宇宙(ソラ)に輝く、星の守り手~Phantasy Star Online2外伝~ 作:星野優季
月曜日。それは一週間の内で最も憂鬱な始まりの日。きっと大多数の人が、これからの一週間に溜息を吐き、前日までの天国を想ってしまう。
そして、それは彼─────南雲ハジメも例外ではなかった。ただし、ハジメの場合、単に面倒というだけでなく、学校の居心地がとんでもなく悪いが故の憂鬱さがあった。
ハジメは、いつものように始業チャイムがなるギリギリに登校し、徹夜でふらつく体でなんとか踏ん張り教室の扉を開けた。
その瞬間、教室の男子生徒の大半から舌打ちやら睨みやらを頂戴する。女子生徒も友好的な表情をする者はいない。無関心ならまだいい方で、あからさまに侮蔑の表情を向ける者もいる。
極力意識しないように自席へ向かうハジメ。しかし、毎度毎度ちょっかいを出してくる者がいる。
「よぉ、キモオタ! また、徹夜でゲームか? どうせエロゲでもしてたんだろ?」
「うわっ、キモ~。エロゲで徹夜とかマジキモイじゃん~」
ちょっかいを出してきた者は、上から檜山大介、近藤礼一である。ハジメが心の中で密かに“小悪党組”と呼んでいる集団の人間だ。
確かに檜山の言う通り、ハジメという少年はオタクである。だが、そうは言ってもキモオタなどと罵られるほど身だしなみや言動が見苦しいという訳ではない。髪は短めに切り揃えているし寝癖もない。特段コミュ障という程でもないが積極性こそないものの受け答えは明瞭である。。大人しくはあるが陰気さなどは微塵も感じさせない。単純に創作物、漫画や小説、ゲームや映画というものが好きなだけだ。
なら、何故彼らはこのように彼を敵対視しているのか。
その理由は、彼女にあった。
「おはよう、南雲くん!今日もギリギリだね、もっと早く来ようよ!」
ニコニコとした
いつも微笑の絶えない彼女は、非常に面倒見がよく責任感も強いため学年を問わずよく頼られる。それを嫌な顔一つせず真摯に受け止めるのだから高校生とは思えない懐の深さだ。
そんな香織はなぜかよくハジメを構うのだ。徹夜のせいで居眠りの多いハジメは不真面目な生徒と思われていて、(成績はとある人物のお陰で常に上位の点数だが。)、そんな彼女の生来の面倒見のよさから気に掛けていると思われている。まあ実際そんなことはないのだが。
これで、ハジメの授業態度が改善したり、あるいはイケメンなら香織が構うのも許容できるのかもしれないが、生憎、ハジメの容姿は極々平凡であり、〝趣味の合間に人生〟を座右の銘としていることから態度改善も見られない。
そんなハジメが香織と親しくできることが、同じく平凡な男子生徒達には我慢ならないのだ。「どうしてあいつだけ!」と。女子生徒は単純に、香織に面倒を掛けていることと、なお改善しようとしないことに不快さを感じているようだ。
「あ、ああ、おはよう白崎さん」
すわっ、これが殺気か!? と言いたくなるような眼光に晒さらされながら、ハジメは頬を引き攣つらせて挨拶を返す。
それに嬉しそうな表情をする香織。「なぜそんな表情をする!」と、ハジメは、更に突き刺さる理不尽すぎる視線に冷や汗を流した。
ハジメはいつも不思議でならなかった。なぜ四大女神などとまで呼ばれる美少女である香織が自分にこうまで構うのか。ハジメの目には、どうにも香織の性格の他の理由があるようにしか思えなかった。
だが、まさか自分に恋愛感情を持っているなどと自惚れるつもりは毛頭ない。ハジメは、自分が趣味のためにいろいろ切り捨てている自覚がある。顔も成績も運動能力も平凡だ。自分など比較にならないほどいい男が彼女の周りにはいる。故に、彼女の態度が不思議でならなかった。
というか、この殺気を孕んだ眼光の嵐に気がついて下さい、と内心懇願する。だが、口には出さない。だって、それを言った瞬間、きっと体育館裏とかに強制連行されるから。
ハジメが会話を切り上げるタイミングを図っていると、四人の男女が近寄って来た。先ほど言った〝いい男〟の例も含まれていた。
「南雲君。おはよう。毎日大変ね」
「香織、また彼の世話を焼いているのか? 全く、本当に香織は優しいな」
「全くだぜ、そんなやる気ないヤツにゃあ何を言っても無駄と思うけどなぁ」
「おはよ、南雲くん。昨日もお仕事お疲れさま」
一番ハジメに挨拶をしたのは八重樫雫ちゃん。先ほどの少女、香織ちゃんの親友だ。ポニーテールにした長い髪がトレードマークだ。切れ長の目は鋭く、しかしその奥には柔らかさも感じられるため、冷たいというよりカッコいいという印象を与える。
百七十二センチという女子にしては結構高く、アークスの中ではさほど珍しくもない身長と引き締まった体、凛とした雰囲気は侍を彷彿とさせる。事実、彼女の実家は八重樫流という剣術道場らしきものを営んでおり、雫自身、小学生の頃から剣道の大会で負けなしという猛者である。現代に現れた美少女剣士として雑誌の取材を受けることもしばしあり、熱狂的なファンがいるらしい。後輩の女子生徒から熱を孕んだ瞳で"お姉さま"と慕われて頰を引き攣らせている光景をよく目撃されている。
……………だが、一回彼女の家にお邪魔したとき、屋敷の天井から床から様々なところに人がいた。私が気付いたときに、結構動揺されていた。
あれ、武家屋敷の皮を被ったNINJA屋敷なのではないか。車分身とか止めて欲しい。
次に、些か臭いセリフで白崎に声を掛けたのが天之河光輝。如何にも勇者っぽいキラキラネーム、容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人と思われている少年だ。
誰にでも優しく、正義感も強い(思い込みが激しいとも言う)。
小学生の頃から八重樫道場に通う門下生で、雫ちゃんと同じく全国クラスの猛者だ。雫とは幼馴染である。ダース単位で惚れている女子生徒がいるそうだが、いつも一緒にいる雫や香織に気後れして告白に至っていない子は多いらしい。それでも月二回以上は学校関係なく告白を受けるというのだから筋金入りのモテ男だ。ケッ。
最後に投げやり気味な発言をした男子生徒は坂上龍太郎、脳筋である。以上っ!
そして、最後のが私。元アークスで、現一般人のユウキこと本条ユウキ。平和な生活を営む花の高校2年生だ。
「おはよう、八重樫さん、天之河くん、坂上くん。はは、まぁ、自業自得とも言えるから仕方ないよ」
雫ちゃん達に挨拶を返し、苦笑するハジメ。「てめぇ、何勝手に八重樫さんと話したんだ?アァ!?」という言葉より明確ながグサグサ刺さる。雫たちも香織ちゃんに負けないくらい人気が高い。
「それが分かっているなら直すべきじゃないか?何時迄も香織の優しさに甘えるのはどうかと思うよ。香織だった君に構ってばかりはいられないんだから」
光輝がハジメに忠告する。光輝の目もやはり、ハジメは香織の厚意を無下にする不真面目な生徒として映っているようだ。ハジメとしては、甘えたことなんてないよ!むしろ放っておいてくれ!と声を大にして反論したいのだが、そんな事をすれば強制連れションが実行されるだろう。光輝自身、思い込みが激しいところがあるので反論しても無駄であろう事も口を閉じさせる原因だ。
「いや〜、あはは……」
それ故に、ハジメは笑ってやり過ごそうとする。が、今日も変わらず我等が女神は無自覚に爆弾を落とす。
「?光輝くん、何を言ってるの?私は、南雲くんと話したいから話してるだけだよ?」
ざわっと教室が騒がしくなり、その後私のスマイル+無言の
………やり過ぎたかな?物理的に少し冷えたみたいだし。
「え?……ああ、ホント、香織は優しいよな」
どうやら光輝の中で香織の発言はハジメに気を遣ったと解釈されたようだ。完璧超人なのだが、そのせいか少々自分の正しさを疑わなさ過ぎるというのが彼の欠点だ。そこが厄介なんだよなぁ〜とハジメは現実逃避気味に教室の窓から青空を眺めた。
「……ごめんなさいね?二人共悪気はないのだけど…………」
この場で最も人間関係や各々の心情を把握している雫が、こっそりハジメに謝罪する。ハジメはやはり「仕方ない」と肩を竦めて苦笑するのだった。
「徹夜明けでつらいでしょ?モノメイト飲む?」
「それじゃあ…………いただきます」
そう言いいつも通りの人懐っこい笑みで私は返答するのであった。
ちなみに、このモノメイトは私がこちらで完全再現した代物だ。ちゃんと傷も塞がるよ。
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side ハジメ
寝始めてしばらく経った頃、にわかに教室が騒めき始める。居眠り常習犯なので起きるべきタイミングは体で覚えているハジメ。その感覚から言えば、どうやらお昼休憩に入ったようだ。
ハジメは、突っ伏していた体を起こし、十秒でチャージ出来るメイト並のお昼をゴソゴソと取り出す。何となしに教室を見渡すと購買組は既に飛び出していったのか人数が減っている。それでもハジメの所属するクラスは弁当組が多いので三分の二くらいの生徒が残っており、それに加えて四時間目の授業をしていた社会科担当である畑山愛子先生こと愛ちゃん(今年二十五歳)が教壇で数人の生徒と談笑していた。
何と無くユウキの方を向いて見ると、同じクラスの本条楓さんといっしょに、何とも美味しそうな弁当があった。因みに家では自身が料理担当であり、栄養が偏りがちなアークスの為に食事を作るフランカさんに教えを受け、上達したと後に語っていた。
─じゅるるる、きゅぽん!
早速、午後のエネルギーを十秒でチャージしたハジメはもう一眠りするかと机に突っ伏そうとした。だが、そうさせまいと我等の
ハジメは内心「やべっ」と呻いた。月曜日ということもあり少し寝ぼけ過ぎていたようだ。いつもなら香織達と関わる前に教室から出るて屋上で過ごす事が定番なのだが、流石に二徹は地味に効いていたらしい。
「南雲君。珍しいね、教室にいるの。お弁当?よかったら一緒にどうかな?」
再び不穏な空気が教室を満たし始める中、ハジメは心の中で悲鳴を上げる。いや、もう本当になしてわっちに構うんですか?と意味不明な方言が思わず飛び出しそうになった。
ハジメはほんのささやかな抵抗を試みる。
「あ〜、誘ってくれてありがとう、白崎さん。でも、もう食べ終わったから天之河くん達と食べたらどうかな?」
そう言って、ミイラのように中身を吸い取られたお昼のパッケージをヒラヒラと見せる。断るのも「何様だ!」と思われそうだが、お昼休憩の間ずっと針のむしろよりは幾分マシだ。
だが、そんな抵抗で彼女が諦める訳がない。
女神は追撃をかけた。
「えっ!お昼それだけなの?ダメだよ、ちゃんと食べないと!私のお弁当、分けてあげるね!」
(もう勘弁して下さい!気づいて!周りの空気に気づいて!)
刻一刻と増していく圧力にハジメは冷や汗を流す僕に、救世主が、現れた。光輝と龍太郎だ。
「香織。こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」
爽やかに笑いながら気障な台詞を吐く光輝にキョトンとする香織。少々鈍感というか天然が入っている彼女には、光輝のイケメンスマイルやセリフも効果がないようだ。
「え?何で、光輝くんの許しがいるの?」
素で聞き返す香織に思わず雫とユウキが「ブフッ」と吹き出した。光輝は困ったように笑いながらあれこれ話しているが、結局、ハジメの席に学校一有名な四人組が集まっている事実に変わらなく視線の圧力は弱まらない。
深い溜息を吐きながらハジメは内心で愚痴った。
(もういっそ、こいつら異世界召喚とかされないかな?どう見てもこの四人組、そういう何かに巻き込まれそうな雰囲気ありありだろうに。………どこかの世界の神か姫か巫女か誰でもいいので召喚してくれませんか〜)
現実逃避のため異世界に電波を飛ばすハジメ。
そして、天之川の方振り返ろうとして………凍りついた。
───ハジメの真横、光輝の足元に白銀に光り輝く円環と幾何学模様が現れたのだ。
その異常事態には直ぐに周りの生徒達も気が付いた。全員が金縛りにでもあったかのように輝く紋様、俗に言う魔法陣らしきものに注視する。
そうしている間にも魔法陣の輝きは徐々に増していき、一気に教室全体を満たす程の大きさに拡大した。自分の足元まで異常が迫ってきたことでようやく硬直が溶け悲鳴を上げる生徒達。未だ教室にいた愛子先生が咄嗟に「皆!教室から出て!」と叫んだのと、魔法陣の輝きが爆発したようにカッと光ったのは同時だった。
そんな数秒か、数分か、光によって真っ白に塗りつぶされた教室が色を取り戻す頃、そこには誰もいなかった。蹴倒された椅子に、食べかけのまま開かれた弁当、散乱する箸やペットボトル、教室の備品はそのままにそこに居た人間だけが姿を消して居た。
この事件は、白昼の高校で起きた集団神隠しとして大いに世間を騒がせた。
両手で顔を庇い、目をギュッと閉じていた私たちは、ざわざわと騒ぐ無数の気配と、ざわつく
まず目に飛び込んできたのは巨大な壁画だった。縦横十メートルはありそうな壁画には、後光を背負い長い金髪を靡かせてうっすらと微笑む中性的な顔立ちの人物が描かれていた。背景には草原や湖、山々が描かれ、それらを包み込むかのように、その人物は両手を広げている。素晴らしいもののはずなのに、どこか趣味が悪く、寒気がする。
その壁画から目を逸らし、よくよく周囲を見てみると、どうやら自分達は巨大な広間にいるらしいということが分かった。素材は大理石だろうか?美しい光沢を放つ滑らかな白い石造りの建造物のようで、これまた美しい彫刻が彫られた巨大な柱に支えられ、天井はドーム状になっている。大聖堂という言葉と惑星ウォパルの景色がが自然と思い浮かぶような荘厳な雰囲気の広間である。ああ、あそこは良かった。
私たちはその最奥ににある台座のような場所の上にいるようだった。周囲より位置が高い。周りにはハジメと同じように呆然と周囲を見渡すクラスメイト達や、見知らぬ人たちがいた。どうやら、あの時、教室にいた生徒以外にもこの状況に巻き込まれてしまったひとがいるようである。
私はチラリと背後を振り返った。そこにはやはり呆然としてへたり込み、怯えた表情をする
更にまわりを観察すると、声が聞こえた。何かと思いその方を見てギョッとした。三十人近い人達が、祈りを捧げるように両手を胸の前で組み跪いた格好でいるのだから。
彼等は一様に白地に金の刺繍がなされた法衣のようなものを纏い、傍らに
その内の一人、法衣集団の中でも特に豪奢で煌びやかな衣装を纏い、高さ30センチ位ありそうなこれまた細かい意匠の凝らされた烏帽子の様な物を被っている七十代くらいの老人が進み出てきた。もっとも、老人と表現するには纏う覇気が強過ぎる。顔に刻まれた皺や老熟した目がなければ五十代と言っても通るかもしれない。
いたな、エステに通ってあんな感じの整形受けてた人が。アークスのエステは頭おかしいからね。なんてったって、骨格すらいともたやすくいじってしまうほどの技術力だし。
そんな彼は手に持った錫杖をシャラシャラと鳴らしながら、外見に合う深みのある落ち着いた声でハジメ達に話しかけた。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、御同胞の皆様。歓迎いたしますぞ。わたしは、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴルドと申す者。以後宜しくお願い致しますぞ」
そう言って、イシュタルと名乗った老人は好々爺然とした微笑を見せた。