ナイツ&マジック ~演算不能の騎士物語~ 作:アルヌ・サクヌッセンム
以前にも増して伏字が多いけど、お許しください。
あの劇的な告白からわずか一日の事である。
「すいません。エヴァさん、やっぱりこれは受け取れません」
今にも泣きだしそうな程の無念を湛えた表情で、エルネスティはエヴァリーナが渡した
[あ~、もしかしてご両親にバレちゃったの?」
「……はい。油断してました。枕元に置いておいたら、朝起こしに来てくれた時に……」
常識的な判断だと言わざるを得ない。エヴァはエルの両親の判断を評価した。
息子さんがどこの誰とも解らない人間にいきなりプレゼントを貰って帰ってきたら、良識ある人物なら必ずこう言うだろう。
『返してらっしゃい』と。
この可能性を考慮していなかった己の判断こそが短絡的かつ浅はかなのであって、エルも彼の両親も全く悪くない。
しかし、エヴァだってせっかく心を込めてプレゼントした品を突っ返されるのは心外だ。
なんとかならないかと思ったエヴァはすぐにある考えに行きつく。
「よし。エル君のご両親にご挨拶に伺おう」
どこの誰とも解らない人物から送られた品が問題であるのならば、誰がプレゼントした物なのかはっきりさせればいい。むしろ自分の為人を知って貰う方が、後々都合がいい筈だ。
考えてみれば、自分はエルの両親の稼業も家族構成も知らないではないか。これはそういった情報を得る上でも都合がいい。エヴァはそう考えた。
だから、“とある準備”を行った後でエルに案内してもらった彼の自宅を見たとき、エヴァは驚きを隠せなかった。
[ちょ!うちの邸宅と同じぐらいの大きさじゃないか!?もしかして、エル君の家って貴族?]
貴族の作法や力関係に疎い自分にはよく解らないが、愛人の家庭よりはしっかりした家柄なのではないか?
厳格なマナーとかを求められたらどうしよう。そんな考えがエヴァに冷や汗を流させる。
「エヴァさん、僕からも紹介させてもらいますから、どうぞ中へ」
「……はっ!そ、そうだね。ありがとう。」[くっ!こんな事で怖気付いてどうする!勇気を出せ、私!]
玄関から元気よく挨拶して御宅に上がらせてもらうと、すぐに母親らしき人物が顔を見せてくれた。
エルそっくりの銀髪の美人だった。
「あら、いらっしゃいませ。エルの友達かしら?どうぞ、楽にしてくださいね」
「お邪魔してます、こんにちは。エヴァリーナ・オルターと申します」
お茶菓子などを用意してくれたこのお母さん、
「え?あなたがあの模型をエルにくれた友達だったの?」
「はい。今日はその件でここに来ました。単刀直入に言いますと、改めてエル君にあれを貰ってほしいと思いまして、お願いをしに参りました」
「で、でもあんなに高価な物を貰うのはあなたにも、あなたの御両親にも申し訳ないわ」
セレスティナはエヴァが懸念していた通りの事を口にした。
当然だろう。誰だって8歳児が木製の幻晶騎士の模型を
だから、エヴァは証拠を用意してきた。予め箱に入れて持ってきたそれらをテーブルに並べる。
「これは?」
「その模型を作る前に、いくつか作っていた試作品です」
「試作品……もしかしてこの模型はあなたが作ったの?」
「はい。お店で売ってるのと比べたら粗末な出来でお恥ずかしいですが……」
「そ、そんな事ないわよ!?……本当に驚いたわ。まさかあなたの作品だったなんて。」
「材料費とかはそんなに掛かってないので、お金の事は気にしないで欲しいんです」
「いえ、これはお金の問題では……」
「エル君に貰って欲しくて、心を込めて作りました。受け取って貰えないのは悲しいのです。それでもダメでしょうか?」
上目遣いでエヴァはセレスティナに懇願した。健気な少女の姿勢にティナは数分の思考の後、首肯した。
横で交渉の趨勢を見守っていたエルの表情が一気に華やぐ。
「……わかりました。うちの息子の為にそこまでしてくれるなんて、これは断ったら逆に失礼ですね。私からもお礼を言わせてもらいます。本当にありがとう」
「こちらこそありがとうございます!」
「母様、本当にいいんですか!?ありがとうございます!エヴァさんも改めて、ありがとう!」
交渉成立を喜ぶエヴァとエルはお互いにハイタッチなどして、感動を分かち合った。
それを微笑ましい眼差しで見ていたセレスティナは、エヴァが持ってきた箱の内側にまだ何かが残っていることに気が付いた。
「あら、何かしら?それも幻晶騎士のように見えるのだけれども……」
「……え!!??エヴァさん、そ、それは……?」
幻晶騎士の種類に詳しくないティナでも、それはこの国で製造されている機体とは明らかに趣きが異なると感じられる
エルもその姿を見て、驚いているようだ。些か動揺の程が大きく感じるが。
「あ、あぁ。これですか?これは私が考えたオリジナルの模型みたいなものです。一緒に持ってきちゃってたんですね」
R〇-78 ガ〇ダム。エヴァが前世での工作の勘所を取り戻すために、一体拵えてみた模型だった。
それ以後に作った幻晶騎士のそれに比べると完成度は低いが、自分にとっても
「すみません。これも試作品みたいなものなので、エル君にあげるのはちょっと……」
「いえ、1個貰えただけで十分ですよ。そうよね、エル?」
「……あ、はい。これ以上、エヴァさんにおねだりなんてできませんよ。あはは……」
それから3人は和やかな談笑を楽しみながら茶菓子を頬張り、お互いの家の事情などを話した。
「へぇ。お父さんは学園で幻晶騎士操縦の教官職を?」
「はい。お
「私も今は教壇には立っていないけれど、教師をやっていたこともあるわ」
「そ、そうなんですか~。あはは、すごいですね」[この学園街ってかなりのマンモス学校だよな?その学園長のご家族って言うと、やっぱり貴族なのかな?]
エヴァの表情に微妙な緊張が浮き出ていることを見て取ったティナは、気にしないように言った。
「確かに我がエチェバルリア家は貴族の一種ではあるけど、所謂“法衣貴族”という身分ですよ。
職や地位は保証されているけれど、領地や爵位を持った本来の貴族とは区別されているものですね。だから、あまり堅苦しくしないでね?」
「え!?母様、
「……そう言えば、エルにはこういう話はちゃんとしたこと無かったわね。今度改めて教えておきましょうね」
ティナの丁寧な説明に、エヴァは納得した。エルネスティまで驚いているのは今までそういう事を気にしなかった子なのだと、察した。
出された紅茶の効果なのか、いい感じにリラックスし始めた頃だった。
「エヴァさん、よかったら今から僕の部屋に遊びに来てくれませんか?あなたに見て欲しいものがあるんです」
「あらあら。それじゃあエヴァさん、後はエルと二人でゆっくりしていってくださいね。」
「はい。ではお言葉に甘えて。行こうか、エル君」
二人は2階に用意された子供部屋に上がっていく。
エルの部屋にはたくさんの参考書や図鑑が収納された本棚が置かれていた。机には書きかけのノートや筆記用具が散りばめられ、とても勉強熱心な子供であることが伺える。
そして、壁には何時ぞやの二人で描き上げた三面図の片割れを始めとして、幻晶騎士の絵が大切に飾られていた。
「あれから随分いっぱい描いたんだね、幻晶騎士のスケッチ。おや?私が見たことないのまであるじゃない」
「あ、それは学園実習機のグゥエールとアールカンバーですよ。サロドレアを実習生達が改造した機体なんですって」
「へぇ。実習機の
「ふふふ、そうですね。ところでさっき僕が言ったあなたに見て欲しいものというのは、これの事なんですよ」
そう言ってエルは1冊のスケッチブックを差し出してきた。
かなり書き込まれた帳面であることが、ページを捲る前から解るものだった。
「どれどれ、何が書かれてあるのかな……え!!??え、エル君……これって……?」
そのスケッチブックにはやはりたくさんの絵が描かれていた。
それは
R〇-77 ガ〇キャノン であったり
RG〇-79 ジ〇 であったり
M〇-06 ザ〇Ⅱ であったり
M〇M-07 ズ〇ック であったり
M〇-14 ゲル〇グ であったり
M〇N-02 ジ〇ング であったりした。
どれもこれも見覚えのある姿。だが、この世界には存在する筈のない意匠をしたロボット達。
それらが意味するところは一つしかなかった。
「え、エル君。君も地球の……?」
「えぇ。日本で生きた記憶を持っています。エヴァさんと同じく」
その表情は異世界で同郷の者を見つけたという堪え様のない喜悦で満ちていた。
「エル君は前世でプログラマーをやってたんだ?」
エヴァは前世でのエルの職業を聞かされて感心していた。
「はい。正確にはとあるソフトハウスでシステムエンジニアを務めていました」
「なるほど、ソフトウェア開発とかやってたわけだ?」
「えぇ。ほとんどの業務は他企業から廻された下流工程を担当する下請け企業でしたけども」
ソフト開発はおろか、プログラミングすらほとんどやったことが無い
仕事に関してはあまりいい思い出が無かったのか、エヴァは口を濁してしまったので、エルは話題をお互いの趣味に切り替える。
「それにしても、さっきのガ〇ダムに加えて幻晶騎士の模型まで木で自作なさってしまうなんて、すごい技術力ですね!」
「お褒めに預かり光栄だね。前世ではバルサ材ぐらいしか弄ったことない木工素人だったから、最初は戸惑ったもんだよ。やっぱりプラスチックは偉大な素材だったんだなぁ。」
「ほ、本当ですか!?こちらで新しく身に着けた技術であれだけの物を作れるなんて、素晴らしいセンスじゃないですか!」
「ふふふ、ありがとう。向こうでのフルスクラッチの経験が活きたかな。プラモ組み立ててるだけだったら、確かに心が折れてたかも」
フルスクラッチ。その単語を聞いた時、エルの顔は強い郷愁の色を帯び始めた。
彼にとってそれは“とある人物”の記憶を強く想起させるものであったから。
「フルスクラッチか、懐かしいなぁ。僕の先輩にもよく模型を自作してくる人が居たんですよ」
「へぇ。その人もモビル〇ーツを作ってたりしたの?それともスケールモデルとか?」
「アニメや漫画のキャラクターモデルでしたよ。商品化されてないような機体をいっぱい作ってたんです。サン〇ージュとか、ビル〇ナウとか、カン〇リジョやノー〇ィラスなんてのもありましたね」
「……へぇ。す、すごいね」
エヴァは彼の語るその“先輩”の作ったという模型のモチーフに覚えがあった。それらは全て村岡がかつて自作した経験を持つ機体だったのだから。
一つや二つなら被ることもあるかもしれない。しかし、その全てが一致するなどという事が果たしてあり得るのだろうか?
それ故に、一つの疑念が湧き起こる。エルの前世が自分のよく知る“彼”であったなら?と。
そして、それは……。
「えぇ。すごく尊敬してました。
「倉田……」
「え?」
「エル君……君は、倉田翼、なのか?」
「エヴァさん、もしかして、あなたは村岡先輩なんですか?」
確信へと変わった。
その瞬間だった。エヴァリーナの瞳から涙が零れ落ち、頬を伝う。
そして、彼女は慟哭と共にエルネスティを抱きしめた。
「倉田!俺、お前にずっと謝りたかったんだ!ごめん、俺があの時……!」
“倉田”は自身の今際の記憶をほじくり返し、“村岡”が何に対して懺悔しているのかを察した。
あの時自分が伸ばした手の先にあった相手の驚愕と恐怖の表情。そして、後悔の色。
だが、それは倉田だって同じだ。
「先輩、気にしないでください。あれは僕が勝手にやった事なんですよ」
「でも、でもぉ!」
「謝るのはやめてください。それに僕は結局、あなたを助けられなかった」
エルの小さな手が、エヴァの背中を優しく撫でる。
「それより今はこの奇跡的な再会を喜びましょうよ。ね?」
そうして、エヴァが泣き止むまでエルは彼女の胸の中で抱かれ続けたのであった。
しかし、
[あれ?すると、先輩はどうして?]
エルの胸中にとある疑念が湧き起こる。
それはこの感動の再会の切欠となった出会いの記憶であり、生前の村岡精作がどういう人物であったかという情報だった。
美しい思い出に混ざって思い起こされるは、数多くの馬鹿話。
エルは一抹の不安を抱いて、問答を始めた。それが的中していないことを心中で祈りながら。
「ところで先輩。僕にプレゼントしてくれた模型。あれは元々どういう動機で作ったものなんです?」
泣き止んだエヴァは質問の意図を読みかねているのか、首を傾げながら答える。
「お前と友達になりたかったから、プレゼントしたいから作ったんだよ?」
「どうして僕と友達になりたかったんです?僕が倉田翼だと気付いたのは、ついさっきなんですよね?」
その疑問の言葉にハッとした様子のエヴァ。段々と彼女の視線が泳ぎ始めた。
「……“エル君”と友達になりたかったからだよ。本当だよ?」
返答の声も震えていた。
「もう一ついいですか?あなた“エルネスティ”と友達になって、将来的には
しばしの沈黙の後、エヴァはもう隠す事は無意味だと悟ったのか、
「……君のような勘のいいガキは嫌いだよ」
心底残念だと言う顔で、そう口にした。
途端にエルは猛速で彼女から距離を取った。自身の身体を掻き抱き、同時に杖を握って“臨戦態勢”を取る。まるでその目はケダモノでも見るかのようだった。
それを見て、エヴァは溜息を吐いて“本音”をぶちまけ始めた。
「まさか、エル君がお前だとは思わなかったからな。あるいは逆・光源氏計画と言うのも乙なもんかなと思ってたけど、お前相手じゃ流石に通用しないよな。いや~、実に残念だ」
「あ、あなたって人は……僕を
そう、何を隠そう倉田翼が知っている村岡精作という男は、前世の頃から筋金入りのショタコンであったのだ。
『なぁ、倉田~ジェイ〇ッカーの友永〇太君ってかわいいと思わないか?』
『H〇ROMANのジョ〇イもいいよな。あんな子に応援されたら、死の淵からだって蘇れそうだよ』
『ロ〇ン萌えるよな~。ターン〇ーはロー〇・〇ーラがヒロインでいいんじゃないか?』
村岡の度々語る少年キャラクター達には共通点があった。それらは皆、所謂“男の娘”と呼ばれる少女のような可愛らしい姿をした男性キャラ。
エルは、今の自分の容姿が目の前のかつての友人の“ストライクゾーンど真ん中”である可能性に気付いてしまったのだ。
「前世のあなたのショタ好きは、二次元キャラに対してのみ向けられていたものじゃなかったんですか?」
「おまえ……今の自分自身の魅力を自覚してないのか?そんな幻想的男の娘ルックした子が目の前に出現したら、萌えない訳ないだろうが!」
「開き直ってるんじゃありません!!」
エヴァの暴露したもはやオブラートに包む事もしない剥き出しの下心に大いなる呆れを込めて、エルは甲高い声で一喝した。
こうして、二人の奇跡的な再会はしょ~もない言い合いの場へと変貌を遂げて行った。内容は主に二人の趣味について。
「だ・か・ら!前から言ってるよな!?ショタとロボットは“カレーと福神漬け”の関係だと!お互いがお互いの魅力を引き出し合う補色のような相互作用を持つんだ!なぜ、これが解らん!?」
「解りませんよ!ロボットの魅力と搭乗者の魅力はあくまで独立したものとして評価するべきです!大体、おじさんやイケメンが乗ってたってかっこいいものはかっこいいじゃないですか!」
「リアル系の泥臭いロボでなら大いに同意するところだが、デザインや設定にヒロイックな色を帯びたものに関しては、やはりショタが乗ってたほうがいい!勇〇ロボがオジさん主人公だったら興冷めだろうが!」
「謝りなさい!ガ〇ガイガーに謝りなさい!」
そうして泥沼の様相を呈していた口論は、お互いが窓の外から覗く美しい夕日に気付いた時まで続いた。
「はぁ、はぁ、はぁ。きょ、今日はこんくらいで勘弁してやる」
「はぁ、はぁ、はぁ。い、いつでも受けて立ってやりますです」
肩で息をしながら、少年と少女は鉾を納め、一階に降りていく。
そんな二人を認めたティナが、優し気に声を掛けてきた。
「あらあら、二人ともすごく楽しそうに会話をしていたわね。ここからでも声が聞こえていたわ」
「す、すいません。騒がしくしてしまって……」
「うふふ、いいのよ。偶にはこんな賑やかな時があっても。あの子ったらいつもは大人しいから、意外な一面が見れたわね。あなたのお陰ね。」
熱の入った自分達の喧騒を、ここまで優しく受け止められるとはなんと大らかな人なんだと、エヴァはセレスティナの人柄を評価した。
「本日はお騒がせしました。その……また、来てもいいでしょうか?」
「もちろんよ。いつでも来てくださいね。エヴァリーナさん」
笑顔で送り出してくれるティナの言葉に、エヴァは温かい気持ちに包まれた。
「先輩」
別れの挨拶を交わして玄関に立ったエヴァをエルが呼び止める。
「うん?なんだい
いつの間にか“君”付けが取れて呼び捨てになっているが、エルは気にしなかった。そちらの方が良かったから。
「やっぱり、先輩も
それは問いかけと言うよりも確認の言葉だった。
村岡精作とエヴァリーナ・オルターが記憶と人格を共有した存在であるのなら、必ずそれを目指す。そういう確信があったから。
そして、もちろんエヴァはこう応える。
「あったり前だろ!お前も目指すんだろ?お互い、頑張ろうな!」
「はい!もちろんです。」
二人は笑い合い、夢に向かって努力をすることを誓い合って、その日は別れたのだった。
某獅子王「おいおい、おじさんはないだろう?これでもまだ(第一話の時点では)二十歳なんだぜ?」
エル「あ、そう言えばそうでしたね。すいません。」
エヴァ「なんにせよ、成人男性じゃん。非ショタであることには変わりがない!」
某サイボーグ「ひどいな……」
エル「ひどいですね……」