理想家トレーナーと叶えてくれるウマ娘   作:ハルのキノナカ

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pixivとかでウマ娘のSS見てたら
推しが増えました
なんということでしょう

今回でプロローグは終わります

描きたいこと書いてたら
1万字超えました
ごめんなさい



第2R 挑戦

「歓喜!どうやら思いとどまってくれたようだな」

 

「.....はい、ご迷惑おかけしました」

 

「よかったです!トレーナーさんが残ると言ってくださって!」

 

「..........」

 

現在、俺たちはふたたび理事長室にて

報告に来ている

タイシンのトレーナーになると言ったら

「あんたいきなり来て何ふざけたこといってんの?」

と、鋭い切り返しを受けたため詳しい話しをするからと

理事長室に来た次第である

 

だから俺の隣にはタイシンもいるのだが

他にもウマ娘が同席している

 

「よかった、前途有望なトレーナーとウマ娘の損失は学園にとって望ましくないからな」

 

彼女こそこのトレセン学園生徒会長にして

無敗の三冠を成し遂げたウマ娘

 

皇帝 シンボリルドルフ

 

彼女に憧れて学園に入学するウマ娘はかなり多いと聞いている

いちおう面識はある。

生徒会長であり、俺の先生が鍛えたウマ娘の1人だから他の人たちよりも接点は多かったし、サブトレーナーとして一緒にいたこともあった。

 

「ナリタタイシン、君の粉骨砕身の努力は素晴らしい限りだが、寮則と学則をないがしろにしてしまっては本末転倒だろう?

実際、君の素行の悪さは職員にも印象が悪かった、このままでは退学も有り得たんだぞ?まさに危機一髪だ」

 

「う......すいませんでした....」

 

シンボリルドルフがいるのはこうしてお説教をするためだ

タイシンも自覚があるのか目を逸らして謝罪する

「安堵、我々としても将来が楽しみなウマ娘がいなくなってしまうのは大変惜しい。そこでそこのトレーナーに君を紹介してみたという訳だ!」

 

「なるほど....それでアンタがあそこにいたわけね」

 

「まぁね、俺も元々転職するつもりだったところを君がほっとけなくなったら責任取ってトレーナーになれって言われたんだ」

 

俺の話を聞いたシンボリルドルフとタイシンが驚きに目を丸くしている

俺はその視線を受けて、まぁそりゃそんな反応になるわなと

理事長とたづなさんの顔を見ると苦笑していた

 

「提案、どうだろうかナリタタイシン?そこの彼をトレーナーにしてみるのは」

 

「…この人をトレーナーにするのはちょっと…」

 

「安心したまえ!彼の能力にはなんの問題もない」

 

「私からも太鼓判を押させてもらおう、ナリタタイシン。彼のトレーナーとしての能力はとても新人とは思えない」

 

「トレーナーさんは入社試験は平凡なものでしたが、その理解力には目を見張るものがあります」

 

3人の話をきいたタイシンは俺に視線を向けて

こんな奴が…みたいな顔でみてくる

まあ、自分でいうのもむなしいけど平凡な男ですよー

ただまぁ、それだけであの皇帝さんに絶賛されるわけもないんだけどねー

 

「タイシン」

 

「なに」

 

「さっき俺は君に、瞬発力と加速力が必要だといったね」

 

「いわれたけど?」

 

「理由を教えたいと思う、シンボリルドルフ」

 

「なんだろう」

 

「タイシンと模擬レースをしてくれないか?

 

「「「「!!???」」」」

 

俺の提案にみんなびっくりしている

いきなり模擬レースをしろといっているのだから当然だろう

だが、これでタイシンが納得して、俺を認めてくれるなら

楽というものだ

 

「あんたいきなりに言ってんの!?そもそも会長がアタシとレースなんて受けてくれるわけないじゃん!」

 

「いや、受けよう」

 

「「「え」」」

 

シンボリルドルフの答えに俺以外の人が驚いた

それもそうだろう、シンボリルドルフは栄えある三冠ウマ娘

それも無敗という圧倒的な強者だ

そんな彼女がわざわざメイクでビューも前の子に勝負をするのはいじめに近い

それを理解しているうえで彼女は受けるといっている

 

「いいのか、会長様。俺がいうのもおかしいけど君には得がないぞ」

 

「かまわないとも、それに得はあるさ

君の本気が見れるのであらばその価値は十分だ」

 

そう言ってシンボリルドルフは不敵に笑って見せた

それでも勝つのは私だというように

俺は彼女のそんな笑みに対して同じように笑って返した

 

「ありがとう、期待に添えるように頑張るよ」

 

「レース予定日はいつにしようか?」

 

「ルドルフが決めていいよ、こっちは最初から無理な願いを言っているんだから」

 

「では、1か月後でどうだろう?」

 

「わかった」

 

俺とタイシンの今後が決まる時間が決まった

思うがままに、すべてを尽くそう

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「で、どうやって勝ちにいくわけ?」

 

あれから1日たった昼下がり

俺とタイシンはトレーニング用練習場にいた

 

タイシンのトレーナーになるためにその証明相手として

シンボリルドルフに勝負を挑んだ俺たちは

ひとまず仮としてトレーナーとウマ娘の関係になった

理事長にも

 

「名案!トレーナーとしての力を直接感じとってもらったほうがはやいだろう!」

 

と後押ししてもらったこともあり、しぶしぶながらもタイシンも納得してくれた

ていうか、名案って自分でいうんだあの人

そういった経緯で俺たちは2人で練習場にいる

 

「なんだ、勝つつもりでいてくれたのか?意外と乗り気だな」

 

「違うバカ、どうせやるなら勝ちにいくのは当たり前でしょ。それで?どうするわけ」

 

「バカって言うな、俺は最初からそのつもりだよ。どうするかの前にタイシン

お前自分で練習メニュー考えてるだろ?見せてくれ」

 

「‥‥はい」

 

タイシンは俺の言葉に反応してスマホをいじってその画面を見せてくる

スマホアプリに練習メニューを書き込んでいるらしい

かさばらなくていいなと思いながら、そのメニューをみた俺は無言でタイシンに向かって

脳天チョップをかました

 

「ってい!」

 

「いった!!なにんすんだいきなり!」

 

「こっちのセリフだアホ!なんだこの故障まっしぐらコースは!!」

 

そこに表示されていたのは通常量の最低で倍、多いのは3倍という殺馬メニューだった

 

「オーバーワークはだめだっていうのは基本中の基本だろうが!」

 

「うっさい!アタシはこれくらい必要なんだよ!」

 

言い争いをしながら気づいた、タイシンはどこか必死な感じがする

そこまで考えて原因が分かった。

これは落ち着いて話し合わないといけない

 

「タイシン、まだスタミナのこと気にしてる?」

 

「ッあたしは別に」

 

「ああ待ってくれ、もう言い争うつもりはないよ、落ち着いてくれ」

 

「は?あんたいきなりどうしたわけ?」

 

俺は黙って真剣にタイシンの目を見続ける

俺が真剣だとわかったのかタイシンも口を閉じて見つめ返してくる

 

「…あんたに言われるまでもないっての、これがオーバーワークだっていうのは

でも、こんくらいやんないとパワー負けすんの」

 

「いや、パワー勝負はしない」

 

「あんたねぇ…」

 

「タイシン、君のレースは見させてもらったけど正直びっくりしているんだ

第4コーナーを切ってからの君の末脚と速度は尋常じゃない」

 

「え…いや、アタシその終盤でいつも負けるんだけど」

 

「それは君が体格負けも考えずに先行争いに食い込むからだ

君はその末脚を最大限生かすべきだ。もちろん今までのトレーニングで培ってきた

そのスタミナも十分にね」

 

「…追い込めってこと?」

 

俺はさすがだというように頷いた

タイシンはその反応を見て考えるように少しうつむいた

 

確かにほかのウマ娘と比べて体格が小さい

だがそれは、支えなければならない重さが少ないということ

それはほかのウマ娘とは圧倒的な格差を生む

彼女の体格はわずかな隙間からでも外から差せる

彼女の脚は、生まれ持った速さと

今までのトレーニングで鍛えたスタミナがある

ここまでそろっていればあとは気持ちだ

 

「タイシン、あらかじめ言っておくが、ここからの練習は死ぬほどきついからな」

 

「え」

 

「追込型っていうのは、最後方付近から第4コーナー手前で一気に先頭に

出てこなくちゃいけない作戦と走り方なんだ。だからそれまでに脚を溜めておくのは

もちろんだがそれだけでは勝てない」

 

後方の位置からレース全体の動きを把握しながら

いつ仕掛けてもいいようにポジションも取っていかなくてはならない

それも走りながらだ、神経の擦り減り方は半端じゃない

 

「相手をみながらスピードも合わせていく、遅れないようにする為にな

当然ここで体力を使っていたら、最後の抜け出しで足りなくなる

やることはもちろん多いし頭も使うぞ」

 

俺が説明を終えるとタイシンは顔を上げてこちらを見ていた

その目はやる気に満ちていた

 

タイシンは不敵に笑うと俺から独自の練習メニューが描かれてある

自分のスマホを取り返していくつか操作すると、俺にパスといって

スマホを山なりに投げてきた

俺は慌てて受け取ると、その画面にはもう練習メニューが描かれてある

アプリが削除されていた

 

「なにボケっとしてんの早く始めるよ、練習」

 

「いいのか、今までやってきたメニューを消してしまって」

 

「いい、代わりはアンタが作ってくれるんでしょ」

 

そういってタイシンは練習場に歩いていく

その背中からは確かな信頼が感じられるようで

俺も一緒に向かっていった

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

タイシンに新しいトレーニングを提案して、練習すること1週間

いきなり走り方を変えろ、それに合ったトレーニングを始めさせたにも関わらず

彼女は指示通りにトレーニングを行ってくれた。

もちろん、彼女の性格からただ言うことを聞く訳もなく、なんどか衝突もしてきた

 

「なんで、こんなクソ重たい蹄鉄つけて走らなきゃいけないわけ?」

 

「それは追い込みをかけていく際に必要な脚そのものにパワーとスタミナを

つけるためだよ、それを付ければ後半の爆発的な速度アップに必要な2つを

同時に鍛えられる、きついならやめるが?」

 

「は?誰がそんなこといったわけ?」

 

彼女とトレーニングをするうえで当然食事管理も必要になり

 

「タイシン、食事メニューについてだけど―」

 

「……なに?」

 

「いや、あからさまに嫌な顔するなよ、想像つくけど」

 

「別に、むやみやたらに体重増やすようなものはたべてないけど」

 

「確認のために君の同室者に聞いてきた」

 

「はぁ!?なに勝手に人の交友関係調べてるわけ?きもいんだけど」

 

「ほう。じゃあこの食事量はなんだこら」

 

俺は調べてきた資料をタイシンに突きつける

バッ

タイシンがすごい勢いで顔をそむけた

回り込んで突きつける

バッ

突きつける

バッ

 

「…顔をそむけるくらいには自覚があるみたいだな」

 

「…うっさい/////」

 

 

 

 

こんなやり取りをしながら1週間が過ぎた

身体自体は仕上がっているので、今までと違う作戦に慣れてもらうための

トレーニングを集中的に行えるのは限られた時間しかない俺たちにとっては幸いだ

だが同時に新しい課題が見つかるのも必然なのだろうか

 

「ねえトレーナー、ちょっと聞きたいんだけど」

 

「なんだ」

 

「このトレーニングだとタイム測っても実感がわかないんだけど」

 

タイシンの言う通りこのトレーニングは追込のトレーニングであるため

タイムは早くなっていても追いついている、追い抜いていくという実感がないのだ

俺がサブトレーナーとして所属していたチームは人数の多かったため

併走トレーニングなんかもやっていたが、初めて自分から教えるようになった

俺にチームなんかを任されるはずもないため、練習相手に困っていたのだ

 

「タイシンってちゃんと自分の頭で考えてトレーニングしてくれるよな」

 

「急になに?質問の答えになってないんだけど?」

 

「ごめんごめん、そろそろ頃合いだと思って練習相手を呼んでおいたよ」

 

「は?なにそれアタシ聞いてないんだけど」

 

「言ってないからな、いったら怒りそうな気がしたしまもなく来るはずだ」

 

そういって練習場の入り口ゲートに目をむける

タイシンも俺の視線を追うようにゲートに視線を向けるとちょうど声が聞こえてきた

タイシン~~~~~~~~~~~~~~~~!!!と少しずつ大きくなっていく声を

聞いていると、タイシンが嫌そうな顔をし始めた

 

「タイシィィィィィィイン!練習手伝いに来たよ!!!」

 

「君の事情はブライアンとトレーナーからから聞いているよ、タイシン。是非協力させてくれ」

 

入り口から目をそらしていないのに残像が見えるようなスピードでタイシンに抱き着くのは

ウイニングチケット

あとからやってきたのは、ビワハヤヒデ

この2人はあの気難しいタイシンの親友だ

 

「ちょっと!なんでアンタがチケットとハヤヒデを知ってるわけ!?」

 

「クリークが教えてくれた。この2人なら存分に練習できるだろう?」

 

「いや、なに勝手に人の交友関係まで使ってんの?ウザ」

 

「タイシン!トレーナーさんにひどいこと言っちゃだめだよ」

 

「そうだ、それにあくまでも私たち自身が協力を望んだから来たんだ。トレーナーを責めないでやってくれ」

 

「…ッ別に責めてるつもりじゃ、ああもう!わかった!2人にもつきあってもらうからね!」

 

そう言って練習場に戻るタイシンを顔を合わせて笑いながら追いかけるハヤヒデとチケット

今日の練習はいいものになると俺は微笑んだ

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

あれからさらに2週間が経過した

タイシンは最終調整に入っている

模擬レースまでは残り1週間。あとはケガや事故に気を付けて完全な状態を

レース当日に持っていくだけだ。

 

「タイシン!!!前をみろ!お前が見るのは敵じゃない!」

 

「ッラァ!」

 

勇ましい声とともに顔を上げてゴールに向かうタイシン

細かい部分だがこういうところがレースのときに余裕につながる

 

「気合十分ってなところか?」

 

 

驚いた、敵情視察に来るとしてもチームのウマ娘だと思っていた

タイシンの練習に集中していた俺の背後から

親し気な声で話しかけてきた人は、顎にひげを生やし整ている中年の人だ

その顔と目は、練習用ターフを駆けているタイシンを見ている

 

「先生、ご無沙汰しています」

 

おう、と返事をしながらもその目はずっとタイシンを見ている

 

この人こそ、俺がサブトレーナーとして基本的なトレーナ業を学ばせてくださった

チーム【シリウス】のトレーナー、俺の先生である

俺はとなりに並んで一緒に見る、ちょうど模擬レースが終わり

3人が円になって喋っている。そんなタイシンも笑顔になっている

 

「良い子だな、特に末脚」

 

「はい、その終盤力は日本総大将と言われた彼女以上だと」

 

「だが、それに特化しすぎてるな、お前の方針か?」

 

「はい、体格で劣る彼女に、レース中に競り合う力はありませんから」

 

「悪くねえな、悪くねぇけどよ?」

 

先生は視線を俺に向ける

 

「あれだけで本当に、無敗の3冠と7冠を取った。最強の皇帝に勝てると?」

 

「はい、皇帝に無いものを彼女は持っていますから」

 

俺は自信とともに先生の目を見つめ返して返事をする

返事を聞いた先生はその目をさらに鋭いものにしていく

 

「自惚れてねえか?甘ちゃんがよ?」

 

その場の空気が凍り付いた、温度も下がったような錯覚に陥っている

近くにいた生徒やトレーナーたちが距離を取っていく

その顔は全員が大なり小なり恐怖に染まっている

 

チーム【シリウス】は学園最強と言われているチームだ

皇帝 シンボリルドルフをはじめとしたチームメンバーはそのほとんどが

G1を勝ってきたつわもの達

 

女帝 エアグルーヴ  女傑 ヒシアマゾン  シャドウロールの怪物 ナリタブライアン

紅い怪物 マルゼンスキー  女優 フジキセキ  神速 タイキシャトル

覇王 テイエムオペラオー  黄金世代の1人 エルコンドルパサー

 

以上のメンバーが揃っている、はっきり言ってチートかこんにゃろうと文句を言いたくなる

これだけのメンバーを導き育ててきた先生はそれはもう凄まじいの一言だ

俺もサブトレーナーとして関わっていたのでわかるが、先生の指導力は神がかり的なものを

感じさせるのと同時に俺にある疑問を抱かせる要因にもなった

 

―あの質問を抱くことになった―

 

「先生が自惚れと仰るのであればそうでしょう。しかし俺は自分のやり方を続けるつもりです」

 

「・・・・・それがおまえさんの覚悟だと?」

 

「はい、俺は理想を諦めきれなかった。それだけです」

 

俺はまっすぐに見つめ返す

先生は鋭い目つきのまま俺のことを見ていたが、やがて普段の

目尻が下がった笑顔に変わった

 

「お前さんに言ったな、俺の答えを」

 

「はい」

 

「覚えてんのか?」

 

「はい」

 

「ならいい」

 

そう言って先生は踵を返して帰っていく。俺はそれを黙って見ている

 

『俺は勝てるウマ娘を勝たせるためにいる、勝てない奴はそれまでだ』

 

それは残酷な言葉だった、弱肉強食。

まさにその通りだ。この世界で生きていく以上はそれを受け止めなくてはならない

先生は正しい。ただ俺の理想とはかけ離れていただけ

俺はそんな当たり前のことを受け止めきれずに逃げていただけ

けど、もう迷わない。俺の担当は幸せにして見せる

それが俺のエゴイズムでも偽善でも

 

それを証明する手段はただひとつ

 

「勝つことだけが、わがままを通す最大の方法」

 

俺は自分に言い聞かせるようにつぶやいてこぶしを強く握った

それをターフから見ている目に気が付かずに

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

レース当日

 

模擬レースとはいえあのシンボリルドルフが出てくるとなれば

相当の観客が見に来るのはわかっていたがこれは・・・

 

ワアアァアアアアアァァァァァァァァアァァ!!!!!

 

凄まじい歓声とともに控え通路から出てくるルドルフは今日も堂々と

ターフに降り立った。その後ろに続くようにタイシンが出てくる

 

普段と変わらないように見えるが・・・

 

「タイシーン!!」

 

俺が呼ぶとタイシンはこっちに来てくれた

 

「なに?作戦なら前もって聞いてるし、他に何かあんの」

 

「緊張してんじゃないかと思ってな」

 

「は?なにそれ?ありえないんだけど」

 

「だと思った」

 

俺は目の前で不機嫌そうにしているタイシンの

頭にそっと手を置いて撫でる。ウマ耳に触らないように気を付けながら

 

「!?あんたいきなり何して!」

 

「勝てるよ、勝つさ」

 

「!」

 

「相手は皇帝、けどそんなのどうでもいいし、ぶっちゃけ勝ち負けもいいかな」

 

「―アンタ」

 

「俺は君が笑って走っていればそれでいいよ、さらに勝ちたいっていうなら

勝たせるために考えるよ。だからタイシン―」

 

すっと撫でていた手をこぶしに変えてタイシンに突き出す

 

「…言ったでしょ、やるからには勝つ」

 

そう言って目を合わせないようにしながらこぶしを合わせてくれた

そのままゲートのほうに向かっていく

 

思うままに駆けてくれ、タイシン

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

あいつとこぶしを合わせてから体が熱い

まるで燃えているかのように

 

「ずいぶん仲良くなったんだな、君たちは」

 

私の隣に会長が立つ

その顔は余裕の表れなのか、不敵に笑っていた

 

「仮とはいえ、1ヵ月いればそれなりにはなるもんだと思うけど」

 

「ふふ、そうだな。すまないあの問題児からは想像できないことでね」

 

「う…」

 

「いい勝負にしよう、ナリタタイシン」

 

そう言い残して先にゲートに入る会長、いやそこにいるのは皇帝か

アタシも続けてゲートに入る

 

目を閉じて今日までの日々をなんとなく思い返す

 

はじめは変な奴だと思った

いきなり話しかけてきたと思ったらダメ出ししてくるし

それにキレてたらスカウトしてきた、変人だと思う

今度は理事長室に連れていかれたと思ったら、シンボリルドルフと

模擬レースをすることになってた、意味わかんない

 

それから1か月。あいつのトレーニングを受けた

アタシの走り方と作戦から変えてきて、そのためのメニューも用意してた

食事にまで口だしされたときは、文句も言ったけど正論過ぎて言い返せなかった

 

いつのまにか同室のクリークさんも味方につけてた

そこからチケットとハヤヒデまで巻き込んで

レース形式の練習になった時、アタシはいままでの走り方とは

全然違うことに気付かされた

 

あいつがアタシにしてくれたことがわかった

だからこれはアタシ1人だけで走るわけじゃない

 

(負けない、負けたくない!)

 

目を開ける、走ろう、証明しよう、見せてやろう

 

()()()()()()()()()()()

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

ゲートオープン。始まった

 

ルドルフは先行型、タイシンは追込型なので2、3馬身離れて追走中だ

 

「始まったな」

 

いつの間にいたのだろうか、俺の隣に先生がいる

先生は普段の笑顔を収めて、レース中にしか見せない

真剣な眼差しになっている

 

「ルドルフは本気だぞ、特にお前が見ているレースではな」

 

「…先生ルドルフはいまも変わってないんですか?」

 

「ったりめぇだろうが?お前があいつに関わったのもあったから

あいつは7冠なんていう偉業を達成できたんだからな」

 

「それは違いますよ、俺はあの子達が笑顔で走れるようにと願っただけです」

 

「フン!よく言うぜ?それのおかげで持ち直したのはルドルフだけじゃないんんだがな」

 

ジロリとにらんでくる先生の目線から逃げるように視線をそらして

レースを見る、第3コーナーを抜けるところだった

ルドルフは少しずつペースを上げていっているのでタイシンはそれに

合わせてスピードを上げなくてはいけない

その表情は苦し気で顔に焦りが出ている

 

なにしてんだ、タイシン。

お前の本領はここからだろうが

 

「タイシン!!!!顔上げろ!!!!」

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

はぁ!  はぁ!!

 

肺が苦しい、、

 

心臓がうるさい。。

 

前が、、遠い!!!

 

第3コーナーに入る前、アタシと皇帝の実力差が出始めた

皇帝が少しずつ、一緒に走っている奴じゃないと気づけないくらい

少しづつ加速を始めている

アイツはアタシに言った

この作戦の追込は、常に先頭との距離を気にしていなければならないと

ゆえに離されているようで、常に見える位置にいなければいけないと

だが、相手はその上をいく

こちらが見ているのがわかったのか、序盤からかなりのハイペースで飛ばしてくる

1対1のレースだから向こうはアタシにかまわず前に突き進む

おかげでペースを合わせるので精いっぱいだ

 

そしたらいつの間にか終盤に差し掛かろうとしてた

まずい、そろそろ仕掛けないと

でも、相手はいまどこだ?あたしはどの位置か?

ハイペースで乱された呼吸と意識がいうことをきかない

 

このままじゃ―――

 

「タイシン!!!!顔上げろ!!!!」

 

とっさに顔を上げる

そこには、少し離れて前にいる皇帝と、アイツ

 

トレーナーの顔が鮮明に見えた

 

「…なにその顔」

 

アイツは見たことないくらい真剣な顔でこっちを見てる

 

いいよ、見せてやる

 

「ここから!!!」

 

次の瞬間ターフが爆ぜた

第4コーナーに突っ込むのと同時に全力を開放する

ぐんぐんと縮まっていく距離

最後の直線に入ると同時に横並びになった

そのとき、皇帝の驚いた顔が見えた気がした

だからアタシは笑ってやった

あとは目の前に見えるゴールに向かうだけ

アタシはもうただ必死に走った

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

叫んだあと、タイシンは顔を跳ね上げて

全力疾走を始めた。

瞬く間にルドルフとの差が縮まり、最後の直線になるころには

横並びとなっていた

最終コーナーを抜けるときのルドルフの走りは焦りを感じさせるものだった

最後はもつれるように一進一退のデッドヒートになっていた

ゴールと同時に大歓声が会場を包んだ

俺は結果を聞くよりも早く、会場を後にしようとする、やることがある

 

「もう行くのか?つれねえな」

 

先生が声をかけてくださっている

俺は振り返らずに答えた

 

「ええ、結果よりも今回は大事なことがあるので」

 

「嘘つけ、最後の瞬間をあれだけ見ておいてよくいうわ」

 

・・・まぁばれるかこの人には

結果なんか聞くまでもない、自分の目で見ているのだから

 

「待ってるぜ、ターフでな」

 

「はい、必ず取りに行きますよ、1着」

 

そう言って俺は控室に向かった

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「タイシン、入るぞ」

 

控室に入ると、タイシンは俯いてペットボトルを両手で握っている

そんなタイシンの目線と合うようにひざまずいてその手にそっと自分の手を重ねる

どれくらい時間が経ったかはわからない

タイシンから自然と話し始めた

 

「・・・勝てたんだ、アタシ」

 

「あと、ほんの少しだけでさ。」

 

「あの皇帝に勝てたんだよ!」

 

「あんたの声聞いてからさ、身体が軽くなって、顔を上げたら全部見えてさ、

ゴールは手を伸ばせば届く場所にもあったんだ」

 

「アンタが、、、教えてくれたから、、、こんなに速く。。」

 

最後はもう、声が震えていた

俺はただ黙ってその華奢な身体を抱きしめた

タイシンは俺の背中に手をまわして、シャツを思いっきり

握りしめて、顔を俺の胸に押し付ける。

 

そこからは微かに嗚咽が聞こえた気がした

 

俺は黙って抱きしめ続ける

 

「・・・・・次」

 

「ん?」

 

「次は・・・負けないから」

 

「・・ああ、俺もそうさせるよ」

 

こうして俺たちは契約を結んだ

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「やあ、氷室トレーナー珍しいじゃないか、わざわざ控室に来るなんて」

 

「まぁな。なぁルドルフ」

 

「いいんだ。」

 

「・・・・さすが皇帝、お見通しかよ。言っとくが、俺は手を抜くつもりはねえぞ?

なんせ、()()()()()()()()()()()()全力を尽くすのがトレーナーの責務だ」

 

「もちろんだ、粉骨砕身の心意気で頑張るさ」

 

「そうか、、ならいい」

 

バタン

 

「・・・トレーナー、君が教えてくれなくてもいい

君が目指すことになる頂上で、私は待っている。」

 

   ルドルフの理想はいいな!

   ならまず、君が笑顔でいないとさ

   周りが楽しく感じられなくなるよ?

   ほら、笑って!そっちのほうが可愛いしさ!

 

「君が教えてくれたものと一緒に、君たちを待っているよ」

 

皇帝は頂点で待つ、次代の娘と敬愛する指導者を

 




今回でタイシンとの出会い編
終了となります

次回はついにあの2人が出てきます
いったいどこのはちみーとスイーツ狂いなのか???

では、次回でお会いしましょう
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