第八話「警告、ウチのテイオーが出した『うまぴょい』の条件!」
「じゃあボクの番だね。8切りしてー、5飛び2枚出しでまたボクの番になってー。7渡し して、ハイあがり! イエーイ、いっちばーん!」
「おめでと~。テイオーちゃん!」
「くっ…! なんつー美しいコンボを…!」
「うぇっ……しかも、なんてカード渡すのさ。自分だけあがっておいてぇ~~!」
昼休み、俺達は珍しく4人揃っていたこともあってトランプゲームに興じていた。昨今ではスマホで簡単お手軽に、大概のものは出来るが。こと、大富豪においてはローカルルールを盛り込むので中々完全な電子化が難しい。やれ11バックだの、縛りだの入れ始めるとキリがないからな。
都落ちしたクリークを除き、俺とネイチャの一騎打ちが始まる。結果的に、テイオーから最後に託されたカードが足を引っ張ったせいで、ネイチャはいつも通りの3番目という結末に終わった。わはは。大人を無礼るなよ。
「もっかいやる? ボクは別のゲームでもいいけど」
器用にトランプをシャッフルしながら、鼻を高くしつつ提案するテイオー。
「あ、じゃあアタシ七並べやりたい! そっちなら得意なんだよね」
「やっぱ3を集めるのか?」
「トレーナーさん、ちょっと頭こっちに出してくれます?」
「ひえっ……やめろ! ウマ娘のパワーだと冗談じゃ済まなくなる!」
「じゃあ最初っから言うなー!」
「ふふ。仲良しさんですね、二人とも」
穏やかな空気が流れる、この時間が最近は結構好きだ。春のGⅠも終わり、これから夏に入る。合宿の季節ということもあり、トレーニングが重点的になる時期。スケジュール管理は正直大変だが、調整期間と休養期間を割り振りさえ出来れば、負担の少ない時期でもある。なにより、ウマ娘たち自身が常にレースに向けて張りつめた状態から、ちょっとだけ解放されているように見えるのも大きい。学校も夏休みだしね。俺にはないけど。
「そういえばさ、トレーナー。一つ聞きたいことがあったんだけど」
「おう、なんだ?」
慣れた手つきでカードをシャッフルするテイオーが、思いついたかのように質問をする。平和な空気の中、何を聞いてくるのかと耳を傾けると。
「ネイチャと……あとクリークとも。『うまぴょい』したよね?」
温度計があるなら、絶対零度を叩き出していたと思う。…………あ、室温26度だわ。
やばい、状況が窮地過ぎて変に冷静だ。
何を……何を言い出したんだ。テイオーは。何故、そんなことをこの場であえて尋ねる? みんな居るんだぞ? せめて二人きりの時にすべきじゃないのか?
視線をクリークに移すと、ちょっと困ったような顔で頬に手を当ててる。ネイチャは……あ、ダメだ。顔は赤いし冷や汗垂らしてるし、視線は泳いでる。してません、って言ってもバレるなこりゃ。
しょうがない。ここはひとつ、大人の余裕で窮地を脱するしかないな。
「そ、それが、どどうしたんだぁ??」
笛が鳴ってるかのような高声が出てきて自分でもビビる。痙攣するように振動してる足を、力なく手で押さえながら俺はテイオーへ聞き返した。
「……別に。ボク達のトレーナーなんだし、『うまぴょい』するのは良いけどさ」
バラバラ―ッと両手の間でカードを落としながら、冷淡な声でテイオーは言いつつ。ギロリとこちらを睨みつけながら言い放った。
「担当じゃない子とは、絶対しちゃダメだからね」
「はい」
早押しならば世界記録を出せそうな速度で、俺は返事をした。嘘ではないし、そのつもりだし。別に怯えているんじゃあないぜ? ヒトはウマ娘に勝てないのだ。下手に逆らわないのが得策ってもんよ。ははは……。
「あ~……怖かった」
休み時間も終わり、それぞれが午後のカリキュラムへと散開していくのを見届けてから、俺は胸をなでおろした。テイオーはプールトレーニングで、ネイチャは走り込み。クリークには下半身の加重トレーニングを課してある。それぞれ居場所が違うから、様子見に行くのもちょっと大変だな。けど、夏の間に体力を落とさないためにも今のうちに、スタミナを強化しておきたいのが俺の狙い。うちは長い距離走るウマ娘ばっかりだからな。
天性のステイヤーなクリークは、どちらかと言うとスピードアップが目的になるが。テイオーとネイチャは……まあ、その。『うまぴょい』の効果で、上がった能力を下げないようにするためってところか。
「さて、お昼にするか」
昼の時間は、テイオーがよく訪ねてくるので基本的にトレーナー室から出ない。そのため昼食はいつも、少しずらして摂るようにしていた。仕事も一区切りついていることだし、お腹の虫も鳴ったし。ちょうど良いな。
そう思い、部屋を出て廊下を歩きだした時だった。
「あの。すみません」
「ん?」
背後から声をかけられ振り向く。
そこには、大きなツインテールにティアラが特徴的な栗毛のウマ娘が、姿勢の良い立ち姿でこちらを見ていた。
「やあ。ダイワスカーレット……だったかな」
こんな時間に、こんな場所で。まだデビューもして日が浅い彼女が、俺を訪ねるとは。一体何用だろうか。
「私のこと、ご存じなんですね。嬉しいです! 好井さん……で合ってますよね?」
「ああ、そうだよ。何かな?」
担当もついている子が、わざわざ違うトレーナーの所に来るなんて、なんだろうか。それに、聞き及んだ程度の話だが、彼女はとても優秀らしく、手のかからない優等生らしい。自分でよく考えるし、勉学練習共に手を抜かず、いつも懸命に取り組んでいるんだとか。人当たりもよく、言うなれば学級委員長のような存在なんだとか。サクラバクシンオー、キミはちょっと下がってて。
「はい。あの、先日の宝塚記念凄かったです。ネイチャのあんな嬉しそうな顔、初めて見ました」
「ああ、見ててくれたんだ。ありがとう。と言っても、俺は特別なことなんてしてないけどね」
「え? そうなんですか? でも、ネイチャの担当って、春までは安心沢さんでしたよね。それから好井さんに代わって、まだ数か月なのにGⅠ取ったから、てっきり……」
「はは。だったら、俺じゃなくてネイチャがそれまで頑張ってたからだよ」
知り合いだからか彼女の性格なのか、よくネイチャのことを知っていることに驚きつつも、俺は必死に無垢な瞳から目を逸らす。こんな純粋そうな子に、『うまぴょい』のことなんて話せば俺の中の何かが終わる気がするから。
「どんなトレーニングしていたか、参考に聞いても良いですか?」
「ああ、良いよ。えっと……」
スカーレットがスマホを取り出し、ボイスレコードをオンにしたのを確認してから、覚えている限りの内容を伝えていく。何度も頷きながら聞いてくれているが、徐々にその表情は険しいものへと変わっていった。話も終わらないうちに、録音停止ボタンを押しながらつぶやく。
「……ホントに、普通のトレーニングばかりですね」
「だから言ったろ?」
「…………絶対おかしい。これだけで、あんな末脚が身に付くだなんて思えないし……」
「? スカーレット?」
「好井さん、何か隠してませんか?」
「そんなわけないじゃないか。キミ達ウマ娘のさらなる発展を望むのが俺達トレーナーだ。トレーニングで参考に出来そうなことなら、なんだって話すよ」
「……本当に本当ですか?」
俺の視線の揺らぎに気付かれたんだろうか。ぐいっと詰め寄られ、やや強めの語気で迫られる。うぅ、嘘を吐くのがとことん苦手だなぁ、俺……。
しかし、いくらなんでもまだデビューしたての彼女に、『うまぴょい』は刺激的すぎるだろう。テイオーはまだしも、ネイチャに話すのだって本当は結構な抵抗があった。
それに、あの時と違うのはこの子は担当でもないし、多分きっと『うまぴょい』のことも知らなそうなことだ。それだけは絶対にいけない。とんでもないことになってしまう。体つきは本格化を終えているから、かなりしっかりしているが……まだまだ精神は子どものはずだ。教育者として最低限のラインは守らなくては。
「好井さん? 嘘ついてないですよね?」
「……ホントダヨ」
か細い声で返事をするが、目はまともに合わせられないし、汗は自然と出てくるし。
誰か助けて欲しい。
「あーっ!! おい、スカーレット! 何してんだよ!」
と祈ってると、助け船がやってきた。
廊下に響く大きな声。キマったヘアスタイルのウマ娘のウオッカだ。そういえば、スカーレットと同期だったな。この前、デビューしたって聞いたけど。
「あら、ウオッカ。あんたこそ、何か用かしら?」
「何か用かしら、じゃねーよ! 俺はソーマと話しにきたんだよ!」
「ならおあいにく様。今はアタシと話をしてるんだから。あんたはあっち行ってなさい」
「はぁ~~? そんなルールねえだろ! なあ、ソーマ!」
「まあ……それはそうだけど」
「えっ……好井さん、アタシと話すの嫌だったんですか?」
「そ、そういうわけじゃないよ!」
「じゃあ俺と話してもいいよな。行こうぜ!」
「ちょっと! 勝手に連れて行こうとしないでよ!」
おば~~!! 体が二つに割れるぅう~~! 右と左で引っ張り合わないでくれ! ウマ娘の力でやられると、比喩じゃなくてホントに引きちぎれちまう!
「ふ、二人とも仲が良いんだな……」
「「よくない!!!」」
両耳の鼓膜が割れそうなほど、綺麗なユニゾンだった。
これが大人の女性だったら立派なハーレムなのにな。生徒たちの微笑ましい取り合いじゃ、嬉しいには嬉しいけどもそういう感じには全然なら……あだだだ! 関節取れる! マジで!! 微笑ましいどころか血飛沫が舞うぞ!?
「二人とも、何してんの?」
今度こそ、正しい助け……げえっ! テイオー!? よりによって、今一番来てほしくないキミが!? クリーク……せめてネイチャでも良いから来てくれればよかったのに!
「おっ、テイオーじゃん! ちょうど良かったぜ。オメーに聞くのが早いな」
「きゃっ!?」
「うおっ!?」
突然手を離したせいで、スカーレットが耐え切れずに姿勢を崩し転びそうになる。当たり前だが、俺も掴まれたままだから一緒だ。
瞬間的に全反射神経と運動神経を駆使して、俺はスカーレットを引っ張り上げて立たせた。当然、俺の身体は立つことなどできず、地面に向かって飛んでいく。勢いそのまま、カーリングのようにワックスがけされたばかりの綺麗な廊下を、摩擦熱と共に滑っていった。
「よ、好井さん!? 大丈夫ですか!?」
「平気平気。キミこそ、怪我はない?」
「え、ええ」
大事なウマ娘を負傷させたとあっては、トレーナー失格だからな。良かった。
悪びれた様子もなく……いや、単に気付いてないだけか。テイオーとウオッカは、遠くで何かを話していた。
スカーレットが心配して、あたふたしているが。それよりも、あっちの会話が気になる。
俺を訪ねてきたというウオッカが、テイオーに質問をしている。自ずと理由は鮮明になってくるから……怖い。
「や、やっぱ、そうなのか!?」
「まあね。でもさ、ウオッカ。ダメだからね」
「え? なんでだよ?」
「……スカーレットも居るなら、二人とも理由は一緒かな。なら、ちょうどいいや」
やけに顔の赤くなったウオッカを見て、俺も察した。テイオー、あのことを話したのか。
近づくと、テイオーにグイっと引っ張られた。腕を組むようにしてくっつき、まるで自分の物でもあるかのようにアピールしている。
「トレーナーは、ボク達のトレーナーだからね。いくら二人でも、絶対『うまぴょい』は禁止だから」
「はぁ~? そんなのズルだろ!」
「ズルじゃないよ。だって、そうでもしないと皆トレーナーとしたがるでしょ?」
「だからってよぉ! お前らだけ……う、……うまぴ……あ゛ぁ゛ー! い、言えねえ! 『アレ』して強くなるのは、セコいじゃねーかよ!」
「そうかなぁ? 節操なしに『うまぴょい』する方が、どうかと思わない?」
「…………た、確かにそうだけど……。つーかテイオー、あんま『それ』を連呼するんじゃねーよ!! はっ、恥ずかしいだろ!!」
「……ね、ねえ。ウオッカ。さっきから言ってる『うまぴょい』って何?」
「…………お子様はあっち行ってろよ」
「はぁ!? 何よその態度! 仲間外れにしようたって、そうはいかないんだからね!」
このままでは埒が明かない。ウオッカとスカーレットが、ライバルのような関係というのはぼんやり耳にしていたが。先ほどまでの淑女のような態度が一変するほど、対抗心をむき出しにしているのを見るに本当のようだ。
そして、やはりと言うかなんというか。問題の起因は『うまぴょい』に関してだったらしい。どうしたものかと悩んでると、腕がくいっと引っ張られた。
眉をひそめて威嚇していたテイオーが、楽し気にこちらを見てウインクする。おお、なんかいい策でもあるのか? 信頼しているテイオーが言うなら、きっと素晴らしい提案に違い
「どうしても、って言うならトレーナーが『うまぴょい』したくなるように、させてみなよ」
違いしかないが?? 何言ってんのこの子??
「て、テイオーさん? どういうこと?」
「大丈夫だって。どーせ二人とも、何もできないから」
小声で聞くが、自信満々な顔でテイオーは前を見ている。
その言葉を聞いて、顔を真っ赤にするウオッカと、そもそも何が問題になっているのか理解できていないスカーレットは腕を組みながら首をかしげていた。
「わかったなら、解散解散! ボク達、これからトレーニングだから! そんじゃねー」
「お、おい! テイオー! そりゃねーだろ!」
「あーもう! なんなのよ! ちょっとウオッカ! ちゃんと説明してよね!!」
遠ざかる声に申し訳なさを覚えながら、抗えない力で引きずられる俺はそのままテイオーに話しかける。
「何もできないって、そんな保証あるか?」
「ウオッカは恋愛映画もまともに観れないんだよ? スカーレットは、そもそも何かわかってないだけ。優等生演じてるなら、下手なことしてこないって」
「そうかなぁ……」
俺の脳裏に浮かぶのは、スーパークリークとの『うまぴょい』だ。別に彼女は何かを欲していたわけではないが、本能的に『うまぴょい』を求める『うぴうぴ』状態になったあげく、俺と『うまだっち』になった。そういう前例がある以上、大丈夫と言うのは流石に危機管理不足なんではないかと思う。
「それよりもさ、トレーナー」
「ん?」
「ネイチャと、いつしたの?」
「何を?」
「とぼけないでよ。『うまぴょい』に決まってるじゃん」
「……いつだったかな~~?」
「…………」
「うぉっ……!?」
強引に手を引かれ、元来た道を歩かされる。トレーナー室の扉を乱暴に開けるや否や、目にも止まらぬ速さで錠をかけると、そのまま壁際に押し込まれた。俺の胸元程度の身長しかないテイオーが、身体通して壁に手を付き、こちらを見上げている。いわゆる壁ドンの体勢だが、ときめきなんて微塵も感じられない。
「いつ、したの?」
鬼気迫る表情と声に、俺の脳はもうさっさと本当のことを言えと警告を出して、すぐさま口は実行に移した。
「……宝塚記念の少し前」
「具体的には?」
「そ、そこまで聞かなくても良いだろ……?」
「……ごめん、トレーナー。意地悪で聞いてるんじゃなくて。気になることがあるんだ」
「気になること?」
スッと身を引き、俯きながらテイオーは言う。
どうやら、『うまぴょい』の効果が薄れてきているように感じるそうだ。漲るような力、底から湧き上がる自信。今までもなかったわけではないが、それが顕著に表れていた。
しかし、ネイチャに敗北したあの日。テイオーは、今までと同じように全力のその先を使ったはずなのに、2着に甘んじることとなった。
「ネイチャが、頑張ってたのは知ってるよ。それでも、ボクだって負けない自信はあったんだ」
「……もしかして、時間経過で『うまぴょい』の効果って下がるのか……?」
「わかんない。トレーナー、ネイチャとボクで何か違うことした?」
とんでもねーことを聞くなこの子。
『うまぴょい』は基本的に手順も決まっているものだから、ネイチャとの違いはないはず。特別、俺自身がその時に備えて訓練してきたわけでもない。
……とすれば、テイオーとの相違点は……。
「……無理やりだったか、どうか……か?」
「え?」
「いや、テイオーと『うまぴょい』した時は、襲われるような形だったろ? クリークもそうだった。あの節操なしの
「……ちょっと待って。トレーナー」
「なんだ?」
「じゃあ、ネイチャとはお互い同意して『うまぴょい』したわけ!?」
「…………そういえば、近所に新しいはちみーショップが出来てたんだが、行かないか?」
「誤魔化し方雑すぎるでしょ! どういうこと、トレーナー!!」
口は災いの元というが。確かに、この言い方をすれば嫉妬されてもおかしくない。ああ、もっと考えて発言すべきだった。
「ボクがトレーナーの初めての人だったのに……。ネイチャとの『うまぴょい』の方が良かったってこと!?」
「誤解しかない発言をするんじゃありません! 誰かに聞かれたらどうすんの!」
「……もういい。トレーナーなんて知らない!」
「!」
俺はなんて馬鹿なことを。
テイオーは涙を浮かべていた。レース以外のことで、彼女が涙を流すのは初めて見た。辛い時も苦しい時も、それは怪我で走れないことや、負けた時の悔しさだけだった。
この涙は別。俺が、俺自身が。不用意な発言をしたことで、彼女の心を傷つけたことによる結果だ。加害者は俺なんだ。俺がテイオーを泣かせてしまったんだ。
「……ごめんな、テイオー。俺……そんなつもりじゃ……」
「……ぐすっ」
大好きなウマ娘を傷つけたという事実が、胸に重くのしかかる。冗談めかしていたように見えたが、彼女は本気だったんだ。
そりゃそうだ。テイオーだってウマ娘なんだから。誰かと比べてしまうのは仕方のないこと。レース結果における要因について、トレーナー側の指導が問題であるなら、なおさら。
「悪かった」
「……ひっく」
「今度、何か美味しいもの奢るから」
「……いらない」
「じゃ、じゃあ。好きなとこ連れてってやる! 夏だしな。気分転換に!」
「そんなのいい!」
「……そう……か。ごめんな。お詫びに、何かしたいことを言ってくれよ。叶えてやるから」
「……ホント?」
「ああ、ホントだよ」
「二言はないね?」
「もちろんだ」
にやりと笑った。赤いはずの目は全然綺麗で、すすってたはずの鼻は一ミリも汚れていない。
こっ! こいつ! ウソ泣きとか、いつの間に覚えて……!?
「じゃあ、ボクとしようよ。『うまぴょい』を」
いつの間にか主導権を奪われていた。もう逃げられない。
「なんでっ!?」
「あったりまえじゃん。ネイチャだけじゃズルいでしょ? 今度はトレーナーも、真心こめてやってよね。『すきだっち』を」
「ち、ちきしょ~~!!」
ウマピョイ! ウマピョイ!
悪役の三下のようなセリフを吐きながら俺は、再びテイオーと『うまぴょい』をした。ちょっと上手になったね、なんて言われたけど敗北感しかない。しかし、覆水盆に返らず。俺自身が撒いた種な以上は、最後まで責任を持つのがトレーナーだ。
すっかりご機嫌になったテイオーを、トレーナー室から見送ると俺は気付いたことを心に留めていた。
たづなさんが『二回、三回を求めてくる』と言っていたが。それは単純に効力が衰えるから、というわけなのか。
当然、一度その凄さを経験した以上は元の弱い自分に戻りたくないだろう。ならば、と再び『うまぴょい』をしにくるのだな。
……つまり。ネイチャもいずれ、来るはずだ。まあ、ネイチャは良い。担当だから。
問題は、ウオッカとスカーレットだ。担当でもない子と『うまだっち』になってしまえば、それこそ収集が付かなくなる。そもそもの管理を任されている、あの子らのトレーナーに対しても失礼だ。
今度は冗談では済まない結果になるだろう。より一層、しっかり気を引き締めなくては。その為には、まず腹ごしらえだな。すっかりお昼時を過ぎてしまった。売店にでも行くか。
「よう、ソーマ。ちょっといいか?」
「……」
戸を開けた先に居た、不安材料二人を相手に俺の空腹は一瞬で引っ込んでしまった。