銃の国を打つ   作:AOnn

1 / 1
始まり(改)

刀の国。

近接武器大陸の刃先に位置するこの国は、最強だった。

刀の国の中央にそびえる金銀山(きんぎんざん)

世界中のありとあらゆる鉱石が金銀山に眠っている。

この鉱山を多くの国が求めた。

幾度も刀の国では戦争が起きたが、すべて勝利。

十の国を加盟国として従えこの世界の頂点として君臨していた。

しかし、十年前のある日。雨が降り始め、大地が沈没し始めたあの日に、刀の国は亡びた。

 

 銃の国に落とされたのだ。

 

 

──十年前

「とおいちーーーー!!」

折れた刃が大きな岩の前に散らばる。

刀の呻き声が小さく聞こえた。

刀の痛みも伝わってくる。

バラバラに刃を砕かれる、人間で表せばどんなに悲惨か。

 

…すぐさま頭に拳骨が飛んでくる。

僕が愚図っていたからだ。

「馬鹿者! 早く回復せんか!! この調子ではいつまで経っても一人前になれんぞ!!」

馬鹿親父の拳骨は、頭が揺れる。

いつも通りだ。この人は加減など知らない。

 

「うぅ…。とおいちぃ…」

刀の回復を行う。

手から光を出しその力を刀に捧げる。

みるみる刀は元の形へ復元していった。

『てめぇ、早く直さんかい!』

刀は喋る。

この世界の武器はお喋りだ。

武器に愛される者。

武器を愛する者。

武器を使いこなせる者。

この三つを満たしている人材のみが武器との交流が可能だ。

 

「とおいちが怒らないでよぉ…。僕ら友達だろう?」

『いつも、言ってんだろ! 俺様は"刀一(とういち)"だ!! とおいちって呼ぶんじゃねえ!』

僕は「う」が苦手なんだ。

いつも言っているのに分かってもらえない。

「何をぐだぐだ話している! 罰としてもう一度だ」

『グアッ!』

「とおいちーーーーー!!」

二度目の回復の後、僕の頭にはたんこぶがもう一つ、心には罵倒された傷が残った。

 

誰かに褒められたい。

 

 こんな時、母様が入れば、心の中は悲しい気持ちばかりではないのかも、なんて思う。

しかし母様はもういない。

僕が四つの時、戦場で戦死した。

刀の国の男は泣いてはいけない。

そんな決まり事を僕は破ってしまった。

 葬式の後、親父にぶたれる覚悟はあった。

「人には泣かねばいけない時がある。今日がその時だ。俺もお前も」

帰り道にかけてくれた言葉。

あの時の親父は一番男らしく、一番親らしく、僕の理想だった。

 

 今の親父を見る。

このしかめっ面を泣いてた親父に見せたいよ。

眼光がギラリと光り、手がゆらっと近づく。

まずい。何か癪に触ったか?

反射的に目を伏せてしまった。

『グエッ』

とおいちは怯えた声を出す。

また折られると予期したのだろう。

しかし折られなかった。

 僕の手から離れた刀は親父の眼とくっつくくらいの距離にあった。

欠けの確認だ。そんなことしなくても完璧なのに。

不満は膨らむばかりだ。

「よし。良いだろう。今日の修練はここまで!風呂を沸かしておけ」

「はい!父様」

「それともう一つ。明日は抜刀式だ。早めに床に就いておけ」

そう言うと親父は町の方まで下りて行った。

 

『良いのかよ』

「何がさ?」

『抜刀式さ。明日は俺のお披露目だぜ。しっかりやれんのかよ』

抜刀式って言ったて、鞘からとおいちを抜き出せばいいだけだ。

そんな事五歳の刀持ちならだれでもできる。

親父もとおいちも、僕のことを馬鹿にしすぎじゃないかな。

「やれるさ」

『大口叩きやがって。へましたら承知しないぜ』

とおいちを鞘へ納める。

これの逆を行えばいいんだ。簡単さ。

自分を鼓舞するもどこか不安になる。

とおいちが色々言うから緊張してきた。

 

 

 夜は更けるのが早い。

風呂に入り、親父の作った飯を食う。

これだけでもう寝る時間だ。

「おやすみなさい。父様」

ぎこちなく挨拶する。

親父はいつも何かを見ていた。

いつの時か覗き込もうとしたら、男のすることではないって怒られったけ。

「ああ、おやすみ。ん?ちょっと来い」

珍しく呼び止められる。

 親父の前に立つと手が伸びてくる。

なんだかいつもより優しい感じだった。

母様が死んだときの雰囲気。

伸びた手は寝間着へ到達した。

 

「寝間着が崩れている。貴族の者が、これでは示しがつかんぞ」

「ありがとうございます。父様。僕…」

「ん?」

「明日は上手くやれるでしょうか」

とおいちの前では見栄を張ってしまった。

持ち手は武器になめられてはいけないから。

大きく、温かな手は僕の頭を撫でる。

「お前は俺の子供だ。大丈夫。それにお前は…」

 

 親父との話の途中。

外で規則的な音が聞こえ、それに合わせて光が見えた。

小さな何かが硝子を割り家の中に飛んでくる。

親父の背中にそれらが当たった。

 一瞬、音が止まったが誰かの悲鳴が聞こえ、また鳴り出す。

親父は僕を庇うようにして倒れた。

「父様?」

手に何か温かな液体がつく。

それは赤くて黒くて、僕の恐怖心を一気に増大させた。

「とお…!」

叫ぼうとしたが大きな手で口を塞がれる。

 

「声を荒げるな、先成(さきなり)。お前だけでも、…逃げろ」

「でも…。父様は…!」

「案ずるな。傷を抑えたら、すぐに敵を倒してお前の後を追う。ケガはないな…?」

外ではあの音と叫び声が一定の間隔で鳴り叫ぶ。

一人で恐ろしい場所へ、行きたくない。

何よりも傷ついている父様から離れたくない。

僕は抱き着く。意思表示を言葉で出来ない。

震えが止まらない。涙が止まらない。

「まだ泣くな。まだ、その時ではない」

親父はゆっくりと立ち上がり、先ほど見ていた物を懐から取り出した。

それは写し絵だった。母様と父様と僕の、写し絵。

血で赤く染まっていたがそれは確かに僕たちだった。

 

「刀とこれを持って、この国を出ろ。隣の槍の国まで走るのだ」

こんなの、最後の別れみたいで、嫌だ。別れたくない。

「教えたはずだ。人が泣く時は、大切な人を失った時だけだと。まだ俺は生きている。そしてお前も」

「で、でも…。このままじゃ、殺されてしまいます」

「お前は死なんさ。なんせ刃先様の加護がある。必ず生きて行ける。それに刀の国は最強だ。負けやしねぇさ」

もう口から声が発せられない。父様が遠くにいるみたい。

こんなに近くにいるのに手を伸ばせない。

 刀の国に生きる者のさだめなのだ。戦って死ぬことが。

優し気な顔なのに、眼だけは真剣で、真っすぐで。

もう父様の中で覚悟は終わっている。あとは、僕だけ。

僕の覚悟を親父は待っている。

「必ず、生きます。生きて、戻ってきます」

涙は拭った。

声は枯らした。

後はもう生き延びるだけだ。

「そうだ。それでいい。無様に逃げろ。新しいものは汚く這い上がれ。古いものは華麗に散る。お前は泥だらけで、生きろ!」

 

 背を叩かれ、家を飛び出す。

とおいちを握りしめ正門へと必死に走る。

 町へ下ると、そこはもう僕の知る国ではなかった。

木造の家々は燃え盛り、黒い煙が町を包んでいる。

親父の鍛冶場。

母様が好きだった団子屋

皆で蛍を見に行った川辺。

金銀山の麓にある長の城すらも、その原型を留めていなかった。

みんなみんな、壊されてしまった。

 それでも立ち止まらない。

転んでも止まらない。静止を受けても止まらない。

死体を乗り越えて走る。

絶対に振り返らない。

『……良かったのかよ』

「ハァ、ハァ…うん! …僕は、生きるんだ!」

気を失う頃には、僕は、隣国に入っていた。

僕が目を覚ました十日後に、刀の国は銃の国によって亡ぼされていた。

 

 

 

──十年後。

あの日から雨は降り続いている。

多分これからも止むことはない。

 

 すっかりと刀の国はその姿を変えていた。

木造の建物は、石造りの建造物へ変わっている。

金銀山の麓には城ではなく大きな協会が聳え立っていた。

 鎖国的だった刀の国は、今では観光施設へ成り代わっている。

外国人が我が物顔で闊歩する様に吐き気がする。

人がいない物陰へ、逃げるように行き着いた。

やっと、落ち着ける。

 

「おい兄ちゃん~。暗い顔してるけど、大丈夫かぁい?ヒック」

そう思った矢先、酔っ払いに絡まれた。

白い肌に青い瞳。

この大陸の人間ではない。

「俺はさ銃の国から来たんだけどさぁ。ここは酒が美味くて良い所だね~。兄ちゃんはどこから来たんだい?」

 銃の国。

自然と懐にある刀に手が伸びる。

殺意が溢れだしそうだ。

でも、ここで騒ぎを起こすわけにはいかない。

自制せねば。

 

「貴様。今何をしようとしていた?」

振り返るとそこには一人の男が立っていた。

黒い服装に手元の武器。

こいつは銃の国の兵士だ。

構えている銃は十年前よりも大きく見える。

「おいおい、憲兵さん。この人は何もしてないぜ?」

「すまない。少々調べたいことがあってだな。…貴様、懐に隠しているものを出せ」

銃口がこちらを向く。

言う通りにした方が身の為だろう。

懐から柄と鍔だけの刀を取り出す。

「持ち手だけの刀?なぜ貴様がそんなものを持っている」

「おじいさんに頼まれて、こちらに納刀しに来ました。刃がないのは年季で零れ落ちたみたいで…」

男はニヤリと笑う。

「ほう?それにしては、手入れが行き届いている。なによりその目、何をそう睨む?刀の国の者よ」

「なっ!? 刀の国ぃ!?」

 

 これは誤魔化しきれないか。

多分、何度か刀持ちと戦ったことがあるのだろう。

あまり騒ぎを起こしたくなかったが、しょうがない。

「……刀一」

『おうよ!』

刀一を回復する。

柄を握る手を光らせ、その力を刀に捧げていく。

「何をしている! その刀をこちらに寄こせ、さもなくば撃つぞ!」

回復とは対象を回し、復元する能力。

これは刀の国で生まれ育ったものが与えられる、加護だ。

 塵となっていた刃巾着から飛び出し、手元に集まる。

ここに、一振りの刀が復元された。

 

「我が名はスプリング・セインティ!! 貴様の同胞を……」

男が引き金に手を掛けた時、僕は刀を振るった。

「斬り捨て御免」

脇腹から肩にかけた一閃は、彼の言葉を追い越していた。

 親父の言っていることは正しかった。

刀の国は最強だ。

刀は銃に後れは取らない。

 これならできる。

みんなの仇をとれる。

「お、お前さん…。ほ、本当に刀の国の…」

酔っ払いは死体の前で震え慄いている。

人を斬った後なのに気分が良い。

「僕は。…僕は刀の国の闕没先成(かくばさきなり)。銃の国を討つ者だ」

僕の復讐は始まった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。