羽沢さんちの看板娘〜BanG Dream!メンバーで大学ラブコメしてみた〜 作:渋川ジュン
高三の某日。
お父さんしか知らなかった俺に、家族が増えた。
「卓馬、今日からお前の母さんになる人だ」
その女性は軽く頭を下げる。戸惑いと祝福の気持ちで顔はよく覚えていないが、二人は高校生カップルのように初々しく、幸せそうだった。
「じゃ、しばらく家を空けるからな」
「良い子にして待ってるのよ」
「行ってらっしゃい」
もう俺は高校生だ。新婚旅行で一人になるくらい、別に平気で──
しかし、二人はついに戻って来なかった。両親を亡くした俺は独り身となり、いとこの家に預けられることとなった。
◾︎
「あれから長かった」
俺は独り言を吐きながら、飛行機から降りた。もうある程度納得出来ていたが、やはり唐突に親を亡くすことは受け入れ難い。
結局、地元の大学受験は諦め、東京へと引っ越すことになった。学費は奨学金で賄い、いとこの家に居候させてもらえることになった。
そのいとこには会ったことがない。何にせよ俺の実母は一歳の時に亡くなっているのだ。第二の母も数日で……この話はやめよう。
大きなスーツケースを受け取ると、俺は空港の出口に向かった。ええと、たしか叔父さんが迎えに来てくれるんだったっけ──
「こんにちは!」
「!?」
俺は後ろに倒れ込むと、そのまま地面に思い切り頭をぶつけた。
「痛てぇ……」
「だ、大丈夫ですか?」
差し出された小さな手が視界の中に飛び込んで、俺は顔を上げた。
目の前に現れたのは茶髪の美少女だった。なんだか恥ずかしくて、俺は自力で立ち上がる。
「大丈夫。だけど……君は?」
「あ、お父さんから聞いてなかったんですね」
女の子は右腕を横に出すと、小さく自分の手を握りしめた。
「私、羽沢つぐみ。空港から家まで案内しようと思って。卓馬くん……だよね?」
「!?」
こ、こんな美少女が──俺の名前を。
つぶらな瞳と短めの茶髪は凛々しくて。白いブラウスと青いロングスカートが、彼女を清楚色に染め上げていて。
「そ、そうです。俺は一宮卓馬。よろしく」
こんな美少女と同居生活か──不幸中の幸いとは、まさにこの事だな。
その後、俺とつぐみさんは家に向かうべく電車に乗った。窓から差し込む夕陽が眩しい。
「あの……」
「どうかしましたか?」
移動する間の話し方や、この見た目から俺には気になることがあった。
「もしかしてバンドやってたりします?」
「!」
つぐみさんの顔がパーッと明るくなった。
「はい、Afterglowのキーボード担当です!」
そう言ってはにかんだ。可愛い。
「でも……北海道に住んでるんでしたよね。どうして知ってるんですか?」
「友達にガールズバンド好きがいまして。中でもAfterglowは大ファンで、よくライブに行ってたんだとか。もちろん、俺も好きですよ」
「え、そうなんですか!? 嬉しいです」
好きな曲をあげれば枚挙に暇がないが、今はやめておこう。出会い頭にオタ話をするのは少々気味が悪い。
「ちなみに、その友達の特に好きなメンバーは──」
ごくり。つぐみさんの唾を飲む音が聞こえるようだった。
「蘭ちゃんだそうです」
「やっぱり!!」
つぐみさんはテーブルに顔を打ち付けた。
「私、個性が薄くて……蘭ちゃんはクールだし、モカちゃんはフワフワしてるし、ひまりちゃんは元気で可愛いし、巴ちゃんはとってもカッコいい! でも、私だけ……公式に『大いなる普通』って言われるくらいしか……」
よく分からないが、自分の個性の薄さに対してコンプレックスを抱いているようだった。
「いや、気にすることないと思いますよ」
なぜだか俺は即座にフォローした。
「そうですか……?」
「はい。俺、まだ羽沢さんのこと全然わかってないけど。全力で頑張るところとか、カーテン閉めたり気遣いができるところとか、明るくてよく笑ってくれるところとか……良いと思う。あと、なんと言っても可愛い」
「!」
俺がそう言うと、彼女は顔を手で隠してから、
「……な、ナンパですか?」
「違ぇよ!!」
指の隙間から目を覗かせた。わかりやすく赤面している。
可愛い、か。うっかり心の声が漏れた。これだと彼女の言うとおり口説いているみたいじゃないか。
「た、卓馬くんは春から大学生でしたよね?」
彼女はわかりやすく話題を変えてきた。
「はい。帝都大学の法学部に……」
「あっ、私も帝大に行くことになりました! 教育学部だけど」
彼女はそう言って頬をツンツンしていた。
「つぐみさん。俺たち同い年なんだし、敬語はやめにしないか?」
俺がそう言うと、つぐみさんは目をパチリと動かして、
「わかりました!」
「それ、わかってないような……」
同じ家に住むってだけで緊張で死にそうなのだが、大学まで一緒だとは。絶対に周りには黙っておこう。
「じゃあ私のことは、つぐって呼んでくれると嬉しいな」
……『つぐ』だと!?
「つ、つぐみ……」
「はい!」
言えなかった。というかこの可愛さは反則だろ。
「じゃ、俺も卓馬で」
「わかったよ。た、た……卓馬くん!」
くん付けで限界らしかった。どうやら女子校に通っていたらしく、あまり男と関わったことがないみたいだ。(叔父さん情報)
「そういえば、わざわざ俺のために空港まで来てくれてありがとう」
「いえいえ」
「本当に良かったの? これから居候させてもらう訳だけど」
「大丈夫ですよ。卓馬くん、結構いい人ですし!」
彼女はそう言って笑った。俺は首を横に振ると、背もたれに寄りかかる。
「そうか……? あとすごく申し訳ないんだが、昨日から睡眠不足で。少し寝てもいいか?」
「わかった。着いたら起こすね」
ありがとう、と言ってから俺はアイマスクをつけた。今日の俺は何かがおかしい。疲れてるのかな。
「いい人、って──つぐみほどじゃないだろ」
そんなことを呟いて、俺は眠りに包まれた。それが彼女に聞こえていたかどうかはわからない。
……死んだ俺の両親は、天使を置いていってくれた。目の前で彼女が笑顔を振りまいている。それだけで、心の痛みが引いていくようだった。