氷精異変 (チルノに憑依)   作:二月の丘

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――以下、注意点と前書き――
※ 時期的には、紅霧異変 (紅魔郷) 後で春雪異変 (妖々夢)前ぐらいです。
※ 誰でもすぐ思いつきそうなタイトルなので、同名の作品が既にある場合は教えてください。
※ 憑依しているのは成人男性です。TSとは違うと思いますが、気になる方は避けてください。

タイトルで分かる人がいそうですが、某作品がきっかけになってます。
エタってるのが残念で、なら自分で書くかとなった結果がこれです。


氷精異変
その1 あ


忘れられた者達が住まう幻想郷は妖怪の山。

その麓に霧の湖と呼ばれる場所がある。

昼の間は霧に包まれており、さほど大きくは無い湖を覆い隠してその全貌を分からなくしている。

そんな環境を好んでか否かはさて置き、チルノという名の氷の妖精がこの湖の畔に住み付き、遊び場として空を飛び回る姿がよく目撃されている。

 

今日も今日とて湖上を飛び回り、時には足元の水を凍らせたり、空を見上げてぼーっとしたりと一人で遊んでいた。

その行動はさながら猫の様であるが、妖精とは基本的に知能が低く、本能のままに遊ぶだけでまともな会話すら成立しない程だ。

なので実際小動物と大差は無いのである。

妖精の中では最上位とも言える程の大きな力を持つチルノもその例に漏れず、その知能は人間で言えば幼子とかわらない程度であった。

 

遊び飽きたのか凍らせた水の上に座りぼーっとしていたチルノの鼻先に、何処からとも無くふわりふわりとビー玉程の大きさの白い何かが漂って来ていた。

 

「なにこれ。」

 

そう言いながらそれを捕まえたチルノは、手のひらの上のそれを見ながら、無い知恵を振り絞って考えようとする。

が、所詮妖精、考えた所で何か浮かぶ訳でもなく、思いついたままに行動した。

 

「……飴ね! 」

 

人里で売っている飴とは似ても似つかない物なのだが、無駄に力強い確信を持ってそれを口に入れるチルノ。

 

「チルノちゃーん! 」

 

そこに緑の髪を黄色いリボンで結んだ、青いワンピースを着た妖精が飛んできた。

 

「あ、大ひゃんぐっ! ……飲んじゃった。」

 

口に物を入れたまま大声で返事をしようとした所為で、その拍子に口の中の白い何かを飲み込んでしまう。

 

「どうしたのチルノちゃん? 」

 

そうこうしているうちに目の前まで来た妖精。

なにやら残念そうにしているチルノを見て不思議そうに声を掛ける。

 

「飴飲んじゃった。」

「飴? 誰かに貰ったの? 」

「んーん。飛んでた。」

「えっ、飴って飛ぶんだ。 ……チルノちゃん? 」

「うう……。なんかあたい眠い……。」

 

実のない会話をしているうちに急に眠そうにするチルノ。

そしてそのまま氷の上に倒れこんでしまった。

 

「チルノちゃん!? チルノちゃーん!? 」

 

後から来た妖精にとって、チルノはいつも元気に飛び回っているので、こんな姿は見た事も無い。

なので慌てながら起こそうとするが、一向に起きる気配の無いチルノに益々慌てる妖精。

結局、その甲斐なくチルノがその日起きる事は無かった。

 

 

 

ξ

 

 

 

「う……あ……うう?」

 

目が覚めて最初に見えたのは陽光を反射してきらきらと輝くドーム状の天井。

初めて見る光景に戸惑いながら寝ていた体を起こして辺りを見渡すと、天井と同じようにほのかに輝く家具や壁が見えた。

寝ていた場所はベッドなのか台の様になっており、しかし布団が無いのでいまいち判断が付き難い。

そこですぐそばに誰かが居る事に気付く。

 

「う、うーん……。」

 

こちらの動きに反応したのか、台の下からこちらに上半身をもたれ掛けるようにして伏せていた誰かが動き始めた。

 

「ふぁ……ふぁぁぁぁ……あ……チルノちゃん! 大丈夫!? 」

 

眠そうな様子から一転、こちらの姿を確認すると勢いよく顔を突き出して話し掛けてきた。

 

「ちるの? あんた誰? 」

「えっ、どうしたのチルノちゃん? 大妖精だよ? 」

「だいようせい……だい……だい……大ちゃん? 」

「うん。 良かったチルノちゃん。 昨日はびっくりしたよ。 急に倒れちゃったから。」

 

無事に目覚めた事に安堵したのか、突き出していた顔を引っ込めて立ち上がる大妖精。

目じりに涙を溜めながらも優しそうな笑みが浮かんでおり、心から喜んでいるのは誰の目にも明らかだ。

 

一方、安堵された側のチルノとなると、その様子は真逆となる。

その顔は不思議そうなものであり、大妖精の言葉が全く伝わっていないようだ。

 

「あたいがチルノ……? ここどこ? 」

 

小さくそう呟くと、再び台の上に寝転がり、ぼんやりと天井を見つめだした。

 

「チルノちゃん大丈夫? まだ眠いの? 」

「わかんない……。」

「まだ疲れてるみたいだね。今日もゆっくり休んでいた方が良いよ。私も一度帰るね。」

 

チルノの言う分からないというのは現状の事なのだが、誤解した大妖精はゆっくり休むのに邪魔になると思って一度帰る事にした。

 

「あっ……。」

「チルノちゃんまたねー! 」

 

チルノとしては良く分からない状況に対して不安を感じており、色々と聞きたい事もあるので大妖精にはそばに居て欲しかったのだが、それを伝える前に大妖精は部屋から出て行ってしまう。

その後姿を呆然と見届けながら、チルノは一人残された状況にどうして良いか分からず、大妖精が出て行った場所をぼんやりと見詰め続けるだけだった。

 

 

 

ξ

 

 

 

大妖精が帰ってからどれだけ時間が過ぎたのか。

チルノは変わらず大妖精が出て行った場所を見詰めたまま寝転んでいる。

しかしそれもいい加減意味の無い事に気が付いたのか、ようやく現状について考える事にした。

 

「大ちゃん……羽生えてた……。こすぷれ? 」

 

最初に思ったのは自分の状況よりも、《だいようせい》と名乗った少女の姿についてだった。

今は居ないとはいえつい数時間前の事、いくら妖精と言えどもその姿は鮮明に思い出せる。

いや、それにしてはあまりにも鮮明に思い出せ過ぎるし、《大ちゃん》という言葉が慣れ親しんだかの様に自然と口から出る。

まるで毎日一緒に過ごしている家族の様に。

 

「かぞ……く? 」

 

そこで気がついた。

自分の事は元より、自分の家族も思い出せない事に。

同様に友人、知人、またはこちらが一方的に知っているだけの有名人など、誰一人思い出す事が出来ない。

 

一体自分は何なのだろうか。

己を知らず、他人を知らず、思い出せるのは「だいようせい」と名乗る羽をつけた少女だけ。

しかしたった一つ。

何も思い出せない状況でたった一つだけ確信できる事があった。

 

「あたい……⑨じゃない。 ……⑨ってなに? 」

 

確信している事なのにそれの意味が分からない。

もはやどうしようも無い状況で尚も考えようとするも、頭は霧が掛かったかの様にぼんやりとしていて上手く働かない。

ならば、と改めて回りを良く見る事にした。

もしかすると何か分かるかも知れないと、小さな希望を抱いて。

 

チルノは最初に周りを見渡した時、大雑把に家具があると思ったが、実際にあったのは箪笥の様な物とテーブルと椅子、そして自分が寝ている台、それだけだった。

と言うよりも、部屋自体がそれほど広くない。

たったそれだけの家具でも部屋の広さから考えれば十分だった。

 

それよりも気になるのは、その家具や部屋の壁等の材質だ。

陽光できらきらと輝く半透明な材質。

ガラスかと思ったがガラスで作られた部屋や家具など聞いた事も無く、一切が思い出せない自分でもこれらがガラスであるとするのはとても不自然に思えた。

かといって、では何なのかと言うと全く想像がつかない。

見ているだけではらちが空かないと実際に触ってみるも、手に伝わるのはつるりとした感触で、逆にガラス説が有力になってしまう始末だった。

 

「え、これあたいの手? 」

 

そう言いながらも、思った事がすぐに口から出てしまうのはどうしたものかと思考が飛び跳ねている状態で、チルノは今更ながらに自分の体の事に気が付いた。

 

まずは言った通りの自分の手と思われるもの。

動かそうと思った通りに動くし、手先から腕を辿って肩まで繋がってるのを見れば、これが自分の手である事を否定するものは何も無い。

自分の手を確かめる為に何故そこまでするのか、それは明らかに自分の手とは違うものだったからだ。

より正確に言えば、これが自分の手であるのは間違い無いのだが、自分が思っていたものと全く違う事に対してチルノは戸惑った。

記憶が無いというのは、記憶があったという前提が無ければ成立しない。

矛盾している様だが、記憶を無くす前の自分という存在があった事を記憶しているのだ。

 

視線を右手から左手に移しても目に映るのは同じく自分のものとは思えない自分の手。

更に、視線を下げれば胸元に赤いリボンをつけた青いワンピース、そのスカート部分から伸びて正体不明の材質で出来た床に着く細い裸足の足。

つるりとした床が鏡の様になってぼんやりと姿を映している事に気が付いてしゃがみ込む。

はっきりとは見えないが、床に映し出されたのは小さな顔に青い髪。

いや顔だけではなく、体全体が縮んでいるように感じる。

 

じわり、じわりと、忍び寄るかの様に言い知れない不安が這い上がって来る。

 

「だ……大ちゃん……大ちゃん! 」

 

半ば悲鳴の様に声を上げながら、チルノは大妖精が出て行った方へと駆け出した。

狭い部屋では数歩もしないうちに出口を抜ける。

部屋から出たチルノの前に広がるのは、霧が晴れ、茜色に染まり始めた霧の湖だった。

 

当然の様に見た事が無い場所に思わず足が止まる。

振り返れば、自分が出てきた場所だろう、かまくらとしか形容できないものがあった。

その後ろには木々が乱立して織り成す、薄暗い森。

 

「なにこれ……。」

 

奇しくもそれは、チルノが変化した原因になったものを見つけた時と同じ言葉だった。

 

 

 

 

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