作者の気分で消える世界にて   作:単結晶

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伏線は撒いてるけど回収が大変そう。


3話 厨二病(ガチ)の後日談

「ゲホッゲホ、カハッ……、ハア」

 

 タイチは自分が大きく咳き込む音で目を覚ました。

 まるで久しぶりに呼吸をしたかのように、胸が膨らむ度、鈍い痛みを感じる。

 

 虹色の針に貫かれた左目を手で覆う。

 手に乾いた血が付いたが、刺さったはずの針がない。

 

 周りを軽く見ると、化け物の死骸も見当たらない。

 

 化け物は液体のような挙動をしていたし、蒸発でもしてしまったのだろうか。

 

 最後に針が突き刺さったときは完全に死んだと思った。

 気絶するまでの数舜に脳内に響き渡ったゴリゴリグチュという音を思い出して身を震わせる。

 

 隣を見るとキョウヤが顔を伏せて蹲っている。

 化け物に全身を包まれていたのに、その体は傷一つない。

 奇妙には思ったが、怪我がないことは喜ばしい。

 

 さっきの化け物が複数いる可能性も否定できない。

 ひとまずはこの空間から脱出した方がいいだろう。

 

「キョウヤ、移動しよう」

 

 肩に手を置いて話しかけるも、返事が返ってこない。

 

「キョウヤ?」

 

 体を強く揺さぶりながら話しかける。

 しかし、キョウヤは何もない虚空を見上げたまま動かない。

 

 混乱し、焦燥感に胸を焦がしながらも思考を回す。

 

 キョウヤの体には傷がついていない。

 けれど、意識がない。

 もしかして、あの化け物は取り込んだ生物を溶解するだけでなく、精神攻撃も出来たのだろうか。

 

 その攻撃を受けて、こうなった? 

 

 

「おい、起きろよ。頼むから」

 

 半ば縋り付くように体を揺らす。

 すると、キョウヤは目に僅かな光を灯してタイチを見る。

 

「タ、イチ?」

 

 掠れた小さな声ではあったが、キョウヤはタイチの名前を呼ぶ。

 

「目を開けたまま寝てんじゃねーよ」

 

 タイチは目を瞬かせ、一呼吸の後に安堵のため息をついた。

 

「わるい、怖い夢、見てたんだ」

 

 キョウヤは焦点の合わない目でそう呟く。

 まだ、精神ダメージは深そうだ。

 

「本気で寝てたのか」

 

 少し冗談のつもりではあったが、本当に目を開けたまま寝てたのか。

 心臓に悪いのでこれっきりにしてほしいと思いつつ、タイチはキョウヤの肩を支えて歩き出す。

 

 ふと、風が吹いていることに気が付いた。

 血の匂いが立ち込める空間に、風に乗ってそれ以外の匂いが流れてくる。

 

 風が吹いてくる方向へと歩いていると、空間に切れ目が入っているのを見つけた。

 切れ目の向こうには、先ほどまでいた路地が見えている。

 

 ここから脱出できそうだ。

 迷わず切れ目の向こうへ踏み出した。

 

 

 

 外へ出ると雨が降っていた。

 謎の空間に落ち込む前の非日常的な風景は、取り繕うように日常を取り戻していた。

 

 散らばっていた死体は空間に取り込まれたので残っていない。

 血の跡や匂いも雨で消えていた。

 惨状の痕跡は、崩れた塀や丸く表面を削り取られた道路を残すのみだ。

 

 振り返ると出口であった切れ目は消えていた。

 

「怖い夢か」

 

 先ほどのキョウヤの呟きを思い出す。

 こうして、死体や化け物の痕跡が消えていれば夢だったと、そう思い込みたくなる。

 

 しかし、化け物にやられた傷の痛みがそれを否定する。

 そこまで考えて、化け物にやられた目や腕が痛くないことに気が付いた。

 

 腕の焼け爛れていた部分を確認する。

 虹色の趣味の悪い結晶が瘡蓋のように皮膚を覆っていた。

 

 趣味の悪いタトゥーのようにも見える。

 見ていると胸がざわめき不安になる模様だ。

 この感じは、化け物の石を見たときに感じた悪寒に似ている。

 

 思考を振り切り、空間を出て気が抜けたのか完全に意識を飛ばしたキョウヤを背中に背負う。

 

 

 

 キョウヤを家に送り届ける。

 その時、キョウヤの家の人に変わったカラコンを付けているのねと言われたのが気にかかった。

 

 

 

 家に帰り、お帰りと声をかけてくる母親に生返事を返し、左目を隠したまま素早く自室へ向かう。

 扉が閉まっていることを確認し、鏡をのぞき込む。

 化け物に貫かれた左目が、極彩色に染まっていた。

 

 

 おめでとう、左目はゲーミングヘテロクロミアへと進化した。

 

 

 まったくもってめでたくないとセルフツッコミする。

 虹色の瘡蓋を見た時から、嫌な予感はしていたが実際に目の当たりにすると頭を抱える。

 滅茶苦茶目立つ、半端なく目立つ。

 どうしよう。

 

 見る角度を変えると色を変え、虹色に煌めく。

 

 病院に行くとすると何て説明しよう。

 

 化け物に左目を貫かれて虹色になりました。

 何て正直に言えば、精神病を疑われそうだ。

 

 とあるおでこから生えたビワは勝手に抜けたんだから、自然に治ってくれないだろうか。

 なんて意味不明なことを考える。

 

 

 症状について説明することができないこともあるが、

 そもそも病院に行くのはやめた方がいいかもしれない。

 

 今回化け物に襲われたわけだが、ニュース等で化け物の話を一切聞いたことがない。

 

 恐らくあの化け物が、この地球上であの時あの場に初めて出現したなどということは確率として低いだろう。

 空間に転がっていた建物の残骸からも、あれだけ多くの残骸をため込むにはそれ相応の時間が経っているはずだ。

 

 

 警察などの行政機関が動かない理由として考えられるのが。

 

 一つ目が、化け物の隠蔽能力が非常に高い。

 二つ目が、意図的に何者かが化け物の存在を隠している。

 

 この二つだと二つ目の理由の方が確率が高い。

 

 何故なら死体が真っ二つに切断されていたからだ。

 

 ウオータージェットのように、化け物が高圧の液体で切断したという可能性もあるが、

 核である虹色の石に亀裂が入っていたことから、あの化け物は他の何かに襲われてあの空間に逃げ込んだのではないだろうか。

 

 あの時は必死だったため、鉄棒を手に立ち向かったが、タイチの身体能力は超人というほど高くはない。

 運動部に所属していたため、平均よりもやや筋力が強いという程度である。

 

 ただの高校生の攻撃で核が砕けるはずがない。

 必然的にあの化け物は弱っていたと考えられる。

 

 化け物を弱らせている第三者。

 その者たちが化け物の存在を隠蔽しているのではないだろうか。

 

 第三者達が行政機関であると確定することはできないし、カルト集団が隠ぺいを行っているのかもしれない。

 

 

 第三者がいると仮定して、病院へノコノコ行くとどうなるか。

 警察から箝口令を敷かれるならいい方だ。

 最悪、カルト集団あたりに口封じされる。

 

 

 そこまで考えて、タイチは左目を眼帯で腕を包帯で隠すことにした。

 

 

 

 

 

 次の日、キョウヤに出会い頭で厨二病呼ばわりされたのであった。

 

 

「なんで厨二病デビューしたんだよ!!」

 

 頭に響くような大声でツッコまれる。

 厨二病と呼ばることは誠に遺憾ではあるが、眼帯に包帯をしていればさもありなん。

 むしろ謎の第三者達の存在を考えると、厨二病キャラとして通した方がいいかもしれない。

 

 ほんの少しの胸の疼きと諦めとともに、今も騒ぎ立てるキョウヤを引きずり体育館へと向かった。

 

 

 

 

 

 ガイダンスが終わり、周りから遠目に見られながら教室へと戻った。

 

「なぁタイチ、なんで包帯巻いてんの。さっきから周りの目が痛いんですけど」

 

 コソコソと話しかけてくるキョウヤに、何故そんなことを聞いてくるのだろうかと一瞬思ったが

 化け物に取り込まれていたし、その後も意識がハッキリしていなかったから覚えていないんだと思い当たった。

 

「腕は強酸で、目は最後っ屁の攻撃にやられた。キョウヤは大丈夫か?」

 

 怪我はしていないし、一晩寝たおかげか精神ダメージも抜けたようだが時間差で何かあるとも限らない。

 そう思って確認しようとしたのだが、何やら様子がおかしい。

 

 なんでそんなことを聞かれるのか全く心当たりがないと言いたげな表情だ。

 

「覚えて、ないのか?」

 

 困惑する。

 まさか、あの出来事が夢であったということは無いはずだ。

 

 確かに、今日の朝にテレビでニュースを確認したとき化け物について直接の報道は行われなかった。

 路地の破壊跡は、トラックで無差別に人を轢いている凶悪犯によるものにされていた。

 

 しかし、近所に住んでいた一人暮らしの中年の女性が行方不明になったことが報道されていた。

 化け物の空間に取り込まれた死体がそうなのではないだろうか。

 

「いや、覚えてる覚えてる。昨日のことだよな」

「そうか、覚えてるか。夢じゃなかったよな」

 

 キョウヤが昨日の出来事を認識していないのであれば、タイチ自身の精神病も考慮に入れるところだった。

 

「全然知らない場所に落とされるし、化け物に追いかけられるわ、生きて帰ってこれたのが奇跡だな」

「そうだよな。マジで死ぬかと思ったわ」

「お前が格好つけて "ここは俺に任せて先に行けっ" なんて言った時はもうダメかと思った。どうするつもりだったんだ?」

 

 あれは本当にやめてほしい。

 確かに直ぐ傍まで化け物は追いついていたし、起き上がって走る暇は無かった。

 

 格好つけている暇があるなら、諦めずに走ってほしかった。

 

「そりゃかっこよく呪文を唱えて撃退したに決まってるだろ」

 そういってかめはめ波の真似をしながら誤魔化すキョウヤ。

 

 もしかしたら強酸で焼かれて死んでいたかもしれないのに。

 何でもないように笑うのが悲しかった。

 

 分かっている。ただ単に諦めたわけではないことを。

 キョウヤ自身が囮として機能することを期待したのだろう。

 だから、振り返るといったのだろう。

 

 それでも、自分の死を悟った末の諦念と恐怖と覚悟が混じった表情なんて二度と見たくない。

 

「俺が撃退した」

 

 タイチがキョウヤを置いて逃げることは無い。

 キョウヤが自分を犠牲にすることは許さない。

 キョウヤがまた同じことを繰り返すようなら、

 タイチは何度でも化け物に立ち向かうだろう。

 

 その意思を込めて、キョウヤの目を見つめる。

 

「あの化け物の話だが、周りには言いふらすなよ。見張られている可能性がある」

 第三者達の存在をキョウヤに忠告する。

 返事が適当なのが気になるが、化け物に遭遇した時の傷が残っているタイチと異なり

 キョウヤは口を閉じていれば目を付けられることは無いだろう。

 

 先ほどから周りが静かだと思えば、教室に残っているのはタイチとキョウヤだけだった。

 今日はガイダンスだけで学校が早く終わったので、皆遊びに行ったのだろう。

 

 キョウヤが荷物も持たずに教室を出ていく。

 荷物を忘れているぞと声をかけようとしたら、玄関と逆方向に向かっている。

 

「キョウヤ、どこに行くんだ?」

「どこって、早く移動しないとガイダンスに間に合わないじゃん」

「ガイダンスは終わったじゃないか。今日はもう帰るだけだ」

「一体何を言って」

 

 キョウヤは時計を仰ぎ見て唖然とする。

 誰もいなくなった教室を見渡し、その場に蹲る。

 

 耳を塞ぎ、駄々を捏ねるように頭を振る。

「あれ、おれ、今日何してた?」

 顔を覗き込むと、瞳孔が開ききったどこか焦点の合わない目がタイチを捉える。

 キョウヤの喉からヒュッと息の掠れる音が漏れた。

 

「昨日、虹色が、にじいろが」

 呼吸しているのに息が吸えていないかのように、呼吸音が段々と荒くなる。

 

「落ち着け、ゆっくり息を吸うんだ」

 

 タイチはこの症状が過呼吸であることには思いあたったが、対処法が分からない。

 一晩寝ただけで精神ダメージが回復するはずがないのに、迂闊だったと舌打ちをする。

 その舌打ちに怯えるようにキョウヤがさらに縮こまる。

 

「たいちが、ちがながれて、いきしてなくて……」

 

 取り込まれていた時に見せられたのだろうか。

 タイチが死んだと繰り返し呟いている。

 

「俺は生きてる、生きてるから」

 

 何度も、耳元で生きてると呟き、背中を撫でる。

 何度も、何度も。

 その内に落ち着いてきたのか、ぼんやりとタイチを見つめていた目の焦点が合う。

 

「タイチ?」

 あの時と同じ、掠れた小さな声で名前を呼ぶ。

 

「ああ」

 

 安堵と返答を兼ねた息が漏れる。

 窓から差し込む日は高いが、今日はもう家に帰って安静にする方がいいだろう。

 

「きっと疲れてるんだ。帰ろう」

 

 ふとした時に目が濁るキョウヤの袖を引っ張り、意識を現実に戻しながら家へと送り届けた。

 




タイチとキョウヤは、
シナリオ 親友が厨二病デビューした をクリアしました。

報酬
・タイチ 
厨二病(ガチ)発症 
眼帯、包帯、タトゥー、オッドアイを手に入れた!

・キョウヤ
長期の一時的狂気 健忘症 発症

一話の答え合わせ
発狂者は二人

備考
タイチのSAN値の初期値は90です。
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