邪神系TS人外黄金美女が古代神話世界でエルフ帝国を築くまで   作:独活ノ苔玉

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決闘前。主人公の裏での行動など。
ルキア視点と主人公視点。


ホワイトダーク・ダイアモンドダスト IV

 

 

 

 ──だんだんと、意識がハッキリして来た。

 

 私は抱えられ、大事に扱われている。

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 しんしんと雪の降り散る北の森(ヴォラス)の奥。

 不思議なことに、普段ならば感じる寒さは一切感じない。

 (くう)に舞う粉雪も、肌を刺す冷たい風も。

 まるで、いまこの時ばかりは、自らの存在意義を忘れてしまったようにルキアを避けている。

 

(オドベヌス様の、加護?)

 

 鮮明になってきた記憶。

 徐々に明度を増していく意識の中、視界に広がる奇妙な光景に、ルキアの脳裏に過ぎったのは主神による祝福だった。

 オドベヌスの騎士になってからというもの、ルキアは常人に比べて寒さには多少の耐性がある。

 

 しかし。

 

(……違う。私じゃ、ない)

 

 ルキアはすぐに思い違いを悟った。

 霜天の牙は冬の獣。

 その本性は慈悲なき死神。

 いくら自ら認めて選んだ使徒とはいえ、ルキアは熱ある生き物だ。

 厳冬の化身であるオドベヌスからすれば、究極、すべての生命(せいめい)は刈り取るべき獲物であり──寛容は見せても慈悲は与えない。

 

 事実、これまでの暮らしを振り返っても、オドベヌスがルキアたち雪の牙に『熱』を許したことは、一度も無いのだから。

 

 ならば、

 

 

「お、そろそろ目が醒めたか? よしよし。だが無理はするなよ? 俺にだけは、いくらでも甘えてくれていいんだからな」

 

 

 そのまま安心して身を預けているがいい、と微笑みを浮かべる絶世の美。

 

 もちろん、ルキアは覚えている。

 

 黄金──太古の神性。

 

 金髪黄金瞳。

 背は高く、カラダつきは優美かつ艶麗。

 こうして密着していると、否が応でも豊満な乳房の圧を感じ取れる。

 ルキアを抱き上げ、悠々と前へ進むこの女神。

 北の森ヴォラスにありて、寒さを跳ね除けるという明らかな異常は、もはやどう考えても目の前の超常存在が原因だ。

 

 ヴォラスの雪風といえば、たとえオドベヌスの加護を得たルキアであっても、時に堪えるものがあるというのに。

 

 黄金の神は、それをまったく意に介した様子もなく、実に軽やかな足取りで雪道を進んでいる。

 

 ルキアは抱き上げられているため、足元を見下ろすことはできないが、恐らく、厄介な積雪をも排除(・・)しているのだろう。

 先ほどから、ゴゴゴゴゴ、と雪の崩れる音が聞こえていた。

 

(なんて便利)

 

 状況の原因より、思わず生来の不便な暮らしに対する不満から羨望が滲み出た。

 しかし、そんなコトよりも気にするべき問題がある。

 

(たしか……私は……)

 

 胸に手を当て、最後の記憶を思い返す。

 たしか、ルキアはいつものようにヴォラスでの哨戒をしている途中だった。

 そこで、龍の騎士たちを発見し、急いで一族のもとへと戻ろうとしたところ、なぜか()()()()()()()()()()敵に捕捉。

 そのまま背後からの不意打ちを受け、抵抗する間もなく意識を奪われたはずだった。

 

 口元に当てられたのは、甘い香りのする布。

 

 アレは恐らく、知識の通りならばバレリアンの眠り薬を染み込ませたものだろう。

 長老たちの授業で学んだが、古来より鎮静効果があるとされる薬草をもとにしていて、過去、『花の國』の神によって大陸に広められたらしい。

 本来は不眠症や精神錯乱者への鎮静薬として使われているはずだったが、今では龍の國の騎士のようなならず者(・・・・)

 いわゆる、狐狸野干どもの卑劣な道具に堕ちているそうだ。

 

 不覚を取ったのは慚愧(ざんき)に堪えない。騎士としてまったく不甲斐ないばかりだ。

 

 あれから、もしも何の助けもなく囚われの身となっていれば、ルキアに待っていたのは陵辱の未来だったろう。

 虜囚の辱めを受け、誰とも知れぬ男たちに体をまさぐられ、泣いても叫んでもゲラゲラと尊厳を踏み躙られる……。

 

 まさに、想像するだに身の毛がよだつ。

 

 ──けれど。

 

(助けて、くれた。こんな私を、助けてくれた)

 

 絶対なる神の一柱が、取るに足りないルキアのような未熟者を。

 何をしたワケでもなく、何に報いたワケでもない。

 ただ会話をし、何事もなく別れた。

 それも半分以上は、何の変哲もない退屈な身の上話。

 内心では、逆意とも言える不埒な考えを巡らせもしていたのに。

 黄金の神は、知ってか知らずか。

 そんなルキアへ、朗らかに救いの手を差し伸べた。なぜ?

 

(どうして……?)

 

 正直、意味が分からなかった。

 初めて会った時もそうだったが、こんな神をルキアは知らない。

 

 神とは、天上天下唯我独尊。

 

 自分以外は圧倒的に『下』に見ていて、どんなに尽くしても一時の気まぐれで見捨てられる。

 基本的にこちらを(おもんばか)ってくれることはないし、その好意はどこまでも愛玩の範疇を出ない。

 

 もちろん、神様から寵愛を授かるのは至極名誉なコトだ。

 

 しかし、一方で愛憎反転という恐怖もある。

 祝福も加護も根本的には呪いと表裏一体。

 ほんの些細なことで評価が変われば、元よりこちらは容易く見限られる低価値。神は躊躇いなく、容赦なく裁定を下すだろう。

 少なくとも、ルキアの知る神とはそういう存在だ。

 

 それゆえに──恐ろしい。

 

 一族からの教育と、オドベヌスという実例を以って、ルキアは当然弁えている。

 なのに、

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 優しくもたしかな強さでルキアを掻き抱くその力。

 腕の中より見上げる玲瓏(れいろう)なる(かんばせ)は、輝かんばかりに凛々しく美しく。

 神として偉大で、畏れ多いのは絶対に間違いないのに。

 小鳥のような唇から発せられる、なんの気負いもない言葉には、信じられないほど親しみ深さが込められている……

 

 ルキアは──トクン、と胸の弾む音を聞いた気がした。

 

(……でも)

 

 ひとつ、不思議なことがあった。

 

 助けてもらえたのはいい。嬉しいし、なんだか生まれて初めて、肩の力を抜いて頼れる相手を見つけた気さえする。

 異境の神とはいえ、こうして本物の神に身の安全を保証されている状況には、この上ない安堵が押し寄せもする。

 龍の國の騎士がいくらやって来ても、きっと、この女神の前では何の障碍にもならない。

 だから、それはいい。騎士としての自身の力不足を感じずにはいられないが、それは今すぐどうにかなる問題じゃないし、今後の課題だ。

 

 さしあたっての問題は、そう。

 

(どうして、私が捕まったのが分かったんでしょう?)

 

 場所も時間も何もかも、タイミングが良すぎる。

 偶然の幸運だと片付けるには、いささか出来すぎなくらいに。

 

 ──訊いてもいいものか。

 

 胸の内で、ひそかに迷った瞬間だった。

 

 

「賢い子だ。もう違和感に気づいちゃったか」

 

 

 神が、おもむろに口火を切った。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 腕の中より感じる疑念の眼差し。

 かすかに生じた戸惑いの気配を察し、俺は「なんてことは無いんだよ」とルキアに言った。

 

 

「そもそもの話、ここは雪の牙……キミたち一族の森なんだろう?

 言い換えれば、北の森(ヴォラス)はオドベヌスの縄張りってことだ」

 

 

 ──お鎮まりを! いずこかより来たりしさぞかし名のある古の神と見受けまするが、何ゆえそのように荒ぶり、我らが森(・・・・)を脅かそうとするのか! 何卒、お鎮まりを……!

 

 初めて会った時に、他ならぬルキア自身の口から聞いた言葉である。

 

 

「つまり、俺は言うなれば、他人(オドベヌス)の家で勝手に歩き回っている、めちゃくちゃ傍迷惑なヤツってことさ。冷静に考えて、そんな存在を『神』が許せると思うか?」

 

 

 無論、否である。

 いかに北の森広しといえども、一度自分で縄張りと定めた場所を侵犯されて、それでもなお我慢出来るような忍耐強い神は存在しない。

 この世界、どんな神も自分こそがナンバーワンだしオンリーワン。

 自我とプライドの塊みたいな存在だから、邪魔者は当然殺意の対象になる。

 

 ルキアと別れた後、俺は吹雪の夜を好き勝手に移動しまくり、とりあえず手当り次第に権能を使いまくった。

 主に使ったのは“閉塞打破(エレフセリア・イカルス)”だが、木を薙ぎ倒したり地面を砕いたり、まさに無秩序という表現が相応しいやり方で暴れ回ったのだ。

 すると、当然だが。

 

 

「家を荒らされれば腹が立つよな? ヤツはもう超絶カンカンだったよ。出会い頭にいきなり噛み付いてきて、そんなに怒って、いったいどうするんだってくらい何度も何度も串刺しにしようとして来た──けどまぁ」

 

 

 さすがに、俺も無抵抗にやられたりはしない。

 いくら不死身だからといって、相手に好き勝手させる必要はどこにもないのだ。ちょっとの間だけとはいえ、いい気になられても癪である。

 

 吹雪を吹き飛ばし、権能を見せて、「今ここでやり合ってもいいが、やり合うならタダじゃ済まないぞ?」と、先ずは互いに話をしようと促した。

 

 

「もちろん、オドベヌスのヤツは怒り狂ってたから、すんなりとは行かなかったけどな?

 ──まぁ、それでも、幸いなことに相手の力量を見定める眼は持ってたらしい」

 

 

 おかげで、俺が単なる文明神の類いでは無いと分かったのか、牙を剥き出しにしつつも、とりあえずの会話が可能になった。

 

 そこからは話が早い。

 

 

「まぁ、要点だけ掻い摘んで話すけど、要は一時的な停戦を取り付けたのさ。条件付きでね」

 

 

 俺は歌うようにルキアへ聞かせる。

 反面、ルキアはだんだんと顔を青くし、気の毒なほど恐怖に取り憑かれていくが……聡い子だ。話の筋が見えてきたのだろう。

 

 だが、こればかりはどうにもならない。

 

 そんな顔をしないでくれと、もう今すぐにどうにかしてやりたくてたまらなくなるが……これからルキアの常識を破壊し、俺という新たな神を存分に知ってもらうためには、やはり、これはどうしても必要な通過儀礼(イニシエーション)となる。

 

 なので、悪いな、と思いながらも言葉を続けた。

 

 

「ひとつ──俺とオドベヌスは、これより『決闘』を執り行う。

 理由は、俺がヤツを殺したいと思い、ヤツもまた俺を殺したいと思ったからだな。

 互いに互いの存在を許せなくなった時点で、神である俺たちは、もはや殺し合わなければ到底気が済まない。

 これは当たり前の帰結であり、すでに決定した未来だ」

 

 

 それを踏まえ、ふたつ目。

 

 

「しかしながら──これはルキアも知っているように──北の森(ヴォラス)には面倒なゴミ虫がいた。そう、龍の國の騎士たち!

 俺はオドベヌスに、神聖なる神と神の決闘場にゴミ虫が湧いているのは良くないだろう──と。先に、森の浄化を提案した。オドベヌスはこれを承諾し──」

 

 

 以って、一度目の殺戮。

 

 

「北部先遣部隊のなかでも、さらに斥候をつとめていたカスたちをオドベヌスが殺した」

 

 

 次いで、二度目の殺戮。

 

 

「カスのひとりを実験も兼ねて騎士に変えた俺は、そいつの案内のままに北部先遣の本隊を叩きに行き……後は知っての通りだな。ルキアが捕まったのをあらかじめ知ってたのは、まぁ、オドベヌスから聞いてたんだよ」

 

 

 曰く──なんたる不出来。なんたる不始末。何が違う? 何がこうまで差をつける? 龍神の使徒に比べて、我が使徒のなんたる無様! この出来損ないのクズめ! 牙を剥いて抗うこともできんとは……死ね! 恥を知れ!

 

 あの場にルキアがいなくて、心から良かったとそう思う。

 

 と同時に、オドベヌスは必ず殺す。

 

 戦闘向きの権能なんか、俺は何一つ持っていないが、たとえこの身が幾度噛み砕かれようと、この化身(アバター)が持ちうるすべての手段を以って、ヤツの全存在を否定し尽くしてやろう。

 

 龍の國の騎士どもは、所詮、狗に過ぎない。

 

 人でありながら人の領分を履き違えたゴミクズたち。

 ルキアに手を出そうとしたその点において、アイツらはオドベヌスと同じく情状酌量の余地がないほど度し難いが、人間である以上は一定の理解をくれてやれる。

 醜悪な狗畜生。オマエたちは気持ち悪い。ゆえに死ね。それ以上生き恥を晒すなと。

 

 だが、オドベヌス──霜天の牙、冬の獣、厳冬の化身。

 

 ヤツはただ……気に入らない。

 俺が心より美しいと価値を認めたルキアを所有しておきながら、その幸福に気づかず「死ね」と断ずるその愚かしさ。

 元より生きる世界が異なる人と獣なれど、神として性格を得てひとたび知性を得たのなら、何故分からない?

 

 この世にあって真に尊きもの、真に貴きは、彼のルキア()にこそ他ならない。

 

 誰がために己を殺し、たとえ自分が本当に望んでいるものが何一つとして手に入らなくとも。

 皆が笑顔であれば、『それはとても良いこと』だと顔を上げ、ついには己を殺してまでやり遂げる。

 

 これが光でなくて──いったい何だというのか?

 

 地上に(ひし)めく衆愚はいつだって、空にて輝く綺羅星に恋をする。

 野卑なる獣とて、遥か頭上を見上げれば、星の美しさは理解しよう。

 光とは、森羅万象に通ずる絶対普遍の真理。

 この常識が分からないクズは、生きている意味がない。

 理解も、共感も、同情も、無理だ。

 総じて結論、死ねよ蒙昧(もうまい)の一言に尽きる。

 

 

「キミはオドベヌスの怖さを思い知っているんだろう。

 エルフにとっての十六年間は短い時間なのかもしれないが、たとえ短かかったとしても、十六年は十六年。

 それだけの時間があれば、骨身に染みて恐怖を刻み込むのは簡単だ。

 オドベヌスの存在は絶対であり、天地がひっくり返るのと同じくらい、ヤツの死もまた有り得ない。

 最初からそれが当然だった者にとって、世界(・・)とは端からそういうモノ。

 周りの環境も、特段それを否定しなかっただろうし、キミがこうして話を聞く中、身を竦ませてしまって言葉も喋れないのは無理もない」

 

 

 だがな。

 

 

キミ(・・)()世界(・・)()()()()()()?」

 

「────ぇ?」

 

「フッ、そのポカンとした可愛い顔こそ、何よりの回答だ。

 聞いてくれ、生まれてよりこの地獄(ヴォラス)しか知らぬエルフの少女よ、キミの明日はこれより始まる。

 虐げられ続けた日々は終わりだ。

 不当に貶められ、無闇に消費されてきた日々もこれにて終わり。

 あらゆる非道、あらゆる残酷さは、キミのもとにはもう届かないッ!

 俺が守ろうッ! 俺が愛そうッ! 俺が導き俺が認めるッ!

 うざったい(しがらみ)からは抜け出して、窮屈な暮らしとは別れを告げてッ!

 望むなら、黄金の楽土も新たな天地もッ、今やキミとともに在るのだから……!」

 

 

 ゆえに、さぁ──我が鼓動を知れ。

 

 歩き続けた先、エルフの生き残りが隠れ潜む白き集落。

 その中心で、慌てふためくエルフたちに囲まれながら、待っていたぞと言わんばかりに殺意に烟る剣歯虎よ。

 巨大な牙と天に逆立つ体毛は、なるほど、霜天の牙の名に相応しい威容なのかもしれないが、関係ない──オマエはムカつく。だから殺す。

 

 ルキアを降ろし、オドベヌスと眼を合わせた。

 

 緑の瞳が苛立たしげに顔を顰める。

 

 

 

「逃げずに来たか──不遜な黄金め!」

「ハ! 牙はちゃんと磨いておいたかよ、オドベヌス」

 

 

 

 俺たちは睨み合い、自然と距離を詰め合った。

 そして、一定の位置で双方ともに停止する。

 射程は十分。権能は十全。漲る殺意に揺るぎなし。

 

 言葉は不要────決闘を開始した。

 

 







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