ヒトがウマ娘に敵うわけがない   作:背水 陣

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うまぴょい伝説
第二十話「震撼、グランプリレースを制するのは誰だ!?」


ニジノーカナターヘ-ユコオー♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「……」

 

日は落ち、気温は低く。薄手のシャツでは肌寒い11月の夜のこと。暗くなる時間が早まり、人気の少ないグラウンドで俺とスマートファルコン、エイシンフラッシュは硬い表情で立っていた。

夜間用のライトで点々と照らされるターフに、練習用のコースに、ダート界の女王がゆっくりと歩いていく。俺達の緊張が伝わったのだろうか、元々走っている者がほぼいない芝から最後のウマ娘が、逃げるように去っていく。これで、本当に俺達だけになった。

 

「ファルコンさん、準備はよろしいでしょうか。」

「……すぅ……。……ふぅ。……うん。いいよ、大丈夫」

「距離やタイムは気にしなくていいから。まずは、好きなように走ってごらん」

「わかった。」

 

ジャージの裾を一度ピンと張り、乱れそうな呼吸を深く意識的に行うことで心を落ち着ける。難しい技術や、レース展開のことは後回し。とにかく、今。彼女がしたいことを、させてあげよう。

 

「では……。はじめ!」

「ッ!」

 

フラッシュの凛とした声による合図をもって、スマートファルコンが走り出した。

 

デビュー前のこと。スマートファルコンはしばらく、選抜レースにおいても芝をメインで走っていた。平行して実施していた、ウマドル活動で良くも悪くも注目を浴びていた彼女を、当然見に来るトレーナーもそれなりに居たらしい。

だけど、誰もがみな同じ感想とため息をついて、別の娘へと視線をやってしまう。それもそうだ。逃げウマ娘なのに、いつも中盤には先行策の子に抜かされてしまう。掛かっているようにも見えるから、気性難を疑われることも多々あったそうな。

 

もちろん、ありとあらゆる適性を見極める段階において、学園所属の教官がその欠点と利点に気付かないわけがない。ファル子は、ダートが得意なのだから。適正に合ったレースに挑むよう薦めるのが、名門でなくても妥当な指導だろう。

 

しかし、スマートファルコンはわかってても、芝にこだわり続けた。大井のレース場と東京レース場では、箱の大きさも注目度も何もかも違う。誰より輝いてキラキラしたいのならば、芝を選ぶのが夢を叶えるには必須だと、こだわっていた。

 

それから、色んなことがあった。ダートなんか、と勝手に諦めていた自分を見つめ直し、ダートであってもトップになれるように、人々を魅了すれば良い。願いを誓いに変えたことで成績は伸びてゆき、ダートを担当に持っていない俺の耳にすら、とてつもなく速く、強く、素敵なウマ娘が居ると聞き及んだほどになった。

 

 

(……ごめんな)

 

だからこそ、俺は一人。心の中で謝罪する。

流れだけを見るのであれば、綺麗なサクセスストーリーだ。適正に恵まれなかった子が、正しい場所に移った途端に注目され、成功したという内容なのだから。

 

だけど、上辺だけを見ているのではない。そこまでの葛藤や悩み、苦しみを考慮すると……もし、仮に俺が『うまぴょい』をもっと先に知っていれば、傷ついたりすることもなかったかもしれないのだ。

見えない古傷と涙の痕に対し、俺はどうしても謝ってあげたかった。過去のスマートファルコンのことを思うと胸が一杯になる。

 

だけど。

 

その時の彼女が見たら、どう思うかはわからないけど……。

 

 

「はっ……はっ……!」

 

 

コースを一周終えて、息の上がったスマートファルコンが呆然と立ち尽くす。

俺も、フラッシュも、手に持っていた参考記録用のストップウォッチはほとんど同じ時計を示していた。それは、ファル子がダートで同距離を走った場合とほぼ同じ……いや、むしろ良い時間だ。

 

「ファルコンさん。」

「……フラッシュさん……。……好井さん……」

 

ふらふらと頭の整理が追い付いていないファル子が、こちらに歩み寄る。呼吸で弾むだけじゃない肩のまま、力なくフラッシュの胸へと倒れこんだ。

 

「………………ぐすっ」

「いけませんよ、ファルコンさん。ウマドルたるもの、人前で涙を見せては。」

「……で……っ……でも……ッ!」

「ファル子。今日、ここで。泣くのは最後にしよう。みんなにはキミの、最高の笑顔を届けるんだろ?」

「………………うん。だね!」

 

袖で目元を拭ったスマートファルコン。鼻を一度だけすすると、今までと同じような。キラキラした瞳で、夜空を力強く見上げた。

 

 

それから。

俺達はただただ、計画に向けて走り出した。

新しい曲作りのための振付、歌詞、楽曲。それから当然、有記念へ向けたウイニングライブも習得しなくてはならない。テイオーやネイチャは全く問題ないが、そもそもスマートファルコンは芝レースのライブの練習を行っていないはずだから。

 

「え? ううん、大丈夫だよ。ファル子、全部覚えてるから!」

「マジ?」

 

涼しい顔で返事をするウマドルに、実際に踊りと歌を披露するように依頼した。スマホから流れる曲に合わせて、ファル子は乱れなくステップを踏んでいく。1着であろうと、バックダンサーであろうと。全ての動きを感知しつつ、彼女なりのアレンジも加わった素晴らしい出来だった。

ウマドル活動を重きに置いている彼女を、どうやら俺は甘く見過ぎていたらしい。これなら、新曲もきっと良い物が仕上がるだろう。

 

程なくして、ファル子がやけに上機嫌でトレーナー室を訪れた。手に持ったスマートフォンを嬉々として俺へと見せてくる。

 

 

「見てみて~♪ 歌詞、できたよ~~☆」

「おぉ! 遂にか! どれどれ……」

 

 

 

……。

 

 

確かに。

俺はある程度、『こんな感じで』と注文は出しておいた。明るく元気で、楽しい感じにしたい。そんなざっくりとした、ふわっとした難題をスマートファルコンは、とてつもない方向で表現をしてきたのだ。

良し悪し云々の感想を告げる前に、自然と漏れた疑問を口に出す。

 

「……い、一応……コンセプトを聞いても?」

 

正直に言えば電波すぎる歌詞に、俺は圧倒されてしまった。ここに楽曲を乗せるなら、相応の力がないと負けてしまうだろう。方向性だけでも確認しなくては。

 

「ウマ娘たちのレースへの思いと、ファル子がトレセン学園で感じた楽しさを表現してみたの。色んな人がいて、辛いことも楽しいことも、たっくさん経験してるでしょ? ファル子は、この歌にその全てを込めたの!」

「なるほどな……」

 

使われる『うまぴょい』や『うまだっち』などの単語を、直接的に使いつつも周りのパワーワードでマイルドに仕上げる手法。なにより、ウイニングライブで使う以上はやはり何かしらレースに関係しなくてはならない。

育ててくれたトレーナー、それに応えたウマ娘。双方の視点から見える世界。加えて、意味もないような学校生活の些細なやりとりを綴ることで、等身大の彼女たちが見えてくる。

 

反芻すればするほど、よく出来た歌詞だと思う。うん。きっと。

少なくとも、俺では絶対に到達できない領域だ。やはり、彼女を選んだ俺の目に狂いはなかったのだろう。

 

「……。」

「ん? フラッシュ、何か?」

 

俺の横で、スマホの画面を眺めていたフラッシュが、何やらもの言いたげな顔をしている。

 

「おそらくサビの前の部分でしょうが……。『きみの担当』という言葉が、どうにも引っかかってしまいまして。やや一方的な……すみません、言語化が難しくて。」

「え~? そうかなぁ? 変~?」

「いいえ。このままでも、とても良いと思います。ですが……ここは『愛』という表現を使ってみてはどうでしょうか?」

「あい……ば?」

 

聞いたこともない単語に首を傾げるファル子。俺は当然存じているが、フラッシュが言いたげだったので譲ることにした。

 

「いわゆる『相棒』の意味にあたります。今はもうほとんど廃れた言葉ですが……せっかくなので、トレセン学園や、我々ウマ娘の歴史も加味して、あえて使用してみてはいかがでしょう? 温故知新を貴ぶ意味も込めて。」

「……『きみの愛が』で、サビに入るわけだね。うん! なんだかとってもいい響き! それでいこっか! いいよね、好井さん?」

「ああ、もちろんだ。奥ゆかしさが増していいね。……ただな、ファル子。一応、『愛』という単語は中等部で習う言葉だぞ?」

「えっ? あ、あっれ~? そうだったかな~? ファル子、難しい言葉は忘れちゃいがちで……」

「決して使用頻度の低い言葉ではありませんよ。」

「可愛く舌ペロして、誤魔化しちゃダメだぞ」

「うぅ~! もう! そういうのはナシナシ! みんなで楽しく作ろうよ~~!」

「まったく。ファルコンさんたら。」

 

 

冗談めかして笑いあい、和やかな空気が流れる。ファル子の言う通り、楽しいことをやっているのだからこれぐらいの雰囲気でやればいい。

 

 

……と思っていたのだが。

 

 

 

(想定より、ノリが……悪い気がする……?)

 

自室に戻り、スマートファルコンの書いてくれた唄に楽曲を合わせてみる。その道のプロではないけれど、トレーナーの教育課程で履修した知識が活かされる日が来るとは思わなかった。

メロディについては、ある程度の形は出来ている。テイオーと踊る際に、既に原型はあったから。今やっているのはそれらを組み合わせて、成形をする編曲の作業。

流して聞いてみたのだが……。俺の心に、何も残らなかったのだ。明るく楽しい、普通の曲。完成度としては悪くないかもしれないが……数度聞けば、興味が失せてしまうような、凡庸なキャッチーソング。

 

これでは、届かない。

ウマ娘が作り出す曲を、十全に伝えるにはイマイチ衝撃度が低く思える。もっと、脳みそを揺さぶるような感じにしなくては、そもそもの大前提『うまぴょいをポップなものにする』という目的が果たせなくなってしまうのだ。

 

 

(……やっぱ、まともな思考じゃいけねえよな)

 

徐に立ち上がると、俺は部屋の隅に置いたワインセラーの所へ向かった。

後輩、安心沢の同期……チーム《アルタイル》のトレーナーちゃんが、飲みきれないからと贈呈してくれた、何だか高いらしいワインが2本そこに入っている。最初は桐箱に入ってたからかなりのお値段が予想できたのに加え、そもそも下戸だからあまり酒が飲めない、と一度断ったのだけれど。

良い物は、そこまで悪酔いしないから是非! と押し付けられるような形で頂いてしまったのだ。すぐには手を出せないだろうから冷蔵庫に……と言いかけたら、なんとこんな小型ワインセラーまで貸してくれた。実家がとんでもなく裕福というのは聞いているが、人当たりの良さや行動力などは、俺の同期 桐生院さんを彷彿とさせる。常人には出来ないことをさらっとやるのに、嫌味や嫉妬を感じさせない天稟だ。

 

俺が普通に生きている上では絶対お目にかかれない逸品。価値がいまいちわからないのが申し訳ないけど……。

とにかく! 今の足りないものを、こいつが授けてくれるはずだ。

 

ワイングラスも栓抜きもまともなのが無い中、慣れない仕草で、どうにか準備は出来た。

 

一応、匂いを嗅いでみる。深い葡萄の香りが鼻腔を突き抜けて、脳天を刺激してきた。

これ、ただのジュースなのでは……? 訝しんだまま口に含むと、舌に触れるざらざらした感触と、苦味がアルコール飲料であることを理解させてくる。

美味しいとは思うけれど、比較対象が余りに少なくてわからない。けど、こういうものは高いと理解しているからこそ、意味を持つってこともあるんだ。

 

「よっしゃ!」

 

お酒のたくさん飲める人では考えられないらしいが、俺は度数が低くても少量の酒が入れば一気に覚醒状態に入る。ふわっとしたような、高揚する感覚だ。その分限界値も低いので、多く摂取は出来ないけれど……。これなら、きっといける!

スマートファルコンの考えてくれた歌詞を、テイオーが悩んで編み出した振り付けを、二人と俺と、手助けしてくれたルドルフ達が乗せてきた曲を。

もう一段階、『狂気』という形で再編成する!

 

 

 

ちびちびとグラスに注ぐのが面倒になり。

いつの間にか、瓶ごと口で飲みながら。

暖房すらも暑く感じた俺は、パンツ一枚になりながらイヤホン越しの爆音で振り付けを踊りながら作曲に勤しんだ。

 

まだだ。ここが弱い。ここが足りない。まだ……まだ!

 

ウマ娘達が限界のその先を求めて走るように、俺も俺自身に課せられた『うまぴょいの天才』という使命を果たすべく、激しく踊り、歌い、一つの世界を作っていく。

 

 

 

 

「……どうかな、ルドルフ?」

 

 

ワイン2本を空にし、天地の逆巻く世界で仕上げた新曲を、俺はとうとうシンボリルドルフ達にお披露目した。もちろん、仕上げの工程については秘密にしてあるが。

 

雰囲気を作るために薄暗くしたトレーナー室で、歌い踊り終えて息の上がったネイチャ、フラッシュ、ファルコンを後ろに、問うてみる。

厳しい顔をしていたトレセン学園の生徒側最高権力者は、腕を組んだままの姿勢でじっと見ていたが。途中からその硬さは緩み、優しく微笑んでいた。

それは、曲のもたらす『うまぴょい』の効果なのか。それとも、的外れな質問が来たことによる嘲笑なのか。不安に思いながら、固唾を飲んで待っていると。

 

「……ありがとう、好井くん。英華発外とはまさに、このことだな」

 

小さな拍手を貰った俺は、力が抜けて倒れそうになった。すぐさま控えていたクリークが優しく肩を抱いてくれたおかげで、転倒は避けられる。

 

「一見、荒唐無稽に思える曲ではあるが……それが、逆に『うまぴょい』のセンシティブさを緩和させている。よくここまでのものに仕上げたと、ただひたすらに感心するよ」

「しかし会長、本当によろしいのですか? こんな……」

「問題があるように見えるか?」

「以前仰っていたように、理屈はわかります。知らない人にとって『うまぴょい』は、特段気にするものではないと。ですがやはり、我々ウマ娘側からすれば……刺激的に映るのは間違いありません」

「ブライアンはどう思った? 何か感じたか?」

「……別に、どうとも。確かに少々気は昂るが、然程(さほど)何かを得たようには思えんな」

 

同席していたエアグルーヴとナリタブライアン達の感想が飛び交う。それぞれの思ったことを元に、俺は答えを述べた。

 

「影響が少ないのは、ブライアンが既に高い能力を持っているからだよ。あと、いきなりドンと上がるわけじゃないんだ。そういう『うまぴょい』は、今のトレセン学園じゃ俺しかできない」

 

それでは不公平だ。なにより、俺は今いるからいいけれど。人間なので、年も食う。身体的に、数年後には引退ってことはありえないが……例えば事故や急病の可能性で現役降板もありえる。

 

『うまぴょい』を知る残された子達は、さぞガッカリするだろう。行為さえすれば、もっと上を目指せるのにと惜しむに違いない。

 

だからこそ、俺は形に残るものとして。俺が居なくたって、未来永劫どんなウマ娘も可能性を信じられる『うまぴょい』を作ったんだ。

たくさん回数を重ねる……つまり、ライブの練習をすればするだけ基礎能力や適性の底上げが可能になるわけだ。

 

「……好井くんが、ここまで考えてくれているのに、まだ納得できないか。エアグルーヴ」

「……」

 

絶対の信頼をおける生徒会長が推してくれているのに、隣の生徒代表でもある女帝は何か悩んでいる。目先のことだけじゃない、この『うまぴょい』を世に出すことでどこまで影響があるのか、考えてくれているんだろう。そもそも、学校側やURA側が許してくれるのかどうか、先の先まで悩んでいるに違いない。

 

 

でも、それは杞憂だ。

 

 

「驚愕! 素晴らしいものを見せてもらったぞ、好井トレーナー!」

 

扉の方から、秋川理事長の声がした。『称賛』の文字の入ったセンスを懐にしまってから、つかつかと俺たちの間に割って入ってくる。開きっぱなしになった戸を、遅れてたづなさんが閉めてくれた。

 

「ルドルフから兼ねてより聞いてはいたが、ようやく披露できるまでに至ったのだな!」

「はい。時間はかかりましたが、なんとか」

「うむッ! 君のたゆまぬ努力を、私は高く評価するぞ!」

 

様々なサポートを受けて、今こうして俺は理事長達にも見てもらう許可を得た。

ルドルフの口添えに始まり、俺自身の意見交換、更には俺の先輩からも直々に説明や呼びかけをしてもらったのだ。

最初は、一蹴されたアイデアだったが……それは、実現が不可能だと思われていただけのこと。効果を証明し、『出来る』という現実感が増してきたことで、ようやく首を縦に振ってもらったのだ。

とまあ、簡単に言っているけれど。至るまでの工程は結構厳しかった。そもそも、最初は『やるな』と釘刺されたことから始まった物語なのだ。普通に怒られて、処罰を受けて、なんてことない日々を送る未来だってあり得た。

それでも、こうして日の光を浴びる段階まで持ってこれたのは、本当に周りに恵まれたからだ。有難いことこの上ない。理事長が話せばわかる人で良かったよ。

 

「嬉々ッ! これで全てのウマ娘が救済されるというもの! 我々、トレセン学園にとってもこの上ない事例だ! URA側にも、許諾が得られるよう掛け合ってみよう!」

「ありがとうございます!」

 

勝手に話を進められて、我関せずのブライアンはさておき……エアグルーヴは硬い表情のままだった。しかし、こちらに聞こえない声量でルドルフが優しく諭していた。何度か問答を重ねた末、大きなため息が耳に届き、肯定のジェスチャーが入った。

 

……これはまさに、皇帝による肯定を促す行程……。

 

「好井くん……今なにか?」

「なんでもない!」

 

口に漏らしていたらヤバかったかもしれない。やけにキラキラしたルドルフの表情を見て、流れが変わりそうなのを慌てて整える。

思った通り、秋川理事長は上機嫌な顔つきを切り替えて、俺に向かって疑問をぶつけてきた。

 

「しかしッ! 好井トレーナー、これはいつどこで披露するつもりなのだ? 有記念には間に合わないだろう?」

「ええ、流石にそれは。ですが……今年は『URAファイナルズ』がありますよね?」

 

『URAファイナルズ』とは、秋川理事長が提案した、トゥインクル・シリーズにて良い成績を収めたウマ娘のみ出場できる年度末最大のレース。シニアクラス以上限定な上、芝の状態やレース場のことも含めて毎年開催は出来ないらしいが……幸運なことに、今年は開かれる。

ファイナルズ決勝用のライブ曲は『ユメヲカケル!』が指定されているが……俺は、そこにこの新曲を当てたいと考えているのだ。

 

「納得ッ! まさに夢の舞台に相応しいな!」

 

……たづなさんから、最初に理事長の反応を聞いた時は、実現不可能な夢だと思った。

ウマ娘のことを考えてくれているのは良いけれど、流石に度が過ぎていると呆れられたから。だけど、ちょっとずつ俺の……いいや、みんなの成績が上がってきていることを認めてくれて。俺自身が学園を去るような事態にならなそうなことも、ちゃんとわかってくれた。今みたいに、嬉しそうに笑ってこの議題を話してくれる日が来るなんて思ってもみなかった。

 

「だがッ! 好井トレーナー! 君は本当に問題ないのだな!? 『うまぴょい』を公表する時期を考えるのであれば、それは」

「問題ありません。俺なら、出来ます」

 

だから、期待だけは裏切りたくない。食い気味に、質問の意図を受け取った俺は迷いなく首肯した。言葉に意志と決意を。まるでウマ娘達が、大事なレースに挑むときのような熱い想いを。俺も負けないくらい、力強く込めて言う。

 

「……許諾! ならば、何も言うまい! 任せたぞ、好井ソウマ!」

「はい!」

 

 

後にはもう引けない。全ての話が通ったのならば、俺は俺で夢への道を手繰るだけ。

 

 

 

 

「今回、有記念へ出走との情報を得た時は、何かの間違いかと疑いました。スマートファルコンさん、本当にこの芝の大舞台を走るつもりなのでしょうか?」

 

たくさんの記者に囲まれ、フラッシュライトを浴びながらマイクを持つウマ娘へ、誰もが懐疑的に思った質問を投げかける。今日は、有記念に出走するウマ娘たちのインタビューが行われる日だ。

両隣に俺と桐生院さんを同伴させた人気投票7位の、ダート界の女王 スマートファルコンは堂々とした様相で答える。

 

「はい。冷やかしでも、遊びでもありません。私は、勝つつもりで出走します」

 

答えを聞くと、会場がどよめく。登録を出してから、皆思っていたのだろう。適正も伴っていない彼女が、何故出るのかと。出走条件だけなら満たしてはいる。だけど、誰もが本来は東京大賞典の連覇を狙っていると考えてたはずだ。

 

「失礼ながら、スマートファルコンさんは過去の芝レースにおいて十分に力が発揮できず、ダートへ移ったと認知しております。今回になって、有記念へ出走するに至った、経緯を伺いたいです」

「それについては、現在所属を預かっている私から」

 

記者の質問に、ファル子が俺に丸い瞳を向けてきたので代弁する。

視線が一気にこちらへ向けられ やや緊張するが、これぐらいで物怖じしてちゃいけない。去年のテイオー復帰時会見に比べれば、大したことないさ。咳ばらいをして喉をクリアにしてから、粛々と伝える。

 

「桐生院トレーナーより、期間限定で彼女を指導させて頂いております、好井ソウマです。此度の出走は、彼女が芝レースに出たいという(かね)てより……失礼。かつての夢を、実現に成しえると判断できたため、登録させていただきました」

「ですが、本来のバ場適正と合っていないウマ娘が急に別のバ場で走ることは、非常に困難かと思われます。その問題は解決出来ているのでしょうか?」

「はい、出来ております」

 

即答する俺に、会場が騒めく。

 

「他のウマ娘に余計な刺激を与えぬよう、今はトレーニングを秘匿させて頂いておりますが。間違いなく、今の彼女は芝のレースを十分に勝ちうる力を持っております」

 

変におどおどしてはいけないと思って、ちょっと気張りすぎただろうか。気圧されたような様子で、記者が及び腰で尋ねた。

 

「それは、一体どのようなトレーニングでしょうか?」

「……申し訳ありませんが。スマートファルコンが、有記念で勝利した際にそれはお答えしたいと思っております。言葉だけでなく、実績として証明したいので」

 

まだ発表には早いので、一応ぼかしておこう。しかしメディア側は気になるのは当然だし、俺が逆に観客側なら同様に思うだろう。勿体つけずに話せ、と。

 

「期間限定と聞こえは良いですが、これは特別移籍と何か違いはあるのでしょうか。芝のグランプリレースで勝利を得たなら、スマートファルコンさんも、あなたの専属を希望すると思いますが」

「それは違うよ! ファル子のトレーナーは、葵ちゃん一人だけ! 約束したんだから!」

「ファル子……」

 

俺が言うより先に、ファル子が口を挟んでいた。いつもの口調で答えてしまったことを謝罪する彼女の肩を桐生院さんが優しく抱く。微笑ましい二人を見てから、俺も俺で言うべきことは伝える。

 

「歯がゆい思いをさせてしまい申し訳ないのですが……これはウマ娘全体に関わる新しい取り組みでもあります。ですが、必ず良い方向へ向かうと信じて、我々も走っております。年末には結果が出ますので、それまではどうか。見守って頂けると有難いです」

「よろしくお願いします」

 

深々と桐生院さんと揃って礼をすると、それ以上記者たちも深くは追及してこなかった。

 

次にインタビューを控えているのがテイオーとマックイーンだったから、こんな意味不明な取材はさっさと切り上げたかったに違いない。

 

二度目のTM対決について、二人は強く意気込みを語る。

 

「前は負けちゃったけど、今度こそはボクが勝つから! 地の果てまで駆け抜けちゃうよ!」

「以前と同様、天まで昇る(わたくし)の走りで先頭は譲りません」

 

並び立つ二人は、お互いに向き合い言った。

 

「勝つのはボクだからね(わたくしです)!!」

 

 

 

意気込みも十分、客の熱も十分。

最高の舞台で、最大のレースを。

 

『うまぴょい』で全て塗り替える。

 

 

さあ、年末の中山レース場。大地すら震える大観衆の中、制覇するのは誰になるのか。

 

俺の中で、答えは決まっているけどな。

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