ナイツ&マジック ~演算不能の騎士物語~   作:アルヌ・サクヌッセンム

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大変お待たせしました。5~6月は作りたいプラモのキット発売日が連続した上に、エヴァの影響かトチ狂って、スクラッチビルドへの挑戦なんてやりはじめてしまってかなり時間が空いてしまいました。申し訳ない。


19話 作って遊ぼう!~ホビーロボット・バトル編~

「「あんよがじょ~ず!あんよがじょ~ず!」」

 

「そう、そう。二人ともその調子だぞ!頑張れ~!」

 

 子供達の囃し立てる声に合わせるかのように、二体の人形がテルモネン重工を練り歩く。

 一体は二本、もう一体は四本の足を床に擦れる様に振り動かし、不格好ながら確かに前身していた。

 

「へぇ、器用なもんだな。魔法で動く人形か。幻晶騎士(シルエット・ナイト)をうんと小さくしたようなもんか?もう片方はなんだか獣みたいな形してるが、どう動かしてるんだ?」

 

「……身体強化魔法(フィジカル・ブースト)のちょっとした応用ですよ。ただ、この子達の筐体の構造に併せてかなり術式を工夫してるんですけど」

 

 社長(ボルト)が思わず零した感想に、やや間を置いた後に二足歩行機(バイペッド)を操っているエルが答える。

 どうやらその魔法の演算は彼の実力をもってしても、結構な集中力が必要らしく術式と魔力を伝達している銀線神経(シルバー・ナーヴ)を握る手がかなり力んでいた。

 そしてそれは、傍らに立つ四足歩行機(クアドラペッド)を操るアディにとっても同様なのだろう。彼女の額にも汗が滲んでいる。

 身体イメージと連動している所為だろうか?微妙に両手両足が動いていて、機体と共に体が前に少しづつ進んでいる。

 しかし、この体験は二人にとってそれらの苦労を補って余りあるほどの楽しいひと時を与えてくれるものの様だ。

 

「エル君、見て見て!クアちゃんがあんなに元気よく歩いてるよ!ぬいぐるみが歩いてるみたいでかわいいね!」

 

「まぁ、ずばりそのものぬいぐるみ自体を被せてますからね」

 

 クアドラペッドには馬のぬいぐるみのカバーが被せてあり、まさしく歩くぬいぐるみの玩具と言った風情である。

 そして、バイペッドの方には薄い木の板を箱組して作られた装甲型カバーが付けられていて、低頭身にディフォルメされた幻晶騎士のような姿をしている。

 二体ともデザイン自体は可愛らしいが、本来玩具にこんな高度な魔法技術を投入することはやはり従来では考えられない事だったのだ。

 

 その常識はずれな玩具を作った張本人はとても不満そうな表情をしているようだが。

 

「先輩、まだ納得してないんですか?」

 

「だって、幾ら安定性の為だからってあの“かんじき”みたいな足はいただけないだろう?」

 

 エヴァが指さしたのはバイペッドの足裏に付けられた大きな木の板の事だ。

 こんな物を取り付けている理由はとても簡単だ。接地面積を増やして、機体の静的安定性を向上させているのである。

 

「そもそも二足が静的には不安定と言うのは、歩行肢の先端の支持面積が少ない事にも原因があります。だったら、かんじきで広げてあげればいいのです」

 

 と言って、エルが足裏に取りつけてしまったのだ。

 確かに彼の言う通り、立っている時の安定性は向上した。しかし、

 

「機動性も運動性も悪化してんじゃんか。それにかっこ悪い」

 

 双子達に悪趣味と言われてしまったエヴァだが、彼女なりに美的センスと言う物は存在する。

 それに足先重量が増加したことで、動きのぎこちなさに拍車が掛かっている。

 

「仕方ないじゃないですか。まずは安定した姿勢を取れるようにしなければなりません。自転車の補助輪みたいなものです。いずれ取り外しましょう」

 

 流石のエルもかっこ悪さは自覚しているようだ。恒久的に取りつけているつもりはないらしい。

 

「まぁ、ジャイロ無しだと二足歩行じゃそんなもんだよな。その点、私のヘキサペッドの安定性はピカ一だぜ」

 

 魔導演算機(マギウス・エンジン)と繋がれた幻像投影機(ホロモニター)の前に座ったエヴァが座席に取り付けられた制御盤(コンソール)を操作する。

 鍵盤型制御装置(キーボード)座標入力装置(マウス)軸方向入力機(ジョイ・スティック)と言ったインターフェイスが組み込まれたそれは、この世界の一般的幻晶騎士(シルエット・ナイト)の制御装置とは大きく趣きを異にする機材だが、パソコンやゲーム機に慣れている地球人にとってはなじみ深い物であった。

 この入力機器群からの命令を受け取り、銀線神経で繋がれた六本脚の昆虫のような機械が屹立。リンクの軋む音、結晶筋肉(クリスタル・ティシュー)の収縮音をがなり立てて、ヘキサペッドが疾駆する。

 先の二体よりも軽やかな足取りで歩く機体の動きに対して、エヴァが誇らし気にしていると、

 

「うわっ、キモ!」「まるで台所でカサカサ走ってる例のアレ(・・・・)じゃん!気持ち悪すぎィ」

 

 従業員達の漏らした素直な感想が心に刺さってきた。

 

「エヴァ嬢ちゃん、お前さんもエルの坊主の事をとやかく言えないと思うんだが……かっこ悪いとか通り越して、気持ち悪いぞ」 

 

 ダメ押しの様に、ボルトまでもがそう言って来る。

 

「ちくしょう!なんでみんなして、昆虫型のロマンを理解してくれないんだ!?例のアレ以外にも、子供達に人気なカブトムシやクワガタムシとかかっこいい昆虫はいっぱいいるだろうに!?」

 

「なんだそりゃ?聞いた事無ぇぞ?」「魔獣に殻獣(シェルケース)っていうヤツがいるけど、あれに近い姿の虫だったよな?確か」「それって何の役にもたたん虫ケラだったと思うんだが。子供に人気が出るようなもんじゃ……」

 

 このフレメヴィーラ王国には日本の里山のような『人間が気楽に足を踏み入れられる森林環境』は少ない。植林事業を行っている一部の人工林は材木用の針葉樹が中心で、エヴァがイメージするような愛玩に適するような甲虫類が餌場としている樹液を出す広葉樹は、そのほとんどが天然樹林に生えているのである。

 この場合の天然樹林とは、そのほぼ全てが魔獣の巣窟となっている。子供が昆虫採集になんて出かけたら、森のオヤツとして簡単に戴かれてしまうような危険地帯なのだ。

 そんな国に愛玩用昆虫をペットにする文化が根付く余地がどれだけあるだろうか?あったとしても、ドマイナー趣味扱いになるに違いない。精々、蜂蜜や繊維を取ったり農産物の花粉を媒介する蜂や蚕のような実用的昆虫を家畜化する文化がある程度なのだ。

 故にこの国において昆虫類は先述したような一部の益虫を除けば、『気持ち悪い害虫』扱いが基本なのである。姿の似た大型魔獣が出現することも、これに拍車をかけている。

 

 なので、それらを模した機体は獣型以上に気持ち悪がられるのであろう。

 

[くそぅ、文化の壁は厚いぜ!でも、そんな悪印象になんか絶対負けないぞ。誰が何と言おうが節足動物はかっこいいんだい!いずれ、もっとイカすメカに仕上げて皆をあっと言わせてやる!]

 

 そこまで酷評されても曲げられない程度にはエヴァの拘りも根深いものであった。

 

 しかし、ボルト達はそんなエヴァの胸に宿る野望を知ってか知らずか、更なる無慈悲な言葉を掛けてくる。

 

「で、これらが何の役に立つんだ?」

 

「な、なんですか?『役に立つ』って?ロボットってのはそこにあるだけで素晴らしい物でしょうに」「そうですよ!そうですよ!」

 

 遠回しに自分の作品を『役立たず』だと言われたと感じたエヴァの抗議の声に、エルまでもが便乗してくる。

 この二人にとって、ロボットやメカは例え役立たずやポンコツと揶揄される物であったとしても、愛しい存在なのだから。

 しかし、ボルト達騎操鍛冶師(ナイト・スミス)はあくまで実用品としての機体を造ってきた者たちだ。玩具職人ではない。故に厳しい意見を遠慮なく口にする。

 

「いや、道具ってのは何か目的があって作るもんだろう?そいつらが将来、お前さん達の幻晶騎士(シルエット・ナイト)の操縦や設計の役に立つんだろうなってのはなんとなくわかる。

 でも二本脚のやつはともかく、その虫型や獣型には武器を持つ腕とかがねぇ。それでどうやって戦う心算なんだ?」

 

 幻晶騎士は戦闘兵器である。少なくとも、人々を護って戦う事を期待して創られたものだ。

 見た所、これらの模型達には武器らしきものが何も備わっていない。獣や虫が持つ爪も牙すらも付いていない。

 だから例えば、これをそのまま10倍以上に大きくしたとしても、幻晶騎士や決闘級魔獣が横から少し蹴り上げただけで簡単に破壊されてしまう光景が想像できる。武器が無いのではまともな抵抗もできないだろう。

 そんな役立たずな機械を製造できる程、この国の人々は暇ではないのだ。

 

「カチーンと来ちゃったなぁ。そこまで言うなら、付けてやろうじゃないですか。戦闘能力!」

 

 そう言うや否や、エヴァはヘキサペッドの筐体の上に木の板と触媒結晶をくっつけて、そこに更に紋章術式(エンブレム・グラフ)を刻み込んだ。非常に簡素な構造の魔導兵装(シルエット・アームズ)である。

 

「この通り、魔導兵装をくっつけるだけで簡単に武装できるでしょ。ほら!」

 

 銀線神経を繋いで追加された回線(チャンネル)にて流し込まれた魔力が、弱々しい火球(ファイア・トーチ)を発射する。

 だが、エヴァが深慮無しに放ったこの法弾がこの後悲劇を起こした。

 

 いくら攻撃力の小さな基礎式(エレメント)とは言え、法弾は法弾。当たれば、それなりに熱と衝撃波を発生させる。

 流石に人に向かってそれを撃つほどエヴァも考えなしでは無かったが、その射線軸上に存在した物の事をちゃんと意識していなかった。

 

 炸裂音と共に吹き飛んだのは、バイペッドの頭部だったのだ。

 

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!?なんてことするんですか!先輩の馬鹿ぁ!」

 

「あ”!?わ、悪い」

 

「なんですか?人型機体に対する当てつけのつもりですか?このすっとこどっこい!」

 

「そ、そんなつもりじゃねぇよ……本当に悪かったよ。すぐに直してやるから、な?」

 

「いいでしょう!そっちがその気なら、決闘です!ロボト〇です!」

 

「人の話聞けよ!謝ってるじゃんか!」

 

 すぐに非を認めて必死に謝罪の言葉を口にしたエヴァだったが、愛機を破壊されたエルの怒りは収まらない。

 激昂状態になってしまったエルとの会話は、売り言葉に買い言葉。段々エヴァの方も喧嘩腰になってしまい、

 

「わかったよ!そこまで言うなら、そのロボ〇ル受けて立ってやろうじゃねぇか!」

 

「上等です。たかが六脚歩行程度でいい気になっている昆虫君に身の程を教えてあげましょう!」

 

 こうして、あれよあれよと言う間に2体のロボット玩具による決闘が行われる運びとなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 テルモネン重工の工房施設の裏側、以前は打った武器の試し切りや魔法の試射場として使われていた場所に、たくさんの建物の模型が並べられていた。

 小さな木のミニチュアまでもが植えられてリアリティを演出しているこの空間。それは所謂ジオラマと言われるものだ。

 何故こんなものが用意されているのかと言えば、答えは簡単。これから行われる試合の臨場感を増す為である。

 

「なんでこんなことに……」「父ちゃんが煽ったからじゃない?」「俺の所為かよ!?」

 

「エル君もお姉ちゃんも普段はすごく大らかだけど、時々変な事で怒る事あるよね」「沸点が解りづらいんだよな。二人とも」

 

「そして、すごい凝り性」「こんなの作るぐらいだからなぁ」

 

「「違いない」」

 

 見学している弟妹や友人・大人達の呆れ顔を尻目に、エヴァとエルはお互いの愛機を通してこの箱庭のような決闘場で対峙する。

   

「先輩、ロボ〇ルのルールは覚えていますね?」

 

「おうよ!頭部を破壊された方が負けだったな?だから、ヘキサペッドの機体前部にも取り付けておいたぞ、頭部パーツ。まぁ、ただの飾りだけども。

 ……けど、お前の頭部パーツってそれでいいのか?」

 

「いいんです。あくまで応急的な物ですし、これが終わったら改めて修理してもらいましょう」

 

 エヴァが微妙な顔をしているのは、現在のバイペッドの頭部は破損した部分を白い布で覆い、その上から顔を描いているからだ。

 応急修理とは言え、その姿はあまりに滑稽(シュール)である。

 

「ただの案山子ですな!」

 

「……言ってくれるじゃないですか。すぐに吼え面かかせてあげます!」

 

「いや、今のはただ言ってみたかっただけだぞ。コマ〇ドーって知ってるだろ?」

 

「問答無用です。ロボ〇ルゥゥゥ、ファ~イト!」

 

「うわ!まだ同意はしてないぞ!っつ~か、レフェリー役も兼ねるつもりかよ。お前!?」

 

 不意打ち気味な試合開始の合図と共にバイペッドが歩き始め、それからやや遅れてヘキサペッドも動き始める。

 

 エヴァはまず距離を取った。飛び道具を持っているアドバンテージを活かす為だ。

 

[へへへ、こっちは魔導兵装を持っているんだ。射程外(アウトレンジ)から一方的に叩いてやる。まさか卑怯とは言わないよな?エル!]

 

 するとこちらの意図を察したのか、エルはバイペッドを遮蔽物となる建物の陰に隠した。

 

[まぁ、そうするよな。でも、それじゃ丸腰のバイペッドは防戦一方だぜ?どうするつもりだ?]

 

 構わず、エヴァはヘキサペッドの魔導兵装から火球を乱射しまくる。

 狙いなどつけず数に任せて撃ちまくった。というより、この機体は眼球水晶など装備していないので正確な照準(エイム)など土台不可能なのである。

 だから、弾幕を展開して火力でねじ伏せる戦術しか彼女には取れなかったのだ。

 しかし、この場合その戦法は有効に機能している。殺到する炎弾によって、バイペッドの隠れている建物模型は早くも炭化し始めていた。

 

 このまま、為す術も無くエルはやられてしまうのだろうか?

 

「……装填(ロード) 紋章弾倉(エンブレム・カートリッジ)!」

 

 エルは愛用のウィンチェスターの引き金を引き絞り、弾倉(マガジン)内部に仕込まれた紋章術式を発動させる。

 それは銀線神経を通して、バイペッドの腕に流れこむと結晶筋肉(クリスタル・ティシュー)を魔力で励起させた。

 

 そう、エヴァは勘違いをしていた。バイペッドに法撃はできないと。

 結晶筋肉はただの人工筋肉ではない。触媒結晶でできた魔法の筋肉であり、これも元になった素材と同様に、あらゆる魔法現象の発動媒体となり得る物なのだ。

 発動した風の基礎系統に連なる魔法が炎を掻き分け、無傷のバイペッドが姿を現した。空気の対流にて攻撃を防ぐ、大気圧壁(ハイプレッシャー・ウォール)である。

 

「な、何!?」

 

「先輩、やっぱり勘違いしていたんですね?バイペッドに法撃戦ができないって。これで条件は互角(イーブン)ですね」

 

 そう言って、エルはバイペッドの手指部の先から法弾を発射してきた。

 

 この反撃にエヴァはかなり動揺していた。試合を有利に進める前提条件がひっくり返ってしまったのだから。

 こちらが攻撃に使える魔法は弱々しい火球を発射する魔法のみだというのに、エルは弾倉に装填しているあらゆる魔法を使って、もっと豊富な種類の戦法が展開できる。そして、その中には先程の大気圧壁のような防御技まである。

 手数に圧倒的な差を付けられてしまったのだ。

 

 だが、そんなエヴァにも理解できることがある。バイペッドの操作を行っている術式は身体強化魔法に類似する魔法だったはずだ。おそらく、それは魔力をかなり消費する物であろう。

 

[いくらアイツが天才でも、そんな上級魔法に加えて攻撃魔法まで併用するとなると、相当消耗するはずだ。魔力量では魔導演算機や戦術級魔法(オーバード・スペル)すら使える私の方が上!持久戦に持ち込めば、こっちの勝ちに持っていくことはできるはず!]

 

「まだ諦めないぞ。私はァ!」

 

 エヴァは作戦を変更した。攻撃の対象をバイペッド本体だけでは無く、周辺の地形にも向けた。

 法弾が地面に突き刺さり、小規模爆発の嵐によって地表を荒らしていく。

 

「なるほど、地形を破壊することで機動妨害するおつもりですね?確かに今のこの子の二足歩行能力では悪路は走破しにくいから、悪くない戦術かもしれない……もっとも、それは僕が歩行“しか”できなかったならの話ですけどね!」

 

 更なる魔法が発動する。これもまた風の系統魔法だった。エル自身がいつも移動に使っている大気圧推進(エアロ・スラスト)である。

 それは平衡感覚を提供するジャイロが無いため、着地の度に倒れそうになる程不安定で不格好なものだった。というより、こまめな噴射を行う事で無理やり姿勢制御をしている印象を受ける。

 だが、その魔法は確かに噴射跳躍(ブースト・ジャンプ)によってバイペッドに凄まじい機動力を与えていた。 

 

「お前、そっちでもそれできんのかよ!?反則だぁ!」「勝てばよかろうなので~す!」 

 

 やがて、バイペッドは弾幕の射程外へと逃れてしまう。

 ヘキサペッドはちょうど地球の装甲戦闘車両で言う所の突撃砲のように、魔導兵装を機体に固定して使っていたので射角調整は胴体ごとやらなければならなかった。

 その為、横の射程(レンジ)が狭くなってしまっていたのだ。横に素早く移動されると捕捉できなくなる。

 

「畜生!近寄られたら、お終いだ。やらせるか!」

 

「無駄です。この魔法の機動力はあなたも良く知っているでしょう?」

 

 ヘキサペッドは歩行脚しかもっていない。接近戦で有効な武器を一切持っていないのだ。

 だから、逃げた。6本の足を某害虫(G)の如く動かして必死に逃げ続ける。

 しかし、エルのバイペッドからは逃げられない。噴射跳躍の機動力は圧倒的だった。

 

 このまま、エルの有利に事が運ぶに違いないと誰もがそう思っていた時、

 

 破滅の音が聞こえた。

 

 それはバイペッドの足首から発せられた。細かな木片が飛び散り、骨格(フレーム)が砕けてしまったのだ。

 噴射跳躍後の着地の度に蓄積していく負荷に、関節が耐えられなかったのである。 

 これにはエルも堪らず、機体を地面に倒れさせてしまった。なんとか受け身は取ったが、この時片方の手首関節も故障してしまい使い物にならなくなった。

 

[や、やってしまいました!足先重量の増加も負担になっちゃったんでしょうか!?いや、今はそんな事より……]

 

 エルはヘキサペッドの行方に再び注意を向ける。

 この絶好の機会をエヴァが見逃すはずが無いからだ。

 もちろん、彼女は反攻に転じた。今度は素早く近寄り、魔導兵装の切っ先をバイペッドの頭部に付きつけて来た。

 

「この距離なら防御魔法(バリア)は貼れないな!やっぱり持久戦に持ち込んで正解だったぜ!魔力切れを狙ったんだが、こんな形で勝利が転がり込んでくるとはな」

 

 エヴァは勝ち誇るかのように、そう宣言した。

 

「エル!これで私の勝ちは揺るがない!私が勝ったら、以前作った猫耳カチューシャを再びつけてもらうぞ!メダ〇ットとは違ってパーツ交換なんてできないんだから、それぐらいの役得があってしかるべきだよな?アーッハッハッハッ!」

 

 続けて、後だしの罰ゲームまで言い出してくる。彼女はとことん調子に乗っていた。

 しかし、それを聞くエルの顔からも笑みは消えていなかった。

 

「えぇ、いいですよ。その代わり、僕が勝ったら先輩にも罰ゲームを受けてもらいます。敗者にはペナルティを。あなたが言い出したことですよ」

 

「あ?この状態から逆転ができるなんて思ってるのかよ?」

 

「えぇ、そうですとも。いとも簡単に」「え?」

 

 その瞬間、バイペッドの周辺の空間が爆裂した。

 いや、凄まじい圧縮大気が一気に解放されて膨張し、衝撃波をまき散らしたのである。

 実はこれと同じ魔法をエルは先程使っていた。大気圧壁である。

 この魔法は遠くから観察していたエヴァには防御魔法に見えていたが、実際は至近距離で使えば攻撃手段としても利用ができる応用の範囲の広い魔法であった。

 これをもろに喰らってしまったヘキサペッドの頭部は魔導兵装事吹き飛んで、破壊されてしまった。すなわち、ゲームオーバーである。

 

「あ、ア〇ルト・アーマーってマジかよ?」

 

「迂闊に近寄るからですよ。『獲物を前に舌なめずり、三流のする事』ですよ?」

 

「ふぎぃぃぃぃい!?悔しぃぃぃ!」

 

 油断から、思わぬ形で惨敗を喫してしまった悔しさでエヴァは絶叫した。

 そして、悔し涙が滲む彼女に更なる追い討ちをかける者がいた。

 

「お疲れ様、二人とも。気は済んだか?気が済んだんなら、この惨状の後片付けをするんだ。他人様の家の庭をめちゃくちゃにしたんだから、当然だよな?元通りにするまで、家には返さねぇぞ」

 

 額に青筋を浮かべたボルトに凄まれて、顔を青褪めさせるエヴァに無情にもエルは告げる。

 

「……そうだ。さっき言ったペナルティですけど、ここの後片付けは『全部』先輩がやってください。お互いの機体の修理はまた今度でもいいので。それでは!」

 

「んなぁ~!?ちょっと待て、エル!?」

 

 目にも止まらぬ速さで、バイペッドを抱えたエルはどこかに行ってしまった。

 後に残されたジオラマ模型の残骸とクレーターだらけの庭をエヴァは一人寂しく、せっせと片付け始めるしかなかった。

 

「畜生ぉぉぉぉう!次にやるときは負けないぞ!絶対にいつかギャフンと言わせちゃる!」

 

 この期に及んでも、全く懲りないエヴァの態度に大いに呆れたボルトは、つける薬が無いとその顔に諦観すら浮かべていた。

 

  

 

 

  

  

「な、何だったんだ。今の戦いは!?」

 

 先程の凄まじい小型機体達の戦いをこっそり覗いていた部外者がいた。

 バルトサールだった。彼は工房施設に潜入して、エヴァ達を監視していたのである。

 従業員も野次馬として観戦していたので、みんな彼が紛れていた事には気付かなかったようだ。

 

「小さな幻晶騎士。そして、魔獣のような醜悪な機体。あれがあの女達が欲していた魔導演算機の使い道……!?」

 

 彼にも理屈は解らない。いや、だからこそ自身の想像をはるかに超えたとてつもない魔法技術の産物に戦慄を憶えたバルトは、著しい危機感を覚えた。

 

「あんなものを使って何らかの手柄を上げられたら、いよいよ私の代わりにあいつらの緋犀騎士団への入団が近づく。いや、そればかりかあれをたくさん作れば、乗っ取りすらできるかも……そうなったら!?」

 

 悪い意味で子供らしい妄想が肥大していき、バルトの心に仄暗い覚悟を固めていく。

 

「なんとか……なんとかしなければ……」

 

 彼は幽鬼のような表情で帰路に就く。その頭の中は彼が必死に考えた“攻撃的な計画”が渦巻いていた。

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