宇宙(ソラ)に輝く、星の守り手~Phantasy Star Online2外伝~ 作:星野優季
ーーーーーside カエデ
オルクス大迷宮のとある場所。
私達は、穴の中で二尾狼の死体を囲んでいた。
あの後、私達は、戦う術を磨いた。
南雲くんは錬成を、キリトくんと木綿季ちゃんは剣を、香織ちゃんは魔法を、私は盾とスキルを。
あの後、ステータスプレートを見てみれば、全ステータスが200を超えていて、“アバター”なる技能の[+封印]の項目が消失していたのだ。
それをきっかけとして、私や同じ技能の発現していたキリトくんと木綿季ちゃんも、《SAO》《ALO》のスキルを使えるようになったのだ。
私達は、それを使い、放ち、二尾狼を打倒した。
そんなこんなで私達は、食糧を確保したのだった。
暗闇の中、緑光石の明かりがぼんやりと辺りを照らす。
「あが、ぐぅう、まじぃなクソッ!」
「うぇっ、不味いな………」
「うっぷ……………」
「うう………生臭いし不味い………」
「がまん、がまん…………」
悪態を吐きながら二尾狼の肉を喰らっているのは私たちだ。
まともに血抜きをしていない、ただ焼いただけの硬い筋ばかりの肉を噛み千切り、必死に飲み込んでいく。およそ二週間ぶりの食事だ。いきなり肉を放り込まれた胃がキリキリ痛む。だが、私たちは空腹だからか、そんなもの知ったことではないと次から次へと飲み込んでいった。
その姿は完全に野生児といった様子だ。現代の人間から見れば酷くおぞましい姿に映っただろう。
酷い匂いと味に涙目になりながらも、私は飢餓感が癒されていく感覚に陶然とする。食事をとれるということがこんなに幸せなことだったとは思いもしなかった。夢中になって食べ続ける。
どれくらいそうやって喰らっていたのか、神水を飲料代わりにするという聖教教会の関係者が知ったら卒倒するような贅沢をしながらお腹が膨れ始めた頃、私たちの体に異変が起こり始めた。
「ん、──う、ぐぅぅぅぅぅぅっ!?」
「あ?――ッ!?アガァ!!!」
「ぁ、ぐあ、アアアアッッッ!!!」
「う、う、あああああああっ!!」
「っ!?あ、────────ッッッ!!!」
突如私たちの全身を激しい痛みが襲った。まるで体の内側から何かに侵食されているようなおぞましい感覚。その痛みは、時間が経てば経つほど激しくなる。
「ぐぅあああっ、な、何がっ――ぐぅううっ!」
「ああ、は、はや、く、ぽー、しょ ん……をっ!」
耐え難い痛み。自分を侵食していく何か。私は地面をのたうち回る。周りの音が聞こえなくなるほど激しい痛みだ。
私は震える手で懐から石製の試験管型容器を取り出すと、端を噛み砕き中身を飲み干す。直ちに神水が効果を発揮し痛みが引いていくが、しばらくすると再び激痛が襲う。
「ひぎぃぁぁ!! なんで……なおらなぁ、あがぁぁ!」
私の体が痛みに合わせて脈動を始めた。ドクンッ、ドクンッと体全体が脈打つ。至る所からミシッ、メキッという音さえ聞こえてきた。
しかし次の瞬間には、体内の神水が効果をあらわし体の異常を修復していく。修復が終わると再び激痛。そして修復。
神水の効果で気絶もできない。絶大な治癒能力がアダとなった形だ。
私は絶叫を上げ地面をのたうち回り、頭を何度も壁に打ち付けながら終わりの見えない地獄を味わい続けた。一瞬死にたいと思いもしたが、そうはいかないし、叶うわけもない。ひたすら耐えるしかない。
すると、私の体に変化が現れ始めた。
まず髪から色が抜け落ちてゆく。許容量を超えた痛みのせいか、魔物の肉を食べたせいか、はたまた別の原因か、日本人特有の黒髪がどんどん白くなってゆく。
次いで、筋肉や骨格が徐々に太くなり、体の内側に薄らと赤黒い線が幾本か浮き出始める。
超回復という現象がある。筋トレなどにより断裂した筋肉が修復されるとき僅かに肥大して治るという現象だ。骨なども同じく折れたりすると修復時に強度を増すらしい。今、私の体に起こっていることも恐らく同じようなものである。
魔物の肉は人間にとって猛毒だ。魔石という特殊な体内器官を持ち、魔力を直接体に巡らせ驚異的な身体能力を発揮する魔物。体内を巡り変質した魔力は肉や骨にも浸透して頑丈にする。
この変質した魔力が詠唱も魔法陣も必要としない固有魔法を生み出しているとも考えられているが詳しくは分かっていない。
とにかく、この変質した魔力が人間にとって致命的なのだ。人間の体内を侵食し、内側から組織を破壊していくのである。
過去、魔物の肉を喰った者は例外なく体をボロボロに砕けさせて死亡したとのことだ。実は、全員この知識は座学で習ったのだが、飢餓感がすっかりその知識を脳の奥に押し込めてしまっていた。
私たちもただ魔物の肉を喰っただけなら体が崩壊して死ぬだけだっただろう。
しかし、それを許さない要素があった。神水だ。
壊れた端からすぐに修復していく。その結果、肉体が凄まじい速度で強靭になっていく。
壊して、治して、壊して、治す。
脈打ちながら肉体が変化していく。
身体が変質し、凶悪になる。
その絶叫はまるで産声。
今、ここに新たな生命が生まれ落ちようとしていた。
やがて、脈動が収まりハジメはぐったりと倒れ込んだ。その頭髪は真っ白に染まっており、服の下には今は見えないが赤黒い線が数本ほど走っている。ここにいる魔物たちのようである。
私の右手がピクリと動く。閉じていた目がうっすらと開けられる。焦点の定められない瞳がボーっと自分の右手を見る。やがて地面を掻くようにギャリギャリと音を立てながら拳が握られた。
私は、何度か握ったり開いたりしながら自分が生きていること、きちんと自分の意思で手が動くことを確かめるとゆっくり起き上がった。
「……そういえば、魔物って食べたらダメだった……」
疲れ果てた表情で、多少後悔する。
飢餓感がなくなり、壮絶な痛みのせいか、さっきまで感じていた苦痛も感じない。それどころか妙に体が軽く、力が全身に漲っている気がする。
途方もない痛みに精神は疲れているもののベストコンディション───いや、それ以上のものといってもいいのではないだろうか。
腕や腹を見ると明らかに筋肉が発達している。実は身長も伸びている。以前の私の身長は百五十四センチほどだったのだが、現在は更に十センチ以上高くなっている。
「私の体、どうなったんだろ? なんかへんな感じ……」
体の変化だけでなくハジメは体内にも違和感を覚えていた。温かいような冷たいような、どちらとも言える奇妙な感覚。意識を集中してみると腕に薄らと赤黒い線が浮かび上がった。
「うわぁ、自分の体なのに気持ち悪い………なんか魔物にでもなったみたい……そうだ、ステータスプレートは……」
ステータスプレートを探してポケットを探る。現在の自身のステータスを確認する。体の異常について何か分かるかもしれない。
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本条楓 17歳 女 レベル:6
天職:守護者
筋力:150
体力:600
耐性:700
敏捷:60
魔力:100
魔耐:700
技能:アバター[+武器投影][+能力値補正]・フォトン適正・システムNWO・魔力操作・胃酸強化・纏雷・言語理解
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「……ナニコレ」
ステータスが軒並み急増しており、技能も三つ増えている。しかもレベルが未だ6にしかなっていない。レベルはその人の到達度を表していることから考えると、どうやら私の成長限界も上がったようだ。
「魔力操作?」
文字通りなら魔力が操作できるということだろうか。
私は、「もしや先程から感じているへんな感じは魔力では?」と推測し、先程と同じく集中し〝魔力操作〟とやらを試みる。
私が集中し始めると、赤黒い線が再び薄らと浮かび上がった。そして体全体に感じる感覚を右手に集束するイメージを思い描く。すると、ゆっくりとぎこちないながらも奇妙な感覚、魔力らしきものが移動を始めた。
「わわっ、ん~、ととっ」
なんとも言えない感覚につい声を上げながら試していると、集まってきた魔力がなんとそのまま右手に流れ、私の武器である盾の形をとる。
「嘘………。詠唱いらずってことかな? 魔力の直接操作はできないのが原則で、例外なのは魔物。……やっぱり魔物のお肉を食べたせいでその特性を手に入れちゃったのかな?」
恐らくは正解だろう。ハジメは確かに魔物の特性を取得していたのだ。私は、次に〝
「えっと……〝纏雷〟ってことは電気だし、もしかして、 こうやって、掌から……」
魔法を使うときはイメージが大事だということを思い出す。魔法陣に多くの式を書き込まなくてよい分、明確なイメージがそのまま魔法に伝わるのだ。
私はバチバチと弾ける静電気をイメージする。すると右手の指先から紅い電気がバチッと弾けた。
「おお~、できた………………なるほど、魔物の固有魔法はイメージが大事なんだね」
その後もバチバチと放電を繰り返す。しかし、二尾狼のように飛ばすことはできなかった。おそらく〝纏雷〟とあるように体の周囲に纏まとうか伝わらせる程度にしかできないのだろう。電流量や電圧量の調整は要練習だ。
最後の〝胃酸強化〟は文字通りだろう。魔物の肉を食べて、またあの激痛に襲われるのはイヤだ。しかし、迷宮に食物があるとは思えない。飢餓感を取るか苦痛を取るか。その究極の選択を、もしかしたらこの技能が解決してくれるのではと私は期待する。
二尾狼から肉を剥ぎ取り〝纏雷〟で焼いていく。流石に飢餓感が癒された後で、わざわざ生で食べる必要もない。強烈な悪臭がするが耐えてこんがりと焼く。
そして、意を決して喰らいついた。
十秒……
一分……
十分……
何も起こらない。
私は次々と肉を焼いていき再び喰ってみる。しかし、特に痛みは襲って来なかった。胃酸強化の御蔭か、それとも耐性ができたのか。わからないが私は喜んだ。これで飯を喰う度に地獄を味わわなくて済む。
こうして、外の世界に対抗するための手段が増えたのだった。