貴族流技 ~光輝たる令嬢道~   作:灰の熊猫

1 / 2
貴族の義務

「ヒャッハァー! アンタらが記念すべき五百六十七人目の獲物だぜェー!」

「ここを通りたけりゃ俺ら”荒くれ者山賊部隊(アラクレ・フォース)”に有り金全部寄越しなァー!」

「ひっ、ひぃっ……! そんな、こんな所に、こんな頭の悪そうな盗賊団が居たなんてっ……!」

 

 街へと通じる山道の中腹にて、下卑た男達の大声と震える声が響く。

 そこには十人の男達が、小型の馬車を取り囲んでいる光景があった。かつては馬車を牽引していた二頭の馬は、胴や膝に弓矢を受け、もはや立ち上がる事すら出来ず藻掻き苦しんでいる。

 弓で馬を射ち抜かれた際落馬した御者、馬車の幌の中にいる女性とその息子。抵抗する力を持たず、少人数で山道を抜けようとする今の様な一般人こそが、賊達の狙う獲物だった。

 

「聞きましたか兄貴! あのメス、言うに事欠いて俺らをバカにしやがりましたぜ!?」

「いい度胸だな、気に入った。殺すなら最初にしてやるか」

「す、すみません、すみません……! 思わず口からこれ以上無い事実を陳列してしまった事は謝りますから、どうか息子だけは見逃してください……!」

「テメェ謝る気あんのか!?」

 

 母の悲痛な嘆願も届かず、賊達は怒りのボルテージを上げていく。

 この母にとって最も大事な事は、今も馬車の幌の中で呻いて伏している自分の息子の命だった。母の息子は、自分達の村で薬草の効かぬ病に罹り、街の医者に見てもらわなければ命の危険がある、と薬師に宣告されていた。

 どれ程の治療費を求められようとも、息子だけは助ける。そう決意して家の貯蓄の殆どを持って街行きの馬車へ乗ったが、運悪くその道中で山賊達と遭遇してしまったのだ。

 

「だ、だって! 五百六十七人とか、全く記念でもなんでもないじゃないですか! 襲った人間をカウントとかする必要ありますか! っていうか、そんなに被害出てたらとっくに街の憲兵とか動くに決まってるでしょ常識無いんですか!?」

「立場わかってんのかマジで!? 襲われてる状況でそんなん考えるか普通!?」

「山賊とかいう不安定極まりない職やってる人間が”普通”を問える立場なんですか! っていうか反論しないんですね! 出来ないんですよね!? やっぱ私正しいじゃないですか!」

「何レスバに持ち込もうとしてんだテメェ! そういうのは田舎の陰湿な井戸端会議だけにしやがれ殺すぞ!」

 

 追い詰められた母の必死な言葉の抵抗も虚しく、盗賊達は全員武器を構える。長剣・鈍器・斧・槍・弓。明確な殺意を示す、それぞれの牙が向けられた。

 あ、あれ全然手入れされてないな、うちの倉庫の農具レベルに汚いな。そう母が冷静な思考を保とうとするも、体は恐怖に震えて竦んでいる。今母に唯一出来るのは、村社会の中で鍛え上げられた弁舌だけだった。

 なんとか、なんとかしなければ。自分はどうなってもいい、息子を守れさえすれば。十二の男達を全て論破して心を折ろうにも、野蛮な山賊と(じぶん)では知能レベルに差がありすぎて話など通じないだろう。

 ダメ、なのか。ただ街に行くだけの事も、息子を助ける事も、このバカどもにマウントを取って気持ち良くなる事も叶わないのか。そんな絶望が、母の頭に過ぎった――その時だった。

 

「――お待ちなさい」

 

 天から、声がした。正確には山道より外れた斜め上方、木々のみが生い茂っている筈の場所より、鈴の様な声が聴こえてきた。

 恐怖に震えていた母も、今にも襲いかかろうとした盗賊達も、ただその一声に思考を止めた。その声は木々のさざめきの様に静かに、しかしその場の全ての者達の心へと届く。

 盗賊達も、母も、死んだフリをしてこっそり逃げ出そうかなって画策していた御者も。誰もが聴いた事の無い、凛とした女の声だった。

 

「だ、誰だ!? 姿を見せやがれ!」

「隠れているつもりなどございません。ですが、わたくしの姿が見たいとおっしゃるならば、貴方がたが望む通りに致しましょう」

 

 その声の直後、盗賊と母のいる場所の丁度中間の辺りに影がかかる。陽光が一瞬遮られた、そう母が錯覚した時、影の場所に土煙と轟音が上がった。

 何者かが降りてきた、いや落ちてきた。そう表現するしか無い程の激しい何かの落下に、母も盗賊も呆気に取られ、土煙の中へ目を凝らす。

 舞い上がった土煙が山を流れ落ちる風に払われたと同時に、その落下物は顕わとなった。

 

「御機嫌よう、山賊の皆様。わたくしは『フェルティシア・ティレ・フォン・ヴァンティール』、ヴァンティール家の長女ですわ」

 

 それは二十歳になるかならないかという程の年齢だろう、空色の長髪を靡かせる美女だった。

 娘は空色の髪で背全体を覆い、それとは対照的な緋色のジャケットと薄緋の膝の高さのスカートを身に纏っている。ジャケットの合わせ目と袖口、スカートの裾は透き通る様なフリルで彩られ、袖口・胸下・腰はシミ一つ無く光沢を放っている数本のベルトで留められ、女性らしい体型のラインを浮かび上がらせている。

 華美な装飾の服を纏ったその女は、スカートの裾を横に摘んで山賊達へ一礼する。この場に全く似つかわしくない筈のその所作は、何故か見る者全てに”それが正しい事”と思わせる程に綺麗だった。

 

「”ヴァンティール”――……な、なにィ!」

「知ってんですか兄貴!」

「うむ……!」

 

 山賊達から”兄貴”と呼ばれていた男――山賊団の頭は、その名乗りに一瞬遅れて驚愕する。

 目の前の女の事は全く知らない、しかしその家名の事はよく知っている。それも、自分達から限りなく遠い存在でありながら、知らざるを得ないという程にその名は(おお)きな意味を持っているからだ。

 

「……”フォン・ヴァンティール”は、王都の四大侯爵家の家名だ……!」

「え、なんすかその”いかにもなんかスゴそ~”みたいなヤツ。俺知らないんすけど」

「お前らは王都に行った事が無いから知らないのもムリは無ぇ……ま、俺は行ったことあるけどな、お前らと違って」

「なんで俺らにマウント取ってんすか兄貴!」

 

 ”ヴァンティール”。それは王都に於いては知らぬ者はいないとされる、侯爵家の一つだ。その名を騙り偽るという事、それすらも罪に問われる程の影響力を持つ大貴族。

 目の前の娘は、事も無げにその名を言い放った。しかもスーパー英雄着地を土煙の中で決めた上で、だ。

 たった一人の非現実的な存在が、山賊たちの頭を混乱させた。

 

「そんな女がなんでこんな山道にいやがる! 法螺貝フーフーしてんじゃねーぞコラ!」

「わたくしは吹く側でなく吹かれる身。どうせなら礼典のファンファーレを吹いて頂けないかしら」

「あの、頭の悪いイチャモンにそれらしい返しをしてもなんか逆に滑稽なのでは?」

 

 賊達と貴族と名乗る娘の会話に、思わず母は脊髄反射で口を挟んでしまう。やっば口滑っちゃった、そう思って口を慌てて塞ぐ。

 母の言葉にちらりと娘は片目を向けるも、その顔は険しくは無く、むしろ綻んでいた。

 

「……貴女は馬車の中に隠れていなさい。母は子を護るもの、そうでしょう?」

「は、はいっ? ……えぇ……?」

 

 いやどういう状況かワッケわかんないんですけど。母の心中の呟きは、静かながらも心にまで響く様な娘の声にまるで諭された様に掻き消え、言葉に導かれる様に母は馬車へと戻った。

 あ、これ状況次第では馬車の裏口からこっそり息子連れて逃げれるかも。貴族を名乗る娘へ一割以下の心配の表情を向けながら、母は聳える様に真っ直ぐなその背中を眺めた。

 

「……チィッ……! ”ここは包囲した、大人しく投降しろ”って言いてぇのか、嬢ちゃん……!」

「え、何言ってんです兄貴? 何もしないまま降参宣言とかしょっぱいムーヴすぎません?」

「何寝言抜かしてんだ! 貴族サマがこんな所に一人で居るワケねえだろ、近くに護衛の一隊とか兵団が居るに決まってるだろがっ!」

 

 賊頭は察しが悪すぎる自身の子分達へ、なるべくわかりやすい状況説明をする。

 目の前の女が本当に大貴族の令嬢であるなら、王都よりも遠く、その上ろくに道の舗装もされていないこんな辺境の山道を一人でほっつき歩いている訳がない。故に、近くには既にこの娘の護衛がいる事は確定的に明らかだ。

 当然、この娘がただのコスプレ女である可能性も無くはない。しかしその娘の右胸には鈍色ながらも輝く胸章があり、それが”ヴァンティール”の紋章である事を頭は知っていた。

 その紋は、騙る為に身に着けるにはあまりに重い。故に賊頭は、既に目の前の女を貴族令嬢本人と断定し、どう考えても最悪の状況下でどう立ち回るかという敗北者の思考へシフトしていた。

 

「誤解がありますわね。わたくしは故あって一人旅の身、周りに護衛などおりません事よ」

「……それを信じろと?」

「護衛がいたら山の上から飛び降りて登場なんてハチャメチャな事やりませんわ」

「あ、ハチャメチャな登場って自覚あったんですね貴族様」

 

 幌の中では相も変わらず母が脊髄から声を出していたが、幸いな事に山賊と娘の会話には届いていなかった。

 賊頭はその言葉の真偽を考える。そもそも大貴族の令嬢がこんな所にいる事自体がおかしいとはいえ、それが事実と仮定すれば自分達はとうの昔にその護衛からの警告・或いは攻撃を受けているだろう。

 目の前の女の登場の仕方も振る舞いもおかしいとはいえ、このおかしな状況で自分達に許されているのは、目の前のおかしい自称貴族令嬢を捕らえてしまう事だけだ。仮に本当におかしな女が貴族であれば、この女の身柄自体が一時的な脅迫材料に繋がり。別に本当にただおかしい女であれば、この場の馬車の連中ごと身包みを引っ剥がすだけでいい。

 ――なんもかんもおかしい状況だな? 賊頭は眉間に皺を寄せた。

 

「ヒャッハァー! なんかよくわかんねぇけど女一人ならこっちのモンだぜー!」

「記念すべき六百六十六人目にしてやらァー!」

「うわぁあの頭悪い人、ちゃんとカウントしてない事をこれ以上無く証明しちゃってるぅー」

 

 賊頭の葛藤を無視し、先走った盗賊二人が剣を振り被り娘へと襲い掛かる。

 あっ何やってんだアイツらバカか! 身分はどうあれ上物の女を下手な傷物にすんじゃねぇ! 賊頭がそう口にするよりも遥かに早く、二人の男は娘へ一気に近付いて肩に担いだ長剣を振り下ろした。

 

「――下賤ですわね」

 

 盗賊が娘をすれ違いざまに叩き斬った。そう見えた直後、娘は何事も無かったかの様にその場に直立し続けていた。

 剣を振った盗賊は、娘の後ろで剣を振り下ろした姿勢を取り続けている。しかし数秒を置いて、その体は剣を手放しながら崩折れて地面に落ちた。

 

「……な、に?」

「触れるなら相応の礼節を持つべきでしてよ。礼無き者は、高貴なる者に触れる事も叶わぬと知りなさい」

 

 それを目の当たりにした盗賊達は己の目を疑う。確かに今何も考えずとりあえずヒャッハーしたいみたいなノリで特攻(ブッコミ)した二人は、目の前の娘に向けて剣を振り下ろした。にも関わらず、その娘は一切の無傷でその場に留まっており、襲いかかった二人が気絶して地に転がっている。

 ――まさか。賊頭はぞわりと背筋に走るモノを感じ、後方の弓兵二人へ振り返った。

 

「弓撃て! どこに当ててもいい、あの女に動かせるなっ!」

「へ? でも兄貴、最近”弓矢もタダじゃないんだからテメェら雑に連射すんじゃねえよ”って言ってたじゃ――」

「仕事始めたての新人かテメェら! 最新の指示に従え、過去ばっか見てんじゃねえ俺達には現在(いま)しか無ぇんだよ!」

「うわぁ、現在進行系で部下に振り回されてる上司とは思えないぐらい良さげな事言ってる」

 

 冷や汗を垂れ流しながら焦る賊頭、直近の財布事情を恐れる部下達、安全圏で好き勝手言ってる母。その全ての声の渦中にいながら、中心である娘はただその場に留まって微笑んでいた。

 細身でありながら、樹齢百年を超えた巨木の如きその落ち着きと存在感。この危険の最中でありながら悠然としている理由。貴族の娘が一人旅をしている・出来る理由。それらの状況からなる可能性は、賊頭の頭には一つしか無かった。

 

「”魔法使い”だ! 殺せッ!」

「ッ!!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、二人の弓使いは反射的に矢と弦を限界まで引いていた。

 ”魔法使い”。それは世界の中でも千人に一人も存在しないとすら言われる()()だ。

 それは学習や修練による物では習得出来ず、生まれついて”魔”を宿す者のみが成りえる。素質の個人差によって行使出来る力――”魔法”の種類や大きさは異なるも、それを行使する者は皆恐れられる。

 何故なら、それをこれ見よがしに行使する者は、存在自体が無言でこう示しているからだ。

 『誰がどう思って何をしようが、自分を殺す事は出来ない』、と。

 

「聞こえなかったのかしら、”礼節を持つべき”と。理解が及ばないならば、今一度示しましょう」

 

 弓使いが番えた指を離し、矢が放たれる。人の視力が影のみを追える速度の矢は、娘の胴と頭へ向けて瞬時に飛来して迫った。

 その瞬間、刹那。娘の全身の輪郭がぶれ、飛来した矢がその場から掻き消える。

 残ったのはまるで変わらぬ姿で直立し続けている娘の姿。そして、賊頭の後ろから一瞬上がった二つの悲鳴だった。

 

「がッ、あ゛……ァッ……!?」

「……ッ!」

 

 山賊達が頭を後ろへ向ければ、そこには弓矢を放った筈の弓使い二人が、射った本人の矢で頭を射抜かれて地面にゆっくりと斃れていく姿があった。

 全く理解を超えていた。ありのまま今起こった事は、”射ったと思ったらその本人が射たれていた”、その一つだ。何を言っているのか他人にはわからないだろうとは思ったが、山賊達自身も娘が何をしたのかわからなかった。

 

「――身の程を弁えなさい、下郎」

 

 静かに、諭す様に。射たれたという事実すら無かった様に、しかし引き締められた顔からは怒気を立ち昇らせて。娘は、山賊達へ告げた。

 恐怖。目の前にいるたった一人の女に対し、山賊達は理性と本能の全てが警告するのを感じていた。逃亡も降参も許さない、そう娘の表情と気配が告げている。

 死。死ぬ。殺される――()()()()()()()()()()。生の中で死に瀕した山賊達全員の思考は、一つとなった。

 

「側面ッ、囲んで殺せェッ!」

「う、わぁぁッ!!」

 

 賊頭の号令により、残る五人の部下が左右に散開しながら娘へ突撃する。

 何の魔法を使うかはわからない。しかし、離れた弓使いが目にも留まらぬ速さで殺された事から、距離を取る事はむしろ死に近付く事とイコールだ。

 娘の左側から斧を持った二人が、右側から槍を持った二人が襲い掛かる。四方向から殆ど同時に凶器を持った盗賊達が走ってくるのを見て、娘は嘆息した。

 

「……何か考え違いをしております様で。まずは、その過ちを正しましょう」

 

 必死、いや決死の形相で左側から走り込んで来た二人が娘の頭に斧を振るう。

 右側からは駆ける速度を乗せた二本の槍が、真っ直ぐに胴を突き刺そうとする。

 その時、少し遅れて剣を持って正面から斬り掛かろうとした賊頭は、信じられないモノを見た。

 

()ッ!」

 

 娘は消えたかと思う様な速度でしゃがみ、同時に脚を伸ばして体を回転させた。

 胴を狙った二本の槍は虚空を突き、斧が振り下ろされるよりも速く娘の右脚がしなって、斧を持った山賊の片方の足を鞭の如く刈り取った。

 そしてさらにその勢いのまま娘は地表を半廻転し、両掌を地面に杭打つ事で体の勢いを止める。そして斧を持ったもう一人の山賊にしゃがみながら背を向ける姿勢で左脚を垂直に打ち上げ、ブーツの足裏で山賊の顎を蹴り上げた。

 

()ッ!」

 

 さらに娘の動作は続いた。地に付けた両腕を伸ばし、その勢いで逆立ちになった娘は、そのまま前に倒れる事で槍を突き出したままの男の一人に向けて右踵を落とす。

 肩口に踵を突き刺された男は前のめりになり、そこに遅れて娘の左踵が低くなった脳天に落とされる。骨が軋む鈍い音と共に男は倒れ、前転した娘はその体を地面代わりの踏み台として再び立ち上がった。

 瞬時に攻撃と動作を終えた娘の姿を、四人目の男の瞳が遅れて捉える。しかし、槍を突き出したままの体はその姿に反応出来ない。

 

(セイ)ッ!」

 

 ”まずい”、そう男が思考するよりも速く、刹那で娘は右の掌底を男の胸へと叩き込む。

 その衝撃だけで、男の体が約十メートルはノーバウンドで吹き飛び、その姿は山肌に生えた森へと飛ばされた。

 

「――……は?」

 

 賊頭の剣と足は、止まっていた。いや、正確には無意識の内に一歩引き、掲げていた剣を体の前へ下ろして体を護る構えへと変えていた。

 今目の前で起きた事、娘がやった事を頭が再確認しようとする。しゃがむ・水面蹴り・後ろ脚蹴り・逆立ち蹴り・掌底打ち。一人目は足の骨が折れ曲がり、二人目は顎を打ち上げられて昏倒し、三人目は頭から血を流して臥せ、四人目は離れた木の茂みに埋まって脚だけしか見えない。

 流れる様な、しかし瞬間的な一連の動作を、一歩引いた位置の賊頭は確かにその目で見た。

 そして思った。は? と。

 

「…………なにそれ?」

「”過ち”と言ったでしょう? わたくしは魔法使いなどではございませんわ」

「いや今やった一連の事に対して聞いてんだけど?」

 

 賊頭の恐怖に竦んでいた体は、尋常では無い”通常(ふつう)”を前に困惑して逆に動けなくなっていた。

 目の前の女は、ただ蹴って殴っただけだ。ただそれが、意味不明な速度と威力を以て四人の武装した男を文字通り叩きのめしたという、非現実的な現実という事を除いて。

 賊頭の顔に新たな冷や汗が伝い落ちる。しかしそれは魔法などの超常への恐怖では無く、目の前の女がやった事への当惑。ぶっちゃけて言うなら、ドン引き故の汗だった。

 

「ならば今再び名乗りましょう。わたくしの名はフェルティシア・ヴァンティール――”ヴァンティール流貴族殺法(ノーブルアーツ)”の継承者ですわ」

「は?」 「は?」 (は?)

 

 娘の口から放たれた、まるで聞き覚えのない単語に賊頭と馬車内の母、そしてこっそり這って馬車の影に隠れていた御者の心が全く同じ思いを抱く。

 困惑・混乱・混迷。全ての思いが一緒くたになってその場の空気に漂う中で、娘は言葉を紡ぐ。

 

「貴族とは民を護る者、民を先導する者、そしてあらゆる災厄の前に立ちはだかる者。その表れこそが”貴族流技(ノーブルスタイル)”、貴族の流儀と義務として家名と共に受け継がれている闘法ですわ」

「なんか意味違くない? 貴族の義務ってもっとこう、内政的なモンじゃね?」

「それはそれですわ」

 

 娘は秘めた心を誇る様に胸に手を当てつつ、賊頭からのツッコミをさらりと無視する。

 貴族流技(ノーブルスタイル)。それは、遥か昔にちょっと頭がおかしかった貴族が考案した、作法の一つだ。

 貴族としての流儀と作法を組み合わせて生まれた舞踏。それが暴力と魔法が飛び交う乱世の中で、そのなんもかんもを忘れて全てをはっ倒す為に磨き上げられた貴族殺法(ノーブルアーツ)。それは一部の貴族にのみ残る、秘伝の技だった。

 フェルティシアは、うっかり子供の頃に見つけてしまった倉庫の隅っこで埃を被っていた伝承書を元に、その作法と流儀を受け継いでしまった数少ない貴族流技(スタイル)継承者の一人なのだ。

 

「わたくし達貴族はあらゆる暴力を厭います。それが武器だろうと魔法だろうと変わりはしない。暴力を決して赦さぬ、それこそがわたくしの心であり、先の動作ですわ」

「いや暴力だったじゃん。これ以上無いぐらい暴力の顕現だったじゃん。つーかさっきの魔法に見えたのはなんだったんだよ」

「最初の二人でしたら単にすれ違いざまにジャブを土手っ腹にぶっ込み、矢は軌道を見切ってキャッチしつつ回転して投げ返しただけですわ」

「”だけ”じゃねーよバカか」

 

 賊頭は最初の恐怖など最早欠片も残っておらず、ただツッコむ事しか出来ないでいた。

 これならまだ魔法使い(バケモノ)の方がまだマシだった。目の前の馬鹿者(バカモノ)は、自分の知識や常識の内から外へと突き抜けているナニカだ。

 見えない速度で拳を打ち込む速度、矢を見切るどころか投げ返す動体視力、四人を瞬時に素手で制圧する格闘技術。もうよくわからんが、ともかく冷静に考えるならそういう存在だ。

 武器を扱う者と徒手の格闘家の間には、互角に打ち合うならば格闘家には三倍の経験を必要とすると言われる程の不利が存在する。しかし目の前の非常識な娘は、そんな不利など完全に無視してみせた。

 どうせーっちゅーねん。賊頭は長剣を持っているにも関わらず、頭を抱えそうになった。

 

「――ただ敗ける事が、貴方の真に望む事ですの?」

「……あぁ?」

「貴方のその手、その腕。かつては剣を、武を志した者なのでしょう?」

 

 娘が指差すのは、賊頭の両腕・両掌。その腕はたった今で伸された盗賊達とは異なり、確かな修練による筋肉を持ち、掌には剣の柄に擦られて作り上げられた硬い皮膚が点在している。

 その指摘は正鵠を射ていた。賊頭はかつて、王国の騎士団の剣士となるべく、ただ只管に剣の腕を鍛え上げていた。

 しかし剣を幾万振ろうと、その望みは叶わなかった。”田舎出の無名の男”、ただそれだけで騎士団は信用を持たず、彼に試験という門戸すら開かせなかったのだ。

 

「……貴族サマに、俺の何がわかるってんだッ……! わかった様な口を、叩くんじゃねェよッ!」

 

 心の底と記憶の中に閉じ込めていた憤怒が、賊頭の口から一気に噴き出した。

 王国にとって必要なのは実力よりも身分の信用、そして”王国騎士団”というキャリアを得る為に積まれる金だった。試験すら受けられない事に納得が行かずに、騎士団について調べた果てにその事実を悟った男は、その腕を略奪に使う事にした。

 男には剣の腕以外に何も無かった。田舎の村は王国より遠く、戻るだけの路銀も無い。家族は男が王国を目指す前に流行り病で死んだ。王国の付近は平穏で、騎士団どころか傭兵すら必要とされていない。

 もはやそれしか無かったのだ。何一つ残らず、何も持たず、何も無い。故に、奪うしか無かった。それが己がかつて目指した正道から外れた道であろうと、一度踏み外せばもはや落ちるだけだったから。

 

「”貴方”の事など知りませんわ。えぇ、知りません。たとい如何なる過去が在ろうと、罪無き民草を襲うなど愚の骨頂。民の道を踏み躙るモノを、わたくしは一切赦しはしません」

 

 その怒りを、娘は対なる静けさで受け止める。

 娘にとって、男の過去など何の意味も無い。今この場に娘が居るのは民を護る為、即ち襲われた母と子の為だ。それは先程賊頭が叫んだ様に、娘にとっては相対する者の過去は関係無く、護るべき現在(いま)のみがある。

 そう、娘が尊ぶのは現在のみ。()()()()

 

「しかし、その腕の事ならわかります。貴方の腕は、戦いを求めている。勝利を望んでいる。栄誉を欲している」

「……何を――」

「その剣を以て、自らを歴史に刻もうと。その腕は略奪では無く――闘争を望んでいる」

 

 ぴくん、と賊頭の肩が跳ねる。ぎり、と柄を強く握る音が小さく鳴る。

 賊頭は娘のその言葉に心を大きく揺さぶられていた。それは自分自身ですら目を逸らし、考える事を拒んでいた賊頭の本心だったからだ。

 剣を取ったのは、夢を見たからだ。自分が騎士となって、正義を以て弱い者を守るため。そして、この世の悪に打ち克つため。自分の剣で何かを為す、その輝く夢を目指して、ひたむきに剣を振るった。

 それが、消えた。道が閉ざされた時に、光は視えなくなった。それでも剣だけは手放せなかった。それは略奪の為では無く、忘れられぬ未練故だった。

 棄てられなかったのだ。見えなくなった夢を、それでもこの腕だけは何時までも抱いていたのだ。

 

「来なさい、”名も無き剣士”よ。匪賊では無い、一人の剣士として。わたくしに、その剣を届かせてみなさい」

「――……」

 

 娘は正面を向きつつ肩幅に両脚を広げ、下げた両腕を腰から少し横へと広げて掌を見せる。ただ胸を張り、何かを抱擁しようと待つかの如き構え。

 それは格闘家の姿とは思えなかった。拳も握らず、腕も上げず、身体の前面全てを晒す。攻める気も守る気も感じられない、堂々とした蛮行。しかしそれこそが娘の、”フェルティシア”という人間自身を示す構えだった。

 

「……ナメた構えだな。言っておくが、俺は容赦しねえぞ。あんたが女だろうが貴族だろうが、あんただけは斬ると決めた」

「ええ、ええ。そうですとも、そうでなくては」

 

 賊頭は体の正面に剣を構える。それは剣士の基礎の基礎、しかし賊頭が人生の半分を賭して磨き続けてきた技だ。

 流派など無い。ただ構え・斬り・払い・突き・守る。夢を目指した男の在り方と同様に、愚直なまでに真っ直ぐな剣。しかしそれが、それだけが男が自分に誇れる全ての技だった。

 目の前にいる女は自分よりも強い、そんな事は解っている。勝ち目など無い、そんな事も解っている。

 しかし、女は自分を”剣士”と呼んだ。王国で認められずに成り下がった賊の一人では無く、武人として。ならば、示さなければならない。己の技を、己の全てを。

 風が吹き、一枚の葉がふわりと宙を流れていく。馬車の中にいる母は静かに緊迫するその光景を眺めて、やっべちょっと今の間に逃げるのが正着だったわと思いながらも、二人の武人の行方を見据える証人となっていた。

 

「ッ、らぁぁぁッ!!」

 

 先に動いたのは、賊頭だった。五・六歩分ほど開いた距離を、剣を真っ直ぐに構えながら一気に詰める。

 斬る・薙ぐ・突く。正中に構えた剣は、相手の出方を見て選択しようとする。娘は、動かない。

 ならば。男が選んだのは、最も信を置く選択(わざ)だった。

 

「かァッ!!」

 

 唐竹割り。地を踏むと同時に前傾し、正面に構えた剣を掲げると同時に切り返し振り下ろす。

 速く、鋭く、重く。己の全てを賭け、娘のがら空きの身体へ向けて力の限りを尽くした一刀を振った。

 

「――美事(みごと)

 

 その剣が頭に届こうという瞬間に、”フェルティシア”がようやく動いた。

 フェルティシアが一歩踏み込み、剣の間合へと自ら入る。続けて横に広げていた右腕全体を瞬く間に体の前で大きく時計回りに廻し、賊頭の剣を握る手を掌で払った。

 剣筋が横へ逸れた、それを賊頭が認識するよりも速く、右腕を振った勢いで腰を捻りながら逆の左腕を動かし、賊頭の空いた胴へ吸い込まれる様に跳ね上がった拳が打ち込まれた。

 

「……ガッ……グ、ォッ……」

貴族殺法(ノーブルアーツ)が一つ、『流月』(ノーブルムーン)。貴方の剣に敬意を表し、この技を捧げましょう」

 

 疾走と切り下ろし、全力の斬撃へ正確無比に合わせられたカウンターのアッパーが腹部に刺さった賊頭は、そのただ一発の拳による衝撃によって気絶した。

 前へ倒れる賊頭の体を、フェルティシアが抱き留める。フェルティシアが胸で受けた賊頭は既に意識を失っていたが、その表情はどこか満足した様に綻んでいた。

 

「……嘆かわしい事ですわね。この様に真っ直ぐな武人(ひと)が、賊に身を(やつ)すなど」

 

 その反面、フェルティシアは哀しんでいた。抱き留めた男の身体はフェルティシアよりも頭半分は大きく重かったが、その体重はただの体格による物だけでは無かった。

 鍛えられていたのは剣を持つ腕だけでは無い。胴も、脚も、剣を振るう為に全身がバランス良く鍛えられているのが、フェルティシアに寄り掛かる重みが証明していた。

 略奪者は、ただ腕を振るうだけでいい。弱者を狙い、凶器を腕力で振り回せばそれで良い。にも関わらず、今胸の内に居る男は全身が鍛え上げられている。

 それは男が闇雲に暴力を振るうだけでは無く、賊に成り下がりながらも自らを磨き続けていた”武人”であり続けていた事を示していた。

 

「……とりあえず皆ぶっ殺すつもりでしたが、気が変わりましたわ。この武人に免じ、残った命は見逃してさしあげましょう」

 

 そう言ってフェルティシアは賊頭の体を地にゆっくりと下ろし、横に寝かせる。

 その後、水面蹴りで片足を折られた後に、こっそり這々と逃げようとしていた盗賊に近付き、無言でその延髄に踵を落としてキッチリ意識をすっ飛ばした。

 目に見える賊達全てが完全に沈黙したのを確認した後、フェルティシアは馬車の方へと振り返った。

 

「……御者の方、奥様、お子さん。皆、目に見える傷はありませんわね。重畳ですわ」

「は、はぁ。えーと、ありがとうございました」

「構いませんことよ。再度言いますが貴族とは民を護る者であり、高貴は義務を背負う物です」

 

 馬車の陰に居る御者と幌の内の母は、正直顔を引きつらせながらフェルティシアへ頭を下げる。目の前にいるのは、文字通り力を持つ貴族だ。

 少しでも礼を失すれば、待つのは山賊達が受けた通りの物理的な即時制裁。それを思えば、迂闊に喋る事も恐ろしい。母はそれまで口から飛ばしていた半ば野次レベルの言葉も忘れて口調を抑え、御者はなるべく喋らずなんとかジェスチャーだけで乗り切ろうと思っていた。っていうか、下手に関わりたくなかった。

 

「もう恐れる事はありません。先程山上の森を跳んでいた際に、この周囲に他の賊達がいない事は確認済みですわ」

「え、森? 跳んで? 何で? なにゆえ?」

貴族鍛錬(ノーブルトゥレイン)の一環ですわ」

 

 さらりと言ったフェルティシアの言葉に母は更に畏怖を重ねる。山の上から降ってきた理由が鍛錬の為だったと言われれば、誰だって怖いと思うだろう。御者もそう思っていた。

 何故か困惑と恐怖を深める二人はともかくとして、フェルティシアは次に馬の状態を確認する。二頭いた馬は受けた矢傷と、暴れた事による失血によって既に命を終えようとしている。

 助からない。そう直観したフェルティシアは、半死半生の中で苦しむ馬達に寄り添い、その首に恐ろしく速い手刀を打ち、意識を飛ばして死へ至るまでの苦痛から解放した。

 

「……奥様。そのお子さんは病に伏せ、先を急いでいる。間違いはありませんわね?」

「――あ゛っ。は、はい! その、ここから徒歩では流石にっ……!」

 

 母は遅れて現状を理解する。御者は落馬で全身を打っただけ、自分や息子はノーダメージだったが、そもそも馬車を引く馬がもう居なくなってしまった。

 今居る位置は山道を登り終えただけで、未だ中腹だ。ここから立つ事も出来ない息子を連れて街まで行くには、あまりに遠すぎる。これでは、息子の命が病でマッハだ。

 どうすれば。割と真面目にヤバめの問題に、母は頭を抱えそうになった。

 

「……賊の皆様を合わせて、十一人。中々ですわね」

 

 そう言いながらフェルティシアは馬が身に付けていた革紐を手刀で切り落としながら――マジで刃物を使ったレベルの切れ味を発揮していた――、そう呟く。

 複数の革紐を縛って長いロープを作ったフェルティシアは、次に御者と気絶している賊頭を丁寧に馬車の幌へと入れ、それ以外のはっ倒した盗賊達を作ったロープで一緒くたに巻き付け、馬車の後ろに紐の端を適当に繋げた。

 

「これで良し。では、急ぎましょう。ヴァンティールの名に賭けて、お子さんは死なせませんわ」

「え、いや、急ぐも何も、どうやって」

「わたくしは先程言いました。高貴は義務を背負う、と」

 

 フェルティシアはそう言ってから、目を閉じて息を吸い、肺腑の底から音を立てて全ての空気を吐き出す。

 烈風の如き音の呼気の放った後、フェルティシアは馬車を牽引する為の紐を持つ。そして、腰を低くして両脚に力を込めた。

 

()ッ、()ゥッ……!」

 

 そして、馬車は動き始めた。馬二頭分、いやそれ以上の力を発揮したフェルティシアの四肢が大地を踏み締め、馬車と十一人の人間を牽引して車輪を回していた。

 母も御者も目を疑った。たった一人の女が、馬力を超えて自分達を牽いている。しかしいかに目の前の女と現実を疑おうと、車輪は回り続けて前へ前へと進んでいく。

 この女は、本気だ。本気で、馬車を自力で街まで牽く気でいる。

 

「ッ、貴族殺法(ノーブルアーツ)が一つッ……『昂氣』(ノーブルオーラ)ッ……! 高貴なる者は義務を、そして民草の命を背負う、者ッ……!!」

(物理的にではなくないですか?)

 

 御者も母も黙って顔を顰める事しか出来なかった。一度動き出した車輪は少しずつ加速し続け、馬車の後ろに繋がれている盗賊達はざりざりと山道の地面に削られていく。

 重い一歩一歩を刻みながら、馬車は進む。フェルティシアと母達にとって唯一の幸運は、残る道程は概ね山道の下り部分であり、その過程に於いては馬車の重みはいくらか軽減される。

 これが登りを含めていれば、いかに『昂氣』によってフルパワーを発揮したフェルティシアであっても全員を牽引する事は難しかった。せいぜい賊頭以外の山賊を全て断罪討滅し、四人と馬車を休み休みで牽く事になっていた事だろう。

 しかし、下りであれば問題無い。街までなら――!

 

(ふぅっ……! かつてのっ、大岩を動かした鍛錬を思い出しますわねッ……!)

 

 馬車を牽く為に使っている『昂氣』――要はめっちゃ全身に力込めてるだけ――による体力の消耗に汗をかきながら、フェルティシアは昔を思い出す。

 貴族流技を極めるのに必要なのは心・技・体の全てを鍛える事であり、その鍛錬にはフェルティシアは自身の体の倍はあろう大岩を『昂氣』を以て動かすという物もあった。

 ちなみに技の習得に於いて別にそんな事をする必要は無かったが、”なんかいけそう”という理由でフェルティシアは大岩押しを一時期の趣味としていた頃があった。

 しかしそんな過去と現在の類似と相違に、フェルティシアは思わず笑みを浮かべていた。

 

(今のわたくしの力は、民を護る力として行使されている)

 

 貴族の義務、そして栄誉。鍛え上げる過程で流した汗と血と時が、今此処に結晶していた。

 今も襲われた事への恐怖に震えている――狂った筋力を見せるフェルティシアにガチビビりしてるだけ――幌の中の二つの民の想いを思えば、馬車の重みなど苦にはならない。

 そう、この重みこそが貴族が背負うべき義務。今自分は誰よりも貴族として存在している、高貴を示している。傍から見た姿はともかく、フェルティシア自身はそう信じていた。

 

「山道さえ下りればっ、そこからは比較的道が整っていますわっ……申し訳ありませんが、街に着くまで半日は、耐えてくださいませっ……」

「え゛、半日? 馬車だと大体あと一日と少しぐらいかかるって思ってたんですけど」

「わたくしがっ、『昂氣』を維持して不眠不休で歩み続ければっ……何も支障、ありませんことよっ……!」

「貴族様は本当に人間なんですか?」

「貴族とは民の上に立つ者っ……! 故にっ、常人より優れるが道理、なのですわっ……!」

「これ程までに踏み躙られた道理を私はかつて知らないんですけど」

 

 もう何も言えなかった。目の前の令嬢は人の形をした何かだ、母はそう身分の違いを悟る。

 口から出る言葉も、為す事も、それを支える心・技・体全ても。何もかもが違っている。救けてもらった身ではあるが、ちょっと正直もう関わりたくないヤベー部類の人間だと思った。

 そんな母と、殆ど同じ想いを抱いて口を噤んでいる御者の内心も知らず、馬車は進み続ける。その道はただ歩くには易く、しかし民を乗せて進むには厳しい。しかしそれこそが貴族としての”道”だった。

 ならば、進むしか無い。車輪のカラカラと鳴る音と、ふん縛られた盗賊が地べたに引き摺られザリザリと鳴る音、二つの乾いた音と共にフェルティシアはゆっくりと歩を進めていく。

 

「これが、これこそがっ……! 貴族の義務、ですわァッ……!」

「ちがうとおもいます」

 

 陽光の差す道を、フェルティシアと馬車は進む。

 その道の先に在るは、護るべき民草と貴族(じぶん)の義務・そして誇りだった。

 




”貴族流技”(ノーブルスタイル)”貴族殺法”(ノーブルアーツ) ――……
一部の高位貴族家の間にのみ伝わるとされる流派・及び闘法。”一騎当千”を喧伝し、戦乱の世において合計千以上の外敵をぶっ飛ばしたという伝説がある。素手で。
過酷すぎる鍛錬と狂った精神を要するこの闘法の継承者は、乱世が終わった後に全て死滅したかのように見えた。だが、伝承は潰えていなかった!
……――ミンメイ・ブックス 著


最近貴族令嬢物が流行ってるらしいので、自分も書いてみました。
よくある感じのファンタジー小説でしたが、読了ありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。