「大佐の転勤?」
「うむ、そうじゃ! 叢雲は知っておるじゃろ?」
「まぁね」
「どうにかする方法はないでしょうか?」
「どうにかとは……また漠然とした相談じゃな」
利根と筑摩は叢雲と初春という基地の最古参の中でも始まりの二人とされる筆頭格に提督の転勤について相談に来ていた。
二人とも提督とは長い付き合いなだけにその話は既に把握しており、利根達の話にも特に驚いた様子は見せなかった。
「どうにかというと署名でも募って嘆願書にでもするつもり?」
「それだと基地にいる者の分しかできぬからほぼ意味は無いと思うの」
「いえ、署名はありなんじゃないですか? 艦娘の支えあってこその基地、艦娘の支持があってこその提督ではないですか?」
「うむ、例え数に不足があると言っても大佐麾下の全員の揺るぎのない意志が示せれば効果は望めるのではないか?」
「解らなくはないが、悪いが妾はそれだけで本部が動くとは正直思えぬな」
「私達だって転勤されるのは嫌よ? あれだけ付き合っているとね? これが普通の会社とかならどうにかなったかもしれないけど……」
「どちらにしても署名は用意する。そしてそれを持って本部に上申しに行くのじゃ!」
「
「そうです。本部に来たのに提督の姿がなければ、本部の方々も状況を異様に思って注意を向ける筈です」
「確かに注意は引けるかもしれぬが、それだと大佐の監督能力としての評価に影響がでるのではないか?」
議論は一昼夜続いた。
結果として有力な方法は導き出せず、取り敢えず艦娘の総意として署名だけは募ろうという結論に一先ず落ち着くのだった。
「……という事があってね」
「……そうか。悪いな、何だか間者のようなことをさせて」
「なに、気にするでない。必要と考えた故に報せたまでよ」
「混乱自体はそんなに大きくならないはずよ。転勤の話は敢えて私達から各所に伝え拡めてきたから」
「ふふっ、いきなりそんな話が出てはそれこそ皆混乱するじゃろうから、の」
「確かにな」
夜、叢雲と初春は提督の下に彼の転勤の話が今現在基地にどれほど影響が出ているかについて報告に来ていた。
部屋はランプの灯りのみが使われ、優しい光が三人を照らし包み込んでいた。
「それで?」
「ん……」
叢雲の言葉に提督が彼女の方を向くと、そこには叢雲と一緒に自分を真っ直ぐ見つめる初春の顔もあった。
二人は黙って提督を見つめるのみであったが、それだけで彼には二人が何を問いたいのか用意に解った。
「できれば、と言うつもりだ」
「そう」
「うむ」
提督の言葉に二人は満足げに頷いた。
ここで「大丈夫だ」とか、「心配するな」と言う方が返って無責任で全員を傷つけることになると解っていたからだ。
だから二人は提督の自分の意思は示すという答に満足した。
それだけ自分たちの事を想って行動してくれるのなら十分に幸せだった。
「なんかごめんね? 追い詰めるような状況になっていて」
「気にするな。その所為で確かに俺達は心苦しい思いをしているが、それでもこの状況自体が俺たちが歩んできた今までの結果によるものだと考えれば提督として誇れることだ」
「うん……」
「そう、じゃの……」
「俺は正直、これからもお前たちの提督でありたい。残念ながらそれが叶わなかったとしてもお前たちならこれからも前に進んでいけると信じているし、もし万が一のことがあったとしたら……」
「したら?」
「なんじゃ?」
「必ず報せに来てくれ」
「「……!!」」
その一言は二人の瞳を潤ませ、提督の胸に飛び込ませるには十分なものだった。
配属先が変われば提督の独力で以前の配属先の状況を知るのは難しい。
故に彼は万が一の事があれば、自分の名を使ってでも窮状を本部に訴えろ、そう暗に言ったのだ。
独断で秘密裏にこのような指示を出すのは当然思い規則違反である。
だが提督はをそれを理解した上で、何かあれば自分に責任が及んででも彼女たちの助けになりたいと願った。
ひ ど い は な し を 直 し た い!
と思う今日この頃です