羽沢さんちの看板娘〜BanG Dream!メンバーで大学ラブコメしてみた〜   作:渋川ジュン

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2話

「むにゃむにゃ……」

 

「卓馬くん。もうすぐ着くよ」

 

 なにやら話しかけられたような気がして、俺は薄く目を開ける。

 

「──!?」

 

 気づけば隣につぐみがいた。表情までは見えなかったが、彼女は小さく息を吸って、

 

「早く起きないと……イタズラしちゃうよ!」

 

「おはようございます!!」

 

 いい目覚めだ。完全起床か失神かの二択だったが、前者で助かった。

 

 電車から降りると、俺はつぐみの隣を歩いた。スーツケースの音がやや耳障りで、会話の邪魔をする。さっきのイタズラとはなんだったのか──そんなことばかり気になってしまって。

 

「あ、あれは冗談だからね!? どうしても起きないから、つい……」

 

「あぁ──」

 

 彼女はあたふたしながら弁明していた。Afterglowのメンバーともこんなノリでやっているのだろうか。ライブでは縁の下の力持ち的な役割を担っているつぐみだが、結成のきっかけを作ったともあって行動力が尋常じゃない。

 

 従兄妹《いとこ》にそんな感情は抱かない。そう決めていたはずなのに。会って数時間で、心は既に揺さぶられっぱなしだ。

 

「……ダメだな」

 

 俺みたいな明らかに不釣り合いな男と何かあったりしたら、Afterglowメンバーや激烈なファンに殺戮されてしまう。

 

 あくまで彼女は家族。妹に近しい存在で、この感情は一時の迷いに過ぎない。

 

「あっ、一番星」

 

 駅を出たところで、つぐみは空を指さした。

 

「どこ?」

 

「見てみて。真上にあるよ」

 

 つぐみの視線の先を追うと、薄い雲に挟まれて輝いている星を見つけた。

 

「お。一番星見つけるの、得意なんだっけ」

 

「そうだよ。さては卓馬くん、YouTubeのライブ見てたね?」

 

「バレたか……」

 

「えへへ、嬉しいよ」

 

 腰に手を当てて勝ち誇るつぐみも、また可愛い。

 

 ◾︎

 

「羽沢龍次郎だ」

 

「恵子よ」

 

「一宮卓馬です……」

 

 俺は閉店後の羽沢珈琲店のテーブルに座り、つぐみの両親と挨拶を交わしていた。

 

「娘に迎えに行かせてすまんな」

 

「俺は大丈夫ですけど……彼女は忙しいのでは?」

 

 勉強、店の手伝い、町内会の青年部長にバンド活動──一日に50時間ぐらいないと全てはこなせなさそうだが。

 

「それについては問題ないわ。高校と違って、大学はたくさん自分の時間があるからね」

 

「それなら良いんですが……あと、女子大に進学してなかったことには驚きました」

 

「羽丘女子学園は高校までの系列だからな。それに、そろそろ男と関わっておかないと社会に出た時に困る」

 

 厳格な父だった。強面で、娘とは似ても似つかない。つぐみはお母さん似のようだ。

 

「別に焦る必要は無いわよ。家にいいオトコも来たしね」

 

 お母さんは満面の笑みで俺の顔を指さした。

 

「は? 俺?」

 

「む。そこら辺にいる得体の知れない男などに、ウチのつぐ……みはやらんぞ」

 

 俺は思わず苦笑いをして、

 

「自分には釣り合わないですよ」

 

「そうかなー? お母さんは結構卓馬くんのこと気に入ったけどー♪」

 

「まだ挨拶だけだろう、母さん。決めるにはまだ早い」

 

「フフ、どうかしらね♪」

 

 つぐみのお母さんは、やはりよく笑う。対照的にお父さんは強ばった面持ちを崩さない。

 

「改めて。不躾な自分ですが、よろしくお願いします」

 

 俺は精一杯頭を下げた。アマチュアにもかかわらず超人気のバンド、Afterglowのメンバーと同じ屋根の下で暮らすことになるとは……

 

 我ながら、胃がキリキリと痛む。見た目も性格も完璧な女に俺が何か出来るとは到底思えないが、せめて彼女の邪魔はしないようにしよう。そう思った。

 

 ◾︎

 

「卓馬くん、13番のテーブルにお願い」

 

「了解です」

 

 ここに住み始めてから、三日が経った。俺は実家と繋がっている羽沢珈琲店の手伝い(バイト)をしている。

 

 居候させてもらっているのだから、当然給料は出ない。それに、この手伝いは俺が志願してやっていることだ。

 

 あと、少しつぐみに楽をさせてやりたかった。高校時代のスケジュールを見せてもらったが、社畜顔負けの鬼日程だったからな。……彼女の穴埋めをする形で、俺は開店から閉店まで永遠と働いているという訳だ。

 

「ご注文は?」

 

「サンドウィッチ、パン抜きで」

 

「それならサラダなどもございますよ」

 

 元々、俺は人当たりのいいほうだと思う。つぐみのように良い笑顔を周りに振りまくことは難しいが、人間と関わることはそこまで苦じゃない。

 

 まぁそんなことはどうでもいい。それよりも自分の仕事だ。

 

「フレッシュサラダ入りました!」

 

 こうして何日か働いて感じたことだが、おかしな客が明らかに少ない。地域柄がいいのか、親切な人が多かった。

 

「おう」

 

 叔父さんもとい、つぐみのお父さんは厨房に立って黙々と料理をしている。スイーツから本格飯までお手のもの。そりゃあ、人気店にもなるわけだ。

 

「はい、こちらがブレンドコーヒーになります♪」

 

 おまけにお母さんは愛想がいい。あの看板娘もいるのだから、羽沢珈琲店は将来安泰だ。

 

「あ、お客さん待ってる」

 

「俺行ってきます!」

 

 昼の時間帯は特に忙しい。俺たち三人は、何時間立ちっぱなしなのやら。

 

 さて……接客時は笑顔、と。

 

「コホン。いらっしゃいま──」

 

 ん?

 

「あれぇ〜、今日はつぐいないんだ〜」

 

「……二名です」

 

 とっても見覚えのある二人組が、目の前に現れた。

 

「もしかしてぇー、バイトの方ですかー?」

 

「モカ、そうやってすぐ店員さんに絡まないで」

 

 赤メッシュにパンク風の服装をした美女と、薄い緑のパーカーを羽織った、銀髪の美女。

 

 なんてことない俺の顔を不思議な目で眺めていたのは。

 

 言わずもがな、美竹蘭と青葉モカだ。

 

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