ナイツ&マジック ~演算不能の騎士物語~   作:アルヌ・サクヌッセンム

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祝!スパロボ30発売!(一日遅れ)
小説書きながらになるので、プレイは牛歩の歩みとなるでしょうが、仕方ないねw
それにしても話には聞いていましたが、某生徒会長さんはいいキャラしてますねw


6話 紋章術式

紋章術式(エンブレム・グラフ)?」

 

「えぇ。魔導兵装(シルエット・アームズ)はこの技術によって形成されている兵器のようです」

 

 エルとエヴァはエチェバルリア邸にて様々な資料を掻き漁り、目的の情報を見つけた。

 エルの持っている図鑑・資料には無かったので、彼の祖父ラウリや父マティアスにまでお願いして借りてきた資料の中に存在したものだ。

 エヴァにとっておそらく唯一となる魔法を使うための手段、そのための技術を。

 

 紋章術式。魔法術式(スクリプト)の構成を魔術演算領域(マギウス・サーキット)上ではなく、外部に用意した物体に図形として書き込む事で術式を扱う。

 それに魔力を流し込む事さえできれば、後は勝手に魔法が発動する。

 図形の形が紋章のように見えることで、このような呼ばれ方をするようになった技術だった。

 

 エルと共に資料を読み込んでいたエヴァは、思わず口走った。

 

「そんな便利な技術があるんなら、魔術演算領域なんかいらなくね?」

 

 自身が散々悩まされた問題が、そんな簡単な方法で解決するならそっちを使った方が話が早いじゃないかと、拍子抜けした様子だった。

 先天的能力(アビリティ)に左右される演算などという手段より、“記述”という誰にでも使える技術(テクニック)の方が有用性は高いではないかと。

 もっと普及していて然るべき技術だろうに、自分はそれを全く耳にしたことが無かったし、誰にも教えて貰えなかった。エヴァはそれが不思議でしょうがなかった。

 

 もちろん、それにも理由がある。

 

「便利な技術であることには疑いないですが、問題もあるようです。まず魔法術式は実際に図形として記述すると、かなり嵩張る情報となります。記述する物体には相応の表面積が必要なんですね」

 

 これにより装置が大型に成りがちで、用意する手間もかかるし、人間が日常で使用するには不便な物になるのだそうだ。

 それこそ、戦術級魔法(オーバード・スペル)を記述して、幻晶騎士(シルエット・ナイト)の携行火器として利用するのが、最も利便性を発揮できる使い方と言えるだろう。

 

「また一つの術式につき、書き込まれた一つの魔法しか使えないということですね。これも人間が使う際の利便性を損なわせてしまう要因となっているようです。

 あとこれには書かれてませんが、その特性から考えるとおそらく単体ではフィードバック処理もできないんじゃないでしょうか?」

 

「フィードバック?フィードバックっていうと、生物や機械が自動的に入出力を変化・調整するっていう、あの?」

 

 エヴァも聞いた事がある。地球では元々機械学習の分野などで使われていた言葉だったが、ビジネス用語を経て他分野に派生し、徐々に日常語化しつつあった概念だった。

 

「……あぁ、そうか!物理的に“記述”されている内容がプログラムや感覚器(センサー)の情報を受けて、勝手に書き換わったりするわけないもんな」

 

「そういうことですね。これ自体はコンピューターではないのですから、単体ではそんなことはできないでしょうね。人間や機械が直接書き換えない限り」

 

 そういう意味で弾力的運用をするには非常に手間が掛かる技術であり、なおかつ秒単位以上の細かな調整が必要な魔法を扱うには不向きなのだと、察せられる。

 

「あと一番のネックになっている問題は素材ですよ。魔力をよく通す物質は基本的には金属らしいですが、その中でも一番品質がいいのは銀だそうです」

 

「ぎ、銀か……そりゃ、高くつくわけだ」

 

 魔力も電気と同様に導体となる物質があり、伝達効率には素材ごとに違いがある。魔力の伝達性が高い素材であればあるほど、効率よく触媒結晶にエネルギーを注ぎ込み、現象へと変換してくれるわけだ。

 そして、その中で最も品質の良い素材である銀は、この世界でも金ほどではないにしてもそれなりに高価な金属であり、王侯貴族でもないと潤沢に利用できない。

 幻晶騎士を擁する騎士団は国防のための軍事組織であり、例外だ。もちろん、一般市民はそう易々と使えない。

 記述するための媒体となる物質が高額になるのなら、自分の脳機能という便利に使いまわせる能力に頼ったほうがいいとなるのは、市民にとっては自然な流れだろう。

 

 そして、銀を魔導兵装へと加工する方法であるが、この世界には油性マジックペンのような便利な筆記用具などはない。

 板状にして、そこに(たがね)や彫刻刀で紋章を彫っていくのである。つまり彫金だ。職人の技が必要であり、当然人件費が嵩む。

 

「だ、駄目だ……使える気がしない。主に費用的な意味で……」

 

 結局のところ、この世のあらゆる障壁の中で一番乗り越えづらい問題は“お金”なのかもしれない。

 

「二人とも、お茶を入れたわよ。少し休憩しませんか?」

 

 セレスティナがそう声を掛けてくれたので、一息入れようという事になった。

 応接間に行くと、同じく遊びに来ていたキッドとアディが机で参考書と睨めっこをしてる。魔法の勉強をしているのだ。

 

「二人とも頑張ってるなぁ」

 

「あ、姉ちゃんおかえり」「むぅ……お姉ちゃんばっかりエル君と遊んでてずるい、私達は勉強してるのに」

 

「いや、僕達も調べ物をしていたのですから、勉強してたようなものですよ?」「そうだぞ、特に私にとっては死活問題なんだからな?」

 

 実際、エヴァにとっては重要な問題だ。何せ己の夢や父親との約束が掛かっているのだから。

 

 ふとエヴァは弟妹達の勉強内容が気になったので、出されたお茶と茶菓子を楽しみながら、参考書のページを覗いてみた。

 

「!?お前ら、もうこんな所まで進めてるのか?すごいじゃないか!」

 

「へへへ、そうかな?」「エル君が書き込んでくれてるメモとか渡してくれたノートがすごく解りやすくて、スッと頭に入ってきて助かってるの!エル君、ありがとうね」

 

「少しでも学習の助けになれているのでしたら、用意した甲斐がありましたね」

 

 見れば、参考書には術式の法則性(アルゴリズム)を把握しやすくなるようなメモ書きが添付された資料が渡されており、非常に解りやすいものになっていた。

 物によってはマインドマップやメモリーツリーなども活用されており、術式を系統だてて学習できるように工夫されていた。

 エルの前世(倉田翼)時代からの非凡な資料制作技術が発揮された形である。

 

「このままだと、私なんかあっという間に追い抜かれそうだよ……」

 

 弟妹達の成長が早いのは喜ばしいことだが、姉としては不甲斐ない気持ちになるのは否めない。

 キッドもアディも、杖を握った瞬間から簡単な魔法であれば使えるほどの才能の片鱗を見せ始めていた。

 魔術演算領域を意識できている。やはりこれは魔法術式というプログラムを扱う上で、重要なアドバンテージとなるのだろう。

 パソコンがあるのと机上だけでプログラム学習を行うのとでは、理解力に違いが出るのは当然だろう。それと同じだ。

 このままでは演算ができない自分は、二人に置いて行かれることになるのではないだろうか?と不安な気持ちがまたしてもせり上がっていくエヴァ。

 

 場の空気が微妙になったのを払拭するためなのか、キッドが話題を変えた。

 

「で、姉ちゃん達は何か解った事はあったのかよ?」

 

「あぁ。私でも魔法が使えるようになりそうな技術はあったんだよ。でもな、その方法はめちゃくちゃお金が掛かりそうなやり方らしくてな」

 

「お金?どれぐらい掛かるの?」

 

「う~ん、ちょっと見当もつかないな。本来は幻晶騎士が使うものだから、私ら市民に売ってくれるようなものじゃないだろうし……例え買えたとしてもうちの邸宅売り払ったとしても買える値段なのかどうか」

 

「おいおい、どんだけ高いんだよ……」「家を売っちゃったりしたら、私達住む処なくなっちゃうじゃない……」

 

「いや、例えだから。本当に売ったりなんかしないよ」

 

 ちなみにエヴァは魔導兵装の相場など知らないため、彼女の知っている兵器……つまり、地球の現代兵器の価値を基準として考えていた。

 

[戦闘機のミサイルの中でも比較的安いAIM-9(サイド・ワインダー)の値段が4~8万ドルぐらいって言われてるんだから、それを下回るってことはないよな?

 いや、一発撃ったらおしまいのミサイル1基の値段と比べるのはおかしいか……駆逐艦や巡洋艦に搭載する近接防御火器(CIWS)とかが50万ドルぐらいというからその辺かしら?

 いやいや、実際に幻晶騎士が使う魔導兵装程の威力は無くていいから、もうちょっと性能の低くて小さな物を特注で作ってもらうとしたら?駄目だ……想像できない]

 

 比較対象がおかしい部分もあるが、何せ人間用の魔導兵装が作られたなどという話は聞かないため、推し量りようがないのである。

 

「先輩、あなたは僕以上に手先が器用です。材料さえ用意できるなら自作することはできませんか?」

 

 エルの提言に、一瞬ハッとした様に目を見開いたエヴァだったが、やはり大きく首を横に振る。

 

「素材が高すぎるよ。銀だろ?それにホワイトメタルやダイキャストすら加工した事のない私に金属加工はいきなりは無理だよ。もしやるなら、本腰を入れて勉強しなくちゃ」

 

「流石の先輩でも難しいですか……それはそうか、木工や樹脂注型(レジン・キャスト)とは訳が違いますものね」

 

「なんか二人がまた難しい話し始めたよ……」「工作の事とか私達じゃ解んないしね……」

 

 蚊帳の外に置かれる形になった双子を尻目に、エヴァとエルはまた考え込み始めた。

 

「銀以外の素材で魔力を通す物質というと、そういうものはほとんど金属なんですよね……あれ?」

 

 エルはある事に気付いて自身の愛用の杖を取り出し、マジマジと観察し始めた。

 

「……繊維質だ。これ、木材ですよ先輩!あぁ、そうか、忘れてました!杖は“ホワイト・ミストー”でできてたんでした!」

 

「へ?どういうことだ?なんだ?ホワイト・ミストーって?」

 

 エルの言うには、こういうことだ。

 人類の既知の物質の中でただ一種類だけ、植物でありながら高い魔力伝達効率を誇る木材がある。それがホワイトミストーだ。

 それ故に杖の素材として一般的に使用されているものである。当然、銀とは比較にならないぐらい安い。

 

「つ、つまりこの素材を使えば……?」

 

「非常に安価に魔導兵装を自作できるかもしれませんね」

 

 それを聞くが早いか、エヴァは財布を握りしめて外出の準備を始めた。

 

「“ホワイト・ミストー”で間違いないんだな!?ちょっと待っててくれ。材料屋で買ってくる!」

 

「あら?エヴァさん、もう帰ってしまうの?今日は早いわね」

 

「ごめんなさい、ティナおばさま。後でまた来ます。急遽欲しいものができたので!」

 

 そう言い残して、その健脚でエヴァは街へと駆け出して行った。

 

 

 

「また、大量に買い付けましたね……」

 

「ごめん、どれぐらい必要なのか解らなかったから、とりあえずありったけ買ってきたよ」

 

 帰ってきたエヴァは背中に大量のホワイト・ミストー材を背負っていた。杖と同じく、滑らかな感触の白い木材だった。

 それを一度自宅に持ち帰り、とりあえず手頃な板材だけを彫刻刀と一緒にエチェバルリア邸に持ち込んできた。

 

「いきなり高度な術式を刻むのは難しいでしょうから、基礎式(アーキテクト)から始めてみてはいかがでしょうか?」

 

「そうだな。何事も基礎が大事だよな」

 

 基礎式とはその名の通り、数多ある魔法術式の中でも最も基本的な機能単位の術式である。

 その中でも初期の魔法学習で使われる火炎弾丸(ファイア・トーチ)の術式を、エヴァは板材に彫り込んでいった。

 それを双子とエルは興味深げに見守っている。

 

「あとはこれに触媒結晶さえ取り付ければいいわけですね。この前先輩が置いていった杖がちょうどありますから、これを組み込んでみては?」

 

「あ、それこの家に置いていったままだったな……我ながら、あの時は幾ら何でも焦りすぎだったよな」

 

 苦笑しながら、杖を組み込んでそれは完成した。ちょうど、地球でいうところの小銃程度の大きさとなった。

 感慨深い気持ちでそれを手に取る。

 その瞬間、エヴァの中で懐かしい感覚質(クオリア)が湧き起こってきた。魔力だ。

 その感覚がこの道具が紛れもない魔導兵装なのであると示していた。

 魔導兵装を自作できた。それがエヴァにそこはかとない自己肯定感を与える。

 

「庭に練習に使う簡単な標的があります。試射したいなら、ぜひ使ってください」

 

「ありがとう、ではお言葉に甘えようか」

 

 庭に出るとエルの言っていた通り、紐に繋がった標的が木の枝にぶら下げられていた。

 それに向かって、触媒結晶のはめ込まれた先端部を向ける。ちょうど小銃の銃口を向ける様に。

 しっかりと狙いをつけて、そこに魔力を流し込む。

 

 軽い炸裂音と共に、爆炎の系統に連なる火球を形成する魔法が発動した。

 まっすぐな弾道を描いたそれは、標的に命中して表面をわずかに焼き焦がし、弾き飛ばす。

 

「やった……やったよ!私でも魔法が使えたんだ!あははははは!エル!キッド!アディ!私、やったんだよ!」

 

「先輩、おめでとうございます!」「「おめでとう、姉ちゃん(お姉ちゃん)!」」

 

 涙を流しながらエヴァは3人にハイタッチやハグを決めて、喜びを分かち合った。

 胸中に堆積していた不安が大きく取り除かれ、安堵と共に自己肯定感を補強する。

 彼女にとっては、大げさでもなんでもなくこれは救いであった。

 

「ありがとう、エル!お前のお陰だよ。お前に相談して本当に良かった」

 

「いえ、先輩。これはあなた自身が掴んだ成果です。僕はそれをちょっとお手伝いしただけですよ」

 

「いや、お前に励ましてもらってなかったら、紋章術式という技術にはたどり着けなかったかもしれない。ホワイト・ミストーを使って魔導兵装を作るって発想にもだ。だからこれはお前のお陰なんだよ。本当にありがとう!」

 

 そうして感極まったエヴァは、エルの頬に接吻(キス)をした。

 その瞬間だった。

 

「あぁぁぁぁぁ!何してるの!?お姉ちゃん!?え、え、え、え、エル君にチューなんかしちゃってぇぇぇ!」

 

 素っ頓狂な声を上げて、アディがエルからエヴァを引き剥がそうとし始めた。

 

「いいじゃないか!これが私なりのエルに対する感謝の気持ちの表明なんだよ!」

 

「もっと他の方法でやってよ!不潔よ!ふしだらよ!」

 

 やいのやいのと言い合いをしている姉妹の横で、すごく微妙な表情をしているエル。キッドも蚊帳の外だ。

 

[子供同士とは言え、女性からの接吻……先輩は元男性なんですが、あの瞬間のあの人の顔はとても女性らしいものでした。……これはどう考えるべきなんでしょうか?]

 

 前世基準で考えたら男からのキスをされたという状況に嫌がるべきなのだろうか?

 しかし、今の彼女の性自認は女性のそれになっている事を考えれば、素直に女の子にキスをされたと喜ぶべきなのだろうか?

 エルには判断が付かない。解らないことは深く考えることは止めようと、彼はこの問題をスルーすることにした。

 

「と、とにかくホワイト・ミストーで魔導兵装が作れたという事はこれを発展させていけば、先輩でもより強力な魔法を扱えるという事になりますね」

 

「そ、そうだな。よし!素材はたくさん買ってきたことだし、これはいろんな魔導兵装を作って試してみよう!燃えてきたぞ!」

 

 そうして、エヴァは制作の場所をオルター邸の自分の部屋に改めて、他にも魔導兵装を作り始めたのだが、やはりというかある問題が表面化しはじめた。

 

「た、体積が嵩む……」

 

 最初に作った魔導兵装が小銃程度のサイズに収まったのは、それに刻んでいたのがあくまで最も基本的な基礎術式の魔法であったからだ。

 威力を上げたり、より緻密な操作を行うためには、術式規模を拡大しなければならない。

 拡大術式(アンプリファ)や制御術式といった諸処の術式を繋げて組み込んでいけば、紋章術式は肥大していく。

 そうなるとより多くの記述面積を必要とするため、魔導兵装は大型化するのだ。

 

[これじゃまるでロケットランチャーか歩兵携行型ミサイルランチャーじゃないか……取り回しが悪いったら]

 

 前世で対戦車・航空機用に開発されていた歩兵用携帯兵器のような大きさに膨れ上がった魔導兵装は、体力に自信のあるエヴァでも流石に取り回しに苦労するモノになってしまっていた。

 それはそうだ。彼女はまだ8歳。体が出来上がってない子供に重火器のような武器は振り回せない。

 これでも中級魔法程度の威力であり、上級レベルの複雑な魔法など組み上げたら、野砲サイズぐらいにはなるのではないかと推測できる。

 

「魔導兵装が幻晶騎士専用兵器になるのも頷けますね。こんなに大きくなるのではね」

 

 妙なところに感心しているエルだが、エヴァにとってはこれは由々しき事態だ。

 こんな物を振り回していては肩か腰を痛めかねない。

 また、これに刻まれているのはたった一種の魔法術式だ。複数種類の魔法を使いたければ、複数個の魔導兵装を用意しなければならない。

 ここまでの重量物を両手持ちする自信はエヴァには無かった。

 なんとしても魔導兵装を小型化(ダウンサイジング)か軽量化する必要がある。

 

「う~、なんとか構造を工夫して表面積を多く確保するしかないかな?でも、板材の表にも裏にもかなり書き込んでもこの有様だぞ?」

 

 新たなる記述媒体を探さなければならないんだろうか?と考えていたエヴァ。

 再び思考の海に埋没した彼女に、あるアイディアが思い浮かんだ。

 

「……なぁ、エル。杖は手に握って使うよな」

 

「?もちろんそうですが、それが何か?」

 

 あまりにも当たり前な事を聞くエヴァを訝るエル。

 

「つまり、体から“手を伝って”魔力は流れるわけなんだよな?」

 

「当たり前ではないで……あ!?」

 

「つまり、私たち人間の身体も魔力を流せる導体として機能する。そういう事になるよな?」

 

「ま、まさか先輩……あなたは?」

 

 にやりと不敵に笑って、エヴァは筆を取る。

 そして、自分の手の平に魔法術式を書き込み始めた。

 

「つまり、自分自身を魔導兵装の一部にすることもできるってことになるんじゃないか?お前の言葉を借りるなら、これぞまさしく“サイバネティック”だな」

 

「そ、そんな無茶苦茶な!あれはそういう意味ではありませんよ!」

 

「いいや、もはやこれしか方法が思いつかない!え~い、手だけじゃ表面積が足りないな……そりゃ!」

 

 そう言って、彼女は服を脱ぎ始めた。下着姿になった姉を慌てて弟妹達が止めようとする。

 

「ちょっと!何してるんだよ、姉ちゃん!?」「何考えてるのよ!お姉ちゃん!?」

 

「仕方ないのさ!記述面積を少しでも確保するためだ!これはやむを得ないことだ!」

 

 そう言って、エヴァは自分の皮膚をキャンパスにして、どんどん術式を書き込んでいく。

 自分の身体に落書きを始める彼女を、友と弟妹はドン引きして見ていた。

 止めようとしても頑なにやめようとしないのだから仕方がない。今はイルマタルも外出中で他に誰も止めてくれる人がいないのだ。

 

「うーむ、前はほとんど書き込んじゃったな……よし、エル、お前は背中に書き込んでくれ」

 

「え?僕がですか?」

 

「自分じゃ手が届かないからな。キッドとアディじゃ、まだ勝手が解んないだろう?頼むよ」

 

「わ、わかりました……せ、背中なら」

 

 この妙な空気に呑まれてしまったのだろうか?エルは素直に彼女の背中に諸処の術式を書き込んでいく。

 

「……あふぅ」

 

「妙な声を出さないでください!」

 

「しょうがないじゃないか、お前の筆さばきがくすぐったかったのさ」

 

「……終わりましたよ」

 

「え?もう?まだ尻が残ってるじゃないか」

 

「そんなところまで書き込ませるつもりだったんですか!?いいんですよ!これで!」

 

「え~!?そんな小さな面積じゃ大した内容は記述できないだろう?」

 

「ここに書き込んだのは、構成を圧縮した術式です。これなら少ない表面積であっても、複雑な内容を記述できます」

 

「なんだよ~。そんなテクニックがあるなら教えてくれたっていいだろう?」

 

「これは上級者向けの応用技術ですからね。まだ基礎段階だと思って様子を見ていたら、まさかこんな展開になるなんて……もっと早く教えておくべきでした。そうしていたらこんな事には……」

 

 こんな変態的展開になるなどとは、流石のエルネスティでも計りかねた事だった。

 そりゃそうだ。魔法術式をボディペインティングし始めるなど、誰が想像できるだろうか?

 

「さて、記述は終わったことだし、試しに魔法を撃ちに行ってみるか。どこか手頃な射爆場みたいなところはないかな?ありがとうな、エル。今度また術式の構成法を改めて教えてくれよ」

 

 脱いだ服を再び着込んだエヴァは、自分とエルの“共同開発”した魔導兵装の威力を確かめるべく出掛けて行った。

 その背中を見ながら、エルは呟いた。

 

「僕はひょっとすると、パンドラの箱を開けてしまったのでしょうか?」

 

 

 

 その日の未明、街外れの幻晶騎士用演習場にて原因不明の爆発が複数回目撃された。

 明らかに上級を通り越し、戦術級魔法と思われる威力であったが、その日学園の幻晶騎士は演習を行った記録はないので、全く原因がわからず、町の住民は困惑する他なかった。

 

「あははははは!こりゃいいぞ!実に楽しい。こりゃ、もっと改良しなくちゃな。魔導兵装もこの皮膚に書き込む魔法術式も!」

 

 もちろん、一人の少女がそのような変態的決意を胸に高笑いをしていたことなぞ、彼女の友人と弟妹達以外は知る由もない。

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