作者の気分で消える世界にて   作:単結晶

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人はそれを運命というのかもしれない。




8話 モブは原作補正に抗いたい

 

 ストレス発散にスイーツフェスティバルというカフェへやってきた自分は、

 メニュー表を片手にどのケーキにするか迷いに迷っていた。

 

「あ、イケイハ君も来てたんだ。さすがスイーツ同盟の同士」

 

 何か聞こえたような気がする。

 

「期間限定の春のイチゴパラダイスショートケーキにしようかなー。あ、これもいいなー」

 

 キイチゴとネコのショートケーキも捨てがたい。

 一度食べたことがあるが、プチプチとした触感と苺とは異なる控えめな甘さと酸味がチョコレートで作られた猫ととても合うのだ。

 ケーキは鮮度が命で、次の日に食べるとスポンジ生地が悪くなる。

 複数ケーキを買うのは確定しているが、食べきれる量にしないといけない。

 最高級苺を使用した一口サクラモモイチゴショートケーキと

 白苺を用いたエンジェルハートショートケーキは外せないし、

 店の名前を冠したスイフェスケーキも食べたい。

 

「猫って、似合わねえw」

「スイーツ好きに容姿は関係ないよ」

 

 確かに目つきの悪い三白眼だし、八重歯により犬歯が飛び出ているせいで人相が悪いとよく言われるが、

 美味しいものは美味しいのだ。

 

 聞き覚えのある声に軽く悪態をつきながら振り返るとキョウヤが居た。

 後ろの方ではタイチがケース内のケーキを選んでいるようだった。

 

「このカフェに来るのは珍しいね」

 

 スイフェスは自分の家からは近いが、二人の家からはそれなりに遠かったはずだ。

 行きつけのお店はどうしたのだろうか。

 

「行きつけのケーキ屋があるデパートが爆破予告を受けて閉店してたんだ」

「……へぇ。タイヘンダッタネ」

 

 冷や汗が背中を滴り落ちるが、何とか無難な返事を返す。

 心の中でやったのはオレだし、体は自分だけどなんて意味の無い弁解をする。

 

「せっかくなんだし、一緒にテラス席で食べないか? タイチも良いだろ」

「構わない」

 

 その申し出は正直、滅茶苦茶嬉しい。

 ここ最近、この世界が二次元であることを突き付けてくるタイチを目視するのが辛くて、

 キョウヤと学校でスイーツの話ができていなかったのだ。

 

 タイチをチラ見する。

 

 包帯、巻いているなぁ。

 眼帯してるなぁ。

 二次元してるわぁ。

 

 じわじわと湧き出す恐怖心が腹の底を焼いてくる。

 目が回る様な気持ち悪さと頭痛に思わず頭を押さえる。

 

 キョウヤが、ポンポンと肩を叩いてくる。

 

「気持ちはわかる」

 

 なんの? 

 

 もういいや。

 ケーキ食べて精神を回復しよう。

 今日はケーキだけに集中しよう。

 そうしよう。

 

 現実逃避をしながら、ケーキを5個購入してテラス席へと向かった。

 

 

 

 

 

「よく食べるな」

 

 各ケーキをよく味わいながら、幸福感に体を震わせているとタイチがツッコミを入れてきた。

 

「「スイーツは別腹」」

 

 ケーキを4個購入したキョウヤと声が被る。

 さすがスイーツ同盟の同士、話が分かる。

 

 それぞれが購入したケーキの感想を言い合い、ケーキを一口分交換する。

 

 おお、レアチーズベリーショートケーキは名前からして美味しい予感しかしなかったがこれは良い。

 濃いチーズの後ろで、甘酸っぱく存在を主張するラズベリー。

 最後に全てを包括する甘いスポンジ、完璧だ。

 

「最強じゃね」

「最強だねー」

 

 全力で盛り上がるキョウヤと自分に付いていけなくなったのか、

 苺と抹茶のショートケーキを黙々と口に運ぶタイチ。

 

 ケーキを食べ終わり心地よい満足感の中、紅茶で一服する。

 

 何とはなしにテラス席から見える店の入り口を眺めていると、

 天使の羽のような髪飾りを付けた金髪のお下げの女の子がカフェへと入っていくのが見えた。

 

「ぇ」

 

 小さく息を呑む。

 特徴的な髪飾り、綺麗に染められた金髪、腰まで届く長い一本の三つ編み。

 漫画で見たワルキューレそっくりだ。

 

 動悸が止まらない。

 恐怖で息がうまくできない。

 何故ワルキューレが此処にいる。

 このままでは、タイチの首が切り落される。

 

 急いでここから離れなければ。

 

 勢いよくタイチの方へ振り向く。

 

「きゅ、急にどうした?」

 

 イケイハにガン見され、戸惑う様子のタイチ。

 

 どうやって連れ出す? 

 今から首ちょんぱされますと言っても直ぐには信じてもらえないだろう。

 深く考える暇は無い、急がないととワルキューレが来る。

 

「トイレ行くぞ」

 

 咄嗟に出てきた言い訳。

 オレはタイチの手を引っ張り、無理やり移動させようとする。

 

「一人で行け」

「連れションだ」

「なんでだ」

「ええっと……寂しいからだ」

「はぁ?」

 

 意味の分からないものを見る目でタイチが睨んでくる。

 そりゃ、友達の友達くらいの距離感の人間にいきなり寂しいから

 連れション行こうなんて言われたらこんな反応する。

 オレだってそーする。

 

「寂しいなら、俺が行ってやるから落ち着け、な?」

 

 キョウヤがオレに提案してくるが移動させたいのはタイチなんだ。

 

「タイチじゃないとダメなんだ」

「「はぁぁ?」」

 

 キョウヤとタイチはそろって素っ頓狂な声を上げる。

 手を引っ張っても動きそうにないので、肩を掴んで無理やり移動させる。

 

「しかもそっちは茂みだ。トイレじゃない」

 

 タイチが文句を言いながら手からすり抜けようとするのを必死に捕まえる。

 

 当たり前だ。店内なんか通ったらワルキューレにばれる。

 此処がテラス席だったのは不幸中の幸いだ。

 逃げるのに、

 

「都合がいい」

「なんの? 本気でなんのだ?」

 

 だぁっ! 逃げんなマジで、

 体ごと抑え込んで茂みの方へ引きずる。

 タイチは無駄に体がデカいから引きずりにくい。

 オレの今の体はそれなりに運動してるから、筋肉あるはずなのに動かねぇ。

 

「ガチで狙ってるのか」

 キョウヤがどこか恐る恐るオレへと聞いてくる。

 

 ワルキューレが首を

「狙ってる」

 けど何故そのことを知っているのだろうか。

 タイチはともかく、キョウヤは知らなかったように思うが。

 追及するのは後か。

 とにかく此処を離れないと。

 

「酔っているのか?」

「未成年だ」

「ウイスキーボンボン」

「食べてない」

「危ない方のチョコだと」

「薬でもない」

「頭のネジ」

「生来でもない、良いから来てくれ。詳しいことは後で説明する」

 

 色々と言ってくるタイチを受け流し、引きずる。

 ズリズリと少しずつ移動はしているが間に合わない。

 

 タイチの背中向かいに、テラス席の入り口からワルキューレが入ってくるのが見えた。

 

 やばい。

 血の気が引き、走馬灯が流れる。

 

 

 泡のような化け物に襲われるタイチとキョウヤ

 化け物にやられ、包帯と眼帯をしたタイチ

 

 金髪の少女に遭遇する。

 

 ワルキューレがタイチの顔、

 眼帯の奥を見つめ、

 にっこりと笑い、

 首を切り落とした。

 

 

 そうだ。

 ワルキューレは眼帯で隠した極彩色の瞳に気が付いたから殺したんだ。

 

 引きずるのをやめて、タイチの顔を掴んで固定する。

 

「動くな」

「え」

「目線を他所へ向けるな」

「待て」

 

 ワルキューレがどんどん近づいてくる。

 緊張と恐怖で息が荒くなる。

 

 何故か滅茶苦茶引き攣った顔をして、オレから全力で離れようとしてくるタイチ。

 

「無理やりはヤバいって、イケイハ君の気持ちはよく分かったから」

 

 そう言いながら縋り付いてくるキョウヤ。

 今それどころじゃないのでやめてほしい。

 

 ワルキューレがすぐ隣を通り、

 

 

 

 

 通り過ぎて、そのまま奥の席へと座った。

 

 

 

 

 安堵の息を付きそうになるが、まだ安心できない。

 

「良いから移動するぞ、店の外に出るんだ」

 

 

「ねぇ」

 

 鈴を転がしたような声が背中に投げかけられる。

 

「どこに行くの爆弾予告犯さん」

 

 腕をひねり上げられ、床に押し倒される。

 

 なんで、なんでばれたんだ。

 何故という疑問で頭が埋め尽くされて、あることに思い当たる。

 

 神様(アカシックレコード)がワルキューレには居るんだった。

 

 世界の全てを知っていると漫画では描写されていた。

 それにしたってチート過ぎるだろう! 

 

 

「待ってくれ、変態なのは確かだが警察に通報するほどじゃない」

 

 タイチが擁護の言葉と共にワルキューレに近づく。

 

「バカ、さっさと逃げろ」

 

 床に押し付けられたまま力の限り叫ぶ。

 

「あら」

 

 ワルキューレがタイチを見て、にっこりと笑う。

 

「まっ」

 

 オレが静止の言葉を最後まで言い終える前に、

 ワルキューレがタイチの首を切り落とした。

 

 首をなくした体が膝から崩れ落ちる。

 あっけなく、あっさりとその首が無残に転がる。

 

 失敗した。

 

 

 

 

 失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。

 

 

 悲鳴をあげて逃げ惑う人々の足跡が遠くに聞こえる。

 

「」

 

 ワルキューレが何かを言っている。

 殺されるのだろうか。

 

 死にたくない。

 死ぬ、消えてナクナル。

 

 

 普段から身をむしばむ死の恐怖が目の前にいる。

 

 

 息が詰まるような、根源的な恐怖にあっけなく限界を迎え気を失った。

 




一人称に括りがあったりなかったり。
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