氷精異変 (チルノに憑依)   作:二月の丘

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その6 ら

白銀の世界とはなんだったのか。

そう思えるほどに良い天気の空の上。

博麗神社を後にした魔理沙は、ささくれ立っていた心は既に落ち着いており、霊夢からの頼まれ事を果たす為に、箒に跨って飛んでいた。

 

「大ちゃんか……、霊夢は妖精だろうって言ってたが、どんなやつなんだろ。でかいのか? 」

 

そう呟く魔理沙が酒代に霊夢から頼まれた事とは、大妖精こと大ちゃんの捕獲だ。

探してきて、ではなく、捕まえてきてと言う辺りが霊夢らしい。

箒の先からきらきらと星型の光を派手に撒き散らしながら、霧の湖へと向かう。

あまり小回りはきかないが、空を飛ぶ魔理沙の最高速度は幻想郷屈指だ。

そう時間も掛からずに着く事だろう。

 

暫くして、見えてきた霧の湖。

さほど大きくないとはいえ、周辺は森や山に囲まれており、この中から何のヒントも無く妖精一匹探すのは苦労しそうだ。

とりあえずはチルノの家らしい、かまくらとやらを探してみるか。

そう魔理沙は考え、湖の畔を沿う様に飛び始めた。

 

やがて、少し開けた場所と共に見えてきた、白い半透明な塊。

魔理沙は高度を落として近寄る事によって、それが噂のかまくらだという事が分かった。

 

「これだな。で、大ちゃんってのは居るのか? 大ちゃん居るかー? 」

 

中に居るなら簡単なんだが、そう考えながら魔理沙はかまくらへと声を掛けてみるが返事は無い。

やれやれ、と地上に降り、箒を片手に持ちながらかまくらの中を伺う。

少し解け始めているかまくらの中は、予想通り誰も居なかった。

 

「となると、適当に妖精一匹捕まえて聞いてみるかな……っと。……ん? 」

 

かまくらから出てそう言いながら再び上空へと飛び上がる魔理沙。

ある程度高度をとった所で、その目に何かが映った。

それに魔理沙は心当たりがあったのかそちらへと向けて進んだ。

 

 

 

ξ

 

 

 

日差しを受けてかすかに見える森の隙間。

そこに日陰とは明らかに違う、大きな黒い何かが漂っていた。

 

「おーい、ルーミア。」

 

魔理沙が呼びかけると、その体より大きな黒い何かは徐々に縮小していき、やがてその中から少女が一人現れた。

 

「なによ。朝なのに人間は騒がしいのね。」

 

そう答えたのは、金色の髪の横に赤いリボン、白いシャツの上から黒いチョッキらしきものに赤いネクタイ、そして黒いスカートを履いた、ルーミアと呼ばれる妖怪だ。

 

妖怪は妖精と違い、その多くは人間のようにしっかりとした自我を持つ。

力の弱い妖怪はその限りではないが、基本的に人型をしている妖怪ならば、会話をする事が出来るだけの知能を持つ。

価値観が全く違う為、その内容については保証できないし、会話に応じるかすら不明だが――

 

「朝に騒がないと、夜に眠れなくなるからな。」

「じゃああんたの周りを暗くしたら、ずっと静かにしてくれる? 」

「夜にも騒ぐ人間は居るんだぜ。」

「それは食べても良い人間だって、巫女は言っていたわ。」

「夜の宴会場は大混乱だな。」

 

以前の異変で霊夢と魔理沙はそれぞれルーミアと出会っており、ルーミアもそれを覚えているため、即戦闘という事にはならなさそうだ。

会話からそう判断した魔理沙は、早速本来の用件を伝える。

 

「ところでルーミア。 大ちゃんって知ってるか? 妖精らしい。」

「大ちゃん? さぁ? チルノなら知っているけど。」

「そのチルノと親しいらしい妖精らしい大ちゃんらしい。」

「らしいばかりね。人間は曖昧だわ。そうするとあの妖精かしら。」

「お、知っているのか。どんなやつだ? 」

 

思い出しながら、ルーミアは不機嫌そうに魔理沙を見る。

闇の力を持った妖怪であるルーミアは、明るい日差しの下はあまり好きではない。

妖精の様に闇を司っていたりする訳では無いので、あくまで好みの問題で実害は無いのだが。

とはいえ、夜が明けて次の夜まで寝ていようと、自分が作り出した闇の中で休んで居たところを、魔理沙によって起こされたので不機嫌なのだ。

 

「それを言えば、あんたは居なくなるのかしら。」

「えぇ、さっさとそいつを捕まえに行きますわ。」

 

力の強い人外であれば、決闘法以外で相手の要求に素直に応える事は稀だ。

ただ、ルーミアは先の異変にて、巫女と魔理沙にあっさりとやられた経緯もあり、答えるだけで静かになるなら、と、引き下がる事にした。

 

「たしか緑っぽい妖精ね。」

「緑か、木でも生えてるのか。」

「羽は生えていたわ、妖精だし。」

「氷が生えてるやつもいるぞ、チルノみたいに。」

「木の生えているのは、見たこと無いわね。」

「きっとそいつが居るとしたら土の中だな。それで、でかいのか?」

「なにがよ。」

「大ちゃんが。」

「普通の妖精だったわ。他は知らないわよ。」

 

大きければ見つけるのも簡単なんだが……、そう思っていた魔理沙の希望は叶わないようだ。

 

(緑の妖精か……、ん? 前にどこかで見たような……。)

 

「居なくならないの?」

「なにがよ。 」

「貴方が。消えないの? 」

「瞬間移動は研究中なんだぜ。」

 

考え込み始めた魔理沙に、苛立ち気味に言うルーミア。

それを見て、情報は手に入ったし次に行くか、と魔理沙は飛び上がる。

 

「……次は夜にね、そうしたら食べられるから。」

 

その背を見て、闇に包まれながら呟くルーミアの声は、魔理沙へと届く事は無かった。

 

 

 

ξ

 

 

 

緑の妖精。

それに何処か心当たりがある気がしつつ、魔理沙は再び霧の湖の周辺を飛び回り始めた。

 

妖精というのは自然と同様にカラフルだ。

肌の色はあまり変わらないが、髪の色となると多種多様になる。

されど、チルノと付き合いが深いというなら、それなりに力を持つ妖精なのだろう。

魔理沙はそんな妖精を以前の異変の際に見た気がする。

 

「さて……、木を隠すなら森の中。緑は何処に隠れてるんだ? ……お? 」

 

緑の妖精を探しながらあちらこちらへと飛び回る魔理沙が、目ざとく緑色の何かを見つけた。

見つけるやいなや、急速にそちらへ向かう。

徐々に上がる速度はやがて最高速へと達し、緑色の何かが妖精だと分かった時点で、何を思ったのか魔理沙がスペルカードを宣言した。

 

《ブレイジングスター》

 

直後、魔理沙が光に包まれ、最高速だった状態から更に速度が跳ね上がる。

周囲に今までよりも大きな星型の光を撒き散らせながら、目標へと一気に突き進む。

 

「……? えっ!?」

 

背後から聞こえ出した大きな音に、何事かと振り返った妖精は、自身より遥かに大きな光の塊が自分へと向かって来ることに気がついた。

 

その姿はまさに彗星。

圧倒的な勢いでやってくる彗星に、妖精は悲鳴を上げることすらできず、その場を動けない。

彗星はそのまま妖精へと向かい――

その横を通り過ぎて行った。

 

あまりの出来事に妖精が呆然とそれを見送る中、通り過ぎた彗星が急旋回し、再び妖精に向かってくる。

今度こそぶつかるのかと思われたが、ある程度妖精に近付いた彗星は、それまでの勢いを止めて消え去った。

 

「動くと撃つ! 間違いじゃないんだぜ。お前が大ちゃんか? 」

 

消えた彗星の中から現れた魔理沙に、大妖精は震えながら頷いた。

 

 

 

ξ

 

 

 

一方、博麗神社では大掃除が始まっていた。

 

「あんたがやったんだから、あんたが片付けるのよ。」

「ううー……。」

 

解けた氷で水浸しになった部屋を、雑巾片手に裸足で床を必死に拭くチルノに、それを指示しながら、宙に浮きながら壁や天井、家具を拭く霊夢。

 

博麗の巫女の技は、主に結界の構築や霊力を直接扱うものが基本で、それ以外となると、使えなくも無いがあまり慣れてはいない。

なので、火気を使って乾かすにしても、ある程度は水気を除いておいた方が、結果として楽になるのだ。

ちなみに魔理沙に頼まなかったのは、魔理沙は魔理沙で火を扱うのは得意としているが、大火力を出すなら良いが、加減するとなると上手くなく、任せたら火事になるのが目に見えているからだ。

 

「ほんとにあたいがやったの? 」

「そうよ。」

「でもたまは出なかったよ? 」

 

何度目になるだろうか、既に何度も繰り返しているやり取りだ。

 

「力を使ったからといって、それが玉になるとは限らないのよ。」

「そーなのかー。」

 

返事は良いのだが、何度も繰り返している通り、理解はしていない様だ。

よほど自分の力が信じられないのだろう。

それはそれで妖精としておかしな話なのだが――

 

「ほら、拭いたら絞る。しっかりやらないと終わらないわよ。」

 

霊夢は水を吸ってびしょびしょになった雑巾のまま拭き続けるチルノに言う。

時々言わないと絞るのを忘れるのだ。

 

(忘れっぽいけど、それでも自分の事をここまで忘れるものかしら。)

 

不思議に思いながらも、他は兎も角、足元はチルノにやってもらわないと困るので、忘れる度に霊夢は指摘している。

 

氷のままであったのなら、霊夢も魔理沙も、己の身を守る力で冷気等も防ぐので、その上に座ろうが、歩こうが特に問題は無かった。

しかしそれが水になると話しが変わる。

如何に防ごうとも水は液体。

結界でも張らなければ、服が濡れてしまうのは仕方が無い。

 

夏の暑い日ならいいのだが、そうで無ければ冷たい水に足を濡らしながらの床掃除など御免である。

だから多少非効率になっても、チルノにさせているのだ。

 

「障子は全滅ね……。はぁ、里に頼むのもお金が掛かるし、チルノが出来るわけは無いし……。」

「なーに? れーむ。」

 

自分が呼ばれたのかと思い、霊夢を見上げるチルノ。

霊夢は障子を開けながらその顔を見ると、仕方ないかと思って諦めた。

 

「なんでもないわ。床はそろそろ良い見たいね。それじゃチルノ、これを床の四隅に張ってきて。」

「うん。」

 

霊夢は一通り終わった様子を見て、チルノに次の指示を出した。

ぺたり、ぺたり、と張られていく札。

 

「できたー! 」

「それじゃ、部屋の外に出てなさい。暖気……、部屋が暑くなるから、近寄ったらだめよ。」

「!? 」

 

暑いという言葉に反応して、チルノが急いで部屋から出た。

朝食の件でよほど嫌になったのだろう、廊下からそのまま外へと飛び出し、離れた場所でこちらを見ている。

それを見て、霊夢は札を基点に力を注ぎ、一瞬気合を入れて暖気を生む結界を発生させた。

 

昼までには乾くかしら、霊夢はそう思いつつ、障子が開かれ開放的になった部屋から出る。

外ではチルノが何をするでもなく、ぼーっと空を見上げていた。

霊夢はそこまで飛んで行き、チルノへと話しかける

 

「私が良いって言うまで、あの部屋には近付かないように。ところで、靴はどうしたのよ。」

「くつってなに? 」

 

(妖精って靴を履かないのかしら?)

 

聞いては見たものの、普段から妖精を気にしていない霊夢はどちらか分からない。

そういえば、昨日連れ帰った時には履いていなかった気がする。

例え忘れて来たとしても、人外にとって服などは自分の力で作った体の一部の様な物だ、無くす物でもない。

中には手製の布の服などを着る者も居るが、妖精にそれは無いだろう。

霊夢は少し待っているように伝えて、自分の靴を履き、戻ってきて地面に立ちチルノへ見せる。

 

「これが靴よ。靴を履かないと足の裏が汚れるでしょ? 」

「うらー? 」

 

そう言いながら片足を上げて足裏を見るチルノ。

 

「よごれてないよ? 」

「そんな訳ないでしょ。」

 

あり得ない、と霊夢もチルノの足裏を見てみるも、さっきまで水場に居たにも関わらず、確かに汚れていない。

細かい砂すら付いていないのかと霊夢は触って確かめる。

 

「うひゃっ、ひゃははっ! あはは! れーむくすぐったい。」

「ほんとに全く汚れてないわね……。妖精って便利なのね。」

 

くすぐったがるチルノをよそに、妖精の便利さを羨む霊夢。

 

霊夢の手から逃れて足を下ろしたチルノが、ふと辺りを見渡しながら聞いてきた。

 

「れーむ、ここどこ? 」

「ここ? 博麗神社よ。」

「はくれーじん……じゃ……? 」

 

霊夢からの返答を聞いた途端、凍ったかの様に固まるチルノ。

立て付けの悪い障子戸の様に、がくがくしながら再び辺りを見渡し――

 

「ババァー!? 」

 

突然走り出した。

 

その突然の奇行に驚いた霊夢は一瞬呆けて、何事かと思いながらとりあえずチルノを追いかける。

小さな体では走った所で大して進まず、すぐに追いついた霊夢は並行に飛びながら話しかけた。

 

「ちょっとチルノ。どうしたっていうのよ一体。」

「れーむ! れーむ! ババァが! ババァがくる! 」

「誰よババァって……。」

「いるー! ババァいるのー! あああああ!」

 

半狂乱になって、叫びながら走り続けるチルノ。

その先は階段になっており、このままでは転げ落ちてしまうだろう。

状況は全く分からないが、霊夢は先回りして向かってきたチルノを抱きとめる。

 

「バもがっ! ふがっ!」

 

霊夢にぶつかったチルノは、その腰辺りに顔を埋めながらも叫び続ける。

 

「はいはい。ここは私とあんたしか居ないわよ。」

 

その背中を軽く叩きながら落ち着かせようとする霊夢。

その際に、チルノの背中にある氷の羽が、手を素通りする事に気が付いた。

しっかりとそこに見えるのに触れない。

不思議な現象に、寝る時邪魔にならなくていいわね、と霊夢は思った。

 

「うー! うー! ……はっ!? れーむ! ババァは!? 」

「だから誰も居ないわよ。」

「ほんとう? ほんとうにババァいない? 」

「居ないって言ってるでしょ。」

「よかった……。じんるいはすくわれた……。」

「何言ってるのよ。」

 

落ち着いたかと思えば、またおかしな事を言うチルノ。

だんだんとそれに慣れてきた自分に、思わず苦笑する霊夢であった。

 

 

 

ξ

 

 

 

魔理沙を待ちながら、特にする事が無くなった霊夢。

境内の掃除でもするか、と箒を取りに行く。

その腰にはチルノがしがみ付いたままであり、非常に歩きにくい。

 

「そうしがみ付かれたら歩きにくいわ。歩いてないで飛んでくれない? 」

 

せめて浮いてくれれば歩幅を合わせる必要が無くなるのだが、そう思って言うのだが。

 

「どうやってとぶの? 」

 

またこの調子である。

 

「あんたほんとに……。仕方ないわね。」

 

思わず言いそうになった言葉を寸前で止め、霊夢は力を使ってチルノごと飛ぶことにした。

飛び方を教えて、まためんどうな事になったら困るのだ。

 

「おおー!? あたいとんでる!? 」

「私のおかげでね。」

「れーむはすごいな! 」

 

はしゃぐチルノを連れ立って用具入れまで行き、箒を2本取り出して1本をチルノへ渡す。

 

「ほら持って、あんたも手伝うのよ。」

「なにこれ。」

 

不思議そうにしているチルノをそのまま浮かせて、再び階段の方へと向かう。

地面に降り立ち、チルノを腰から離れさせて霊夢は落ち葉を履き始めた。

 

「こうやって落ち葉を集めるのよ。箒はその為の道具。」

「こう? こう? 」

「階段には近寄らないようにしなさい。飛べないなら危ないから。」

「うん。」

 

その小さい体に箒が大きすぎたのか、ふらふらしながらもなんとか落ち葉を履こうとするチルノ。

少々危なっかしいのだが、階段に気をつければ大丈夫だろう思いつつ、そういえばと霊夢は問いかけた。

 

「そういえば、チルノ。結局ババァって誰の事なのよ。」

「!? 」

 

その言葉を言った途端にチルノがぴたっと固まり、箒を放り出して霊夢の方へと走り出す。

 

「しー! いっちゃだめ! ババァがくるよ! 」

「あんたも言ってるじゃない。」

「あー! むー! むー! 」

 

霊夢の前で口の前に指を立てながら言うチルノに指摘すると、今度は両手で口を押さえて唸り始めた。

 

「それで、何なの? 」

 

再度霊夢が問うと、さらにチルノは近付いてきた。

 

「れーむ! しゃがんで! 」

「うん? 何? 」

 

霊夢がチルノの顔の高さまでしゃがむと、口を両手で覆いながら、小さな声でチルノが霊夢の耳へと話しかけてきた。

 

「はくれーじんじゃは、ようかいむらさきババァがでるの。」

「はぁ? 紫バ――」

「しー! れーむだめ! 」

 

聞いた事も無い話に、思わず復唱しそうになる霊夢を止めるチルノ。

言われた霊夢は、まったく心当たりの無いその話に混乱するしかない。

いやそもそも――

 

「なんであんたがそんな事を知ってるのよ。」

「うーん? ……わかんない。」

 

住人である自分が知らない事を、何故妖精が知っているのか。

それが事実であるならば、この博麗の巫女にすら気付かれずに存在する妖怪がここに居るという事になる。

どれほどの力があれば、そんな事が可能になるのか。

所詮妖精のたわごと、とするにはチルノは妖精にしては不自然な所が多すぎる。

霊夢は言い知れぬ不気味さを感じて、念の為にと、更にチルノに聞いてみる。

 

「そいつはずっとここに居るの? 」

「ううん、いつもねてる。たぶんいまも。」

「寝るのが好きなのね。」

「ふゆはずっとねてる。」

 

(冬が嫌いな妖怪なのかしら。とすると夏の妖怪……。聞いた事も無いわね。)

 

何にしろ、今居ないというのであれば、気にしすぎる事も無さそうだ。

今まで居て何もしてこなかったなら、少なくとも害意は無いのだろう。

霊夢はそう判断して、会話を切り上げた。

 

 

 

ξ

 

 

 

適当に掃き掃除をして、落ち葉を消滅させた後、再びする事の無くなった霊夢は、チルノと共に縁側でお茶を啜っていた。

当然チルノの分は冷ましてある。

途中、居間を通った時の感じでは、昼前までに十分乾きそうだった。

霊夢はそれに安堵しつつも、障子の事を考えると憂鬱になる。

 

「そういえばチルノ。お腹空かない? 」

 

隣で何故か真剣な顔をしながらお茶を飲むチルノに聞いてみた。

結局、朝食は食べ損ねているのである。

 

「おなか? へいき。」

「やっぱり食事は必要なかったのかしら……。」

 

もしそうだとすれば、朝食の席での事はなんだったのか。

あまり深く考えない方が良さそうだ、と思いながら空を見上げた霊夢の目に、何かが映った。

 

「やっと帰ってきたみたいね。」

「なに? 」

「ほらあれ。魔理沙よ。」

 

そう霊夢が言う方向を見ると、チルノの目にも魔理沙らしき者がこちらへ飛んできているのが見えた。

 

「なんで魔理沙は、ほうきでとぶの? 」

「魔理沙だからよ。」

「ほうきのつかいかた、しらないのか。あたいしってるのに。」

「そうかもね。」

 

他愛ない会話をしている間に、お互いの声が届く距離まで魔理沙が近付いてきていた。

 

「とってきたぞー。妖精一匹生け捕りだぜ。」

「おかえり魔理沙。」

「魔理沙、あたいがほうきのつかいかたおしえようか? 」

「なんかチルノに哀れまれてる気がするんだぜ……。」

「……? あー!? 」

 

近付いてきた魔理沙を見上げていたチルノが、その視線を少し下げて叫んだ。

縁側から降りて、仁王立ちして魔理沙を指差す。

 

「だ、大ちゃん! 」

「そう大ちゃんだ。新鮮なんだぜ。」

 

魔理沙が跨る箒からロープが下へ伸び、なんとそこにはロープでぐるぐると巻かれた大妖精が吊るされていた。

よほどのスピードで帰ってきたのだろう、目を回しているのかぐったりとしている。

 

「妖精じゃ私について来れないからな。運ばせていただきましたわ。」

「だっ……だっ……―― 」

「チルノ?」

 

俯き震えるチルノの様子がおかしい事に気付いた霊夢が声を掛けるが、反応が無い。

魔理沙もそれに気付き、声を掛けようとするが――

 

「どうしたチル―― 」

「だ、大ちゃんに! 何をするだァーッ! ゆるさんッ! 」

 

今までに無い大きな叫びを上げたかと思えば、空へと飛び上がるチルノ。

その剣幕に思わず高度を上げて後ろへと下がる魔理沙だが、それを追いかけて同じ高さへ到達する。

 

「何よ……、飛べるんじゃない。」

 

それを見ながら、霊夢はのんびりとお茶を啜っていた。

 

 

 

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