ヒトがウマ娘に敵うわけがない   作:背水 陣

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※第二十話ぐらいの時間軸です。


おまけ
『振り付け』


「……はぁ」

 

「ん~……こっちかな?」

「なるほど。では、ナイトでビショップを取り、チェックです。」

「えぇ!? あ、待った待った! ちょっと待って、フラッシュ!」

「チェスに『待った』のルールはありませんよ、テイオーさん。」

 

「……うぅ~ん……」

 

 

「初心者なんだから、良いでしょ~~? ねえ?」

「……一度だけですからね。」

「わーい♪ そんじゃ、やっぱポーンをこっちに動かして……と」

 

「……んん~~~……」

 

「確かに、先ほどに比べれば良い手です。ですが……クイーンの通り道を作ってしまいましたね。チェックメイトです。」

「えっ、えっ? ……うわ、ホントだ! 待って待って!!」

「『待て』は一度きり、と先ほど言いましたよね?」

「うぅ~……。あ! ここでルークとキャスリングすれば逃げられるじゃん! 危なかった~」

「いえ、テイオーさん。チェックされているキングはキャスリング出来ませんよ。反則です。」

 

「……違うなぁ……」

 

「うっそー!? じゃ、じゃあここにクイーンが入らないように、ナイトを動かせば……」

「いえ。その場合においても……私のビショップが、7fに入り込めばテイオーさんは次の手でポーンを動かさざるを得なくなるので、チェックメイトですね」

「……うわーん! もっと手加減してよぉ、フラッシュ~~!!」

 

「……いや、もっとこう……」

 

「ルドルフ会長とチェスで勝負が出来るように、とお願いしてきたのはテイオーさんでしょう? 手を抜いてしまえば、練習の意味がなくなります。」

「だからってさぁ。こんな圧倒的にしなくってもぉ~~!」

「そもそも、無理にポーンをプロモーションしようとするのがいけません。自陣が隙間だらけになっているじゃないですか。」

「だってぇ~~。なんかカッコいいじゃん?」

「その為にクイーンを犠牲にしては、意味がありませんよ。もう少し戦略を練りましょう。」

 

「違うか……あ~、どうすっかなぁ」

 

「もー、トレーナー! さっきからうるさいんだけど! 集中できなくて負けちゃったじゃん!」

「集中力を外環境のせいにしてはいけません。周りが気にならなくなるほど、心を盤面に落とし込んでから一人前です。」

「フラッシュも真面目に返さないでいいから!」

 

「あぁ。悪い悪い……と、言いたいが。そもそも、トレーナー室で遊ぶなよ。俺の仕事部屋なんだぞ?」

「いいじゃん。昼休みなんだしさ」

「ところで、先ほどから何を唸ってらっしゃるのですか?」

 

「うん。いや、『うまぴょい伝説』の振付でさ。どーにも、納得いかない所があってね」

「なになに? ボクとファル子のかんっぺきな振り付けに、文句があるっていうわけ?」

「いや、お前とファル子は確かにいい仕事をしてくれたよ。……でも、なんかこう……なんだろう。もう一つ、高見を目指せる部分があると思って」

「どこのこと?」

「ここ」

 

「…………投げキスの動作ですか?」

「そうそう。よくわかんないけど、軽い感じがしてさ」

「投げキッスなんだし、軽くていいんじゃない?」

「でも、こうだぞ、こう」

「……トレーナー、成人男性の迫真投げキッスほど、(おぞ)ましいものは無いって知ってる?」

「失礼な! そんなことわかっとるわ!!」

 

「……いえ、トレーナーさん。もう少し角度に拘れば、何か見えてくるかもしれません。もう一度お願いします。」

「え? ……はい。」

「そんな適当にしないでください。先ほどのように、心を込めて!」

「えぇ……。 わ、わかったよ。…………どうだ!?」

「試行回数が多ければ多いほど、データはより正確さを増します。もう一度、私の前に立って全身を使ってみてください。」

 

「フラッシュ……。それ、トレーナーに投げキッスして欲しいだけでしょ?」

「そ、そんなわけありません!!」

「ちょー動揺してるじゃん……」

 

「……うぅん。根本的な部分がおかしいのかな。歌詞と曲の勢いに対して、片手でチュッ、とやる感じなのがダメなんだろうか……」

「特別、おかしな所作には思えませんが……。確かに、インパクトの面においては物足りなさを感じますね。」

「…………あ。そうだ。トレーナー、それならいい資料があるよ」

「え? マジ? どこに?」

「タブレット貸して。…………んーとね……去年の有記念は……と。あ、あった。ほら、ここ」

 

「……おぉ! これは! これだよ、俺の求めていた投げキッス!」

「トレーナー、一応言っておくけど割と危ない発言してるからね?」

「確かに、この勢いと情熱……先ほどまでの振付と比べれば格段に、気持ちが籠っているのが伝わります。」

「だよな! よし、これだ! 二人とも、一回やってみよう! 切り抜きして、何度も見直して研究するぞ!」

「え~? 午後のトレーニング、もうすぐだよぉ?」

「大事なことなんだから、いいんだよ! なあ、フラッシュ!」

「そうですね。では、一度トレーナーさんが、我々……いえ、私に向かってお手本を見せて頂ければ、午後のリスケジュールが容易にできるかと。」

「さっきからフラッシュ、ズルいよ!?」

「任せとけ! 俺が出来なきゃ、指導も出来ないからな! よっしゃ、机どかしてどかして!」

「あー、トレーナーも変なスイッチ入っちゃったしぃ……。まあ、いいけどぉ……」

「さあ、トレーナーさん。まずは私に向かって、どうぞ。」

「フラッシュ!!」

 

 

 

 

・・・。

 

 

 

 

ガラッ

 

「……ありゃ、こんなところにいた。もうとっくに練習時間なのに、誰もコースに居ないから探してたんだけど……」

「おぉ、ネイチャ。……あ、悪い! LANEに連絡入れるの忘れてた!」

「やっほー、ネイチャ」

「すみません。私もつい夢中になってしまい……グループLANEに一言添えておくべきでした。申し訳ありません、ネイチャさん。」

「いや、まあ別に良いんだけど……何してたの、みんなして?」

「ああ、新曲の振付を研究しててさ。もっと良いものに出来ないかって」

「へぇ~。熱心なことで」

「そうだ。本人がいるなら、本人に見せてもらう方が早いじゃん。ネイチャ!」

「は、はい? なんでしょうか?」

「ここの動き、ちょっと再現してみてくれる?」

「えぇ……。ダンスならテイオーやファル子先輩の方が良いんじゃ……」

「まあまあ、とりあえず頼むよ。ほら、これがその映像ね」

「どれどれ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「みぎゃーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

 

 

「……!? なんだ、突然音が消えた……!?」

「ネイチャがトレーナーの耳元で叫ぶから……。ほら、ほら。これで治った?」

「テイオーさん、トレーナーさんを叩いても聴力は復活しないかと思いますが。」

「あ、戻った」

「えぇ……。」

 

「それより、ネイチャ。どうしたんだよ、いったい?」

「ど、どどどどどうしたって、何を言ってらっしゃられます!?」

「とりあえず、落ち着きなよ。ほら、はちみードリンク上げるからさ。ボクの飲みかけだけど」

「いらんわ! な、何てもんを見てるのさ、トレーナーさん!!」

「いや、俺だけじゃなくて皆で見てたんだけど……」

「なおさらだよ!?」

 

「ネイチャさん。あなたが有記念で、華麗に踊った『ユメヲカケル!』のウイニングライブにて、感情の高ぶりのあまり、間奏で手を振るだけで良いところ、つい勢いあまって投げキッスをした映像を参考にしていただけで、そこまで動揺されなくても。」

「めちゃくちゃ具体的な説明どうも!! 言わないでおいてくれると、助かるんですけど!?」

 

「でも、実際にとっても良いんだよコレ……。投げキスって、ちょっとこう……色気も必要だろ? 今までの、ただ投げるだけじゃそれを表現できなかったんだ。でも、ネイチャの投げキスは可愛らしさと可憐さ、少女特有のあどけなさを内包しつつも、受け手をドキッとさせるような艶やかさがあるんだ。だから、とても参考になると思って……」

「……あ……。ちょ……。」

「トレーナー。ネイチャ、顔赤くなりすぎて失神しかけてるよ」

「ここまで嫌味なく褒め称えられるのは才能ですね。」

 

「皆には常に言ってるけれど。俺、この新曲は絶対に成功させたいんだ。俺自身の気持ちだけじゃない、全ウマ娘が笑って走れる未来のために。必ず、楽しいものとして世に送り出したいんだよ。だから、ネイチャ! 頼む! 協力してくれ!」

「いや……でもぉ……」

「一回でいい! ライブ映像だと角度が固定されてるし、ライトが眩しすぎるから限界があるんだ! だから、どうか! 俺に投げキッスしてくれ!」

「ちょ……心の準備とか……その……」

「頼むよぉ、ネイチャ! 俺にだけ、チュウしてくれよ~~!!」

「わかりましたから、詰め寄ってこないでーーーー!!」

 

 

 

 

その後、知らない間に騒ぎになっていたことも知らず。

真顔で詰め寄るソウマの下に、取り締まりを行う権限を持った屈強なウマ娘達が、それはそれは恐ろしい剣幕で駆け付けたそうな。

 

 

 

 

「誓ってセンシティブなことはしてません……。ホントなんです……」

 

トウカイテイオーの賢さが5上がった。

エイシンフラッシュのやる気が上がった。

ナイスネイチャのやる気が下がった。

好井ソウマの評判が10下がった。











その後。



「……は、はい。……どう……だった?」
「ありがとう。凄い良いデータ取れた。助かったよ、ネイチャ」
「それはどうも。……言っとくけど、二度とやらないからね?」
「うん。ごめんな、無理言って」
「…………あのさ、トレーナーさん」
「ん?」
「他に……。何か言うこととか……ない?」
「え?」
「ああ! ごめん、なんでもない! データ取りのためだもんね! うん」
「……うーん。他に……か。難しいな、可愛い以外の感想が出てこないし」
「ふぇ……? い、今……なんて……」
「え? 可愛い、って言ったんだけど……。誰がどうみても、そうだろ?」
「……」
「ネイチャ?」
「……ふふ。ありがと、トレーナーさん!」
「あ、うん。こっちこそ、ありがとう?」



……可愛い……かぁ……。えへへ。



ナイスネイチャのやる気が上がった。
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