作者の気分で消える世界にて   作:単結晶

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厨二病患者への第一歩!
おいでませ非日常!



2話 非日常デビューな裏話

「おはぱん」

「どこの人狼村だよ」

「メロンパン食べたい村」

「それはただの欲望だ」

「今日もいいツッコミだ」

「誰のせいだ誰の」

「1日30個限定、超高級マスクメロンパンの優先購入券を2枚持った奴のせいだな」

「1枚恵んでくださいお願いします!」

「はい」

「わーいやったー! ってメロンパンの皮のクッキーかよ」

 

 なんでクッキー持ち歩いてんだよなんて

 悪態をつきながら、クッキーをボリボリ齧る少年キョウヤ。

 

 やや拗ねた目で睨んでくるキョウヤに、チケットを渡す。

 その瞬間キョウヤは満面の笑みで、クルクルとその場で回転を決める。

 

 回転に合わせて揺れるやや長めの茶髪。

 髪をハーフアップにして黒いリボンで纏めている姿は、目を細めて遠目から見れば女の子に見えなくもない。

 よく見れば体格は男であるため、本気で間違える人はいないだろうが。

 

 それを横目で見ている少年タイチ。

 黒髪を後ろに流し、端正ながら野性的な顔つき。

 キョウヤとは対照的に、マッチョとは言わないがしっかりした体つきだ。

 

 タイチは、なぜリボンを付けているのだろうか? ツッコミのしすぎで疲れたか。

 なんてことを、ぼんやりと考える。

 

「ツッコミに疲れたわけじゃないから、なぜ分かったって顔してるけど思いっきり声に出てたからな!!」

 

 今日も打てば響くなぁと、微笑ましく思う。

 

「ろくな事考えてない顔してるな·····。リボンは姉さんがプレゼントしてくれたんだよ。折角くれたものを一度もつけないのはアレだろ」

「キョウヤって良い奴だよな」

「急に褒めるな、恥ずかしい」

 

 呆れて零した言葉に馬鹿正直に照れる愛すべき馬鹿。

 プレゼントを雑に扱うと、姉から大目玉を食らうというのもあるが良いやつである。

 

「メロンパン買いに行くか」

 

 その言葉にキョウヤは満面の笑みで答えた。

 

 

 

 

 

 取り留めのない話をしながら道を歩く。

 空は晴れ渡り、道路の端では桜が薄紅色の花を咲かせている。

 絶好のお散歩日和であり、とても気分が良い。

 今度キョウヤと一緒に花見に行くのもいいなと思いつつ、

 不意に自分たち以外の人が見当たらないことに気がついた。

 

「先程から人と全く会わないな」

「おっかしいなー、普段ならこの時間帯におばちゃんが買い物袋提げて歩いてるのに」

 

 今の時刻は15時を少し過ぎたくらい。

 真夜中でもないのに通行人と全くすれ違わないのはおかしい。

 ただの偶然かもしれないが、静まり返った道路は不気味に感じる。

 

「なんか臭くね?」

 

 キョウヤに言われて、辺りの匂いを注意深く嗅いでみる。

 確かに、路地の方から鉄臭い匂いが漂ってくる。

 

「血の匂い?」

「え、ヤバイじゃん。交通事故かもしれん。ちょっと俺見てくるわ」

 

 そういうと、キョウヤは左右を確認せずに路地へと走っていった。

 

 安全確認もせずに飛び出して行った、キョウヤを追いかけていった先で思考が停止する。

 目の前には予想を超える惨劇が広がっていた。

 

 

 真ん中あたりで切断された左半身

 得物の切れ味が鋭利だったのか、綺麗な断面を晒して転がっている。

 右半身だと思われる部分はグズグズに溶解しており、原型を留めていない。

 路地に臓物だと思われるものがまき散らされており、あまりに非日常的な光景は現実とは思えないものだった。

 

 

「っ!」

 

 喉まで出かかった悲鳴はショックのあまり声にならず、ただ酸欠のように口を開閉させる。

 そんな無意味でしかない行動は

 噎せ返るような匂いを運びソレが現実であることを突きつけてくる。

 

「あ、あ、あぁ」

 

 衝撃のあまり固まっていたキョウヤが、状況を把握したのか呻き声をあげる。

 あまりの光景に吐き気を覚えたのだろう。そのまま、その場に蹲る。

 

「落ち着け、吐きそうなのは分かる、まずはここを離れよう」

 

 蹲ったキョウヤの手を引っ張り無理やり立たせる。

 吐きたくなる気持ちはタイチにも凄く分かる。

 しかし血が赤く、固まっていないということはこの死体は数分前にできたということだ。

 早くここから離れなければと足を翻したその瞬間

 

 足元に亀裂のようなものが走り、体が浮遊感に包まれる。

 為す術もなく、彼らは亀裂の中に飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 浮遊感を感じたのは一瞬で、地面に腰を強かに打ち付ける。

 痛みに悶えながら上を見上げるが、俺達を飲み込んだ亀裂は見当たらない。

 周りを確認すると、キョウヤが血塗れた状態で倒れている。

 どうやら先ほどの死体も亀裂に落ちたようで、運悪く死体の上に着地したようだ。

 

「ひっく、ぐす、もういやだ。うぅぅぅ」

 

 タイチは死体の上で泣きじゃくるキョウヤを立ち上がらせ、移動させた。

 自分より慌てている人を見ると落ち着くとはよく聞く話だが、状況について行けなさ過ぎても人は落ち着く。

 

 改めて周りを確認する。

 周りには死体と建物の残骸が転がっている。

 

 問題(異常)しかない。

 

 更に厄介なのが、どうやらこの空間は現世とは切り離されたような場所であるということだ。

 目測で約数キロの範囲は建物の残骸が転がっているのだが、さらにその奥は真っ暗で何も存在していない。

 上を見上げると、空ではなく空虚な暗闇が広がっており、光源がないのになぜ周りが見えるのかも不明だ。

 

 どうやったら帰れるのか、皆目見当もつかない上に、

 宙を眺めていると何か視線を感じるような気がしてくる。

 

 嫌なことを想像してしまった。

 思考を振り払い、キョウヤの様子を確認する。

 

「ぐずっ、最悪だ、なんでこんな目に」

 

 時折、鼻を啜ってはいるが悪態をつけるくらいには気分が回復したらしい。

 

「動けるか? 動けるなら出口を探そう」

「あぁ、迷惑かけて悪い。タイチが居て良かったわ、俺一人なら何したらいいか分からんし」

「俺に丸投げされても困る」

「信頼してるってことだよ」

 

 たまにキョウヤは恥ずかしいことを面と向かって言ってくるから始末に負えない。

 タイチも一緒に居てくれて良かったと思うので、お互い様かもしれないが。

 

 なるべく死体の少ない道を通って歩き出す。

この空間に出口はあるのか? 

 先程から感じている、視線のようなものが強くなっているような気がする。

空間の端はただ暗闇が広がるだけかもしれない

 嫌な視線だ、人の悪意を煮詰めたような、他人の不幸を喜んでいるような。

 

「っ!」

「いやいや、驚きすぎだろ」

 

 急にキョウヤに手を握りこまれて、タイチは驚いて体を軽くビクつかせた。

 驚いたが、体温を感じると言うだけで気分が楽になるのを感じる。

 

 お互いにいびつに笑いあい、気を取り直して周囲の様子を確認する。

 相変わらず出口は見当たらない。

 しかし、かなりの距離を移動したためか、死体もこの付近には無いようだ。

 死体が目に入らないだけでもかなり気分は違う。

 

 そんなこんなで、周囲を見ていたことが幸いしたのだろう。

 タイチはいち早くそれに気がついた。

 

 第一印象としては、虹色に輝く粘度の高い泡だ。

 不透明なシャボン玉と言ったところだろうか。

 

 泡は半径5 m程の円状に広がり、

 まるで沸騰するかのように、大きな泡の中に細かな泡が次々と発生している。

 

 発生した泡はまるで生きているかのように縦軸方向に盛り上がり、

 そして、

 

「逃げるぞ!」

 

 あれは化け物だ。

 鳴り響く本能の警鐘に従って、来た道を一目散に駆け戻る。

 

 数百メートル走ったところで、キョウヤが建物の残骸に足を引っかけて転倒した。

 

「キョウヤ!」

 

 慌てて振り返ると、キョウヤは何かを悟ったような諦めを交えた表情で叫ぶ。

 

「ここは俺に任せて先に行けっ。振り返んなよ、頼むからっ」

 

 急いで戻ろうとするも、その前にキョウヤが虹色の泡の中へ取り込まれた。

 

 

「____っ!」

 

 

 タイチは思考が止まりかけたが、頭に過ぎった最悪の想像を振り払い行動する。

 

 まだ間に合うはずだ。

 死んでない。死んでない! 早く、助けないと。

 

 焦る気持ちを抑えて、周りを見渡す。

 キョウヤが足を引っかけた残骸、鉄筋の一部であろう棒を武器代わりに拾う。

 

 泡が多すぎてキョウヤを直接引きずりだすのは無理だ。

 キョウヤを取り込んでいるせいか、奥の方の泡の量が少なくなり、亀裂の入った虹色に輝く石のようなものがチラリと見えた。

 

 石が目に映った瞬間、全身に悪寒が走り鳥肌が立つ。

 間違いない。

 あの疎ましい存在すら許せない物体が化け物の核だ。

 

 右から回り込み、一目散に石へと走る。

 踏み込んだ勢いのまま、亀裂の間に鉄棒を突き刺した。

 泡の弾けるような音が響く、効いているのだろうか。

 鉄棒を突き刺している手に弾けて液体になった化け物の一部が巻き付いた。

 

「ぎぃっ、ああああ!」

 

 ジューと音を立てて、腕の肉が焼きただれる。

 

 強酸に腕を漬けたら、こんな感じに違いない。

 けれど、反撃してくるってことは攻撃が効いている。

 

 悲鳴を押し殺して、さらに鉄棒を押し込む。

 

 火傷の範囲が広がるが死ぬよりましだ。

 

「はやく、くたばれぇぇぇ」

 

 鉄棒に全体重を乗せて、体全体で突っ込む。

 痛みで、気が遠くなりそうな中、石の亀裂が大きくなるのが見えた。

 

 罅が広がり、そして

 割れた石の中から刺が飛び出してきて、左目に向かって一直線に。

 

 よける暇もなく、視界と意識がブラックアウトした。

 

 

 

 

 


 

「ん……」

 

 泡に取り込まれていたキョウヤが目を覚ました。

 触れただけで、焼け爛れるような泡に取り込まれていたにも拘わらず体には傷一つない。

 

「俺、襲われて……そうだっタイチ!」

 

 周囲を見渡して、目に飛び込んできたのは両手が爛れ、左目に虹色の刺が刺さったタイチの無残な姿だった。

 急いでそばに駆け寄り、体を揺する。

 

 大声で呼びかけても……反応しない。

 左目からは赤いものが流れている。

 残った右目は濁りきっており、何も映していない。

 

「うそ、だろ。寝てるだけだよな、なあ」

 

 だってまだあったかい、やわらかい。

 死んだら冷たく硬くなるんだろ。

 しんだばっかりだから。

 刺が刺さっただけだ。

 てあしならともかく、あたまだ。

 

 止めどなく頭の中で否定と肯定の羅列が回る。

 

「そ、うだ。脈をみれば」

 

 首元に手を当て、胸と顔に耳を近づけて呼吸音と心音を聞き取り……

 分かっていたことを確認した。

 

「はは、は」

 

 キョウヤは乾いた笑みを浮かべると、そのまま蹲って動かなくなった。

 完全に心が折れた。目の前で起きたことを理解して受け入れられるほど強くなかった。

 

 静寂の中、キョウヤの呼吸音だけが響く。

 

 蹲るキョウヤを見守るように髪飾りであるリボンに嵌められた極彩色の石が、怪しく煌めいていた。

 

 一時間後、動くもののないはずの世界に物音が響こうとも

 キョウヤは、蹲り現実から逃避していた。

 




キョウヤ君のSAN値の初期値は40です。

減少値は以下を参考

人間の死体を発見する SANc(1/1D4+1)
見知らぬ場所に落とされる SANc(0/1D2)
人間の死体の上にダイブ SANc(0/1D3)
無響室並みに音が響かない不気味な空間を探索 SANc(0/1D3)
化け物を目視する SANc(1D6/1D20)
転倒し死を覚悟する SANc(0/1D6)
親友の死体を目撃する SANc(1/1D6+1)
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