ナイツ&マジック ~演算不能の騎士物語~   作:アルヌ・サクヌッセンム

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大分遅くなりましたが、過去の誤字報告をしてくださったdanangさん。まことにありがとうございました。この場を借りてお礼申し上げます。


18話 作って遊ぼう!~ホビーロボット・筐体編~

「さて、OSができた事だしそろそろ機体の方にも手を付けて行くべきだと思うんだ」

 

 K-sido(キシドー)というOSが構築できたことで、大はしゃぎし始めたエヴァがこう宣う。

 しかし、エルはこれに真っ向から正論をぶつけて来た。

 

「いや、前にも言いましたけど、あくまでこれは雛型なんですってば!実際に幻晶騎士(シルエット・ナイト)を動かせる物にするには、まだ色々な前提条件が整っていません。いくら何でも、実機製作を始めるには時期尚早と言う物でしょう」

 

「そりゃそうだけど、この先OSが完成したとしても機体(ハードウェア)が無ければ、それが本当に“ロボットのOS”として使えるものなのか確かめようがないだろ?」

 

「う……それはそうですが」

 

 エヴァも何も考えなしでこんな事を言い出した訳では無い様だ。

 ソフトが無ければ、コンピューターなんてただの箱。高度情報化社会の進んだ地球では子供でも知っている常識だ。

 だが同時にソフトウェアも、それを実行するハードウェアが無ければただの“情報(データ)”でしかない。 

 実際に機能するかどうかは、機体が動く様を見て確認する必要があるのだ。

 

「既存の機体にインストールして確認させて貰うのは……無理ですね。絶対、許可なんて下りるわけありませんもの」「だろ?」

 

 もしそれが許可される程、魔導演算機という機材が気安い物であれば、エルは学園を出禁になんてされてない。

 動作確認の為の機体もやはり自分達で用意する必要があるという事だ。幸いにして、ヨアキムも魔導演算機と一緒に研究資金としてある程度はお金を用意してくれている。

 

「しかし、建造の為のお金や資材だって必要になります。侯爵から提供して貰った資金だって有限なんですし、まだ子供の僕達だけで実機製作なんてやっぱり無理ですよ。やるなら……」

 

「と言うか、誰が実機を製作するなんて言ったんだよ?」「え?」

 

「幻晶騎士の建造なんて、今の私らじゃ無理だなんて事は解ってるよ。作るのは模型だよ、模型!」

 

 10m級の機動兵器の建造をいきなり行うなど無謀すぎる。では縮小された模型ならばどうだろう?

 エヴァは小スケールの可動モデルを作ろうと考えたのだ。それもOSの管制を受けた結晶筋肉(クリスタル・ティシュー)で駆動する物を。

 

「なるほど、銀線神経(シルバー・ナーヴ)で術式を伝達すれば、有線による遠隔操縦(リモート・コントロール)ぐらいできそうですものね」

 

「私もソフト開発には詳しくないけどさ。そういう小型のリモコンロボットでも、実際に作って動かしていればいい経験になるし、システムの仕様を考える上でも有益なんじゃないかな?」

 

 これに関してはエルも大いに頷ける意見だった。例え模型でも実際に動く機体を作って反応を確認することは重要な意味を持つ筈だ。

 相棒の了承が得られたところで、予め用意しておいた数々の資料を机の上にうず高く積み上げてエヴァは宣言した。

 

「では、リモコンロボット君の設計や仕様を考えていこう!」

 

 だが、この宣言は同時に二人の舌戦の開幕を意味していた。

 どういう機体を作るかという事で、二人の意見は真っ二つに分かれたからだ。

 

「二足歩行機作りましょう!二足歩行機!やっぱり、人型こそロボットの基本にしてスタンダードですよ!」

 

「いいや、いきなり人型なんて無謀だ!多足機を作るべきだ!できれば、6足以上の歩行肢を備えたやつをな!」

 

 二脚型と多脚型。とあるロボットアクションゲームのプレイヤーであれば、この2択には大いに想い入れがあるであろう。

 ロボットアニメでは圧倒的人気を誇る人型二足歩行機。それに対し、少数派ではあるが一部に熱狂的支持者を持つ多足歩行機。

 ポピュラーで無難なデザインとしては人型の二足歩行の方がいいという意見が多くあるだろうが、実際にこれを製作するとなれば、多くの物理的関門が立ちはだかる。

 

「二足歩行は安定性が低いんだよ!重心位置が高くなれば、倒れやすくなるんだ!転倒するリスクなんて低い方がいいじゃないか!」

 

「二足でも重心をきちんとコントロールすれば、バランスの取れた歩行ができます。機動兵器にとって、重要なのは“動的安定性”です!

 それに多足歩行だって、制御するアルゴリズムが複雑化するってデメリットがあります。システムの仕様が定まってない段階で、無駄に複雑な構成にするのはお勧めできません」

 

「その為にリンク機構があるんじゃないか!あれがあれば、単純な制御で複雑な動きを取らせることができるはずだ。去年拵えたゾイ〇もどきの出来はお前も見ただろ?」

 

「あれは回転運動を基にしているからでしょう?結晶筋肉を制御すれば、もっと巧緻性の高い動きができるはずです。大体、あの模型はちょっとした段差を乗り越えることもできないオモチャだったじゃないですか!?」

 

 お互いに理論武装された主張をぶつけているが、その中に詰まっている本音はもちろん『己の趣味を押し通す事』である。

 ヒト型こそ究極!というエルと、多脚こそロマン!というエヴァ。

 この二人の主張はしばらくの間平行線を辿ったが、まず前提条件を確認するべきだという事で双方一度矛を収めることにした。

 

「幻晶騎士ではどうやって二足歩行をしているのか。まず、それを確認するべきだな。改めて教えてくれ。エル」

 

「一言で言うと、魔術演算領域(マギウス・サーキット)からの様々な帰還制御(フィードバック)によって成立していると表現していいでしょうね。魔導演算機はこれを円滑化するためのシステムとして機能していました」

 

 あくまで魔術演算領域在りきのシステム構成であり、当然これは演算不能者(ノーペレーター)であるエヴァには使えない。

 だが、素人ながら“帰還制御”について少々知識があったエヴァは、気になったことを尋ねる。

 

「たしかフィードバックって、感覚器(センサー)から送られてくる刺激が重要な働きをしたはずだよな?幻晶騎士はその辺はどうなってるんだ?」

 

「まず視覚ですが、これは眼球水晶がカメラアイとして幻像投影機(ホロモニター)に映像を投影することで、操縦者に外界の光景を見せています。また、これはあくまで可視光を捉える光学カメラであり、紫外線や赤外線を見る機能は無いようですね」

 

「暗視カメラや熱感知機能(サーモ・グラフィー)みたいな使い方はできないんだな。聴覚や嗅覚は歩行には関係ないから対応したセンサーなんて積んでないだろうけど、平衡維持で一番大事な“重力”や“慣性”はどう捉えているんだ?」

 

「魔導演算機内部にジャイロ機構が組み込まれているようですが……これは取り出せないですよね?」

 

 これには二人とも揃って渋い顔をする。いくらなんでもせっかく手に入った貴重な魔導演算機を早々に分解するのは問題がありすぎる。

 せめて内部構造や作動原理を理解してから出ないと、危なくて手が出せない。

 そして、エヴァもエルもジャイロセンサーやジンバルの具体的なつくり方は知らないので、自分で作ることも現時点では難しいだろう。

 

「それともう一つの感覚器官として、結晶筋肉を活用しているようですしね」

 

「え!?結晶筋肉ってただの駆動装置(アクチュエーター)じゃ無かったの!?」

 

 人間の生体筋にも腱の部分にゴルジ器官と言う物があるが、結晶筋肉にもそれと同様に伸長や負荷を感じる機能がある。

 これらの感覚情報から逆算することで、魔導演算機は騎操士に機体の関節角度といった“体性感覚”を提供しているようだ。

 

人工筋肉(ソフト・アクチュエーター)畜魔力媒体(キャパシタ)に加え、抵抗観測器(ポテンション・メーター)の機能も持ってる事になるから、実質的に生体筋のほとんどの機能を補完できるんですね。この細い繊維で」

 

「改めて聞くと、やっぱりとんでもない大発明だな。結晶筋肉……私、これ最初に創った人尊敬するよ。マジで」

 

 だが、やはりこれらの仕組みをそのまま利用するやり方では、リモコン模型を安定して歩かせるに能わないという見解を二人が共通して持つに至った。

 

「……やっぱり、現時点では人型二足歩行なんて流石にハードルが高すぎないか?」

 

「……悔しいですが、その様ですね。安定した平衡維持を行うには足りてない物が多すぎる気がします」

 

 人型兵器大好きっ子のエルにも、流石にこれを今すぐにどうにかできるとは思えなかったようだ。

 

 開発する機体は多足歩行を取るという方針がこうして定まったわけなのだが、それからも二人の論争は続く。

 

「4足!4足にしましょう!これならそこまで制御情報が複雑にはなりません。容量的にも演算機には易しいです!」

 

「いいや、6足にしよう!昆虫やトビムシのような六脚類の地形踏破能力や環境適応性を見ても、6本脚が理想的だ!蜘蛛形類みたいな8本脚も捨てがたいがな!」

 

 今度は四足動物(ケモノ)を象るか、節足動物(ムシ)を模るかで言い合いが始まった。

 

 

 

「も~!エル君ったら、またお姉ちゃんとばっかり遊んでぇ!」

 

「なんか、前にも増してバトソン()に入り浸りだよな。二人とも」

 

 オルター邸の中で、兄妹が面白くなさそうな顔で今日もぼやく。

 最近、姉と幼馴染の二人はテルモネン重工の工房施設に通い詰めており、エヴァは放課後から、エルは朝っぱら夕方まで開発と研究に勤しむ毎日である。

 おかげで双子達は置いてけぼりだ。面白い訳が無い。特に、エルにご執心のアディの不満は頂点に達していた。

 

「捕まえようとしても、身体強化(フィジカル・ブースト)大気圧縮推進(エアロ・スラスト)で跳んで行っちゃうんだもんね。エル君」

 

 同じ魔法は双子も使えるが、未だ師匠に当たるエル程の練度ではない。

 機動力でも運動性でも追随できずに、逃げられてしまう。

 

「いっそ、俺達も行ってみるか?バトソン家に」「えぇ?行ってもつまん無くない?鉄とか溶かしてて危ないって言われたし」

 

「俺達だけで遊んでてもつまんないだろ?」「……それもそうだね」

 

 こうしてキッドとアディはテルモネン重工に足を運んだのだが、そこでは姉と親友が舌戦の真っ只中であった。

 

「姉ちゃん達、何してるんだよ!?」「喧嘩は駄目だって、母様にもおば様にも言われたでしょ?」

 

 仲裁に入った双子の声に、再び冷静になったエヴァとエル。

 

 そして、クールダウンしたエヴァからとある提案が出された。

 

「えぇ~い、こうなったら全部作って比較してみよう!それなら文句ねぇだろう!?」

 

「ですね。実際に作ればそれぞれのモーションの検討ができて、より有益です」

 

「「二人とも切り替え早いね!?」」

 

 こうして、リモコンロボット製作は様々な歩行形態をとった機種が作られる運びとなった。相変わらず、双子達は置いてけぼりになってしまっているが。

   

 まず、木材を使って胴体を模した簡単なフレームを作る。それに金属製の関節ユニットや骨格を繋げていき、肢の関節を構成する。

 並行リンク機構を組み込んだ関節は、自由度を制限しつつも安定した運動を支持し肢体を補強する。地球のロボットでもよく利用された形態だった。

 

「そう言えば、こういうリンク機構って幻晶騎士にはあんまり使われてないみたいですね。社長に珍しいなって言われてましたもの」

 

「やっぱり生物の体を模してるから、カラクリ然とした機構とは分けて考えられてるのかもしれないな。前に調べてみたけど、砦の扉を開閉する仕掛けとかには多用されているみたいだし、建築学ではよく研究されてる分野みたいだぜ?」

 

 そんな雑談も混ぜながら、エルとエヴァは人間や動物の筋肉の走行を参考にしたフレームの固定器具(ブラケット)に結晶筋肉を取り付けて、最後に銀線神経を配線していき、ロボットの筐体を組み上げていった。

 これを4体ほど、それぞれの機体の仕様や制御方法に合わせてアレンジしながら作って行き、人型二足歩行機(バイペッド)獣型四足歩行機(クアドラペッド)昆虫型六足歩行機(ヘキサペッド)蜘蛛型八足歩行機(オクトペッド)が完成した。

 

 さらっとやっていることだが、小型模型とは言えこれだけの機体群を短期間で仕上げてしまった二人の技術力たるや、恐るべきものがある。

 ちなみに以前、歩行する模型を作った時に双子達に気持ち悪がられたのを気にしてか、丸っこくて可愛らしい感じに造形されていた。

 また、人型機体も作られた理由は単に『比較検討用データは多い方がいい』という、エルの意見にゴリ押しされた結果である。つまり彼のわがままだ。

 

「さて、作ったはいいけれどこれどうやって動かそうか?」

 

「まずは簡単なパターン歩行をさせてみましょう。それから、フィードバック制御を噛ませた巧緻性の高い歩行も試してみます」

 

 魔導演算機に銀線神経で作ったケーブルを繋いでいき、演算機内部で作成したアルゴリズムに基づいた自動歩行運動をさせてみることにした。

 

 そして大方の予想通り、バイペッドはとにかく転倒しやすい機体だった。パターン歩行では受け身を取ることも難しく、フィードバック制御を噛ませてもあまりに頻繁に転げる物だから、最終的に頭部を模した部品がもげてしまったぐらいだ。

 

「うぅ~!駄目元でやってみたとは言え、悔しいです!やはり、ZMPを捉えるにはまだ必要な技術が足りてないんですね」

 

「「何それ?」」

 

「なんか聞いたことあるな、それ……あぁ、キ〇・ヤマトが早口で捲し立ててたアレ!?」

 

「……合ってるけど、よく覚えてましたね。先輩」

 

 ゼロモーメント・ポイント(ZMP)は地球のロボット工学において、安定した二足歩行を行う為に必要だと考えられていた評価軸(パラメータ)だ。

 機体にかかる重力や慣性・反床力などから、重心位置をリアルタイムに計測するためのものだ。

 

「僕達人間は意識的であれ、無意識的であれ、なんとなく自分の身体の重心位置を把握してますけど、この模型にそれを行わせるには魔導演算機の中で計算させないといけないんですよ」

 

「「ふぅ~ん」」

 

 それができれば、人型機体の緻密な歩行モーションを製作できるようになるのだが……前述したように、それを確実に行うには重力や慣性を観測するセンサーが必要だ。

 実質的に結晶筋肉以外のセンサーを持たないリモコンロボットには、算定するための要素がまだ不足している。

 

「まぁ、それは作る前からある程度は解っていた事じゃないか。またいずれ対策しよう?次は四足歩行機だな」

 

 続いて、獣を模したクアドラペッドの歩行実験が開始される。

 こちらは平坦な場所ではかなり安定して歩行ができた。フィードバックを噛ませるとさらに安定する。

 しかし、段差のある地形ではパターン歩行だけでは乗り越えるのが難しいようだ。うまく制御しないと躓いたり、ひっくり返ったりする。

 

 ヘキサペッドは前者2タイプ以上に安定性が高く、ほとんど転倒しなかった。段差も比較的余裕を持って乗り越えられる。

 

 オクトペッドも同様に、平坦部も段差もスピーディーかつ余裕に走破している。

 

「ほら!言った通り、肢が6本以上あれば、圧倒的に安定性が高いだろう?やはり、昆虫や蜘蛛は偉大なんだよ!」

 

 六本以上の歩脚を使った運動は“静的安定性”が高い。立脚(*地面に接して体を支えている方の脚。浮かせている方を遊脚と言う)が作り出す支持多角形の内側から重心がずれにくいのでバランスが取り易く、より安定した歩行ができるのだ。

 これは『遷移した重心を如何にコントロールするか』という人型ロボットで重要な“動的安定性”と対をなす概念と言えるだろう。

 

「けど、こいつらなんだか去年姉ちゃんが作った不気味な玩具みたいだな。肢が何本もあって気持ち悪いし」

 

「でも、この四本足の子はちょっとかわいいかも?倒れる時もなんだかドジっぽくって守ってあげたくなっちゃった……そっちの二体は私も気持ち悪いと思うけど」

 

 弟妹の子供ながらの素直な感想が心に刺さるエヴァ。

 

「うぐぐ、なんだよぉ。なんでお前ら昆虫や蜘蛛をこんなにディスって来るんだ?蜘蛛はともかく、昆虫って言ったら普通子供には人気の定番モチーフじゃないか!?」

 

「いや、子供なんてみんなそんなモノでしょう?アディにはクアドラペッドは気に入って貰えたからいいじゃないですか。

 それはさておき、やはり肢が多い分制御アルゴリズムは複雑になりますよ。模型レベルだから、まだこんな単純な術式構成でどうにかなってますが、機体を大型化させていったらそれだけ制御術式が演算機の容量を圧迫することになると思うんです」

 

「い、今からそんな事考えてもしょうがないじゃないか……大事なのは安定性だよ」

 

 4機の性能を比較していくと、それぞれの長所と短所が見えて来た。……現時点ではバイペッドに関しては短所の方が多い気がするが。

 概ね肢の数が増える程安定性は増して歩行速度も速くなるが、代わりに制御するための術式が複雑になり、駆動させるための魔力も多くなるという見解であった。

 

「バイペッド……必ず僕が改良して、ちゃんと歩けるようにしてあげますからね!

 さて、それを踏まえてもやはり僕としてはクアドラペッドを発展させる事を薦めます。やはり、制御術式は単純な方が好ましいですから。

 それに登坂性や安定性もいずれ平衡感覚器(ジャイロ・センサー)を開発して組み込めば、どうとでもなるはずです!だから……」

 

 エルは前世でシビアな容量問題と戦ってきたプログラマーだけあって、シンプルかつ余裕を持ったシステム設計をしたいと考えていた。

 それを考えたら、彼が四足型を選ぶのは理に適っているのだが……。

 

「いや、エル。おまえは重要な点を見落としてるぞ」「な、なんですって!?」

 

 目を皿のようにして、機体のモーションを観察していたと自負していたエルだったが、エヴァには違った視点があったようだ。

 

「それは体幹の揺れさ。クアドラペッドは平坦部でも歩いてる途中でめちゃくちゃ体幹が揺れてた。でも、ヘキサペッドとオクトペッドはそれほど揺れてなかっただろ?」「あ……」

 

 このリモコンロボット達は比較的単純なつくりをしているため、体幹は歩行脚同士を繋げる基盤でしかない。

 だが、もしこれを大型化して有人機にするとなると、そこには魔導演算機や魔力転換炉、そしてなにより操縦席が組み込まれることになる。

 

「多分、操縦席はめちゃくちゃ揺れることになるぞ。馬車や自動車の比じゃないくらいにな」

 

「……制御を工夫すれば、どうにか……それに制震機構を噛ませて緩和する事だって……」

 

「だとしても、元の揺れ幅は小さい方がいい。そっちの方が快適に乗りこなせる筈だ。違うか?」

 

 ドヤ顔で指摘するエヴァに、焦燥感を募らせたような顔のエル。二人の舌戦にようやくピリオドが打たれようとしているようだ。

 

「…………ハァァァァァァァ。解りました。とりあえず、ヘキサペッドを発展させる方向で開発を進めましょう」

 

「すごい溜息だな。そんなに嫌か、虫型?」

 

「虫型が嫌なんじゃなくて、四足型の方が好きなんですよ。アーマー〇・コアとかに対してリスペクトできますし」

 

「あぁ、やっぱ本音はそういう理由なのね」[まぁ、私も昆虫型ゾイ〇とかへのリスペクトの気持ちはでかいし、他人の事は言えないか]

 

 結局、二人とも己の私欲(エゴ)が入りまくりなのは変わらないのであった。

 

 

 

「ねぇ。クアちゃんをもっと可愛くできないかな?」

 

 アディはクアドラペッドをすっかり気に入ってしまったようだ。あだ名まで付けて、ぬいぐるみの様にかわいく装飾(デコレート)しようと提案してくる。

 それを聞いて、気を良くしたエヴァが告げる。

 

「わかった。今度、ちょうど良さそうなぬいぐるみを買ってきて被せてやろう。そしたら、こいつはお前にやるよ」

 

「本当?ありがとう!そしたら、私もあの子をさっきみたいに歩かせてあげられるかな?」

 

 原理を理解していない子供らしい感想に、エヴァは苦笑しながら答えた。

 

「流石に魔導演算機を介さないと動かせないと思うよ。それにOSもまだ完成してないんだ。今はまだ無理じゃないかな?」

 

「いや、そうでもないかもしれませんよ」

 

 OS開発者のエルからそんな言葉が出てきたので、エヴァも驚いてしまった。

 

「え?いや、専用リモコンとかがあるわけでもないのに、どうやって?OSは六脚用に調節するんだよな?」

 

「いえ、僕達には魔術演算領域があります。この“思考制御OS”の力を使えば、可能性はあると思うんです」

 

 そう言うや否や、エルがバイペッドの銀線神経を掴むと、右手に持った愛用の銃杖(ガンライク・ロッド)“ウィンチェスター”にそれを巻き付け、目を閉じて何やら瞑想のような事をし始めた。

 

「よし“同期”用の術式を組みました。やってみます!」

 

 すると、彼の左腕の動きに併せてバイペッドの左腕も連動して可動し始めた。

  

「「す、すごい!」」「な!?演算機も使わず!?」

 

「所謂バイラテラル制御ってやつですよ。身体強化に動作術式を噛ませて、僕の左腕を(マスター)、バイペッドの腕を(スレイヴ)に設定して動かしてみたんですが、うまく行きましたね」

 

 魔導演算機内部に元から入れられていた組み込み術理機構(エンベデッド・システム)は、身体強化魔法を基盤(ベース)としたものであった。

 つまり、これの術式を応用すれば自身の脳内でも似たような処理が可能なのではないかとエルは考えたのだ。

 この成功に勢いづいたエルは、自分の全身運動に同期させて機体と共に立ち上がり、そのまま歩こうとしたのだが……バイペッドは立ち上がりに失敗して、再び床に倒れ伏す。

 

「……やっぱり、僕の体とは重さも大きさも違うし、ジャイロの無いこの機体ではZMPまでは同期できないんですね」

 

 体幹の構造もエルの体とは大きく違う。バイペッドは人体には存在する体幹筋(コア・マッスル)も脊椎も存在しないのだから。人間ほど器用に重心を制御できないのだ。

 

「理屈はなんとなくわかったけどさ。クアドラペッドは四足歩行だし、そのやり方は使えないんじゃないか?」

 

「いや、やってみなければ解りませんよ。やるだけやってみましょう」

 

 そう言って、エルはクアドラペッドに対して先程と同様のバイラテラル制御による操作を行ってみた。

 だが、やはり人間は四つん這いになったからと言って四足の哺乳類のような歩行などできない。彼自身も模型も、膝を床にこすり付けてのすり足歩行になる。

 

「むぅ。やはり、そのままでは四足歩行用に使うのも難しいようですね。術式を改良してアーム・スレ〇ヴのバイラテラル角のような角度比調整を行うか、それともやはり脳内でパターン歩行用術式を組み上げるかして対策を……」

 

「ほ~ら、言った通りじゃないか。そんな事より六脚歩行用OSの完成度を……」

 

 そこまで言いかけたところで、エヴァは今のエルの姿勢について“ある事”に気付いてしまった。

 

[これは……女豹のポーズ!!??]

 

 大人のセクシーな女性がやるなら煽情的に感じるポーズなのだろうが、小さく幼いエルが行うとまた違った印象になる。

 

[[[か、可愛い]]] 

 

 稀しくも、この時オルター姉兄妹は揃って同じ感想を抱いていた。血は争えないという事なのだろう。

 当然だがエル本人は、今の自身の姿勢が幼馴染と親友の心にそのような珍妙なトキメキを齎している事など知る由もない。

 

[そうだ!こんなこともあろうかと、作っておいたあのアイテムを装備させれば!]

 

 エヴァはそのヒラメキを胸に、大急ぎで自宅の箪笥に保管しておいた“とある装飾品”を取ってきた。そして、エルの背後に忍び寄ってその頭に被せる。

 それは所謂、猫耳カチューシャというやつだった。

 

「やだ、エル君すごくかわいい!」

 

 アディが思わず零した感想と、いきなり頭部にそんな物を取り付けられた違和感に、実験に集中していたエルも抗議の声を上げる。

 

「なんですか、これ!?やめてくださいよ、先輩!」

 

「予想はしてたけど、恐ろしく似合うな。よし!今度からお前はこのカチューシャを常時着用して……」

 

「絶対にしません!」

 

 こうしてまたしてもじゃれ合いのような喧嘩を始めてしまった二人の姿を、双子達は仲裁に入ることも無く見つめ続けていた。

 ……プリプリ怒っている猫耳エルの姿に見惚れている事は、誰の目にも明らかであった。




*やはり設定を変えることにしました。
幾ら何でも幻晶騎士にはジャイロが無いという設定は無理がありすぎだったかなと考え直したので、この話では“魔導演算機に組み込まれていて取り外せない”という事にします。お騒がせしました~
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