って驚いたよ。割と素直な子なんだな」

「は? スカーレットが素直? ソーマぁ、お前流石にそれは見る目なさすぎだろ」

 

そう言われても、事実なんだから仕方ないだろう。話はちゃんと聞くし、考えも述べてくれるし。走りも魅力的だった。

 

「ふぅん……。トレーナーと居た時も、そんなんじゃなかったんだけどな……。なんだ? 点数目当てで、良い子ちゃん演じてたのか……?」

「そういう風にも見えなかったけどなぁ」

「……ま、いいや。スカーレットはスカーレットだし。今日は俺の番だしな」

「おう、期待してるぞ」

 

へへっと鼻の下を擦るウオッカ。そして足の反動を使って立ち上がると、拳を握りしめながら目に力を込めつつ言う。

 

「俺といえば、行くところは一つだろ。行こうぜ!」

 

大げさなハンドジェスチャーと共に、トレーナー室から出るように促される。

歩きながら、俺は交流は合ってもプライベートで遊んだりした経験がないゆえ『ウオッカといえば』に一ミリも心当たりもないまま付いていくこととなったのだった。

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