ナイツ&マジック ~演算不能の騎士物語~   作:アルヌ・サクヌッセンム

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なんかえらい評価が上がってて戦々恐々としています。
それなのに更新が随分間延びしちゃって申し訳ない。次はもっと早く更新したいです。


8話 スクラッチのすゝめ

「……これがお前さんが作った魔導兵装(シルエット・アームズ)か」

 

「そうです。工房長」

 

 あれからテルモネン工房への弟子入りが真剣に検討された。イルマタルは快諾してくれたし、父ヨアキムは母が説得してくれるとの事で、残るは工房長の承諾を得るのみとなった。

 それに対して、彼は最終的な可否判断はエヴァの今まで作ってきた品を見てから決めたいと言ってきたので、彼女は己の作品を工房に多数持ち込んできた。

 幻晶騎士模型の出来に感心した様子の工房長だったが、やはり彼が一番関心を示したのは魔導兵装だった。

 

「これらは本当に機能するものなのか?」

 

「もちろんです。試しに使ってみますか?」

 

 エヴァがそう言って手渡してきたのは、爆炎球(ファイア・ボール)魔法術式(スクリプト)が刻まれた物。エヴァが最初に使った火炎弾丸(ファイア・トーチ)よりも高威力な爆炎の系統に連なる中級魔法だ。

 あれからエルに教わった術式の構成法で構文のスリム化を図り、把握部(グリップ)照準器(サイト)を追加したのでより取り回しが良くなった魔導兵装だ。それを工房の裏にある試射場に持ち込むと、工房長は弩の様にそれを構えて魔力を流し込んだ。

 その瞬間、橙色に輝く火球が形成され、わずかに尾を引きながら投射されると標的を爆砕し、その効果を証明した。

 

「本当に演算したわけでもねぇのに、魔法が出やがった。これは間違いなく魔導兵装だな」

 

 工房長は魔力を消耗したようでやや疲れた表情でそう言うと、工房の奥に足を運び何やら大きな物体を取り出して来た。

 

「嬢ちゃん。実は俺もあれから嬢ちゃんとあの坊主の言ってた事を確かめるために、ホワイト・ミストーを使った魔導兵装ってのを作ってみようとしたんだ。それがこれよ」

 

 白い木板で作られたその物体は表面こそ美しく処理されているが、構造的には全く洗練されておらずただの白い木箱といった感じの物だった。

 大きさもエヴァのそれがアサルトライフル程度の大きさなのに対して、小型の箪笥ぐらいの体積はある。取り回しは非常に悪そうだ。

 

[エルに教わった構成の圧縮、あれがかなり小型化(ダウンサイジング)に貢献してくれたっけ。やっぱり前世でプログラマーやってたやつは違うなぁ]

 

 刻まれているのは同じく爆炎球の魔法だが、同種の魔法でこれだけ体積が違うのは工房長の刻んだ術式が洗練されていないというのもあるが、それ以上にエヴァが持ち込んだ魔導兵装の術式がどれだけ練り込まれた物なのかという事も示している。

 工房長も同じことを思ったのだろう。こんなことを言ってきた。

 

「正直に言おう。魔導兵装の作り方なんて、俺は碌に知らん。逆になんで嬢ちゃんがここまで小型化できてるのか知りたいくらいなんだ。“紋章術式(エンブレム・グラフ)”の技術に関しては、悔しいが俺は嬢ちゃん以下って事だ。俺の所に弟子入りしても大したアドバイスはできないだろうと思う。それでも弟子になりたいかい?」

 

 ドワーフ族はその優れた膂力によって、鎚を振るって鍛冶業を営むのは得意だ。また手先が器用で木工や彫金においても高い適性を誇る種族だ。

 だが、全体的に魔法は不得手な者が多い。魔導演算領域(マギウス・サーキット)が使えないわけではないのだが、その魔力と演算能力は人間のそれに比べて些か低い傾向がある。

 工房長もドワーフの例に漏れず魔法術式の編集技術には自信が無い。これにはより専門的な術式の編纂職である構文技師(パーサー)と呼ばれる人の力を借りる方が適切だ。

 魔導兵装を作りたいのであれば、この工房よりも相応しい場所がある。工房長は暗にそう言っているのだろう。

 しかし、エヴァはそんなことを期待して弟子入りを希望したのではない。

 

「いえ、私は単に魔導兵装を作るだけじゃなくて、鍛冶や工作技術全般を学びたいんです」

 

 ホワイト・ミストーは便利な素材だが、あくまで木材に過ぎない。金属のような展性や延性もないし、耐火性も低い。

 エヴァが作りたいのは単に魔法を発射する武器としての魔導兵装ではなく、より耐久性が高く汎用性や利便性に富んだ装備なのだ。

 それには多様な素材の加工技術が必要だ。やはりその技術を学ぶためにも鍛冶師に師事したほうが良いと彼女は考えていた。

 

「だからこそここで技術を教えて貰って、一緒に物を作らせてほしいって考えていたのですけど……やはり、迷惑だったでしょうか?」

 

 不安そうな表情でそう尋ねてきたエヴァを工房長は慌てて宥めた。

 

「そんな事はないぜ。もし弟子入りをしてもらえるってんなら、俺としても紋章術式に関する技術を吸収できるし、悪い話じゃねぇ。いいだろう。鍛冶に関しちゃ、プロとして自信がある。まかせな!」

 

 その返答にエヴァの顔は一気に明るいものになり、彼女は礼を口にした。

 

「ありがとうございます!学園の勉強をしながらになるでしょうが、精一杯頑張ります!」

 

 

 

 

 

「こんにちは~。エル君いますか~?」

 

 親友と喜びを分かち合いたくてエチェバルリア邸に面接結果を報告に来たエヴァ。

 それをティナは笑顔で出迎えてくれた。

 

「いらっしゃい、エヴァさん。エルなら今日も家で居るわよ。なんだか嬉しそうね。何か素敵な事でもあったのかしら?」

 

「えぇ。その事で彼に報告したいことがあったので。上がってもよろしいですか?」

 

「もちろんよ」

 

 そう言って玄関から上がると、声を聞きつけてきたのかエルがやってきた。

 

「あ、先輩いらっしゃい。面接の方はどうでした?」

 

「うん、OK貰えたよ」

 

「おめでとうございます。これで冶金技術も手に入れることができますね」

 

「あぁ!騎士と鍛冶師、両立は大変だろうけど、なんとかやってみるよ」

 

「僕は魔法技術(ソフトウェア)の扱いには自信ありますけど、物質的技術(ハードウェア)はまだまだですから、なんだか羨ましいですね」

 

「そりゃ、こっちの台詞だよ。工房長感心してたぞ。『どうやったら紋章術式をこんなにコンパクトにできるんだ?』って。あの構文の組み方教えてくれたのはお前じゃないか。私はまだプログラミングはからっきしだからな。お前が教えてあげてくれよ」

 

 そんな会話をしながら廊下を歩いていた二人を見て、リビングの中から声を掛けてくる人物がいた。 

 

「おや、見ない顔だが新しい友達かい?初めまして、エルの父親のマティアスと言います」「儂は同じく祖父のラウリじゃよ。よろしくな、お嬢さん」

 

「あぁ、お父さんとお爺さんですか。ご丁寧にどうも。エヴァリーナ・オルターと申します」

 

 金髪の成人男性とエルやティナと同じ銀髪に髭を蓄えた初老の男性。エヴァが初めて目にする人物達だった。

 以前話に聞かされたエルの父と祖父、つまりライヒアラ騎操士学園の幻晶騎士操縦指導教官と学園長だった。

 

 その内、ラウリがエヴァの名前を聞いて表情を変えた。

 

「エヴァリーナ・オルター?すると、君はセラーティ侯爵の?」

 

「あ、父から聞いていたんですね。そうです。娘です」

 

 それを横から聞いていたエルが意外そうな顔をした。

 

「え?先輩のうちって貴族家だったんですか?」

 

「いや、オルター家は平民だよ。お父さんが侯爵なのは事実だけど、あくまで愛人の子だから所謂庶子ってやつだね。アディやキッドもそうなるな。だから、お前は気にしないで普通に接してくれ」

 

 今更侯爵の娘だからと言って堅苦しくされるなんて真っ平御免であったし、きっと弟と妹もそう思うだろうと考えたのでエヴァはそう告げる。

 エルもそれに納得したのか、態度を変えるような事はしなかった。

 そして、そのやり取りを微笑ましい顔で見ていたラウリが話を再開した。

 

「そのお父さんから君の事を頼まれておるのよ。君は騎士学科希望との事じゃったな」

 

「はい、来年からお世話になります」

 

 エルが再び話に入って、質問をしてきた。

 

「騎士学科?騎操士学科ではなくてですか?」

 

「あぁ。お父さんに言われたんだよ。『魔法の使い方を見つけてきなさい。それまでは騎士学科で勉強してろ』ってね。

 魔法がちゃんと使える様になったら、騎操士学科への転入も考えてくれるという話になってるんだよ。

 まぁ、お前のお陰で魔法の使い方は見つけちゃったんだけどさ」

 

 ここまで話したところで、ラウリの顔に怪訝の色が浮かぶ。

 しかし、エルとエヴァはそれに気づかず、話を進めて行った。

 

「魔導兵装ですね。じゃあ、約束は果たしたんですから、騎操士学科に変えてもらえるんじゃないですか?」

 

「あ、そうか。う~ん、約束では“転入”を考えてもらうって事になっているし、流石に入学前に学科を変えてもらうって云うのはどうなんだろう?」

 

「相談してはどうですか?入学前なんですし、学科を変えるぐらいならまだ手続きは間に合うかもしれないでしょう?

 お爺様。どうでしょうか?学科変更は今からなら可能でしょうか?」

 

 孫がそう尋ねてきて、何故かラウリは困惑したような表情をしていた。

 

「すまん。もしかしてなのだが、エヴァリーナさん。お主、本当は騎操士になりたいのか?」

 

「はい。私、幻晶騎士(シルエット・ナイト)に乗りたいんです。今まで魔法が使えなくて騎操士にはなれないって言われていたんですが、エルのお陰で紋章術式なら使えるって事が解って。

 だから、今魔導兵装の扱い方を勉強中なんです。ホワイト・ミストーでなら安価に作れるって事もエルが教えてくれたんです。本当に彼には感謝しきりですよ」

 

 健気さを感じる微笑みを湛えたエヴァの顔を見て、ラウリは葛藤した。

 彼はヨアキムからある程度事情を聞いていたのだ。彼女が演算不能者(ノーペレーター)であることも。そのために魔法の使い方を模索させたいと考えていることも。

 だが、エヴァが本当は騎操士志望であることは聞かされていなかった。

 

[どうする?彼女に告げるべきか?子供の夢を壊すことになるが……]

 

 暫しの逡巡の後、ラウリは決断した。事は彼女の人生設計にも関わることだ。きちんと真実を教えるべきだと。

 例え、自分がその為に憎まれ役を演じることになったとしても。

 

「エヴァリーナさん。落ち着いて聞いてくれ。演算能力が無い君は幻晶騎士には乗れない。騎操士にはなれないんじゃよ」

 

 その言葉はラウリの予想通り、場の空気を凍り付かせた。

 一瞬、愕然とした様子であったエヴァ。

 だが、やがて『あぁ、やっぱり』という諦観の表情へと変わって行った。

 

「お、お爺様。どうしてなんですか!?先輩は魔法が使える様になったんです。紋章術式とは言え、魔法が使えるなら立派な“魔法使い”じゃないですか?

 なのにどうして騎操士になれないなんて!?」

 

 エルの慟哭と疑問に答えたのはラウリではなく、傍らに立っていた現役騎操士マティアスだった。

 

「エヴァさん、先程からの君とエルとお義父さんの話から察するに君は演算不能者なんだね?

 ……なるほど、やはりそうだったか。ならば、お義父さんの言う通りだ。演算能力が無い君には幻晶騎士は操縦できない。生身で魔導兵装が使えるというのは驚いたが、それでは不十分なんだ」

 

 しかし、この言葉だけではエルは納得しない。彼は引き続き疑問を呈してくる。

 

「でも、父様。幻晶騎士は鐙と操縦桿で動かすロボットの筈ではないのですか?魔法の演算能力がどうして操作に必要だというんです?」

 

「エル。幻晶騎士は鐙と操縦桿だけでは操縦できないんだよ。あれは幻晶騎士の腕と脚を動かす為の装置なんだ。幻晶騎士は人の形をした機械だからね。人間は腕と脚だけでは成立しない。“体幹”の制御が必要なんだよ?」

 

 人間は脊椎動物であり、四肢動物の一種だ。それはこの世界でも変わりない。

 この世界の“人間”が地球のホモ・サピエンスと同様の道筋の進化をしたのかどうかは解らないが、体の基本的構造は共通している。

 前足が発達した2本の腕と後足が発達した2本の脚。そして、これらが付属している体幹構造。

 体幹と一言で言っても、それは約30個の椎骨からなる脊椎やそれらに接合している数多の骨と筋肉が作り出すものなのだ。その挙動は複雑だ。

 幻晶騎士もそれを模した構造をしている。地球で研究されていたサーボモーターや油圧シリンダーなどで動く単純化(ディフォルメ)されたロボットとは訳が違う。

 こんな物を鐙と操縦桿という極めて単純な構造の装置“だけ”でどうやって制御するというのだ?そんな事は不可能だ。

 

「詳しくは専門的な話になるので省くが、この複雑な体幹構造を動かす為には魔術演算領域の力が必ず必要になるんだ。演算不能者にはこれが不可能なんだよ」

 

 マティアスもあくまで騎士であり技術的な話は触り程度の物しか知らないが、それだけは断言できる事実だった。

 そこまで説明されてはエルも納得するしかなかった。

 彼も人間の体の構造に対して全く無知ではない。エルのこれまで見てきた幻晶騎士の挙動は、地球の産業ロボット達のような機構では再現の難しい、実に有機的な挙動をしていた。

 あれが簡単な操縦装置だけで再現できるなどとは到底信じられない。

 

[僕は幻晶騎士という物をどこか甘く考えていたのかもしれませんね。アニメのロボットみたいに誰にでも乗れる夢のような機械だって……だとしたら、幻晶騎士の制御システムって一体……?]

 

 エルの心に重たいものが覆いかぶさった。エヴァに対してかける言葉が見つからなかった。

 彼も責任を感じていた。親友に対して、叶いもしない夢を無責任に煽るような真似をしてしまった事に。

 彼女の一度折れた心を支えて治そうとしたのは、自分なのだからと。

 

 

 

 しかし、エルは知っている。

 ロボットとはコンピューター制御されるものであることを。

 この世界のコンピューターが如何な原理で動いているものであるかは知らないが、きっと幻晶騎士にも搭載されているだろう。

 そしてそれは魔法術式を言語として採用しているものである筈だ。そうでなければ、どうして魔術演算領域なんて必要とするのだろうか?

 エルはほぼ直感的に確信した。魔術演算領域がなんらかのインターフェイスとして利用されているのだろうと。

 自分ならそれを解析することができるに違いない。

 

[幻晶騎士のオペレーティング・システム(OS)を解析すれば、それが解るはずだ!]

 

 

 

 そして、エヴァもまた絶望どころか逆に希望を抱いていた。

 彼女はマティアスの言葉を逆に捉えたのだ。“体幹なんて動かさなくていい”と。

 

「マティアスさん。さっき『幻晶騎士の操縦桿と鐙は腕と脚を動かす為の装置』だって言いましたね?つまり“肢”だけを動かすなら魔術演算領域は必要ないのではありませんか?」

 

「そうだね。簡単な腕と脚の挙動なら入力はできるだろうが、それでは到底運用なんて……」

 

 この返答を聞いた瞬間、彼女の顔に安堵が浮かぶ。

 

「あぁ、よかった。魔術演算領域が無いと、指一本すらも動かせないシステムってわけじゃないんですね。それなら、“体幹を固定”してしまえば何とかなりそうだ」

 

 こう言い放ったエヴァに、マティアスは慌てて反論する。

 

「待ちなさい。話を聞いていたかい?人間は体幹をきちんと制御できるからこそ、二本の脚で立って歩くことができるんだぞ?固定すれば解決できる問題なんかじゃないんだ!」

 

 よしんばそんな事が可能になったとしても、体幹を固定された幻晶騎士の挙動はその自由度を大きく削がれてしまう事になるだろう。

 体に捻りを加えたり、胸や腰を動かせたりする能力は人型機械の制御において重要な意味を持つものだ。

 エヴァも“人体”においてそれが大事な事であることは解っている。

 

 なら、その(くびき)から機体(マシン)を解き放ってやればいい。

 

「いや、それは直立二足歩行なんてしようとしてるからじゃないですか?」

 

 それを聞いて、マティアスもラウリも困惑をさらに深くする。エヴァの言い様はまるで幻晶騎士に地面を這いまわれとでも言っているかのようだった。

 

 実際、エヴァはそういう意図で言っていた。

 

「え?もしかしてなんですが、幻晶騎士って人型の機体“しか”無いんですか?犬型とか恐竜型とかライオン型とか昆虫型とかの動物型メカとかは無いんですか?これっぽっちも?」

 

 そう言って、いつの間にか持ち込んでいたスケッチブックに描き込まれた前世で好きだったメカ達の絵を参考にと見せてきた。それらはもちろん、エルも知っている物だった。

 

[ジャ〇ーノート、デス〇オン、タチ〇マ、デザート・〇ンナー……どれも虫というか節足動物型ばっかりですね。先輩、相変わらずだなぁ]

 

 それらに共通しているのは、外形上は肢の付いている体幹がほぼ固定状態で、確かに肢だけ動かしていても機動できるようなデザインの機械達だった。

 所謂虫型メカ、もしくは多脚戦車と言われているようなものばかりだ。

 

「何だこれは?人間の騎士の姿を模しているから幻晶騎士と言うんだよ?そんなケダモノのような姿をした物なんてただの魔獣じゃないか!?」

 

 この世界では魔獣は恐怖と嫌悪の対象であり、それを模した機械を人間が作ろうとすることなど考えられない。マティアスとラウリが驚き、呆れるのも当然だった。

 

「その反応だと無いんですね?……じゃあ、作るしかないのか。まさか機体までも自作(スクラッチ)することになるとはな」

 

 溜息を吐いてそう口にするエヴァ。

 その言葉を聞いて、エルは何故彼女が騎操鍛冶師(ナイト・スミス)に弟子入りしたいなどと言い出したのか、その本当の動機を察した。

 

「先輩、あなたテルモネン工房へ弟子入りしたのって、自分で幻晶騎士を改造したいからだったんですか?」

 

「そうだよ。改造できたほうが楽しいじゃん?まさか初出から自作しないといけなくなるとは思わなかったけどな。

 エヴァン〇リオンみたいに“機体とシンクロできる選ばれた人間以外指一本動かせない”とかならどうしようも無いと思ったけど、肢が動かせるならそこの制御システムだけでも移植すれば機体を動かすことはできるかもしれない。

 なら、やらない手はないぜ!」

 

 既存機に乗れないなら自作機に乗ればいいじゃない。言うは易し行うは難しだ。

 幻晶騎士は製造することも維持することにも多くのコストや人員を必要とするハイコストマシン。

 それを動かすのに一番簡単なのは、騎士として騎士団に所属することだ。

 だが、エヴァの場合それは不可能だ。人型の機体しか存在せず、それを制御するには魔術演算領域が必須能力なのだから。

 なら他に選択肢などない。非人型機体を自分で作る。そう決意した。

 

『改造できたほうが楽しい』エヴァのその言葉にエルも触発されるものがあった。

 

「そうですね!考えてみれば、国から支給された機体では個人所有できないですし、自由に改造なんて許されないのですから、自作して自分達の専用機を拵えてしまったほうがいい!

 うん、先輩の言う通りです!」

 

 決然とした表情でエルは顔を上げてこう告げた。

 

「先輩、あなたには模型の借りがありましたね?僕も先輩の専用機を作るお手伝いをしましょう」

 

「いいのか?あんな模型一つでお前の協力を取り付けられるんなら、随分安上がりだと思うけど」

 

「今更水臭いですよ。その代わり、先輩も僕の機体を作るのを手伝ってください。これならつり合いは取れるでしょう?」

 

 エルのこの提案はエヴァにとってまさに渡りに船だった。

 

「そうだな!魔法(ソフトウェア)はお前の方がずっと詳しいし頼りになる。私は機体(ハードウェア)を担当すればいいか?」

 

「えぇ!幻晶騎士が如何なるコンピューターで動いてるかは知りませんが、きっと僕が解析して見せます」

 

 そう言って二人が浮かべる笑顔は非常に危険な色を帯びたものだった。ラウリとマティアスが割って入ることも躊躇を覚えるほどに。

 

「エル、エヴァリーナさん。それは言うほど簡単な事ではないぞ?」

 

「解っていますよ、父様。けど僕はやっぱり僕の為の幻晶騎士が欲しいのです。やれる限りのことをやってみます」

 

「仰る通り、簡単な事じゃないでしょう。でも、不可能ではないのならやってみる価値はあります」

 

 ラウリとマティアスは匙を投げた。

 ここまで言っても諦めない人間に付ける薬なんて無いからだ。

 

 馬鹿は死ななきゃ治らない。この二人は死んでも治らなかった馬鹿だった。

 

『ロボットをスクラッチする』二人はこの日、狂業を実行に移す覚悟を決めた。

 エヴァのライヒアラ入学まで3か月ほど前の事だった。

 

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