ナイツ&マジック ~演算不能の騎士物語~   作:アルヌ・サクヌッセンム

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なんか文字数が中途半端になった感があるので、次を投稿する際には、この話は1話と統合するかもしれません。
無計画で申し訳ない orz


2話 魔導兵装

 その日はとても静かな夜だった。

 普段は生存競争に明け暮れている魔獣達ですら大人しくしているように感じられる程の穏やかな時。

 セラーティ侯爵領お抱えの訓練施設の警護担当の騎士達は、時折襲い来る睡魔と戦いながらもうじき到着する交代要員達を待っていた。

 

 そんな静寂を破ったのは爆音。

 

「!?なんだ今の音は?」

 

「幻晶騎士の格納庫から聞こえたぞ……火の手!?」

 

 施設の屋根から濛々と立ち込める煙が炎に照らし出されていた。

 まさか魔獣の襲撃かと皆騒然とする。

 

「馬鹿な!あれだけの威力の攻撃を行えるほどの魔獣が接近して、なぜ誰も気づかなかったんだ?」

 

「とにかく火を消そう。延焼を許すわけにはいかん」

 

 流石は訓練された騎士達だ。素早い判断で現場に駆け付ける。

 格納庫の中はひどい有様だった。落ちてきた建材がそこら中に散乱し、燃え上がっている。

 騎士たちは必死に消火活動を行った。そしてその最中でそれを発見した。

 

「な、何故こんなところに子供が?」

 

「気を失っているようだ。早く手当てを!」

 

 何故か格納庫の中で横になっていた一人の女の子。

 外傷は見当たらないが、油断は禁物だ。内臓や脳まで無事かどうかは外側からではわからない。

 とにかく安全な場所に移して安静にさせ、医療班に診せよう。

 そう考えた騎士達は、とりあえず少女を医務室に運んだ。

 

「検査をしてみましたが、やはり外傷はないですし内臓等にも異常は確認できません。おそらくは大丈夫でしょう。あとはこの子が目を覚ますのを待つしかないですね」

 

 医師の診断を聞いた騎士達はとりあえずは胸を撫で下ろす。

 

「しかし、どうしてこの子はあんな場所にいたんだ?というかいつの間に入ってきた?」

 

「それも気になるが、あの爆発は結局何だったんだ?魔獣の攻撃にしては妙なことが多すぎる」

 

「確かに。結局、魔獣の姿は確認できなかった……まさか、外部の人間がこの施設を襲撃して……」

 

「おいおい、こんなところを襲ったって戦略的には何の意味もないだろう?」

 

 お互いの疑念を語り合っていた騎士達の耳に、消火活動が終わった旨の報告が聞こえてきた。

 

「幸いにして、幻晶騎士には大きな被害はありませんでした。最も被害の大きかった機体も外装(アウタースキン)の一部張り替えだけで対応できそうです」

 

「不幸中の幸いだな。あとは原因を究明するのみか」

 

「それなのですが、妙なんです。爆発は格納庫の内側から起こったようなのですが、天井を破壊する以外には大きな被害をもたらしていません。そして爆発の起点になっているのも天井のようです。そう、まるで内部から天井に向けて、法撃を行ったかのような……」

 

「なんだ?それは?一体あの時、あそこで何が起こったというんだ?」

 

「もしかすると、例の少女が何か知っているかもしれない。あの子が目を覚ましたら事情を聞いてみよう」

 

 女の子が目を覚ますまで、彼らは施設の片付け作業を行い、時を待った。

 そうこうしている内に少女が目を覚まし、騎士たちは尋問を開始する。

 

「気が付いたかい?混乱しているみたいだね。まず君の名前を教えてもらえるかな?……そうか、エヴァリーナちゃんというのか。

 エヴァリーナちゃん、君はなぜあんなところに居たんだい?あの時、一体何が起こったのか、覚えていたら教えてもらえるかな?」

 

 できる限り優しい声音と口調で尋ねる騎士達。最初は混乱していた少女も、だんだんと事態を把握し始めたようだ。

 それと同時に何故かどんどん顔色が悪くなって行って、遂に彼女はその場にいた騎士たちの目の前で、床に突っ伏した。土下座であった。

 

「ごめんなさい!」

 

 平謝りをする彼女の口から語られたのは、騎士達の常識を凌駕する言葉だった。

 

 

 

魔導兵装(シルエット・アームズ)の暴発?」

 

 この訓練施設の責任者ヤーコブ・フースが執務室にて部下の報告に対してそう、聞き返す。

 

「えぇ。基地に侵入した少女の証言によると、壁に立てかけていた魔導兵装を誤って天井に向かって発射してしまい、火災を引き起こしてしまったとの事です」

 

 その言葉を聞いてヤーコブは豪快に笑いだした。

 

「ははははは!それは将来が楽しみな子だな!悪戯が過ぎる部分もあるが、その子はまだ7歳なんだろう?その歳で幻晶騎士に搭乗して法撃までこなしてしまうとは、かなりのセンスの持ち主だぞ。大人になったらさぞ優秀な騎士になってくれるだろうな」

 

 ヤーコブも子供の頃はよく思ったものだ。あの巨人兵器に実際に乗ってみたい。騎士達のように戦いたいと。

 その時分の己は当然、実際に搭乗できる能力も資格も持ち合わせていなかったが、ふと魔が差せば件の少女の如く操縦席に乗り込もうとしたかもしれない。そういう意味では共感できる。

 火災事故まで起こしてしまっているが、幸い被害は比較的軽微で済んだ。特殊な工作員の線も考えないではなかったが、取り調べてもそういう人間では無い様だし、今回は厳重注意ぐらいで許してやろう。

 フレメヴィーラ王国は常に魔獣との戦闘に備えなくてはならない国家だ。有望な人材はいくらでも欲しい。その為に、例え自分がこの施設の長として多少の責任を負うことになっても、それが将来の騎操士の糧になるのだとしたら、笑って許してやろうではないか。

 ヤーコブはそう考えるほどには、大らかな人物であった。

 

 しかし、部下の話には続きがあった。

 

「いえ、その……彼女は幻晶騎士を操縦したわけではないようです」

 

「うむ?どういうことだ?」

 

「閣下……信じられないとは思いますが、どうやら彼女は生身で魔導兵装を発射したようです」

 

「……は?」

 

 しばしの静寂が執務室を支配する。

 

「……あ~、そうか訓練用の弱装杖を使ったのか?あれなら人間にもなんとか扱えるぐらいの魔力で発射できる。ははは、それでもすごい魔力の持ち主だ。やはり将来有望な……」

 

「いえ、そうではなく……閣下、今回暴発したのは炎の槍(カルバリン)の術式が刻まれた魔導兵装。これは紛う事なき実戦仕様の戦術級魔法(オーバード・スペル)です」

 

「そ、そんな馬鹿な……」

 

 ヤーコブが驚くのも無理はない。戦術級魔法は人間に扱える魔法ではない。幻晶騎士の動力炉たる魔力転換炉(エーテル・リアクター)からの魔力供給を以ってでなければ、発射できないほどの凄まじい魔力消費を必要とするのだ。

 それだけの魔力を持つ人間など普通あり得ない。よしんばそんな人間が居たとしても、年齢が二桁にも届いていない女の子に発現するのは明らかにおかしい能力だ。

 どうやら部下は確認のために、一度少女に射爆場で魔導兵装を触らせてみたそうだが、彼女はそれを使って苦も無く爆炎魔法を発射して見せたそうだ。

 控えめに言っても、それはもはや魔獣の範疇になりそうな能力だろう。

 

「いったい何者なんだ?そのエヴァリーナ・オルターという娘は……」

 

 ヤーコブの言葉は部下への質問でなく思わず口にした感嘆の台詞であった。

 

「どうやら彼女には捜索願いが出ていたようなので、保護者に連絡しておきました」

 

「いったいどんなご両親がやってくるのか……一周回って楽しみなぐらいだな」

 

 そう言っていたヤーコブの元にやってきた父親を名乗る人物の素性に、彼は腰を抜かすことになる。

 何故ならその人物はこのセラーティ侯爵領の最高責任者、ヨアキム・セラーティだったのだから。

 

 

 

 

 

 

 重い。ひたすらに空気が重い。

 エヴァは自分の両親に連れられて、車上の人となっていた。

 馬蹄と車輪やサスペンションの軋む音だけが聞こえる馬車の中で、両親が俯いたまま顔を顰めて黙っている。

 彼是数十分、ずっとこの調子なのだ。居た堪れない気持ちになったエヴァは心の中でこう叫んだ。

 

[お願いだ!お父さん、お母さん、何か喋って!いっそカンカンに怒って叱ってくれてもいいから!]

 

 幻晶騎士に勝手に乗り込んだ挙句、魔導兵装を暴発させてわずかとは言え施設に損害を出した。

 雷を落とされるぐらいなら甘んじて受け入れるつもりだった。自分に出来る範疇であれば多少のペナルティを課されても文句を言うつもりはない。

 そんな覚悟を抱いていたエヴァの内心に反して、施設の関係者も彼女の両親も叱責の一つすら口にしなかった。

 いや、それどころか腫物でも触るかのような態度になっていったのだ。最初は優しい態度をとっていた施設の大人達も、魔導兵装を発射して見せたあたりから様子がおかしかった。

 そう、あの視線はまるで理解不能の怪物でも見るような目だった。

 

「……エヴァ、本当なのか?お前が魔導兵装を発射して見せたというのは?」

 

「あ、はい。確かにそうです」

 

 待望の父からの言葉に、エヴァはできる限り落ち着いて返答をした。

 ヨアキムは首を振りながら、深い溜息をついて「有り得ない」とこぼした。

 

お母さん(イルマタル)の話では、お前は魔術演算領域(マギウス・サーキット)すら認識できない筈ではなかったのか?それなのに魔導兵装を暴発させるほどの魔力を有するという。これは本来、あり得るはずの無いことなんだよ」

 

 魔法は演算によって制御される。それがこの世界の理だ。

 その制御するための能力(アビリティ)を持っていないにも関わらず、(エネルギー)だけは豊富に存在する。そんな状態は歪であり、危険なのだ。

 また、知恵の力によって魔法を制御する生物であるのがこの世界の人間ならば、それを本能だけで制御する生物は“魔獣”と呼ばれる。

 演算という知恵の力で制御できない暴走の危険を孕んだ力の持ち主など、本能で暴れる魔獣と何の違いがあるのだろうか?

 施設の騎士達がエヴァを魔獣と同一視したとしても、不思議ではないのだ。魔獣はこの国で恐怖の象徴だ。

 騎士たちの態度が腫物を触るようなものになったのは、当然と言えば当然だった。

 

「エヴァ、お前は騎士になりたいそうだね?その言葉に偽りはないな?」

「は、はい!なりたいです。騎操士になりたいです!」

 

 その返事を聞いて、塾考したヨアキムは語る。

 

「私は幻晶騎士には門外漢だから、お前が騎操士になれるかどうかはわからない。

 しかし、これだけは言える。お前にはどうやら常人を超えた力があるようだ。騎士を目指すというのならば、己の力をきちんと制御できるようにならなければならない。

 お前は魔術演算領域に代わる力の制御法を得る必要がある」

 

 そして彼はとある決断と共に、その名を口にした。

 

「ライヒアラ騎操士学園。国内最高の学府と名高い騎士の養成学校だ。お前をそこに入学させようと思う」

 

「ヨアキム様、本気ですか!?」「お父さん!本当に私を騎操士の学校に入れてくれるんですか?」

 

“騎操士”その名に含まれる言葉にエヴァは狂喜乱舞した。イルマタルも驚愕を隠せなかった。

 ただし、ヨアキムの言葉には続きがあった。

 

「あぁ、本当だ。ただし、お前が入るのは“騎士学科”だ」「騎士学科?」

 

 騎士学科とは、幻晶騎士の操縦をする騎操士を養成する“騎操士学科”とは別の学部だ。

 砦の警備や騎馬を使った行軍、馬車の操作などの幻晶騎士を使わない任務に従事する騎士。言わば、歩兵や騎兵の養成コース。

 

[なんだぁ。幻晶騎士(メカ)の操縦を教えてくれる学部じゃないのかぁ]

 

 思わず顔に出た落胆の表情を目敏く読み取ったヨアキムは注釈を加える。

 

「そう落胆するな。お前がもし自分の魔力のきちんとした制御方法を確立したならば、他学科への編入も取り計らおう。場合によっては騎操士学科に途中編入することも許す。

 だから、ライヒアラで見つけてくるんだ。お前の力の使い道をな」 

 

[なるほど、進路を自分で選ぶ余地は残されているってことなんだな?それなら、まだ希望はある!]

 

 そう考えたエヴァの目に希望の光が宿り、感謝の念を口にした。

 

「ありがとうございます、お父さん!私、その学校で精一杯勉強します!そして、立派な騎士になってみせます!」 

 

 笑顔でそう答える娘の顔に一瞬、優しげに顔を綻ばせたヨアキムだったが、一瞬で表情を切り替えてこう言い放った。

 

「それはそれとして、訓練施設に勝手に侵入し許可なく幻晶騎士に搭乗した。これは本来、許されないことだ。まさか、お咎めが全くないとは思っていなかったろう?」

 

 それから邸宅に付くまでの間、エヴァは両親に散々叱られた。彼女の表情は段々引き攣った泣き笑いのそれに変わって行き、終いにはごめんなさいと連呼するだけになっていった。

 

 ともあれ彼女は、こうして父親の計らいで夢への一歩を踏み出すことが許された。

 この先にどんな困難が待ち受けているとしても、この両親が応援してくれるなら、きっと乗り越えていける。エヴァはそう思えた。

 

 

 

 

 

 

[エヴァ、許してくれ。これはお前の為でもあるんだ……]

 

 ヨアキムは娘を叱りながら、心中では同時に懺悔をしていた。

 ライヒアラ騎操士学園への入学。この極上の餌にエヴァはしっかりと喰い付いた。だから、説得はスムーズに進んだ。

 だが、ヨアキムは嘘をついていた。

 

“私は幻晶騎士には門外漢だから、お前が騎操士になれるかどうかはわからない”

 

 ヨアキムは騎操士として、幻晶騎士に搭乗した経験を持っている。だから解る。幻晶騎士の操縦には魔術演算領域がどうしても必要なのだ。

 演算不能者は騎操士にはなれない。それは何故なのか、体験して理解していた。だが、彼はそれを敢えて伏せた。

 

[あの学校なら、国内の優秀な教育者たちが集まる。うちの子を正しく導いてくれるだろう……]

 

 騎士としての心構えを教え、その能力をうまく引き出してくれるだろう。

 そしてもし万が一、彼女の能力が暴走してしまったとしても、訓練機とはいえ幻晶騎士が配備されている学校なら“鎮圧”もできる。

 

[制御ができるかもわからない魔獣のような人間。そんな存在を領内には置いておけないのだ]

 

 彼の“領主としての思考”がコントロール不能な異物(イレギュラー)を排除しようとする。

 だが、同時に実の娘を無責任に放逐などしたくない。彼は子供たちを愛していたからだ。それは愛人との間の子供であろうと変わりはない。

 

[あぁ!願わくばこの子が良き師匠、良き友に巡り合い、幸せを掴んでくれることを]

 

 罪悪感を噛み殺しながら、ヨアキムは妻子と共に邸宅に帰りついた。

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