ナイツ&マジック ~演算不能の騎士物語~   作:アルヌ・サクヌッセンム

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どうもアルヌ・サクヌッセンヌと申します。スパロボ30参戦の情報と原作の方の熱気に当てられ、前から燻ぶらせていた創作意欲をここにぶちまけてみようと思い立ちました。
申し訳ないですが、更新は不定期になると思います。それでもよければお付き合いください。


プロローグ

「ふふふふ」

 

 薄暗い部屋の中で、低い笑い声が木霊する。

 その声の主は、防毒面(ガスマスク)を被った怪しげな風体をしていた。

 彼がそんな物を被っている理由は簡単だ。現在この部屋の中には、有害な粉塵や気化した有機溶媒が漂っているからだ。

 

「遂に……遂にできたぞ!」

 

 喜悦の色を滲ませた男がまるで愛しい赤子のように抱き上げた物。それは黄色や白や灰色のストライプを帯びた物体。

 人によっては汚らしいとすら感じるかもしれない色合い。だが、その男にとっては己が血と涙と努力の結晶だったのだ。

 

「1/144 〇ムザザー!」

 

 それは蟹とも虫ともつかないフォルムをした奇怪な姿をした模型。

 しかも30㎝以上の高さがあり、質量も大きさに見合ったものになっているため非常に重たい。

 それもそのはず、これの主原料はタルクを混ぜた不飽和ポリエステル樹脂。プラスチックの中でも比重の重い物質だ。

 この部屋に漂っている粉塵やシンナーは、この樹脂を加工した際に発生したものだ。

 

「番組放送から15年近くたっても、BAN〇AIさんが商品化してくれなくて痺れを切らして作り始めたこの子をようやく形にできた!長かった……」

 

 そう、これはプラモデルではない。金型による射出成型のような工業的手段ではなく、彼が素材を削って作り出した造形物。

 完全自作模型(フルスクラッチビルドモデル)なのだ。

 

「あとはサーフェイサーを吹いて、色を塗るだけだな……あ、サフは切らしてたんだっけ。買いに行くか」

 

 そう言って彼は模型を丁寧に机に飾ると、換気扇を作動させて窓も開け、有害なガスや粉塵を外に逃がした。

 次に作業着を脱いで外出用の衣裳に着替える。

 

「おや、いつの間にこんな時間になってたのか……休日をほとんどこいつ(〇ムザザー)に費やしちまった形になるな。まぁ、後悔はないが」

 

 ふと思い立ってスマートフォンで時刻を確認してみたのだが、こんな時間では彼の目当ての模型店やおもちゃ屋は閉まっている公算が高い。となると、選択肢は自ずと絞られる。

 

「駅前の某家電量販店なら空いてるかも……行ってみるか」

 

 そんな訳で彼はアパートの自室から、街へと繰り出していった。

 途中で空腹を満たすために簡単な食事を済ませて、いざ目的の店舗へと足を運ぶ。

 

「お、やっぱり開いてる。ついでに新商品とかもチェックしてみようかな」

 

 店内に入って、目的の商品を確保した彼はついでにプラモデルのコーナーを物色していた。

 定番のガ〇プラから、美少女プラモ、スケールモデルなど様々な商品ラインナップが彼を魅了する。

 その光景についつい財布の紐が緩みそうになった、その時だった。

 

「先輩?先輩ではないですか?」「うん?」

 

 背後から声を掛けられ、後ろを振り向いた。

 自分と同じ30代ぐらいの成人男性。人違いではないだろうか?と首を傾げる。

 だが、彼の風貌には確かに見覚えがあったのだ。

 

「あれ?倉田?」「やっぱり村岡先輩じゃないですか!お久しぶりです」

 

 最初は誰なのかわからなかったが、同じ大学に通っていた1年後輩の倉田翼の事をやっと思い出すことができた。

 

「久しぶり!10年ぶりかな?」「9年ですよ!先輩も壮健そうで何よりです」

 

 倉田を見た村岡の脳裏に、大学時代の彼との楽しい思い出が蘇る。

 倉田は昔サークル活動を共にした仲間だ。

 そのサークルとは模型制作部。プラモデルを始めとする模型を作って持ち寄り、その腕を競い合い、そして時に共に作品を制作する。

 倉田翼は村岡精作にとって頼りになる友人であり、そしてライバルでもあった。

 

「お互い、プラモコーナーを物色する習慣は相変わらずだな」「先輩も籠に入れてるそれはサーフェイサーですよね?となると今でもやってるんですね。模型自作(スクラッチビルド)

 

 サーフェイサーは表面処理に使われる下地塗料だ。

 普通にプラモデルを組み立てる時に塗料として塗る人もいるが、パーツを自作したり改造を施したりしたとき、作品の表面にやすりやカッターなどで削った後に発生する細かな傷が残る。

 そういった傷を埋めて、表面を滑らかに整える効果を持つ塗料でもある。

 村岡という男の嗜好や癖を良く知っていた倉田は瞬時にその用途を読み取った。

 

「思い出すなぁ。先輩が作ったサン〇ージュやビルケ〇ウ。他の部員が何こいつ?こんなのアニメに出てたっけ?って首を傾げてましたもんね」

 

「それの元ネタを初見で見破って、詳しい解説を加えてくれた誰かさんもいたっけな。いや、実に懐かしい」

 

 この二人は主にアニメのロボットキャラクターの模型をよく製作する部員だったのだが、特に村岡が持ち込んでくる作品はドがつくほどのマイナーな機体ばかりだった。

 外伝作品やスピンオフ漫画が出典であったり、アニメに出てきたとしてもあまりにも異形だったり地味で目立たなかったりして商品化を果たせなかったキャラクター。

 もしそういったマイナーキャラクターの模型がどうしても欲しくなってしまったとしたら?決まっている。自分で作るしかないのである。

 パテやプラ板、身の回りのプラスチック製の日用品、他のプラモデルからの流用パーツなど、様々な素材を加工し組み合わせ、模型を自作する。

 口で言うのは簡単だが、高い技術力と何よりも根気が必要な作業だ。それを村岡は当時から頻繁に実行していた。

 

「僕はそんな工作技術と模型愛を持っていた先輩に憧れてたんですよ。嫉妬すら抱いていた」

 

「嫉妬してたのは俺だって同じさ。お前のデザインセンスは素晴らしいものだった」

 

 倉田は組み立てキットの改造品が中心で完全な自作というのはやらなかった。

 だが、純粋な”模型”としての完成度は彼の作品の方が高いと多くの鑑賞者が言うだろう。

 ただののっぺりとしたプラスチック片がスジボリを追加で彫り込まれ、プラ板や市販パーツを使って追加されたディテールが、墨入れや汚し塗装(ウェザリング)によって縮小された機械部品としての存在感を纏う。

 それは機械(メカ)という物に対する理解力と考証力、そして強い拘りが無ければできない工作であり、理屈を聞いたからと言って万人が真似できるものなどではない。

 村岡精作が保証する。倉田翼も模型製作者(モデラー)として素晴らしい才能の持ち主だったのだ。

 

「覚えてるか?お前が作ってきた八頭身の飛駆〇大将軍。あれを見た時、俺は感動で泣いちまったんだぜ」

 

「まさか、泣かれるとは思いませんでしたよ。確かにあれは僕もかなり気合を入れて作った品だったですけど」

 

 村岡が言っているキャラクターは本来2~3頭身のディフォルメされた小型の模型として商品化されたプラモデルだった。

 だが、倉田はそれを他キットを素体として組み込むことで八頭身の大型ロボットとして具現してしまったのである。

 それらをただ組み合わせただけではどこかバランスの悪い作品となったことだろう。

 彼は各部品の整合性を合わせる様に加工し、美麗なプロポーションを実現させたのだ。また金色のメッキ風塗装も丁寧に施された。

 その結果としてその作品はキャラクターとしての造形美と機械としての存在感を両立させた美しさを持つに至った。

 精作の目にはそれが後光すら放って見えた。ゆえに彼は感動の涙を流したのだ。

 

 二人にとっては全てが懐かしく美しい思い出だった。

 

 彼らは思い出話に花を咲かせながら、会計を済ませて店を後にし、購入した商品を入れた紙袋を両手に夜の街を歩き出す。

 最近見たアニメや購入したプラモデルなどのオタクトークを交わしながらの帰路は実に楽しいものだった。

 

「先輩、もしよろしかったら先輩の今作ってる作品が完成したら僕にも見せてくれませんか?」

 

「そうだな。お互い予定を合わせて昔みたいに競作(コンペティション)と洒落こむか?」

 

 村岡の胸中に学生時代のような激しい創作意欲が沸き起こる。

 かつての好敵手であり、愛すべき後輩はその腕が衰えていないのなら、再び自身の心に素晴らしい感動を与えてくれるに違いない。

 

(また……また競い合える。あいつの作品は何時だって俺を奮い立たせてくれた!)

 

 その期待感が頭の中の設計図を描き換える。今のあいつ(〇ムザザー)の完成度では倉田の相手を務めるには相応しくない。

 ディテールやギミックを追加するだけではない。より質を高める為の工作アイディアをひねり出さなくては……。

 そう楽し気に夢想した彼は笑みを浮かべた。

 

「倉田、見ていてくれよ!今度こそ俺はお前に……」「先輩危ない!!!」

 

 声を荒げた倉田の言葉に、後ろを振り向いた瞬間に視界に写ったのは強い光。

 自動車のハイビームだった。

 

(あ、これヤバイやつだ)

 

 まっすぐ自分に突っ込んでくる車両の姿に、危機感だけが募りゆく。

 加速していく意識に反して、自分の身体は恐怖に凝り固まった様に動いてくれない。

 もはやこれまでかと諦観に支配されようとしていた村岡を誰かが突き飛ばした。

 

「村岡先輩!」

 

 誰がやったかなど考えるまでもない。傍らの後輩が自身を助けるためにそうしてくれたのだ。

 しかしそれは無駄に終わった。結果として村岡精作と倉田翼は、二人揃って宙を舞うことになった。

 致命的な衝撃と激痛が村岡の意識を刈り取るまでの僅かな時間、彼の心を支配していたのは強い後悔の念だった。

 

(すまない倉田 俺の所為で)

 

 夢想に耽るあまり注意力が低下していた己の浅はかさを恨み、大切な友人をも巻き込んでしまった不運を呪う。

 

(あぁ 見たかったな。あいつの作品(ロボット)。そして、見てもらいたかった……俺の作品(メカ)

 

 享年31歳。村岡精作の人生はこうして終わりを迎えた。

 だが、彼の魂魄は科学の目では観測できない不可思議かつ大きな流れに乗せられて、“ここではないどこか”へと旅立っていく。

 そこでは新たな生が待っているだろう。しかし、途中まで同じ流れの中にあった“もう一つの魂魄”は彼の魂とは異なる場所へと「着床」した。

 それが如何なる意味を持っているのか。それは誰にもわからない。

 

 

 

 

 

 

 セッテルンド大陸。そう名付けられた大地の東側にフレメヴィーラ王国と呼ばれる国がある。

 この国は“魔獣”と呼ばれる精強にして、凶暴な生物達が跋扈するボキューズ大深海と接しているが故に、彼らとの闘いが頻発している国だった。

 その中でも特に魔獣との衝突が絶えない土地の一つに、セラーティ侯爵領がある。国内有数の穀倉地帯を誇り、フレメヴィーラの食糧庫と評価も高い大貴族の領地。

 しかし同時に……いやだからこそなのだろうか?人間が育てた農産物や畜産物、そしてそれを食らって肥え太った領民を狙った魔獣達によって、頻繁な襲撃被害を被る土地でもあったのだ。

 

 人間もただ黙って彼らにやられているばかりではない。領民と土地を護るために魔獣と戦う力がある。

 幻晶騎士(シルエット・ナイト)

 人の形を模して造られた金属と結晶でできた身の丈10mはあろうかという巨大な戦闘兵器が剣を携え、杖を振り上げ、魔獣との闘いを繰り広げる。

 ここはそういう世界だった。

 

 そして、この巨人のような兵器も機械である以上、操る為には訓練が必要だ。

 これらが所属する部隊である騎士団は、各地で定期的な野外訓練を実施する。

 この日もセラーティ侯爵領を守護する緋犀騎士団は操縦士の練度向上のため、幻晶騎士の訓練を行っていた。

 

「すごい!すごいよ。お母さん!何?何て言うの?あれ!」

 

 それを見上げて興奮した面持ちで捲し立てる子供がいた。

 明るい栗色の髪を振り回し、可愛らしい顔を上気させる少女。彼女はその未成熟な語彙を一生懸命こねくり回して、興味の対象について母に尋ねた。

 

「エヴァリーナ。少しは落ち着きなさい。ほら、アーキッドとアデルトルートが吃驚してるじゃないの」

 

 美しい黒髪をたなびかせた母が落ち着くように促すが、そんな諫言では幼子の興奮は収まらない。

 乳離れしたばかりの弟妹は乳母車の中から不思議そうに姉の様子を覗っている。

 

「仕方が無いだろうな。初めて幻晶騎士を見たときは、誰だってああなるものさ。私も子供の頃はそうだったよ」

 

 そう声を掛けるのはややくすんだ金髪をした壮年の男性。

 彼こそが何を隠そうこのセラーティ侯爵領を治める大貴族、ヨアキム・セラーティその人だった。

 ヨアキムを認めると母親、イルマタルは首を傾げながらそれに応じる。

 

「ヨアキム様。殿方ならそうなのでしょうが、あの子は女の子ですよ?私の子供の頃はそういった記憶はありませんが……」

「まぁ、今時は女性でも騎操士(ナイト・ランナー)を目指すのは珍しいことじゃないさ。特にこの国ではな。しかし、あの興奮振りでは相当気に入ってしまったようだ」

 

 苦笑しながらヨアキムはエヴァリーナを見つめる。その興奮振りと言えば、ちょっと尋常じゃない雰囲気すら感じられるほどだった。

 何かに取り憑かれているかのようにすら見える己が娘を少しだけ訝しみながら、子供のすることだと深く考えることを止めてしまったヨアキム。

 

 しかし、実のところエヴァリーナはある意味本当に取り憑かれていたのだ。“異世界人の魂”に。

 

[ロボット!人型の巨大ロボじゃないか!?モ〇ルスーツ?オー〇バトラー?機〇兵?あれらとも違う感じがする。駆動原理は?材質は?有人機なのか?それともAI制御や無線操縦の無人機?何にせよすごい!]

 

 脳内で暴走する思考(モノローグ)はこの世界の常識にない概念を次々に想起していく。

 4歳になったばかりの幼子にそんな思考ができるわけはない。“彼女”の脳に宿った異世界の記憶がそれを引き起こしているのだ。

 

“彼”の名前は村岡精作。地球と呼ばれた世界で若くして亡くなったモデラーの魂が自分の大好物を目の前にして、跳ね起きたのであった。

 それらは宿主の未成熟な少女の記憶と魂に混ざり合い、溶け合い、自己同一性(アイデンティティー)を侵食する。

 もし一歩間違えていたら、前世での男性としての性自認と今生の少女としての性自認との相克により、彼女の人格には大きな歪みが発生してしまっていたかもしれない。

 それを考えたらこれはとても危機的状況だったのだろう。

 しかし、この事態を解決したのもまた“ロボット”だった。

 地球には実在しない、少女の知識にもないこの極上の餌に対する強い欲求と興味が、人格の統合を助けそれらを破綻することなく両立させてしまったのである。 

 げに恐ろしきはオタク魂。

 

 そしてその貪欲な魂は両親の口から、待ち焦がれた名詞を確かに聞いた。

 

[シルエット・ナイト!幻晶騎士(シルエット・ナイト)って言ったな!?覚えたぞ、その名前!]

 

“ロボット”の呼称だと思われる言葉は、確と語彙に刻まれていく。

 こうして少女の肉体と成人男性の記憶を受け継いだ転生者は、この世界でも自分の趣味に向けて邁進していく決意を固めた。

 ……しかし、そんな自分にとある“欠落”が存在していることをエヴァリーナ(精作)は気付いていなかった。




*ヨアキムさんの髪色設定で変な勘違いをしてたので、改稿しました。
 エヴァの髪色は……まぁ、お父さんの色とお母さんの色の中間体という事でw
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